エイプリルフールと言えば、リヨさん過労死事件もあるけど、それ以上に十連ガチャで一度に波濤の獣が四枚出た事実をエイプリルフールにしたかった。因みに二十連して新規カード出たのが、波濤の獣とレコードホルダーとジェロニモだけだった。死にたい。
煩わしいほどに燦然と輝く太陽の下、私の身体は翼を得たかのように風を纏い自由意思のない低空飛行に身を委ねる。
布越しに伝わる温もりは甘く蕩けそうなのに、その事実を否定しようとしている自身もいる。
あの人とはまるで異なる魂だと言うのに、私はあの人を忘れてしまいそうになるほど、目の前の男性に傾倒していた。
音痴ドラゴン娘との言い争いの最中に現れた、異常な数の飛龍。私はその数の暴力を前に、あわやその命を散らす直前に――彼が現れた。
巨大な片刃の剣を横薙ぎに振り払ったかと思うと、両断された飛龍を弾丸として後続の飛龍達をも吹き飛ばした。
勢いをそのままに、地に伏した飛龍の一体に剣を突き刺したかと思うと、柄を思い切り捻り騒音を掻き立てながら、飛龍の背に乗り大地を滑り始めた。
そして、彼は私へと手を伸ばし――しっかりと、離さないと言わんばかりに強く握り締め、引っ張り上げた。
彼の胸の中に引き寄せられた私は、呆然とした様子で、彼を下から見上げる。
私よりも頭一つ分抜けた身長、布越しから伝わるがっしりとした体格、凛々しさの中にどこか垢抜けない雰囲気を感じさせ、母性本能が擽られるといった、女性を――否、雌を惹き付ける魅力を持つお方。
私の愛して、敬愛して、慈愛して、愛寵して、愛して愛して愛して愛してアイシテアイシテアイシテタマラナイ――あの人とは何もかもが違うと言うのに、何故心が揺れるのだろうか。
「今から手を放す。しっかり掴まっていてくれ」
ぶっきらぼうにそう告げると、彼は私の背中に回していた手を放す。
名残惜しさを振り払うように彼の腰に手を回す。
男らしい体型をこれでもかと感じるだけではなく、汗から発せられる男性フェロモンを否応なしに鼻孔から肺へと吸い込んでしまい、それが脳を犯していく。
分かっているのに、逃げなければならないのに、まるで麻薬のような依存性を持つソレを前にして、私の身体は石像と化したように動かない。
寧ろ、前のめりに倒れる勢いで彼の胸元に入り込もうとしている。穴と言う穴から、彼の存在を取り込まんとするかのように。
愛している筈のあのお方への想いを、進んで捨てようとしている自分を軽蔑する。
お前の愛はその程度のものだったのかと、私の冷静な部分が叱咤しても、止まらない。
ここに在るのは、ヒトではない。本能のままに身を任せる獣――獲物を丸呑みして血肉としてでもひとつになりたいと言う祈りだけを持つ蛇だ。
しかし、最後の防波堤となっているのは、私自身が刻んだ誓約と呼ぶに相応しい祈り。
この世のありとあらゆる"嘘"と言う概念の否定。如何なる理由があろうとも、嘘は悪しき物と排斥するという絶対の意思。
それは最早、私自身を構成するにあたり欠けてはならないものへと変質している。
嘘による裏切りが生んだ、揺るぎない個性。傍から見れば子供の癇癪と同レベルの我儘。
他人にも自分にもそれを強要し、違えれば憤怒の炎によって対象を焼き尽くさんとする。
それはまるで龍の逆鱗に触れた者の末路のようで、自分がどのような存在へと昇華したのかを改めて思い知らされる瞬間でもある。
そして、湯だった思考の中で浮かぶ更なる疑問。
まるで他人事のように自己分析出来ていることが、何よりも異常なことであること。
