相手にとって不足はない。むしろ、アリーシャにとって目の前の敵は千冬以来の強敵だと思っていた。
反則級の強さ。そんな相手と戦えるのは彼女にとってこれ以上の幸福はない………だがそれはまやかしだった。
「何なんサ……何でアンタはそんなに強いのサ!?」
スコールを破った人物。学園ではそもそもその名を知る者はほんの一握りであり、戦いっぷりからは「魔王」とも称されているが、だが訓練機複数相手に無双しただけでは強者とするにはまだまだという意見もあった。そんな人間のISは二次移行し、辞退しているとはいえ2代目ブリュンヒルデであるアリーシャを圧倒しているのである。
「強い? どこが? まだ本気出してないのに………だからアンタもさっさと本気出せよ」
見下すような視線。髪が銀白くなったことでよりそれが際立っており、ますますアリーシャを萎縮させる。
「ほ、本気を出してない……?」
「アンタは……いや、アンタらは俺を舐め過ぎだ。話にならない」
《バイル・ゲヴェール》を展開して黒い球体を生成。アリーシャは機動力を駆使して回避に専念するが、引き金を引いた途端にランダムに分離してアリーシャを追い、早く移動するので微々たるものだがダメージを食らった。
「舐めるな!」
分身を作り、わざと攻撃を食らって回避、悠夜に接近する。
そして風の剣で刻もうとした瞬間、後ろから突かれてバランスを崩す。
「なっ!?」
「分身を作り出せるのはアンタだけじゃない……終わりだ」
刺さっているのは《バイル・ゲヴェール》―――その銃剣部分に該当する斧が銃口の前に移動している。それが装甲を抉ると悠夜は引き金を引く。
「テンペスタ」の装甲が膨張し、爆発。圧倒的な勝利を飾った悠夜に対して、もう誰も難癖をつけることができなかった。
■■■
「そういえば、今も彼女はあなたの部屋にいるの?」
冬休み最終日、今日も生徒会長として働いていると奈々がそんなことを聞いてきた。
「彼女って、レインか? 今もいるけどな。一応、生徒としては通えることにはなったが、出席日数も足りてるし無理に行かなくていいとは言ってる」
現在、レインは「ダリル・ケイシー」としてIS学園に通っているが、諸事情によって代表候補生の権利をはく奪されている。まぁ、それを知っているのはごく一部のことで、言いふらさないように厳命しておいた。鈴音やラウラ、そして簪は大丈夫だが、他の奴らは納得していなかったのでオルコットとジアンは過去の事を追及し、篠ノ之は嫉妬による怒りでの備品破壊。織斑はこの前の暴走事件で「機体制御できないくせに他人を守るとかマジワロス」と言っておいた。
「ふーん」
何か言いたげな奈々。まぁ、後は最終テストに卒業式、そして入学式。後は卒業式前のクラス対抗戦が残っている。
ちなみにこのクラス対抗戦は1学期最初に行われたものとは違ってガチの対抗戦……つまり、情報などによって他クラスの代表の情報を洗い、より有利に戦いを進めるためのものだ。
「まぁそう怒るなよ。別に手を出しているわけじゃないんだし?」
「簪ちゃんから聞いたけど、あの人とキスしたとか?」
「……………それはだな。まぁ、必要だったわけで」
「何が必要なのよ! 何が!」
怒られているのにどうしても今の奈々が凄く可愛いと思ってしまうのは罪だろうか。
俺は思わず奈々を抱きしめると、腹部に思いっきり拳が入った。
「いっつつ……」
「それはそうと、面白い人が入学してくるわよ」
そう言って奈々は2枚の紙を差し出す。面白い人? 一体誰………えっと、マジで?
