作戦会議の後、俺は十蔵さんに直接連絡を取っていた。
「おはようございます、十蔵さん」
『おやおや、こんな時に電話とは随分と悠長ですね』
「すみません。即急に許可が欲しい機能がありますので」
そうじゃなかったら数少ない残りの自由時間は機体の調整に充てている。
『それで、一体何の………いえ、パッケージとあのシステムの使用許可ですね? 良いでしょう。今回は異常事態なので許可します。存分に使ってください。最悪の場合、パッケージが損傷、または破壊されても責任は問いません。本来ならばあれらはこういう時のために開発したものですから』
「ありがとうございます。では、失礼します」
そう言って通信を切り、俺は作業に戻るろうとすると、
「———今の電話は朱音かい?」
驚いた俺はそっちの方を見る。そこには何故か晴美さんがいて、思わず自分の頬をつねったが夢ではないようだ。
「いえ。十蔵さん………お父上です」
「いやいや、別にそんな呼び方をしなくても………。ならばこの作戦が終わったら朱音に連絡してやれ。昨日の夜、君から電話が来ないからってこっちに電話が来たんだ」
………いや、だからって俺に押し付けないで下さいよ。
それをなんとか飲み込んだ俺は、作業に戻るために挨拶をする。
「では、俺はこれで―――」
だが何故か晴美さんは俺の腕を掴む。
「えっと、何ですか……?」
いや、別にこの状況は晴美さんの美しさも相まってありがたいんだが、晴美さんには夫がいる。できれば控えてもらいたい。
「………絶対に帰ってくるんだぞ、朱音のために」
「はい」
返事をした俺はわけがわからないこともあって思わずそこから離脱した。
(やっぱり晴美さんは寂しいのだろうか?)
夫がいないことは今の世の中では結構良い事らしいが、それはあくまでもちょっとした異常者たちの思考だ。晴美さんは普通で、やっぱり寂しいのだろう。今まで誰とも付き合うことになかったのは、朱音ちゃんが引きこもってしまったからだろう。
(なんとしても、戻ってこないといけないな)
そう思った俺は急いで出発地点に設置されているであろう簡易カタパルトに向かう。そこには既にほかの三人がおり、篠ノ之が俺を見て睨む。
「遅いぞ! 何をしていた!?」
「作戦に関係することさ。さて、ザッと作戦をおさらいするが―――篠ノ之、わかっているな?」
「……何がだ」
……その返しは予想外だったわ。こいつ、本当は相手を倒したくて仕方ないんじゃないか?
「いいか。簪も言った通りお前はまだ乗り換えたばかりだ。絶対にお前自身が戦闘を行わず、ただ織斑を運ぶだけに専念しろ。それと突入するときは合図を―――」
「言われなくてもわかっている! そっちこそ、私たちに抜かされないようにしろ」
………かなり心配だが、わかっているようなのでため息を吐いた俺は黒鋼を展開する。
「では作戦を開始する」
黒鋼をカタパルトに接続し、タイミング見計らって発進する。
「桂木悠夜、黒鋼、出る!」
スラスターが稼働すると同時に感知したカタパルトが稼働。連動して終着まで移動すると同時に俺を空へと放した。そして飛行形態へと変形した黒鋼の上に荒鋼を纏った簪が乗った。
「じゃあ……お願いします」
「任された」
元から飛べるISに飛行形態があるのはおかしなものだが、その状態になるとSRsの時のようなコクピットへと変形する。慣れた手つきで俺は黒鋼を福音が通るライン上へと移動する。
『……悠夜さん』
《銀氷》を展開した簪が
『どうした?』
『………今回はやりすぎ。………そんなにおっぱいが好きなの?』
と言われた俺は笑い、さっきの説明する。
『別にそういうことじゃないさ。敵となるなら性すらも使うってことだよ。他人を潰す方法なんていくらでもあるからな』
そう答えた俺は簪から叱責されると思ったが、どうやらそうはならないようだ。
俺はホッとしたが少し気になったこともあって簪に聞いてみることにした。
『………あの篠ノ之束って言う奴はいつもあんな感じなのか?』
