あれから数日が経ち、ようやく6月。もう俺がここにきて2か月も経過した。それでも学園内でまともに話しかけられるのは布仏と先輩、そして更識だけである。
昔なら俺はガキ大将的立ち位置にいたりしたと思うが、それがどういうことか中学ではまともに関わることがなく、高校からはほとんどボッチだった記憶しかない。
(何だろう。涙が出てきそうだ)
まぁでも、女尊男卑思考を持つ女と仲良くなったところで俺にはメリットがないし、邪魔なだけだ。
と最近中二的思考が出てきている気がする。何とかして改善せねば。
「あ、おはよー」
教室に入ると俺以外にも誰が入ってきたのか、たまたま挨拶が飛んできた。しかし周りには誰もいないので、俺が入る後ろからではなく前から入ったのだろう。今日は布仏もいないし、俺に挨拶が飛んでくることはない。
そう思いながら最後列の左端という、風と日差しがコラボして、実のところ丁度いい席に向かうと、肩を叩かれた。
「何だお前。今日は珍しく早く来たんだな。それとわざわざ肩を叩くな。放っておいて………」
掴んで置かれた手を放そうとすると、布仏の手にしては大きいと思ったので振り向くと、そこには布仏ではなく一組の実質的なクラス委員と言っても過言ではない鷹なんとかさんがいた。
「……………あれ?」
布仏はどちらかというと驚かすタイプだ。なので傍から聞いたらまずとある団員たちは覆面を被り、死神を思わせる姿で襲ってくるに違いない飛びついてくる。
だから今度もその予備動作かと思って言ったのだが、今俺が触れているのは、話したこともないクラスメイトだ。
そう認識してからの俺の行動は自分で言うのも何だが早かった。素早くそいつから離れ、すぐに席についてバリケードを張る。
(無理無理無理無理無理無理!!!)
昔はそうでもなかったが、今では初対面の異性だとよほど年齢差がない限り人見知りしてしまう。ましてや今回はそれなりのレベルの可愛さを持つ女子だ。平静でいられるわけがない。
(………仕返しとか、ないよな)
って、落ち着けよ。今はISがあるんだ。程度の低いことでビビんなよ。
「あ、あの、なんかごめん」
鷹なんとかさんがこっちに来てそんなことを言ってる。それを俺は目を細くして「警戒してますよ」と知らせてやるが、どういうことか鷹なんとかさんは話を続けた。
「私たちはさ、今日から始まるISスーツを選ぶ目安となると思って、桂木君が着ているISスーツがどんなものか聞きたかったんだけど」
「…………とか言って、本当は因縁つけて俺を攻撃しに来たんだろ」
別に俺はここに友達を作りに来たわけではないから、周りがどれだけ傷つこうがなんてどうでもいいことだ。後は勝手にどこか行くなり暴力を振るうなりしたら、それ相応のことをするまで―――
と思ったが、何故か鷹なんとかさんは俺の予想に反したことをした。
「別にそんなことをするつもりはないわ。た、確かに桂木君に対する風当たりは強いのは否定できないけど」
「そうだよな。初日からどこかのバカ共のせいで決闘騒ぎに巻き込まれるし、その一週間後にボコられるし、専用機を支給されたら文句を言われるし、あらぬ噂が出たと思ったら誰も人の話を聞かないし」
ホント、何度ぶち切れそうになったことやら。切れたところで勝てるか勝てないかで言えば、間違いなく負けるが。
俺の言葉で段々と悲しくなってきたのか、鷹なんとかさんが同情の眼差しで俺を見てきた。
すると俺たちの会話に興味を持ったのか、ほかにも見覚えがある奴らがこっちに集まってくる。
「で、ISスーツだっけ。悪いけど詳しいことは俺にもわからん」
「「「え?」」」
質問を思い出したので返答すると、予想通りの返事が返ってきた。
だがここで正直なことを言うと、これから先、平穏な学園生活(を保証されているかはともかく)から遠く離れそうな予感がしたので誤魔化すことにした。
「なにやら試作品ってことらしいからな。そもそも男用のISスーツなんてこれから先必要になるかどうかって話だから、今は長袖のパーカーとかのサブ系に力を入れる予定らしい」
「へ、へぇ……」
だから俺は最初から長袖を普通に着ていたわけだ。
まぁ、実際は朱音ちゃんが(会社の命令とはいえ)俺のために作ってくれたもので、先日新バージョンとして半袖用のパーカーを作ってくれた。渡すときにモジモジしていたが、それはかなり刺激が強かったと言っておく。
「諸君、おはよう」
「お、おはようございます!」
