モモンガ様ひとり旅《完結》   作:日々あとむ
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戦力増強回。
今回も捏造盛り沢山だよー。
 


終:嘆きの川
王都へと集う者たち


 

 

「――そろそろ、旅に戻ろうかと思っている」

 

「へ?」

 

 王都内はほとんど見て回ったアインズは、ブレインとハムスケの模擬戦を見ながらポツリと呟いた。アインズの呟いた言葉にブレインは反応し、ハムスケに向けていた刀を降ろす。ハムスケも同様だ。

 

「殿、そろそろ出ていくのでござるか?」

 

「ああ。もう王都内はだいぶ見て回ったしな……どこか別の都市か国にでも行こうと思う」

 

 その場合、勿論帝国は選択肢に入らないが。

 そしてそんなアインズの内心など知らないブレインは、アインズの言葉に納得したようだった。

 

「まあ、この王都内でもう見るもんは無いとは思うけどな……」

 

 この王都で見るべきものは既に全て見て回っている。魔術師組合に冒険者組合、遠くからなら王城も見た。もうアインズにとっては、あまり魅力を感じないという事もある。

 

(それにしても王国は帝国に比べてあまり華やかでは無いなー)

 

 良く言えば趣がある。悪く言えば古い。時代に取り残された国、というのが正しいだろう。……勿論、それは帝国と比べたら、という意味で鈴木悟のいた世界と比べる事は出来ない。

 

「旅に戻るんなら、ガゼフとか『蒼の薔薇』には何か言っておいてやれよ」

 

 ブレインの言葉に、アインズは頷いた。

 

「ああ。今日は『蒼の薔薇』に会いに冒険者組合まで行ってこようと思う」

 

 今まで世話になった人に挨拶をするのは社会人として当然である。さすがにクライムは無理だが、昼間の内に『蒼の薔薇』のラキュースに、夜になってガゼフが帰宅したら挨拶して別れようとアインズは思っていた。

 

「ブレイン、お前にも世話になったな」

 

 特にハムスケが。アインズがそう言って頭を下げると、ブレインは手をひらひらと振った。

 

「いや、そんなことはないさ。俺こそ、最初の森の件は悪かったな」

 

 ハムスケの事や、アインズに斬りかかった事を言っているのだろう。アインズは首を横に振った。

 

「お前の立場からしてみたら当然のことだ。怒っていないさ」

 

「そう、か……?」

 

 ブレインにはもう分からない事だが、実際のブレインの状況はアンデッドと魔獣に挟まれるという絶望的状況だった。それに対して生存本能を刺激されて斬りかかったとしても、アインズは怒ろうとは思わない。もとより、ブレインの実力ではアインズを害する事は出来ないのだから。

 ハムスケにしたって生きているし、それにこうして王都でハムスケに戦闘技術を教えてもらった事はハムスケにとっても得だっただろう。

 

「殿、それでは明日の朝に出発でござるか?」

 

「ああ。お前もしっかりブレインとここの老夫婦にお礼を言っておけよ」

 

 アインズもラキュースに礼を言うのとついでに硬貨を入れる袋を買いに行こうと思っている。ハムスケを預かってくれた礼に老夫婦に幾らか金を渡しておかなくてはならず、さすがに剥き出しでは下品なためだ。ガゼフは気にしないだろうが、アインズは気にする。

 

「では、俺は行ってくる」

 

「ああ。……それじゃあ、続きでもやるかハムスケ」

 

「ブレイン殿、今度は負けないでござるよ!」

 

 ――ちなみに、ハムスケとブレインの試合は純粋な近接戦だ。ハムスケは尻尾攻撃は無し、魔法無しとなっている。……有りにすると近接戦の技術力が磨かれず、性能のごり押しになるためだ。しかもブレインの勝ち目がほぼ無くなる。

 

 そんな白熱する一人と一匹の戦いをアインズは気にも留めず、漆黒の全身鎧(フルプレート)をカチャカチャと鳴らしながらガゼフの館を出て、冒険者組合へと歩いていった。

 

 ――王都の冒険者組合は当然、大通りにある。アインズが組合の扉を押し開ければ、その場にいた冒険者達の視線がアインズに集中した。

 

(な、なんだ……?)

 

 実はアインズは、冒険者組合の中に入るのは初めてだった。魔術師組合には用事があったため中に入り客として色々買ったが、依頼を出すような事もないため冒険者組合の中には入った事が無かった。『蒼の薔薇』のラキュースに依頼した時もクライムに任せたので、アインズが中に入るのは初めてだったのである。

 

 ……アインズの魔法で作った漆黒の鎧と剣は見るからに絢爛華麗であり、とても目を引いた。少なくともミスリル級以下の冒険者では身に着ける事が叶わないであろうと思わせるほどに。そんな装備をした剣士が冒険者組合に入ってきたのだから、それは当然目を引く。誰もが鎧に目を奪われ、そして次に胸元に視線が動き、そこにプレートが無い事を見て驚愕するのだ。

 

「…………」

 

 アインズは組合の中を見回す。そして、目的の人物を探すが――ラキュースは見当たらなかった。

 

(イビルアイとかいう女もいないな。今日はここにはいないのか……宿にいるのかな?)

