それよりよー、バレンタインイベでアストルフォ出さないとか、DWに殺意を抱いたよ。デオンくんちゃんから貰えるからまだいいけどさぁ……。
(今回も勘違い要素は)ないです。
もうタグ外してもいいんじゃないかって?(そうだな)
魂さえも燃やし尽くす獄炎が地を焼き、空を焦がす。
影によって構成されたダンテの攻撃は、彼の知るそれと比べれば速度も鋭さも数段劣る。比べるのも烏滸がましい、文字通りの劣化存在だ。
しかし、そんな攻撃でさえも那岐はついていくのがやっとだった。
那岐のイメージに存在するダンテは、多少劣化した程度では追い付けないほどの高みにいるのだと思い知らされた那岐は、苦悶の表情を浮かべる他なかった。
「『Huhooo!!』」
そんな那岐を嘲笑うように、楽しそうな声と共に猛攻を繰り広げるダンテ。
業火を纏う籠手や具足の一挙一動は、ただそれだけで那岐を着実に追い込んでいく。
炎が頬を撫でるだけでそこには斬るような痛みが走り、インファイトを常に保たれているが故に炎が酸素を奪いスタミナをも過剰に奪っていく。
そして――どういうトリックかは不明だが、その炎で焼かれた箇所は彼の驚異的な再生能力を以てしてもすぐに治らず、着実にダメージを蓄積していく。
「『Beat it!!』」
痺れを切らした那岐の回し蹴りが、ダンテの懐薄皮一枚を通す。
ダンテは飛び退いたその反動で、後方回転しながら距離を取る。
それを予想していた那岐は、聖人の掌ですかさず追撃する。
互いに肉体を武器に立ち回る中、那岐のリーチは圧倒的に那岐に分がある。
握れば捉えられるまでの距離まで追い詰めた。――そう、思ってなどいなかった。
「『――Blaze rising dragon!!』」
炎を身に纏いながら拳を突き上げ、ダンテは空高く飛び上がる。
ダンテの身体を覆い尽せる巨大な掌を、炎で出来た昇り龍が容易く打ち破る。
その勢いのまま空中で静止したダンテは、予備動作の一切を排斥した弾丸のような蹴りを那岐へと浴びせる。
しかし、それは即座に体勢を立て直した聖人の掌によって食い止められる。
数秒の均衡。結果として、互いに弾き飛ばされる形で仕切り直しとなる。
「『Fire!!』」
炎の籠手から魔力で構成された隕石が発射される。
籠手の力で炎を纏って迫るそれを、那岐は最小限の動きで回避しながら、ダンテとの距離を詰めていく。
影とは言え、自身より遥か上を行く存在を使い慣れない力で打倒できるなどと、そのような慢心を抱けるほど彼の育ってきた環境は優しくなかった。
見上げれば、常に三人の男の背中があった。
手を伸ばそうとしても、それ以上の速さで歩みを進めていく背中を捕まえるには、彼はまだ未熟すぎる。
だけど、一足飛び程度では足りず、それ以上を望めば蹴躓くことは想像に難くない。
過ぎたるは及ばざるが如し。力は所詮力でしかなく、使う者が未熟であればどんなに優れていようとも意味は為さない。
力とそれを扱う者の能力。そのどちらをも高水準に備えた兄と父を知るが故に、それを持たない自分が如何に凡夫で無才かを、改めて理解することとなってしまった。
「『……Too easy!!』」
しかし、そんなことで那岐の歩みは止まらない。
彼は良くも悪くも自己を確立しており、外側からの干渉で意思が弱まったり、意見を変えることは滅多にしない。
一度決めたこと、求められたことは投げ出すことはせず、その過程において弱音を吐くこともなければ恨みを持つこともしない、現代人とは思えない程に実直な青年。
良く言えば質実剛健、悪く言えば融通が利かないタイプであり、その悪い部分が責任感という形で彼に重石を背負わせている。
力を持つ者の義務。自分がやれるのならば、やらない訳にはいかない。
誇りを護る為でも、受け継がれた力を振るう為でもなく――ただ、自分の世界を護る為に。
家族を、友人を、仲間を、そして何より自分自身を。
そこに優劣など存在せず、よく例え話にある「どちらか片方を犠牲にしなければ二人とも犠牲になる」等という理不尽と言う名の二者択一への答えを言うとするならば、「そもそも前提としてそのような理不尽を起こさない為に力がある」と臆面もなく答えるタイプの人間だ。