女帝が君臨したからか、クラスメイトがすぐに自分の席に座っていく。あれだけの支配力、実は内心あこがれていたりする。
「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使ってもらうので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で出るか、それも忘れた場合は……下着で構わんだろう」
そんなことをした場合、俺は回れ右をして授業をボイコットさせてもらおう。
ちなみにこの学校の水着は最近見かけるカッコいいタイプの水着ではなく、今でも水系の萌えものとして第一線に出されるスクール水着だ。旧型かどうかはさすがにわからないが、布仏や更識に聞くのは個人的に敗北する気がしてできない。
そして体操服だが、こちらは何故かブルマーだ。運動部で採用されている「ハードサポート・ブルマー」か「クラッシックスタイル・ブルマー」かの指定はないが、男にしてみればどちらも目に毒である。偏差値低めで性的興奮で強くなる主人公が通う高校でさえ他にスパッツかハーフパンツかを選べるというのに。
(……男に媚びている気がしなくもない)
考えてみればほとんどの経営者は男だから、寄付を集めるためにそうしているかもしれない。なんてのは俺の思い込みか。そして俺と織斑は普通に短パンだ。織斑は白だが、俺は黒である。
「では山田先生、ホームルームを」
「は、はいっ」
というか、珍しく今日は早くないか? 普通なら5分前くらいだが、今日は10分前だ。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」
嫌な予感がしたのですぐに耳を塞ぐ。
「「「———ええええええッ!!!?」」」
普通なら別々に転校させるもんだろ。それがどうして二名も? というか更識から何も聞いてないんだが!?
などと考えていると、ドアが開いてそこから二人の転校がやってきた。
一人は金髪で後ろに髪を結んでおり、何故か男子用と思われる制服を着ている。そしてロリ系でもう一人は腰まである銀色の髪は手入れしていないのか広がっており、何故か黒い眼帯をしていた。願わくば、どこかの大総統みたいに左目にウロボロスの紋章がされていないことを願おう。ISで戦っても勝ち目があるかわからない。むしろ互角じゃね?
っていうか、まるでどこかのタイトルだな。ホント、どうして大人がすると軽蔑されるんだろうね。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
脳裏にものすごい髪をしたおっさんが大勢の人から称えられる姿が過りました。だが何故女に「シャルル」?
「お、男……?」
誰かがそう呟くように言うと、聞こえたのかその自称男は言った。
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて本国より転入を―――」
「嘘だ!!」と叫ぼうとしたが、それよりも早く周りが叫んだ……叫んだで合ってると思う。
「きゃあああああああッ!!!」
ここはいつからアイドルのコンサート会場になったのやら。もうそろそろ他のクラスから苦情が来てもいいと思う。俺のせいしたら殴るけど。
「男子! 三人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「桂木とは違って美形! 守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれて良かった~~~~!!」
さりげなく俺がディスった奴は「地獄行ノート」に記入しておこう。ちなみにこのノートの一番上には織斑とオルコットの名前が書かれている。
「あー、騒ぐな。静かにしろ」
と織斑先生が言うと静まり始めたが、それでも一部の女子たちは止まらないので山田先生が続けて注意をする。
「み、みなさんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」
そう。もう一人のホムン○ルスらしき奴の自己紹介が終わっていない。もう一人の方も色々気になるが、どちらかと言えば俺は銀髪の方が気になっていた。ネタ的な意味も含めてだが、何よりもその髪の毛が気になる。
(手入れしたい)
女の子である以上、髪はしっかりと手入れするべきだと思う。だからその髪を手入れさせてくれ!
