深海の都の話 ― 小噺集   作:林屋まつり

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六話

 

「流石に、ホテルと比べれば見劣りしますわね」

「いやあ、流石にそれは我が侭っしょ」

 と言うわけで、鈴谷たちはそのまま基地に常駐。

 水道その他は機能してるから、問題はないけどね。

「…………マッサージ」

「大切なのはそれか」

 鈴谷はもうマジ勘弁。本気で痛かった。

 さて、それはともかく、

「なーんか、時間中途半端になっちゃったね」

 1500、顕仁さんたちを見送って、基地の中をうろうろしていたらこの時間。

「そうですわね。まあ、休憩って事でいいのではありませんの?」

「さんせー」

 休憩とか大好きっ!

「はー、……でも、一時はどうなるかと思ったけど、思ったより穏便に行きそうでよかったわ」

 ほう、と一息つく瑞鳳。鈴谷も同感。その理由、

「顕仁さん、ですわね。

 いい人のようでなによりですわ」

「消されるとか怖い事言われてたからねー、……って、一応、いい、……なにか? って言われてたっけ」

「人でいいんじゃない。人の姿もしてたし」

 なにか、聞いた気もしたけど鈴谷忘れた。

 うむ。

「あれ、高雄は気がありそうだったよね?」

 ずい、と前に出て鈴谷。心持声のトーンを落とす。……鈴谷たち以外誰もいないけどね。

 ずい、と前に出て瑞鳳が頷く。

「多分、愛宕もまんざらじゃなさそう」

 ずい、と前に出て熊野が首を傾げる。

「そう思いますの?」

「目には自信があるわよ。

 愛宕も顕仁さんの動き、目でずっと追ってたし。人の姿を取ったとき嬉しそうだったし」

「…………子供好き?」

 ちっちゃい男の子が好きかあ。……鈴谷は、ちょっと解らないなあ。

「文月は慕っているって感じだったよね。弥生も」

「好意を向けているのは変わりありませんわ」

「…………競争率高めっ? 顕仁さんは?」

「優しく見守る、みたいな位置だったように見えるけど。

 高雄が愛宕に缶珈琲投げつけてた時も怒っていると言うよりは、子供の悪戯をみたような感じだったわ」

「保護者?」

「形も変わりましたし、見た目通りの年齢とは限りませんわ」

 ぐぐ、と拳を握る熊野。…………ふと、

「鈴谷は、そういう人はいませんの?」

「……いや、ないっしょ」

 そもそも男性との付き合いがほとんどないし。

「瑞鳳は?」

「私は鈴谷が好きよ」

「ぶほっ!」

 さらりと告げた瑞鳳に素で噴く鈴谷。してやったりな笑顔の瑞鳳をデコピンで小破に追い込む。

「いったーいっ、なにするのよー」

「ってか、瑞鳳こそなに言ってるのっ!」

「愛の告白?」

「鈴谷は女だーっ!」

 可愛らしく告げる瑞鳳に怒鳴る。瑞鳳はけらけら笑って「冗談よ、冗談」と、そして、

「私もそういう人いないけど、いいじゃない。三人でのんびりやってれば」

「ま、そりゃそーだ」「それが一番ですわ」

 瑞鳳の言葉に鈴谷と熊野は笑って同意。

 そ、仕方ない。こうして、友達と一緒に笑ってる時間が、一番好きなんだから。

 

 他人の恋バナは楽しい。顕仁さんが幼女好きかを真顔で議論していたら、おゆはん時。

 来客を告げるチャイムが鳴った。

「はいはーい」

 誰だろ? と、思って扉を開ける、と。

「か、可愛いっ!」

 ついてきた瑞鳳が、真っ先に歓声あげた。なにせ、玄関のところに並んでいたのは、なんか、ちっちゃな狸たち。……なんで?

