翌日。いつもより遅く寝ると当然ながら起床時間もずれてしまう。
いつもよりもかなり遅めに起きた俺がすぐ認識したのは、温もりだった。
「ん~ゆうや~ん」
「………」
どうやら寝ぼけているようだ。さっきから俺の背中に抱き着いてほっぺをスリスリしてくる。
当然ながら男は朝にアレが覚醒してしまうわけで、甘っぽいかつ可愛いボイスに瞬時に立ってしまった。
(……今、何時だ?)
だがそれも考えてみればいつものことだし、気にせずに時間を確認しようとしたら視界に水色の髪が入っていた。
「………」
たぶんこれは幸せなんだ。可愛い女の子にサンドイッチされているから幸せなんだ。だけどこういうのは、できることならISを動かす前に味わいたかったです。
(…そういえば、リゼットは人目を憚らずに接近してきたな)
たった半年……もなかったな。大体5か月ぐらいだったが、遠慮なく腕を組んでくるわ、ほっぺをスリスリしてくるわ―――完全にアウトだ。うん。
ちなみにリゼットは7月末の終業式後に向こうの学校に戻るということだったので、大体8月の最初辺りで帰るはずだったのだが、5月の世界大会後に心を開いてくれたのか俺と離れるのが嫌だったらしく8月下旬ぐらいまで無理矢理写真を撮らされた記憶がある。
とりあえずまだ朝だろうしニュース番組ならば画面の左上に時間も表示されているから確認しようとテレビを点けると、とんでもないニュースが流れていた。
【令嬢の激白! デュノア社社長は愛人を外に作っていた】
ニュースでは男の名物司会者がそれを取り上げていて、デュノア社の社長が外で愛人を作っていたことやデュノアが男と言われているが本当は女であることなどが色々と言われている。
大抵こういうのは動画サイトにアップされているのでパソコンを使うために起き上がろうとすると、
「ミニタイプなら」
「ありがとう。でもあまり他人の手で触れてほしくないな」
「……ごめんなさい」
シュンと悲しむ簪の顔が可愛すぎて困る。っとと、今はそれどころじゃないな。
急いで動画サイト「よ! つーぶ」に接続して「リゼット・デュノア 激白」と入力すると、いくつかの放送局のチャンネルから日本語処理を行われているであろうページを開く。
『みなさん初めまして。わたくしは現在IS業界第3位のシェアを持つデュノア社の社長「シルヴァン・デュノア」の娘「リゼット・デュノア」です。本日は夜10時と言った遅い時間でのご来訪、まことにありがとうございます』
第一印象は間違いなく「高飛車そう」というイメージを持つであろうリゼットが丁寧に話す様は未だに慣れない。
『リゼット・デュノアさん。今日はお父上の裏の顔をさらけ出す、ということをお聞きしたのですが、本当にそんなことをしてよろしいのでしょうか?』
『というと?』
『デュノア社社長――—シルヴァン・デュノア氏の裏を話すということは、デュノア社は以後IS業界では大きな顔をできないのでは?』
記者の一人(おそらくサクラだろう)がリゼットに尋ねると、
『確かに。今後デュノア社は大きな顔―――いえ、現在のような状況になることはないでしょう。精々が軌道に乗った中小企業レベルへと落とされ、最悪他社に吸収されることも遠い話ではないでしょう。ですが、我が父は重大な過ちを犯し、そして母はそれを利用しさらなる罪を犯しました。そしてそれはもう既に世に出てしまっている以上、発表するほかないと私は判断したのです』
臆することなくそう言ったリゼット。その頃、隣では本音がのそのそと体勢を変えていた。
『罪、とはどのようなことをされたのでしょう?』
今度は別の記者が尋ねると、
『それを話す前に、まず皆さまには言っておかねばならないことがあります。まず今回の話は長くなります。つまり退出するならば今だけです』
だが記者は誰一人として出ることはない。それはあらかじめ予想していたのか、リゼットは笑顔を見せて指を鳴らした。
すると黒服たちがカギを閉め、出入り口を固める。
『すみませんが、あなたたちを拘束させていただきます。もっとも私はあなたちをどうこうするつもりはありません。これは一つのけじめとして、そして大事なことなので拘束させてもらうだけです。あなたたちには何一つ添削せず、わたくしが話したことをすべてを記事にしてもらいたいを思いましたので』
