熾凍龍のオーバーロード【更新凍結】   作:冬月雪乃

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戦闘とこれから

「ご苦労。なかなかのコンビネーションだ。これならば、第六階層は安泰であるな? 盟主殿」

「え? あ、はい。そうですね。もし侵入者が正面からここまでたどり着けるレベルであっても、あの連携ならば心配はいらないでしょう」

 

ディース、モモンガの手放しの称賛に、アウラとマーレは照れたように笑った。

モモンガは取り出した無限の水差しを二人に差し出す。

照れたように遠慮しようとする二人だったが、モモンガとしては隣でキリッとした表情のまま《伝言》で荒ぶるドラゴンを抑えるのに必死で気付かない。

何を言ったかは覚えてないが、それでも二人がコップを受け取って飲んでくれたので良かったとしようとモモンガは胸をなでおろす。

 

「さて、次は私の番ですな。どうしますかな?」

「うーん、どうしましょうかね。私が戦っても良いんですが……」

「それはなりませんな盟主殿。盟主殿には逆立ちしてもまともな勝負にはなりませんから」

 

それに。

 

《もし他の守護者が敵意を抱いていた場合、単騎ならば倒せるが、結託していた場合下手をすると負けてしまう可能性があります。未だ詳細がつかめない状況でモモンガさんが疲弊する手は避けたいです》

《即死魔法やアンデットの軍勢のことを言っていますかそれ》

《えぇ。心臓掌握ならばうまくいけば即死、行かなくても動きを止められます。直接的に真なる死でも構いませんし、多彩な召喚魔法もあります。守護者も大半は人型を取っています。基本的には二本の手で戦闘を行う以上、圧倒的な数のアンデットを召喚する事によって数秒でも足止めとなります。対して、私にはそれがありません》

《なるほど。ならこうしましょう》

 

——《サモン・モンスター・10th/第10位階怪物召喚》

 

闇の扉……をイメージしたらしい黒い穴から三頭を持った巨大な犬が現れる。

 

「……わー……」

 

闇属性全開な色合いだし、そもそも名前が地獄の番犬ケルベロスだ。

最初からある程度本気出さないと高確率で不利な戦いになりそうだなぁ、とディースは嘆息する。

 

「ならば……すこし飛ばして行こう」

 

巨大な翼を一振り。

二度三度と繰り返せばディースの身体は宙に浮く。

腹に力を込めて、吐き出す。

それは火の玉となり、地面にいるケルベロスを容赦なく襲う。

火炎の数は、おおよそ三十。

 

《出たー、ディースさんの開幕乱舞ー》

《本来なら飛び回りながら行い、さらに氷の柱も建てるのだ。これでも手加減しているのだからそんな呆れた声は出さないでほしい》

《あれ本当鬼畜ですよね。火球だけみたら下からくるし》

 

これで一度に三桁をキルした覚えがある技だが、まだまだ本気とは言えない。

もうもうと立ち込める砂煙からモモンガもアウラもマーレも無傷である事を確認し、ケルベロスを見やる。

こちらはすでにボロボロだ。

 

「ふむ」

 

闘技場の三ヶ所に氷の柱を建てる。

実は課金によってエフェクトを変えた第六位階魔法《リフレクター・ウォール/反射する壁》なのだが、それはいい。

そこにドラゴン種固有のスキルを放った。

 

「えっ!? 外した!?」

 

口から吐き出されたのは青と赤が混ざり合った光線——ブレス。

見当違いの方向——氷の柱に放たれた光線にアウラがびっくりした声を出しているが、モモンガは知っている。

あれに当たると凍傷と火傷という訳のわからない組み合わせのバステが付与される事を。

そして、ディースの得意技は氷の柱で乱反射させてブレスを直撃させるというものである事を。

 

ケルベロスは伊達に最高ランクの魔法を使って呼び出せるモンスターではない。

それを示すように軽やかに背後から迫るブレスを避け——そしてさらに反射したブレスに直撃した。

着地したディースは《ローズロード/荊の道》を使って——もちろんエフェクトは氷に改造してある——ケルベロスへのレッドカーペット染みた道を作り出す。

そこにさらに《エンチャントフレア/火炎の接触》を自らに付与し、その巨体で突進する。

凍りついたケルベロスに回避の手段はなく、なんの抵抗もなく角に串刺にされて霧散した。

 

「ふう……。問題なし、か」

「久しぶりであっても問題なさそうですね!」

「あぁ。《エレメンタルブレイカー/耐性貫通》もしっかり機能している故——この世界の住人があまりに規格外な火力を有していない限り問題はあるまい」

 