嫉妬と嘘への叛逆によって作用する狂気は、一見理性的に見えても根幹にあるのは獣のような欲望が為す、一方通行の意思伝達に過ぎない。
自分の世界のみを許容し、それ以外からは目を逸らす。
誰しもが一度は夢想するであろう、殻に閉じこもることで得られる理想郷。
しかしそれは、人が人である為に欠かせない他者との繋がりを代償にしなければ得られず、支払った所でそれを維持する為に再び繋がりを渇望せざるを得ないと言う負のスパイラル。
そして、私の狂気も繋がりなくしては作用しない、限定的なもの。
女としての――否、雌としての本能を揺さぶるのは、いつだって夢中になれる雄の存在あってこそ。
しかし、本来私には既に意中の男性が居て、その人以外は視界にさえ映らないぐらいに傾倒している筈。
だと言うのに、私の意識は別の男性に取られている。狂気に陥る程に愛を捧げた存在を、まるでどこにでもいるいち男性と同じカテゴリに当て嵌めようとしている。
唾棄すべき感情である筈なのに、嫌悪感と歯痒さに苛まれながらもソレを許容することを受け入れている自分が、何よりも気持ち悪い。
矛盾を重ねた矛盾。毒が裏返り正常を表すような歪な矯正。
狂気が狂気を呼び、あらゆる感覚が前後不覚に陥る。
嘘を誰よりも嫌う私が、狂気の果てに自らを騙そうとするなんて、何たることか。
それが正常の証だとしても、そんな感覚など忘れて久しい自分にとって、今の状態こそが異常であって、そんなものを易々と受け入れることなんて出来はしない。
改めて、私を救ってくれた彼の魂を観察する。
彼の魂は、暴虐の限りを尽くさんと暴れ狂う巨大なソレを、見ることさえも憚られる程に清らかな膜に包むことで均衡を保っていると言う、古いロープで綱渡りをするような、存在そのものが奇跡と呼ぶべき一種の芸術品。
膜の存在が彼を正常足らしめており、もしそれが破られればどうなることか。
一歩間違えれば悪逆の徒と成り果ててしまいそうで、だと言うのに彼自身はどこまでも透き通った魂をしている。
彼を許容すると言うことはつまり、火鉢に進んで手を入れるようなもの。まず間違いなく、無事では済まないだろう。
だけど、そんな痛みさえも快感へと変換されていく。これが愛する者から受ける苦痛だからこその結果だと言うのなら……もはや、問答は無意味なのかもしれない。
どんなに取り繕うとも、自分を騙そうとしても。心がそれを否定してしまえばそれまで。
ならば、どこまでも墜ちていこう。この甘い泥の中へ、深く深く。逃れらない程に沈み込もう。
それが許されない所業だと言うのならば、切り離そう。生前の愛に生きる自分と、これからの愛に生きる自分を。
そうだ、それならば浮気にはならない。私は私であって、私じゃない。そうだ、それならば何の問題もないではないか――
「――なんて、心地よいのでしょう」
ごめんなさい、安珍様。移り気のある愚かな妻を許してください。
サーヴァントとして生まれた、この泡沫だけ。私――清姫はただ一度の罪を背負い、目の前の男性と共に生きていきます。
静寂を取り戻した中、見上げるとそこには薄く微笑む彼の――私の
放棄されたと思われる砦を道中に発見したはいいが、遠巻きから分かるぐらいにワイバーンが集合していることから、何かがあると判断した自分達は、全力ダッシュでその場へと向かう。
そこでは、サーヴァントと思わしき二人の少女がワイバーンに襲われており、咄嗟に近くにいた白い角の方の子に襲い掛かる奴らを蹴散らしてしまった。
つい少し前にみんなに迷惑を掛けたばかりなのに、これである。
かんにんやーー!!しかたなかったんやーーーーー!!身体が勝手に動いたんやーーーー!!
