「来ましたネ。
こっち来て下サイ、一緒に飲みまショウ」
星空の底から月を見上げる。そこには月に腰を下ろした金剛が優雅に紅茶を飲んでいる。たぶん、深海棲艦だね。
向かいに座るのは大鳳だね。さて、
「どうやっていけばいいんだい?
生憎と、私は飛ぶ事が出来ないのだけど」
「星に跳び移ればいけマス」
「そうかい」
さて、と。私はぐるり、辺りを見渡して足元の星の上へ。そこを足場に、また次の星に足を延ばす。とんっ、とんっ、と跳び移りながら上、金剛、大鳳、それと「いぶき」
「こんばんわ、いい夜ね」
ワイングラスを掲げるいぶき。満月を机にして、三人で飲んでいたみたいだね。私は頷き、ロックグラスを手に取る。中身は、
「ウォッカ? 相変わらず好きね」
お猪口を揺らしながら大鳳。「これは、命の水だよ」
「響限定ではないデスカ?」
ティーカップを手に笑う金剛。
「違うよ。元々そういう意味」
「飲兵衛棲艦の酒理論なんて後でいいわ」
「悪かったね」
ぼやき、こつん、とそれぞれ嗜む酒で、乾杯。
「そういえばいぶき、下の階に吹雪がいたよ。
まだ、君と会うのは躊躇があったみたいだね」
「仕方ないわねえ」
くすくすと困ったように微笑むいぶき。
「会えないの、残念?」
大鳳の問いに「もちろん」といぶき。
くい、と、ワインを一口。
「ま、けど私からは会えに行けないし、いつか会いに来てくれる事を待ってるわ。
どうせ、時間はあるのだしね」
「片思いも大変デース」
「両想いだったはずなんだけどね」
からからと金剛が笑いいぶきが苦笑。そうだ、金剛と言えば、
「金剛、君の可愛い妹たちが恋バナしてたよ」
「達? 比叡とつつじデス?」
つつじ、……いつの間にか妹に翻弄される役になっていた艦娘の金剛だね。
「それと、榛名と霧島だね」
「楽しそうな話になりそうね」
微妙な表情で大鳳。頷く「楽しかったよ。ただ、レベルが足りなかったみたいなんだ」
「なにそれ?」
「恋は、難しいんだよ」
私の言葉に金剛と大鳳、いぶきは真面目に頷く。まあ、私の見聞きした事とある程度開きはあるかもしれないけどね。
「むー、可愛い妹デスガ、テイトクに気があるのはいただけないデス。
テイトクのLoveはワタシがいただきマスっ」
拳を握る金剛に突き刺さる大鳳の視線。とすると、
「金剛も司令官に貞操を捧げるの?」
「ふぁっ? ……な、なな、なにを言い出すんデスっ! こんなところでっ!」
「ちょっとその話詳しく」
「いや、金剛の可愛い妹がそんな事言ってた」
「あのニクタラシイ妹を一発殴ってきマス」
「落ち着きなさい金剛」
憤然とした表情で立ち上がる金剛。大鳳が苦笑。
「大丈夫、防護は完璧よ」
大鳳の言葉に重々しく頷く。金剛は微妙な表情、そう、その完璧な防護に敗れた事があるのは彼女も同じなのだから。
「で、その完璧な防護に対する最大の脅威は?」
「大鳳」「響」
「味方同士で食いあってるのねえ」
いぶきがしんみりとした。だって仕方ないじゃないか。
「でー、ワタシの可愛い妹はどんな事言ってたデス?
その、…………え、えっちな事言ってたのなら、姉として指導を頑張らないといけまセン」
「顔を真っ赤にしてキスとか言ってた。
榛名が金剛の純情さに感激してたよ」
私と大鳳、いぶきは金剛を見る。
「き、きき、キス、も、だ、ダメデスっ!
そ、そんな、そんなの絶対にダメデスっ!」
「金剛の唇は私がいただくわっ!」
こっちも顔を赤くする金剛を見て、いぶきは立ち上がる。金剛は対峙するように立ちあがり「ワタシの唇はテイトクに捧げるのデスっ!」
「絶対だめって言葉はどこに遊びに行ったのよっ!」
そして最後に立ちあがる大鳳。三人は視線を交わし、溜息。
「三人とも、落ち着こう。ほら、とりあえずお酒でも飲んで」
「それ、落ち着けるんデス?」
「相変わらず好きね」
毒気を抜かれた表情で腰を下ろす三人。
「命の水だよ。三人はどうだい?」
「遠慮するわ」「やめておくデス」「独りで飲みなさい」
「…………この味を解ってもらえないなんて、悲しいよ」
ほんとにね、仕方ない。私はロックグラスを煽る。グラスを空けて、こと、と満月に置く。
視線を落とす、グラスに並々注がれているウォッカ。
「まあ、好きな物を飲めばいいわ」
いぶきはワインを一口。ほう、と一息。
「解ってるさ。酒の強要は無粋。その程度の節度はある」
「その割には随分飲ませようとしてなかった?」
じと、と問う大鳳。私はここに来るまでの事を思い出し、
「そうだね。……ああ、あれも強要になるのかな?
