深海の都の話 ― 小噺集   作:林屋まつり

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「それぞれの寝巻かな?

 うん、個性が出ていて可愛いと思うよ」

 ネグリジェ姿の金剛、シャツとハーフパンツの比叡、可愛らしいパジャマの榛名、浴衣を着た霧島。

 リラックスができる寝間着姿。そして、場所は広い、広いベット。

 散乱するお菓子とジュース。こぼさないように気をつけないとね。

「こんばんわ、響っ!」

「こんばんわ、比叡。

 これが君たちの過ごし方かい?」

「Yesっ! さあ、響もごろごろしましょうヨー」

「そうだね」

 寝転がったままひらひらと手を振る金剛に頷きベットに座る。

「意外だね。霧島辺りはこういうの忌避すると思ってたんだけど」

「まあ、確かに行儀が悪いですが、せっかくの庚申の夜。たまにはいいのではと思います」

「それもそうだけど。寝てはだめだよ?」

「問題ありませんっ! 気合っ! 入れてっ! 夜更かしですっ!」

「気合は大切だね」

 むんっ、と拳を握る比叡。

「まあまあ、難しい話はNothing、ぱーっと騒ぎまショウっ!

 女の子らしく、甘いお菓子と美味しい紅茶と、「肴は恋バナかい? 受けて立つよ」」

 にや、と笑う私に、金剛も胸を張って応じた。

「ふふん、負けないデースっ」

「え? 恋バナって勝負なんですか?」

 不思議そうにする霧島。

「わかりましたっ! この比叡っ! お姉さまを、気合っ! 入れてっ! 愛しますっ!」

「よし、霧島、榛名、ちょっと隅っこに行こう」

「そうですね」「はい」

「Noっ! ワタシの貞操守ってくだサイっ!

 テイトクに捧げるためのものであって比叡にあげるものじゃないデスっ!」

「そ、……んな」

 比叡が崩れ落ちた。私は親指を立てる。

「金剛、捧げるって、具体的には?」

「ほへ?」

 …………金剛って、意外としっかり者なイメージがあるからああいう、不意打ち気味なちょっと抜けた表情は可愛いんだよね。

 ともあれ、金剛はおろおろし始める。精神的ダメージから立ち上がれない比叡はともかく、霧島と榛名も無言で金剛を見守り、

「そ、……そ、それ、は。……あの、デス、ネ。

 あ、あの、…………き、きき、キス、……とか、」

「金剛お姉さま、純情で、……榛名、感動しました」

「ヤンデレと比較すれば大体純情です」

 拳を握りきらきらな榛名の傍ら、ぽつり、霧島が呟く。……そっか。

「ヤンデレか、私は初めて見たよ」

「榛名、病んでませんっ! 榛名は健全ですっ! …………っていうか、」

 ふと、じと、と榛名は霧島に視線を向ける。

「霧島は、そういう話、ないの?」

「むぐっ?」

「そういえば、霧島のそういう話聞いた事ないわね」

 妄想が突っ走って自分で自分を抱きしめてふるふるしている金剛の傍ら、復活した比叡が問いかける。

 じと、と。姉たちの視線が突き刺さる。霧島はおろおろして、

「わ、悪いですかっ! どうせ私にはそういう相手いませんっ!」

 爆発した。榛名はそこそこ勝ち誇った表情。霧島荒ぶる。けど、「霧島」

「なんですかっ?」

「よくまわりを見るんだ。

 長姉は自分よりもずっと年下、次女は姉、三女は年下の同性だ。……つまり、チャンスは広がってるよ」

「…………恋愛って、レベル設定が難しいですね」

「榛名はおかしくありませんっ!」

 むんっ、と拳を握る榛名。傍らで比叡は重々しくうなづく。

「例え、誰からなんと言われても、私は、お姉さまを、愛しますっ!」

「潔すぎる」

「榛名、これが私たちの姉です。榛名みたいに自分は変ではないと一生懸命主張するのではなく、ありのままに自分の思いを認める。

 流石、比叡お姉さまです」

「…………榛名、負けました」

 立ち上がり、拳を握る比叡に尊敬の視線を向ける私たち。金剛はおろおろして「それで、ワタシはどうすればいいんデス?」

 私と霧島と榛名は笑顔でGoサイン。

「ワタシはテイトク一筋デスっ!

 比叡っ! 大切な妹に慕われるのは嬉しいデスガっ! 恋愛には節度と言うものがあってデスネっ!」

「なら、恋愛対象年齢の下限をもっと上げよう」

「自分の気持ちに素直にならなくちゃダメデスっ!」

「落ち着いてください金剛お姉さま。主張が混線しています」

 霧島は重々しく頷いた。

「つまり、恋バナになりませんね」

「残念ながらね。……解せないな。どうしてこうなったんだろう?

