どうしてこうなった日記~ぐだぐだ人生録~   作:花極四季

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ゲームが面白くて、FGOがイベントしてくれなくて腐ってたけど、持ち直した。
でも、APを吸われた思い出が強烈に残っている。リトライ事件だったり、林檎でAP回復してプレイ出来なくなったり、回復して即メンテだったり、言葉もないね。

でもまぁ、ハロエリちゃんが強くて可愛いからトントンかな。他の鯖もこれぐらい再臨楽にしてくれよな~頼むよ~

あ、でもガチャでムーンセル出るのは許せないかな。キャス弧もプチデビルもないし、アイテム回収でお流れかなぁ……。


~GRAND BATTLE 1/2~

洞窟を歩き続け、遂に最奥へと辿り着く。

狭い通路を抜けた先には、先程までの道が嘘のように広大な世界が広がっており、誰しもがその異質な光景に息を呑む。

地下深くである筈なのに、天井はまるで雲に覆われているかのように暗黒で満たされており、それ以上に目を惹いたのが、切り立った絶壁の上に鎮座している、大聖杯の存在だった。

 

「あれが……大聖杯?」

 

理子が虚げに呟く。

ただ見ているだけなのに、呑まれてしまいそうな錯覚が彼女を襲うも、何とか堪える。

 

「なんて馬鹿げた魔術炉心なの……?こんな超抜級のものが、辺鄙な極東の島国にあるっていうのよ……」

 

カルデアで幾多の神秘を目撃してきたオルガマリーでさえも動揺するレベルの聖遺物。

ただそれだけで、目の前の存在がどれだけの代物であるかを想像するのは、容易にして困難を極めた。

 

『どうやら、アインツベルンという錬金術の大家が制作したそうです。ホムンクルスのみで構成された、魔術協会に属さない一族のようですが……』

 

ロマニの関心と驚嘆がないまぜになった言葉は、リリィが突如として剣を構えたところで中断される。

 

「――そこにいるのは、誰だ」

 

どこか確信を持った声で虚空へと語りかける。

そして間もなく、大聖杯の影から悠然と現れる影。

 

「―――――」

 

それは、冒涜そのものだった。

顔つきはまさに瓜二つ。しかし、その発する覇気は真逆で。

見開いた眼球は、捉えるもの全てを塵芥と評しているかのように色を持たない。

鎧から籠手に掛けて漆黒と赤の紋様で染められたそれは、僅かな光によって鈍く光る。

そして――今まさに地面に突き立てられた、漆黒の剣。

光を呑みこむ程に黒く染め上げられたそれは、どこか見覚えのある造形をしている。

 

「う――そ、」

 

それは、誰の吐いた言葉だったのか。

事前に聞かされていたとはいえ、目の当たりにするまで信じられなかった。

それは、白百合の如く清廉な少女を間近に見てきた弊害か。

だが、最早間違える筈もない。――否定したくとも、眼前の光景が脳に焼き付いて決して離れない。

 

「分かっちゃあいるとは思うが……俺が言っていた奴は、アイツだ」

 

「――――ッ」

 

リリィの剣を握る手が、微かに震える。

当事者である彼女にとって、覚悟していたとはいえこの現実はあまりにも――

 

『そのよう、だね。変質してはいるけれど、彼女は間違いなく……』

 

ロマニも言い淀むが、それが確信の決定打となった。

外見が如何に歪になろうとも、その本質は決して変わらない。

アーサー・ペンドラゴン。合わせ鏡のようで、どこまでも別の存在が、互いに顔を合わせた瞬間だった。

 

「――ハ、どうした小娘。手が震えているぞ」

 

それに満足したかのように、墜ちた騎士王は頬を微かに吊り上げる。

騎士王は蛇のような視線で、リリィを射抜く。

同一存在と対峙したというのに、一切の動揺を見せる様子はない。

 

「……って、テメェ喋れたのかよ!だんまり決め込んでたのは無視しやがってたってことか!」

 

キャスターが食い気味に騎士王へと声を荒げる。

 

