悠夜が「人を殺した」という云々を変更いたしました。本当はそれで「主人公も悩んでいるんだよ」的な雰囲気を出したかったんですが、それでは色々とできないことに気付いたので。
色々ってのは感想欄にちらほらと書いていますが、ああいう負の感情は五章にも引きずりそうだし、一般人特有の戦闘恐怖症みたいなものを抱え込まれても「今更感」を感じさせるだけだってのもありますが。
どう変わったのかは、もしよろしければ80話に戻ってご確認ください。
そして今話はある意味リクエストにお答えしました。つまり思いっきり次回予定を無視した形となっております。
更識一族の和風の豪邸であり、この辺り一帯では少し有名だ。というもの彼らの収入源は暗部家業だけでなく、店を出店してその利益も得ており、主な出店場所はレゾナンスやそのほか周辺にもある。オターズもある意味その一つなのだが、それを知っているのは上の人間の一部のみである。
そんな豪邸で育った簪は、姉ですら知らない秘密基地へと向かっていた。
「………久しい顔だね。確かIS学園に通っているって話じゃなかったかい?」
「今は帰省中だから。それであなたに会いに来た」
そこにいた人間と出会った女性に声をかけられた簪はそう答える。
その女性は楯無の髪を長くしたような感じであり、薄着の着物を着ている。
「これは嬉しいねぇ。まさか曾孫の方から出向いてくれるなんて……」
そして彼女は二代前―――15代目楯無である重治の母親であり、名は「フローラ」。元々はロシア出身の女性だったが、この家に入るために国を捨てた女性である。もっともそれは戸籍上の話であり、本当は違うが。
ちなみに彼女はもうすぐ100歳になるが、見た目は20代前後の女性そのものだったりする。そして、簪が秘密基地としている場所の唯一の住人であり、長い間住んでいた。
「………あなたなら、何でも知ってるって思って」
「もう20年ぐらいここにいるからねぇ。知っているとしても高が知れているよ」
「……それでもいい」
そう答えた簪はとある一枚の写真を出す。
「……へぇ。これは君の彼氏かい……」
「………返事はまだもらってない」
「それは不幸だねぇ……でも、血筋的に無理かな。昔から彼らは私たちのような存在を敬遠するから」
その言葉に簪は少し悲しそうな顔をする。
「ああ、悪い意味ではないよ。あまり多くは語る気はないが、私たちと彼らには強い因縁と言うかなんというか………」
「……教えてほしい」
すると簪はフローラに迫る。
「……私は彼のことを知っているけど……それを知らないから教えてほしい」
「……あ、でも知らない方がいいと思うが―――」
「教えて」
「……でも…それは……」
「教えて……」
断るフローラになおも迫る簪。
「……仕方ない。だが、これを聞いたら君は戻れなくなるんだぞ。それこそ、恋すらも冷めるほどにな」
「………」
その言葉に簪は黙ってしまった。
簪がこうして悠夜のことに関して調べているのは、知的好奇心と恋愛感情から来ている。知的好奇心はSRsから来る操縦センスもだが、それすらも超える圧倒的な身体能力だ。
簪はあの時、自分がどうなるかというのは少しは予想していた。それ故に自分がどんな目に遭わされるかも想定していたが、まさかされる前に助け出されるなんて予想していなかったのである。
(………彼の秘密を知りたい……でも……)
———もしそれで自分のこの感情が冷めたらどうしよう……ううん。それほどのものなの?
本当はどこかで察していた。桂木悠夜が普通の人間じゃないことぐらいは。そうじゃなければ、圧倒的な破壊力を持つパンチなんて身に付けられないはずだからである。
「……教えてほしい。彼の知っていることを」
そしてすべてを知った簪は―――ただ満面の笑みを浮かべた。
■■■
夏休みに入ってから、運動不足にならないようにしていることが一つある。それは朝方に行う長距離ランニングだ。
生徒会+簪は帰省しているし、ラウラはラウラで朱音ちゃんとラボで缶詰になっているしで構ってくれる人たちがいない。……ああ、先輩。ちょっと怖いから遠慮する。
(でもまぁ、あれはあれで面白かったな)
その後も色々とサファイアで着せ替えて遊んだりして、証拠写真として撮影したりするのは面白かったなと思う。まぁ、同い年だから敬語で話さなかったこととか、その部分を最後まで突っ込んでくれなかったことは寂しかったが。……あれ? 俺ってそんな奴だっけ?
