カリカリとペンを走らせる音が教室に響く。
その教室には幾人かの教師と二人の女性徒がいた。
そうFクラスの姫路瑞希と同じくFクラスの明香が試験を受けているのだ。
午後の授業開始と同時にFクラスはDクラスと開戦状態になった。
それと同時に点数のない瑞希と明香は回復試験に挑むこととなった。
集中して問題を解いていく瑞希と明香。
今受けてる科目は数学である。
明香はもくもくと楽しそうに回復試験を続ける。
「吉井!木下達がDクラスの連中と渡り廊下で交戦状態に入ったわよ!」
ポニーテールを揺らしながら駆けるのは引き受けた覚えが無い部隊長の明久と同じ部隊に配属された美波。
そんな美波を見て明久は何かを考えると合点がいったのか手をポンと叩いた。
「ああ、胸か」
「ア、アンタの指を……く、自重しなきゃ、自重……」
明久のつぶやきが聞こえたのか、美波は肩をワナワナとふるわせる。
不穏な空気を感じ取った明久は、
「そ、それよりも! 試召戦争に集中しないと!」
などと言ってごまかした。
前線では、秀吉率いるFクラス先遣隊が戦端を開いており、
明久たちからも、展開されたフィールドに召喚獣が召喚される様が見えた。
明久と美波は渡り廊下とFクラス中間点、Eクラス近辺に中堅部隊を展開している。
と、鉄人の姿が確認された。
「お前らな……。お、Fクラスの先攻部隊から戦死者が出たみたいだ。ほら、西村先生のお出ましだ!」
兼人に言われて明久達が振り向くと
『さぁ来い!この負け犬がぁ!』
『て、鉄人!?嫌だ!補習室は嫌なんだっ!』
『黙れ!捕虜は全員この戦闘が終わるまで補習室で特別講義だ!終戦まで何時間かかるかわからんが、たっぷりと指導してやるからな』
『た、頼む!見逃してくれ!あんな拷問耐え切れる気がしない!』
『拷問?そんな事はしない。これは立派な教育だ。補習が終わる頃には趣味が勉強、尊敬する人は二宮金次郎、といった理想的な生徒に仕立て上げてやろう』
『お、鬼だ!助けっ――ヒィィヤァァァ――(バタン、ガチャ)』
(蛇の人、そりゃ立派な教育じゃなくて立派な洗脳だよ)
ひきづられているクラスメイトがいた。
そして、兼人は今のやりとりを見て心の中でそう思った。
西村教諭はまだマトモだと思ったが、やはり文月学園にマトモな人間は少ない様である。
因みに明久と美波は今のを見て青ざめている。
「島田さん、中堅部隊全員に通達」
「ん、なに?作戦?何て伝えんの?」
引き締まった顔で、明久は宣言する。
「中堅部隊は……」
「明久に兼人!」
と、そこへ駆け寄ってきたのは、前衛部隊隊長の秀吉だ。
「秀吉、大丈夫?」
「あれ、後退が早いわね? 何かあったの?」
「秀吉だけか?」
明久・美波・兼人が問いかけると。
「うむ。前線を洸也と二人で支えておったのじゃが、良いのをもらってのう。一応、戦死は免れておるものの、点数はかなり厳しい所まで削られてしまったわい。洸也の薦めもあって点数の減った一部の者達と後退してきたんじゃ」
それぞれに返事を返し、まだ戦っているの洸也の方を見てから言う。
言われて渡り廊下の方を見れば、先頭に立つ、大きな背中が見えた。
「……よし、美波に兼人、洸也の援護に向かおう」
「そうね、仲間を見捨てるわけにはいかないもの」
「了解だ、部隊長殿」
そういって明久と美波と兼人は視線を交わしてうなずいた。そして秀吉の方をが見ると
「秀吉、お前は早いとこ補給を受けてこい。お前等が戻るまで俺達が何とかしよう」
と言い。そのの言葉に秀吉は頷いて、
「そうじゃな。せめて一、ニ教科だけでも受けてくるとしよう。」
言うや否や、秀吉と前線部隊のクラスメイト達が教室に向かって走って行った。
「さて、部隊長殿。気合いを入れて時間稼ぎをしますか!」
「了解、部隊長補佐殿!」
明久と兼人は、美波と一緒に中堅部隊を連れて前線へと走って行った。
「吉井、平川、見て!」
すると突然、達の隣を走っていた美波が叫ぶ。
「五十嵐先生と布施先生よ!Dクラスの奴ら、化学教師を引っ張ってきたわね!」
見ると二年生化学担当の五十嵐、布施両教諭が渡り廊下にいた。
どうやら、Dクラスは短期決戦を挑んで来た様だ。
「島田さん、兼人。化学に自信は?」
「ある訳ねーじゃん。俺は保健体育特化型だぜ?」
「同じく全く無し。五十点台常連よ」
流石はFクラスと言った所だろうか。お世辞にも良い点数とは言えなかった。そして、なぜか美波はキッパリと自慢げに答えていた。
「え~と……よし! それなら五十嵐先生と布施先生には近付かないよう注意しながら総合科目の学年主任の所に行こう」
「高橋先生だな?了解だ!」
「同じく了解よ」
美波の自慢げな状態にツッコミをいれるか悩みつつ、兼人と美波と会話していると。
「あっ、そこにいるのはもしや、Fクラスの美波さん!五十嵐先生、こっちに来て下さい!」
「ちっ!明久、島田、先に行け!コイツは俺が「俺が受ける!」前原?」
ドリルツイテ少女に気づかれるとが身体をはろうとするが、駆けつけた魅音が受けることに。
「いいから、行け!」
兼人と彰仁と明久と美波は一瞬躊躇うものの、頷いて先へと走って行った。
「あぁ!待って下さい!」
「おっと、あんたの相手は俺だ」
美波を追いかけようとするが、魅音が進路をふさぐ。
「やはりいましたわね?魅音」
美春と名乗った女性徒と魅音はにらみ合いをしていた。
そこで魅音が動いた。
「――試獣召喚(サモン)!」
呼び声に応えて魅音の足元に幾何学的な魔法陣が現れる。教師の立ち会いにシステムが応えた証である。そして、現れる召喚獣。
現れた召喚獣は白衣に手には槍を持っているという点以外は、喚び出した本人そっくりである。ただし、身長は八十センチ程度だ。その姿を一言で表現するなら『デフォルメされた魅音』と言ったところだ。
「さて、試召戦争のルールは知ってるよな?