 ショタコンとシスコンとヤンデレじゃあ、仕方ないのかな」

 私の言葉に霧島が頷く。直後、高速戦艦三人の突撃を受けて吹き飛ばされた。

「そういう響はどうなんデスっ!」

「私と司令官は、……私の方が少し年上、かな。外見としては。

 なに一つ問題はない」

 胸を張る。そう、つまり、

「私の勝利だ」

「い、いえ、だから、恋バナは争いではないのではないかと」

 吹き飛ばされた霧島は小さく呟いた。

「恋は、戦争、ですっ!」

 

「みんな、まずは落ち着きまショウ。

 ワタシたちは、恋バナをするにはまだレベルが足りないのデス」

 深く息をついて告げる金剛。榛名と比叡と霧島は深く頷いた。

「恋とは、難しいものなんだよ」

「…………いえ、参加者の恋愛レベル設定がおかしいのではないですか?」

「思い人のいない霧島に言われたくありませんっ!」

 びしっ、と指さす榛名。霧島は比較的好戦的に笑った。

「ど、どうどう、榛名、霧島、ここでの喧嘩はNoデス」

「あの、……ちょっと困った表情のお姉さまも、可愛くて、素敵です」

「比叡はちょっと正気に戻ってくだサイっ」

 うっとりする比叡に悲鳴を上げる金剛。

「長姉は大変だねえ」

「……金剛型四姉妹は、仲良しなのに、どうしてこうなったのデスカ?」

「比叡は金剛お姉さまを愛しています」「榛名は金剛お姉さまの事、大好きです」「霧島は金剛お姉さまをお慕いしています」

「アリガトウゴザイマス」

 曇り切った瞳で応じる金剛。

「金剛、私たちの仲は比較的良好だよ。

 暁姉さんはよく泣いて、雷はよく迷走して、電はたまに黒くなる。金剛型四姉妹に決して負けない素敵な姉妹だと言う自負がある」

「わかったデス。つまり自由ならいいんデスネ」

「なにが解ったんだい?」

 話のつながりがよく解らないんだけど。

「いえ、いいんデス。Freedom響」

「つまり、世の中は自由恋愛ですねっ!」

「その通りですっ! 気合、入りますっ!」

「好都合な自己解釈は、Noっ!」

 びしっ、と腕で×を表現する金剛。

「落ち着いてください金剛お姉さまっ!」

 霧島は、すちゃっ、と眼鏡を直して、

「私たちにまだ恋バナは早かったのです。

 別のお話しをしましょう。大丈夫、私たち金剛四姉妹は仲良しです。きっと楽しいおしゃべりもできます」

「そうデスネ霧島っ! 頑張りまショウっ!」

 金剛はいっぱいいっぱいだった。

 

