深海の都の話 ― 小噺集   作:林屋まつり

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 お土産がつまった紙袋を抱えて次の階に到着。天井に燦々と太陽が輝く原っぱ。ぬくぬくと温かくて、お昼寝には心地よさそう。けど、残念ながら今は庚申の夜。眠るわけにはいかないね。

 けど、

「時雨ー、時雨ー、今夜は寝ちゃだめっぽいー」

 紅と翠の瞳を持つ夕立が太ももの上でごろごろと寝転がる時雨を揺さぶってる。眼鏡とヘッドホンを装備した時雨は寝転がったまま。頑として起き上がらないみたいだ。

「いや、夕立。

 落ち着いてごらん、これは、眠くなるよ。僕は我慢が好きじゃないんだ」

「夕立は落ち着いてるっぽい。

 我慢のしすぎはだめっぽい。けど、起きてー」

「夕立ねえさーん、駄目姉ほっぽといて遊ぼうよー」

 困ったように時雨を揺さぶる夕立を揺さぶるのはひさめ。

「それもいいけど、時雨が離れないっぽいー」

「この甘えたがりめー」

「ふはははー」

 …………なんだろう、後半のやりとり。

 それにしても、なんていうか、…………あれは、絵になるね。

 夕立の服はスカートの丈が長い、白と黒のクラシカルなメイド服。

 緑の草原にふわりと広がるスカート。亜麻色の髪と清楚な表情はとても似合っている。

 さて、そろそろひさめと時雨に挟まれておろおろしている夕立に助け舟でも出そうかな。

「大変だね。姉のお世話は」

「あ、響。へるぷっぽいー」

 ちょっとへちょれた可愛い表情で夕立。では、善処しようか。この駄目棲艦にどの程度意味があるかは不明だけど。

「響ー、聞いてよー

 時雨姉さん、夕立姉さんの太ももの上占領してるの。私も膝まくらして欲しー」

「本気で勘弁してほしいっぽい」

「残念だねひさめ。ここは譲れないよ」

「時雨もいい加減邪魔っぽい」

 ひさめに肩を揺さぶられ、膝まくらをされる時雨は夕立の腰に手を回す。なんていうか、「好かれてるね」

「うー、……いや、じゃないけど、夕立も遊びたいっぽいー」

 仕方ないか。

「時雨、お土産あるけど、食べるかい?」

 ちょいちょいと夕立に紙袋から取り出したたこ焼きを示す。夕立笑った。ソロモンの悪夢は伊達じゃない。ひさめは首を傾げた。よく解らないらしい。

「これは美味しそうっぽいー」

「夕立、食べさせて」

 あーん、と口を開ける時雨、意外と可愛い。写真にとって大本営大将の時雨に見せてあげたい。

 夕立はたこ焼きをそのまま、一切の躊躇なく口に放り込んだ。

「っ? あ、づっ、……あ、はふっ、はふっ!」

 流石に跳ね起きたね。ご愁傷様。

 夕立と合掌。すっごく嫌そうな表情をされた。

「おー」

「ま、まったく、口の中を火傷したらどうするんだい?」

 感心したひさめと、じと、とした視線を向ける時雨。夕立は重々しくうなづく。

「自業自得っぽい。今夜は庚申の夜。寝ちゃだめっぽい。なのに問答無用で寝始める時雨が悪いっぽい」

「……仕方ないか」

 はあ、と溜息をついて時雨復活。さて、

「お目覚め記念に」私は紙袋から麦酒を取り出し、ひらひらと振って「どうだい? たこ焼きとか焼きそばはあるけど」

「麦酒っ? 夕立、麦酒は初めてっぽいっ!」

「あれ? 夕立が来た時宴会しなかったっけ?」

「麦酒は飲まなかったっぽい。

 カクテルばっかりだったっぽい」

「まあ、子供にはそれがいいんじゃないかな?」

 問いに、夕立は不貞腐れたように寝転がって「夕立は子供じゃないっぽいっ!」

「……子供にしか見えないよ」

 私の言葉に時雨はこくこくと頷く。

「私ももらうねー」

「え? ひさめも飲めるの?」

 これは、少し意外だな。問いにひさめは陰鬱に笑って「いぶきに付き合わされてね」

「ああ、そういえば好かれていたね。いぶきに」

 顕世に出られなくて日々不貞腐れている戦艦のお姫様。……そういえば、彼女もいるのかな?

