IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#15 無謀な特攻/そして少年は演技する

 更識の発言で多少の不安を抱えた俺だが、今はそのことは気にしないことにした。いくら馬鹿でもそこまで悪いとは思いたくない。というか、

 

「彼は何度か告白されていたみたいだけど、どれもすべてはぐらかしているって感じだったわ」

「……はい?」

 

 どういうことか尋ねると、どうやら織斑は過去に何度か告白されているらしい。クラスの中でもかなり人気が高い女子も、そしてブスもだ。

 だがほとんどが「買い物に付き合う」と脳内変換されているらしく、まともに付き合ったことはないようだ。……何故そうなるのか一度頭を調べてもらうべきだ。奴こそ研究所に入るのが相応しいと思う。

 とはいえすぐにそうならないのはわかりきっているので、俺は俺でこっちを見学させてもらおうか。

 

 放課後、俺は第三アリーナのピットで準備体操をしていると、凰が入ってきた。俺の顔を見るや否や、どこか安心した顔をする凰。

 

「良かった。アンタだったの」

「どうした? この時間はまだ俺の時間だが?」

 

 ちなみに最近では俺自身もどうすれば一面を取れるのかわかってきて単独で一面を使用することが多い。もちろんだがそうなると更識とできなくなることがあるが、それはそれで構わないと思っている。

 

「ごめん。ちょっとでいいからピットを貸してくれない? もうすぐ一夏たちが来るから」

「………いいぜ」

 

 普通、着替えてから来るだろうと思ったが、考えてみれば中に着ているかもしれないし直行も頷ける。

 

「じゃあ、俺は練習してくるから」

「あ、ちょっと待って!」

 

 そう言って凰は何処から入手したのか怪しげなマイクとイヤホンを俺に渡す。

 

「………これは?」

「盗聴受信機とマイクよ。もし何か変なところがあったら言って」

「………俺、練習したいんだが……」

「練習中でもできるでしょ、馬鹿!」

 

 とりあえず受け取って、俺はそれを打鉄を展開した上から着ける。

 そして外へと出て中央に滞空し、PICの設定をオートからマニュアルへと変えてその状態からホバリングを行う。

 

『待ってたわよ、一夏!』

 

 あまりの大音量に驚き、マイクの音量を棒状のセッティング部分で調整する。しかも今ので体勢を崩したのでバーニアで体勢を整える。

 

(あれ? 意外と簡単?)

 

 そう思うと同時に脳内で似たようなゲームを思い出す。いや、似たようなってのは違うな。

 あれはシミュレーターで、存在する二つの操縦桿で調節する。思考のみで操作するISは違う部類になる。

 

(もしかして俺って、思考タイプか………?)

 

 まぁ、あのゲームでも脳波を感知して小型自立砲台を動かすシステムはあったし、俺はそれを普通に扱えていた。

 

(いや、さすがにこっちでも使えるわけがないだろ)

 

 脳内で突っ込んでいると、(イヤホン)スピーカーから声が聞こえた。

 

『貴様、どうやってここに―――』

『ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ!』

 

 だったらお前らも関係ないだろ。時間的にはまだ俺の練習時間なんだから。…………まぁ、時間的にはもう入室可能時間だが。

 

『問題ないわよ。ちゃんと桂木悠夜に許可は取ってあるから』

『何ぃッ?!』『何ですってッ?!』

 

 オーバーリアクションだなぁとは思う。

 大体、こっちは面倒な仲を修復して面倒なことに巻き込まれるのはこれ以上は避けようと思っているだけだ。この後に織斑が誰と付き合うかなんて興味ないし、どうなろうかなんて知ったことではない。

 

(できるなら、これでとっとと縁切りにしたい気分だ)

 

 織斑の関係者じゃなければ友達以上恋人未満の二、三歩した辺りの付き合いならば構わないが、関係者ならば話は別だ。昨日はちょっと、暴走してしまったが……。

 

(まぁ、多少の期待はしていたが……)

 

 そしてたった一日でその成果があったのは驚いた。……そういえば、目の下が少し化粧されていたような……。

 

