奈々との一件で仲良くなった三人……正しくは、ユウと奈々が仲良くなり、ミアが奈々に対して激しい牽制をするようになった頃、また事件が起こった。……いや、起こることになった、だろう。
奈々というあだ名をつけられた刀奈は、日曜日は次期暗部の長候補の一人として妹の簪、そして従者の虚を含めその他配下の子供たちと共に鍛錬をしている。そんな中、刀奈と簪の父親である茂樹に一人の従者が耳打ちした。
「……理由をつけて追い返せ」
「わかりました」
従者はそこから離れていく。向かう方向が玄関だということもあって誰か来たのかと興味を持つ刀奈だったが、茂樹に注意されて鍛錬に意識を割くと、玄関の方が騒がしくなって今度は別の従者が現れた。
「何だ?」
「それが、「ここにいる末代を大人しく差し出すか、全滅させられて目の前でイチャイチャされるかどちらか選べ」と……」
「……病院に送って行ってやれ」
その会話内容から、刀奈は誰が来たのかなんとなくわかった気がした。
「お父様、私が行きましょうか?」
刀奈が立候補すると、茂樹は「ダメだ」と言って諫める。それは家が定める規則もあるが、茂樹自身その家訓は今更なものだと思っている。とはいえ、二人が大事な家族であり、生死をかける組織の長候補になるのだ。同年代のなれ合いは必要ではあれど、休日までそれを必要するはないと思っている。
(………せめてどこかに、家を滅ぼしてくれるほど強い奴がいればいいのだがな……)
そこまで考えた茂樹は、彼の学生時代の苦渋の数々を思い出してしまい、ナイーブになってしまった。
(落ち着け。いくらアレの子供でも無理だ)
自分が学生時代の時とは違う。今ではさらに練度が上がり、強くなっている―――もっとも、それは約30年前にも彼の父、「更識重治」も思ったことだが、それは茂樹の知るところではなかった。
鍛錬も区切りがついたことで休憩に入る。すると、全員が刀奈たちの方へと移動する。
「刀奈様、お茶はいかがでしょうか……?」
「…ありがとう。でも、大丈夫。私の分はあるから」
「刀奈様、汗をかいたら塩分は取るべきですよ」
「大丈夫。レモンもあるから」
「奈々ちゃん。後で一緒に遊びに行こう? たまには息抜きも必要だよ」
「ごめんなさい。日曜日は鍛錬をしないと………」
全員、刀奈の将来に期待しているからか彼女の世話をしようとする。おそらく、女である彼女に今の内に取り入っていれば、将来は自分が更識の実権を握れるかもしれないという考えが親から刷り込まれているかもしれないが。
そんな軍団が一瞬で静まり返り、全員が一人に集中する。注目を浴びたその男の子は気にせず言葉を続けた。
「別に奈々ちゃんはそんなことをしなくてもいいよ。だって、いずれここはオレが潰すから」
その言葉に全員が殺気立つ。中には中学生くらいの者や、小学生だが横に大きい者もいる。見るからにユウが勝てる相手はいなさそうだ。
「君は誰だい?」
比較的大人しそうな細身の少年がユウに話しかける。
「お……ボクは風間悠真、更識刀奈ちゃんのクラスメイトです」
「そう。でもごめんね。お嬢……彼女は君とは遊べないんだ。だから―――」
「でも、あなたたちがどれだけ頑張ったところでボクには勝てませんよ?」
瞬間、その場にいる全員がざわめく。茂樹は嘆息し、彼らを静めた。
「そこまでだ。風間悠真、と言ったな。君はもう帰りなさい」
「………ああ」
何か納得したように、ユウは手を打つ。そして茂樹に向かって尋ねた。
「もしかして、奈々……刀奈ちゃんのお父さんですか……?」
「……だとしたら、何だ?」
それを聞いた悠真はニヤリと笑う。
「じゃあ、あなたを倒して刀奈ちゃんをもらっていきますね」
途端に、茂樹や刀奈らを守る子供たちを陣を作る。その内の一人が持っていた木の槍の先端をユウに向ける。
「貴様、どこの組織のものだ?」
「………組織?」
