IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#119 キャノンボール・ファスト

 キャノンボール・ファスト―――それはモンド・グロッソと同時期に行われる、妨害レースだ。一部では指定のポイントを通過しなければならない。わかりやすく言えば、明らかに勤務外のことを一度の実績以降、押し付けられた配管工のおじさんがメインの妨害レースのIS版と言えばわかるだろうか。ただ違うとすれば、道中で拾うアイテムは持参する形になるのだが。

 ともかく、そんな妨害レースで過去にスタートを切らず先制攻撃をしたのは桂木悠夜が史上初だったりする。さらに厄介なことに―――黒鋼には空特化の可変機能があることだろう。PICを制御しながら飛べば人型形態でも陸上と同じ適性値をごまかす形で出せるが、空特化の飛行形態は自動で進んでくれる。そして悠夜は何よりも、この可変機能が好きだった。

 熱線を飛ばし、飛行形態に変形した悠夜はそのままスタートを切る。そして再び《デストロイ》を起動して拡散モードで攻撃を忘れない。

 

 その光景を見ていた観客は、セオリーを守らないことに対するブーイングや、新しいことに対する感心など渦巻いていた。

 黒鋼の開発者である轡木朱音はその様子を見て唖然としていた。

 

「ビットでの先制妨害ではなかったですね」

「うん。まさか後ろからの先制攻撃って……エグイ」

 

 「ストレスかな?」と予想する朱音だが、可変して姿が見えなくなる前に「ゼクスリッター」で捉えた顔は明らかに笑っていたので確信犯だとリベルトは思っている。

 そして別の場所―――つまり弾たちの所では騒ぎになっていた。

 

「ふざけんな! あんな戦いがあるか! 正々堂々とやれやクソ野郎!」

 

 まっ昼間から酒を飲み、瓶を振り回す中年男性。彼はこの市でキャノンボール・ファストが行われ始めてからの常連だ。女尊男卑の中でも腕を振るい、未だに経営者として成功している男である。

 その男性の右隣に座る数馬が歯軋りをしたのを弾は聞き逃さなかった。

 

「大体、何が可変だ! あんな邪道をやってるようじゃ、たかが知れてるな―――」

 

 瞬間、数馬は立ち上がってその男の服を掴んで持ち上げた。

 

「ちょ、数馬!?」

「さっきから聞いていれば、何も知らねえクソ野郎があの人を罵倒してんじゃねえ!!」

 

 ―――あ、やべぇ

 

 弾は反射的に数馬をその男から引きはがそうとするが、それよりも早くギルベルトは移動していた。

 

「このクソガキがぁ!! テメェ、ワシを誰だと思ってんじゃぁあああ!!」

「ああ!? SRs初心者だろ!」

「んだと?! 何じゃそれは―――」

「―――まぁまぁ」

 

 二人の間に割って入るギルベルトは数馬を二人をなだめた。

 

「なんだあんちゃん。邪魔しようってか?」

「いえ。どうせなら仲良く見ましょう。ほら、件の彼は既に順位を上げていますよ」

 

 すると二人は同じタイミングでフィールドを見る。悠夜は既に中位に移動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し遡る。

 スタートを切った悠夜に通信が入った。

 

「おい悠夜! あんな演説しておいて俺たちを攻撃するってどういうことだよ!?」

「説明を要求する!」

 

 一夏と箒だった。さらにセシリアもそれに加わって状況説明を要求するが、悠夜は切り捨てるように言った。

 

「何だ、篠ノ之から聞いてないのか? 本気で戦えって」

「聞いていますわ! ですが、わたくしたちを再起不能にしそうな攻撃をするなんて―――」

「おあつらえ向きだからさ」

 

 カーブを曲がりながら悠夜は笑みを浮かべて言った。

 

「考えてもみろ。世間の大半は未だに俺を雑魚扱いしているからな。ここで一機や二機―――もしくはすべて再起不能にすれば、俺に対する態度も変わると言うもの。ましてや俺は今、現状に対して苛立ちすら覚えているんだ。本当ならお前らではなく、世界の要人という名の肥えたブタ共を飛ばして二度と俺に対して刃向かえないようにしたいぐらいによぉ」

 

 簪、そして鈴音は嫌な予感がした。

 