 いまいちレベル設定が不明な金剛型四姉妹を横目に、私は寝転がる。

 寝転がって、視線を上へ。

「やあ、初霜、若葉。

 楽しんでるかい?」

「もちろんです」「ああ、こういうのも、悪くないな」

 ワイシャツに下着だけと言う、とてもとてもラフな格好の若葉と初霜。彼女たちはそこらへんにあるお菓子を食べる。

「なんか、あっちは騒がしいが、なにをしていたのだ?」

「ああ、恋バナだよ。

 ただ彼女たちのレベルが低くてちゃんと出来なかったみたいだ」

 私の言葉にベットに散乱していたチョコレートを食べていた初霜が「レベル?」

「私はした事ないのだが、レベルとか、何か関わりがあるのか?」

「まあ、……ほら、恋愛は難しいんだよ」

 そんなものか、と若葉と初霜は納得してくれた。

「これは、ジュースだね」

「そうですけど」初霜は首を傾げて「不満ですか? 美味しいですよ」

 おや? 表に出したつもりはなかったのだけど。なかなか、鋭いみたいだね。

「いや、お酒だったらな、って思ってね」

「私たちにお酒は早い。未成年の飲酒は禁止だ」

 真剣な表情の若葉。つまり、老化する事のない艦娘は酒を飲む事が出来ない、か。

 下にいた酒飲みどもを思い出す。つつくと面倒だから「飲んでみたかったんだよね」とだけ言ってジュースを一口。

「あ、……美味しい」

「ですよねっ」

 嬉しそうに応じる初霜。さて、

「近況とか、聞いてもいいかな?」

「ああ、ちょうどいい。

 初霜と今後の方向について話し合っていたところだ。都の見解も聞きたい」

「真面目だねえ」

 いい事だと思うけどね。私はチョコレートを一つ口に放り込む。

「九州かい?」

「慧眼だな」

 問いに、若葉は軽く目を見張る。

「そうです。四国はどちらかと言えば大本営と近いです。……と言うより、甘いと言いますか。

 それに加えて九州も大本営を受け入れたら、私たちは包囲されます。ある程度散ったとはいえ、大本営の物量は高ですからね。長期戦を見据えた包囲戦では押し潰されます。

 そのための風穴が必要です」

「そんなところだろうね。

 ただ、九州は、あの南の姫たちが居座っている。北の姫同様ほとんど話を聞かないうえ、単純な攻撃力だけなら北の姫以上だよ」

 もっとも、北の姫には神が一緒にいるから、単純な討伐難易度はかけ離れているけどね。

「侵攻を前提としているわけではない。

 大本営の影響力を調査、必要ならば払い落とし、九州の自治を助力。大本営の影響力が及ばないようにする。それで十分だ」

「なるほどね」

 ジュースを一口。こう言ってはなんだけど、いろいろと楽しい事になっているね。大本営の彼女たちと会えればいいのだけど。

「最低限の干渉と交渉で南朝にとって次善の状態に持っていく、かい?」

「私たちは別に九州から南の姫たちを追い落そうとは考えていない。好きにやればいい。

 これが最善だ」

「なるほど」

 大本営と南朝と、南の姫たちとの三つ巴か。それはそれで見たみたいね。

「冗談と遊びみたいな小競り合いも楽しいですけど。動くなら派手にやった方がやりがいありますよね」

 初霜の言葉に若葉は頷く。だから、

「そちらは、助けてくれますか?」

「どうだろうね? 

 いや、直接的な助力は出来ないけど、助言とかなら受け入れるよ。以前に心得童子を貸したしね」

「ああ、あれは今でも便利に使っている。

 大抵はあれで払う事が出来る。……もっとも、上位戦力が相手では蹴散らされるだけだが」

「仕方ないね。まあ、私たちは中立を是とする。しかできないよ。干渉しないのだからね。

 助言程度の事に色をつける必要もないし、攻め込まれたら、…………仕方がないね」

 そう、攻め込まれたら仕方ない。

「無理ですよ」不穏な事を考える私に、初霜は肩をすくめて「異界になっている都には、そもそも入る手段が限られています。いくら精鋭でも、少数を敵地拠点に放り込んだって袋叩きでしょう? それに、深海棲艦の艤装は正しく常識外ですからね」

「そういう事だ。遊びに行くか相談に行くか、私たちが出来る都への干渉はこのどちらかだな。

 どちらも歓迎してくれればありがたい」

 若葉の問いに「もちろんだよ」と応じる。

「逆に問いたい。そちらからこちらに干渉する可能性は?」

「ないよ。その前提を持って私たちは艦娘も受け入れている。

 そして、死者は死者としてあるべきだ。悪戯に生者に干渉するべきではない」

 ふと、思い出すのは戦艦のお姫様。

「それで思い人に会えず、不貞腐れているお姫様もいるけどね」

 ただ、

「上もあわただしくなるのかな、これからは?

 深海棲艦相手にどんぱちしていたころの方が気楽だった?」

「気楽ですよ。ただ、現状の方が楽しいですけどね。

 相手は艦娘なのに、」

 初霜は、そう言って肩をすくめて、笑った。

「本当に、困ったものです」

 

「起きろっ! 起きろうらっ!」

「ふ、ぴゅー」

 変な音が聞こえた。そちらに歩を進めると寝転がるうらと、彼女の胸をぺちぺち叩くぴりかがいた。

「はっ、響っ!

 大変だっ! うらが寝そうだっ!」

「うう、……眠い、ですぅ。

 お布団、ふかふかー」

 もぞもぞと動くうら。確かに、寝てはいけない夜だと言うのに、このベットの上と言うのは危険だね。

「うらっ! 寝ちゃだめだっ! 寝たら、……寝たら、どうなるっ?」

 ぐりん、とぴりかが私に聞いてきた。寝たらどうなるか、そのうち目覚める。けど、

「寝たら死ぬ、と言うといいよ」

「寝たら死ぬぞっ!」

 ぺちぺちとうらの胸をはたきながらぴりか。うむむ、とうらが瞼をこする。

「ぴりか、うらが動き出した。もう少しだ。がんばれっ」

「がんばるっ!」

 ぴりかは頑張ってうらの胸をぺちぺち叩く。……それにしても、ほんと、大きいな。

 いぶきが挟まったら窒息しかけたらしい。なんとなくわかる。

「ところで、ぴりか」

「どうしたっ?」

 あくまでもうらの胸をぺちぺち叩きながらぴりかが振り返る。気になった事。

「どうしてそんな、親の敵みたいに胸を叩くんだい?」

「あるからだっ」

「そうかい」

「あう、……はふう。叩かないでくださいよお」

「うらっ、寝たら死んじゃうっ! 寝たら死んじゃうっ!