『それで一夏。………昨日はごめん。急に叩いたりして』

『お、おう』

 

 織斑も織斑で驚いているようだ。そりゃそうだろう。普段からフレンドリーに接している奴が急にしおらしくなったのだから。今の状態ならともかく、急に俺もそんなことに遭遇したら―――間違いなく警戒する。救いようがなさ過ぎる。

 とはいえそれは俺みたいな一般的な感覚を持っている奴であり、織斑のような奴には無理なことだが。

 

『そ、それで、約束を思い出してくれた?』

『え? 約束?』

 

 どうやら織斑はまだ約束を思い出していなかったようだ。というよりも、

 

『約束ってあれだろ? 酢豚を奢ってくれるっていう』

『だから違うのよ。アタシが言ったのは別の意味なのよ』

 

 丁寧に話を進める凰。そうだ。その調子。そうやって成長したところを見せてやれ!

 

『じゃあ、一体それにどんな意味があるって言うんだよ』

『それは、その……って、言えるわけがないでしょうが!!』

 

 まぁ、一日で考えたらこんなもんだろう。

 正直なところ、凰みたいな素人が一日やそこらで進化するなんて思っていない。

 

(というか織斑、本当に何も理解していないんだな)

 

 俺が指摘した通り、確かに告白のあの味噌汁の話を知る日本人なんてもう少ないだろう。だが、だからと言って雰囲気などで察することができるだろう。

 

(……というか察しろよ!!)

 

 昨日話していたが、凰の感情は動きやすい。それ故に相手の表情なんてすぐに判別できるものなんだが……やはり織斑は凰に興味ないみたいだな。

 

(だとしたら、もうこれ以上は止めさせた方がいいんじゃないか?)

 

 このままだと、凰は余計に傷つくかもしれない。

 

(……ま、俺には関係ないけどさ)

 

 そう。関係ない。ただ少し関わっただけだ。ただでさえ余計なことをしていると思っているのに、これ以上は関わりを深くするわけにはいかない。

 

 ———今回だけだ

 

『大体何よアンタ、こんな簡単なことすらわからないの!?』

『奢るのどこか間違ってるって言うんだよ!?』

『奢るから離れなさいよ、この朴念仁! 頭腐ってるでしょ!』

 

 自分に言い聞かせていると、痴話喧嘩なんて言えない口喧嘩をしている声が聞こえてきた。

 もうそろそろ上がろうと思ってピットの方に戻ると、イヤホンから織斑が凰にとっての禁句を言い放った。

 

『うるさい、貧乳』

 

 いくら凰にチッパイの有効活用法を説いてもコンプレックスはそう簡単に解消されないものだ。

 加速された体のまま少し上で解除した俺は着地と同時にスタートダッシュを決めて、凰の懐に潜り込んで展開されそうになっている右腕をつかむ。そして彼女の意識が俺の方に向いた頃、凰の背骨部分を左手の人差し指で撫でながら彼女の耳に息を吹きかけた。人が抗えない快感をコンボで決めた瞬間である。それでも彼女の思考を停止させただけなのは精神が鍛えられているからだろう。

 

「よぉーくわかったわ」

 

 どこか諦めたような、それでいて怒気を含んだ声を出す。

 俺の拘束を振り払い、凰はそのまま織斑の横を通り過ぎる。自動ドアがスライドして開いたところで凰は足を止めた。

 

「覚悟しなさい、一夏。今度のクラス対抗戦でギッタギタにしてやるんだから!!」

 

 凰がそう言って出ていくのとほぼ同時に、俺はコンソールにある操作パネルで「整備」と書かれたボタンをタッチする。するとカタパルトの下にある空洞からロボットが現れて整備を開始した。

 

「なぁ悠夜、一緒に練習しないか?」

「一夏っ?!」「一夏さん?!」

 

 まさかここで俺を誘うとは夢にも思わなかったらしい二人が驚く。俺も同じような反応をしていたが、表には出さなかった。

 

「………それ、本気で言ってるのか?」

「当たり前だろ? それにいつものほほんさんとしかいないし、たまには俺たちとも関わろうぜ」

 

