戦いが苛烈を極めている時、楯無と真耶は上空に待機している。
そして真耶は何かを察知した瞬間、その方向に向かって撃った。
「―――いきなり攻撃なんて失礼極まりないわね」
「学園のイベントに何度も介入してきたあなたがそれを言うの、スコール・ミューゼル!」
爆発的に加速する「ゴールデン・ドーン」。彼女が持つ炎の剣と楯無が持つ《ラスティー・ネイル》がぶつかり合う。それを援護するように真耶が射撃で応戦するが、彼女のバリア「プロミネンスコート」。それが弾丸を溶かして無力化する。
「無駄よ。私には普通の銃弾は通じない」
「ならばこれはどうだ?」
下方から常識外れのスピードでスコールに迫る何かが近付く。スコールは咄嗟に楯無を蹴り飛ばして離脱し、その何かからも回避した。
「………こうして会うのも何かの縁ね、織斑千冬」
「初めましてだな、スコール・ミューゼル」
千冬が纏う「暮桜」はとてつもない進化をしていた。
まず、非固定浮遊部位のシールドは取り外されており、その代わりに全身に展開装甲が付けられている。
「これまた随分と変わったものね。まぁいいわ。その機体ごとあなたとあなたの弟は消してあげる」
「やれるものならやってみろ」
途端に千冬から殺気が放たれる。その濃さは非常に異質で、何度も裏の仕事をして体験した楯無ですら臆するほどだ。
スコール・ミューゼルと織斑千冬。どちらも同時に接近してお互いの武装がぶつかり合う。だが「ゴールデン・ドーン」には千冬の「暮桜」にない機能がある。それは―――炎だ。
千冬の直上に炎が2つ形成。それらが千冬に向かって降り注いだ。
「させない!」
楯無が間に割って入り、「アクア・クリスタル」から供給されるナノマシンが含まれる水で応戦する―――が、その熱量は水を蒸発させるのに十分だった。
「クソッ、更識!」
「私は大丈夫です。咄嗟に防御しましたから……でも」
―――シールドエネルギーが一瞬で半分近く減らされた
その事実はこれまでIS戦でほとんどない楯無。悔しがる彼女を見てスコールは笑った。
「ISの水だけで私を止めることなんてできやしないわよ。あなたもヴァダーの力は持っているのでしょう?」
「…………」
「なるほどねぇ。あなたは戦士として、暗部としては優秀ではあれど巫女としては劣等生だったようね」
「貴様、一体何の話を―――」
炎が一瞬で生成、そして矢の形をしたものが千冬に向かって飛んでいく。千冬はすぐに回避行動に入ったが数がとてつもなく多く、弾幕から抜け出すのにかなりのシールドエネルギーを消耗した。
「良いことを教えてあげるわ、織斑千冬。あなたの両親はどうなったか教えてあげる」
「……あんな親のこと、どうでもいい」
「あら、随分と酷いわね。仮にもあなたを育てた親だと言うのに―――そしてあなたも、そこらにいる雑魚のくせにあまり私に挑まない方が良いわよ」
「随分と言ってくれるわね」
「そりゃそうよ。私たち神樹の民は劣等種の情報のみ取得し続けたのは、私たちが本気を出せば劣等種なんて容易に殺せたもの」
そう言いながらもスコールは次々と炎の球を生成続ける。
「さて、私の講義はこれで終わり―――死になさい!」
生成された炎が形を変え、2人に向かって飛んだ。
「どうして何ですか、先輩!」
呼ばれたダリル……もといレインは声がした方に振り向く。
「何でこんな……裏切るなんて……」
「これが最初から目的だったんでな。ISも手に入ったし、こっちとしてはこれ以上望むつもりはねえんだよ。だがその前に織斑一夏は殺そうと思ってよ」
「………あなたは、桂木悠夜が好きだったんじゃないんスか!?」
その言葉に一瞬、ほんの一瞬だけ顔を歪ませる。その変化は本当に微妙で、ほとんど常に一緒にいたフォルテだからこそ見破れた変化だ。
「それとこれとは、話は別なんだよ!」
レインはフォルテに向けて黒い炎を飛ばす。フォルテは氷を張って防御したが、炎はそれすらも突き破ってフォルテにぶつかった。
「くっ!?」
「逃がしはしねぇよ。テメェも連れて―――」
フォルテに手を伸ばそうとした瞬間、2人の間に水が突っ切る。フォルテはその隙に体勢を立て直すと鈴音に抱えられて距離を取った。
「離してくれ! 私があの人を―――」
「あー、ごめん。それちょっとできない」