「……これ、ジアンの時みたいに偽装されたってわけじゃないよな?」
「残念ながら本物よ。後、簪ちゃんやラウラちゃんが正式にレヴェルの代表候補生になったわ」
「……たぶんこれも片方は代表候補生なんだろうな」
しっかし、よく十蔵さんが転校を許可したな。しかも3組って………しかもこの名前で。
「また波乱が起きそうだ」
ため息を吐いた俺は、密かに明日3組の教室に行くことを決めた。
予想通り、3組は騒がしくなった。だってこの時期に転校してきたこともそうだが、何よりも転校してきた人物があの有名な織斑千冬にそっくりだからである。
「レヴェル代表候補生の織斑マドカだ。専用機持ちなので、できれば今度のクラス対抗戦に出たいと考えているが、出場させてもらえないだろうか?」
実は彼女が襲撃者だってことは幸か不幸か誰も知らない。当初は「織斑千冬の妹だし、桂木悠夜が1組にいるから」と1組に編入することになったのだが、それだと唯一クラスに専用機持ちがいない3組がますます不憫になるのでこうして編入させたわけである。ましてや実力者だし、すぐに優勝候補として名が挙がるだろう。
(しっかし、随分と丸くなったな)
別の高校に転校したレイが言うには、かなり荒れていたらしい。それが以前の戦いで「白騎士」を倒したことで吹っ切れたようだ。横暴な姉とは違ってこうして頭を下げることはできるんだし。まさしく「他人の振り見て我が振り直せ」を体現しているようだ。
「えっと、もしかして織斑先生の妹……」
「じゃあ、織斑君の妹でもあるの!?」
「―――おい」
クラスメイトが悲鳴を上げる。丸くなったとはいえ、そこだけは譲れないみたいだな。
「確かに、私はあの2人と血の繋がりはあることは否定しない。だがな、戦闘以外はからっきしな教師や主夫なゴミと一緒にするな!」
「……マドカ、落ち着いて」
同じ転校生のティアちゃんが諫める。
「しかしだな……」
「我慢……して?」
俺は思わず顔を逸らす。ティアちゃんはミアと違って胸が小さい。そういうタイプの上目遣いは本当にキツいんだ。バレたらレイに殺される。
そしてマドカも「仕方ない」という風に殺気を静める。完全になくなったことを確認してから、ティアちゃんも自己紹介を始めた。
「ティア・ガンヘルドです。私は代表候補生ではありませんが、整備の勉強のために彼女と一緒に編入してきました。ちなみにマドカの機体は私がメイン技術者として開発したものです」
………とか言いながら、彼女は「仕狼」を持ち込んでいそうだけど、それに関しては黙っておこう。悪用しなければ問題ないんだ。
ちなみにこれは本当に一部の人しか知らないが、「仕狼」は戦闘装備はあれどメインは開発や情報分析ということだ。だから許可したけど、それを聞いた簪は「物凄く便利そう」と言っていた。
そんなこんなで2週間が経った。
その間、1年生は時間の合間を縫って各クラスの偵察などを行って戦力を分析、各々クラス代表を中心に各戦闘員の弱点などを把握、研究、作戦建立を行っていた。
「んで、鈴音が一番不人気なわけだが?」
「まぁ、そうでしょうね。アタシの武装って《龍砲》以外は目立ったものはないもん」
「そう悲観するなって。確かに《龍砲》以外に武装はないが、「燃費と安定性」は1番だし」
実はこれはメタルシリーズがいようがいまいが事実だ。俺たちのは完成されているが、ビーム系が多いので消費が激しい。……まぁ、十分戦えるから問題ないし、そのための回復機構なんだが。
「まぁまぁ、落ち着けよ」
「落ち着け、ねぇ。相手が簪なのに?」
「大丈夫、なんとかなるさ」
「いや、なんとかしないといけないのよ。ここ最近負け続きだし………」
そもそも、メタルシリーズが全部一般ISと違って反則級なんだけどな。それでも「黒鋼」に比べると他の2機はまだマシだ。
そして鈴音はやっぱり負けた。それでも、俺から見れば「荒鋼」の武器を一部破壊してシールドエネルギーも半分は減らしていたのでかなり立派なんだが。
だが所詮、生徒にとっては2組対4組の戦いは前哨戦に過ぎないだろう。
「よ、遊びに来たぞ」
「桂木悠夜か」
しっかし、この2週間放置していたが随分と変わったな。
「レイン・ミューゼルは元気か?」
「まぁな」
「で? どこまでやったんだ?」
本当、随分と変わったなこの子。
「まだキスしかしてねえよ」
「………あの男の言う通り、本当にヘタレなんだな」
「せめて「女の子を大事にする奴」だと言え!」
たまに性欲が暴走する時はあるし、否定しないけどさ! ……ところで、あの男とは一体誰のことだろう。心当たりが多すぎてわからない。