などとは思っているが、何故かその女の子は何も話さなかった。
「………挨拶をしろ、ボーデヴィッヒ」
見かねた織斑先生が銀髪にそういうと、「ボーデヴィッヒ」と呼ばれた少女はたたずまいを直して、
「はい、教官」
俺は以前から織斑先生は軍隊の教官の方が似合うんじゃないかと思っていたが、まさか以前にしていたとは思わなかった。……いや、それをしていてもおかしくはないか。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは「織斑先生」と呼べ」
「了解しました」
明らかに軍出身と思われる奴が一般生徒と言うのかはさておき、このやり取りで俺の彼女に対する評価はがた落ちである。ある意味チョロいな、俺。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
余計なことを考えていると、唐突に自己紹介が始めるが、彼女はそれ以上何も話さない。
「あ、あの、以上……ですか?」
「以上だ」
もしかして軍人はあまり自分のことを話さないのだろうか。まぁあまり自分のことを紹介したところで俺みたいに友達を作ることが目的でない「貴様が―――」なら問題ないだろう。
———バシンッ!!
どうやら織斑が引っ叩かれたようだ。これはブラコンの姉が黙って……いるだと?!
予想外のことで呆然とし始めている。一体どうした織斑千冬! ブラコンの名が泣くぞ!
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
そんなこと言われても二人が姉弟なのは間違いないだろ。姉は暴君で弟は自分がしたことに気付いていないアホ。大体、自分と相手の戦力差がわからないとか本当にありえないことだ。……いくら代表候補生を知らなくても、ある程度は予想できるだろうに。
「いきなり何しやがる!」
「ふん………」
殴られたことに気付いた織斑が抗議するが、ボーデヴィッヒは一切無視してそのまま自分の席があるであろう場所に移動してきたが、
「何故私の席がないんだ!?」
「あー、すまん。二人の机はIS実習中に運ばれる予定だ。これから二組との合同でのIS模擬訓練だからな。桂木の席にでも置いておけ」
「了解しました」
そしてボーデヴィッヒは何も言わずに俺の机に荷物を置いた。
「ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。では解散!」
何も言わずにボーデヴィッヒは着替えようとするので、財布など必要なものを一通り持って俺は廊下を出て更衣室へと向かおうとすると、織斑先生が俺を呼び止めた。
「織斑、桂木。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」
……これはチャンスかもしれないな。
デュノアが男かどうか、正直怪しいからな。今の内に正体を暴いておいた方がいい。
挨拶をしようとするデュノアを遮って先に言った。
「デュノア、挨拶は後でできる。今すぐ着替えと貴重品を持ってすぐに準備しろ。10秒だけ待ってやる」
「う、うん」
言われてデュノアは学生用鞄からスマートフォンと財布、筆記用具とメモ帳を出して着替え用の鞄に入れ、織斑に続く形で教室から出てきた。
「とりあえず男子は開いているアリーナの更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれ」
「う、うん」
織斑はデュノアの手を取って俺の後ろを走りながらデュノアにそう説明する。やっぱりこいつ、ホモじゃね?