「どこに行けども目が光っているからな。策に乗るのは気に食わなかったというだけだ。――それよりも、だ」

 

ギロリ、と今度はマシュに対しても同じ眼光を向ける。

決して少なくない動揺を見せたマシュに対して、手前勝手に話を進めていく。

 

「そこのサーヴァント、貴様も随分と面白い。――共々構えろ、その剣と守りが真実かどうか確かめてやる」

 

宣告し、漆黒の剣を下に向けた構えを取る。

威圧感となって放たれていた魔力が、騎士王へと収束していく。

安定と不安定の波を繰り返し、今にも爆発しそうなまでに高まっていく。

 

「皆さん、下がって――!!」

 

マシュは地面に大楯を突き立て、魔力を集中させる。

 

「卑王鉄槌、極光は反転する……光を呑め――!!」

 

「宝具、解放します!!」

 

瞬間、互いの魔力は同時に解放される。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)――!!」

 

「――仮想宝具・擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!」

 

光さえ呑みこむ黒濁の波濤が押し寄せる。

マシュの展開した極大の魔方陣の盾が、彼女を中心に波の軌道を逸らす。

しかし、その暴力的なまでの波動は、盾で遮られてなお勢いが削がれるどころか、徐々にマシュの身体を押すにまで至っていた。

 

「うぅ――ぅあああああああああ!!」

 

恐怖を叫びで掻き消し、大地を砕かんばかりに踏み込み、耐える。

呑まれれば、それで終わり。あの威圧感にも、墜ちた聖剣から放たれた暗黒そのどちらにも。

暗黒が地面を容赦なく抉り取るその光景は、まさに地獄の体現。

それから皆を護ることが出来るのは、自分しかいない。

脳裏にちらつく諦観と失意を飲み干し、永遠とも思える時間を耐える。

――そして、遂に終わりは訪れる。

 

「耐えたか。しかし――それまでか」

 

黒の聖剣を、まるでこびりついた血を飛ばすように軽く振りぬくと、同時にドサリと言う音が響く。

 

「理子!?」

 

オルガマリーが突如倒れた理子を支えるも、研究者である彼女が女性とは言え抵抗の一切ない肉体を支えられる筈もなく、同じくして倒れ伏す。

 

「ちっ――魔力切れかよ」

 

キャスターが失態と言わんばかりに舌打ちする。

即興の契約、そこから二人目のサーヴァントとのパスを繋げ、宝具まで何度も使用している。

そして、今回の宝具同士のぶつかり合いを制す為に、理子の魔力量を度外視してマシュが防御につぎ込んだ結果が、今の惨状だ。

適正レベルの低い彼女の魔力が今まで持ったのは、奇跡としか言いようがない。

 

「これでキャスターもただの案山子と成り下がったか。軟弱なマスターだと如何な英傑と言えどまともに武を振るうことさえ出来ない。哀れなことだ」

 

「マスターを……先輩を、馬鹿にしないでください」

 

「されど、事実だ。ただの一度耐えただけで勘違いしているかもしれんが、私は際限なくあの力を振るうことが出来る。魔力残量など、取るに足らん問題だ」

 

どこまでもはっきりと紡がれる言葉から、それが偽りでないことを如実に表していた。

この狂った聖杯戦争と、大聖杯の存在を考慮すると、墜ちた騎士王が大聖杯の魔力を余すところなく使えるとしても、何ら不思議ではない。

そもそも、耐えたと言えどマシュ本人もまた消耗が激しい。魔力残量があったとして、果たして二度目を耐えられたことか。

 

「――さぁ、どうする?戦えるのは小娘一人……いや、そうでもないか。だが、実質の戦力は貴様一人だぞ?」

 

再び蛇のような双眸がリリィを捉える。

息を呑み、黄金の剣の切っ先を騎士王に向ける。

 

「言われるまでもない」

 

「……是非もない。ならば、戯れと行こうか」

 

切り立った崖から降り、同じ目線の大地に騎士王は立つ。

 

「宝具は暫く封印してやる。せいぜい剣技で私を抜いてみろ」

 