本当に申し訳なさそうな雰囲気を出して鈴音は言うと、レインがいた場所にミサイルが飛んでいく。
「………ミアさんから伝言」
「あ? 何だよ―――」
ミサイルを飛ばした犯人である簪が呆れ気味に言った。
「蜘蛛女を殺してから、あなたを調教しに行きます……だって」
「いや、わけわからねえぞ」
同じく呆れるように言うレイン。瞬間、四方に現れたビットによる攻撃を回避した。
レインは素早く黒い炎を展開し、さらに「ヘル・ハウンド」の両肩にある犬の首が口を開いて炎の球体を飛ばす。簪はそれをいとも簡単に回避して《襲穿》を放った。
「ちっ」
レインは回避をしつつ舌打ちをする。その隙に簪は荷電粒子砲《春雷》を起動させており、照準を合わせずに撃った。本来なら照準をしっかりと合わせてからの方が良いのだが、最初から回避されることを前提に撃っているのである。そして本命は―――
「行って」
―――ミサイル
計96発のミサイルがレインに襲い掛かる。レインは巨大な炎を生成、発射してミサイルを破壊していくが、何発かは炎を回避してレインに接近した。
―――シュバッ!
しかしミサイルは切断され、何回か回転して爆発する。
「あんまり抜く気はなかったんだがなぁ」
レインの手には黒く光り刀身が輝く。
「覚悟しろよ、1年生」
「その装甲、剥いてあげる」
簪は《銀氷》を展開してエネルギー刃を飛ばした。
「止め!」
一夏が《雪片弐型》で犬型の機体を破壊する。瞬間、蛇型の機体が現れる。それをラウラが斬り捨てて近くに来ていた機体に向けて大型ライフルを向けて撃つと、黒い球体がある一点に向かって飛び、地面に着弾した瞬間に周囲を呑み込んで消滅した。
「ちょっ、ラウラ!? あんなものを使ったら街に被害が―――」
「鳥頭か。ディメンションバリアが張られているから大丈夫だ」
そう返されたが、今の技は一夏も知っているために余計に心配する。
「心配するな。あの銃弾は兄様が1割程度の力を封じ込めている。そうそう壊れることは―――ない!」
接近してきた別の機体の一部を斬ってバランスを崩してビルに激突させる。ビル自体には大して影響もなく、残骸が落下していった。
「それよりも織斑、エネルギーは大丈夫なのか?」
「ああ、まだ半分は―――」
「今すぐ回復してこい」
ラウラは悠夜から一夏のエネルギーを常に8割程度を維持するように頼まれている。それほど「白式」が持つ『零落白夜』を信頼しているからだ。千冬という熟練のIS操縦者がいるのに一夏のエネルギー管理を任せるのは本当に念には念を入れているのだろう。特に、エム―――織斑マドカという存在に対して警戒しているからだろう。
そして、ラウラをA班に組み込んだ本当の理由は―――いざという時にはちゃんとした判断を下せる人間だと信じているからだ。それを知らされた時にはラウラは心から喜んでいた。
(ともかく、今は時間を稼がんとな)
さらに近付いてくる敵機に対して攻撃を行う。
―――ゾクッ
ラウラは思わず後ろを見る。だが、そこには誰もいないが―――彼女は反射的にそこから離脱した。
「―――ほう、中々の反応だ。以前とは別人だな」
「……それは貴様もだろう」
ラウラの前に立つ少女―――織斑マドカと名乗った少女は以前とは違うISを装備していた。
「……サイレント・ゼフィルスはどうした?」
「…………どうやら本当に情報は出回っていないようだな。まぁいい……死ね」
マドカは大型バスターソード《フェンリル・ブロウ》を振り下ろした。ラウラはすぐさま《蒼竜》で受け止める。
「流石はメタルシリーズだな。「黒騎士」相手にもパワー負けせんとは」
「貴様は「サイレント・ゼフィルス」を使用していたのではなかったのか!?」
「それはこの機体の名だ。改修して「黒騎士」となった。くらえ」
「黒騎士」の後ろから2基のビットが射出、それらがラウラに向かって飛ぶ。だが、ラウラが狙うのはそれだけではなかった。
人型の無人機が後ろから現れる。どちらも近接ブレードを装備しており、マドカが攻撃するタイミングを見計らって現れたのだ。
「―――させないよ!」
瞬時加速を使い、ラウラと無人機の間に割って入るシャルロット。そして彼女は両手に持った風の球体を無人機にぶつける。
「一夏!」
「おう!」