どうやらリぜットは本気で両親を捨てる気のようだ。
特に立ち上がる音もしないのでおそらく記者たちは聞く予定だろう。辺りを見回したと思われるリゼットはゆっくり話し始めた。
『わたくしの父———シルヴァン・デュノアは大学に通っている間、一人の女性と出会いました。しかしそれはわたくしの母ではなく、別の女性です。その女性とは遊びのようで、卒業前に捨てました』
本来ならば様々な思惑があっただろうが、リゼットははっきりとそう言い切った。
『その後、母であるアネットと政略結婚をしました。母の家は当時フランス内の一番の企業家で、たくさんの金を持っていましたからおそらくはそれ狙いと思われます。当然、母はそれに気付いていました。ですがISの登場によっていち早くそれを取り入れた結果、みなさんも知っている通りデュノア社は一代で大企業の仲間入りを果たしたと言っても過言ではないほどの業績を叩き出しました』
俺も簪も、そしていつの間にか目を起こした本音もリゼットの言葉に注目する。
『ですが、家庭環境は決していいものとは言えませんでした。ISの登場によってそれをより多く取り入れた各国は自然と「女性優遇制度」が取り入れられました。この中にいる男性の方々には身に覚えがあるでしょう。母もその思考に切り替わり、私を生んだ母は私にも同じ思考を植え付けるように教育されたのです』
だからボッチになって俺が一番苦労したんだけどね。しかも最初は他の女子と仲良くできていたけど本性を出したから一気に離れ、結果的に俺のところに来るようになって、ゴールデンウィーク中の大会にすらついてきたのは本当に驚いた。
『ですが、今のあなたにはそのような態度がないと見えますが?』
今まで尋ねた記者とは違う別の記者がそう質問すると、
『はい。わたくしは一時期日本に留学したのですが、そこで私のお世話係の男子生徒とよく話すようになり、自分が愚かな考えを持っていたことを身を持って知りました』
『その男子生徒とはお付き合いをなされている、ということでしょうか?』
『いいえ。そのような関係ではありません。わたくしが一方的に尊敬の念を抱いている、という言葉が正しいのでしょう。その方は最初わたくしと会話することさえ煩わしそうでしたが、よく世話を焼いていただきました。幸い、その方は語学をマスターする趣味をお持ちのようでして、フランス語を話せたこともあってお互いの言語を知るために護衛付きですがわたくしの部屋でよく勉強をする間柄でしたわ』
だってそれ拒否権なかったじゃねえか! 朝早くに黒服と一緒に来て「勉強しますので今すぐ準備しなさい!」とか言うから義妹が呆然としていたからな。しかも最悪なことに、友達がいないからって理由で俺まで女子と体育をさせやがって! プールは別なのは幸いだったけど、その時からやたらと視線を感じていた。
『話を戻させていただきますわね。わたくしは留学期間を終えて日本から帰国した後、私と歳が変わらない女の方が家にやってきたのです』
唐突の爆弾発言に会場は騒然とした。
『その方の扱いはわたくしから見てもとても良いものではありませんでした。わたくしとは違い学校にも行かせてもらえず、家庭教師を雇っての勉学を教えてはいたようですが、それ以外は社の非公式のテストパイロットとして通常の賃金の半分の値で働かされていたのです』
…………なるほどね。
ふと、昨日のことを思い出す。リゼットの母親が学校を襲撃した場所の近くはデュノアを助けるために説得する場所として指定したところだったのだ。ということは間違いなく、この会見はデュノアの犯罪を見逃すための材料だろう。
『それも最近わかったことであり、いずれ向かうIS学園に入学するためにわたくしは勉強をしておりました。そしてつい先日、二人の男性IS操縦者が現れたことでその女性もある目的のためにIS学園に入学することが決まり、今も通っています。その人物の名は―――シャルル・デュノア』
核爆弾でも投下したような錯覚を覚えた。画面の向こうの場内が騒がしくなった。
『シャルル・デュノアは、確か3人目の男性IS操縦者として現れた―――』