「……まさかアンタ、今物凄くヤバいことを考えてない?」

「ん? 何が?」

「…えっと、例えば………アタシたちの機体を動けなくするとか―――」

「まさか、ソンナコトナンテカンガエテナイヨ?」

 

 棒読みなった悠夜。その声に二人は確信した。

 

 ―――ちょっと、やりすぎたかもしれない、と

 

 

 

 

 少し離れた場所で、フォルテ・サファイアは警戒していた。

 

「どうした、フォルテ」

「いや、またさっきみたいに攻撃されるんじゃないかなって思っているッス」

 

 幸いなことに大したダメージは入らなかったが、それでも彼女はそれで疑心暗鬼になっている。

 いや、無理もないことだろう。本当に幸いなことに彼女の機体〈コールド・ブラッド〉の冷気操作能力で事なきは得たが、出力からしてかなりのエネルギー量を消費したのにも関わらず、今も悠夜はほとんど最高速度で機体を飛ばしているのだから。

 

「大体、気に入らないんッスよ。同い年だからなんだか知らないッスけど、敬語くらい使えっての」

「いや、でも―――って――」

 

 前の方から妨害のつもりかミサイルが飛んでくる。それをフォルテは前に出て冷気の壁を展開して防いだ。ダリルが目に出ると、フォルテもそれに追従する。

 

「協力するぞ、フォルテ。いくらなんでも、何の準備をしていないオレたちには不利だ」

「了解ッス!」

 

 二人は協力し、そのまま最下位にいる一夏へと接近した。

 

「も、もう来たのか!?」

「へっ、落ちな!」

 

 火球を精製し、ダリルは一夏にそれを飛ばす。

 

「させるか!」

 

 一夏はそれを回避する。しかしその後ろから氷の槍が精製されて一夏に当たった。

 動きが鈍る一夏を視つつ、二人は箒の後ろに迫った。

 

 

 

 

 下位でそんな争いをしている中、中位でも段々と動きが変わり始めていた。

 

「クフフフフフ」

 

 そんな不気味な笑いを浮かべながら、悠夜はシャルロットの後ろを取っていた。

 

「ちょっ、来ないでよ!? 怖いよ!!」

「さぁ、我が鬱憤を晴らす道具となれ!!」

「それはリゼットにしてよ!!」

 

 そんなやり取りがあったが、悠夜は容赦なく先端の《フレアマッハ》、そしてビットで攻撃する。飛行形態故に持ち手がないため人型とは違ってそこまで多彩に攻撃できないが、それでも牽制には十分だった。

 悠夜はシャルロットを抜かし、残りのセシリア、鈴音、簪を狙う。

 人型に戻った悠夜は《バイル・ゲヴェール》を展開して3位のセシリアを狙った。

 

「オラオラオラオラ!! そこをどけ!!」

 

 実弾とビームを余すことなく手心を加えず撃ちまくる悠夜。セシリアは巧みにかわすもそれでもダメージを食らう。

 

「な、なんて無茶苦茶な!?」

「どこぞの化け物と融合した奴みたいに、残像が残るほどの高速しないだけマシだと思え!」

 

 そう吐き捨てつつ、悠夜はさらに《デストロイ》も起動させて拡散モードで撃ち始めた。

 これにはさすがのセシリアもまともに食らい始める。彼女がなんとか反撃しようとした瞬間、悠夜は《デストロイ》を反転させてビームを放ち、加速して〈ブルー・ティアーズ〉に組み付いた。

 

「は、離れなさい!」

「この作業が終わったら、な」

 

 そう言って悠夜は《バイル・ゲヴェール》の銃口をセシリアに向けて引き金を引く。ビームと実弾の合奏が彼女に襲い、コースアウトした。

 悠夜はラウラに暗号通信を送り、後二人―――2位の鈴音と1位の簪に狙いを定める。

 その後ろから、タッグを組んで接近を試みるイージスの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……羨ましいですわ」

 

 VIP席でその試合を観ていたリゼットはそうはっきりと言った。

 

「お嬢様、それはどういった意味でしょうか?」

 

 ある程度予想は付いている執事のジュールだが、敢えて聞く。

 リゼットは自分たち以外誰もいないその空間ではっきり言った。

 

「もちろん、一方的に欲望をぶちまけられることですわ。これがわたくしに向けられればどれだけいいか。妊娠、様々な方々から非難されるも、誰にも勝てないほどの圧倒的な戦闘力。特殊部隊の壊滅。そんな方を夫にできるなんて、なんて幸せ……」

 

 思わず頭を抱えるジュール。最近、彼はリゼットを日本に行かせたこと自体間違っているのではないかと思い始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コースは終盤に差し掛かった。

 激しい攻防は均衡になり、簪が先頭、その後に鈴音と悠夜が続く。

 その状況に鈴音は焦りを見せていた。

 

(まさか、ここまで差があるって言うの……?)

