IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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第7章 そして策士の目は醒める
#122 大きな亀裂


 自分の誕生日を祝われていた一夏はひょんなことから外に出て自販機の方に移動していた。

 

「……繋がらないな」

 

 疑問に思いつつも、一夏はかけ続ける。しばらくして自販機を見つけたところで、何を買おうとしたのか聞くのを忘れたことを思い出した。

 

(……まぁいいや)

 

 適当に彼女らが欲しがりそうなものを選ぼうとすると、一夏は誰かに見られている気配を感じた。

 一夏が自分に気付いたからか、向こうは一歩踏み出して姿を現す。

 

 ―――え?

 

 自分の手から財布が落ちる。何故なら、その気配を持った存在はあまりにも―――織斑千冬にそっくりだったからだ。

 

「……ち、千冬姉?」

 

 だがすぐに一夏はそれを否定する。

 その少女の顔は自身の姉よりも10歳くらい若い―――それこそ、自分と同じくらいの時の姉だと気付いたからだ。

 

「いや。私はお前だ、織斑一夏」

「な、なに……?」

「今日は世話になったな」

 

 その言葉で、一夏が思い出したのはキャノンボール・ファストだった。

 

「お前、もしかして〈サイレント・ゼフィルス〉の―――」

「そうだ。そして私は「織斑マドカ」だ」

 

 一夏にはその名前に聞き覚えがなかった。そのこともそうだが、何より彼を驚かせるのは、彼女の容姿だろう。

 その間、マドカはH&K USPを抜き、銃口を向けた。

 

「私が私たるために……お前の命をもらう」

 

 乾いた銃声が周囲に鳴り響く。それが一直線に向かって飛ぶ―――が、

 

 ―――銃弾がその回転力を生かした状態で空中に制止した

 

「……え?」

 

 自分が意識を保ったままであることに気付いた一夏は、その状況を見て混乱した。

 

「……なん……だと……」

 

 マドカもその状況に混乱する。

 

「どこにいる! でてこい!」

 

 そして一夏から視線を外して叫ぶと、彼女の上と前後から水柱が飛んできた。

 それをマドカは最小限の動きで回避。そして、マドカを驚かせた人物も驚きを露わにした。

 

 ―――彼女の手に黒い球体が精製されたのだ

 

 それを一夏に向けて発射したマドカ。一夏は動けず立ち尽くしていると、急に体勢を崩された。

 

「ら、ラウラ!?」

「気安く呼ぶな」

 

 そう言ってラウラは一夏を左に捨て、容赦なくグロッグを抜いて発砲した。

 だがマドカは〈サイレント・ゼフィルス〉の右腕部を展開して防ぐ。

 

「まずは貴様からだ、遺伝子強化素体(アドヴァンスド)!!」

 

 マニピュレーターの上から黒い球体を精製し、分割して撃つ。だが、ラウラに届く前に早く別の黒い球体がラウラの前に着地するや否や爆走。分割して現れた線を飲み込みつつ、マドカに迫った。

 それをマドカはPICを使って上へと逃げて回避、着地する。

 

「驚いたぜ」

 

 ラウラの前に着地した悠夜はマドカを睨み、笑みを浮かべる。

 

「あの大会の時にテメェと距離が近くなってまさかと思ったけど、それ以上に使えないはずの能力を使えるとは………こいつは嬉しい誤算だ」

 

 瞬間、悠夜を中心に何かが現れ始め、景色を一変させた。

 

「……固有結界という奴か。にしても随分と古臭いな」

「そりゃあ、俺の世界を体現しているからな」

「中二病か」

「だとしても、体現できるから問題はないだろう?」

 

 悠夜の後ろから黒い翼が生える。悠夜が大地を蹴ると、先ほどまで悠夜がいた位置から少し後ろがえぐられた。おそらくラウラがいるから手を抜いたのだろう。もし誰もいないか自分が大切にしている者以外なら、容赦なく本気を出しているはずだ。

 ともかく悠夜はマドカを掴もうとしたが、その手は空を切った。

 

「馬鹿の一つ覚えで捕らえられるほど、私は弱くない」

「それはこれを受けてから言うんだな」

 

 するとマドカの足元から棘が飛び出す。ギリギリで回避するマドカだが、もう少し遅ければ間違いなく串刺しにされていただろう。

 

(こいつは、相手を殺すことに躊躇いはないのか?!)

