まぁ、ホープ軸のが結局強いんですがね(ぉ
カルデア内に設置されている召喚サークルの前に、菅野理子が緊張した面もちで立っている。
今から行われようとしているのは、英霊召喚――つまり、サーヴァントとの契約だ。
「そんなに緊張する必要はないよ。触媒を用いない召喚は相性の良い英霊が選ばれることが多いらしいし、カルデアの召喚は、人類救済の意思を持つ英霊のみが選定されるシステムになっているから、滅多なことで裏切られることはないから気楽にやればいい」
「そ、そんなこと言われても……」
理子にとって、実質初めての英霊との契約。
マシュとの契約は本人達の無意識の内に為されていた上に、キャスターとの契約は利害の一致による仮契約。
魔術師として正式に英霊と契約するプロセスを組むのは、これが初になる。
ましてや、彼女は魔術師と言えど、あくまで素質があるだけのズブの素人。魔術師としての価値観を持ちえない彼女にとって、世界に名を遺した英雄を従わせるなんて畏れ多いこと、まともな精神状態で出来る訳もなかった。
「何にせよ、やらないなんて選択肢はない以上覚悟を決めてもらわなければ困る。それに、尊大な態度で臨めとは言わないけど、あまり情けない姿を見せては今後の関係に支障を来たすかもしれないから、せめて普通にしてくれたまえ」
「は、はい」
ダ・ヴィンチにそう諭され、理子は大きく深呼吸をして改めて眼前の召喚サークルに意識を向ける。
そして、予め渡されていた金平糖のような宝石をサークル内にばらまく。
これは聖晶石とダ・ヴィンチが命名したもので、言わば高純度の魔力結晶である。
レイシフトによる特異点のある時代への移動による弊害か、それとも複数のサーヴァントが召喚されたことによって大気中のマナが何かしらの作用で結晶化したのか、それは分からない。
歴史の修復が完了したことで、帰還した際に一緒についてきたのがこの聖晶石という訳である。
世界の滅亡という形でカルデア以外の環境が死滅してしまった今、カルデア内に潤沢に満ちている魔力もいつ尽きるかは分からない現状、可能な限りマナの節約を行う必要がある。
召喚サークルといった、常時使用する訳でもない部分に流す魔力さえ惜しい節制時に、代わりとなる魔力供給源が見つかったのは、まさに天啓とも言えた。
「じゃあ、始めるよ。――『守護英霊召喚システム・フェイト』起動シーケンス、開始」
ロマ二がそう告げるが否や、召喚サークルが一人でに発光を始める。
過去、英霊召喚には様々なプロセスを踏む必要があった。
触媒、詠唱、環境――理想とする最高の英霊を召喚する為には、それらを万全に期す必要があった。
しかし、聖杯戦争ならばいざ知らず、今回の英霊召喚の目的は人類の救済。
七人のマスターによる殺し合いではなく、47人のマスターが味方の共闘だ。
求められるのは、個の質ではなく、量による人海戦術。
タイムリミットが明確ではない以上、英霊の格を落としてでも戦力を複数用意させる必要があった。
そこで、先程説明した召喚に必要となるあらゆる要素を十把一絡げに纏め、安定した魔力運用でサーヴァントと契約が出来るように手を加えたのが、この『守護英霊召喚システム・フェイト』なのだ。
個人で複数の契約を可能とする為に、カルデアの魔力を膨大なまでに利用して繋ぎ止め、宝具の運用といった瞬間的な魔力の消費はマスターの魔力量に依存させるという仕組みは、過去の聖杯戦争のそれを踏襲している。
『守護英霊召喚システム・フェイト』の場合、複数体のサーヴァントとの契約が前提となっているので、単体に供給される魔力量は本来絞られる筈だったが、マスターが二人しか存在しない現状ではその制約を無視しての召喚が可能になる。
つまり――マスターへの負担は最小限に抑え、性能の劣らないサーヴァントを召喚できるのである。