その言葉を皮切りに、リリィが騎士王へと迫る。

言葉は不要、ただ剣で語るのみ。それを体現するように、魔力の解放と共に斬り結ぶ。

 

「ゼアアアアアッ――!!」

 

「――フ」

 

リリィの乾坤一擲の一撃は、騎士王の片手で握っただけの聖剣に阻まれる。

ただの一度で、彼我の戦力差が如何な物かを証明されてしまった。

しかし、リリィの心は揺れない。

未熟は承知の上で、かつ目の前の存在は未来の可能性である自分。弱いと思える訳がない。

片や一撃一撃を全力で振るい、片やそれを涼し気に受け止める。

ここまで差があるかと、驚嘆に値する。

自分にもそこに至れる潜在能力があるかもしれないという希望と、この状況を乗り越えられなければその希望も水泡に帰すだけという現実の板挟み。

 

「余裕だな。ならば、これでどうだ?」

 

そんな思考の揺らぎを、嘲笑うように付け入られる。

受け止めるだけの用途だった剣をリリィの剣戟に合わせ、思い切り弾き飛ばす。

辛うじて剣を手放すことはなかったが、手の痺れが尋常ではない。

そこからは、防戦一方だった。

先程の真逆とは到底言えない。立場は逆転すれど、遊びと全力の差まで逆転することはない。

 

「温い」

 

そう一蹴し、容赦のない蹴りがリリィの横腹に叩き込まれる。

地面を削り取り、勢いを殺さず岩壁へと激突する。

たった一撃で、状況は最悪へと追い込まれた。

――そもそも、やろうと思えばいつでも出来たのは、分かり切っていたこと。

騎士王にとっても、今の一撃は遊び程度のものだったに過ぎない。

生きた年月が違えど、同じ出自、同じ人生を歩むであろう同一存在で、ここまで差が出る。

それは、騎士王の人生が如何に苛烈で試練に満ちていたのかを表していた。

 

「ぐ――」

 

「マスターの素養は知らんが……サーヴァントは脆弱だな。まだ、あの盾の小娘の方が見所がある」

 

冷めた視線で、リリィの弱った姿を見下ろす。

しかし、その瞳には何も映っていない。興味を失った存在は、視界に映す事すら唾棄すべきことだと言わんばかりに、

 

「な、何してるのよセイバー!宝具でも何でも使って、反撃しなさい!」

 

オルガマリーの焦燥を孕んだ怒声に、リリィは答えない。

苦虫を噛み潰したような表情は、何かを訴えたくても出来ないもどかしさを表層化している。

 

「その様子だと、情報を開示していなかったらしいな。恥部を晒すことを恐れて、自尊心を優先したか。実に愚かだ」

 

「――――ッ」

 

騎士王の真っ直ぐな視線に耐え切れず、顔を逸らすリリィ。

 

「それは……どういうこと?」

 

「……まぁいい、戯れに教えてやろう。そもそも|勝利すべき黄金の剣(カリバーン)は|約束された勝利の剣(エクスカリバー)と同じ宝具であれど、元は式典・儀礼用の剣としての側面が強く、武器としての精度は遥かに劣る代物だ。そんなものに、龍の心臓という魔力増幅炉を宿した奴の、力任せな魔力を叩き込めばどうなると思う?」

 

「まさか……」

 

「早い話が壊れる、ということだ。魔力の津波を内側から受け、そのままの――いや、それ以上の力で吐き出せばそうもなる。確かに威力だけなら|約束された勝利の剣(エクスカリバー)に迫れるだろう。しかし、それだけで戦局を左右出来ると思わないことだ」

 

膝から崩れ落ちるオルガマリー。

マシュもキャスターも、差はあれど驚きを隠せないでいる。

自らの獲物を犠牲にした一回切りの使い捨ての宝具なぞ、役に立つ筈がない。

 

「那岐は……知っていたの?」

 

震えた声で閉口を貫いていた那岐にオルガマリーが問う。

しかし、彼は視線を逸らすだけで、何も答えない。

絶望を噛み締めて満足したのか、騎士王は多弁に言葉を続ける。

 

