深海の都の話 ― 小噺集   作:林屋まつり

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三話

「ちぃーっす」「お邪魔しますわ」

 お夜食のためのお菓子調達を瑞鳳に任せて、鈴谷と熊野は隣室に突撃。隣室は当然、鈴谷たちの部屋に劣らぬ豪勢な部屋。

「お二人とも、どうしましたか?」

 浴衣に着替え、お茶を飲む高雄。愛宕は、いないか。

 ま、いっか。

「うん、明日の事で相談なんだけど。

 あのさ、拠点になりそうなところ、どこか融通できる? 隠野を見て回る時の拠点にしたいんだけど」

「ええ、大丈夫よ。徳島県に使われていない基地があるから、紹介するわ」

「よかったですわ。

 流石に、南朝の支配域の外に拠点を構えるとしたら遠いですもの」

「それもそうね」

「資材、っていうか、燃料はある?

 なければこっちで用意するけど?」

 なにかあった時なにもない、はとても困る。

「一通りの資材や施設はあるわ。

 ただ、使った分は後で返してもらいます」

「それはもちろん、あとで海軍に請求して」

 っていうか、使いっぱなしはそれなりに気まずい。高雄の問いにもちろん、頷く。

「ええ、了解ですわ」

 基地の紹介は明日お願いするとして、気になった事。

「それで、高雄。あの、顕仁さんとの馴れ初めとか、聞いてもよろしくて?」

 お。

 興味深そうに身を乗り出す熊野、……確かに、鈴谷も興味ある。

 顕仁さん、なんか怖そうだなー、って気はしてたけど、実際会ってみればそうでもなかった。

 これから報告とか相談とかで会う事もあるだろうし、鈴谷もどんな人か知っておきたい。だから頷き、ずずい、と迫る。

 …………もちろん、高雄の反応見て、恋バナに発展しそうだな。……って期待はないよ、うん。

「な、馴れ初め。……もなにも、…………」

 頬を染めてもじもじと頷く高雄。さて、どう突っ込もうかっ! 鈴谷っ、抜錨っ!

 熊野と視線を交わす。よし。

「実はですね。高雄」

「え、ええ」

 熊野は真面目な表情で言う。高雄、反射的に頷く。

「ここに来る前に、雪風から顕仁さんは気難しい方、と聞いていますわ。

 直接お会いして、わたくしたちには優しく接していただけましたが、改めて無作法がないようにあのお方の事を知っておきたいのですわ」

「変な事言って消されたら困るしねー」

「顕仁様はそんな乱暴な事をしないわっ!」

 反射的に叫ぶ高雄。ほんとに? と、熊野と視線を向ける。

「顕仁様は、海軍の大編成で居場所のなくなった艦娘を迎え入れていただけました。

 私たちにとって、大恩のある御方ですっ」

「あー」

 大編成、深海棲艦がほとんど発生しなくなったから、代将とか准将の大半が海軍からいなくなった。

 艦娘たちは残った将校に引き取られたり、そのほかいろいろなところに行ったけど。

「高雄は顕仁さんに引き取られたんだ?」

「…………愛宕と、助けていただきました」

「助け? ……ああ、そういう事も、ありますわよ、ね」

 少し、気まずそうに視線を逸らす熊野。

 基本、鈴谷たち艦娘は提督の命令に従う。……だから、それを勘違いする提督も、当然、いる。

 嫌な話だけどね。……で、

「で、私と高雄は顕仁様に助けていただいたのよ。

 ふふ、嬉しかったわあ」

「やっほ」

「ちぃーす」「あら、お二人とも」

 愛宕と瑞鳳だ。高雄は少し安心した表情。

「顕仁さんって、鳶、だよね?」

 鈴谷の問いに、愛宕は笑って「たまーに、人の姿をとっているわ。ふふ、とーっても可愛い男の子なのよねえ」

「あっ、愛宕っ」

 艶っぽくウィンクする愛宕に、高雄が慌てて声。…………可愛いの? 全然想像できないんだけど。

「可愛いんだ、想像できないけど」

 だから瑞鳳には同感。

「そうそう、……はあ、弥生ちゃん羨ましかったなあ。

 私も、顕仁様をぎゅーって、あだっ?」

 茶葉の入った籐籠を投擲する高雄。

「自業自得と言って差し上げますわ」

「ちぇー」

「それよりさっさとお風呂入っちゃおうよ。

 夕食まであんまり時間もないし」

 っと、それもそっか。

 瑞鳳と一度部屋に戻って、浴衣、そのほかを引っ張り出す。

「貸し切りだといいなー」

 広々としたお風呂は憧れる。なんたって温泉だしっ!