答えとしてはあまりにも論点のすり替えが過ぎて不適切だと言えるが、考え方は間違えてなどいない。石橋を叩いて渡ると言う言葉があるように、安全を求めるのであれば、事前の準備を怠らないのは当たり前のことだ。
そんな那岐だが、この世界に来る以前は基本的に平和な環境に身を置いていたこともあり、護りたいという意思は雲のように不定形なままで、ただ家族を――というよりも、強者ばかりの身内に於いて唯一の例外である母を護れるぐらいにはなりたいぐらいにしか考えていなかった。
しかし、当たり前のように母に脅威が迫るなんて漫画のような事態になることはなく、言うなればただ強くなっていっただけだった。
覚悟、信念と言った英雄が持つ概念的な「強さ」を彼は持っていなかったのだ。
そして、平和な世界で生きていた彼には、それを得る機会を与えられることはなかった。
そんな時、意図せず異世界に訪れてしまったことで、転機が生じる。
自分の知る、ゲームの中に存在する英雄が跋扈する世界へと身を投じることとなり、そこで護りたいものが出来た。
それを自覚したのがいつかは、当人でさえ理解していない。そもそも、自覚すらしていない可能性だってある。
だが、無自覚であろうと根幹にそのような意識が存在するからこそ、彼は英雄にさえ立ち向かえる。
そして、彼は異質な力に目覚める。まるで、護りたいと言う無意識に引き寄せられるかのように、奥底に眠っていた力が呼び覚まされた。
だが、所詮は無意識で生まれた力であり、使い方も知らずただ振り回しているだけに過ぎない。それこそ、無意識で動いた方が使いこなせてしまう程度に、彼はこの力に無知過ぎた。
「『Is that all?』」
「『Shit……!!』」
猛攻は止まない。
ダンテは必死になって喰らい付く那岐を見て、楽しそうに笑みを零す。
所詮は影でしかない筈なのに、内に眠る感情は本物ではないかと思わせる、慈しみを孕んだそれに那岐は気付けない。
ただ、目の前の超えるべき壁を打倒したい。偽物だと理解していても、それさえ下せずして、本物を超えるなど出来ない。
勝ちたいと常々思っていた。思いだけでは足りず、されど力を詰めど届かず。
何が足りない?何が、何が何が何が――
一向に解を出せない自問自答は、ダンテの拳が那岐の顎に突き刺さったことで霧散した。
「戦闘中に考え事とは、余裕だな愚弟」
意識と共に上空へと吹き飛び、そのまま叩きつけられた那岐にダンテは近づき話しかける。
那岐はその様子に睨んで対抗するも、受ける当人はどこ吹く風。
そう、こんなやり取りは以前にもあった。ありふれた、日常の欠片だった。
「うる、さい……馬鹿兄貴が」
「相変わらずの連れない態度だな。久しぶりの再会だってのによ」
「……そもそも、本当に兄貴なのか?」
「今更過ぎる質問だな。俺はお前の知る俺じゃない。だが、あながち偽物って訳でもない」
身体がまともに動かない那岐に合わせてか、ダンテはしゃがみ込み目線を低くして会話を続ける。
「今の俺は、お前のイメージが生んだ贋作だ。だが、お前が俺をどこまでトレース出来ているかによっては、本物同然にもなれば、靴の裏にへばり付いたガムみたいなものにだって成り下がる不安定な存在。それが今の俺だ。まぁ、俺が消えても本体に一連の会話が届くことはないから、偽物ってことで問題なさそうだがな」
「意味、分からねぇ……」
「別に深く気にする必要なんざねぇよ。――まぁ、お前の想像力が貧困だってことは分かったがな」
那岐の無拍子の水面蹴りは、軽く跳躍することで回避される。
この流れもまた、日常的に行われてきた光景のひとつ。
那岐が煽られ、お返しとばかりに反撃しても軽く躱される。それこそ、じゃれあいレベルのやり取りでしかない。
「おいおい、馬鹿にしてるつもりはねぇからな?寧ろ、今の今までそのレベルに落ち着いてたことが驚きだってことでな」
「何が言いたいんだ、結局」
「焦るなよ、そんなだからモテねぇんだ。俺みたいにもっと人生楽しく生きなきゃな」