 死んじゃだめだっ!」

「ええ?」

 …………困ったな、ぴりかは本気で真に受けたみたいだ。

 必死の表情でうらの胸をぺちぺち叩くぴりか。

「わかりましたよお、起きますよお。

 起きるから叩くのやめてください」

 のっそりと起き上がるうら。

「はふう、何なんですかあ、寝てはいけない夜って。夜は寝る時間です」

「何事にも例外はあるんだよ。ともかく、」私は近くにあったカカオ99%のチョコレートを手にとって「これでも食べて落ち着こう」

「ありがとうございますー」

 うらは嬉しそうにチョコレートを食べた。

「ふがっ?」

「ど、どうしたうらっ! おっぱいが重いかっ!

 私が助けるっ!」

 そう言ってぴりかはうらの胸を下から支えた。

「は、はんれふは、ひまの?」

「チョコレートだけど?」

「ひ、ひははったれふぅ」

「そうかい? ……うーん、じゃあ、ココアでも飲む?」

「ひははひはふ」

 うらにココアを渡す。「私もココア飲むっ」

「いいのかい? ぴりか。

 今手を離したら、うらが大変な事になるよ」

 うらの胸を真剣な表情で持ち上げるぴりか、うらは幸せそうにココアを飲んでいる。

「うらなら大丈夫だ」

 手を離した。持ち上げられていた胸が揺れてバランスを崩したうらが倒れた。

「だめだなっ」「だめだったね」

「こ、ココアは死守しましたあ」

 確かに、こぼさなかったみたいだ。ともかく私はぴりかにココアを渡す。

「甘っ!」

「ココアだからね」

 

「都ですかあ。今度また遊びに行こうかなあ」

 のんびりと応じるうら。なにが面白いのか、あるいは、何かに目覚めたのかぴりかはうらの胸をぺちぺち叩く。

 うらは気にしないらしい。

「うらが遊びに来るのは珍しいね」

 ひさめとは違い、うらはほとんど都に来る事はない。移動が面倒らしい。

 と、

「響っ」

「ん?」

 胸を叩くのに飽きたのか、ぴりかはベットの上を移動。

「そこをどくっ! 私は、負けないっ!」

「なににですかあ?」

 のんびりと首を傾げるうら。そして、ぴりかはうらの胸に突撃した。

「はふはっ?」

 そして、胸に弾き返されて転がるぴりか。

「負けたっ」「勝ちましたー」

「…………ああ、勝負だったんだ」

「負けるの、悔しい。

 響、……どうしよう」

「やけ食いでもするといいよ」私は近くのトレーを引き寄せる、山と積まれた一口サイズのチョコレートを示して「ほら、お菓子はたくさんある」

「ありがとうっ、響はお菓子をくれるからいいやつだっ」

「どういたしまして」

「私も食べますー」

 うらもチョコレートに手を伸ばす。「そいっ」

 ぴりかはうらの手に頭突きをした。

「お菓子は私のだっ」

「へう」

 …………そんな情けない表情をするかな? いや、まあ、ともかく。

「ぴりか。お菓子はみんなで食べないとだめだよ。

 じゃないと、うらが死んでしまうよ」

「な、なんだとっ? うらはお菓子を食べないと死ぬのかっ!」

 驚愕のぴりか。ちなみにうらはお菓子をもらえなかったのがショックなのか隅でめそめそしている。

「ぴりか、うらが泣いてしまったよ」

「うむむ」ぴりかは難しい表情でチョコレートを一つ手にとって「じゃあ、一緒に食べる」

「いいの、ですか?」

 涙目のうらが振り返った。ぴりかは重々しく頷いて「命には代えられない。食えっ」

「いただきますぅ」

 ぱく、と食べた。……どうやらそのチョコレートも99%カカオだったらしい、うらは倒れた。

「響っ、うらが死んだっ!」

「こういうときは合掌するんだ」

「わかったっ!」

 私とぴりかは倒れたうらに向かって合掌。

「「南無ー」」

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