 

 普通、表の世界で育った者なら、他人を殺すことに対して躊躇いを覚える。だがさっきから悠夜はマドカに対して当たれば死ぬ攻撃を連続していた出していた。マドカは「どれだけ強かろうが、向こうは自分を殺せない」と思っていたが―――

 

(これは、評価を改め―――)

 

 ―――ゴッッ!!

 

 鈍い音がマドカのISから鳴る。同時にマドカの体は吹き飛び、突き当りの壁に激突しそうになった。急停止して止まるマドカに相殺しきれなかった重力が襲う。

 

「―――とりあえずテメェには知る限りの構成員をすべて話してもらおうか」

「……舐めるな!」

 

 マドカの姿が消え、悠夜は四方からレーザーが襲った。

 

(……呆気ないもの―――!??!)

 

 ―――ありえない

 

 彼女の思考がそんな考えに一気に染まる。それもそのはず、彼女の目の前であり得ないことが起こったのだ。

 確かに悠夜をレーザーで撃ち抜いた。なのに、なのにだ。悠夜は立ち上がったのである。

 立ち上がった悠夜は右手を上げる。すると雨すら降らない暗い空から、悠夜に向かって雷が落ちる。

 そして爆発的な加速をしてマドカの下に現れた右手を向けて叫ぶ。

 

「―――ダーク、スパァァァアアアアアクッッッ!!!」

 

 黒い稲妻がマドカを襲う。もしあと数瞬遅ければ、マドカは死んでいただろう。

 マドカは離脱するため、影を纏った。

 

「逃がすかよ。来い、《ディス・サイズ》!!」

 

 〈ルシフェリオン〉を展開せず、直接《ディス・サイズ》を展開し、すぐに投げる。すると《ディス・サイズ》の周囲に風が起こり、竜巻を形成し始めた。

 

(どれだけ規格外なんだ、あの男は!?)

 

 思わず涙を流しそうになるマドカ。だがすぐに異変が起こる。

 

「―――絶対零度(パーフェクト・フリーズ)

 

 途端に形成された竜巻が凍り、自由落下を始める。

 悠夜は指を鳴らしてそれを消し、マドカのさらに上にいる人影を睨む。

 

「ちっ。ダークスパークで死んどけよ」

「―――うわぁ、物騒なことを言うねぇ」

 

 おどけた声を出した零夜はマドカを掴んだ。

 

「悪いけど、この子は連れて帰らせてもらうよ」

「それは困るな。テメェとそいつ、どっちか残せ」

「……ねぇ、さっきより不良化が進んでない?」

「気のせいだ。それよりどっちか残れ」

 

 零夜を軽くあしらって命令する悠夜に対し、零夜はため息を吐いた。

 

「それはごめん。無理。じゃあね」

 

 そう言って零夜はわずかのほころびができている場所から外に出る。

 悠夜も無理だと思ったのだろう。固有結界を解除した。

 

「悠夜さん」

「簪か。悪いな。手伝わせたのに結局逃げられちまった」

「……気にしないで」

 

 別の場所で待機していた簪と合流する形になる。戦闘中に移動した先がちょうど彼女がいる地点だったのだ。

 ラウラを回収するために二人は自動販売機があった地点に戻ると、一夏とラウラが揉めているのを見つけた。

 

「悪いな、ラウラ。結局逃げられた」

「兄様!」

 