百年前のレトロゲーム、MHシリーズに登場する熾凍龍ディスフィロアというモンスターのロールプレイをするディースは最初、単なる雑魚だった。

なんせ、その攻撃は属性を主としているのだ。中堅から耐性をガチガチに固め始めるユグドラシルにおいて、それは悪手でしかなかった。

しかしディースは諦めなかった。

偶然手に入れた運営にお願いする事ができるアイテム《永劫の蛇の腕輪》を使い、耐性を貫通するスキルを作ってほしいと願ったのだ。

本来ならディスフィロアの炎と氷の混ざった熾凍属性の追加を願いたかったのだが、辺境の地たる自身の拠点《最果ての島》の防衛が先だと優先順位をつけた結果だった。

結果として防衛はならず、その辺をNPCたちと共に飛行していた際にアインズ・ウール・ゴウンに出会って仲間となるわけだがともあれ。

耐性貫通スキル《エレメンタルブレイカー/耐性貫通》

その効果は0.1%でも耐性より属性値が高ければ耐性を貫通するというだけのものだ。

保有しているのはディースただ一人だけだったが。

しかし、そのおかげで《ナザリックの理不尽爆撃龍》とあだ名される位には強くなれた。

耐性面に関しても、とあるスキルのおかげでとりあえず人並み位には引き上げる事ができたため、対立ギルドからはトカゲのごとく嫌われたものだ。……龍だが。

 

「——おや、私が一番であり……ん……す……か……?」

「んん?」

 

闇の扉が開かれ、中からドレスを着た可憐な少女が現れる。

第一から第三階層までを守護する階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。

 

《ここで挨拶代わりに闇に飲まれよ! って言ったらどんな反応してくれますかね》

《下手なこと言わないで下さいねディースさん。言ったらモモンガ玉です》

《Wenn es meines Gottes Wille!》

《どこでそれ知ったァッ!》

 

ディースを見て固まるシャルティアを見る二人の間でそんな小さな戦いがあったのだがさておき。

 

「ディ、ディース様で……ありんしょうか……?」

「あぁ、そうだともシャルティア・ブラットフォールン。詳しくは後ほど話すが、帰還を果たした」

「あ、あぁ……! ああ……!」

 

《ぃえっ!? な、なんで泣いてんのこの娘!? そんなに私嫌われてたっけ!?》

《どうでしょう。でも、嫌い過ぎて泣いてるようには見えませんね》

 

ディースは無言でシャルティアに寄る。

しかし、そのままだ。

 

「申し訳ないが、私には君の涙を拭うに足る腕がない。しかして……胸を貸すことはできる」

「そ、そんな! 至高の御方の胸を借りるなんて……!」

「構わんよ。盟主殿にも何も言わせん。君が私を嫌っていないならば……私の胸で泣くがいい」

 

シャルティアは悩んだ。

ディースのことは嫌いじゃない。大規模な戦闘の際、一番に助けてくれるのは己の造物主を除けばいつもディースか、たっち・みーだった。

嫌いになれるわけがなかった。

けれど、

——し、至高の御方の胸で泣く……栄誉でありんすが……少しばかり恥ずかしいでありんすね……。

もちろんそれだけじゃない。

自分のような下々の涙で至高の方々を汚すわけにはいかないというものもある。

 

「——可愛い妹分のため、我が身を貸し出せるならばこれほど栄誉の事はない」

「……あ……」

 

とん、とシャルティアは押し出された。

ぴと、と暖かくも冷たいディースの甲殻に頬がつく。

 

《モモンガさん》

《はい。あ、アウラを仕掛けたのは私ですからね》

《知ってます。バッチリ聞こえてましたからね。ってそうじゃなくて。私ね、今ほど腕がなくて後悔したことはないんです。こんなに泣いてるのを我慢してる妹を抱き寄せることもできない。——だから、私は誓います。他の誰でもない、貴方に》

《おっと、それはみんな集まってから表明してあげてください》

《分かりました》

 

「シャルティア。私は大丈夫だぞ?」

「し、しかし……」

「ふむ。そうか、私が嫌いか。ならば仕方ないな」

「あぁああ! ちが、違う! そうじゃないです!」

「なら胸を貸そう」

「ああぁああ、あうー!」

 

やけくそだろうか。

けれどもシャルティアは抱き付いてくれた。

アウラとマーレを見ると、羨ましそうな表情をしていた。

 