「悪いが、俺は日本人寄りなんでな。どっかの誰かさんみたいにモラルを落っことしてはいないんだよ」
「お堅いこって。アイツの面倒な所ばかり似ちゃって、お兄ちゃん悲しいぜ」
ワザとらしく肩を落とすダンテ。
それを無視し、ようやく立ち上がった那岐はストレッチをしながらも会話を続ける。
「……で、兄貴は俺と再会するが否や襲い掛かって来た訳だが、何のつもりだ?」
「そりゃあ、久しぶりの再会なんだ。ちょいと遊んでやろうと思ってな。今の俺とお前は、互角――いや、俺の方が弱いからな」
「はぁ?冗談言うなよ」
「大マジだぜ。俺がこれひとつでしかお前と戦えないのがその証拠だ」
そう、籠手をノックしながら答える。
「俺を呼んだお嬢さんが悪いと言うつもりはないが、俺を再現するにはちょっと役者不足だったってことさ。まぁ、お前を基準にしているのにお前の知らない俺を再現する、なんて矛盾が起こる訳ないんだがな。つまり、お前が悪い」
「なんて滅茶苦茶な理論だ、頭が悪いにも程がある」
「男なら女の失態を受け止めるぐらいの度量がなくちゃな?」
「否定は、しない――!!」
那岐とダンテの蹴りが鍔迫り合いの如く交わり合う。
そこから連続して行われる、蹴りによる剣戟。
斬り、薙ぎ、払い――本物と遜色ない鋭さを以て繰り出されるそれは、剣を幻視させる程に洗練されている。
だが、錬度の差は如何ともしがたく、徐々に那岐が劣勢になっていく。
「お前は、俺に勝てない。他でもない、お前自身がそう思っている限りな」
「何っ……!!」
「俺はお前のイメージによって作られた存在だ。お前は俺をと思っている癖に、心のどこかで俺には敵わないと思っている。諦めちまっているんだよ」
「違う――」
「否定すれば遠ざかるぜ?」
「俺は――」
「疑えば足が止まるぞ?」
「そんなこと――」
「受け入れなきゃ――大事なものを失うぞ?」
その言葉が切っ掛けとなった。
視界が白く染まり、見たこともない映像が那岐の脳裏に過っては消えていく。
見るも悍ましい化け物の群れ、狂気と冒涜を孕んだ地獄を彷彿とさせる風景、地面に届く程の黒髪を靡かせる少女とその傍らに立つ巨大な白狼――そして、血に塗れて倒れる母親の姿。
割れるような頭の痛みを対価に映し出される光景を前に、那岐は――
「『『A――aaaaaahhhhhhhhhh!!!!』』」
咆哮。世界を揺らすほどの叫びが、
那岐は先の映像の記憶など、一片たりとも持ち合わせていない。それは、純然たる事実だ。
だが――肉体の方はどうだ?
那岐自身確信していたではないか。この肉体は
それに、忘れてはならない。
トリガーとなった言葉を紡いだのはダンテだが、それは那岐自身が構築した存在であることを。
つまり、ダンテの言葉は那岐の言葉であり、そんな彼の言葉に狂気的な反応を示した時点で、無関係だと断ずることは不可能であると。
「やるじゃないの、那岐」
天を仰ぎ、不敵な笑みを浮かべるダンテ。
視界は陰りに覆われている。それは、目の前の存在が太陽の光さえ遮る程に巨大であるが故の、必然の光景。
神話で語られている悪魔そのものな悍ましい造形をしておきながら、その背中からは天使のような純白の羽が六枚生えており、その身から放たれる力もまた悪魔と天使の二つ分と言う、歪を極めたナニカ。
「ま、これぐらいが及第点か。――嬢ちゃん、聞こえているか」
「――え?」
今まで二人の戦いを静観していたマルタが、ダンテの言葉でようやく意識を取り戻す。
目の前の規格外の存在を前に、意識を失ってしまったが故の遅れた反応。
それも仕方ないこと。
誰がこんな結果を予想できる?こんな――山さえも軽く跨げる程の巨人が現れるだなんて。
「逃げろ。死にたくなきゃな」
「あ、アンタは――」
「弟が壁をひとつぶち破ったんだ。ご褒美がてら、今の俺の全力で答えてやるのが兄としての役目だろ?」
ダンテは拳に掌を重ね、指を鳴らしながら巨人へと近づいてく。
表情は死地に向かう者のそれではなく、これ以上となく楽しそうで、マルタは呆気に取られる。
マルタとて血の気の多い質ではあるが、流石にあんな規格外を前にして戦いたいとは思えない。