これだけ聞けば良いとこ尽くしかもしれないが、調子に乗って自分の身の丈を超えるサーヴァントと契約してしまえば、カルデアの補助ありとはいえ自滅は免れない。
ましてや、バーサーカーのような魔力喰いを召喚しようものなら、どうなることか。
とはいえ、触媒がない召喚である以上、運を天に任せるしかないのが辛いところではある。
「お、おおおお」
光が魔方陣の外周を描くように回り出し、次第に速度が上がり円を作り出す様に、理子は思わず声を上げる。
一瞬収縮したかと思うと、光の円が弾けた。
爆発のような衝撃が魔方陣の中心から発生し、誰もがその衝撃に視線を逸らす。
理子に至っては、衝撃と驚きで尻餅をついてしまい、まるで格好がついていない。
光が次第に収まっていく最中、その中から理子に向けて差し伸べられる腕。
反射的にその手を取ると、勢いよく立ち上がらされ、そのまま暖かな壁にぶつかる。
「――おいおい、シャンとしろよ。マスター」
聞き覚えのある声に、理子は顔を上げる。
そこには、見覚えのある野性味溢れる笑みがあった。
「キャ……スター?」
「それは違うぜ。あの時はそうだったが、今の俺は――」
光が完全に収まり、声の主の姿が露わになる。
フードのあるゆったりとした着物から打ってかわって、その洗練された筋肉が強調される薄い生地の青いスーツを身に纏っている。
そして、杖ではなく真紅の槍を携えており、同一人物ながらもその変化に思考が追い付かない。
「――ランサー、クー・フーリンだ。またよろしく頼むぜ」
ランサーはニカッと笑うと、連続して理子の身体が跳ねた。
「ひゃっ!?」
「――ちょっと、何しているんですか!!」
マシュが慌てて間に割って入る。
一連の流れの原因は、あろうことかランサーが理子の尻を鷲掴みにしたことにあった。
「いや、あまりにも無防備だったから、つい」
「そんな理由で女性の臀部に触れるとか、そんなアイルランド流の挨拶は受け付けていません!」
「そりゃあ偏見だろ。それに、こんな良い尻を前にして触らないとか、男じゃないだろ?なぁ、そこのヒョロいの」
「え、僕に振るの!?」
「フォーウ……」
「……ランサー、貴方と言う人は」
「ううううう……お嫁に行けない……。だから那岐さん、もらってください」
「何故そうなる」
先程までの緊張感はどこへやら。現れたのが知人だったことも相まって、空気が一気に緩んでいった。
「――まぁ、つーわけで。ここに契約は完了した。我が槍は、マスターを阻む障害の悉くを穿つ魔槍となり、道を切り開く標となろう、ってな」
「……お尻を触ったことは不問とするから、頑張ってよね」
理子は顔を真っ赤にしてふくれっ面になったまま。
ランサーに向けられる視線は、アイルランドの英雄を敬うそれではなく、完全に発情期の狗か何かを見るような目になっていた。
「それで許してくれるってんなら、バリバリ働くぜ」
「先輩、今の内に礼呪使いましょう。このままでは貞操が危ういです」
「いや、そこまではしねぇよ?そもそも、俺の好みの年齢からは外れてるしな」
「対象外の女性の臀部を当たり前のように触る人の言葉は信用できません」
「……ごもっとも」
「はーい、そろそろいいかな?後がつっかえてるからパパっとやりましょうね~」
ダ・ヴィンチが手を叩いて、場の空気を一度整理する。
忘れてしまいそうだが、これは未来を賭けた大博打なのだ。
気の持ちようでサーヴァントの良し悪しを選定できる訳ではないが、それでも最低限の礼儀というものがある。
とは言え、当事者である那岐はいつも通りの涼しい表情な時点で、杞憂かもしれないが。
「リリィ、俺と一緒に来てくれ」
「え?あ、はい。お供します」
突然の那岐からの指示に、要領を得ないまま従うリリィ。
召喚サークルの前に立つと、理子がやったと同じように聖晶石を中心に向けてばらまく。その数、理子が使用した倍。
