IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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ということで、悠夜たち陽子の人外バトルです。

……もうこれ、ISいらなくね?


#104 凶星VS破壊姫

 昔々あるところに、身長が140程度の幼い少女がいました。

 その少女はその身長故に視界に入らないことが多く、よく人にぶつかっていました。

 そんなある日、彼女に幸福と不幸の二つの運が重なりました。

 

 高校生だった彼女はそれはそれは美しい容姿ではありましたが、彼女から放たれる拒絶のオーラは一般人にすら視認できるほどで、誰も近づきませんでした。そのため、彼女は自分が通う高校がどんな状況にあるのかわからず、また、どんな生徒が危ないのかわかりませんでした。

 

(………眠い)

 

 夜更かしした少女はただ、眠さを我慢して歩いていました。

 何故なら彼女の親は厳しく、インフルエンザとか38度を超える熱がない限り、微熱だろうがなんだろうが学校に行かせるような親でした。

 だからこそ、少女は嫌々でしたが学校に行くことにしたのです。

 そんな彼女は、運悪く禁止地帯に足を踏み入れ、カツアゲの現場に遭遇してしまいました。

 

「テメェ、昨日金を持ってこいって言ったよな?」

「ご、ごめんよ? でもさ、僕にだって事情があって」

「テメェの事情なんざどうでもいいんだよ。こうなったら袋だな」

 

 少女は非常に薄情で空気を読むということを最初から拒否していたことと、睡魔と戦っていたのでそのままカツアゲの現場に入っていきました。

 そしてそのままカツアゲをしていた一人とぶつかりました。

 

「ん。すまん」

「おい」

 

 少女にしてみれば謝ったつもりだったのですが、どうやらその男子生徒はそう取らずに少女を見下ろしました。

 

「テメェ、俺らにぶつかっておいて謝りもなしか」

「おら、さっさと金を出せ………まぁ、体を差し出すって言うのもありだがな」

「おいおい、こんな凹凸がない貧相な体がい―――」

 

 次の瞬間、不良の一人が運動場を滑空しました。幸い、死にませんでした。

 

「え、えっと……」

 

 カツアゲされていた男子生徒がそのことが信じられず、少ない言葉を紡ぎ出す。するともう片方の不良生徒が少女に飛び掛かりましたが、運が悪いことに少女はイラついていました。

 

 ―――ゴッ!

 

 鈍い音が響いたと思うと、飛び掛かった不良生徒は100m先にあった汚いプールの中に飛び込む羽目になりました。

 

「貧相で悪かったわね………貧相でぇええええ!!」

 

 そして少女は200m上空を飛ぶと、真下にいる最初に殴った不良の上に落下して地面に叩きつけたのでした。

 戻ってきた少女はどうやって残っている男の記憶を消そうかと考えていました。が、それは意外にも杞憂に終わりました。何故ならその男子生徒は生粋のオタクであり、

 

「結婚を前提に、付き合ってください!」

 

 これは、後に轡木、更識と並んで世界から危険視される一人の少女と未来の旦那の出会い。

 そしてその50年後、その少女こと陽子は、孫の悠夜と人を超えた戦いを繰り広げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園は最初からISを使用することを前提にしている施設であり、さらにその施設が8つ以上あるため並の都府県を超えるほどの大きさがあった。

 そして用務員館はあまり人が来ないところに設置されているため、第四アリーナ……もとい、第四アリーナ跡地からはかなりの距離がある。

 

「…………」

 

 そこを歩きながら移動する二つの影があった。一人は更識簪。そしてもう一人は篠ノ之箒だった。

 簪は火傷を負い、気絶している楯無を抱えており、箒は一夏とシャルロットの二人を持っていた。

 

「更識……おい、更識!」

「……何?」

 

 簪は後ろを向くと、二人を抱えて顔を赤くする箒がいた。二人はISを使わず移動している。

 

「何故ISを使用してはならんのだ!?」

「……疲れたの?」

「当たり前だろう!」

「でも、あそこに放置するのも嫌なんでしょう?」

「……そうだが」

「じゃあ、頑張って」

 