「私は貴様を知っているが、貴様は私を知らない。力も、知識も、精神も――私に勝てる要素など何一つ、ない」

 

聖剣の切っ先をリリィの喉元に突きつける。

絹のような肌に、紅い雫が線を描く。

 

「何故貴様がそのような半端で顕現したかは知らないが……無知な小娘のまま死ぬのが一番貴様にとっては幸福だろうさ」

 

それは、アーチャーにも言われた言葉。

召喚システムによる知識の恩恵を何故か受けられないリリィには、その言葉の重みが分からない。

口を揃えて、お前の未来は不幸しか存在しないと決めつけられている。

納得なんて、出来る筈もない。

 

「――ほう」

 

だらんと下げていた腕を振り上げ、突きつけられていた聖剣を弾く。

その反撃に思うところがあったのか、僅かにリリィへの関心を強める騎士王。

 

「勝手に――決めつけるな!私は、善き王となり、民を導く。艱難辛苦あれど、私の決意は揺るがない!如何な不幸が待ち構えていようとも、私は民を――ブリテンを護るんだ!!」

 

吠えるような、決意表明。

今までのリリィとは違う、力強い覇気。――王者の気質。

その芽が、微かに芽吹いた。

 

「その願望を、ブリテン島そのものが否定したとしても、か?」

 

「……?どういうことですか」

 

「――喋りすぎたか。まぁ、ここで死ねば意味のないこと」

 

騎士王が魔力を爆発させ、リリィと再び剣戟を始める。

先程よりも洗練され重い一撃が、目にも止まらぬ速さで襲い掛かる。

 

「ぐっ――――」

 

リリィは完全に防御に徹することしか出来ない。

ダメージは先程の会話の間で殆ど回復したが、それを塗り潰すような連撃に、状況は再び逼迫する。

 

「終わりだ」

 

幾重もの剣戟の果てに無防備になったリリィの首を、騎士王が一閃する――

 

「――『Die』」

 

戦いの音に紛れて聞こえた、凛とした音に、騎士王の脳が警鐘を鳴らす。

首を獲る筈だった一撃を無理矢理静止させ、横に全力に飛ぶ。

瞬間、騎士王の居た空間に、何本もの剣閃が走る。

騎士王は理解する。あの場に立っていたならば、四肢の余すところなく切断されていただろうと。

そして、確信を持ってそれを為した存在へと視線を向ける。

しかし既に、その姿はない。

 

「『Too slow』」

 

背後からの殺気に、振り向きざまに剣を振りぬく。

金属の擦れ合う音。獲物を交えたことで出来た刹那の時間、騎士王はその正体を視た。

白髪に刀を振るう姿。間違いなく、セイバー・リリィのマスター暮宮那岐である。

 

「チィッ――!!」

 

この戦いの中で初めて生まれた、焦り。

人間であり、神秘の価値も薄れた現代に生きる青年が、当たり前のように神秘の具現と互角の剣舞を行っている。

魔力放出による腕力での迎撃も、刀の腹に滑らせるようにいなされ、反撃に移られる。

サーヴァントという、本来の能力を抑圧された状態での顕現とはいえ、その能力は決して現代の人間に追い付けるレベルではない。

ましてや、大聖杯による全霊のバックアップを受けている状態。そんな縛りなどあってないに等しい、筈なのにだ。

一時距離を取り、体勢を立て直そうとする。

しかし、それに合わせるように紅い剣のようなものが襲い掛かる。

何本かは叩き落とすも、それでも捌ききれない数本が、肩や足を掠めたり突き刺さる。

 

「ハアアアアッ――!!」

 

魔力を聖剣に集中させ、地面を抉りながら思い切り振り上げ、魔力を解放する。

|卑王鉄槌(ヴォーティガーン)。|約束された勝利の剣(エクスカリバー)よりも威力は劣るが、篭める魔力の量を落とすことで速射性と連射性に特化した、彼女ならではの技。

威力が落ちたと言えど、人間一人を呑みこむぐらいは容易い魔力の刃が、那岐へと迫る。

 

「マスター!!」

 