ロマニはそれが召喚の準備であることに遅れて気付き、起動準備に取り掛かる。
「那岐さん、いつの間にそんなに聖晶石を確保していたんですか?」
「冬木で回収していたものだ」
「落ちてるんだアレって……。もしかして、見逃してる可能性もあったりする?」
「いや、仮にそうだとしても特異点が正常に戻る反動で弾きだされるだろうから、あまり気にする必要はないと思うよ」
「というか、あんなに使っていいモンなのか?貴重な魔力源だろ、それ」
「ないことはないけど、僕には彼が何故あんな行動を取ったのか分からないなぁ」
「――それよりも見てください、暮宮さんの身体が」
マシュの言葉に、誰もが那岐を注目する。
そこでは、召喚による魔力反応に呼応するように、那岐の身体から傷のような形で迸る赤色の光が迸る光景があった。
両手両足に始まり、脇腹と額にまでそれは浸透しているそれは、魔術回路とは明らかに異なる。
そして、異変はそこに留まらなかった。
今度はリリィの足元からも光が立ち上っていく。黄金色の粒子は、彼女の気質そのものであり、彼女を基点に発生していることから、粒子そのものがセイバー・リリィの欠片であることが判断できる。
そのまま粒子は召喚サークルに吸い込まれていき、虹色の光となって円を描き出す。
「マスター、これは――?」
リリィにとっても予想外だったらしく、困惑の色を孕んだ視線で那岐を見上げるも、詠唱を続ける那岐には届かない。
「――ははぁ、そういうことか」
「どういうことです?」
ダ・ヴィンチの愉快な笑みに訝しみながらも、マシュはその意味を問う。
「彼は、彼女――セイバーリリィそのものを触媒として召喚を行おうとしているんだ」
「……そんなことが可能なのですか?」
「分からない。そんな事例は今までに一度もなかっただろうし、そもそも従来の聖杯戦争で行うには不可能な召喚方法だ。だけど彼女の持ち物一つ一つが、聖遺物としては破格の代物だ。そんなことが出来ると言うのならば、結果も大いに保証できるだろうね」
「――そっか。リリィちゃんは彼のアーサー王なんだから、彼女を基点に召喚を行えば、彼女と縁のある人物を召喚できるってことですね!」
「その通り。付け加えるなら、彼女自身を触媒にすると言うことは、縁のある人物というよりも、最早同一人物が出てきても不思議ではない。それこそ、万が一無関係な第三者が出るとするなら、何かしらの形でエクスカリバーに大きく携わりでもしない限りはあり得ないだろう。それこそ、彼の聖剣を握ったことがある、ぐらいの有り得ないが起こらない限りはね」
そんな会話を繰り広げている間に、儀式は佳境に入る。
しかしダ・ヴィンチの中で、未だ解せない問題が残っていた。
那岐の身体から放出した傷のような光と、その意味。
反応そのものはリリィのそれと似ているが、決定的な違和感があった。
あの傷の現れた個所に、何か引っかかりを感じる。
とても、重要なことだった、気が――
「――――ッ!!」
理子の時よりも眩しく、激しい光の奔流が室内全体を満たす。
刹那、白に染まった世界が次第に色を取り戻していくに連れて、結果が見えてくる。
――そこには、獣を象徴するような騎士が立っていた。
白を基調とした武骨な西洋甲冑には、赤色で彩られた紋様が刻まれており、人によっては返り血を浴びたようにさえ見えるであろう、不気味ながらも雄々しさが優る立ち姿。
そして、何よりも目を引くのが、フルフェイスの兜。
そこでは、獣か悪魔かを連想させる巨大な二本角が左右に分かれていきり立っており、威圧感を放っている。
……誰が見ても、彼の存在が圧倒的強者であることは明らかだ。
「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。問おう、お前がオレのマスターか?」