 そう言って簪は楯無を抱えたまま歩いて第四アリーナ跡地から離れる。

 

「頑張って、じゃないだろう!」

「じゃあ、織斑君を投げて起こせばいい」

「投げる意味がわからん!」

 

 簪としては投げるのを失敗して頭の上から血が出て騒ぐ箒を見るのも一興だと思ったが、今はすぐにここから逃げることを考えて、そのまま移動する。

 

「大体、何故ISを使ってはダメなのだ!? 紅椿を使えば、校舎の方へと戻るなど、造作もないだろう!?」

「………さっきの人たちがまだ近くにいる可能性が一つ。そしてもう一つは―――」

 

 すると彼女らの前にペガスが現れる。ペガスの雰囲気を見て気圧される箒だが、簪は箒を呼んだ。

 

「織斑君を前に出して」

「あ、ああ」

 

 箒は言われてペガスの前に一夏を出すと、ペガスは容赦なく一夏を蹴り飛ばした。

 

「い、一夏!?」

「……やっぱり駄目だった」

「や、やっぱりとは何だ! やっぱりとは!」

 

 噛みつくように叫ぶ箒を無視した簪はペガスに手を伸ばすと、さっきの一夏に対しては違い、懐くように頬を手に摺り寄せる。

 

「……さっきとは反応が違う」

『それはその男だからです』

「……女好き?」

 

 驚く箒とは対照的に簪はどこから発せられたわからない声に尋ねると、さっきの声が聞こえた。

 

『違います。私は悠夜様の忠実なる僕。そしてその男は未だに自分が何かをしたのか自覚していません。なので蹴りました』

「一夏が一体何をしたというのだ!?」

『ISを動かしました。まだそれは本人の意思とは納得できますが、それよりもその男はそのことを謝らず、無神経にも友人になろうと近づいてきました。その時点で不愉快だったのでしょう。さらに言えば、あの青い女と元世界最強の担任も同様の意味で恨まれています』

「セシリアもだと?」

『あくまで結果論ですが、あの二人が勝手に決闘を起こし、担任は半ば無理やり決闘に参加させた。恨まれても仕方ありません。精々、40%ぐらいですか目覚めている悠夜様には気を付けるように。もっとも、40%も目覚めていればどれだけ戦いに身を投じてもそれを嘲笑うように人生諸共破壊しますが』

 

 箒は笑いそうになった。嘲笑うように人生を破壊する? そんな馬鹿な、と。

 だがその答えが文字通り飛んできた。

 

「……やっぱり、一筋縄では行かねえか」

 

 さっきとは違い、ボロボロになっている悠夜。

 

「……悠夜さん」

 

 心配そうに声をかける簪だが、悠夜は聞こえていないのかずっと先を見る。

 

「………律儀に待ちやがって、クソババアが」

 

 そう言って地面を吹き飛ばしながら悠夜は飛んで行った。

 

「……何なんだ、今のは」

『あれが40%解放しているしている我が主です。これでもまだ、信用できませんか?』

「そんな問題ではないだろう!?」

『更識簪。あなたの気持ちはわかりますが、そろそろISを展開して逃げた方がいい』

「……わかった」

 

 楯無を一度地面におき、簪は荒鋼を展開する。

 そして再び持ち上げるが、謎の声に『乗せなさい』と言われて簪はペガスに楯無を乗せた。

 

「って、その馬が話していたのか!?」

『そうですよ。それよりも篠ノ之箒、あなたもその女を乗せなさい。本来ならばその女の妹でもギリギリですが、今は非常時、乗せてあげます』

「……信用できるか」

『別に構いませんが、あなたがISを展開した場合、間違いなく敵意と持たれます。更識簪はそれを恐れ、さっきまでずっとISを展開させなかったのですから』

「だが、更識が展開しても問題なかったではないか!」

『それは彼女だからです』

 