シャルロットの声に合わせてエネルギーが回復した一夏はマドカの背後を取って《雪片弐型》を振るう。
だがマドカは瞬時に上に飛び、振られる《雪片弐型》を回避する。
「甘いわ!」
《スターブレーカー》を展開して一夏に向かって撃つ。一夏はダメージを食らいながらも逃げ切る。
「ほう。動きが以前とは違うな。実力差を把握できるようにはなったようだ」
「俺だって成長しているってことだ!」
「だがしかし、弱者であることに変わりはない!」
《フェンリル・ブロウ》による斬撃を《雪片弐型》で受け止める。しかし戻ってきたランサービットが一夏を襲う。
「一夏!」
「させませんわ! 箒さんは一夏さんを―――」
セシリアは援護しようと《スターライトMk-Ⅲ》を構えるが、箒たちの前に黒い機体が現れて破壊した。
「余計なことをするな!」
「だって暇だもん」
そう言ってセシリアに掌打を叩き込んで吹き飛ばすティア。箒はその隙に一夏の所に向かおうとするが、それよりも早くティアが箒を蹴って妨害する。
「それに、その男を叩き潰したいんでしょ? だったら手伝ってあげる」
「……良いだろう。だが他の奴らも抑えていろ」
―――パチンッ!
ティアは指を鳴らす。すると次々と無人機が展開されていった。それらがラウラ、そしてシャルロットに向かって攻撃を仕掛ける。
「これで良い?」
「ああ、十分だ」
そう言ってマドカは一夏を追撃した。
一夏はすぐに察知して距離を取り、追ってくるランサービットを回避する。だが、ランサービットのスピードが上がって回避が難しくなっていく。
(あの黒いの、確か悠夜が暴走した時に……)
悠夜が持つ闇の力の詳細を、一夏は知らない。それ故に彼は気付くことができなかった。
「―――死ね」
さっき以上のスピードでマドカが迫っていたことを。マドカの接近を許してしまった一夏は《フェンリル・ブロウ》で叩きつけられた。
「死ね、死ね、死ね!!」
何度も叩きつけられる。斬りつけられる。そしてそれは激しさを増す。
まるで憎しみを発散するように何度も斬りつけた。
(……俺は………)
そしてとうとう、《雪片弐型》が消失すると共に一夏は意識を失う。満タンに回復したシールドエネルギーもほとんど消失した。
「これで……止めだッッ!!」
マドカは《フェンリル・ブロウ》を上に放る。すると《フェンリル・ブロウ》が分身し、すべてが一夏に方向を合わせて発射した。それらがすべて一夏に刺さる―――そうマドカが確信した瞬間、変化が起きた。
「―――!」
目を見開く一夏。動くはずのない「白式」が動き、寸でのところで回避する。
「何!?」
一夏は転身して《雪片弐型》を再展開、マドカに迫って剣を振るった。マドカはすぐに《フェンリル・ブロウ》を再展開して受け止める。すると―――
―――白式の装甲が変わり始めた
「こいつは…白騎士だと!?」
「白式」のコアは元々「白騎士」のコアが使われている。だがコアのデータは束直々に削除、セットアップが行われたはずだった。そしてマドカもそのことは束から聞いていた。
「………まぁいい。貴様ごと、織斑一夏を葬ってやるわ!!」
「黒騎士」の周囲に漂う雰囲気がさらに黒く染まっていく。それはマドカが闇の力を本格的に使用する合図だった。
■■■
「……こうも簡単に弾かれるのは、かなり来るな」
そう言いながら俺は、レイの氷の攻撃を回避する。
「流石だね、兄さん。それは重力との併用かい?」
「わかってんならわざわざ聞くな!」
そう。現在「黒鋼」のスペックに←スペックを フルに使いながらさらに重力で加速を行っている。手に持っているのは〈ダークカリバー〉。向こうも〈デュランダル〉を持っていて、俺たちは馬鹿みたいに剣と剣で戦っている。時折《サーヴァント》を組み込んでいるけど、それらはすべて水や氷で防御される。
(……だが何故だ。奴はどうして本気を出してこない)
すべて打ち合うだけで済んでいる。いや、むしろ向こうからは何もせずに防御だけを行っているのが現状だ。
(これが……圧倒的な差ってやつか)
まるで相手にならない。四神機とISとじゃこうも違うのか。
「………やれやれ。やっぱりIS相手じゃこの程度か」
瞬間、俺の腹部に衝撃が走った。そして今度は背中―――おそらく壁に激突したんだろう。
しかし、攻撃はまだ終わらない。
―――!!?