 貸切じゃなくても、せめて手足が伸ばせるくらいのスペースは欲しい。

「ねっ、ふた?」

 同意を求めて振り返る、と。

「鈴谷っ!」

「お、おおう?」

 ずずい、と迫る熊野。

「つ、ついにエステですわっ! ……とても、とても楽しみですわあっ」

 きらっきらな熊野がいた。

「そんなに楽しみ?」

「ええ、もちろんっ!

 鈴谷もいかが?」

「んー、……どうしようかなあ?」

 あんまりそういうの興味ないんだけど、せっかくだし、いっか。

 で、

「どうしたの? 瑞鳳」

「………………………………」

 だんまり決め込む瑞鳳。言葉を向けてもリアクションなし、……変だな? そういう娘じゃなかったんだけど?

 温泉に嫌な思い出とか? ないと思うんだけど。

 ともかく、きらきらな熊野と静まりかえる瑞鳳。高雄と愛宕と合流し、そのまま大浴場へ。

「鈴谷っ! 鈴谷っ! 見つけましたわっ!

 エステっ、エステっ! エステですわっぁあっ!」

「いたいいたいいたいいたいっ! ってか、なんで髪引っ張るのっ!」

 輝く熊野はなぜか鈴谷の髪を引っ張る。ちょ、いや、ほんと痛いってっ! せめて手を引っ張って手をっ!

 ともかく、熊野を打撃して静めて、お風呂に突撃っ!

 愛宕と高雄はもう脱衣所へ。鈴谷も熊野を脱衣所に叩き込み突撃する。…………「あのさ、瑞鳳」

「………………………………」

 いや、喋れ。

「ずーいーほーっ!」

「…………私は、提督にセクハラを受けていました」

「ど、どうしたの?

 もうあんたの提督いないでしょ?」

「おっぱいが小さいのがそんなに悪いかぁぁあっ!」

「うひゃぁああっ!」

 爆発したっ! 胸部装甲とか婉曲な表現さえ使わないで爆発したっ!

「あの、くそ提督っ! なにが胸部装甲を刺激すれば大きくなるよっ!

 ああもうっ! 艦載機じゃなくて鏃つけて打ち抜いてやればよかったぁっぁあっ!」

「落ち着けー」

 なにか、触れちゃいけないところに触れちゃったか? ってか、…………あの、セクハラ提督は殺していいかな。

「どうしたの?」

 熊野と瑞鳳の奇行に手を焼いている間に脱いだらしい愛宕と高雄。その圧倒的装甲差に口からエクトプラズマ、……いや、機能停止したから燃料かもしれない。まあ、うん、機能停止する瑞鳳。

 鈴谷は瑞鳳の肩に手をおいた。

「瑞鳳、……女の子の魅力はおっぱいだけじゃないわ」

「ほ、……ほんと?」

「もちろん、瑞鳳は十分可愛いってっ」

 …………なんか、見上げてくる瑞鳳に割と本気で言っちゃったし。……鈴谷、そんな趣味ないんだけどなあ。そして、打撃。

「ぐふっ? な、なにっ?」

「ふんっ、なにもたもたしてるんですの? さっさと入りますわよ」

 鈴谷の背骨に肘鉄叩き込んだ熊野。当たり所がよかったか。かなり痛い。

「え、エステの前で散々騒いだ熊野に、なんでそんな文句言わなくちゃならないの?」

「知りませんわ。ばか」

 鈴谷何をした? ……はあ、ともかく服を脱ぐ。

「…………鈴、谷」

「え?」

「この裏切り者ーっ!」

 

「…………さーて、入渠入渠」

 髪引っ張られて背骨に肘鉄食らってひっぱたかれた。本気で、鈴谷何をしたんだろう?