 悠夜と簪の姿を見つけたラウラは一夏から逃げるようにして悠夜に抱き着く。それを見た二人は一夏に対してジト目を向けた。

 

「織斑、事と次第によっては朝にはテメェのバラバラ死体が出来上がっているわけだが、遺言は?」

「ち、違う! 俺は何もしていない! ただ、この騒ぎは何だって聞いてただけだ!」

「あ~」

 

 ラウラを少し離した悠夜は少し考えた後に一夏に言った。

 

「事後処理」

「特別演習」

 

 悠夜に続いて簪もフォローするように言うが、一夏は納得できないと言う顔をする。

 だが悠夜もこれ以上の説明をする気はないのか、そのまま手を振りながら一足先に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………とりあえず、事情はわかったわ」

 

 IS学園の寮に戻った俺の部屋に楯無が現れた。もし俺が本音に遠慮して洗面所で着替えていなければ、鉢合わせてしていただろう。

 楯無は十蔵さんから話を聞いたらしく、それで俺に状況を聞きに来たそうだ。

 

「でも、よくわかったわね。あの〈サイレント・ゼフィルス〉の操縦者が織斑君の家族だって」

「最初に交差した時に、嗅いだことがある臭いが鼻にきたからな。自然とムカムカしてきたから、「あ、この臭いは織斑千冬だな」と」

「…………………」

 

 俺にジト目で見てくる楯無。何かマズいことでも言っただろうか?

 

「……ねぇ、悠夜君。あなたはいつも女性の臭いを嗅いでいるの?」

「何度か接近することがあったから、その時に大抵嗅ぐ羽目になる」

「……………ふーん」

 

 何でこいつは不機嫌になったんだろうか?

 

「言っておくが、俺はあの女に興味はないからな。年上は2,3歳が限度だ」

「…………」

 

 疑わしいと言わんばかりに俺を見てくる楯無。無言のプレッシャーを浴びせてくる。

 俺は妙に、あのミア・ガンヘルドを思い出した。

 

(ミアと言えば……)

 

 四神機、そして自らを俺の弟妹と名乗る二人の存在。ミアを含めれば自称奴隷が2人になってしまったが、それは敢えて割愛する。

 とはいえ、ルシフェリオンを手に入れてからというもの、俺の体がおかしくなったり変な力を使えるのには違和感を感じる。後は、臨海学校の時に手に入れたノーパソか。一度、あそこにあるデータをちゃんと見た方が良いかもしれない。

 

「だがまぁ、結局失敗か……」

「そうね……本当にへこむわ」

 

 二人でため息を吐くと、風呂から出たらしい本音が狐の着ぐるみ……ではなく、黄色いパジャマを着て髪もそのままだった。

 

「あれぇ? かいちょー、まだいたんですか~?」

「……それ、まるで私がいてはいけない言いようよね?」

「だって~これから私たち~イチャイチャするんで~」

「とか言ってるけど、実際そんなことはないからな」

 

 いっそのこと、楯無を止めて本音と一緒に寝てもらうか………二人が一緒に寝ているのを写真で取って放出したらそれなりに金を取れる可能性があるが。

 

「も~。ちょっとぐらい乗ってくれてもいいのに~」

「……………」

 

 そろそろ、本音の教育にも力を入れるべきか? そんな考えが頭に過ぎり始めているが、今は我慢だ。

 俺は心を落ち着かせるために、今はかけているルシフェリオンのプラモを取り出して器具も出す。

 

「……悠夜君、それって」

「俺の想像の集大成。でも正直、今はこいつを使う気になれない」

 

 戦う時にはノリノリになって忘れてしまうが、ルシフェリオンの力は強大だ。大会の時は優勝と高いクオリティにしか興味がなく、ただ最強の機体を作っていた。おそらく心のどこかで思っていたのだろう。「所詮、ゲーム」だと。

 初めてその強大な力を手にした時、圧倒的な能力を見せるしか興味はなかったが、今は違う……ホント、どうして戦いの時になるとノリノリになるのかわからないのだが。

 