リリィの叫びと共に、那岐の居た場所が闇に呑まれる。

非戦闘員の女性人はその光景に思わず目を背ける。

 

 

「――『Don't get so cocky!!』」

 

騎士王の真正面から、まるで瞬間移動したかのように現れた那岐。

光速と呼ぶに相応しい速度で、そのまま騎士王の横を走り抜いたかと思うと、騎士王の身体から一斉に血が噴き出す。

通り際に斬られたのだと気付くのに、血が出るまで気付けなかった。

あまりにも鋭く、無駄がない。自然な動きから放たれる一撃は、肉体にさえ痛みを悟らせないとでもいうのかと、遅れて来た痛みの中で思考する。

 

「『Lily!!』」

 

「――――ッ、はい!」

 

突如呼ばれた名に反応し、リリィは騎士王へと肉薄する。

二対一によって繰り出される挟撃。それはまるで鏡合わせのように、息の合った連撃は確実に騎士王に隙を突き、傷を負わせていく。

 

「調子に、乗るな――!!」

 

活路を開かんと突破口であろうリリィに対して、魔力放出による突進を試みる。

 

「『You're going down!』」

 

その刹那の隙に、那岐が割り込む。

鎧の襟を掴んだかと思うと、そのまま片手で地面へと騎士王を叩き付ける。

そのまま馬乗りになったかと思うと、容赦なく顔面を殴り始めた。

普通ならば嫌悪すべき光景。しかし、相手は暴力の具現であって、女として見て良い相手ではない。

 

「『It's over!!』」

 

トドメの大振りの一撃。耐え続けていた騎士王はそこに好機を見出す。

首を傾けてそれを回避したかと思うと、そのまま那岐の頭にヘッドバッドを繰り出す。

しかし魔力を込めたそれは、那岐の身体を逸らすどころか、遥か上空へと吹き飛ばす。

那岐から視線を外し、リリィに標的を移す。

 

「今度こそ、終わりだ」

 

「――ああ、テメェがな」

 

瞬間、騎士王の身体が業火に包まれる。

それに連続して、横からの衝撃で地面を這うように吹き飛ばされる。

 

「キャスター、貴様――!!」

 

「理子嬢ちゃんの魔力じゃ戦えないと言ったな?だがよ――手前の魔力絞り出しゃあ、これぐらいはできんだよ」

 

鬼の首を獲ったような不敵な笑みで答えるキャスター。

そして、衝撃の正体はマシュの盾による突進であることも、遅れながらに気付く。

 

「これで――終わりだああああああ!!」

 

気が付けば、眼前にリリィの剣閃が迫る。

慢心――そんな言葉が彼女の脳裏に過ぎる。

相手を侮り、玩弄し、そのツケを清算する時が来たのだ。

しかし――目の前の曇り鏡に引導を渡されるのだけは、許容できない。

アレに負けるのだけは、駄目だ。

 

「う――ああああああ!!」

 

騎士王は聖剣をリリィの振り下ろした剣に遅れる形で受け、地面は陥没し肉体が軋みを上げる。

最初とは真逆の立場になった現実が、騎士王の焦燥を後押しする。

魔力を聖剣へと集中させ、文字通り力押しで跳ね除けようとする。

しかし、出来ない。

聖杯との繋がりも途絶えておらず、魔力も潤沢である筈なのに、押し返せない。

次第に黒く染まった聖剣に、微かに罅が入る。

亀裂が徐々に拡大していく光景を、まるで他人事のように見つめる。

この剣が折れるなんて、有り得ない。しかし、それさえも何故か納得している自分がいることに、騎士王は自らを嘲笑する。

もし、この剣が折れると言うのなら、その時は――

そこで、思考が途切れる。

均衡を保っていた聖剣は硝子細工のように砕け散り、黄金が一筋の線となり騎士王の身体に煌めく。

 

「――――」

 

今際の際、思考が加速する。

思い返すは、生前の生涯。

この身は王故、その勤めを果たすべく奮闘してきた。

民の笑顔の為――そう考えて行動してきた筈なのに、いつしか国を生かす為に民を蔑ろにするようになった。

国を生かす為に、少しずつ民を犠牲にしていく。それが時間稼ぎにしか過ぎないと分かっていても、対策を講じる時間もなければ、起死回生に乗り出せる案もなく、果ては金もないと来ている。

