深海の都の話 ― 小噺集   作:林屋まつり

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五話

 

「敵影なし、艦載機からの報告だと静かなものね」

 ふぅ、と瑞鳳は一息。よし。

「それじゃあ、行きますかっ!」

「ええ、そうですわね」「そうね」

 立ち上がる。鈴谷に続いて熊野と瑞鳳も、

 警戒はしなくちゃいけないけど、すぐになにかあるってわけじゃあなさそう。

 よかった。やっぱ、艦娘と交戦するのは、あんまり気が進まないよね。

 

 静かなもの、瑞鳳の言葉通り、熊野灘海域は特に何もない。

「少し、近づいてみる?」

 一通り、那智湾周辺の海域調査を終えて、鈴谷は振り返り聞いてみる。応じるのは同意が一つ。

「瑞鳳は反対?」

 問いに、瑞鳳は応じない。…………「艦娘?」

「南朝ですの?」

「どちら様?」

「…………いや、ごめん。解らない。

 瑞鳳の知らない艦娘、かも」

「そうなの? 新しい娘、かな?」

 艦娘は《がらくた》の威で構築されたかつての軍船の魂。当然、艦娘として確認されていない軍船も、存在する。

 それかな?

「海に危険はなさそうだし、接触してみる?」

「……そう、ですわね」

 よし。

「鈴谷が行ってくる。瑞鳳は援護をお願い。

 熊野は、なにかあったら援護よろしく」

「了解しましたわ。気をつけて」「了解。なにかあったらすぐに逃げてね」

 二人に軽く手を振って、さて、

 那智湾に向かって進む。……………目視確認。

 海に直立する人、女性。深海棲艦か、あるいは艦娘。

「見た事、ない、わね」

 眉根を寄せる。見た事がない艦娘が存在する。……まあ、それはいい、んだけど。

 艤装は、ない。

 見た目はただの女性。足首まで届く長い黒のワンピース、……みたいな服。

 こういっちゃあなんだけど、艦娘には見えない。

 けど、深海棲艦とも違う。

 

 ふと、目があった。

 …………感じたのは、甘くて、真っ白ななにか。

 

「こんにちわ」

「あ、……う、うん。えーと?」

 気がつけば手が届く距離にいる彼女。

 黒いワンピースに、溶け込むように黒い長い髪。温和で、穏やかで、清楚な女性。

「貴女は、……艦娘?」

「艦娘? ですか?

 いえ、違う。……と思います」

「そうなの?」

 艦娘じゃないとしたら、……なに?

「ええ、わたくし、名を補陀洛渡海船。と申します。

 人々とともに浄土へと至るための船、です」

「……あ、…………ああ、うん、そうなんだ」

 ふだらく、とかいせん? ……なんだそれ? なんてか、鈴谷には意味不明すぎるし。

 どーしよ?

「ええと、……ここで艦娘見なかった? 鈴谷たちみたいな、のだけど」

 ……うう、意味不明な質問。ってか、艦娘を知らない相手に艦娘ってどう説明すればいいんだよー? 海に立つ女の子とか?

 問いに、補陀洛渡海船は少し申し訳なさそうに首を横に振り、

「申し訳ございません。

 わたくしも、探し物がありまして、あまり周囲を見て回っていないのです。それで、その、……ええと、艦娘? ですか。そのような方は見かけていません」

「あ、そうなんだ」

 残念、……けど。

 視線を後ろへ。無線を通じてこの会話は熊野たちにも流れているはず。視線の先、熊野はジェスチャーで戻ってこい、と。

 誰かいただけでも収穫。それに、補陀洛渡海船なんて、変な艦娘。……じゃないか、…………まあ、補陀洛渡海船なんて初めて見る子ならなおさらだし。

 害はなさそうだけどね。さて、「探し物って?」

 ふと、気になった言葉。補陀洛渡海船は首を傾げて「あちらの方は?」

 あり?