 狸たちの後ろにはなにかがたくさん載った台車。そして、感極まった瑞鳳は一番手前の狸を抱きしめた。

 抱きしめられた狸はじたばた暴れる。驚いた瑞鳳が手を離して、狸はぱたぱたと後ろへ。

「瑞鳳、いきなりああいう事してはいけませんわ。驚いてしまうでしょう」

「はーい」

 残念そうに瑞鳳。そして、ぬっ、と。一番先頭の狸が立ち上がった。

「申し訳ねぇ、お嬢さん。

 あいつは将来を誓い合った女がいるんだ。それなのに別の女に抱かれるわけにゃあいかねぇ、あいつにも悪気があったわけじゃねぇんだ。この通り、許してやってくれ」

 抱きしめるのにちょうどいい小さな狸が、ダンディさ溢れる渋い声で頭を下げた。……てか、喋った。

「あ、……うん」

 どん引き瑞鳳。

「そ、それでどうしたんですの? …………ええと、狸?」

「申し遅れやした。

 あっしはこのあたりの豆狸を取り仕切っている者です。このたび、院、……いえ、失礼。顕仁様より預かりやした、資材一式と、食糧です。

 それと、伝言を賜っております」

「伝言?」

 熊野の言葉に狸は頷いて、

「緊急避難場所として、伊島を解放し、そこに部下を待機させておく、との事です。

 なにかあればそこに逃げ込むようにと」

「マジでっ? それ、かなり有り難いっ」

 今のところ見かけてないけど、南朝の艦娘もいるかもしれない。三人じゃ、相手によっては心許ないし。

「そうですわね。

 いろいろと面倒を見ていただいて、あとでなにかお礼をしなければいけませんわ」

 真面目に頷く熊野。けど、瑞鳳が首を傾げて、

「昨日もだけどさ、随分と気前いいよね」

「あっしごとき一介の狸に顕仁様の御叡慮を察するのは出来ませんが、」

 うむむ、と真面目な表情。……だと思う、多分。……まあ、そんな感じで唸り、

「顕仁様は、かつて政争のただなかにその身を置いた方。

 故に、そのような暗い所にいない皆さまがいると安心をするのでは、と考えております」

「そう、なんだ」

 政争、……か。考えた事もないな。

「ことさらお礼の品は不要と思いますが。一段落つきましたら顕仁様に報告をお願いします。

 それが一番喜ばれるでしょう」

「それはもちろん、お世話になったんだし、お礼言わないと寝ざめ悪いっしょ」

 鈴谷の言葉に熊野と瑞鳳も頷く。狸は満足そう、と思う表情で頷いて、

「では、あっしらはこれで。

 おめえらっ、撤収だっ!」

 後ろにいた狸たちはのそのそとのんびりと帰って行った。

「…………ねえ、鈴谷」

「ん?」

「狸が喋った事に、あまり驚きませんでしたわ」

「慣れたんでしょ」

 いい事だと思う。多分。

「うー、……やっぱり、狸可愛かったなあ」

 瑞鳳はちょっと残念そうだった。……確かに、ちっちゃくって可愛かったけどね。それは鈴谷も認める。

「はいはい、それじゃあ、資材はドックに持っていって、あとは、食糧って言ってたし、食堂あったよね。

 そっちに持っていこうか」

 鈴谷の言葉に熊野と瑞鳳も頷く。比較的量が少ない資材の乗った台車を転がして、鈴谷はドックへ。

 ふと、顕仁さんの言葉を思い出す。

「変っちゃった。……なあ」

 小さく、呟く。呟いて思う。うん、変わっちゃった。

 深海棲艦打倒のため、一致団結していた国や艦娘は、ものの見事にばらばらになった。関東、東北、中部は大本営の存在が強いけど、近畿、中国は大本営の影響力がほとんどない、代わりに南朝が強い影響力を持って大本営と敵対している。

 長野県や四国はそのどちらでもない。ここ、四国は顕仁さんが取りし言ってるし、長野県も、別の誰かがいるらしい。

 雪風たちは大本営の大将として、そういった人たちと相対しているらしい。……同じく大将の時雨曰く、派閥争いとかそんなチャチなレベルじゃないって。

 大変な事になっちゃったんだなあ、と。改めて思う。けど、その最前線。

「楽しい、か」

 ま、そうなのかもね。と、最前線に立つ大将の言葉を想い、なんとなく呟いた。

 

 必死になって卵焼きを推す瑞鳳とカレーを推す鈴谷。おかげでカレーに卵焼きがのっかった。神戸牛とぶつぶつ連呼する熊野は瑞鳳と一緒にスルー。

「あー、やっぱ鈴谷のカレーは美味しいね」

「ふふん、どんなものよ」

「くっ、……ま、負けませんわ。

 伝説では神戸牛が入ったレトルトカレーが」

「何の伝説? ってか、鈴谷様の手作りカレーをレトルトと比べないでよ」

 レトルトカレーも美味しいのあるけどね。ただ、手作りカレーと比べられるとなんかいや。

「食べないなら貰っちゃうよ?」

 ひょい、と瑞鳳が手を伸ばす。熊野ガード。

「そんなに食べられるの?」

「……愛する鈴谷の手料理なら、」

 頬を染めてもじもじと瑞鳳。そのネタ引っ張るか、受けて立つっ!

「愛い奴め」

「鈴谷、瑞鳳の卵焼き、食べてくれりゅ?」

「うん、食べさせて」

「あーん」「あーん」

「…………なに小芝居していますのよ?」

 どつかれた。

「ふんっ、いいですわ。

 わたくし、これが終わったら伝説の真偽を確認してやりますわ」

「あ、鈴谷も食べてみたい。

 熊野、手に入ったら鈴谷にも頂戴」

「私もー」

「卵焼きを入れなければ」

「…………そ、んな?」

 項垂れる瑞鳳。入れるつもりだったのか。

 それと、熊野は、……なぜ頬を染める? なぜちらちら鈴谷を見る?