「……悠夜君、お願いがあるの」

「……何?」

 

 作業を始めると、楯無が真剣な感じの声を漏らした。

 

「私に、あなたのように力を操る術を教えてほしいの」

 

 俺と本音はお互いに顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも、俺はあの時一つ疑問があった。何故、あのババアが楯無に教えなかったのかという疑問だ。

 楯無はそもそも簪の姉。そして暗部の長でもあるのだから、技を教えればいいのに。

 

「「「―――襲われた!?」」」

 

 遠くからそんな声が聞こえたが、とりあえず俺は黙っておくことにした。

 人が悩んでいるというのに、あの馬鹿は余計な問題を増やしすぎだろ。

 キャノンボール・ファストの翌日の放課後、俺たちメタルチームは三人で夕食を摂っていた。そして昨日のことを二人に話す。ちなみに本音は生徒会の仕事があるということで今回は欠席だ。

 

「―――って、やり取りがあったんだが」

「……それは、難しいと思う」

 

 簪がそう答えたこともあり、俺も同意した。

 そもそも、楯無と簪とは境遇が違いすぎる。

 二人は暗部の長になるために育てられたと聞くが、特に楯無は厳しく育てられたそうだ。まだアニメなど二次元関連に手を出せた簪とは違い、楯無はそっち方面には染まっていないと断言してもいいだろう。

 だからこそ、能力を行使して柔軟な攻撃を編み出せる俺や簪とは違って、楯無はそこまでの柔軟性は見ている。〈ミステリアス・レイディ〉も、多分簪が使えばもっと凄いことになりそうだがな。

 

「それに、いくらお姉ちゃんが負傷して動けなかったって言っても、お姉ちゃんが持つ情報が少なすぎる」

「………確かに、な」

 

 何故かあのババアは、俺と恋愛しているのが楯無だと当たり前のように思っていた。

 はっきり言って、そのことが気になって仕方がない。昔から俺と楯無を知っていて、それで意図的にくっつけるのは………昔?

 

「………」

「兄様?」

 

 少し、おかしくないか?

 そもそも、どうして俺はたまに帰っていた時に楯無と会っていない? 楯無だけじゃない。簪や虚さん、そして本音だってあそこに出入りしていたって話だ。だったら一度や二度、会っていてもおかしくはない。

 

「…………まさか、な」

 

 追求しようと思ったが、俺はすぐに止めた。あのババアのことだから話す気はないだろう。

 そんな結論に達した俺に、三人とは別の声が入ってきた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

 オルコットだ。

 昨日入院していた彼女は治療を受け、ある程度の修復はされているようだ。

 

「何の用だ?」

「昨日の一夏さんが襲われた件で話がありますの」

 

 後ろには篠ノ之、そして恐る恐るといった感じでジアンもいる。

 

「昨日のことなら既に報告済みだが?」

「そうではありませんわ。あなた、昨日の誕生会を行うことに賛成でしたわね。ただ、事情聴取があるので欠席したそうですが、それはあなたが一夏さんを囮に使う口実ではなくて?」

 

 ラウラと簪が戦闘態勢を取る。そして俺はオルコットの推測に対して笑った。

 

「ご名答だ、オルコット」

 

 そう。実は俺は織斑の誕生日を知っていた。鈴音が織斑の誕生日ついでに俺の誕生日を聞いてきたのである。そして、誕生日会が計画されているって話もだ。鈴音にしてみれば他愛ない会話なのだろうが、俺にとってはいい材料だ。

 そして俺は昨日、たまたま織斑とばったり会って誕生日会をやることを聞いてすぐに待ち伏せしたのだ。外れだったら三人でどこかのファミレスで食事でも思ったが、期間もそうだがうまく釣れたというわけである。

 