「あ、……うん、鈴谷の友達、友達だよ」

「そう、でしたか。……そうですか。

 と、失礼しました」

 じ、と、熊野を見ていた補陀洛渡海船は苦笑。

「探しものでしたね。

 誠に申し訳ございません。質問を受けておきながら無視をする形で質問をしてしまって」

 楚々と頭を下げる。ちょっとこっちが恐縮しちゃうほど。

「熊野坐神。その御神体を探しているのです。

 それが、わたくしの悲願。浄土に至るために必要なのです」

 

「……なに、あの娘」

 早速戻ってきた鈴谷に、不思議そうな表情の瑞鳳。鈴谷も解りません。お手上げー

「ま、……なんかよく解らないけど地元人? みたいだし。

 雪風に報告して、接触中心の調査に切り替えよっか」

「そっちの方がいいね。

 現地の人なら陸上の情報も詳しいだろうし、艦娘は見なかったかもしれないけど、なにか知ってるかもしれないしね。

 未知の土地ならなおさら、現地の協力とか心強いし」

 瑞鳳も頷く。けど、溜息。

「ただ、雪風と、……あと、顕仁さんにも聞いてみよっか。

 なんか、変な事言ってたし」

「そうするー」

 特に、害意とかは見えなかった。基本的には協力的だったと思う。

 けど、やっぱ言っていた内容が気になる。……ってか、なんだ浄土って?

「補陀洛渡海船、だっけ? 艦娘じゃないのかな?」

「そんな命名規則打ち抜けた軍船なんてあるわけないっしょ。

 ってか、意味不明すぎ、鈴谷、最後の船しか理解できない」

「渡海、って、海を渡る、って意味じゃないの?

 海を渡る船、で、渡海船。……だと思う」

 あ、なるほど。

「じゃあ、最初のは? 補陀洛」

「知らないわよそんなの。……ええと、戦艦だったら旧国名、空母だったら龍とか、なんかめでたそうなので、巡洋艦だったら川とか、よね?」

「ってか、そもそも日本語? ふだらくって」

「…………自信ない」

 はて、

「熊野は何か知ってる?」

 振り返り、問う。会話に入ってこない熊野。彼女はなにか考え事をしているような表情で、

「熊野坐神」

「んあ? ……それ、地元の神社の神様じゃないの?」

 熊野、と言うと鈴谷たちにとって目の前にいる艦娘、熊野だけど、補陀洛渡海船の言う熊野なら、隠野で、最後に神ってついてるから神社のなにがしかだと思うけど。

「いえ。何か聞いた事があるなって思っただけですわ。

 まあ、わたくしの名前も入っていますし、そう感じただけかもしれませんけど」

「熊野は隠野に来た事なかったよね?」

 瑞鳳の問いに熊野は頷いて「そうですわね。造船は神戸でしたわ」

「デジャビュってやつじゃない?

 名前も入ってるしそういうの感じる事もあると思うよ」

 よく知らないけどね。ともかく、鈴谷の言葉に熊野は頷いた。

 

「あら? おかえりなさい。早かったのね」

「おかえりー」

 出撃した基地に戻ると愛宕と高雄が出迎えてくれた。

「ただいまー」「ただ今戻りましたわ」「ただいま」

「随分早かったわねえ? …………なにか、あったの?」

 首を傾げる愛宕。なにかあった、と言うか。

「妙な娘がいてね。那智湾で切り上げて戻ってきたの」

「妙な娘? 艦娘?」

「さあ? 補陀洛渡海船。って言ったけど、高雄、知ってる?」

 問い返した鈴谷に高雄は首を横に振る。ま、案の定。

「そういうわけで顕仁さんとかに相談しようと思ってね。一回戻ってきたの」

「鈴谷、わたくしから雪風には伝えておきますわ。

 顕仁さんのスケジュール、確認してくれないかしら? 一度話しておきたいですわ」

「了解」

「顕仁様でしたら、今日は空いているわ。

 呼びましょうか?」

「えっ? マジいいのっ?」

 また香川県に戻らなくちゃなあ、と思ってた所、正直ラッキーっ!

「顕仁様も今は徳島県、この近くにいるはずよ。

 ちょっと待ってて」

 言うなりどこぞに連絡を取る高雄。瑞鳳は首を傾げた。

「……顕仁さんって、四国で一番偉い人よね?

 そんなほいほい時間とってくれるものなの?」

「ひま、……な訳もないと思うんだけど」

 瑞鳳と一緒に首を傾げる。正直、よく解らない。大本営に借りがある、ようにも見えないしね。

「顕仁様はここに来てくれるそうよ。

 執務室で話をしましょう」

 高雄が顔をあげて言う。続いて熊野も難しい表情で顔をあげて、口を開き、「…………いえ、そうですわね。顕仁さんが来た時に一緒にお話ししましょう」

 

