閃光の中へと   作:てんぞー

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アフリカ戦線

 ザクⅡが大地を踏みしめる。この感覚にも大分慣れた。

 

『准尉! 先行し過ぎだ! 被弾するぞ』

 

「問題ありません。敵を殺します」

 

 応えるのと同時にヒートホークを投げつけ、戦闘車両を破壊しつつ、それに繋がるワイヤーを引き、空を飛ぶ戦闘機を薙ぎ払う様にヒートホークを振るい、手元に引き寄せる。その間でも常にザクを動かし続ける。動いを止めてはいけない。それが戦場だ。シャアもそうだった。常に動き続け、そして決して止まることなく戦い続けていた。戦場という場所は止まった者から殺しに行く。だからこのザクⅡは、己の体は、止まってはいけない。止まればその瞬間に戦友たちの怨念が殺しに来るから。戦えない戦友に意味はない。殺して前へ進めと、そう囁かれる様に、前へと進む。やる事はオデッサの侵略、バイコヌールの時と変わらない。

 

 戦闘車両を跳躍し、踏み潰す。左手はヒートホークではなくマシンガンを握り、右手にはヒートホークを与える。弾薬の節約ばかりを考えてしまう貧乏性である為、常にヒートホークを投擲する事ばかり考えてしまうが、今回の連邦軍基地アデンへの進行は、既に外人部隊第三連隊が強襲しており、そして壊滅している。その為、アデン基地の警戒はあのバイコヌールの時と違い、最大限に警戒されており、敵は準備をしてある状態にある。それでいい。そっちの方がたくさん戦える。だから通信機を通して聞こえる戦友の声よりも、戦友の怨念に耳を傾ける。

 

『殺せ―――』

 

『俺達を殺した連中を―――』

 

『コロセ―――』

 

「殺す。死にたくなかったら―――殺すしかない」

 

 シンプルで、この世で唯一の法則。敵は殺せば動かない。

 

 ―――だから、殺す。

 

 戦車を踏み潰しながらザクⅡが大地を疾走する。ザクⅡの足の裏を通して硬質な感触を感じ取りつつも、頭上から襲い掛かってくる戦闘機を最大限警戒する。現状、ザクⅡを破壊する一番効率的な方法はコクピットへの攻撃であり、戦闘機の積んでいるミサイル等がその強になる。戦車自体は砲弾が撃てる範囲が決まっているという事と、尚且つ速度と小回りにおいて決してモビルスーツに勝てないという事もあり、そこまでの脅威ではないのだ。やはり、空を飛べないモビルスーツにとって、空の相手が一番恐ろしい。

 

 だが、それは後ろに置いて来た部隊の戦友達が対処してくれている。故に、自分は前に出る。ザクⅡのコックピット内に溢れ出るロックオンアラートはマシンガンで弾幕を張る事で対処する。適当にこうやってばらまけば、正面からのミサイルは弾幕で潰せる。だから一切振り返る事も止まる事もなく、そのまま前へ、前へ、機銃による射撃をザクⅡの体に掠らせつつも、前進する。

 

 もはや踏み潰した戦車の数は覚えていない。バズーカは誤爆されると厄介である為、既に捨ててある。機動力をウェイトを捨てる事で増してあるザクⅡの動きは戦闘機でもないと止められず、戦車ではどう足掻いても止められない。だから軽く踏み潰して突破する。既にアデン基地は目と鼻先まで来ている。しっかりと戦友達はついてきている。ならば大丈夫だ。今まで小出しにする事で温存していた推進剤を、推進器に一気に叩きこんでブースターをフル稼働させる。加速を一瞬で叩き上げ、ザクⅡの鋼の体を前へと飛ばす。瞬間的に体にかかる凄まじいGを食いしばって耐え、ザクⅡがオーバーヒートしない様にブーストを出しっぱなしにせず、瞬間的に超放射で爆発的に前へと飛ぶように跳躍する。その瞬間的な速度は戦闘機に匹敵するものがあり、完全に止める事が出来なくなっている。だからそれに任せて前へと進む。