「にしても、随分と変わったISだな」
「話を逸らしたな」
「……お姉ちゃんともまだだって聞いた」
「そろそろマズいとは思うけどな。俺の精神しかり、アイツのボディしかり」
なにせ、今俺の家(というか艦?)には俺、ミア、ラウラ、レインとカオスな状態になっているのだ。その内1人はチッパイと言えど天然エロチック化しているから目のやり場に困る。ホント、困る。
「キスだけじゃ、そろそろ飽き足らないって言ってた」
「……生きていられるかなぁ?」
激務な仕事に夜の営み。本当に生きていられるか心配だ。
なにせ、ミアも敢えて2年生として編入させて生徒会副会長の椅子を与えたはいいがそれでも仕事の量がとてつもないのだ。以前はウザかったが、奈々が権限を振り回す理由がよくわかった。
「……マドカ、そろそろ時間」
「そうか。……では、発進するぞ!」
マドカがISを展開して脚部装甲をカタパルトに接続。射出される。ほとんど同時に「仕狼」が展開された。
「……許可はもらってる」
「大丈夫。ちゃんと承知済みだ」
俺もハイパーセンサーを起動して試合の様子を見ることにした。
「久しぶりだな、マドカ……っていうか廊下ですれ違ってるのに無視するなよ!」
「ハッ! 雑魚に振り向く馬鹿は貴様の周りにいる金魚の糞か目が腐ったゴミ以外いるわけがないだろ」
うわぁ。様になっている。というか2代目魔王とか言われてもおかしくはないくらいだ。
「ところでティアちゃん、マドカのISが変わっているみたいだけど……?」
「うん。「黒騎士」ってダサいってことになったから一度初期化した」
「……各国の技術者が聞いたら頭を抱えるだろうな」
ただでさえ、二次移行する機体は本当に少ない。それを初期化するなんて各国にしたら正気じゃないと言い張るほどだ。
「だから今の機体は、完全マドカ専用の「アニールヴァッフェ」。射撃をメインに置いた高機動型ISになってる」
「それは楽しみだな」
ぜひ、俺のライバルになってもらいたい。
掛け合いも控えめで試合が開始される。だが、実力者はすぐにわかった。
―――ガキンッ!!
《雪片弐型》が宙を舞い、地面に突き刺さる。
「へ?」
「何をぼさっとしている?」
マドカが蹴り上げて「白式」にダメージを負わす。脚部にはビームが展開されていた。さらにマドカは脚部装甲に設けられている大きな爪で「白式」に取りついて《フェンリル・ブロウ》を叩きつける。
「反応が遅い。M男風情が余韻に浸るな!!」
「あれ? 武装が戻ってる?」
「マドカからの要望。NEXT型だとエネルギー消耗率が激しいから、ノーマル型を使用している」
ティアちゃんにそう教えてもらい、納得した。
そこからはもう完全にマドカの独壇場。そもそも、2人の差はありすぎるのだ。以前の京都戦でマドカはかなり消耗していたという話だが、それはあくまで「白騎士」の相手をしていたから。つまり、織斑一夏を相手にしていたわけではない。それに元々、織斑兄……いや、弟はISをただのスポーツ程度しか捉えていないし、勝てる要素は皆無だ。
そしてしばらくして、流星の如く現れた女に織斑は敗北したのだった。……ちなみに弟の方である。
激しい戦い。そう言うしかなかった。
現在、簪とマドカが戦闘を行っているが、なんというか地獄である。
弾け合う熱線。交差する刃。撃ち落とし合うビット。もはや笑いしか出ない。バトルジャンキーとはまさにこのことだろう。
実は今日は少し遅めの学園見学も兼ねていたが、中学生は見事にドン引きである。………流石に殴り合いにまで発展していないが、お互いが殺気を持って殺し合っているので、グラウンドは荒れ放題だ。
「アタシ、負けて良かったって気がするのよ。思っちゃいけないのに……」
今にも泣きそうになる鈴音。この子もかなりの武闘派だが、今はそうでもないのではないかと思っている。
結局、僅差……本当に僅差でマドカが勝利を掴んだ。優勝旗を渡した時に凄く「褒めてオーラ」が見えた気がした……数日後に外に出れるように手配して、レイに近況を伝えておこう。
………どこかラウラに通じるものがある。彼女らは将来仲良くなりそうだ。
卒業式。それを迎えた俺は壇上の前で送辞を担当していた。
だが、内容はこれと言って特にない。何を言えばわからなかったから、適当に考えて話しただけだ。基本的に3年生とはあまり面識がないからな。修正は奈々に任せ、それを話す。そして記念品贈呈をした際、俺を見た3年生が少し怯えていたんだが、そいつは確かレインと同じクラスだったような……?