 空っぽの、がらんとした執務室。もう、使われていない場所。

 そこで項垂れる愛宕。

「ごめんなさい、顕仁様。

 その、……お飲み物、これしか用意できなくて」

 置かれているのは缶珈琲。鈴谷的には全然OKなんだけど、愛宕の恐縮っぷりが半端ない。

「構わぬ。ご苦労だったな、愛宕」

 そして苦笑する顕仁さん。けど、傍らにいる文月が、

「おじさま。…………ええと、お皿、とか用意する?」

 あ、と愛宕が追加で固まった。顕仁さん、鳶の姿だし。缶珈琲飲めないよね。

「いや、よい」

 ばさっ、と翼を広げる。それが、鳶の姿を覆って、

「あら?」「うわ」「へえ」

 羽が舞い、翼が消える。そこには文月と同じ年くらいの、目つきが悪い男の子。

「ふん」

 軽く首を傾げる。一息。にや、と申し訳なさそうな愛宕に視線を向けて「これで問題なかろう?」

「あ、……はいっ、顕仁様っ、お手数をおかけしましたっ」

「よい、気にするな」

「わーっ、おじさまのその姿、久しぶりに見たっ!」

 きらきらな文月。ずずい、と近寄り顕仁さんは丁寧に彼女を撫でる。けど、

「なんで普段は鳶の姿なの?」

 空飛べるかもしれないけど、それが理由?

 問いに、顕仁さんは苦笑。

「あまり、この人の姿は好かないのでな」

「そうなのですの?」

「あまり追求するなよ」

 首を傾げる熊野に意地悪そうに睨む顕仁さん。熊野は苦笑して「そんな不作法しませんわ」と、応じる。

「では話を聞こうか。

 愛宕、高雄、そなたらも聞いておけ」

「「はい」」

 二人は頷き、鈴谷たちも椅子に腰をおろして、一息。

「さて、それでなにを見た?」

「えーと。艦娘? みたいなの。

 補陀洛渡海船、って名乗ってたけど」

「そんな艦船、存在しません」

 きっぱりと言ってのける高雄。うん、それは鈴谷も知ってる。けど、

「実際いたのであろうな。

 それと、そなたらは誤解している。別に艦艇でなくとも艦娘には成れるぞ。……ふむ、補陀洛渡海船はその代表だな」

「そうなの? えーと、艦娘、って《がらくた》が作りだしたんだよね?」

 文月の問いに顕仁さんは頷く。

「原因はそれだ。

 軍船の持つ、民を、そして、国を、…………ふむ、あの小娘に言わせれば、民安かれ、と、その信仰が形を得た存在。それがそなたら艦娘だ」

 顕仁さんに撫でられて心地よさそうに目を細める文月。……高雄がすっごく羨ましそうな目をしているのが「羨ましい?」

「はへっ?」

 …………ごめん、高雄。鈴谷、スルー出来なかった。

「うむ?」「あらー?」

 首を傾げる顕仁さんと、にやー、と笑う愛宕。

「な、なな、なにを言っているのかしらっ! そ、そんなわけはありませんわっ!」

「鈴谷、あまり妙な事を言うな。

 撫でられて喜ぶのは子供であろう?」

「そ、…………その通り、です」

 超残念そうに高雄が頷いた。愛宕がすすす、と顕仁さんの傍らへ。

「顕仁様。私、ここの掃除をしたりしました。

 よろしければ頭を撫でていただけません、がっ?」

「ばかめ、と言って差し上げますわ」

 缶珈琲を額に叩きつけられた愛宕は大破して着底。

「……高雄、飲み物を粗末にするな」

「申し訳ございません。顕仁様」

「あのー」

 熊野がおずおずと手をあげる。顕仁さんは苦笑。

「すまぬな。

 賑やかなのはよいが、こういうときは話が進まぬ」

「いや、鈴谷的には賑やかなの楽しいし、全然オッケーっ」

 のろのろと復活した愛宕がいい笑顔で親指を立てる。

「……いや、今回のは鈴谷が悪いわ」

「えー?」

 抗議の視線を瑞鳳はスルー、で、顕仁さんはくつくつと笑う。

「愛宕も座れ、話の続きをしよう」

「はーい」

 愛宕が椅子に座ったのを、なんとなく好ましそうにみている顕仁さん。

「どこまで話をしたか」

「おじさま、えーと、補陀洛渡海船とか、あと、艦娘が、民安かれ、と言う信仰から構築された、っていうところだよ」

「そうか。……そう、艦娘は信仰が形作った存在だ。

 ならば、同様に信仰の対象となった船が少女の形を作ってもおかしくはあるまい? 艦娘、と呼べなかろうともな」

「そういう船があるんだ。

 その、補陀洛渡海船?」

 へー、と感心したように応じる瑞鳳。……信仰?