(………久しぶりにSRsをしてみようかな)
ここ最近、IS関連のことをしているのもあって実力は落ちていると思われる。結局他の奴らも出ないようだから大会も辞退したし、なによりも俺は他のことがしたかった。
ということで、9時ぐらいになってまで走っていたところに高そうな車がすれ違う。
(……白いロールスロイスって初めて見るな)
黒いのだったらたまにドラマで見るけど、白は初めてだ。
そんなことを思いながら走っていると、後ろから誰かが下りたような音が聞こえた。
(ともかく走ろう。どうせ俺とは住む世界が違う人間が現れただけだし、外の奴らはともかく、中の奴らはまだ俺が色々としたことを知らないし)
そのまま走って距離を取るようにそこから退散しようとすると、俺の横をナイフが通り過ぎた。
「———ちぇ、チェルシー!? 何をしていますの?!」
「いえ。どうやらクズ虫が辺りにいるようですので。それに失礼云々はともかく―――この男は今すぐ消さなければならない存在なので」
多少声の高さは変わっているが、聞いたことがある奴だ。そして、俺を「クズ虫」と呼ぶ奴なんざ一人しかいねえ。
「———随分と派手な挨拶だな。Bカップ」
「相変わらずのウザさですね、クズ虫」
しかし進化したなぁ。昔は机や椅子など辺り構わず投げていた奴が、今やナイフに落ち着くとは。
ちなみBカップとは、小学生の時点で胸囲がBはあったからである。
「すみません、桂木さん! メイドが粗相を―――」
「何を今更。俺たちにとってこんなもの挨拶に過ぎない」
「そう言えばあなたが最初でしたわね。「どうせメイドならナイフ持ったら? まぁ、時を止めなきゃただの雑魚だがな」と言ったのは。それに先程のは刃抜されているものです。もっとも、次はそういうわけには行きませんが」
「そんな気を遣うより、自分のところの主の雑魚さをどうにかしろよ。あれほど酷いビット操作をするなんざ、素人ぐらいなもんだろ」
するとブランケットよりも先にオルコットが答えた。
「それに関してはご安心を。わたくしもレベルアップしてますわ!」
「へぇ………………まぁ、期待は気が向いたらしてやるよ」
「ちょっと、それは失礼ではなくて!?」
んなこと知るか。
そんなことよりも今は目の前のBカップ………いや、
「ブランケットの胸が、BからDに進化している……だと!?」
「よくそんなことが目測でわかりましたわね」
「ちょっと!? いくらあんなことをしたとはいえ見過ぎではなくって!?」
メイドの主人がそう言ってくるが、
「安心しろ。別にこいつを恋愛対象として見るつもりはない」
「あなたこそ、例のあれがそこまで成長していないでしょう?」
「ちぇ、チェルシー!? ちょっと、いくらなんでもその発言はオルコット家の従者としてはどうかと―――」
「さぁなぁ。まぁ、確認したかったら俺に勝ってからにしろや」
「そうさせてもらいましょう。さぁ、あなたの命をここで散らさせてもらいましょうか」
「ちょっと―――」
だが俺たちはそこから移動し、離れたためオルコットの言葉は聞こえない。
俺は拳を、ブランケットはナイフを構えて戦闘を開始―――するかと思ったが、ブランケットがそこから後ろに飛んで下がる。
「俺から逃げる……ってことはないよな?」
ブランケットがさっきまで俺たちがいた場所の方を向いたのでそっちを向くと、いつの間にか織斑がいたのである。
(なるほど。そういうことか)
恐らくブランケットは織斑のことは主にオルコットから聞いているのだろうが、実物はテレビを除いて初めて見るだろう。心境的に共感できる。もし幸那が急に彼氏を連れてきたらそれがどんな男か気になるだろうしな。
こっちがブランケットの方へと行くと、戦闘態勢を取ってくるので片手で制止した。
「安心しろ。攻撃する気はない」
「……ちょうどいいわ。あの織斑一夏って男、どんな奴なの?」
やっと素で話してくれた。昔はため口の方が慣れているからさっきまでの敬語は妙な気がして仕方がなかったのだ。