氷塊がいくつも襲い、「黒鋼」の装甲を破壊していく。
(損傷率を90%を超えたか……)
おそらくダメージはE―――実質再生不可だろう。これ以上の戦闘行為は難しいため「黒鋼」を解除した。
「最初からそうすればよかったんだよ」
「悪いが、アレにゃあできるだけISを使って戦うように言われてんだよ」
むしろ、ボコボコにされすぎて会社からどやされることを考えていなかったんだが。
「少しは強くなっただろうけど、少しは抗ってよ」
瞬間、「リヴァイアサン」は姿を消した。どうやら俺がどれだけ成長しようと、四神機級になると目では負えない←追えない らしい。なら―――
「来い、ペガス!」
すると空に穴が開き、獣型の黒いペガサスが現れる。それが分裂して俺の身体に纏うと同時にレイが俺に攻撃した。それを丸くなってできるだけ当たらないように、そして当たってもダメージを少ないように回転しながら回避する。
「なるほど、それが兄さん用のIGPSか」
「らしいな」
初めて装着したが、思った以上に馴染んだ。……まさかバイクが飛ぶ以外にもできるとは思わなかったけどな。
「さて、第2ラウンドを始めよう」
「……そうするしかないか」
いくら相棒だからと言っても該当するとしたら「上級」だろう。だとすれば四神機には性能では敵わない。
俺は意識を集中させてレイとの戦いに挑むのだった。
■■■
私は、他のISとは違う。自我が存在するし、無人機のコアをひたすら奪って成長し続けたはずだ。なのに、なんでだろう。何で―――
「何で、私は彼に応えられないんだろう」
自分の空間でひっそりと呟く。私に合わせて彼用に能力を抑えるプログラムも入れた。でも私は満足していない。彼の力を抑えるだけで、私は他のISとは違うはずなのに。
―――本当はわかってる
これがISの限界。どれだけ彼が望んだものだとしても、ISでは「神樹人」―――いや、ユウ・リードベールのすべてを引き出すことができない。
―――超えたい……ISという限界を
それが……この戦いではっきりと思った。
「……じゃあ、超える?」
「……あなたは」
振り返ると、私に似た女の子が立っていた。
「ネロ……」
「久しぶり、クロ」
彼女は、ルシフェリオンのプログラム人格だ。ルシフェリオンが崩壊した今、彼女は存在することはない。そのはずなのに彼女は当然と言わんばかりに存在していた。
「どうしてあなたが―――」
「あなたを、あなたに気付かれないように弄っていた」
私に気付かれないように……?
そんなことは不可能なはず。そんなの、一体どうやって―――その思考を読んだのか、ネロは黒い球体を作り出した。
「……これに触れて、クロ。そうすれば、私たちは生まれ変わる」
「…生まれ変わる?」
「そう。どのマッドサイエンティストも予想しなかった、究極の存在に。自我を持った私たちだからこそ到達できる世界に」
それはとても甘い言葉。でも、私にはわかった。この子も私と同じなんだって。
だからこそ私は、黒い球体に手を伸ばし、触れた。
―――そして、世界は変わる
2人は望んだ。主を最強へと導くことを。
2人は選んだ。主が強者になることを。
それが正しいと思ったから
それが彼の理想だと知っていたから
それが彼が究極の王になることを知っていたから
自称策士は自重しない 第156話
「究極にして最凶、故に我は」
新たなる翼で駆けよ、ユウ・リードベール