この当時、ユウは自分の家に関しては何も知らなかった。ただ両親は忙しく、割合的には母親の方が仕事をしているということ、家が屋敷で大人のメイドや執事がたくさんいるぐらいだ。兄が1人、弟と妹がいて、妹以外にはユウにはミアがいるように、それぞれ専属メイドがいること。そして自分を含めそれぞれが好き勝手していて、少なくとも自分は、大抵の大人よりも強いということだ。
「とぼけるな!」
「大人しく言った方が身のためだぞ!」
他の子どもたちからもそんな声が上がる中、剣呑な空気を打ち破るようにどこか和やか雰囲気が割り込んで来た。
「ほら、やっぱりここにいた。合流できてよかったね、ミアちゃん」
「ありがとうございます」
礼儀正しく、ミアは雪音に頭を下げてお礼を言う。全員が場違いな空気に戸惑いながらも、当主夫人の立場にある雪音に対して跪く。雪音はあまり慣れていないか、どこか遠慮している風だった。
「久しぶりね、悠真君。もしかして刀奈ちゃんを誘いに来たとか?」
「はい。せっかく日曜日ですし、小学生の時ぐらい遊んでも問題ないかなぁって」
ユウはあまり考えずにそう言うが、周りから冷ややかな視線を向ける。
その空気を感じ取ったのか、ユウは笑みを浮かべてはいるが警戒をし始めた。
「でも、確かに連日鍛錬ってのもどうかと思うけど……」
「雪音、君にはこのことには口出しするなと言っただろう」
茂樹がそう言うと、子どもたちが改めてユウの方を向く。
まるで攻撃指令が出たかのようにユウに攻撃意思を向ける彼ら。
「さて、どこの誰かは知らないが、大人しくしてもらおう」
「…茂樹さん、止めた方がいいと思うわよ」
今にも戦い始めかねない子供たち。だが、彼らの前であんなことを言った以上、よほどの理由がなければ止めることはできない。どういった理由で止めようとかと悩んでいる茂樹に雪音は言った。
「彼、修吾君の子供だからあの子たちが返り討ちにあっちゃう」
「攻撃、止め!」
すぐさま茂樹は全員を止める。全員は意外そうな顔をし、中には直接異議を唱える者もいた。
「ど、どうしてですか!? この者はどこかの間者かもしれないのですよ?!」
「………まだそっちの方がマシだ」
「はい?」
「ともかく攻撃は中止だ。悠真君、君の父親の名前は「修吾」で間違いないか?」
「うん」
頭を抱える茂樹。
彼にとって「修吾」という名前は嫌な名前だ。特に、その子供である悠真が自分の娘と同じクラスになっているなんて聞いていなかった。
何故こうなってしまったか。修吾はある日を境に姿を消して今の今まで音信不通だったのだ。そして間が悪いことに、茂樹は仕事で長期の任務に出ていて、帰ってきたのは昨日の夜遅くだったので聞くのが遅れたのである。
「……そうか。あいつの息子か………」
「……? おじさんはお父さんのことを知ってるの?」
「知ってるさ、嫌というほどな」
遠い目をしながら答える茂樹をユウは不思議そうに見ていた。だが、まるで名案が思い浮かんだように笑顔を見せて言う。
「じゃあ、奈々ちゃん……刀奈ちゃんと結婚しても問題ないですよね?」
瞬間、子どもたちがユウに対して殺意を向ける。これからのことを考えれば、一人でもライバルは減らしておきたいということもあるが、学校の友人というだけで裏に関わる覚悟がない年下がとんでもない発言をしたのだ。
―――だが、所詮は何も知らない子どもの戯言だ
そう思ったのか、一人、また一人と笑い始める。馬鹿じゃないのかと。ありえないだろうと。
「馬鹿かお前、刀奈様がお前のような奴を相手にするはずがないだろ」
「身の程を知れよ」
だが、馬鹿にする子どもたちに向かってユウはこともなげに返した。
「でも、この中で一番芽があるとしたらオレだけど。だってオレ、ここにいる誰よりも強いもん」
無邪気なその言葉に全員が改めてユウに向かって敵意を向けるが、ユウはさらに言葉を続ける。
「だってさっきから思っていたけど、ここにいる人ってそこまで強くないもん。ただ一人除いて」
ユウの視線は茂樹へと向けられる。茂樹もまたユウを見ると、一目見てわかった。
(この子、やる気か……?)