「アンタの言う通り、俺は織斑が襲われると予感していた。とはいえ確証はなかったから、敢えて囮に使ったがな」

「下手すれば、一夏さんが死ぬかもしれないのにですか!」

「ああ。まぁ、その時はその時だろう。運がなかった。それだけだ。何か問題でも?」

 

 するとオルコットは俺に向かって腕を伸ばす。それを掴んだ俺はそのままオルコットの手を握り潰すために力を入れた。

 

「―――ッ!?」

「止めとけよ。テメェじゃ……いや、ここにいる奴らではまず俺に勝てない。それに、俺も聞きたいことがあるんだが、どうして昨日は命令を無視して〈サイレント・ゼフィルス〉に喧嘩を売った」

「あの機体は我が国の誇りですわ! それを奪い返すのもわたくしの役目です!」

「―――無駄死にに逝くの間違いだろ? プライドを優先して余計なことをするな」

「何ですって!?」

「言った通りだ。あの敵はお前らの手に余る。今後はリヴァイアサンと一緒に俺が相手する」

 

 そう言うと、オルコットの前に織斑が現れる。

 

「待ってくれ! あの操縦者は俺がやる! だから―――」

「無理だな」

 

 断言すると、案の定織斑が聞いてきた。

 

「何でそうやって決めつけるんだよ! やってみなきゃわからないだろ!!」

「………やってみなきゃ、か」

 

 まったく、こいつと言う奴は本当に………何で生きてんの? ってそれは俺が強すぎるのが原因か。

 

「そんな思考しか持たないから、二次移行しても専用機持ち最弱なんだっていい加減気付けよ」

 

 途端に周囲が静まったが、俺は構わず続けた。

 

「それとも何? 自分は専用機を持っているから何でもできるとでも思ってる? っていうか昨日、五反田蘭から話を聞いて何で首を突っ込むわけ。ホント、テメェの連絡先を着信拒否にしておいて正解だったな」

「………え?」

「あ、昨日の話は全て聞いてるし、何の理由で五反田弾や御手洗数馬に連絡したかも把握済みだ。どうせそう行動することは読めていたから、予め二人にはテメェの番号を着拒にしておくように言っておいたけどな。まぁ、結果的に正解だったわけだが」

「……ちょっと待てよ」

 

 織斑が信じられないと言わんばかりの声を出す。

 

「二人に俺の番号を着信拒否にするよう言ったのか?」

「言った」

「……それで、あの二人は指示に従ったのかよ」

「繋がらなかったってことはそういうことだろ」

 

 あっけらかんと答えた俺は、さらに付け足しておいてやる。

 

「さらに言えば、俺も妹がいる立場としてはあまりISなんかに関わらせたくないから、五反田弾が妹をIS学園に入学させるのを阻止したいって気持ちはわかるから、その手伝いをしているわけ。まぁ、どうやら弾君の母親と祖父は何も理解していないようだから、テメェの家が戦場になったら妹をどさくさに紛れて殺すつもりだったけど。その結果、二人は弾君の考えが正しいことを知って晴れて仲直り。たった一人の女尊男卑の死を以て幸せになるんだ。ハッピーと言わなくてもトゥルーぐらいにはなるだろ。ホント、我ながら自分の想像力は凄いと―――」

 

 ―――ゴッ!!

 

 俺の頬に鈍い音が鳴る。それを見たラウラは織斑に飛び掛かろうとしたがそれを俺は手を挙げて制する。

 

「ふっざけんなよ、テメェ!!」

 

 襟首をつかんでくる織斑。にしても予想通りだな。流石に殺すのは冗談なんだが、見事に信じてくれた。

 

「そんなんで、そんなんで解決できると思ってんのかよ!! それに蘭はIS学園に行きたいんだろ! だったら良いじゃねえか! だって蘭の適せ―――」

 

 今度は俺が殴る番だった。

 鳩尾を全力を出して殴ると穴が開くからきちんと手加減した上で殴り、言葉を切らす。その際脱力した織斑の頭部に踵落としをして、前から床に叩きつけた。

 篠ノ之以下三名が織斑が殴られたことで、それぞれ織斑の名を呼ぶ。

 