重く、しかし中性的な声が響く。
「――そうだ。マスターの、暮宮那岐と言う」
「契約は履行した。オレはセイバーのクラスで現界した、モー――!!」
一瞬、真名を口にしようとした赤銀の騎士が、リリィの姿を見るが否や、言葉を呑みこんでしまう。
そして、神聖な立ち合いである儀式の最中であるにも関わらず、まるで盲目の老人のように覚束ない足取りで、リリィの方へと歩み寄る。
「ち、ち――うえ?」
「――え?」
「やっぱり、父上。貴方まで召喚に応じていたなんて」
我慢ならないと言ったばかりに、兜を脱ぎ捨てる。
「―――ーなっ」
それは、誰が零した声だったか。
悪魔のような兜から出てきたものは、金髪を小さくポニーテルで纏めた少女。
そして――目の前にいるリリィ――アルトリア・ペンドラゴンと瓜二つの造形をしていたのだ。
「モードレッドだよ、分かるよな!?」
そう問いかけ、リリィに詰め寄る。
同じ美貌ながらも、自分達の知るそれと違い、勝気で野性的な明るさが行動の節々で目に付く。
それに――モードレッドと言えば、アーサー王を親とする、後にアーサー王に対して謀反を起こし、カムランの戦いで対峙するまでに至った、運命に弄ばれた英雄の名だ。
しかし、そんな史実とは打って変わって、モードレッドのリリィに向ける感情はどうにも好意的に見える。
真名を知ったときはどうなるかと逡巡したりもしたが、これなら問題なさそうだ――そう、誰かが思った時。
「――すいません、
――その言葉に、誰もが絶句した。
アーサー王とモードレッドの関係は、あまりにも有名。
それを知らない、という事実はあまりにも重い。
そして、その言葉に誰よりも過敏に反応したのはモードレッドだった。
先程までの好意的な雰囲気が一転、火山の噴火を彷彿とさせる憤怒が、モードレッドの中で沸々と沸き上がっていく。
「――――なよ」
震えた声で、何か呟いたかと思うと、リリィの胸倉を乱暴に掴んだ。
「不山戯るなよ!オレを息子と認めないばかりか、今度は存在すら忘れたいってか!!」
「な、なにを――」
モードレッドの瞳が揺れる。
絶望と怒りと悲しみがないまぜになった、形容しがたい混沌が映る。
今、モードレッドはリリィを見ているのではない。モードレッド自身の中にあるキングアーサーの呪縛を、リリィを現身に見ているに過ぎない。
「父上、アンタはいつもそうだ。何でも完璧に成し遂げるアンタにとって、それ以外の存在なんて劣等種にしか見えなかったんだろう?ましてや、同じ血を引いているオレなんて、さぞ良い比較対象になっただろうさ!!」
「お、落ち着いて――」
「まだ何も為していないのに、何で確認もしようともせずに否定する!アンタには一体、何が見えているって言うんだ、答えてくれよ!!なぁ、なあ!!」
今にも斬りかからん勢いでリリィに迫る光景に、影が差す。
それはモードレッドの後頭部を掴んだかと思うと――何の躊躇いもなく床に顔面を叩きつけた。
文字通り、床が割れた。魔術でコーティングしてある床に、クレーターが出来上がった。
しん、と静まり返る。
モードレッドを叩きつけた張本人、暮宮那岐は何事もなかったかのようにモードレッドの醜態を見下ろしている。
「――なにしやがんだ、テメェ!!」
跳ねるように起き上がり、今度は那岐に食って掛かろうとして、
「黙れ」
一言。それだけでモードレッドが竦み上がった。
円卓の騎士の一角である英雄を、まるで粗相をしたペットを叱るようにあしらうその姿は、マスターとサーヴァントという関係においてはある種正しい。手段が異常なだけで。
気のせいか、那岐の身体からレフとの戦闘で見せた赤いオーラが発生している気がする。
那岐を前にして、借りて来た猫のようにおとなしくなったモードレッドを見て好機と判断したリリィは、躊躇いがちに言葉を発する。