「まぁ人当たりはいいだろうな。教員からの結構信頼があるし、クラスメイトからの人気が高い。が、戦闘能力で言えば俺が圧倒的だろうよ」
「それは知っているわよ。4年生の教室で男性教員を潰したの、私も見てたし」
あれは6年生のことだった。
SRsで使う機体のことで当時は別のを書いていたのだが、それで一人の女子がダサいと言ってきたので論破して泣かしたのだが、一方的に俺が悪者扱いされたのだ。それで逃げた俺はたまたま通りかかった教室で見慣れない男がただならなそうなことをしていたのでストレス発散も兼ねてぶん殴ったのである。
そしたら音は立つ、女の子が泣き始める。俺はそのまま逃走したが、どうやらこいつが教員に報告したらしいな。
「さて、お嬢様のフォローをしてきますか」
「へぇ、斬新な心掛けだな。ちゃんとメイドをしていたことに驚きを隠せない」
「これでもブランケットは有名な従家一族ですから」
そう言ってブランケットは何事もなかったかのように二人の間に割って入った。
■■■
悠夜からざっと一夏の評価を聞いたチェルシーは得意な忍び足で移動する。その動きは鮮やかで、傍から見れば普通に歩いている風にしか見えない。さらにそれで音を立てずに歩いているのだから、かなり完成されている。
(さて、どう攻めましょうか?)
セシリアは一夏のことを好いているが、オルコット家にとってはそれはかなりまずい事だった。彼女は家の取り決めとはいえ将来結婚する相手がいる。先日セシリアの教官を務めていたルイ・ディランなのだが、ディラン家はイギリス王家の分家の一つであり、セシリアの母親が生前取り付けたものだった。
容姿、家柄、そして人気を含めて一夏よりも上のルイを捨ててまで結婚するような相手なのだろうか。それを確認するため、チェルシーはここに来たようなものである。
(まずは会話から、ですわね)
いきなり現れた女性にどう接するか。
少なくとも彼女は悠夜以上の接し方を求めていた。
「大丈夫か? ぼーっとして、もしかして熱射病か? 気を付けないとダメだぞ。夏の熱射病は危ないんだ」
「い、いえっ! 大丈夫です! その、さっきまで車の中でしたから、少し立ちくらみをしただけです!」
そこで強がらなくても……と思うチェルシーはばれないようにため息を吐いて会話に入る。
「そうか。それならよかった」
「ええ、全くです」
チェルシーの声にいないと思っていたセシリアは体を震わすほど驚きを顕わにした。
「えーっと、どちら様でしたっけ?」
「お初にお目にかかります。セシリア様にお仕えするメイドで、チェルシー・ブランケットと申します。以後、お見知りおきを」
さっきまで素で話していた彼女だが、すぐさま仕事モードに変えて丁寧な挨拶をする。
セシリアはその間、さっきまで二人がいた場所を見ていたが、そこにはチェルシーとさっきまでいたはずの悠夜の姿もなかった。
「ああ! 前に一度、セシリアからお話は聞いていましたけど、あなたがそうだったんですか。初めまして、織斑一夏です」
「(あら、意外に丁寧)はい。織斑様―――時に、ご無礼を承知の上でおたずねしますが、私のことをお嬢様はなんと?」
「ええ。とてもよく気が利く方で、優秀で、優しくて―――美人だって言ってました」
「(お世辞も上手)まぁ」
概ね、一夏の接する態度に満足するチェルシー。ふと脳裏に悠夜と初めて会った時のことを思い出したが、まだ幼かったこともあって態度は酷い物だった。
などと思い出しつつ、さらに後ろから幼馴染兼主の嫉妬のオーラを感じながらチェルシーはさらに続けた。
「私も織斑様のお話はよくお嬢様から耳にしております」
「へぇ、そうなんですか。ちなみに俺のことはなんて言ってました?」
「クスッ。それは―――女同士の秘密、です♪」
すると一夏の顔に変化を感じたチェルシーは後ろからの嫉妬のオーラが強くなったことに気付く。
(………これはまさか、彼は年上派なのでしょうか?)