 ペガスの言葉にイマイチ要領を得ない箒。ペガスはそれを見て呆れ、皮肉を交えながら説明した。

 

『あなたが先程逃がすのを反対したのは、悠夜様がルシフェリオンで桂木暁と名乗った少女と、更識簪がミア・ガンヘルドと戦えばなんとかなると思ったからでしょう? その考えは評価しますが、あなたは肝心なところが抜けていますね。そんなんだから未だに織斑一夏の恋仲にならないんですよ。まぁ、胸を使わないのも原因の一つですが。もう少し根性を鍛えた方が良いのではないですか? あなた方人間は性行には胸を使ったりするのでしょう?』

 

 「性行」という言葉で顔を赤くする箒。それを見たペガスはため息を吐いた。

 

『いちいち顔を赤くしていては、恋愛が成就するのは夢のまた夢ですね』

「そ、そう言うが貴様の主もあれだけ言い寄られているが、誰とも付き合っていないではないか!」

『だからこそ、今悠夜様は戦いに出向かれているのですよ。すべてを手中に収め、すべてを支配するため、この世界の真の最強を倒そうとしているのですよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……空が、青いな)

 

 悠夜は、地面から空を見上げていた。

 やられたのだ、彼は。自身の祖母に。圧倒的な力を持った少女のような容姿をした者に。

 

「やれやれ、とんだ期待外れじゃわい」

 

 陽子は悠夜に背を向けながら落胆していた。

 

「……何が?」

「少しは楽しめると思ったが、結局お主もその程度か」

 

 ―――残念じゃ

 

 そう言ってその場を去ろうとする陽子だったが、足を止める。

 

(……やれやれ。ようやく目覚め―――)

 

 迫りくる拳。それをいなそうとするが止まらず、陽子の予想を超えてはるかに早く、力強い攻撃が彼女を襲う。

 そのまま千冬の横を通り過ぎ、第三アリーナの格納庫の入り口すぐ横にぶつかった。

 

(……何だ、今のは)

 

 さっきまでの二人の戦いはまだ、千冬が知るレベルの戦いだった。まだ自分が実現できる程度のスピードで繰り広げられたものだった。

 それでも周りの人間には見えないレベルだったが、千冬は気付いていないので避難指示を出していない。

 

「………忘れていたよ、戦い方を」

 

 瞬間、千冬達に負荷がかかり始める。

 千冬はまだ耐えられるレベルだったが、他のみんなは違う。何人かは完全に地に伏していて、ISを纏っている者も半数は同様なことが起こっていた。

 

(一体何が、起こっているというんだ……)

 

 ISのPICすらも無視する謎の重力。そこまでは理解したがそれでもほかの原因がわからない。

 千冬は混乱したが、目の前にいる悠夜だけは大丈夫そうだった。

 

「……桂木、この重力を発しているのはお前か?」

「……………」

「聞いてい―――」

 

 ―――ゴッ

 

 悠夜は容赦なく千冬を蹴り飛ばした。

 

 ―――見えなかった

 

 ISのハイパーセンサーをもってしても、人体の速さを捉えることができなかったのだ。

 

「さて、続きをやろうか」

「そうじゃな」

 

 煙が晴れ、陽子は姿を現したが、その姿はかなり変貌していた。

 所々に呪いのような入れ墨が現れており、それが全身に浮かび上がっている。白髪は輝きを持っており、その姿はまるでそこに存在しているだけで神々しさが感じられるほどだった。

 

「へぇ、やっぱりアンタは凄いや。じゃあ、やるか」

 

 瞬間、陽子がいる場所に衝撃をぶつける悠夜。だが陽子はそれよりも早く悠夜に接近していた。そして下から拳を繰り出すが、悠夜はダークカリバーをガンモードにして発射する。

 それを回避した陽子は一度空に現れるが、すぐに消えて悠夜の真下から、手からビームを発射した。

 

「―――っ」

 

 悠夜は高速でフェードアウトし、両手にキューブを展開して発射した。

 

「遅いわ」

 