「――ごめんなさい。何と言えばいいのか分かりませんが――取り敢えず、話を聞いてもらえますか?」
「……話?」
鼻っ面を赤くさせながら、モードレッドが返す。
「はい。お互いに情報が錯綜している状況では、またさっきみたいになってしまいます。私の事情が事情なので、せめてそれだけでも聞いて下さい」
「……分かった」
「――と、その前に。すみませんが、モードレッドと二人きりで話をさせてください」
「うーん、僕としては色々気になることばかりだけど、そもそも二人きりにして大丈夫なのかい?」
モードレッドの蛮行を思えば、ロマニの不安も尤もだった。
「心配いりません。」
しかし、リリィは一切の憂いを見せずそう断言する。
そんな言い方されては、彼には最早何も言えない。
マスターである那岐は、目を伏せて閉口を貫いており、我関せずと言った様子。
「ありがとうございます。では、部屋をお借りします。行きましょう、モードレッド」
「あ、うん……」
そうして、二人は部屋を退室し、場を静寂が包む。
「……まさか、モードレッドが召喚されるとはね」
「モードレッドも女性だったことも驚きですが……まさかリリィさんがモードレッドの存在を知らなったとは思いもしませんでした」
「全盛期より昔の状態で召喚されたという話だし、知らないのも無理はない――と言いたいけど、召喚の際に不手際が起こったのかな?というか、そもそも彼女は冬木にある魔方陣から召喚されたという話だし、イレギュラーなことになっていても何らおかしくはないと思うよ?」
「そのところ、どうなんですか那岐さ――あれ?」
考察に対し、返答を求めようと那岐の方へ振り替えるも、そこに姿はなく。
いつの間にか彼は召喚サークルの上に立っており、何かを床から拾い上げる動作をしていた。
そして拾ったものの正体は――那岐の身の丈ほどもある、赤い意匠が施された片刃の機械剣だった。
リリィとモードレッドは適当な一室を借り受けた後、自らの状況を語り出す。
モードレッドの知る、全盛期のアーサーではないこと。
選定の剣を抜いて幾ばくも経たない内に召喚された、モードレッドにとって過去の人物であること。
召喚の際に恩恵として得られる知識の類が機能していないこと。
そのせいで、名前を聞いても誰だと判断がつかなかったこと。
――そして、自分が女であること。
「俄かには信じられないな」
一通り聞き終えた感想で、モードレッドはそう呟く。
「……でしょうね。イレギュラーが連続してばかりで、私自身でもそう言い切れるぐらいですから」
「だけど、アンタがオレの知る父上とは違うのは分かった。雰囲気もそうだけど、何より――きちんと、オレの目を見て答えてくれている。父上が相手じゃ、絶対に考えられなかった」
ほんの一瞬、そう語るモードレッドの表情がほころぶ。
その刹那の少女の顔は、すぐさまぎこちなさを取り戻す。
「――もし、よろしければ貴方の事も教えてくれませんか?」
「それはいいけど……えっと、円卓の騎士の一人で、モルガンが父上から――」
「ああ、いえ。そういうのではなく」
「じゃあ、何が聞きたいんだよ」
「そんなの――好きな食べ物とか、趣味とか、そういうのですよ」
「――は?」
どこまでも大真面目に、そんなことを言い出した。
「いや、普通オレとアンタの関係とか、どういう結末を迎えたとか気にならないのか?」
「そんなこと、どうでもいいです」
「いや――どうでもって、アンタ」
「いいんです。それよりも、私は貴方自身の人となりが知りたいです」
「何で――そこまで」
モードレッドには理解できなかった。
何故、目の前の父上であって父上ではない存在が、そこまで自分に固執するのか。
「だって――
「――――ッ」
モードレッドは、今度こそ絶句した。
花開くような笑みで、父上と同じ顔で、父上とはまるで逆の言葉を紡ぐ。