『はい。ですが彼は女です。男の姿をすれば日本で現れた二人の男性のデータと専用機のデータをそれぞれ手に入れることができる―――そう考えた両親は社の上層部と政府の一部と結託し、彼女を男として入学させました』
途端に場内では矢継ぎ早にリゼットに問い始める。
『落ち着いてください。まだ話は終わっていません』
だがそれでも記者たちの熱は冷めず、しまいにはリゼットに対して罵倒を飛ばし始める。
『お前たちはスパイを送ったんだろう!』
『フランスの恥さらしが!!』
間違いなく切れるレベルのことを言われたが、リゼットは平然としていた。それどころか、どこか見下している雰囲気を見せている。
『実はこの会談を設けるに当たって、一つある処置を行わせていただきました。あなた方の家族を調べ上げ、全員をいつでも殺せるよう準備させていただいています』
一瞬だった。一瞬で会場を黙らせた彼女は笑顔を見せる。
『まぁ、ここで言ったとしても信じられないでしょう。では先程、わたくしに対して勝手な憶測で発言をした方の家族には死んでいただくとしましょう』
すると場内に着信音が鳴り響く。リゼットのものらしく、電話に出た彼女はすぐに「ごくろうさま」と言って電話を切った。
『……そ、そんなの………騙されないぞ!』
罵倒した記者の一人がそう言って電話をかけるが、顔を青くしたことからおそらくは最悪な展開になっているのだろう。その記者は出入り口に向かうが、黒服が止めた。
『出せよ! 出してくれよ! 家族が電話に出ないんだ! 安否を確かめさせてくれよ!』
悲痛に泣き叫ぶその記者に対し、黒服は無情に答える。
『お嬢様から誰一人として出さないようにと言われていますので』
『なんでだよ!? 家族が心配なんだ! 出せよ!!』
『出さないようにと言われています』
誰一人として一言も発することがなかったが、リゼットだけはその様子を笑ってみていた。
『ふざけんなよ! いいから出せ!』
『ご安心を。先程のは冗談です』
『………は?』
『ありがとうございます。あなたはデモンストレーションとしてとても良い働きをしてくれました』
途端に黒服たちは笑い始めるが、その記者だけは怒り始める。
『ふざけるな! いいから出せ!』
『何でしたら電話してはいかがでしょう? 一時的に電波障害を起こしましたが、今は正常に作動します』
すると記者は電話をすると今度は繋がったようで、ホッとしていた。
やがて最初に質問した記者が挙手し、リゼットに尋ねる。
『どうしてこのようなことを? 明らかにこれは犯罪でしょう?』
『実はこれも話に関係しているのです。まず初めにわたくしは自分の父が学生時代に付き合っていた女性を捨てたことは知らせましたよね? 実はその方には父との子供を既に孕んでいました』
おかしいな。リゼットの口から「最初にあからさまな伏線を張っていましたが気付かなかったのですか?」と言っている風に聞こえる。
『やがてその方はお亡くなりになられました。少なくとも、公式上ではそうなっています』
『……公式上では、とは……まさか生きていると?』
『はい。その方は生きています。交通事故で死んだことになっていますが、その交通事故は母の手下が起こし、あえて証拠が残らないように車を海に落としたのでしょう。発狂し、発作を起こして暴れますが、現在は風当たりの良い過ごしやすい場所にある介護施設でメンタルケアを受けております。彼女やほかの方の安静のため、取材などは一切禁止とさせております。ご協力ください』
たぶんこれも幻聴だろうな。「興味本位で近づいたら翌日死体となっている可能性もあるから止めておけよ?」って聞こえるのも幻聴だろう。
『では、それほどの罪を犯した彼らは今も平穏無事に過ごしているのですか?』
『彼らに関してはもうそれぞれ牢屋に入れられています。父はフランスで、そして母は日本で捕まりました』
『日本で!?』
『はい。どういう経緯かは知りませんがつい先程逮捕の知らせを受けました。遅かれ早かれ同じ結果となっているので何ら問題ありません。近日中にこちらに送られてくるようですが、その時にインタビューしてあげてはどうでしょう? 「哀れなデュノア夫人。無様に逮捕される」という題で』
クスクスと笑うリゼットはとても親のことを思っている風には見えない。本当にアイツ、フランスで何かあったのか?