向かって来られたら容赦なく戦う。その準備がいつでもできている雰囲気だった。
「……調子に乗るなよ、チビが」
一人の子供が集団の中から現れる。
その子供の身長は5年生だが既に160はあり、129のユウとは軽く31㎝の差があった。
「待て。客人に怪我をさせる気か?」
「ですが16代目、こんな何もわかっていない奴に馬鹿にされて黙ってろって言うのですか!?」
「でも実際弱いんだから、大人しく遊んでれば~?」
空気を読まず尚も挑発するユウに、その子供は殺気を出して迫る。油断していたユウにとっては間違いなくダメージを食らうほど早かった―――が、迫りくる拳をユウは数㎜の隙間を開けて回避した。
「何だと!?」
まさか回避されるとは思わなかったのか、その子供は次の動作を忘れたのだがユウは初めから興味がないのか、すぐに刀奈にハグをした。それを直視した茂樹は一瞬目眩が襲ったのだがすぐに引きはがすと、ユウの体が少し揺れた。
ユウの視界の下の方に刀奈と同じ髪色が見える。視線をずらすと、怒りを露わにした刀奈のミニマムサイズの女の子がユウを睨みつけていた。
「簪ちゃん……」
姉を取られると思ったのか、簪と呼ばれた女の子はひたすらユウを睨み続ける。するとユウは簪に手を伸ばした。簪はすぐさま噛みつき、苦痛を与えようとしたがユウは眉一つ動かすどころか引き寄せて撫で始めた。
「ユウ様、あまり粗相はしない方が良いと思いますよ」
「だって可愛いもん! 持って帰りたい!」
「いや、ダメですから」
内心呆れながらミアはそう言い、未防備になり始めているユウの周辺に風を回す。
瞬間、後ろから女子が一人木刀で攻撃した。そのため、木刀が刻まれ、微塵と化した。
「ミア、別に木刀ぐらい生身で防げた」
「私はあなたの守り人ですので」
言いながらもユウは簪を撫でるのを止めなかった。
「……あの、悠真くん。すまないが娘を離してくれないか?」
「持って帰るから、いや!」
「……持って帰って何をするつもりだ。……簪も止めなさい。流石にそれ以上は大変なことになる」
言われて簪は渋々といった感じに手を口を離すが、ユウはより一層抱きしめて頬擦りをしようとしたのでミアは無理やり引きはがした。
「何するんだよ」
「それ以上は流石に問題になります。するなら私にしてください」
「だって~」
駄々をこねるも、簪を離さないユウ。すると、さっき木刀でユウを攻撃しようとした少女がユウの顔面を殴り飛ばした。
「……随分と不愉快にさせてくれますね」
「う、虚ちゃん」
「あらぁ……」
まさか殴られると思わなかったのか、不意打ちを食らったユウは頭を振る。
「ユウ様、この女を―――」
「ミア」
ユウは止めると虚と呼ばれた少女に視線を向ける。ひとしきり観察した後、息を吐いて提案した。
「じゃあ、こうしよう。ここにいる全員の中で総当たりで誰が一番強いか決めて、相応しいかを決めよう。それなら文句ないでしょ?」
「いや待て。何を勝手に―――」
ユウは簪を離すとすぐに茂樹に攻撃した。
茂樹はすぐさま回避。まさか自分に攻撃されるとは思わなかったが、それでもユウの攻撃を回避したのは流石だろうとミアは感心している。
「ちっ、避けられたか―――」
「この―――」
後ろから大柄の小学生が殴ろうとするが、それよりも早く腕だけで攻撃するユウ。鳩尾に入った彼は意識を飛ばして倒れた。
そしてすぐさま鍛錬していた子供たちの方へと向かうと、茂樹が飛び降りて間に入った。
「悠真君、それ以上の狼藉は流石に見逃せないぞ」
「だったら本気出して。あなただったら30%ぐらいでも戦えそうだ―――し!!」
地を蹴り、回転しながら飛ぶユウを茂樹はいなす。回転を止めて着地すると驚いた顔をするユウ。少しするとそれは笑みへと変わり、地に触れると槍を出した。
「………ちょっとタンマ」
「無理!」
ユウは叫びように言うと地面から精製した槍を振って茂樹に攻撃しようと飛び出すと、壁が壊れ、三角錐が装備されたバンが飛び出してきた。進行先にいたユウはそのまま当たられ、飛ばされた。
バンから出てきた覆面の男たちは散弾銃や機関銃を向け、動きを封じる。
「目標を確認。回収する」
一人がそう言うとすぐさま簪の方へと移動する。茂樹が間に入ろうとすると、別の男が上に撃った。
「動くな。動けば、ここにいる子供を殺―――」
「ねぇ」
―――ズズンッ!!