 陽子が衝撃を飛ばすが悠夜はそれをダークカリバーで斬ると、後ろにいる機体が割れ、倒れている女生徒を吹き飛ばした。

 

「待て! それ以上は周りが―――」

 

 まだ意識が保っていたらしい千冬が止めようとするが、悠夜の能力が働いているのか満足に動けないでいた。

 陽子は先程の悠夜と同じようにキューブを展開し、それを分離させて発射させる。悠夜はその間を純粋な身体能力だけで回避すると、周囲にビットを展開した。

 

「ビットを精製したか」

「俺の得意技の一つだからな」

 

 ランダムに軌道を描かせながら、陽子に攻撃する悠夜。だが陽子も負けていなかった。

 先程回避した悠夜を超える速度を出しつつ、ビットをすべてキューブを分離させて潰す。その際に爆発が起こるが、悠夜は気にせず指を鳴らした。

 すると、周囲に暗くなりはじめた。

 

「この技から逃げられるか?」

 

 再び指を鳴らす悠夜。だが悠夜はあることを忘れていた。

 

 ―――このIS学園が、人工島であることを

 

 上空から雷が落ちるが、ただそれだけだった。

 

(噴火が起きない、だと?)

 

 周囲の地脈を刺激させ、マグマを発生させて人口噴火と上空からの雷を起こして焼き殺す悠夜が持つ最大奥義だったが、噴火が起きなければ意味がない。雷だけでも一般人には十分だが、相手は世界各国から危険視されている陽子で、自分の祖母だから、一切の躊躇いが必要ないのだ。

 

「しかし、流石は我が孫よ。特殊な訓練を受けずにそこまでの大技を使うとはのう」

「特殊な訓練? 逆に言うが、そんなものこそ必要あるのか?」

「………」

 

 悠夜にそう返された陽子は少し黙ってしまうが、やがて笑みを浮かべた。

 

 ―――ああ、やはりこやつは天才じゃな

 

 世の中には様々な天才がいる。野球やサッカーなどのスポーツでの天才が一番のメジャーであり、情報関連で言えば一般的には篠ノ之束が挙げられる。

 そして悠夜も、陽子から見て十分に天才だった。

 

 ―――化け物としての天才…いや、想像の天才か

 

 想像に上限などない。しかし、それは世間一般的に見て顕現できない。そのデメリットがあるからこそ、人の脳に依存しているため個体差はあれど想像には限界がないと言える。

 だが、もしそれを具現化できる存在がいれば? それも、高レベルの想像力を持つ人間が。

 

 ―――答えは、願えばなんでもできるようになる

 

 そして悠夜は具現化することが可能だった。

 本来なら陽子の言う通り、ある事情で特殊な訓練を受ける必要があるのだが、悠夜はそれに類似するものを既に経験している。SRs、そしてISでのビット操作を。

 

「まぁいい。ここで語り合ったところで何もないわ」

 

 そう言いながら陽子は両腕を横に開き、両手に電気を帯びた球体を形成する。

 それを発射されると悠夜は回避するが、急に向きを変えた球体はまっすぐ悠夜の方へと飛んできた。

 

「逃げても無駄じゃ。ほれ」

 

 すると先程の雨雲を使った陽子は悠夜に雷を落とす。

 それを悠夜はまともに受ける。さらに先程の球体も悠夜に直撃した。

 

「その程度ので終わると思ったか?」

 

 そして陽子は悠夜がいた場所に連続して雷を落とした。それだけでは飽き足らず、陽子はコンクリートを操作して悠夜がいる場所に針山を作る。

 

「やれやれ。随分とあっさりと終わったわい」

 

 ため息を吐く陽子。彼女はどこか満足気だったが、その顔が一瞬で歪んだ。

 

 ―――そこには誰もいなかった

 

 超電圧を食らい、さらに針山によって身動きを取れずそのまま果てるのみ―――なのだが、いるはずの場所に悠夜の姿はない。あるのは黒い影であり、影はほころび始めていた。

 陽子はふと気付き、上空を見る。すると雲は晴れているが暗く、世にも珍しい紅色の満月が出ていた。

 