「―――やっぱ、ここに残ったのは失敗だったか」

 

 織斑が余計なことを話さないように、後頭部を踏んだまま呟いた。

 

「まぁいいや。織斑、テメェもう死ね」

 

 そう言って俺は手の中に小さく、朱色の槍のようなものを形成する。それを見て周りはざわめくが、俺がこんなことをするのは今更だと思えよ。

 すると、この惨状を止めるためか織斑先生が現れた。

 

「―――この騒ぎは一体なんだ。桂木、説明しろ」

「あなたと同じで救いようがなく度し難い馬鹿をこの世から抹消するための儀式です」

「………ふざけるなよ。いい加減に織斑の頭から足をどけろ」

「わざわざあなたの弟がまた一人、余計な犠牲者を出さないためにしていることです。殺すことが手っ取り早いんだがな」

「………いい加減にしろ」

 

 最後の警告のつもりなのか、織斑先生……もとい、織斑千冬は睨んでくる。……たぶん、一般水準で言えば怖いんだろうが、もはや犬が威嚇のために吠えているようにしか見えない。

 とはいえ、これ以上すれば流石に喧嘩に発展するか。それもいいな。

 

「嫌だと言ったら?」

「最悪、退学になる」

「じゃあ、今度は敵同士というわけか。次はルシフェリオンで行くから、その時は精々1分は持たせろよ、世界最強(笑)」

 

 たぶんかなり重い処分になるが、おそらく退学にはならない―――いや、できないと言うのが正しいか。

 まず俺が退学になった場合、ラウラも同じく自主退学するはずだ。となれば学園側の戦力が大きく軽減するし、何より、世界はルシフェリオンの能力をそろそろ理解しているはずだ。できていなければ俺が自由になるのはわかりきっているし、俺が退学になったと知れば世界各国が勧誘にくるはず。………少なくとも、ミアだけは確実に来ると確信している。

 そうなった場合、戦力が不明である組織から攻撃を受ければまず無理。そもそも敵の方が数が多いのに勝てたのは、俺と簪、そしてラウラが主だ。フェイクスードもかなりの戦力とも言えるが、俺とラウラが抜ければそれだけで脅威だと断言できる。だから、退学にはできないし境遇も変えられない。重役を狂わせた能力は伊達ではない。

 さて、交渉の開始だ。

 

「織斑の解放にはいくつか条件がある」

「……何だ?」

「まず、事情を聞くのは俺と織斑だけだ。この馬鹿のことだから、余計なことを言うから聴取には織斑先生と学園長のみ。聴取記録は紙のみ。電子媒体での録音をしたら、ここの学園長には盛大な借りがあるが、俺はすぐに敵になって、IS学園を教員・生徒問わずに巻き込んで殺す。俺に対する聴取方法も同様だ。それができないと言うなら、織斑一夏は死に、俺を捕まえようと躍起になる奴らの大半は死ぬだけだ。とはいえ学園長の都合もあるから、その辺りは持ち帰って検討してくれて構わない。と言うかしろ」

 

 うん。これじゃあ銀行強盗でもしてきた気分だ。

 

「………少し待て。すぐに聞く」

「そうしてくれ」

 

 しっかし、悪いことしたなぁ。まさか十蔵さんが理事長だってばらすわけには行かないし、だから菊代さんを指定したんだが……。

 と内心後悔していると、電話を終了したらしく織斑先生は言った。

 

「学園長はもう今日は大丈夫だ、そうだ」

「じゃあ、こいつの聴取室までは俺が連行する。文句は言わせない」

 

 そうして俺は織斑を聴取室にぶち込み、待機することになった。




……書いてて思ったんですが、どうしてこうなった。
ということで、嘘八百を並べ立てた結果、こういうことになりました。
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