「トイレか?」
「トイ……ち、違うよ!」
デリカシーないな、相変わらず。
呆れていると横から予想通りの一団が現れる。
「ああっ! 転校生発見!」
「しかも織斑君と一緒!」
「くそ! 桂木邪魔よ! 退きなさい!」
その一団に向かって俺は野球場でよく見るジェット風船を膨らませてその一団に向かって飛ばす。するとあまりの威力に驚いた一団の動きは鈍る。
その隙に駆け抜けていると、後ろで走りながら織斑は雑談を始めた。
「それにしても珍しいな。まさか悠夜が俺と一緒にいるなんて」
「え? いつも一緒じゃないの?」
「アホと一緒にいたらアホが移るからな」
「俺はアホじゃねえ!」
「戦力差もわからない奴がよくそんなことを言えたな」
するとまた右から別の奴らが現れた。タイミングよく左が目的地なので俺は左に移動。
「こっちだ!」
そしてあえて二人を呼んでこっちに向かわせて、織斑とデュノアを餌に女たちも呼び寄せた。
「ちょっと待て! この先は行き止まり―――」
そう。織斑の言う通り行き止まりだ。だがそれがどうしたというんだ。あるのは窓だけ。そしてここは三階だ。
俺はいち早くたどり着き、窓を開け、そのまま窓から下へと落ちた。
「「ええええええええッ!!?」」
上から二人の声が聞こえる。着地した俺は上にいる織斑とデュノアに声をかけた。
「どうしたお前ら! 早く来ないと遅れるぞ!」
内心ゲスく笑いながらそう声をかける。おそらく二人はこの状況に何とも言えなくなっているだろう。
本当は近道としてちょうどいいポジションとして採用していたが、場所が場所だっただけに一度きりの策として採用した。流石にデュノアには悪いことをしたが、リア充を潰したと思えばいいだけだ。
と思ったら金髪が顔を出し、そのまま体を前に一回転して落下した。そしてギリギリで滞空し、着地する。
「思ったより簡単だね」
しかしだな、デュノア。本来ISは許可された敷地以外での使用は緊急時を除いて使用禁止なんだがな。
苦笑いをしていると、上から織斑の声が聞こえてきた。
「いや、ちょ、助けてくれ!!」
「大丈夫だ。ちょっと足が痺れる程度で大したダメージはない」
まぁ、俺みたいな経験を織斑はしていないから無理だろうが。いや、余計なことを言って篠ノ之やオルコットに追いかけまわされているわけだからそれなりには鍛えられているだろう。大体、IS操縦者なんだからそれくらいの苦難は乗り越えてもらわねばならない。
ま、本音は「ざまぁ」ただ一言だが。
「行くぞデュノア。アレに構っていたら時間に遅れる」
「え? でも―――」
優しいのか、織斑を待ってやろうという気持ちは素直に感心するが、ここは曲げた事実を述べてやろう。
「織斑を待って共倒れか、織斑を見捨てて織斑だけを殺すか。ちなみに俺は何があろうと後者を選ぶ」
後ろで窓枠に足をかけて今にも落ちそうな織斑を一瞥し、共犯にされたらいやなので俺はすぐにそこから離脱する。
更衣室に着くともちろんのことだが誰もおらず、近くのロッカーに制服を入れてすぐに出ていくと織斑たちとばったり会った。
「悠夜! どうして助けてくれなかったんだよ!?」
「さっさと降りないお前が悪い」
そう切り捨てて俺は先にアリーナから出て第二グラウンドに向かう。すると既に女子のほとんどが整列しており、 俺はかなり遅い方だ。いくらデュノアがいたとはいえ、要反省だな。……まぁ、日頃は更衣室ではなく下駄箱に畳んで入れているが。
「今日は珍しく遅いね~」
俺にいち早く気付いた布仏はそう言いながら俺の方へと歩いてくる。俺は返事をせずに布仏の頭を撫でていると、どういうことか目を細めるのでまるで大型な犬の頭でも撫でているようだ。
するとチャイムが鳴り、全員が整列し終わるとまだ来ないことに疑問を持ってか、織斑先生は俺に質問してきた。
「桂木、織斑とデュノアはどうした? 貴様にもデュノアの面倒を見るように言ってあるはずだが」
「わざわざ二人も面倒を見る必要はないでしょう? そもそも関わることなんてそうないでしょうし、そこはクラス代表に任せましたよ」
そう答えると織斑とデュノアがようやくやってきて、織斑先生が二人を殴って整列させた。
ようやくタイトル回収きたか?