 しかも、その原因二人は謝るどころかなぜか鈴谷が悪いような視線。納得いかない。

「大丈夫?」

「大丈夫」

 先に入ったらしい愛宕が不思議そうに首を傾げる。鈴谷も首を傾げたい。

「さて、そーんな鈴谷に、朗報でーすっ」

「朗報?」

 なんだろ? 愛宕は嬉しそうな表情で、

「ぱんぱかぱーんっ!」

「「「おおっ!」」」

 温泉への扉を開いた。がらん、と。誰もいない、つまり、

「鈴谷たちの貸し切りっ!」

「うわっ、広いっ!」

「いろいろありますわねっ」

「そうですわ。ジェットバスやサウナ、かけ湯に露天風呂、たくさんありますっ」

 高雄も少し興奮しているのかテンション高め。

「よしっ、それじゃあ鈴谷、熊野っ、さっさと洗って入ろっ」

「うんっ」「そうですわねっ」

 瑞鳳に手を引かれて近くの水道へ。椅子を引き寄せて、すとん、と。

 温かいシャワーを浴びて、ほう、と一息。その頃には理不尽な暴力の痛みも忘れた。

「えーと、鈴谷、……背中流して、あげよっか?」

「ん?」

 おずおずとした声。「瑞鳳?」

 どこか気まずそうな瑞鳳。彼女は視線を逸らして「その、……さっきはごめん。取り乱しちゃって」

「ん、まあいいよ。それじゃ、お願い」

「うんっ」

 まあ、トラウマは誰にでもあるわけだし、しゃーない。

 

 瑞鳳に背中を流してもらって、お礼に瑞鳳の髪を洗って、一人不貞腐れる熊野の髪を瑞鳳と洗って、

「さて、お風呂に出撃っ!」

「行きますわよっ」「おーっ」

 まずは露天っしょっ! 早速入る、と。

「仲いいのね」

「んー、まあ、《呪詛の御社》の件の前から一緒にいてね」

 俗称ブラック提督のところにいた。……その時から、お互い支え合ってきた、大切な友人。

「今も三人で行動すること多いですわね。そういう仕事を与えられている、のでしょうけど」

「雪風大将にはほんと感謝よね」

 楽しそうに笑って瑞鳳。大抵、こっちに仕事を持ってくるのは雪風だしね。

「三人には提督、はいないのですか?」

「いないよー

 まあ、強いていえば雪風かな、海軍大将の」

「今のところ、雪風から指示を受けてそれをこなす、って感じよ。

 もしかしたら、そのうちどこかの提督のところに所属するかもしれないけど」

 ちょっと、言いにくそうに瑞鳳。……まあ、あんまりいい思い出はないしね。提督には、

「不都合はないの?」

「ありませんわ。

 施設も資材も余っていますし、勝手に起動させればいいだけの事ですわ。

 陣形も、三人で行く程度ならあまり関係もありませんし」

「最初からこれなら楽だったのに」

 はあ。とため息。

「大変ねえ。……ま、気持ちも解るけどお」

 ちゃぷん、と。愛宕が転がる、浴槽のふちに頭を預けるように、…………それで見える身体一部に瑞鳳が死んだような視線を向けたので、沈めた。

「ま、昔は大変だったけど、今は結構気楽にやってるし、気遣いはなしの方向でね」

 鈴谷の言葉に愛宕も笑顔で頷く。つんつん、と。

「あの、現在進行形で大変な人がいますけど?」

「と言うか、瑞鳳。そんなに気にする事ではないのではなくて?」

 ずばぁあっ! と、跳ね上がった瑞鳳に呆れたような視線の熊野。

「解ってる。……解ったるけどお」

「大丈夫ですわよ。瑞鳳は十分可愛いですわ」

「そうそう、瑞鳳はそのままが一番可愛いよ」

 うりうり、と熊野と一緒に可愛い瑞鳳を撫でる。

 瑞鳳は心地よさそうに目を細めて、…………ふと、

「って、子供扱いしないでよーっ!」

 

「ん、……ふっ、……う、…………あ、ん、気持ち、いい、です、わ」

「ひぐっ! あ、い、いたっぁあっ?」

「あ、…………そ、そこ、いい、……ん、ふぅ、気持ち、いい」

「ひぎゃっぁぁああああああっ、いっだぁぁああああああっ?」

「……ん、ふぅ、あ、……ふふ、くすぐったい。……けど、上手、気持ちいですわ」

「あぎゃっぁぁあああああああああああっ?」

 

「…………あのお、なにがあったのお?」

 死んだ目をした瑞鳳を背後に、不思議そうに首を傾げる。

 その先にはぐったりした鈴谷とつやつやな熊野。

「いや、痛かった。すっごく痛かった。なにあれ? 新手の拷問?」

 おかしい、なにかおかしい。なぜ熊野はあんな気持ちよさそうだったんだ? 鈴谷がなにした?