 

 自分と簪、そして甲龍と荒鋼では差があるとは思っていたが、まさか高機動パッケージを装備している状態で離され始めるとは思っていなかった鈴音。

 すると後ろからは再び飛行形態になった黒鋼が迫る。

 最初の攻撃で後続との距離を開くことになった攻撃をした悠夜には感謝はしているが、それだけだ。今はただ敵として、これ以上自分の前に出てほしくはない彼女は妨害する。悠夜は少しスピードを落とした―――と思われた。

 

 ―――え?

 

 鈴音は左に意識を向ける―――が既に遅く、再び《デストロイ》を後ろに向けて加速した悠夜は無理やり鈴音と壁の間を通る。

 実はこの方法はかなり凶悪で、黒鋼が前に出られた瞬間、後続は回避に専念しなければやられるのだ。

 

「くっ!」

 

 鈴音は機体を壁から離れさせる。そして後ろからはイージスの二人が迫ってきていた。

 

 キャノンボール・ファストはコースによってルールが異なる。この大会では周回のため、二週目からは妨害が始まる。簪、悠夜の順に一周目が終わると全コースの妨害システムが作動した。

 

 ―――にもかかわらず、悠夜はさらに加速した

 

 妨害の前は減速するのがセオリーだ。特にトップはよく狙われるため、独走でもない限り、大抵トップは先頭を2位に譲る。簪は敢えてそれを行い、悠夜は加速した。

 

 ―――悠夜にミサイルが接近する

 

 それを確認した悠夜は《デストロイ》の場所を操作。自身を人型に戻して両手には《フレアロッド》を1本ずつ握られた。

 簪はその後ろに追いて、機会をうかがう。

 《デストロイ》は二つの尾をくっつけ、回転しつつ先行してミサイルを落とし始めた。ミサイルが終わると今度は大砲が起動して悠夜、簪を狙う。

 

 ―――だが、それだけではなかった

 

 悠夜と簪がそれぞれ大砲やドローン機関銃の砲撃に見舞われ始めた頃、まるで図ったのかと思われるビルの屋上でISが展開された。本来ならコアが反応を示して周囲に警戒を発せさせるが、屋上に設置されている特殊な装置によってそれは妨害されている。

 その中央でスナイパーライフルを使って先頭にいる二人を狙う一人の操縦者。彼女は引き金を引き、高出力のレーザーを発射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――何か、来る)

 

 俺は荒鋼の装甲を掴み、適当に投げる。すると観客席の上部から何かが破壊を行いながら迫ってくる。

 それを黒鋼のマニピュレーターを回転させて《フレアロッド》で防いだ。その後すぐに通信をつなぎ、会場に発する。

 

「緊急事態が発生した! 管制室にいる奴はすぐに観客席を守るバリアを展開しろ! 全員、戦闘態勢を取れ! ラウラ!」

「お待たせしました!」

 

 そう言ってラウラはIS用のカプセルを渡す。それを受け取ってから離脱し、二射目を回避してカプセルを脇にある装甲に挿し、エネルギーを回復させる。

 

「オルコット、織斑、篠ノ之は後衛! オルコットは狙撃でフォロー、織斑は篠ノ之に寄り付くハエを叩き落とせ! 俺と簪、鈴音は迎撃、ジアンは鈴音のフォローに入れ!」

「「「了解」」」

 

 簪、鈴音、ジアンから返事をもらう。イージスの二人にも指示を送ろうとしたが、それよりも早く敵機が現れた。

 

「あれは……サイレント・ゼフィルス!?」

「……確か、イギリスの機体だったか?」

 

 データで見たことがある程度だが、かなりのやり手らしい。しかしどうしようかと考える暇なんてなかった。コード〈黒長〉と名付けられた四本足が上空から大量の機兵を引き連れて落下してくる。

 

(あの機体……簪に任せた方がいいか)

 

 いざとなれば離脱してくれるだろう。

 