 鈴谷たち艦娘は深海棲艦と戦っていた。なぜか、それは国を護る、という信仰を実現する為。

 なら、彼女がやろうとしている事は? 彼女に向けられた信仰は?

「浄土?」

「ほう? 驚いた。

 よく知っていたな」

 目を見張る顕仁さん。鈴谷は頷く。

「その、補陀洛渡海船? 彼女が悲願って言ってたの。

 浄土に至る、とか何とか」

「言仁さん、もそのような事を言っていたそうですわ。

 隠野、かつての浄土、とか」

「なんだ、あの小僧からも聞いていたのか」

「はい、雪風が《波下の都》で聞いてみたそうですわ」

「あやつがか、そうだ。

 補陀洛渡海船、かつて浄土を目指した者たちが乗った船。転じて浄土に導いてくれる、という信仰が形を成したのが、その娘であろうな。

 艦娘が深海棲艦と戦うのと同じレベルで、その娘は浄土を目指すであろう」

「おじさま、ところでその浄土ってなに?」

 文月の問いに応じたのは熊野。

「浄土、と言うのは雪風から聞いていますわ。

 えーと、……死後の、苦しみから解放された世界、とか」

 死後、……か。…………なんだろ。

「……おじさま」

 きゅっと、文月は顕仁さんの手を握る。

 くつくつ、と顕仁さんは小さく笑った。

「気に入らぬか? ああ、そうであろうな。愛宕や高雄も同じか?

 そなたらはどうだ? 気に入らぬであろう?」

「ええ」

 意外な事に、即答したのは熊野。彼女は自分を抱きしめるようにして、

「わかりま、せんわ。

 けど、とても、とても気に入りませんわ。なぜか、よく解らないのですけど」

 口調には戸惑いと、隠しきれない、嫌悪。

 鈴谷も、多分、瑞鳳や文月も同じ感情を抱えていると思う。……けど、熊野は特にそれが強いような。

 くつくつ、と顕仁さんは笑う。

「よい、それでよい。

 ああ、そうだな。……それでこそ、だ。だからこそ、そなたらは可愛らしい」

 顕仁さんは言葉のまま文月を撫で、文月はよく解らなさそうに首を傾げた後、心地よさそうに身をゆだねる。……鈴谷も、よく解らないけど。

 ただ、

「無害?」

 浄土が何なのかよく解らないけど、聞いた限り害はないような気がする。

「おそらくは、そうであろうな。

 あるいは、尊治がそれを欲しているのかもしれぬ。尊治の子の護良は隠野にいた事があったそうだ。そこでなにか見定めたのかもしれぬな。

 元より浄土は仏教の概念、そして、護良は、……まあ、胡散臭いが仏教徒だ、私より詳しいであろうよ」

 なるほど。それはあり得る。

「とすると、その、補陀洛渡海船は確保した方がよさそう、ですわね」

「会話の印象だと変なところはなさそうだけど」

 熊野の言葉に瑞鳳も頷く。鈴谷も同感。よく意味が解らなさそうな事は言ってたけど、それもそもそも行動原理が違うのなら仕方ない。

「じゃあ、次の方針はそれかな」

 頷く、が。顕仁さんは渋い表情。

「方針については構わぬが、それをこちらに連れてくるなよ?

 問題はなさそうではあるが、それでも不信はある。保護場所はそちらで用意せよ」

「はーい」

 ちょっと面倒だけど、仕方ないか。

 顕仁さんはこの地の代表。面倒事を持ちこんで欲しくない、って気持ちはわかる。

「雪風に報告をして、保護場所を用意してもらい、そこに保護、ですわね」

「「了解」」

 大体の方針も決定。……っと、そうだ。

「ごめん、顕仁さん。もう一つ教えて。

 補陀洛、ってなに? なんか日本語っぽくないんだけど」

「浄土の事、という認識でよい。

 元は、……どこの国の言葉だったか。古い仏教だからインド当たりかもしれぬな。そこの、ポタラカ、だ。……何だったか、観音菩薩の住処。仏の住む場所なら、確かに浄土と言えよう。おそらくはインドのどこぞにあると伝えられる山であろうな」

「インド、ねえ」

 あの艦娘はインドに行くって事?

「カレーの本場ですわっ!」

 がたっ!

「……気持ちは解らなくもないけど、座りなよ。鈴谷」

 はっ?