「鈴谷、熊野にも、あーんして、くれますの?」

「え? して、欲しいの?」

 まさか、熊野まで小芝居に反応したっ?

 ずい、と熊野が迫る。思わず引く鈴谷の手をとって、

「ええ、わたくしの愛する鈴谷に、食べさせて欲しい、ですわ」

「な、なんとっ?」

 そっちっ?

「え、えーと、く、熊野?」

 顔っ! 顔近っ!

「口うつし、でもよくてよ?」

 さらにずずい、と迫る。……やばい、なんか、甘い匂いするし。くらくらするしっ!

 びしっ、と親指を立てる瑞鳳を見て覚悟を決める。

「とぉぉおうっ!」

 後ろに向かって前進だっ! 跳躍、着地失敗。頭打った。

「な、ななっ?」

「ふっ、……これが勝利ですわ」

 にやり、笑う鈴谷。後ろで瑞鳳が「えむぶいぴぃ、えむぶいぴぃ」と囃し立てている。熊野が両手をあげて勝利のポーズ。非常にむかつく。

「えむぶいぴぃ、それは今時のレディの嗜みの一つでもありますわ。

 ありがたく頂戴いたします」

 勝ち誇った熊野は瑞鳳お手製の卵焼きを頂戴してった。

 

「なんていうかさ。

 昨日のホテルの、あの豪華なお風呂もいいけど、こう、基地のお風呂ってなんともいえない懐かしさと落ち着きが」

「貧乏性?」

 失礼な事を言った瑞鳳を沈める。それにしても、

「ふう、……いい湯ですわ」

「だねー」「はー、極楽ー」

 復帰した瑞鳳と一緒に三人で並んでまったり、……さて、

「あのさ、この仕事終わったらどうする?」

「どう、とは?」

「いやさ、これ、雪風から指示された仕事じゃん。

 で、終わったら雪風に口頭報告必要だと思うんだよね。補陀洛渡海船とか、思ったより込み入った感じあるし、直接話す必要あるっしょ?」

 鈴谷の問いに熊野と瑞鳳は頷く。鈴谷たちはそれで食ってる身。仕事の一つとして報告を怠るわけにはいかない。

 けど、

「その後さ、鈴谷としては、すこーし、休暇欲しいわけよ。

 ここ出る前に顕仁さんに挨拶するけど、その後改めて、遊びに行こうかなーって」

 正直、観光もしたいしね。狸とか、いろいろ面白そうなのがたくさん。

「もちっ、さんせーっ」「わたくしもお付き合いしますわ」

 諸手をあげる瑞鳳と、笑って頷く熊野、よし。

「有給、決定っ!」

「「わーっ」」

 ざぱっ、と立ち上がって拳を突き上げる鈴谷、そしてぱちぱちと拍手する瑞鳳と熊野。……けど、

「顕仁さん、大本営に殴り込みするらしいから、その後かな」

「じゃあ、顕仁さんと一緒に行こうね。

 楽しみー」

「あっ、逆に横須賀案内してみない?」

 いろいろと見どころ知ってるし。

「そうですわねっ!

 この前に近くのコンビニで発売した新作のスウィーツ。とても美味しかったですわっ」

「いや、観光案内でコンビニとかあり得ないっしょ?」

「美味しければいいじゃありませんのっ!」

 ざばっ、と立ち上がる熊野。確かに美味しいけど「そういうものじゃないっしょ」

「むぅ」

「…………あのさ、鈴谷、熊野。

 私、この前、綾波とお寿司食べに行ったの」

「ど、どした?」

 唐突に低い声で語りだした瑞鳳、熊野もしずしずと腰を下ろす。

「私、卵焼き好きだから、たまご最初に食べて、その後お寿司注文したら、わさび抜きだった。

 一緒にいた綾波は、わさび入ってた」

「…………あー」

 多分、綾波って海軍大将の、だと思うけど。……まあ、その、なんてーか。

 雰囲気が、ねえ。

「私は駆逐艦かーっ!」

「「どうどう」」

 とりあえず熊野と一緒に荒ぶる瑞鳳を沈める。

「そういう鈴谷は、どこに案内するんですの?」

「は? カレー屋さんに決まってるじゃん。

 対特艦娘カレーとか、辛味入汁掛飯とか、陸軍の霧島が作ったヒエーカレーとか、いろんなカレーがあるんだしさ」

「……観光客にキワモノ勧めないでよ?」

「…………うん、ごめん。

 けどまあ、横須賀海軍カレーはマジで美味いし、その辺勧めてみようよ」

「それは賛成」「わたくしもいいと思いますわ」

 よし、先の楽しみが得られれば仕事へのやる気もマシマシ、明日、張り切ってこなしていきましょっかっ!

 

 艦娘が寝てたと思わしき部屋を発見。布団を広げて、相変わらず熊野を真ん中に、鈴谷と瑞鳳が左右で寝転がる。

 さて、それでは、

「「「おやすみ」」」

 

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