「わかった!!謝るっ!!謝るから構えを解け。 それから……君、悪かった。
さっきのは君の後ろにいるバカ達に叩きつけようと思った言葉で決して君のことを言った訳じゃない」
精悍そうな少年は意外なほど素直に頭を下げた。
「まったく。雄二も、もうすこしかんがえて声をかけろよな」
「まったく兼人の言うとおりだよ、駄雄二」
まだ、口を真一文字に結んでいるつぐみではなく、兼人と明久が答える。
「てめえらにだけは言われたくねえぞ? 明久に兼人。このチビとウジ虫やろうめが」
「だれがチビだ、こらぁっ!」
「僕のどこがウジ虫だというんだ!」
これがきっかけにメンチをきる3人。
「すみません。 通してもらえませんか?」
「あ、すみません!」
「すいません」
「すミまセん!」
ここで後ろから声がかかり、下がるつぐみと彰仁と明香。
振り向くとそこには、スーツ姿に眼鏡の冴えない男性が立っていた。
「「海馬社長!?」」
「違います、席についてください」
教師の声を聞いて明久と兼人が言うと訂正して、席に着くよう促す教師。
今のことを考えると彼が担任の教師なのだろう。
つぐみ達は頷くとそれぞれの席へと向かった。
「大丈夫か? つぐみ。それにしても、すごい教室だよな」
「ぐす。大丈夫だよ、兼人。……すごいというか、酷い教室だよね」
頷きつつ、改めてつぐみは教室を見回した。
「畳敷きに卓袱台と座布団。畳はカビ臭いし……。あ、クモの巣……ファブリーズがいるかもしれない」
つぐみがあたりを見回しているうちに、教壇に立った教師が自己紹介を始める。
「2年Fクラス担任の……」
言いながら黒板に向かうが、すぐに振り返った。
「……福原 慎です。どうぞ、よろしく」
「……なんで黒板に名前を書かなかったのかな」
「いや、さっき教壇に立ったときに見たんだが……」
つぐみがしきりに首を傾げている疑問を浮かべていると、雄二が代わりに答える。
「チョークのクズしかなかった」
「「うわぁ……」」
つぐみも明久も微妙な表情になっていた。
「自己紹介がまだだったな。俺は坂本雄二。そこのバカども3人とは、去年からの付き合いだ」
「あ、雨宮つぐみです。 兼人とは生まれた頃からの付き合いです」
と、雄二が自己紹介をするとつぐみも自己紹介をしていた。
「? どういうことだ?」
意味が分からんという風に雄二が首を傾げる。
「お前のバカな頭にもわかるように言ってやるとだな。 明久とつぐみは同じ日に同じ病院で産まれた仲なんだよ」
「そして僕と明香は幼い頃からの仲で彰仁は従弟だね」
雄二を見て彰仁は挑発するように言った。
明久はにこにこと笑顔を見せている。
「あれ、待って。 坂本雄二って……どこかで聞いたような」
そこでつぐみはん?と悩みながら考え出す。
どこかで聞いた名前なことは覚えているが、それはどこだったかと悩んでいるようだ。
「それでな、よく見たら家もご近所でこれも何かの縁だということで親交してきたんだぜ」
つぐみの思案を消すように兼人は雄二にそう説明する。
「ほおー。にしちゃあ去年は顔を見たことがなかったが?」
「あたしは去年Cクラスでしたからね。でも、Dクラスの噂はよく聞いていましたよ?」
それを聞いて雄二は苦笑いをする。
「ろくな噂じゃなかっただろう?」
「ノーコメントで」
そう言ってつぐみも苦笑いをした。
「設備について不備はありますか?」
「先生、綿がないんですけど」
福原教諭が尋ねると一人の生徒が手を挙げて不備を述べる。
「我慢してください」
「先生、隙間風が寒いんですけど」
もうひとりの生徒が寒そうな仕草をしながら言うと。
「わかりました、ビニールとテープを用意しますでそれで補修してください」
「先生、僕のちゃぶ台の足が壊れているんですけど」
福原教諭がそう言うとその次の生徒が手を挙げて伝えた。
「我慢してください」
「無理だっつの!」
きっぱり言うとキッパリと返される。
「はっはっは、冗談ですよ」
そう言いながら木工ボンドを教卓の上に置いた。
どうやらこれでなおせという意味らしい。
「設備の確認は終わりましたね? では、端の列から自己紹介をお願いします」
福原教諭に促されて、男子の制服を着た可愛らしい女の子が立ち上がった。
「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる。最初に断っておくが、ワシは男じゃ」
「?!」
その言葉に、つぐみが目をむいた。
「じょ、冗談だよね」
「雨宮、認めたくない気持ちは分からないではないが、秀吉は、正真正銘の男だ。」
「……女子に見えちまうのも厄介だよなぁ」
雄二とつぐみが会話してる横で呟く兼人。
明久も隣でうんうんと頷いている。
「……土屋康太」
それだけ言って着席する小柄な体系の少年。
単に無口なのか、それとも口数が少ないだけなのかわからない雰囲気がある。
「雨宮つぐみです。家庭科部所属で、趣味はお料理です。特技は……『声帯模写だ』」
ひと呼吸おいて言うと雄二の声に変わる。
雄二は驚いてつぐみに視線を向けているようだった。
「『感情的でなければこのとおりなのじゃ♪』」
と次は秀吉の声で笑いながら言ったつぐみ。
すると大きな拍手が広がる。
「すげー!」
「可愛いだけじゃねーな!」
等と褒め称える声が聞こえてきてつぐみは恥ずかしそうにしていた。
「平川兼人だ! チビなんて言うとぶっとばす! 好きな物は激辛煉獄ラーメンだ!」
とニヤリと笑いながら自己紹介をする兼人。