 生温い視線全方位から受けて小破。すとん、と座る。

「よいか? では、私たちは戻るぞ。

 連絡先は、高雄のを聞いているな? 彼女を通すがよい。高雄、その時は相手をしてやれ」

「了解しました」

 謹直に頷く高雄。そして、顕仁さんは立ち上がろうとして「どうした?」

 きらきらな文月に首を傾げた。

「おじさま、すっごく物知りなんだね」

「そうか? いや、……まあ、かつて学んだ事だ。

 当時の隠野は高い力を持っていた。到底無視できる存在ではない。とはいえ元は信仰拠点、その知識がなければ無用な諍いを起こしかねぬ故な」

 そして、見上げる文月に微笑み、彼女を優しく撫でて、

「確か、そなたは私の右腕になりたいと言っていたな。そのためたくさん勉強をしたい、と。

 ならばどんな事でも知っておくがよい。世に断絶はない。必ずどこかでなにかに繋がっている。無駄な情報などない。取捨選択と整理の技術は追々身につければよい。

 そなたはまだ子供だ。存分に世を見て回れ」

 撫でられて嬉しそうに目を細めた。けど、少しして頬を膨らませて、

「おじさまっ、あたし子供じゃないですっ」

「子供だ子供。……そうだな。

 文月、ならば、」

「…………え、なに?」

 ならば、と言葉を区切って意味深な感じで鈴谷たちに視線を送る顕仁さん。

「来週、大本営に向かうか。

 ちょうどよい。太三郎のやつが大本営と団三郎の関係を気にしていたな。あそこには尊成もいる。無視はできぬな。

 あの小娘はその辺りの調整には疎いようだし、戦闘しか知らぬ未熟者に、政争と言う言葉を叩き込んでやるか」

 楽しそうに、結構不吉に笑う顕仁さん。彼はいい事思いついた、と。上機嫌に笑って、

「文月、三日月と弥生にも声をかけておけ。

 大本営に殴り込みだ」

「了解っ!」

 にや、と笑う顕仁さんに、楽しそうに拳を振り上げる文月。

「政争、ですの?」

 首を傾げる熊野、顕仁さんは頷く。

「そなたらが来た時、太三郎がいたであろう? 刑部もな。

 あやつらとて遊びに来たわけではない。大本営から来た艦娘。それだけで警戒するに値する。何せ、太三郎と同程度の能力を持ち、決して友好的ではない団三郎のところに大本営が肩入れしているそうでな。

 ここでさらに私が大本営に懐柔され、団三郎の支援に回ったら締めだされると、そんな警戒でもしていたのであろう」

「彼らには彼らの事情、……いえ、政情がある、と言う事ですわね。

 勉強になりますわ」

 こくこくと文月も頷く。顕仁さんは楽しそうに笑って、

「世界は人を中心に回っているが、とはいえ、それ以外のものを蔑にしていいわけではなく、そしてそれは私が許さん。

 その事をあの小娘に教えてやらねばなるまいな。……そうだ、愛宕、高雄、そなたらも来るか? 大本営に行った事はあるまい? あそこは面白いぞ」

「やったっ、是非お供させていただきますっ!」

「は、はいっ、ご期待に沿えるよう努力しますっ!」

 嬉しそうに両手をあげる愛宕と、少し緊張した感じで頷く高雄。

 ではな、と上機嫌に顕仁さんたちは帰って行って、……さて、

「これ、報告する?」

「いや、した方がいいっしょ。一応」

 

『お仕事速いですねー

 優秀な部下がいて雪風は嬉しいです』

 と、いうのが一通り説明した後に帰ってきた雪風の言葉。

「いや、偶然、運が良かっただけだし」

 たまたま近くにいただけ、だからね。

『そういうわけなら了解しました。

 適当な基地と、……あとは、そうですね。雪風が動かせる護衛艦隊を常駐させます。

 明日には入れる用意しておきます』

 明日には、……か。時計を見る。1400。

「とすると、確保は明日になると思う。

 顕仁さんに借りた基地が使えればいいんだけど、補陀洛渡海船は四国に連れてきて欲しくないって言われたの」

『構いませんよ。

 ただ、もしかしたらすでに南朝の手に落ちているかもしれません。敵対行動をとったら即座に沈めてください』

「了解っと。

 ま、やばそうなら沈めるか逃げるかするわ」

『そうしてください。謎の艦娘よりも、鈴谷さんたちの方が雪風にとってずっとずっと大切です』

「ありがと、終わったら奢ってね」

『間宮さんに言っておきますよ。

 では、確保が終了したらまた連絡をしてください』

「了解。

 それと、顕仁さんが大本営に殴り込みするって」

『……………………え? 大本営、消されちゃうんですか?』

 

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