「卒業おめでとうございます」
「あ…ありがとうございます。魔王様」
見れば全体的に怯えている。唯一レインと虚さんだけは笑っていた。おいレイン、テメェ後で詳細教えろや。
「………やっぱ、100年近く放置していれば荒れる、か」
春休み。俺たちは改造されたプライベートジェットで荒れ果てた神樹国に訪れていた。メンバーは簪、朱音、レイン、ミア。奈々はIS学園に残っていざという時のために待機してもらっている。
4人はそれぞれの位置に立つ。そして俺は巨大樹木の前に立ち、触れた。
「―――汝は、我に何を望む?」
「この土地の復活………いや、敢えてこう言おうか………かつて栄えた神樹国を以前よりも栄えさせるためだ」
核爆発を受け、一度消えたはずの意識は復活しているようだ。じゃないと話さないからな。……もしかして、デ○の樹サマみたいな感じの継承か?
「リードベールの末裔よ。貴様は心は闇に染まっている。貴様のような黒い心に染まりし者の望みを叶えることは不可能だ」
「そうか。じゃあ良いや」
「何?」
「そもそも俺、別にこの国が復活しようがしまいがどうだって良いんだよね。土地があって、かなりの権力を得て、国民を自由にできるならどうでも―――俺はその土地で、すべての技術力を使って宇宙に進出する。今はもう世界にはISという存在があるし、篠ノ之束という世界最高の天才も暴力で縛って言うことを聞かせることができるし、技術には困らない」
神、ということなら偽って無駄だろう。だから俺は最初から復活なんて望まなかった。むしろ、どうでもいい。
「土地が欲しいのは俺じゃない。だけど、真に世界の平和を、救世主になりたい奴が土地を望んだから、唯一復活できる条件を揃えた俺が来た。そして俺は、漫画やアニメのように宇宙に進出する。いずれ地球は滅ぶって言われてるけど、それならさっさと宇宙に暮らせるだけの基盤を作って地球が崩壊することを待って、再生を願ってやるさ」
「………そして、かつてと同じように技術を発展させるのか?」
「さぁ? むしろ停滞させるんじゃね? 俺が目指す技術は既に果たした。戦争したいなら勝手にやれ主義だからな。俺にとって、雑魚の戦争はただの無駄な消費でしかない。下らない茶番。それだけだ」
強者の余裕。そう取られるだろうと思ったが、俺の予想に反してその樹は笑った。
「実に面白い。良かろう。この国を蘇らせよう」
「案外、話がわかるじゃねえか」
「貴様の心は闇に染まっているが、純粋である。我はその純粋さが気に入った」
………いや、むしろドス黒いと思っているんだが? だって俺策士だし。
「そっか。じゃあ、俺たちはこの汚い地球の寿命をできるだけ伸ばすことを約束してやるよ」
「………面白い末裔じゃな」
「そっちこそ。まさか人語を話すとは思わなかった」
すると枝がこっちに来る。どういうことかと考えていたら樹が「握手だ」と言った。
「そっか。これからよろしくな、神樹サマ」
その枝を軽く握ると、急に土地が緑色に光り始める。4人はその光景に見とれている。それは俺も同じだった。
次回予告
時は止まらない。人がどのように過ごしても最後以外は平等に進むものである。
同じ時を感じ、人は大人になっていく。
自称策士は自重しない 最終話
「そして
少年は、そして王になる。