「マッサージ、気持ちよかったですわ。……ふふ、うふふふふ」

 夢見心地の熊野が無性に腹立たしい。

「愛宕たちはなにしてたの?」

 指圧を受けてた鈴谷と熊野を横目に、どこぞに行った愛宕たち、結構気になるよ。だって瑞鳳の目が死んでるし。

「マッサージチェアがあったから体験してみましたーっ!」

 ぱんぱかぱーんっ! と、まあそんな感じで愛宕。

「あれも気持ち良かったわ。

 いろいろなコースがあって、……ふふ、つい全部やってみてしまいましたわ」

 満足そうに微笑む高雄。そして、瑞鳳が限界に達した。

「鈴谷ーっ!」

「げふっ?」

 腹に突撃するな。

「う、うう、ひっく、……ひぅ」

「マジ泣きっ? なにがあったのっ?」

 視線の先、愛宕と高雄は首を傾げる。

「う、……ううぅ、お、おっぱいがあ」

「本気でなにがあったっ?」

「マッサージの振動がぁぁあ、はうぅう」

「よしよし」

 なんとなく察した。そうか、装甲差か。瑞鳳、強く生きろ。

「どうしたんですの? 振動?」

「愛宕、高雄、マッサージチェア使った時どういう配置?」

「配置? 私と愛宕の間に瑞鳳よ」

「やっぱりね」

 圧倒的装甲差に挟まれて涙にくれる瑞鳳が不憫でならない。…………「えーと、くすぐったいんだけど?」

 なぜ鈴谷の乳触る。なぜ鈴谷を睨む。

「どうして鈴谷もおっきいのっ!」

「知らんっ!」

 

 めそめそする瑞鳳。鈴谷より適任の熊野に任せた。熊野が鈴谷を殺しそうな目で睨んだ。

 まあ、そんなこんなでおゆはん。最上階にある宴会場? もとい、…………宴会場でいいや。

「瑞鳳、いいですの?

 圧倒的装甲差は仕方ありませんわ。けど、艦隊戦は装甲だけではありませんわ。機動力、砲撃力、何より瑞鳳は軽空母、大切なのは艦載機の航空戦ですわ」

「…………うん、……ありがと、熊野。

 そうよね。戦力は装甲差だけじゃないよね。……うん、私も頑張るっ」

「ええ、頑張って装甲差を跳ね返しましょうっ」

「おーっ」

 二人は何の話をしてるんだろ? ともかく、宴会場の戸を開けて、

「「「おおっ!」」」

 これはっ! 凄い、

 それぞれの席には豪華な和食。

「ど、どれから手をつければいいのっ?」

「しゃぶしゃぶっ! しゃぶしゃぶっ!」

「ちょっとっ! こんなところではしゃがないでいただけますっ!

 恥ずかしいですわっ!」

 テンション上げ上げな鈴谷と瑞鳳の横から熊野。

「ふふ、けど気持ちも解るわ。

 これだけの料理は初めてよね」

「私も、見た事なかったわ。

 顕仁様に感謝しないと」

「ほんと、マジ感謝っ! さて、それじゃあ食べよっかっ」

「後でお礼をしなければなりませんわね」

「あっ、お酒もあるんだっ」

「マジかっ!」「え、お酒、ですの?」

 喝采する鈴谷の傍ら、半歩引く熊野、弱いからねー

「熊野は飲まない方がいいっしょ? 強くないし」

「うぐっ?」

「そうなの?」

「そうそう、全然だめだめ。

 すーぐ酔っ払って寝ちゃうんだよねー」

「高雄よりマシじゃない」愛宕は高雄の肩に肘を当てて「ぐてんぐてんのぐるんぐるんになっちゃうのよねえ」

「愛宕っ!」

「そうなの?」

 顔が真っ赤な高雄。「ぐてんぐてんのぐるんぐるんかあ」

 ちょっと楽しみかもっ!

「そ、そんな事はいいのよっ!

 じゃあ、いただきますっ!」

「「「「いっただきまーすっ!」」」」

 

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