ただ、反応が面白くて、ついね」
「性格、悪いデス」
「心外だ」
満月に頬杖をついてウォッカを一口。
「で、心外ついでに、楽しんでる?」
いぶきの問いに私は頷いて応じる。金剛は「それはよかったデス」と笑う。
「せっかくの夜だからね、楽しまないと損だよ。
で、そういう皆は? まさか一晩中ここで飲み明かしていたわけではないだろう?」
「それも面白いかもね。貴女達と飲み明かすのも」
大鳳はお猪口を掲げる。ちん、と音。
「日向と、伊勢と話してたわ。
伊勢も、随分と慣れてきてたみたいで安心した。一時は記憶が消し飛んだ日向より不安定だったのにね」
「それはよかったよ」
秘書として頷く。やはり、都のみんなには平穏に暮らして欲しい。
「ワタシは夕張と会っていまシタ。
南朝の彼女デス。あっちも愉快デスネ」
いぶきは、ちん、とワイングラスを弾いて、「どこも愉快でしょ?」
「それもそうだね」
「面白いからって、ちょっかいかけないでよ? 深海棲艦」
笑って応じる私の傍ら、大鳳は胡散臭そうにいぶきを睨む。彼女は肩をすくめて、
「まさか、そんな事はしないわ。死者は死者の分をわきまえないとね」
解っているならいいさ。
しばらく、ぼんやりと四人でそれぞれの飲み物を飲み、満月の上に現れたお菓子を軽くつまむ。
「それにしても、綺麗ね」
ぽつり、大鳳が呟いた。
「星空ね。……都では到底見られないね」
「一応、深海にあるってことよね?」
いぶきの問いに頷く。そう、そういう事になっているんだよ。
ちなみに、星空を見上げる。ではなく星空の中にいる。と言う感覚だけどね。
視線を下へ。星が輝いている。
「星空が見たかったら山に行くといいよ。
金剛は、いった事なかったっけ?」
「山? 大江山デス?」
「そこもあるけどね。
けど、他にいくつか、白峰山とか、あと、戸隠山、飯綱山ね。高山は星が綺麗よ」
大鳳の問いに金剛の瞳も輝き出した。その輝きを見て、いぶきの瞳が輝いた。
「いいわね金剛。星空の下。大切な人と二人きりで、ロマンチックねー」
「そうデス。テイトクと星空の下「酒盛りだね」台無しデスっ!」
ふっ、と笑う。大鳳は私によくやった、と言わんばかりの表情で頷く。
いぶきは生温かい笑顔。
「金剛、妄想も、大変ね」
「ぶー、……いいデスっ、絶対実現してみせマスっ」
「そう? けど、お酒飲むのもいいわよ。
提督、お酒はいると少し行動も幼くなるから、前に星空の下で酒盛りをした時、甘えて私の膝の上に座った時は本当に可愛かったわ」
「…………そんな事をしていたのかい、大鳳?」
聞き捨てならないね。大鳳は、ふっ、と笑う。
「酒盛りは、ロマンチックじゃないからやらないわよね。金剛」
「……テイトクと触れあえるなら、それでOKっ!」
「酔って襲っちゃあだめよ? ……あ、金剛の場合、押し倒すよりは押し倒されたい?」
「ふぁっ? ……え? て、テイトクが、して、くれるなら。…………嬉しい、デス」
「よし大鳳、金剛を監視だ」
「そうね。異界への出入り口は見張っておきましょうか」
「ぶーっ」
ブーイングする金剛をひらひらと交わして「けど、私もまたぱーっとお酒呑みたいわね」
いぶきの提案に私も頷く。同感だよ。だから、
「宴会でもやるかい?」
「当てはあるの?」
大鳳も身を乗り出して問いかける。それはもちろん、
「庚申の夜の打ち上げ、これで十分さ。
この夜の土産話を肴に存分に飲もうじゃないか」
「また飲むんデス?」
呆れられてしまったよ。
「金剛は宴会、好きじゃない?」
首を傾げる大鳳。問いに金剛は笑って「No、みんなで騒ぐの、大好きデスっ」
「けど、あんまり強くないよね。金剛」
「……っていうか、響が強すぎデス。飲兵衛棲艦」