それほどまでに、目の前の巨人は圧倒的で、禍々しくて、神々しかった。
神と言う存在を強く知るマルタでさえも、畏敬の念を感じずにはいられない高次の存在へと昇華した那岐。
だが、彼女と違ってダンテは不遜な態度で歩みを止めることはない。
神であろうが悪魔であろうが、彼の者を止められはしない。その在り方は、英雄と呼ぶにはあまりにも愚かで、愚者と呼ぶにはあまりにも高潔であった。
「それに、あんたみたいな美人をそんなになるまでボコるような弟を躾けるのも、兄としての責任ってな」
ダンテはおもむろにマルタに向けて何かを放り投げる。
思わず手に取ったそれは、緑色の星型をした魔力の籠った石だった。
「傷ついた魂ごと復元させることが出来る、最上級の霊石だ。霊的な組織で出来ているアンタなら効果抜群だろうから、それでうちの弟が馬鹿やらかしたことはチャラにしてくれ」
「……ありがたく受け取っておくわ」
礼を告げたマルタは、そのまま素早く戦線を離脱する。
その姿を見送ったダンテは、つれないね、と肩をすくめながら改めて巨人となった那岐と向かい合う。
先程まで抑えていた魔力が、ダムが決壊したかのように溢れ出す。
「さて、準備はいいか愚弟?お前に本気を出すのは初めてだから――痛くて泣いても知らねぇぞ?」
その言葉に反応するように、光の巨人は吠える。
「『It's show time!』」
どこまでも楽しそうに、ダンテは光の巨人と対峙する。
ここに、傍迷惑極まりない兄弟喧嘩が始まった。
英雄達の戦闘も佳境に入った頃、それは起こった。
「な、何……?」
誰となく呟かれたそれは、突如現れた地面の揺れによるものだった。
微弱なそれから、次第に高まっていく振動に、英雄達は戦慄する。
継続するのではなく、断続的に行われるそれは、まるで何かが歩行しているような――
「おい、アレなんだよ……?」
バーサーク・ランサーを倒し、いざセイバー・リリィの援護に回ろうとしていたモードレッドが、彼方を見つめながら呟く。
そこには、光の巨人としか表現できないモノがあった。
遥か彼方に存在するにも関わらず、放出する光と山をも越える巨大さが、嫌でも存在を目に焼き付けてしまう。
神々しくありながら、どこまでも禍々しく感じられるそれは、幾多の戦場を駆け戦果を挙げ、時には異形の怪物でさえ屠って来た彼らをして恐怖させた。
化け物だの、悪魔だの、そんな陳腐な表現で形容できるかさえ怪しい。ただ言うのであれば――格が違いすぎる、の一言に尽きた。
「綺麗……でも、何故でしょう。とても、悲しいです」
光の巨人を茫然と見上げるマシュの呟きは、誰の耳にも届かない。
誰もが光の巨人に集中するあまり、この場が戦場であることさえ忘失させていた。
「――――」
予想外にも、英霊の中で一番に意識を取り戻したのは、バーサーク・アサシンだった。
アレの危険性を瞬時に察知した彼女は、隙だらけなランサーを追撃するよりも、逃げると言う選択肢を選んだ。
数を減らしたとはいえ、未だ健在のワイバーン達は、洗脳を振り払い一目散に逃げ出しており、最早戦力にはならない。
彼女は英霊ではあるが、斬った張ったをして名を残した英霊ではない。所謂反英霊と呼ばれる存在で、その功績もまた、地位を利用した恐怖と流血を以て欲望を満たしてきた、悪の側面によって英雄として扱われたバグ。
武勲によって英雄となった訳ではない彼女だからこそ、光の巨人に呑まれる以上に恐怖が勝った。
なまじ腕っぷしに自信のある者程、現状に危機感を抱けない。実力に裏打ちされた自信がそうさせたのだ。
――だからこそ。英霊でも何でもない一人の少女が、いの一番に行動を起こしていたことに誰も気付けなかった。
「――――ッ、待ちなさいリコ!!」
愚行に気付いたのは、リリィだった。
脇目も振らずに光の巨人に向けて走り出す理子を止める。
英霊と人間では、身体能力の時点で差がありすぎる。ましてや、鍛えてもいない少女のそれでは、振り切ることなんて出来る訳もない。
「放して、あっちには那岐さんが!!」
「マスターが……?」
「私を庇って吹き飛ばされた方向と一緒なの。だからきっと、あそこには」