「サワガシイナ」

 

と、そこに無機質な声が響く。

甲冑のような重音が響く中、現れたのは蒼銀の武人然とした昆虫種。

 

「……コキュートス、か」

 

やはり彼もディースを見て一度動きを止めた。

その後も次々と現れる守護者達は一様に同じ反応をした。すなわち、ディースを見て、一瞬固まる。

あのデミウルゴスですら固まった。

 

「——我が主君。守護者達は全員揃いました。ご下命を」

 

うむ、と一度大仰に頷いたモモンガは、いつの間にかやや後ろに戻ったディースを一回見やる。

 

「——うむ。しかし、その前に、だ。どうやら皆気になって仕方ないようだから先に報告をしておこう」

「はっ」

「ディースさんが、帰還した」

 

にわかに騒めいた守護者達にディースは歩み寄る。

 

「——諸君。長らく留守にしていて済まなかった」

「ディースさんは別次元に私たちの知らぬ超位魔法《インターイ/幻想封印術式》という封印術によって封印されていた」

《えっ、ちょ、聞いてない》

《話を合わせてください》

 

有無を言わせぬギルド長の声に、あっはい、と思わず返事をしてしまったディース。

吐いた唾は戻らないように、こぼした水は戻らないように。気づいた時には遅いのだ。

 

「しかし! ディースさんは成し遂げた。封印術を打ち砕き、術者を下し、ここに帰還した!」

《嫌な予感しかしない》

《姉ポジなんか取らせませんよ……! 俺と一緒に支配者ポジに置かせてもらいます!》

《うわ私怨かよ!》

「流石は至高の御方……!」

《うわー! デミウルゴスの視線がヤバい!》

《ふーははははは! 計 画 通 り !》

「ディースさん。一言お願いします」

「ん!? う、あ、あぁ……」

 

ディースはモモンガに並んだ。

超位魔法を一人で打ち砕き、さらには報復まで済ませたことにされた至高の一人を見る視線は余りに熱く、余りに重い。

 

「色々言いたいけどはあったが……まずはこれだけ。諸君——ただいま」

 

デミウルゴスが崩れ落ちた。

肩を震わせるその姿は泣いているようにも、歓喜しているようにも、その両方にも見えた。

ディースは悪い事したなぁと今更ながらに罪悪感を感じる。

あまり関わりがなかったデミウルゴスですらこれなのだ。

アインズ・ウール・ゴウン加入前からの付き合いである自分のNPCたちがどんな様子になるか、少しだけ強く感じた。

——特に、あの処理落ちする程のスリップダメージの嵐はなぁ……。

ディースの脳裏に黄金色に輝く龍の姿が浮き出る。

いきなり攻撃はしてこないと思うが……。

ちょっと怖くなっていた。

 

「そうだな、あとは……。うん。私は君たちの味方だ。例え何があってもな。今まで不安や迷惑をかけた贖罪……という訳では無いが、何かあったら、もし良ければ私を頼って欲しい。力を貸そう」

「あぁ、なんと、慈悲深き方……!」

 

多分思わず漏れ出たのだろう。アルベドが口元を抑えていた。

 

《——モモンガさん》

《……あー、アルベドは妹ってキャラじゃあ……》

《ナザリックの諸君は全て私の妹、弟分です。じゃなくて、アルベド超可愛いんですけど!》

 

そうきたかぁ、っていうか性別隠す気無いよなぁ、とモモンガは肩の力が抜ける。

しかし、それでは自身の『二人は支配者MAXはーと作戦』が無駄となる。

軌道修正のため、ディースを下がらせた。

絶対に道連れにしてやるという気炎すら見える気がした。

まずモモンガが行ったのは各階層の異常確認だ。第四階層の確認もさせることにした。

次に外の確認。こちらはセバス待ちだが、ちょうど良く帰ってきた。

どうやら外は草原らしい。プレーリードッグがウロウロしているとか。可愛いじゃないか。

しかし、ならばとやることは決まった。

テキパキと守護者に役割と仕事を振っていく。

 

「で、ディースさんですが、空をお願いできますか?」

「シャンやガルバを出せば超上空からの警戒網を張れる。任せてくれ」

 

仕事を振って応えてくれればな、とディースは思うが、おそらくは大丈夫だろう。根拠はないが、やっぱり自分の作った子を疑いたくない。

ディースは早速自身の領域と割り当てられた第六階層『ロストワールド』に転移した。

 




次回は守護者視点くるかな?
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