『では、今後デュノア社は他社に買収される形となるのでしょうか? それと、今後現在IS学園にいるスパイはどういう処遇に?』
『デュノア社に関してはまだ何とも言えない状況です。そして義姉は今後もフランスの代表候補生として活動を続けてもらうことになっています』
『ですが、彼女はスパイなのでしょう?』
『はい。ですがそれはあくまでもデュノア社としてではなく、わたくしたちのスパイとしてです』
途端に会場が湧いた。本当に一体どういうことだろうか。
『確かに彼女はシルヴァン・デュノアとアネット・デュノアに用意されたスパイでもありました。ですがそれはあくまでも「そういうフリ」をして行ったというだけで、本当は我々救済側のスパイだったのです』
『……待ってください。それは一体どういうことなのでしょう?』
『彼女は母を人質に取られたことで半ば無理矢理スパイをさせられた状態だったのですが、わたくしにだけは愚痴をこぼしてくれました。助けてほしいと、母を救ってくれと。そしてわたくしはフランス国内のISに関しては最高権力を握るクロヴィス・ジアンに救援を求めました。幸い、義姉は言葉で日記を残していたのでそれが証拠となりましたの』
そう言って彼女はよく見かけるマイクレコーダーを見せつける。
『で、では、今IS学園にいるシャルル・デュノアは―――』
『現在、IS委員会が彼女の身の潔白を証明をしていることでしょう。何せ彼女はIS学園に行ってからというもの、まともなデータを送っては来なかったのですから』
まぁ、送れはしないだろうな。
デュノアには常時更識から派遣された監視役がいたし、本人も織斑に話してからというもの俺が知る限りそんな素振りもなかったしな。
しかしいいのかリゼット。これ、所々違和感があるだろうに。
(ま、今年15歳の少女発表にしては上出来だとは思うだろうけどな)
実際はでっち上げだしな、とか思って俺は動画を止める。
ともかく今は登校の準備をしないといけないし、この辺りにしておくか。
■■■
一方、何も聞かされていなかったシャルルはそんな会見が行われていると知って冷や汗をかいていた。
「……あの、僕があの子に助けを求めた風になっているんですけど……」
「だが、君はこれで悪党を倒したヒーローになれる。アメリカならば絶賛されるだろう」
クロヴィスの言葉に「そ、そうかもしれないですけど………」と返すシャルル。当然ながら、彼女はリゼットに助けを求めた覚えも、証拠を残した記憶も、言葉で日記を残した覚えもない。すべてがリゼットのでっち上げである。
「先程、IS委員会やフランス政府からも君の待遇に関しての通知が来た。君はこのままフランスの代表候補生として活動を許可された。学年別トーナメントで決勝に残ったこと、ドイツの代表候補生を織斑一夏とのコンビネーションで倒したことが評価されたそうだ」
「………」
複雑な思いを抱きつつ、シャルルはただ頷く。
「ともかく君はこれからも代表候補生として活動してくれればいいそうだ。ただ君はリゼット君が用意したレールを歩けばいい」
「………私は」
「まぁ、恋愛ぐらいは別に構わんだろう。だが、あくまでも誠意ある恋愛を、だぞ」
「わかりました」
言われたシャルルは笑顔を見せる。クロヴィスはひそかにその笑顔を隠しカメラで撮影するのだった。
ということでシャルル改めシャルロットは無事、フランス代表候補生として生き残ることができました。理由としては大丈夫ですよね? ですよね? 協力しているし、母親を人質に取られているし、大丈夫ですよね?
次回で第2章、終了予定です。