これは、自身が妄想で生み出した理想の父上ではないのか?なんて馬鹿な思考に行き着く程度に混乱していた。
「……おかしなことを言いましたか?」
「そんな、こと。ない。待って、話すから。整理するから」
何とか対話として成立する程度の語彙を並べ立て、その間に必死に冷静さを取り戻す。
「……じゃあ、話すから」
「はい」
それから、ぽつりぽつりと話し始める。
性格、趣味、簡単な人間関係――そんな、見合いの席で語るような自己紹介を、モードレッドはひたすらに語った。
それに対してリリィは、何も言わずただ相槌を打ちながら聞きに徹している。
鏡合わせの姿は、困惑と安寧という全く異なる形容で映し出されており、各々の心境がありありと見て取れた。
「――これぐらいで、いいか?」
「はい。ありがとうございます」
「……なぁ、聞いてもいいか?」
「何でしょう?」
「アンタは――今回のような非正規な召喚ではなくて、正規の……万能の願望器たる聖杯を勝ち取るための召喚だったとするなら。どんな願いを聖杯に託すんだ?」
それは、話の間で浮かび上がった疑問。
別人だと思い込もうとしている癖に、思考は一向に納得にまで至っていない。
だからこそ、このような――父と目の前の少女の祈りが、どれだけ似とおったものなのかを確かめたいと、浅ましくも考えてしまっているのだから。
「聖杯――ですか。確かに、そんなものがあったら、便利ですね」
「だろ?だから――」
「でも、そんな大それたものに願うようなものなんて、ありませんね」
至極あっさりと。一切の躊躇いもなく。
奇跡に縋る祈りはないと、目の前の少女は言いのけた。
「……そんな訳ないだろ!誰だって、縋りたいものはある筈だ!それが、アンタが――」
そこまで言い、言葉を呑む。
王だったら猶更、と続く筈の言葉は、モードレッドのささやかな抵抗の下寸での所で留まる。
揺らぎに揺らいでも、それでも認めないと意固地になる。
――その在り方に、ふと脳裏に過る父の姿。そして、思う。
もしかして――自分は、父が自らに向けた仕打ちと、まったく同じことをやっているのではないかと。
「……そうですね。これも私が、王としてまだまだぬるま湯に浸かっている段階だからこそ、このような甘えを口に出来るだけなのかもしれません」
「あ……」
リリィの笑顔が僅かに曇った途端、モードレッドの胸が締め付けられる。
これは――後悔、なのだろうか。当人でさえ理解できない思いの丈をそのままに、リリィは言葉を続けていく。
「ですが、それでいいんです。私はまだ未熟で、王と言えども無知な小娘と何ら違いはありません。そんな小娘が、矮小な思考で理想を奇跡に預けるなんて、あってはならないんです。それは、奇跡の枠に入る存在の人生を、玩具にするのも同然なのですから」
――それを聞いてモードレッドは、とうとう沈黙した。
モードレッドが聖杯に掛ける祈りは、『選定の剣を引き抜く機会を得る』というものだ。
チャンスさえ与えられれば、自分は後継者になれる。そう思い込み、それに縋り、英霊となってから機会を待ち続けた。
だけど、それは本当に正しい望みなのだろうか。
アーサー王が、どんな考えを持ってモードレッドを後継者ではないと否定したのかは分からない。
出自を隠し接し、いざ明かしたら否定され、失意と激情に晒された経緯こそあるが、冷静に考えて裏切られたのはお互い様ではないか?
血を分けた中ではある。しかし、生まれ方が歪であるが故に、アーサー王もまた思うところがあったのかもしれない。
あの頃のブリテンは、疲弊に疲弊を重ね、最早死に体も同然だった。
アーサー王の人間離れした采配あって、ようやく維持出来ていたと言っても過言ではない。
そんな綱渡りの中、自分のようなアーサー王のクローンという、非正規な誕生をした存在を後継者に選ぶのは、果たして正しいと言えるか?