 

 そして一気にアデン基地へと踏み込む。本来は存在するはずの監視塔屋設置された機銃なんかは、前に襲撃した外人部隊が壊滅するのと引き換えに破壊してくれた。つまり、今、この領域は完全に自分の間合いだ。司令塔がどこだかは解らないが、発進しようとしている戦闘機や戦車は解る。所以いヒートホークを投擲し、入り口をふさぐように叩きつけ、これ以上発進できないようにする。そのまま一際高く辺りを監視するようにそびえる監視塔をマシンガンで射撃する。

 

『良くやった准尉! だが後でお説教だこいつ!』

 

『クソォ! 一番乗りを取られた!!』

 

『まだだ! まだ連邦連中が抵抗している! 今なら戦功を稼げるぞ! 名を上げろてめぇら!』

 

 基地へと乗り込んだ此方へと続くように後続の戦友達が基地へと入りこみ、そして基地を占領し始める。

 

 もはや連邦に勝ち目はなかった。次々と基地に侵入するザクⅡの姿に対して行える反抗はもうなかった。基地という入り組んだ場所で戦車は全く動けず、小回りが利くモビルスーツ相手にはほぼ無力に近い。ここに至るまでの道は虐殺で溢れていたが、到着し、そしてヒートホークを各種施設へと向ければ、完全に連邦の動きは停止する。

 

 ―――アフリカ戦線へと続くアデル基地はこうやって落ちた。

 

 

                           ◆

 

 

「貴様は死にたいのか!!」

 

 作戦が終了し、次の出撃までの間、上官に呼び出されたと思えばそう怒鳴られた。アデル基地で一泊してから西進してから更に南下、カイロへと向かう予定である為、次の日は割と早く移動を始める。既に後続の部隊がアデル基地を抑える為に到着しており、自分達第一機動師団分体が離れても問題がない様になっている。明日への準備を進めている中で、上官に呼び出されたと思えばこうだ。理由が解らない。何故こんな風に怒られなくてはいけないのかが分からない。目の前にいる上官は拳を握り、怒鳴ってくる。

 

「前の時もそうだが、貴様は前に出過ぎだ! 何だあの戦いは! 近接戦における成果と成績が優秀である事は認める。だが戦場を舐めているのか? あんな戦い方では命がいくつあっても足りんぞ! 今回の相手は戦闘車両と航空機を幾つか所有しているだけの相手だった、そこまで踏み込んで戦う必要はない。牽制しつつ接近すればそれだけで制圧できた相手だ―――無駄なリスクを負わずに兵士と知って徹せ! 英雄にでもなったつもりか!」

 

 それは、違う。英雄にはなれない。英雄には届かない。シャアの動きを見れば解る。アレは生まれ持った天賦の才を発揮しているのだ。どんなに真似をしても英雄に届く事は出来ない。でもあの強さ、あの輝きに魅せられてしまったのだ。だから、自分はどこまでも行きたい。殺していきつける力の果てへと進みたいのだ。じゃないと英雄を殺せる領域へと届かない。英雄を殺す? そう、そうだ。英雄になりたいんじゃない。

 

 強大な力を持った英雄を殺したいんだ。

 

 あの凄まじいまでの魂の輝きを、熱量を持った者を、自分の様な凡俗が地に降し、すり潰すように殺すのだ。きっと、きっとそれは酷い事であるに違いない。だがきっと、英雄への挑戦以上に、意味のある事に思える。それこそ今までの自分の人生で感じる、一番意味のある事にすら感じる。シャアは味方だ。殺せない。だから連邦の英雄と戦って殺したい。きっとそれには地位が、そして武勲が必要だ。もっともっと殺して、連邦軍の地で大地を赤く染めればいいのだろうか?