『……聞いた話では。でも、何で?』
『少し気になってな。いつも事件は突発的に起こるから今回みたいな作戦会議は初めてだけどさ、あの女に言われた後の織斑先生の態度が気にはなってな』
本当ならば織斑先生越しに篠ノ之束の無能さを指摘したかったが、それは適わなかった。
『………白夜事件のミサイル。あれ、世間じゃ篠ノ之博士がやったことになっているけど、たぶんそうだと思う。だから敢えて織斑先生は二人を出したんじゃないかな?』
『………なるほどね』
ちょっと読みが甘かったか。
少しばかり反省していると、ハイパーセンサーがエネルギー感知した。同時に通信方法を
「このまま突撃するぞ」
「了解」
黒鋼のスラスター出力を上げ、急加速して福音に突っ込んだ。
■■■
悠夜たちが飛んで行ったのを見送った一夏と箒は自分たちもISを展開する。
それぞれ白と赤の装甲が自分たちを覆ったことを確認し、一夏は箒に言った。
「箒、よろしく頼む」
「ああ。本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」
自分が望んでいることで将来そうなる可能性があるが、箒はその辺りの知識は明るくない方なのでそのような展開になることは気付いていないらしい。
『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』
ISのオープン・チャネルで千冬が出撃地点にいる二人に声をかける。二人はそれに頷いて返事をした。
『今回の作戦はお前たちの―――特に織斑の『零落白夜』による攻撃が肝だ。すぐに終わらせろ』
「了解」
「織斑先生、私は本当に一夏を運ぶだけでいいのでしょうか?」
箒がそう尋ねると千冬は頷いた。
『ああ。道を開けるのは桂木・更識の二人に任せろ。言動ややり方はともかく、桂木の実力は高い』
「………わかりました」
瞬間、箒は歯ぎしりをするがそれもほんの少し。だが一夏はそれしっかりと目撃していた。
(箒、やっぱりお前は……)
すると一夏は箒の肩を軽く叩いた。
「落ち着けって箒。悠夜たちだっていつまでも戦えるわけじゃない。その時は俺たちがフォローすればいいじゃないか」
「そ……そうだ。そうだな。特に桂木は見栄っ張りな部分がある。私たちがしっかりとサポートをしてやらないとな」
一夏に慰められたことでやる気になった箒。そこに千冬は号令をかける。
『では、はじめ!』
同時に紅椿が上空を駆ける。
少し前、悠夜たちは福音に突撃する―――だが、福音は一瞬で回転、簪の斬撃を回避する。
「行けっ!」
途端に飛行形態の腕部装甲が稼働してワイヤーアンカーが射出―――福音を捕えて引き寄せた。
黒鋼は飛行形態の際、直立の状態から胸から上を垂直に反り、その先端にライフルが装備されいている。だが、それだけではつまらないと考えた朱音は幅広く戦えるために思考操作を可能にするように改修しておいたのだ。
悠夜は腕部で福音を引き寄せ、それを確認した簪は《銀氷》で横に薙いだ。
その衝撃で福音は吹き飛び、機体を反転させた悠夜はそのままの状態で体当たりをする。
「悠夜さん、援護する」
「わかった」
簪は離脱し、腰部の荷電粒子砲《春雷》で福音をけん制する。その隙に悠夜はそのままの状態で突っ込んで再び攻撃した。だが、
【敵機確認。迎撃開始 ———《
マシンボイスが響き渡り、瞬時に機体を回転させ、最初と同じように回避した。
(こいつは早いな……だが)
悠夜は通常形態へと変形、同時に先端に付いていた《フレアマッハ》で福音を攻撃した。
「簪、戦闘から離脱。データをまとめて二人に送れ」
「……わかった」
悠夜はその辺りの作業はISに慣れている簪の方が良いという判断する。だが福音は簪の方へと向いて翼を広げた。
「そんなこと、させるかよ!」
二機のISに割り込んだ悠夜はマルチ・ロックオンシステムを作動。福音周辺に向けて一斉射撃を行う。