「その飲兵衛いにまともに付き合うからさっさと潰れるのよ。
酒の飲み方くらい覚えなさい」
「解ってマース」
いぶきの忠告に両手をあげて応じる金剛。と。
「酒はともかくだけど、何かつまめるものとかある?」
指を鳴らす。満月の上にあるお皿にぱらぱらと星が落ちてきた。
一つ手に取る。かり、と齧る。
「金平糖? ……私、清酒なんだけど」
一口齧って微妙な表情の大鳳。けど、
「紅茶にはいいデス、金平糖の甘みと紅茶の渋みがとってもGoodデス」
お皿いっぱいのお星さまを金剛の前に押しやる。金剛は一口、紅茶を飲んで幸せそうに一息。
「っていうか、みんな飲んでるのがばらばらだよ。どれにもあうものなんてあるわけないじゃないか。……ちなみに、食べたいものはあるかい?」
「魚」「肉」
「もうちょっとまともな注文は出来ないのかい?」
お刺身にローストビーフ。角煮にカルパッチョ。
「……………なんで、女の子のお茶会が居酒屋化するんデス?」
「そこにお酒があるからよ。あー、美味し」
頭を抱える金剛に、ワインを飲んで笑ういぶき。
「おつまみ食べているだけましよ。
そっちの飲兵衛なんて何も食べないでウォッカを煽っているじゃない」
「というか、女の子のお茶会設定なんて金剛だけじゃないか。
他の誰がお茶を飲んでいるんだい?」
「そうデスケドー」
スコーンを齧りながら眉根を寄せる金剛。
「好きなの食べればいいじゃない?
せっかくの夜だもの、楽しんだもの勝ちよ」
けらけらといぶきは笑う。けど、そうだね。
「それで、そもそも金剛のお茶会ってどんなの?
君の可愛い妹がお菓子とジュースが散乱したベットの上、パジャマ、恋バナ、なんてやってたけど。そんな感じ?」
「行儀悪」
ぽつり、大鳳が呟く。「夜なんだし、楽しければいいじゃない」と、応じるのはいぶき。
手を伸ばす、金平糖を齧る。かりかりと食べながら金剛の返事を待つ。
「んー、お茶とお菓子を片手に、大好きなテイトクの話で盛り上がりたデス」
「この面子だと盛大な惚気合戦にしかならないから却下ね」
よし、と身構えた私と大鳳を横目に、いぶきが淡々と釘をさす。…………同感だよ。
「金剛、夜なんだからお酒でいいと思うよ。
お茶ならお昼でも飲めるからね」
誠に遺憾ながら飲兵衛棲艦などと言われる私だって、普通は昼間っから酒を飲んだりしないさ。
「仕方ないデス」
金平糖を食べながら金剛は苦笑。角煮を切り分けていた大鳳は、不意に顔をあげる。
その視線の先、それを見て、
「といっても、この楽しい夜もそろそろ終わりかな」
ぽろぽろと、空が白み始める。朝の輝きに星が消えていく。
「んー、のんびりできまシタ。
こういうのもたまにはいいデスネ。みんなで遊んで、みんなでお茶会、楽しかったデス」
「…………はあ、吹雪に会えなかったわ。残念」
満足そうな金剛と、肩を落とすいぶき。
「まあ、時雨はちょくちょく来るから、何かあれば彼女に伝言を頼むといいよ」
「知ってるわ。それで、愛してるって伝えてってお願いしたらげんなりされた」
「そりゃあげんなりするわよ」
大鳳が苦笑。「世知辛いわー」と、いぶきは泣き真似。
大鳳は立ちあがり、伸びを一つ。
「さーて、それじゃあ、お開きとしましょうか」
「……夜も終わりだ。それじゃあ、」
最後に、まあ、朝が来たからね。
「「「「おはよう」」」」
そんな挨拶を交わした。
「おはよう、楽しかった?」
司令官の言葉に私は頷く。楽しかった。……けど、やっぱり司令官が一緒がよかったな。
「おはよう司令官。
うん、楽しかったよ」
「疲れが残ってるなら今日は一日休んでていいよ?」
司令官の言葉に首を横に振る。だって、
「司令官と一緒にいたいからね。さて、今日も頑張るよ」
さあ、一日のはじまり、頑張っていこうか。