 

「貴様、人の話を聞いているのか!」

 

「ハ、申し訳ありません」

 

「口で応えればいいってもんじゃないんだよ貴様ァ!! いいか、ガルマ・ザビ大佐より兵を預かっている私には、貴様等全員を生かして返す責任があるんだ! これ以上の独断専行は許さんぞ! 武勲が欲しいのであれば次の戦場からは俺と一緒について来い、貴様に殺し場を俺が与えてやる、だから無駄死にする様な真似はやめろ、いいな!」

 

「ハ、了解しました」

 

 背筋を伸ばし、腹から声を出して敬礼を取る。だが上官殿は溜息を吐く。

 

「見た目と聞こえさえ良ければいいという訳ではないのに……はぁ、もういい。さっさと行け……貴様には何を言っても無駄そうだしな……はぁ……」

 

 そう言って解放されたので、歩き、そして上官から離れる。話している内容から上官が優しい人物、いや、部下思いである事は良く解る。このジオンの兵全体を見ても、今、自分は指揮官に恵まれているのだろう。だけど、それでは駄目なのだ。もっとゴミの様に使い捨てられなきゃいけない。今はまだいい、だがこれからジオンと連邦の戦争は増々激しく、そして泥沼になって行く。それは半ば予感でありながら、確信だった。宇宙と地上の戦争、これはどちらかの人間が滅ぼされるまで終わる事のない戦いになる。複雑な事は解らないが、

 

 それでも終わりのない戦いである事は解った。

 

 人はきっと、何処までも憎しみ合って、お互いに殺し続けるのだろうと。

 

 でもそれでいいのだ、解り合って、全員が手を繋いでいる人類なんてきっと人類じゃない。愚かで、独善的で、傲慢で、偽悪的で、強欲で、嫉妬深く、優しく、そしてどうしようも救いがない。生まれてきた時点で先の見えない世界にいる、終わりが確定している生物として生を受けてしまっている。人間はどうしようもなく救いがなく、そういう生物なのだ。そういう人間らしさを自分は好んでいる。逆に言えば、そういう人間らしさのない存在は吐き気がするのだが。

 

 吐き気がするだけ。

 

 特に何かをするわけではない。

 

 兵士なのだから。

 

 命令されない限りは誰かを殺すわけでもない。

 

「……寝るか」

 

 振り返れば焚火に集まって話し合っている戦友たちの姿が見える。だけど何時だろうか、戦友達が―――全員同じように見えてきたのは。誰一人として、顔の区別がつかない。上官も声と服装で漸く上官だと解る。誰もが結局は同じ人物の様に見えてくる。話していて違う人物だというのは解るが、それでも誰もが根っこの部分では一緒、ただの人であり、兵である。それ以上でもそれ以下でもない。所以誰もが一緒に見えてきた。

 

 語り合おうとも、それを楽しいと思える心はどこかへとすり抜けてしまった。

 

「コクピットで寝るか」

 

 いい、そこがいい。死ぬのはおそらくその中で、そして最も安心できるのもその中。誰と話しても一緒、誰を見ても一緒。だからこそ、あの宇宙で見た姿は脳に焼き付く。あの赤い彗星、あれだけは違う色と形をしていた。他の皆とは違う、ちゃんと個人として見る事が出来た。

 

 できたらまた会って、そして共に戦いたい。

 

 だけど、きっと、連邦にもいるのだろう。

 

 他の者とは違う、個人として認識できるほどに突き抜けている”個”が。

 

 きっと、そういう連中と戦い、殺せば、前へと進めるのだ。

 

 結局の所、戦い、殺し、そして昇進する事―――それが兵士の全てなのだから。




|ω・`)オデッサは潰した
|ω・`)次は貴様だアフリカ

 NTに憧れてしまったノーマルが戦場を駆けてゆくハートフル(ブレイキング)ストーリー。

 次の獲物はどこだ。

 敵にジムが出てくるまでは割と戦闘は戦車やトーチカ、セイバーフィッシュばかりでプチプチ潰す感じね

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