するとビームと光弾がぶつかって大爆発が起こる。
福音はすぐにその場から離脱、爆発範囲のギリギリを移動して悠夜に接近していく。それを悠夜は敢えて受け止めた。
「悠夜さん!」
「構うな!」
悠夜は即座に《リヴォルブ・ハウンド》を展開して操縦者の腹部を直接攻撃した。
そして新たに追加された肩部に装備されているブーメラン《疾風》を抜いて福音に攻撃した。その時だった。
「———うぉおおおおおお!!」
福音めがけて一夏を乗せた箒が突撃する。すぐに悠夜は回避し、《フレアマッハ》で福音を攻撃。動きが鈍ったところを一夏は《雪片弐型》を振り抜くも紙一重でかわされ、タイミングを見計らって撃たれたミサイルが福音めがけて様々な軌道で飛んでくる。
「行くぞ一夏!」
「おう!」
だが二人は気付いていないのかそのまま福音に向かって飛んでいく。
「くっ!?」
箒は軌道を変えて福音から距離を取る。
「貴様! 我々が見えないのか!!」
簪に対して怒鳴るが簪はそれを無視。縦横無尽に動く悠夜と福音に対してランダムにウイングスラスター上部に付いているプラズマビーム砲《
「聞いているのか、貴様!」
「箒! そんなことよりも福音を!」
「……わかった」
すぐに一夏を乗せたまま福音と悠夜の方へと飛ぶ。
「———って、こっちのタイミングに合図に従えよ!」
福音に襲い掛かる二人を見て悠夜は後ろに下がり、二人に対して叫ぶ。
「馬鹿者! そんなちまちました攻撃でこやつを落とせるわけがないだろう!」
「無駄にバカスカ撃つよりかはるかにマシだ!!」
そんな言い合いをしていると福音は隙を見て後ろに下がってウイングスラスターに内蔵されている砲口を開き、羽根型の弾丸を大量に放つ。
「な!?」
「全員回避!」
悠夜は叫ぶが一夏たちに何発か被弾した。
「うわっ!?」
「一夏!? ——クソッ」
「簪!」
「うん」
もう一度福音が砲口を開くのを見た二人はそれぞれのビットを飛ばす。
「舞え、《サーヴァント》!」
「お願い、《マリオネット》」
全12基のビットが福音の砲口を潰しにかかる。だがそれでも間に合わず、潰せたのは全体の1/4だけだった。
「回避!」
悠夜はそう叫ぶと全員がその場から離脱。だがその中から赤い機体が福音めがけて飛んでいく。
「何をしている、篠ノ之!」
「これ以上貴様の作戦とやらに付き合っていられるか!! 一夏、私は左から行く! 右を頼む!」
「ああ!」
一夏も後から箒の後を追う。だがそれを止めたのは千冬だった。
『いい加減にしろ! 今すぐ桂木の指示に従え!』
「構いません」
『何?』
悠夜の言葉に驚く千冬。
「……確かにこれじゃあ埒があきませんから……なので二人に任せましょう」
「……悠夜さん」
すぐに諦めてそう言った悠夜を心配そうに気遣う簪。
『だが、あの二人では不安要素は確かに存在するのだぞ!』
「ええ。だから俺たちは援護に入ります―――俺のやり方でね」
そう言った悠夜は交戦している三機のISに突っ込む。だがこのまま行けば紅椿の《雨月》が当たるタイミングだったが、見事に箒の攻撃を回避しつつ福音を攻撃した。
「貴様、邪魔をするな―――!!」
「邪魔だって? どこが―――」
悠夜は箒をぶん投げて福音が繰り出そうとしている弾丸を回避。一夏の方をビットで回収する。
「ラウラ、簪にロンディーネ、俺にシュヴェルトを。やれるな?」
『は、はい!』
ラウラは今回、悠夜と簪の補佐に入っている。そのため、二人にパッケージを発射して援護する役目も担っていた。
「簪、篠ノ之を」
「わかった」
悠夜の言わんとしていることを理解した簪はさらに行こうとする箒の妨害をする。
「邪魔だ!」
だが簪は箒の後ろを瞬時にとって紅椿をそのままけん引する。その後ろを一夏を回収した悠夜が付いてきた。
「何やってんだよ! 福音は向こう―――」
『黙れ。俺たちが隙を作るから篠ノ之は織斑を乗せて俺の合図で強襲しろ』
「貴様の作戦は聞かんと―――」
―――ゴッ!!