「ラウラ、先輩、チビ助は雑魚の掃討を頼む」

「わかりました」「わかったぜ」「チビ助言うな!」

 

 それぞれ返事(一人除く)して確固撃破に向かう様だ。鈴音とジアンも機兵を任せる。

 

「なら、貴様の相手は私か」

「そういうことになるな」

 

 《バイル・ゲヴェール》の銃口を〈サイレント・ゼフィルス〉の操縦者に向ける。

 するとその操縦者はビットを飛ばして、ビームを発射。俺は宙返りをしながら回避した―――が、突如ビームが曲がって俺の方に飛んできた。

 

「何!?」

偏向射撃(フレキシブル)だ。知らなかっただろうがな―――」

 

 《バイル・ゲヴェール》を左手に持ち替え、右手に《フレアロッド》を展開して切り伏せる―――それでも二発は受けてしまった。

 

「貴様の技量は素直に感服する。だが―――所詮は素人の域を出ない」

「言ってくれんじゃねえか」

 

 二つとも収納し、《蒼竜》を展開する。

 それに電気を纏わせて突撃。発射されるビームを弾きながら距離を詰める。切り伏せる瞬間、回避された。

 

「接近戦か、いいだろう」

 

 するとどうしたことか、ライフル銃で接近戦を始めたのだ。

 

 ―――!?

 

(この感じ、どこかで―――)

 

 だがハイパーセンサーが俺に警告を送り、その場から離脱した。

 

「その程度か、つまらん」

「…………やべぇ」

 

 俺は脳内に一つの仮説を立てる。

 それが正しければ、おそらくこの〈サイレント・ゼフィルス〉の操縦者は―――相応の修羅場を潜っている。

 

 ―――本気出して、いいんだ

 

 思わず笑顔になってしまう。

 どう攻め、攻め、責めようかと考えていると、後ろからあり得ない奴が現れた。

 

「BT二号機〈サイレント・ゼフィルス〉、今度こそ!」

「オルコット!?」

 

 急に前に来たオルコット。俺は援護を命じたはずなのに何故だ。

 はっきり言って、オルコットは火力不足だ。ただでさえビットは俺や簪レベルに達していないし、何よりも今はそのビットすら封じているという話だ。そして相手はビットを操作しつつ移動ができる。

 

「下がれ、オルコット! 今のお前では足手纏いだ!」

「下がりません! あの機体は……あの機体はわたくしが―――」

 

 あの馬鹿、完全にプライドに呑み込まれているな。だからああいう手合いは苦手なんだ。ああいうのはやはり自尊心諸共心をぽっきり折らないと。

 後で永遠に立ち直れないほど潰すことを決意していると、俺は無意識に上を向いていた。

 

(ヤバい!)

 

 すぐに背面走行をしてその場から離れると、竜を象った水が俺がいた場所を穿った。

 

「水? まさか―――」

 

 俺は再び上を見る。いつの間に現れたのか、そこには見たことがないタイプの機体があった。

 

「―――やぁ、兄さん。久しぶりだね」

 

 よく通る声。それに、どこかのシスコンに近い声質が耳に届いた。

 

「テメェ、誰だ」

「やだなぁ。まさか本当に記憶が消えているなんてショックだよ」

 

 意味がわからないことをほざく奴だ。

 すると出していないのにひとりでにダークカリバーが顕現した。

 

「なるほど、主は記憶を消失していても剣は覚えているんだ」

「一体何の話をしているんだよ!?」

「法則の話だよ」

 

 そう言ってその操縦者は剣を展開した。

 

「始めようか、ユウ兄さん―――いや、第一回優勝者、桂木悠夜。第二回優勝者「桂間(かつらま)零夜(れいや)」が、同じ四神機使いとして、そしてSRs覇者として決闘を申し込む」

 

 そう宣言した零夜と名乗った男は爆発的なスピードで接近した。




ということで、桂間零夜君、登場です。
とうとう彼の本願は果たせそうですが、彼の機体に関しては次回にしようと思います。ちょうどその場に例の彼がいるわけですからね。





※次回予定
突然の襲撃。ある程度は予測していたとはいえ、IS学園勢は苦戦を強いられる。
未だに終わらない避難。従わない者たち。そして予想外の戦力に悠夜すら押され始めた。

自称策士は自重しない 第120話

「優勝者たち、激突」

「さぁ、見せてあげるよ。僕たちの舞を」
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