「………なんだ、あれは」

 

 先程の重力から解放されていた千冬やダリルらも釣られて上空を見ると、同じ月を見た。

 そして全員が一斉に時間を確認すると、異常的なことが起こっていた。

 

「時間が早く進んでいる……だと?」

 

 千冬が呟く通りだった。時計はそう示し、時間は早く進んでいた。

 本来、分を示す場所が秒を超えて進み、時は秒を刻んでいる。しかし時であるため、25からは表示されず、1へと戻る。

 

「……固有結界とでも言うべきか。この現象は」

 

 陽子は笑みを浮かべる。が、周りは信じられないと言わんばかりに悠夜を見ていた。

 何故なら今まで確認されなかったもの、そしてこれからも確認できないされないであろうもの。

 

 ―――悠夜の背中に、人にあるはずがない翼があった

 

 そして今日、一人の女性は確信する。

 悠子として会った時から―――いや、前々から抱いていた疑念を織斑千冬は確信した。

 

 名前は違う。そして経歴も違うが……桂木悠夜は、自分がかつて愛して止まなかった男―――風間(かざま)剣嗣(けんじ)の弟である、と。

 だがその確信も一瞬で、千冬たちは回避することを余儀なくされる。

 悠夜から光線が放たれる。千冬、ダリル、そしてフォルテは瞬時にISを解除されている者を掴んでそこから飛ぶ。幸い、そこまで人数がいなかったことで全員を助けられることに成功したが、ISを装着した者の中で何人かがダメージを受けた。

 

「止めろ桂木! それ以上は―――」

 

 すると悠夜は千冬に向かって光線を放つ。それは彼女が使う鋼を以てしても防ぎきれず、ISの500はあるシールドエネルギーが一瞬で全損した。

 しかし悠夜の攻撃はそれだけでは止まらず、千冬の周囲に魔法陣が展開され、そこから電撃が放たれた。

 

「……流石は……悠夜じゃ」

 

 陽子は笑っていた。

 目の前に立つ悠夜の姿に圧倒されるわけでもなく、ただ興奮している。今の状況にとっては間違いなく異常ともいえるだろう。

 陽子は右手を前に出してそこに球体を形成する。さっきのものとは違い、その球体は赤くなって分離した。

 さらに陽子は分離したものを100回は分離させ、それらをランダムに軌道を描かせて悠夜に迫らせる。

 

「遅いな」

 

 ようやく口を開いた悠夜は黒い球体をより早く精製・分離させ、陽子が放った以上の数を放つ。

 そしてその一部が近くにあるシェルターに直撃したが、悠夜は構わず攻撃を放つ。

 次に悠夜は自身の前に魔法陣を展開して、ダークカリバーをガンモードで魔法陣に向けて発射する。すると別の魔法陣が陽子の前に現れてビームを発射。今度は死角からも攻撃されるが、陽子は間一髪で回避した。

 そんな戦場に唐突に叫び声が聞こえた。

 

「―――そこまでだ!!」

 

 悠夜も陽子も、そして他の者もこのままどちらかが死ぬまで続くと思われた戦いをまさか妨害する者が現れるとは思わなかった。

 全員がそっちを見ると、陽子は顔をひきつらせた。

 

「双方、武器を収めろ! さもなくばこの二人の命はないぞ!」

 

 その者たちは権力者だった。

 莫大な資金を持ち、常に自分たちが生き残ることを考えている者たち。そこには悠夜や陽子が見覚えのあるチェスター・バンクスなどの顔もあり、女の権力者もいる。その集団が人質を取っているのは、虚と本音の二人だった。