悠夜は箒を殴って黙らせた。
「何をする!?」
「やれ。いいな」
そう言って悠夜は簪と一緒に戦線に戻った。
「クソッ。あの男……許さん!」
「だったら見返してやろぜ! 悠夜は俺たちのことを舐めているなら、証明すれば良いんだよ。俺たちも戦えるって!」
一夏の言葉に箒はすぐに頷いた。
「そうだな。行くぞ、一夏!」
「おう!」
箒は一夏を乗せ、戦線に戻る。
その頃、一足先に戦線に戻った悠夜と簪は箒の言うチマチマした攻撃を行っていた。
「《デストロイ》、スカーターモード」
黒鋼の
その隙に簪は福音を挟んで悠夜と対面する形になる場所へと移動し、全射撃兵装を起動した。
「「ターゲット、マルチロック」」
意図せず二人の声は重なり、福音はそれを聞いたからか離脱を始める。
「「ファイア!!」」
すると悠夜たちは逃がさないためか同時に発射。それらが福音を追撃してさらなるダメージを食らわせた。
「今だ、行け!!」
今度は指示に従った箒が一夏を乗せて福音に接触する―――寸前、悠夜のハイパーセンサーが異常を感知した。
【付近に未確認の船影あり】
「何!?」
悠夜は驚きに声を上げるがすぐに簪にそれを報せ、すぐにここから避難するように勧告しに行こうとするが、それよりも早く一夏が単機で船の方へと飛んでいた。
(何でこんなところにいるんだよ!?)
今頃福音を討っているはずの一夏がいることに驚く悠夜。だがすぐに理由を察した。おそらく福音が撃ったであろう光弾を消しに行ったのだろう、と。
「何をしている!? せっかくのチャンスに―――」
「船がいるんだ! 海上は先生たちが封鎖したはずなのに―――ああクソッ、密漁船か!」
再び悠夜のハイパーセンサーが異常を感知する。
【警告! 討伐対象のエネルギー増幅!】
「全員退避!」
悠夜と簪はそこから離脱。次の攻撃を仕掛けようとしたが、そこには一夏と箒の姿がなかった。
「おい待て。あの馬鹿共、何でまだあんなところに!?」
「悠夜さん!!」
見ると福音が二人に向けて光弾を発射しており、タイミング悪く箒のISアーマーが光を失いつつあった。
瞬間、悠夜は二本のビームブーメラン《疾風》を抜き、投げてから《サーヴァント》を飛ばす―――が、それは間に合わず紅椿の異常に気付いた一夏が割って入りダメージを受ける。
(………ああ、もう……)
戻ってきた《疾風》と《サーヴァント》は自動的に収納され、二人が落ちていく。どうやら庇ったらしい密漁船も無事では済まなかったようで、爆発が起きていた。
「一夏ッ! 一夏ッ! 一夏ッ!!」
どうやら箒は無事だったようで、海面では先程から気絶したらしい一夏を揺すっていた。
「………作戦は失敗か」
「…悠夜さ―――危ない!!」
簪の声に反応した悠夜は止めと言わんばかりに光弾を撃ち出そうとしている福音。だがそれは後方からの攻撃で防がれる。福音は一度その場から離れ、その機影を確認した。それらは前後分離し、それぞれの目標へと向かう。
ロンディーネを装着した簪はすぐさま二人を回収。福音の前には悠夜が現れた。
「簪、お前はすぐに二人を連れて離脱してくれ。殿は俺が務める」
「…………わかった」
———残りたい
本当は自分も残りたいと思っていたが、悠夜の雰囲気を読み取った簪は悠夜に背を向けそのまま帰投する。だがどうしたことか、福音は動きを止めた。
『桂木、福音が沈黙している今がチャンスだ。離脱しろ』
オープン・チャネルで千冬は悠夜に帰投を促す。だが悠夜は無言のまま《ツヴァイファング》を抜いた。
「———これでまともに戦える」
その言葉に千冬たち風花の間にいる面々は驚いた。
(まさか、この状況を待っていたのか……? ……まさか!?)
今日の悠夜の数々の言動。それらが千冬の予想する「あの理由」を彷彿したことにより、千冬は叫ぶように言った。
『今すぐ戻れ、桂木!! 相手は軍用だ!!』
「……………」
沈黙を続ける悠夜。すると福音は動き始め、悠夜に襲い掛かった。
■■■
「作戦成功……ね、一応は」
とある部屋。そこでは一人の女性が悠夜と福音の姿を見てポツリとつぶやく。
そこは全体的に暗く、暗室を思わせる雰囲気があった。
「このまま監視を続けて。デコイの回収はまだかしら?」
「もう現在、50%が完了しています」
「そう。回収が済み次第、部隊には待機命令を。アレがいつ落ちても良い様に準備をしておくのよ」
そう言った女性はどこか楽しげにそう言い、今もなお抗うかのように戦う悠夜と福音を鑑賞するのだった。