「だからと言って、貴方が単身向かった所で何になります。むざむざ死にに行くものです――ぐっ!!」
突如、苦悶の声を上げて膝をつくリリィ。
バーサーク・セイバーとの死闘の果て、決着の瞬間に受けた決して浅くない傷を通して、純白のドレスが朱に染まっていく。
鎧さえ纏っていない彼女にとって、一発のダメージは他の英霊と比較にならないぐらいに重い。
その分速さに重きを置けると言う長所もあるが、今回のように差し違える覚悟で放たれた一撃と言う、回避不可能のタイミングで繰り出されたそれに対抗する手段を持たないのは、目に見える大きな欠点だ。
元より死を覚悟していたバーサーク・セイバーにとって、この一撃こそが本命。
例え自らを踏み台とすることを是としても、手を抜く理由にはならない。
寧ろ、この一撃を以てリリィが反省を糧により高みへと向かう可能性を思えば、これもまた必要な行程だったと言える。
しかし、そんなバーサーク・セイバーの思惑を知らないリリィにとっては、この傷はただのマイナスでしかない。
事実、その隙を突いて理子は再び走り出してしまう。
「貴方は休んでいなさい、リリィ」
透き通るような声が、頭上から降り注ぐ。
見上げれば、硝子細工の馬に騎乗したマリーがいた。
「多かれ少なかれ、皆さん消耗している。この場で唯一消耗していない私なら、彼女を連れ戻すぐらい出来るわ」
後方を振り返ると、所々に負傷し息も未だに整わない仲間の姿が目に付く。
彼らは決して弱くはない。だが、英雄同士の戦いともなれば、単純な実力の強弱に意味はない。
技量、扱う武器、地形、得意な戦術、そして宝具。ひとつひとつが味方であると同時に、自らを不利に陥れる敵とさえなり得る。
常に十全で戦えるなんて有り得ない。英雄達は、常に逆境の中で命を賭して戦ってきた。
綺麗な勝利など理想でしかなく、勝つためならば多少の犠牲を払うことも厭わない。
それが個人での戦術レベルともなれば、やれることも限られてくる。
その結果が、絶えない生傷だ。犠牲に出来るものが、己自身ぐらいしかない以上、それも必然。
そういう意味では、言葉のみで無血勝利を収めたマリーは、やはり人の上に立つ者であって、真の意味での英雄とは程遠い存在であることは疑いようもない。
「ならせめて、その馬に」
「駄目よ。この子の積載量は多いとは言えないし、人間一人の重さが増すだけで速度が落ちて理子がより危険に晒される可能性が高くなるわ。――問答している暇はないわ、みんなは休んでいて」
硝子の馬を撫でると、それに答えるように走り出した。
マリーに暗に足手纏いだと揶揄されたことに怒りはない。寧ろ、マスターを奪われ、取り戻すことさえ出来ない己の弱さを呪うばかり。
「母上……」
「モル……大丈夫ですか?」
「ああ。万全とまではいかないが、そこまで消耗してはいない。それよりも、母上の方が」
「私は平気です。流石に戦力になれるほどではありませんが、死ぬに至る程ではありません」
「畜生っ、オレがもっと早くあの野郎を仕留められていたら……!!」
「貴方に非はありません。これは、私の未熟が生んだ結果」
そう言われてしまえば、モードレッドも反発出来ない。
彼女が未熟なことはモードレッド自身も知るところであるし、下手な慰めは侮辱にさえなる。
王となるべく邁進しているとはいえ、リリィもまた騎士と呼べる存在。決して無下に出来る要素ではない。
歯噛みすることしか出来ない自分自身に、苛立ちを隠せないモードレッド。
護ることも出来なければ、精神的な支えにさえなれないことが、ここまで辛いものなのかと思わずにはいられない。
そして所変わってマリーはと言うと、非常に落ち着いた心境で馬を走らせていた。
道なき道を優雅に駆けていく姿は、死地に赴かんとするためのものとはとても思わない程に落ち着いている。
光の巨人は、まるで何かと戦っているかのように、緩慢ながらも鋭い動作で拳を震わせている。
那岐が戦っているのか?そんな疑問に行き着くより早く、理子の背中に追い付く。
地震によりおぼつかない足取りの彼女を、通り過ぎ様に引っ張り上げる。
「きゃっ」
