「明久……うっとうしいからさめざめと声を殺して泣くな。冗談だ……半分はな」
「のこり半分は?!」
雄二の微妙な発言に明久が食いつく、しかし、雄二は聞こえないふりをしていた。
「ところで、瑞希ちゃん。 もう体調は大丈夫?」
「ええ。もうすっかり元気です」
「そっか、良かった~。あの時のみーちゃん、ほんとにヤバそうだったんだもん」
瑞希の返答を聞いてつぐみは安堵の息をつく。
よほど心配していたのだろう。
「ん? なんだ、雨宮も近場にいたのか?」
「うん。じつは、保健室まで連れていったの、あたしだもん」
「ねえっ!!! のこりの半分はっ!!?」
いつまでも取り合わない雄二に明久の声が大きくなった。
と、パンパンと教卓を強めに叩く音が響いた。
「はいはい。そこの人たち、静かにして下さいね」
さすがに福原教諭に注意されてしまった。つぐみ達が居住まいを正して謝ろうとした瞬間。
バキィッ バラバラバラ………
教卓か音を立てて崩れ落ちた。寿命だったのかもしれない。
「え~………皆さん少々待っていて下さい。 教卓の替えを用意してきます」
そう言って福原教諭は足早に教室から出て行った。
「あ、あははは……」
瑞希は突然のことに苦笑を浮かべながらも咳き込んでいる。
「明久……」
「もちろんだよ、彰仁」
彰仁が声をかけるとわかっていたのか笑顔で頷く明久。
そして二人は真剣な顔で雄二に近寄って言った。
「雄二に兼人、ちょっといいか?」
「話したいことがあるんだ」
二人はとても真剣な顔で雄二と兼人を見ている。
それを見て雄二と兼人は不思議に思いながらも立ち上がると、明久と彰仁と共に教室を出る。
「チリトリと箒を出して」
つぐみはすぐに掃除用具入れから箒とチリトリを取り出して崩れた教卓を片している。
片付けを終えて戻ると、瑞希の視線を気になり、問いかける。
「みーちゃん、どうしたの?」
「あ、つぐみちゃん。いえ、明久君と坂本君と彰仁と平川くんが廊下に出ていったので、どうかしたのかと思って……」
「4人が? また、イタズラの相談かな?」
「いえ、明久君と彰仁君と平川くんはかなり真剣な顔でしたから」
「3人が? なんだろ?」
明久と彰仁が真剣な顔をするときは、なにか無茶なことをしようとすることが多いが、
今日の一連の流れからは、その理由が思い当たらずに、つぐみは不思議そうに首を傾げた。
「んで、話って?」
廊下に出ると雄二が早速切り出した。
「このクラスについてなんだけど………」
明久が話すことが理解しているのか口を開いて
「ああ、正直酷いな。ひび割れた硝子に腐った畳。
それに脚の折れた卓袱台と綿も満足に入っていない座布団。教室に来る前に見たAクラスとは天と地の差があったしな」
まっすぐ明久を見て腕を組んだままで言う。
「雄二も見たのか?」
腕組みしながら言う雄二に秀久は問いかける。
「そりゃあな流石にあんなのくらい眼に入るだろ?」
その問いかけに答える雄二。そんな2人に明久は提案を出した。
「そこで僕から3人への提案。 折角二年生になったんだし、『試召戦争』をやってみない?」
「試召戦争、だと?」
「うん。しかもAクラス相手に」
「……何が目的だ」
明久の提案に雄二の目が細くなる。
「騙してもしょうがないから正直に答えるぜ? 俺は瑞希ちゃんの為だ」
「僕は明香の為だよ、そんなに身体強くないから心配なんだよ」
「ふーん」
彰仁と明久は雄二と兼人をまっすぐ見つめて真剣な表情で答えた。
「なるほどな……お前ら二人はある意味で似てるから、そう考えていてもおかしくはねーか」
あっさり答えた二人見て若干拍子抜けしたが、雄二は納得した。
「ま、気にするな。Aクラス相手の試召戦争なら俺もやるつもりだったからな」
「へっ?! 雄二だって勉強なんか興味ないよね?」