覆面たちの後ろで何かが落下したような音がした。一人が見ると、乗ってきたバンは真っ二つにされていた。
「君たちも争奪戦に参加しにきたの?」
「君も動くな。子供と言えど容赦はしな―――」
「でも、残念」
ユウの姿がぶれると、ユウの方へと銃を構えた男が上へと飛んだ。
「奈々のお父さんだから手加減したけど、ちょっと切れちゃったから本気出すね?」
そう宣言したユウの姿はまたブれ、未だ宙に浮いている男性の所へと移動して踵落としで地面に叩きつけた。
「何!?」
「更識は人体改造をしているという話は聞いていな―――」
地面が揺れはじめ、全員がその場で動けなくなる。するとユウの周りに土色の蛇が現れ、バンごと男を食らい、上へと放り投げた。
「世界最強たる僕に喧嘩を売ったんだ。無事でいられるとは思うなよ?」
男たちは中々落ちてこなかった。何故なら彼らがいる場所は無重力空間になり、ユウが作り出した移動可空間なのだから。
ある程度上がった場所で無重力から解放された男たちはそのまま落下する。あまりのことに気絶する者が現れたがユウは近場でまた無重力の空間を作って助ける。
「待て、悪かった。我々も―――」
「え? もう降参なの?」
「あ? ああ! 降参する。だからここは―――」
「だってさ。じゃあ、続きやろ?」
言葉を信じたのか、ユウは振り向いてなおも戦おうとするユウ。チャンスだと思った男は銃を向けようと思ったが、その銃は既にバラバラにされていた。そして―――
「え? ちょ―――」
どこからともなく砂が移動し、男を地面に縫い付ける。
一方、子どもたちは大の大人相手を事もなげに倒したユウに対して怯え始める。茂樹はため息を吐いて、さっき車にぶつかられていたことも声をかけようとしたが、満面の笑みを浮かべて自分に向かって攻撃をするユウから距離を取った。
「あ、そうだ」
急に向きを変えたユウは簪に向かうと、さっきの一戦を見ていた簪は急に泣き出した。
「……え?」
まさか泣かれると思わなかったユウは動きを止め、呆然としてしまう。
「あらあら。もしかしたら怖かったかもしれないわね。ごめんな、悠真君……悠真君…?」
「……………」
「そういえば、ユウ様はこれまで動物や年下には嫌われたことがないので、耐性がないのかもしれません」
「………ぷ」
その笑い声は虚から漏れた。
一斉に注目を浴びたため、咳払いをした虚。だがユウはそのままフラフラへと反対方向…つまり、虚たちがいる場所へと移動してしまい、虚とぶつかった。
「ちょっと、何をするんですか?」
「………ひぐっ」
「はい?」
瞳に涙をためているユウ。そしてそのまま虚に抱き着いたユウは泣き叫んだ。「あの子に嫌われた」と、大声で。
そんな起こっている中、一人の少女は投影されたキーボードを叩く。科学は進化しているが、未だに投影式の機器を持っているのは世界を探せば彼女かもう一つの家の人間ぐらいだ。
少女は手を止めると、笑みを浮かべて言った。
―――ようやくできた、と
この時の簪はまだお姉ちゃん子。
虚に抱き着いたのはたまたまだが……そしてこれを目撃したとある女の子は盛大に勘違いをしたとかしないとか。