「ごめんなさいね。でも、あのままだと転んで怪我をしていたわ」
引っ張り上げられた理子は、そのままマリーの背後に回る形で馬を跨ぐ。
必死に走っていたせいで整わない呼吸の中、彼女は言葉を紡ぐ。
「マリーさん……どうして」
「どうして?変なこと聞くのね」
「そ、そうですよね。やっぱり私を連れ戻しに――」
「あの光の巨人の所に行くために決まっているじゃない」
――予想外の答えに、ポカンとした。
子供のように純粋な瞳で答えるものだから、それが嘘でないことが嫌でも分かってしまう。
理子は自分が同じことをしてしまった手前、マリーに掛ける言葉が見つからない。
「さ、行きましょう?」
混乱の最中、マリーが光の巨人へと向かおうとした時、目の前に人影が介入する。
「お待ちなさい」
そこに居たのは、ジャンヌ・オルタ側のサーヴァントであるライダーだった。
しかし、以前と異なり服装に乱れや汚れが見られる。にも関わらず、怪我のようなものはどこにも無い。
「あら、貴女は?」
マリーは素直に馬を停止させ、視線を同じくせんとそこから降りる。
「ま、マリーさん!あの人、敵サーヴァントです!」
柔和なマリーの態度とは裏腹に、その存在を知る理子は慌てて警戒を促す。
「敵?と言うことは、あの光の巨人は貴方が関わっていると見て良いのかしら?」
「当たらずとも遠からず、ですね。ですが、仮に私がこの場で倒されようとも、そうでなくとも、彼の巨人はいずれ消えることでしょう」
「……良く分からないのだけれど、あちらには私達の仲間がいるの。通して下さらない?」
「駄目です」
にべもなく返される。
しかし、言葉から一切の悪意を感じない。
「誤解なきよう言っておきますが、貴方達の前に現れたのは、戦う為ではありません。あくまで、今はまだお通し出来ないのであって、時が経てば喜んで道を譲る所存です」
「……何を企んでいるの?」
恐る恐る理子は問いかける。
ライダーはそんな対応にも優しく微笑んで答える。
「今、貴方達の求める人物は、試練の中にいます。超えるべき壁を超える、次のステップを踏み出すための重要な儀式。それは決して、誰にも邪魔される訳にはいかないもの」
「貴方は、彼の何を知っているんですか」
訳知り顔で語り出すライダーに対し、ほのかな敵意を抱く理子。
確かに、自分は那岐と多く接点がある訳でもない。数日前に偶然出会ってから、浅くもなく深くもない付き合いをしているに過ぎない。
だけど、間違いなく目の前のサーヴァントよりは彼を理解している筈だ。
それなのに、あの態度。まるで自分と那岐の繋がりを馬鹿にされているようで、嫌だった。
「私は自分で見て、聞いて、感じたことしか知りません。彼と対峙して、言葉を交わして――」
そこで一旦区切り、首を横に振る。
まるで、余分なものを振り払うかのように。
「――とにかく、貴方達を今向かわせる訳にはいかない。私は、彼に希望を見出している。その希望の芽を摘もうと言うのなら、容赦はしません」
ライダーは杖の切っ先を突きつけ、宣言する。
しかし、恐怖はない。怒気も殺気もない、上辺だけの言葉では、王女であるマリーはおろか、軽い死線を超えたばかりの理子には届かない。
だが逆に言えば、そこまでしてなおライダーが自分達を故意に害する気はないと言う意思表示でもあった。
狂化に侵されている筈の彼女が、何故ここまで理性的でいられるのか。
理由は分からない。だけど、自分達の知らない間に那岐を中心に大きな変化が起きている。それだけは間違いない。
「……分かったわ。大人しくしていましょう」
「マリーさん!?」
「私は、彼女を信じるわ。本来なら問答無用で敵対しなければならない関係なのに、それでも彼女は交渉で場を収めようとした。理由こそ分からないけれど、少なくとも利で動いているようには感じられない。だから、心配いらないかなって思ったの」
「でも、那岐さんが心配じゃないんですか?」
「大丈夫よ」
マリーは振り返り、理子の頬を撫でる。
根拠も何もあったものではないそれは、不思議と正しいと思わせる魔力を秘めていた。