「てか、本気で言ってるのか?」
そう笑いながら告げる雄二に明久と彰仁は驚いていて問いかけると雄二はニヤリと笑うと答えた。
「何、世の中学力が全てじゃないって、そんな証明をしてみたくてな」
「???」
「こいつ、本当に雄二か?」
明久は不思議そうに彰仁が雄二を見てぼそっと呟く。
「兼人、てめぇ……喧嘩売ってるのか?」
「買うか?」
半目で彰仁を睨みながら雄二が言うと兼人がニヤリ。
「お、そろそろ先生が戻ってくるな? 急ごうぜ」
「あ、本当だ!」
「「おい!?」」
彰仁は二人を見事にスルーして教室に戻って行き、明久もそれに続いて教室に戻り、その場に残された雄二と兼人の叫びが彼らに届くことはなかった。
「では、自己紹介を続けてください」
新たにボロい教卓が置かれ、自己紹介が再開された。
「な、
おっかなびっくりになりながらも自己紹介をする黒髪ロングヘアーの少女。
秀吉はちらちらと実秋の方を見ているようである。
紗綾が着席すると次の生徒が立ち上がる。
「斎藤《さいとう》
夢はアメリカに行ってガンガン銃を撃つことだな」
黒髪ショートヘアの少年はエナメルカバンからモデルガンを取り出してニヤリと笑う。
どこか細身でそんなに腕力とかなさそうな感じが彼にはあった。
率直でいえば貧弱という言葉が似合う少年だ。
洸也も席に着席すると明久達に手をひらひらと振る。
「前原《まえばら》
淡々と自己紹介する操と名乗った人物は席についた。
「須川亮です。えー、趣味は……」
そんな風に自己紹介が続き、最後に福原教諭が雄二に声を掛けた。
「最後にFクラス代表の坂本君。君の自己紹介をして下さい」
「了解」
答えて雄二は立ち上がり、ゆっくりと前に出た。
その雰囲気に、Fクラス中の視線が集まる。
「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは、ま、坂本でも代表でも、好きに呼んでくれ」
そこで、少し……間を空けようとしたが。
「じゃあ、駄ゴリラ」
「駄雄二で」
「ロリコン」
兼人と彰仁と明久がちゃちゃいれていた。
「明久に彰仁に兼人。 後で覚えてろよ? こほん! さて……みんなにひとつ聞きたい」
言いながら皆と視線を合わせる。
そして、流れるように教室各所に視線を移していくと、みんなの視線も自然とそれを追っていた。
カビ臭く、すき間風が通る教室。
古く、うす汚れて綿もスカスカな座布団。
汚れた上に、脚もガタガタな卓袱台。
最後に皆を見据えると口を開いた。
「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが……」
ひと呼吸置くと、確認するように告げる。
「不満はないか?」
『『『『大アリじゃあっ!!!!』』』』
教室を揺るがす、魂の叫びが教室内で反響する。
「だろう? 俺だって不満だ。このクラスの代表として、大いに問題意識を抱いている」
雄二は仰々しく同意する。すると、あちらこちらから不満の声があがり始めた。
『いくら学費が安いからって、この設備はあんまりだ! 改善を要求する!』
『そもそもAクラスだっておなじ学費のはずだ! あまりにも差が大きすぎる!』
『そうだそうだ!』
それらをまとめ、引き継ぐように雄二は口を開いた。
「みんなの意見はもっともだ。そこで、これは俺の代表としての提案なんだが」
自信たっぷりに、野生味溢れる笑顔で、
「Fクラスは、Aクラスに対し『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」
彼、坂本雄二は戦争の引き金を引いた。
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