 せっかくの夜なのだし、出来れば、幸いな出会いを楽しんでほしい。

 それと、彼女は言うまでもないと思うけど、

「時雨は飲めるのかい?」

「大人だからね」

 ふっ、と格好よく笑う駄目棲艦。夕立は唇を尖らせて「駄目大人」

「さて、飲もうかな」

 時雨は無視した。…………ふと、彼女は麦酒を手にとって、

「なんていうか、日が高いうちから飲むお酒って、少し背徳的な感じがするよ」

「そう?」

 首を傾げる夕立、時雨は彼女に缶麦酒を渡して「お酒、飲めるようになってからだね」

「うーん、……けど、夕立、あんまり興味ないっぽい。

 みんなで騒げればそれでいいっぽい」

「私もーっ! お酒の良さはいまいちわかんないけど、宴会とか楽しいよね」

「提督と晩酌した時はすっごく楽しかったよ。

 お酒が入ると、性格もすっごく幼くなるから、本当に可愛かった」

「夕立、頑張るっぽいっ!」「私、お酒好きになれるよ」

 むんっ、と気合を入れる夕立。…………うん、彼女も要注意。ひさめは言うまでもなく、……けど、それはそれとして、

「これはお酒じゃない。炭酸麦茶だよ」

「…………ウォッカと清酒以外は全部ソフトドリンクだとかいう、飲兵衛の意見は参考にならないね」

 無視。紙袋からたこ焼きや焼きそば、お好み焼き、あと麦酒その他諸々を取り出す。さて、

「「「「乾杯」」」」

 麦酒のふちを三つ重ねる。缶だから、ごん、と。ちょっと鈍い音がした。

「この、やたらと濃い焼きそば、麦酒に合うね」

「味濃すぎっぽいー、焼きそばだけは苦しいっぽいー」

 ふあー、と麦酒を飲んで一息つく時雨の傍ら、むぅ、と眉根を寄せる夕立。

「まあ、飲むといいよ」

 時雨が夕立に麦酒を押し付ける。私はたこ焼きを割って熱を冷ましながら「それ、千歳が麦酒のために作った特別製なんだ」

「び、麦酒専用焼きそばっ、これは新天地っぽいっ!」こく、と麦酒を一息「こ、これはぁぁあっ! っぽいっ!」

「…………落ち着こう夕立」

 勢いよく立ちあがる夕立に、ひらひらと麦酒を振って時雨。しずしずと座る夕立。

「それにしても良く研究されてるね。

 確かにこれは麦酒にあうあう」

 ひさめは本気で感心してた。私はたこ焼きを食べる。

「一気食いは?」

「するほど馬鹿じゃないさ」

 横目の時雨からは視線を逸らして、あ、蛸だ。

 なんともなしにつまようじを伸ばす、けど。

「…………それは、どういうつもりなのかな? 時雨」

「さっきのおかえしさ。

 夕立があんなえげつない起こし方をするとは思えないからね。君が手を引いたんだろ?」

 ばれてたか。ひょい、とたこ焼きの中から蛸だけを掻っ攫った時雨。睨みつけるけど、笑って流された。

 仕方ない、蛸のなくなったたこ焼きを食べて次へ。

「はふぅ、……なんか、ぽかぽかしてきたっぽいー」

「夕立、脱いではだめだよ。

 一応、屋内だけどね」

「うー、……そんな事しないっぽいー」

「まあまあ、ほら、焼きそばやたこ焼き、お好み焼きもそろってるから」

「夕立、ペース考えなよ?

 提督と飲むのはいいけど、酔い潰れて恥をさらすような事は避けようね」

「うー、……提督さんも飲めるっぽい?」

「ざるだよ。提督のペースに合わせて飲んだら間違いなくつぶれる。

 一緒に飲むなら自分のペースを知ってからだね」

 と言う時雨も軽く酔いが回ってきたのか、けらけらと楽しそうに笑って応じた。

「響もかなり飲めるよね?」

 こく、と麦酒を飲んでひさめ。私より先に応じるのは時雨。

「飲兵衛棲艦だからね。ひさめ、響とまともに飲んじゃあだめだよ。

 僕の知る中ではこの飲兵衛とまともに飲める艦娘や深海棲艦は、あの舞風だけだよ。まあ、二人をそう分類していいのかは解らないけどね」

「っていうか、飲兵衛棲艦って言わないで欲しいな。駄目棲艦」

「…………二人ってさ、仲いいの?」

 不思議そうな表情のひさめに私と時雨は頷く。

 と。

「あうー、いろいろと心地いいっぽいー

 眠いっぽいー」

 確かにね、日差しは温かくて、草原を駆け抜ける風は涼しい。…………これは、

「うー」

 もにもにとお好み焼きを食べていた夕立がふらふらし始める。時雨と目配せ、時雨は笑った。妹に向ける姉の笑みとしては、……まあ、ある意味間違えていないかな。

「夕立、あーん」

「あーん、っぽいー」

 ひょい、と時雨はそれを夕立の口に放り込む。そして、

「っひひゃぁぁぁぁあああっ! ひょおおおおおおおおおっ?」

 草原に夕立の絶叫が響き渡った。私とひさめは合掌する。

「時雨さいてーっぽい」

「お返しだよ夕立」

「それは響にやるっぽい。……あうー。酔いが一気に覚めたっぽいぃ」

 ふらふらと頭を振って夕立。ひさめは、……ああ、彼女も軽く酔っ払ってる。

 そんな彼女は夕立に後ろから抱きついて「ねー、夕立ねえさーん。パーティーしよー」

「楽しいパーティーは大将さんの時雨とやるのがいいっぽい。

 第一、こんな格好じゃあパーティー出来ないっぽい」

「その、大前提としてパーティーが砲雷撃戦って解釈をどうにかした方がいいよ」

 呆れた表情の時雨。まあ、同感だ。

「それに、こんなに楽しい夜だ。争い事は無粋だよ。

 状況を考えなよ深海棲艦」

 麦酒を掲げて軽く睨む。

「どうしてもやりたいなら、私が相手になるよ?」

「…………ちぇー」

 ひさめは不貞腐れてそっぽを向いた。そして、私は紙袋から麦酒を取り出して並べる。……面倒だな。紙袋をひっくり返す、ごとごとと麦酒が落ちる。

 時雨は律儀に並べ始めて、夕立は麦酒の缶でピラミッドを作り始めた。パニッシュメントを受けるから食べ物で遊ぶのはやめてほしい。

「さあ、楽しいパーティーを始めよう」

「いや、いやいや、響のパーティーも解釈見直してよ。

 っていうか、どんだけあるのっ?」

 ひっくり返した紙袋からごとごとと落下する缶麦酒。夕立が作っているピラミッドは彼女の身長を越えたので二つ目を作り始めた。

 仕方ないか。

「大丈夫、おつまみもあるから」

 紙袋から焼きそばを取り出した。

「そういう問題じゃないっ!」

 

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