これが、革命の時まで国民に愛され続けたた少女、マリー・アントワネットのカリスマの為せる技なのか。
「それに、もうすぐよ」
マリーに釣られる形で見上げると、光の巨人は苦しそうに身体を震わせたかと思うと、一際眩い光を放ったかと思うと、光が収まった先に巨人は既に存在していなかった。
遠くからでも分かる木々の倒壊からの破壊の跡だけが、光の巨人が確かに存在していたことを証明していた。
「もう、行っても?」
「ええ、お好きにどうぞ」
ライダーの許可を得て、その横を通り過ぎたかと思うと、マリーはライダーへと振り返る。
「貴方は来ないの?」
「……私はいいわ。どうせ、また会うことになるでしょうから」
そう言い残し、ライダーは立ち去る。
去り際の陰りのある表情に思う所はあったが、それよりも今か今かとうずうずしている理子の意思を尊重すべく、マリーは馬を巨人のいた場所へと走らせる。
進むにつれて開けていく視界。それは、巨人の暴れた余波によって生み出された光景であり、味方の存在を無視してその発生源に向かおうとしている自分達は、正しく愚か者なのだろう。
だが、それでも。那岐が心配だから、ただそれだけの理由で駆けつけられると言うのは、得難い絆であることに違いはなく。この行動をただの蛮勇と切って捨てる権利は誰にもありはしない。
『理』と『利』で感情を支配することは誰に出来ない。
不確定要素を無限に備えた存在。それこそが人間であり、だからこそ人は時には超常を行使し竜、果ては神さえも殺すといった、現実には考えられないような奇跡を起こしてきた。
それを架空の物語と俯瞰するなかれ。いつだって現実は、想像の斜め上を超えて我らを逆に見下しているのだから。
「あ、あれ――!!」
理子の指差す先は、巨人の足元だったであろう大地。
苛烈な戦いの跡か、クレーターを通り越して壁の如くせり上がる地面、その合間を縫うように那岐の横たわる姿を発見する。
それに隣り合うように赤色の籠手と具足が無造作に置いてあるのを視界の端に捉えるも、それは今重要なことではないと切り捨てる。
「那岐さん、那岐さん――!!」
理子は慌てて馬から飛び降りたかと思うと、ボロボロになった那岐の下へと走り出す。
乱暴に肩を揺する行為は、本来ならば不適切とも言えるものであり、流石のマリーも止めようと声を掛けようとした時、突如理子の身体が前のめりになる。
それは、那岐の手によって理子の身体が引き寄せられたことで起こった結果であり、必然的にその勢いのまま理子は那岐の胸に抱きしめられる形で収まる。
突然の出来事に、理子は困惑することしか出来ない。
「――良かった、生きてて、くれた」
絞り出すような声と共に、抱き締める力が一層強くなる。
しかし、気持ちを押し付けるようなそれではなく、あくまで慈しみを忘れない優しい抱擁。
男性特有の固い胸板と、ほのかに感じられる体温。汗と土の匂いに紛れた、彼自身の匂い。それらが一体となり、安穏とした気分になっていく。
ここで何が起こったかは分からない。だけど、こんなになって尚自分の身を案じてくれていたのかと思うと、不謹慎にも喜びを隠せずにはいられない。
しかし、そんなひと時はすぐに終わりを告げる。
理子を抱き締める腕の力は徐々に弱まっていき、するりとほどけるように離れていく。
静かな寝息が聞こえる。それを邪魔しないように身体を起こすと同じくして、リリィを初めとした味方サーヴァントが追い付いてきた。
叱られるだろうな、という陰鬱な気分から逃避するように、理子は先程の温もりをただ反芻し続けた。
メルティ・スイートハートのマシュが加えたチョコを近藤さんにして、目の中にハートマーク追加したコラ画像誰か作ってくれたら、次の投稿が早まるかもしれないネ!
今回のガチャはジャンヌもついでに狙いたいからしばらくはお預けかなぁ、当たる気はしないが。
それよりもメンテだよメンテ―。いつものこととはいえ、完全にお茶濁されている感が凄くて歯痒いと言うか、せめて寝る前に少しでもAP消化したかった……何とか体験クエと第一話だけはやったけど、それだけだし。
Q&Aはどうしたって?昨日逮捕された。DW関係者の娘とヤッちまって。