……少なくとも、不安要素の欠片でも取り除かないと、一瞬で綱が引き千切れる結果になるのは目に見えていた。
だけど生前時は、滅ぶことは有り得ないと信じ切っていた。
アーサー王の常軌を逸した能力を目の当たりにしてきたからこその、慢心とも言える考え。
そして、同じ血を引いている自分なら、それに決して劣ることのない能力を発揮できると信じていた。
――なんて、甘ったれな考え。
もしかすると、そんな甘さをアーサー王は見抜いていたのかもしれない。だから、後継者たる要素の一切を否定した。
そんなことも露知らず、認められなかった恨みから、取り返しのつかない行動に出てしまったのか。
「――あ、ああああ」
頭を抱え、うずくまる。
モードレッドが考えた通りなのかは誰にも分からない。
しかし、元々実直で素直な性格だったことが災いして、思考がマイナスの泥沼に嵌っていく。
「モードレッド……?」
「――なさい」
リリィが突然うずくまったモードレッドに触れようとした時、小さく擦れるような声が耳に届く。
「ごめんなさい……私は……なんてことを――!!」
顔を上げたモードレッドの表情は、今にも泣きだしそうで。
屈強な鎧を身に纏っているにも関わらず、その身体がとても小さく感じられた。
突然の謝罪――否、懺悔。
リリィにとっても理解の追い付かない、この状況。
何かしなければ――そう思い、リリィはモードレッドの頭を、自らの胸の中へと受け入れた。
「――――」
今まで感じたことのない暖かさが、モードレッドを満たす。
モードレッドは、知らなかった。人に愛されることの、その意味を。
教えるべき人が与えてくれなかった。誰もが教えようとは思わなかった。
あったとしても、それは偽りでしかなく。誰もが、モードレッドを本当の意味で見てはいなかった。
真に愛情を与えられるべき相手に否定され、心が壊れなかったことが奇跡なのだ。
「……もう、大丈夫です。貴方は、よく頑張りました。だから――泣いても、いいんです」
見て来た訳でも、教えた訳でもないのに。リリィはまるで見て来たかのように、モードレッドが欲しかった言葉を与えてくれる。
優しく、慈しむように撫でてくれる手の柔らかさ。
呼吸をする度に鼻孔を擽る、甘い香り。
それら全てが、モードレッドの心を解きほぐしていく。
「……私は、貴方の言う父上――アーサー王とは、違う存在です。ですが、貴方が望むのであれば、私を父親だと思ってくれても良いのですよ?私も、貴方が拒否しない限りは――いえ、例え貴方が否定しても、私はあなたを娘だと思い続けます」
モードレッドに伝わるようにゆっくりと言葉を紡いでいく。
それは徐々にモードレッドに沁みこんでいき――遂に、限界を超えた。
「――――ッ、あっ、うぁっ、ああっ……!!」
必死に声を抑え、それでも止まらない嗚咽。
それを少しでも抑えようと、リリィの胸に顔をより埋めていく。
そしてリリィもまた、何も言わず抱きしめる腕に力を籠める。
モードレッドは、無意識の内に思考する。
やはり、彼女は父上などではない。
もっと暖かな――そう、母親のような存在。
だけど、それが父上の本来の在り方だったとすれば。
王となり、シビアな現実と対峙し、何千、何万の命を背負い、それでも前に進むのが王だとするならば。
こんなにも愛を振りまく少女の心が擦り切れて、擦り切れて――その果てが、あの冷めた鉄のような王だったとするならば――王とは、まるで継承される呪いではないか。
そんな呪いから遠ざけたくて、父上は自分を否定したのかもしれない。
少なくとも……目の前の母親の如き少女ならば、そうしても不思議ではない。
そして、仮にそうだったとするなら、自分はなんて親不孝者なのか。
「ごめん……なさい。母上……はは、うえっ……!!」
知らず、目の前の少女を、母と呼んでいた。
その言葉は、思っていた以上に型に嵌っており、訂正することさえ烏滸がましいと思わせる程。
「……はい、貴方の母上ですよ」
一瞬の間。それでも母上は手を止めず、自分の戯言を肯定してくれた。
それが嬉しくて――今度こそ、声を大にして泣いた。
Q:ランサーが召喚された!
A:なお、平然とセクハラする模様。羨ましい。自害しろ。
Q:赤い機械剣……うっ、頭が。
A:搦め手二つ目。ジャンルとしては鯖ではなく礼装が召喚された的な。
Q:モーさん来た!
A:搦め手と言っていた部分のひとつですね。モーさん可愛いよモーさん。
Q:那岐君セイバー顔絶対痛めつけるマン説
A:一章からは別の女の子がターゲットになるし(震え声)
Q:モーさん性格+口調こんなだっけ。
A:気にするな!(魔王並感)
Q:リリィの母性+人の心が分かりすぎててモーさんがヤバい。
A:書いていた自分もヤバい。コハエースで駄目青王成分補給してなきゃ死んでた。その代りモーさん成分が増えて結局死んでた。