だとすれば少々まずいことになるのでは? と思ったチェルシー。だがまだ向こうは話したそうな顔をしているので、さらに会話を続けることにした。
「ってことだから、あなたは更識楯無を手放しなさい」
「戻って来た途端いきなり何を言ってんだ、お前は」
悠夜も含め、このIS学園島を一周できるような人間はまずいない。そのため悠夜はある程度進んだら戻ってくるようにしてきて、会話を終えたチェルシーと合流した。
するとチェルシーは悠夜に対してそんなことを言ったのだが、何のことだかわかっていない悠夜は突っ込んだ。
「話が長くなるから簡単に言うと、お嬢様が婚約相手のことが眼中にないから入れさせるのよ」
「………一応聞くけど、その婚約者ってどんな奴」
「あなたも一応は知っているんじゃないかしら? その筋では「狙撃王子」って呼ばれているわ」
それを聞いた悠夜は頭を抑える。
「……わからん。どうして織斑に惚れたんだ、あの女は」
「ああ。それはですね―――」
チェルシーは簡単にセシリアの経緯を話す。すると悠夜は今度はため息を吐いた。
「なるほど。弱々しい男はいらないと。それなら言っちゃなんだが俺にも惚れる可能性はあったな」
「むしろそっちの方が良かったわ。あなたの好みは知ってるし、振らせようと思ったこっぴどく振らせることもできるし」
「……この悪女め」
「ブランケット家の義務を果たそうとしているのよ、私は」
堂々と答えたチェルシーに対し、悠夜はちょっと見直していた。
「っていうかそもそもの原因はその親父だよな? どうにかできないのかよ」
「故人に何をさせる気かしら?」
「ああ、そうですか」
「それに本来はあの方は元々
「………一体どうやってあの女が生まれたんだよ」
「できちゃった婚」
はっきりと答えたチェルシーに悠夜は口をあんぐりと開けた。
「セシリア様のお母様―――エミリー様はやり手の方だったのだけど、一時期邪魔扱いされて殺されかけそうになったのよ。それで護衛としてジェームズ様を雇ったと聞いているわ。で、次第に打ち解けていったようよ」
「ワー、ナンテシンデレラボーイナンデショウ」
意味が違うと思いながらもそう答える悠夜。瞳のハイライトが消えており、周囲には嫉妬のオーラが現れていた。気のせいか、周りの木々が腐り始めているようにも感じ始めている。
「四方八方からモテているあなたが言えるかしら? 聞いているわよ。デュノア社の社長に気に入られているらしいわね」
「ハハハ……アレが気に入られているっていうならストーキングは犯罪じゃなくなるな」
「…………もっと弄りたかったけど、その後が怖いのでやめておくわ」
「そうした方がいいだろうなぁ。ってか、スナイパーのところをお嬢様にでも説明したらどうだ? 少しはマシになるんじゃねえの?」
悠夜は「これは名案だろう」と思いながら言ったことなのだが、途端にチェルシーの顔が暗くなるのを感じて不安を感じ始めた。
「……じゃあ、あなたはいつも両親のことを思い出すたびに悲しい顔をする人にそんなことを言えると思う?」
「ゲスく、かつドS的に―――って、冗談だ、冗談。流石の俺でもそんな傷口に塩だけでなく辛子やタバスコを加えるようなことは相手を選んだ後にするからあの女なら普通にするな」
その言葉にチェルシーは容赦なく悠夜の足を踏み抜き、あまりの痛さに悠夜はその場に倒れてのたうち回った。
腐れ縁(お互いに恋愛感情があるなんて言っていない)
ちなみに小学校時での同級生は揃って言います。「大体いつもは争っていたけど、結託したら恐怖そのもの」だったと(笑)
それとチェルシーがナイフを投げた件に関しては二人にしてみればいつも通りだし、悠夜にとってナイフなんざ怖くねえなので特に問題にはしません。
次回予定
久々に街に戻ってきた鈴は、五反田食堂に寄ってみる。
そこには見知った顔がおり、彼らは暖かく出迎える。
そして一方、悠夜たちの方はラウラの新しい機体と黒鋼のオーバーホールとバージョンアップが済んだことで、模擬戦を始めるのだった。
自称策士は自重しない 第82話
「鈴音の悩み」
鈴音「やっぱり、アタシって変よね?」