滅びは必然。しかし、それを肯定してしまえば、礎となった者達に唾を吐くことになってしまう。

だから、止まることは出来なかった。それが例え、後世に暴虐の王として名を残す結果となってしまっても、歩みを止める訳にはいかなかった。

 

白無垢の如き目の前の幼い騎士は、置き去りにしてきた夢の跡だ。

ブリテンの未来が明るいことを絶対と信じてきた、無知で蒙昧で――どこまでも、純粋な頃。

何故、ここまで歪んでしまったのだろう。

やはり、私は王になるべきではなかったのか。マーリンの忠言を聞き入れず、勢いに任せた結果がこの結末だと言うのなら、私の生きた意味は、一体――

 

ふと、背中に感じる暖かな感触。

最早痛みも感じないというのに、その感覚だけは確かに感じられる。

虚ろになった目で見上げると、そこに居たのは吹き飛ばした筈の那岐だった。

頭蓋が陥没してもおかしくない一撃だったというのに、平然としているのを見て、最早笑うことしか出来ない。

 

「――道化だな、私は」

 

口元から、血が噴き出す。

そんな騎士王の姿を、固い表情で見守るリリィ。

 

「聖杯を護る、なんて勤めを忘れてしまったのも、やはり貴様の影響かな。セイバー」

 

小娘、としか評さなかった騎士王の口から漏れる、騎士として認められた証。

リリィはそれを複雑な表情で受け止める。

 

「――確かに、貴様はまだまだ未熟だろう。だが、私にはないものを持っている。敗因は、その違いか」

 

皮肉気な笑みを浮かべる。

リリィはその言葉の意味を理解できず、考える。

 

「分からないのなら、それもいい。理解できないレベルで身近にあると言うことが、そもそも恵まれているのだからな」

 

少しずつ、騎士王の身体が魔力へと還っていく。

 

「だが、これで終わりではない。グランドオーダー――聖杯を巡る戦いは、始まりに過ぎないと言うことを、覚えておけ」

 

それだけ言い残し、騎士王は遂にその姿を座に帰した。

 

「――ちっ、意味ありげなこと言い残しやがって。しかもこっちまでお払い箱と来たか。後はお前達でどうにかやってくれや!」

 

キャスターが忌々し気にそう呟くと、声をかける間もなくその姿は消えた。

冬木の聖杯によって現界したセイバー、キャスターの二人の消失。それが、この戦いの終止符を告げる幕となって降りた。

 

その一瞬の気の緩み――それが、運命の分かれ道となる。

 

「――――え?」

 

その呟きは、オルガマリーのもの。

突然、目の前に影が差したかと思うと、重く醜悪な音が耳朶を打つ。

ゆっくりと視線を上げると、影の正体は那岐が目の前に立っていたことに気付く。

そして、目の前の那岐の心臓に位置する部分に、黒々とした尖った何かが突き刺さっている。

突き刺さっている、という表現は生温い。文字通り貫通していた。

その勢いを削ぐ為か、はたまたオルガマリーを巻き込まない為か。その尖った何かを掴み、静止している。

永遠のような時間。那岐が前のめりに倒れていくのを、オルガマリーはただ見送ることしか出来ない。

重い音と共に地面に伏した那岐。そして、穿たれた心臓から溢れる血が虚ろだった現実を引き上げる。

 

「イ――ヤアアアアアアアッ!!」

 

絹を裂くような悲鳴が、世界を覆った。

 




Q:理子ちゃんが空気
A:MPの切れた魔法使いなんて、肉盾にしかならないし……(RPG並感)

Q:男女平等パンチ
A:ネロがMISSION1でダンテェにやったあれみたいな感じ。バーサーカー状態だから、まぁ多少はね?

Q:英語何言ってるか分からん
A:ライブ感を意識して訳は外しておきました。反省はしない。

Q:儀式完了
A:あっ……(察し)

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