 笑顔でそう言う織斑だが、後ろ二人にそんな雰囲気はなかった。あからさまに俺に参加するなと目で言っている。

 正直言ってこいつはすごい。

 まさかここまでアホで、自分でそのことにすら気付いていないなんて………俺からしてみれば違和感しかないあの会話の、しかもその後に戻ってきた俺に一緒に練習をしようと言い出した。

 いつもならば適当に理由をつけて回避するだけなのだが、今回ばかりは別な気分だった。

 

「———お前如きに俺が関わる? 冗談だろ?」

 

 瞬間、三人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。まさか俺がそんな言葉を吐くなんて夢にも思わなかったのだろう。女尊男卑の思考を持つ女ならば「ようやく本性を現したか」とか言われそうだ。

 

「どうしてお前のようなアホに俺が関わらなければならない。お前なんかに関わっていたらこっちに悪影響が及ぶだろ。そんなのはごめんだね」

 

 そう言って出ようとしたところでオルコットの声が響いた。

 

「お待ちなさい、桂木さん。あなたに一つ聞きたいことがありますわ」

 

 俺は足を止め、そのままの状態で耳だけを傾ける。

 

「何?」

「凰さんは二組ですわ。あなたはクラス対抗戦を前にして敵に加担するというのですか?」

 

 どうやら凰に場所を貸したことをそう受け取ったらしいオルコット。もしかして場所を貸して凰の技術練磨の手助けをしたとでも思っているのだろうか?

 

「ご想像にお任せするよ。まぁ本音を言えば、クラス対抗戦で戦うわけじゃないのにイベントの時の敵である凰とどう接するかに対してわざわざ口を出すなんてアホの所業だと思うがな」

「貴様!」

「箒?!」

 

 ふと、後ろを向くと竹刀が真横を通過する。反射的に避けれたから良かったが、下手すれば警察沙汰だ。

 

「悠夜、大丈———」

「さっきから聞いておれば勝手なことばかり。その腐った性根、叩き直してやる!」

 

 力加減というものを知らないのか、篠ノ之は竹刀を掲げる。後ろからの静止の声が聞こえていないようだ。

 俺は篠ノ之が竹刀を振り下ろす少し前ぐらいで右腕を伸ばし、スカートをめくった。

 

「なっ、なぁ!!」

「………ピンクか。しかし、お前のおっぱいは随分と大きいな。スイカ型やメロン型のマシュマロを連想させる」

「———!!」

 

 一瞬で篠ノ之の顔が朱色に染まり、今にも爆発しそうだった。

 

「………殺す。貴様のような不埒者は、この私が成敗してくれる!!」

 

 篠ノ之が停止していた間に俺は警棒を装備していた。その警棒を逆手に持って受け流し、力任せに振り下ろされた竹刀の先端は鋼鉄の床に付く。

 

「所詮、同類だったか」

 

 そう言って俺はとっととピットから出て、余裕を見せて更衣室に入る。

 そしてそこにある荷物を取ると、どっと疲れが現れた。

 

(………怖かった)

 

 早すぎる竹刀の動きを見切れたかのように動けたが、あれはほとんどヤマ勘だ。ヤバい。足が震え始めた。

 

(…………でも、探さないとな)

 

 すぐに行ってしまったから半ば押し付けられた感じで借りたイヤホンとマイクを返せていないし、何よりも今の凰は不安定だ。関わりたくないけど、織斑なんかと一緒にされたくない。

 両腿を何度か叩くことで奮い立たせ、制服に着替えた俺はさっそく凰を探し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで嵐が過ぎ去ったかのような第三アリーナのAピットに残っている織斑一夏は、一人思考にふける。

 

(一体、俺が何をしたんだ?)

 

 悠夜に言われたことがよほど気になったのか、何度もさっきの鈴音とのやり取りを思い出しながら整理する。だが彼の中で答えを見つけられることがなかった。

 だからこそますます気になるのだ。自分と同じ境遇の物静かな男子を。

 彼はまだ気づいていなかった。自分のした行動こそが悠夜の人間不信を起こし、自分の当時のことを話したことで悠夜から完全に嫌われていることを。

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