 二人は生徒たちを避難させた後、要人である彼らの安否を確認するためのVIP用シェルターに避難していたが、戦いが激化したことで強制的に閉じ込められたのである。幸いなことに彼女らに手を出すことはなかった(例え手を出したら約一名かそれに追随する人間がすぐにとある組織を止めて一人残らず殺しまわろうとしたり、約一名が堕天機神を持ち出して国を跡形もなく破壊する可能性も否めない)が、それでもシェルターの一部に穴が開いたことで状況は一変し、彼らは二人を人質に取った。

 陽子はすぐに変身を解くが、悠夜はそうしなかった。

 

「どうした、桂木悠夜! さっさとひれ伏せ! この者たちがどうなっていいのか!? 我々は本気だぞ!」

 

 だが悠夜はまったく動じず、それどころか瞼を閉じるほどだった。

 それを見た本音に銃を向けている男は指示され、日頃から慣れているのだろうか眉一つ動かさず引き金を引いたが、ありえないことが起こったのである。

 

 ―――銃が、暴発した

 

 その男の右腕は吹き飛び、血が勢いよく飛び出しているが―――その飛沫は本音にかかることがなかった。

 そしてもう一人―――虚の方にいた男が叫び声を上げる。

 

「止めろ……来るな……来るなぁあああああ!!」

 

 何もない場所に視線を移しながらその男はそこから逃げ始める。

 

「……………これは報い」

 

 悠夜の下に巨大な魔法陣が展開される。

 

「我が眷属に手を出し、あまつさえそれを殺そうとした報い……そして、世界を狂わせた報い……しかと味わえ」

 

 すると彼らの上に魔法陣が展開され、そこから予想以上に小さな球体が現れた。

 それはとても美しく、すべての人間を魅了させた。

 

 ―――瞬間、それは渦巻き始める

 

 本音、虚の二人を人質に取った全員がそこに吸い込まれ、爆発が起きると周囲に魔法陣が展開された。

 そこから不規則にビームが放たれ、最後に止めと言わんばかりに全方向からビームが発射されるが、残念ながらそれは最後ではなかった。

 

「………永遠に……消え失せろ」

 

 いつの間に溜めていたのか、悠夜の前には巨大な球体が顕現しており、それらが周囲の機兵を呑み込みつつ二つの球体が合わさりかけたその時、

 

「ゆぅううううやぁあああああん!!」

 

 下から本音が叫ぶ声が聞こえ、悠夜は声がする方へと向く。

 するとどういう原理か本音が生身の状態で悠夜に向かった飛んできていた。

 本音を受け止めた悠夜は唇を塞がれたことによってすべての現象が停止、まるで何事もなかったかのように機兵の残骸と人質を取った権力者たちは地面に落下した。

 

 

 その光景をサーバスは一人特等席で見ていた。

 彼は笑みを浮かべ、誰もいない空間で小さく呟く。

 

「……流石は、10年前の真の英雄だな。キレた時の力が異常すぎる」

 

 

 

 

 

 後に学園祭襲撃事件と称されるこの事件。

 被害は軽く10億を超えたが、幸いなことに死亡者はなかった。

 

 ただし軽傷者が数名、千冬を含め重傷者が10人を超え、精神崩壊者が20人を超えることになり、それをルシフェリオンを未使用で行った桂木悠夜は女装を含めて伝説となった。




はい。意外な形で事態は収束しました。ちなみに本音は初キス……のはず。
ホント、書いていて思いましたけど、悠夜はキス関連は無防備すぎますね。

ちなみにですが、球体の分離はワールドトリガーのアステロイドを参考にしています。
そして最後辺りのは、ネオグラオンパレード。ワームスマッシャーと縮退砲、ブラックホールクラスターの複合ですね。
悠夜の固有結界の説明はもう次話ぐらいになりますかね。……楯無の回答、本当にいつになるのやら。




次回予定

襲撃事件はようやく幕を閉じた。
それぞれが自らの力のなさを思い知り、後悔していく中で全員が悠夜の元に訪れる。

自称策士は自重しない 第105話

「一息の休息」

「………いや、全部初めて知ったんだけど……」






どうでもいい予告。

5月1日 もう一つの「わがままの歩む道」が更新されました。
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