ここまで来たらどうにでもなれだ、と開き直って後の説教タイムに絶望しながら暴れまわった。
思えば、最低なことをしたよ。
助ける為とはいえ、ワイバーンにトドメで突き刺した反動でグリップが回ったものだから、車線上(?)にいた助けようとした子を思いっきり抱き締めたんだもん。
ロクに風呂にも入れない環境で、近場に水場がなければタオルで拭くが関の山な状態で、毎日が快晴で激しい運動をするものだから衣服も当然汚れたり汗が沁みこむ訳で、そんな不潔な身体を触らせてしまったのは、状況が状況とは言え本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
その少女――清姫は、笑顔で許してくれたんだけどさ。ええ子や……てんすがおるでぇ……。
あ、でも間違いなく気にしているとは思うよ?真名を名乗ったけど、清姫は自分をバーサーカーと呼んでほしいと一点張りするし、何かにつけて見られてることからも間違いないと判断していいだろう。
改めて謝罪の場を設けたくはあるんだけど、いかんせんそんな私事に時間を割いていられる余裕もない。
そしてもう一人の黒い角の少女は、エリザベート・バートリーと名乗っていた。ランサーらしいです。
那岐知ってるよ。若さを求めるあまりに女性の血の風呂に入ったって言われている人でしょ?
普通なら怯えるんだろうけど、見た目からして恐らく彼女はそんな残虐なことをする前の状態で召喚されたタイプだろうから、気にする必要もないだろう。理子ちゃんが居たら別だったかもだけどねー。
ツッケンドンな感じだけど、根は良い子っぽいし杞憂だろうけどね。
それはともかく、図らずも仲間を二人手に入れた――バーサーカーは自分から、エリザベートは渋々と言った様子で――訳だが、これからどうしよう。
ガンガン先に進んでもいいんだけど、リヨンの方も心配なんだよね。
同じ気持ちなのか、リリィもどこかさっきの戦いで精彩を欠いていたし。うーん。
そんなことで悩んでいたら、エリザベートがカーミラをこの手で始末したいと言って躍起になり出したのだ。
カーミラって誰ぞ、って思ったらバーサーク・アサシンのことね。しかも、聞くところによればアレが未来のエリザベートの姿なのだとか。
なるほど、同一存在が現界していられるのも、過去と未来で実質別の存在として区切られているからってことで問題ないのか。
カーミラの方は反英雄に属するタイプで、エリザベートは純粋な英霊として召喚されたと言う考え方も出来る。
ジャンヌ・オルタが召喚したことで、性質の近いサーヴァントが引き寄せられたと考えれば、納得がいく。
兎に角、そう言われてしまえば協力しない訳にはいくまい。彼女は、己の運命を知りつつもそれに屈することなく、抗おうとする彼女の意思を尊重したいと思う。
それに耳寄りな情報で、彼女達はどうやらゲオルギウスと名乗るサーヴァントと遭遇していたらしい。
誰?と思ったけど、聖ジョージだと知って納得した。
そのゲオルギウスは、聞く限りではリヨンの方向へと向かったらしい。
入れ違いになってしまったのは不幸だが、まだ味方してくれるサーヴァントが存在してくれていると言う事実は、これ以上とない希望である。
ゲオルギウスはジャンヌ・オルタが召喚した意図せず狂化を付与されたサーヴァントを殲滅すべく行動しているらしいので、いずれは合流するのは確定だろう。その間に、彼が倒されなければの話ではあるが。
結局、ゲオルギウスとの合流を目的に、一度リヨンに戻ることになった。
ロマニに通信で事情を説明しよう――そう思った時、ロマニの方から突如通信が入った。
焦燥に塗れた声色から発せられる内容は、リヨンにファヴニールとサーヴァントの群れが襲撃してきたという、一同を絶望へと駆り立てるものだった。
Q:清姫(のアイデンティティ)が死んだ!
A:ホモの安珍からNTR分には誰も不幸にならないし問題ないよね!なお那岐君にはそんな気は欠片もなかった模様。
Q:清姫今どんな状態なの?
A:狂化:EXはそのままに、理性が極限まで保たれている状態。決別する、と自答しはしたものの、それを完全に受け入れることが出来ていないので、那岐君に対してのアプローチはかなり消極的になっている。清姫ではなくバーサーカーと呼ぶように願ったのも、安珍を好きな清姫と、そうではない清姫を差別化させる為の暗示の意味あってのもの。
Q:そんな無理矢理なテコ入れしなくても那岐君なら問題ないのでは?
A:そうだよ(確信)。きよひーだろうがブリュンヒルデだろうが、彼に全部押し付ければ丸く収まると思う。那岐君が無事とは言わないけど。