このまま通り過ぎるなら敵前逃亡で補習室行きだな。俺は別に構わんが……さて、どうする?」
試召戦争のルールに『相手が召喚獣を喚び出したにも関わらず召喚を行わなかった場合は戦闘放棄とみなし、戦死者同様に補習室にて戦争終了まで補習を受ける』とある。
このまま美春が通り過ぎるなら戦闘放棄と見做され戦死者扱いとなり補習室へ連行される事になる。
「もとから戦うつもりですわ! 試獣召喚!」
そして召喚される美春の召喚獣。どうやら獲物は普通の剣のようだ。
2人の召喚獣の頭には参考として、2人の戦闘力(点数)が浮かび上がっていた。
【Fクラス 前原魅音 化学 345点】
VS
【Dクラス清水美春 化学 94点】
「くっ、点数がそこまで高いとは・・・。ですが、負けませんわ!」
「お生憎様、化学は得意な方なんでね? ま、低くても勝てる自信はあるけどね」
魅音の言い方にカチンときたのだろう。美春の召喚獣が剣を振りかざし襲ってきた。
そのまま剣を振り下ろした美春はニヤリと笑う。恐らく真っ二つになった魅音の召喚獣を思い浮かべたのだろう。
だが次の瞬間、美春は目を疑う。
魅音は振り下ろされた剣を槍を使って受け流したのだ。
「まあ、こんな感じで感覚さえ理解できればどうということはない」
魅音は言い終わると、召喚獣を操作して双剣で押し返すのだった。
「それと、もう一つ」
「くっ!魅音の癖に生意気ですわ」
美春は次々に攻撃を繰り出すが魅音は槍を使って受け流すか、よけるかで攻撃しようとしない。
「この!この!」
「お前の様に怒りで頭に血を上らせる事は、戦いにおいて最大の悪手だ。怒りは冷静さを奪い攻撃を単調化するからな」
魅音はこの時、ある瞬間を待っていた。そして、その瞬間は遂に訪れる。
怒りにより冷静さを失った美春は段々と大振りの攻撃を繰り返す様になってきた。そして、美春の召喚獣が致命的な隙を見せる。
「がらあきだぜ!!」
ザシュッという音と共に、魅音の召喚獣は美春の召喚獣の首を切り落とした。
これにより美春の点数はゼロとなり、勝負は魅音の勝利に終わった。
この後、突如として現れた西村教諭に美春は補習室へと連行された。
「こんなもんかね」
魅音はFクラスの教室に戻ると畳にへたり込んだ。
周りを見ると雄二達は既にいなかった。恐らく明久達の援護に向かったのだろう。
「しっかし、召喚獣を動かすってのはキツいな。まぁ、なれるしかねーんだろな~」
そう言って魅音は立ち上がり走り出す。
「よっしゃ、もう一頑張りしますかねっと!」
そう言って、魅音は明久達の援護に向かうのだった。
「おまたせっ! 洸也! こっちと交代して、回復試験を受けてきて!」
「おう! 明久に美波か! 俺は、よっと。まだ大丈夫だぜ?
おりゃ! 消耗した先遣隊の連中を後退させてやってくれ。せいっ!」
言いながら相手召喚獣の攻撃を避ける。
武器もなく、手足を覆った手甲と脚甲の装備で銃のみで戦う洸也の召喚獣は、
武器としても設定されている、大きめの手足で相手の攻撃を逸らしながらカウンターを決めている。
「よっし、ぼくも! 試獣召喚(サモン)っ!」
掛け声とともに、学ランをまとい、木刀を持ったディフォルメ明久が現れる