 

 アインズは組合の受付まで歩き、受付嬢に話しかける。

 

「申し訳ありません」

 

「は、はい!」

 

 受付嬢は背筋をぴんと伸ばしてアインズの言葉に返事を返す。アインズはその様子を特に気にせず、自分の用件を済ます。

 

「『蒼の薔薇』のラキュースさんを探しているのですが、依頼に出てしまわれましたか?」

 

「冒険者の登録ですね! 少々お待ちくださ――――え?」

 

「え?」

 

 組合の中を、天使が通った。そうとしか言いようのない静寂が訪れる。

 

「…………ごほん。『蒼の薔薇』のラキュースさんを探しているのですが、もう依頼に出てしまわれましたか?」

 

 アインズは空気を払うように咳払いを一つして、もう一度何事も無かったかのように受付嬢に訊ねる。受付嬢は先程とは打って変わって静かに落ち着いた声で返事を返した。

 

「少々お待ちくださいませ。……いいえ、『蒼の薔薇』の皆様はまだ依頼に出てはおられませんね。名指しで依頼でしょうか?」

 

 受付嬢は手元にある書類を捲って確認すると、アインズにそう訊ねた。

 

「いえ。少し個人的に用があったのですが……そうですか。ならば、少し伝言を頼まれてもらえませんか?」

 

「伝言、ですか……? はい、大丈夫です」

 

「では、アインズ・ウール・ゴウンから明日には王都を出て行くので世話になった、とお伝えしておいていただけませんか」

 

「はい、かしこまりました。『蒼の薔薇』のラキュース様にアインズ・ウール・ゴウン様からですね」

 

「ええ。よろしくお願いします」

 

 アインズは受付嬢にそれだけを伝えると、組合を出ていく。アインズが去った後、組合内では「ラキュースの彼氏かなんかか!?」などと話題になっていたが、アインズの耳(骨なので無いが)には届いていなかった。そしてラキュースは、受付嬢に後に「アインズ・ウール・ゴウン様から」と伝言を聞かされた時、何故かイビルアイからの視線がとても痛かったのだとか。

 

 冒険者組合を出たアインズは、市場に向かい商品を見て回る。これはアインズの日課だ。日によって出ている商品が変わったりするので、王都に来た時から毎日確かめている。

 

(……今日も目ぼしい物は無いな)

 

 しかし当然、アインズの琴線に触れるような商品は無い。

 

(叡者の額冠みたいなこの世界特有のアイテムとかが欲しいなー……。ンフィーレアのためとはいえ、やっぱり壊すのは勿体無かったな)

 

 叡者の額冠はアインズがまだこの世界に来てから一ヶ月もしない頃にエ・ランテルで発生した事件で、首謀者達が使用していたマジックアイテムだ。本来使用出来ない上位の魔法を使用出来るようになる、という『ユグドラシル』には無い性能のマジックアイテムなので、アインズとしてはとても欲しかった。ただ、副作用として装備していた使用者はその装備を外すと発狂するという呪われたアイテムだったのだが。……ンフィーレアの無事のためにアインズは泣く泣く諦め、そのマジックアイテムは破壊したのだった。

 

(他にも何か無いのかなー……やっぱり、こういう市場に掘り出し物があったりするわけないか)

 

 アインズは市場を冷やかしながら、道を歩く。そこで――

 

「あ」

 

「あ」

 

「なんじゃ? どうしたツアー?」

 

 アインズは腰に立派な剣を下げた見知らぬ老婆と、どこかで見た白金の鎧を身に着けたがらんどうの騎士に出遭ったのだった――

 

 

 

 

 

 

「ところで……のうツアー。その鎧はもしや新しくなってないか?」

 

 老婆――十三英雄の一人である“死者使い”リグリット・ベルスー・カウラウは古き友人である竜王の一人にしてアーグランド評議国の永久議員ツアーに会いに来ていた。

 そして、話が別の古き友の事になった後に――リグリットはツアーが遠隔操作している白金の全身鎧(フルプレート)を見て不思議そうに訊ねた。

 

 ツアーはリグリットの疑問に少し言いにくそうに答える。

 

「ああ、うん。……前のは完全に消滅したからね。ようやく、新しいのを作り終えたんだ」

 

 ツアーの白金の鎧は“始原の魔法(ワイルドマジック)”という、この世界特有の魔法で作り出されたものだ。魔法の力が『ユグドラシル』の力によって汚れ、歪んでしまった今ではもう制作が難しくなってしまっている。しかしツアーはそれを今まで何とか作り直していたという。

 

 いや、リグリットにとって重要なのはツアーが鎧を新たに作り直したという事ではない。完全に消滅したという前の鎧だ。

 

「どういうことじゃ?」

 

「……一〇〇年の揺り返しだよ、リグリット。エ・ランテル近郊の森でぷれいやーに遭遇したんだ」

 

「なんと……」

 

 ツアーの言葉に、リグリットは目を見開く。

 

「今回はリーダーのようにこの世界に協力するものではなかったのか?」

 

「……分からない。私がちょっと欲をかき過ぎたからね。ただ、強さは八欲王級だと思う。結局、私は彼に傷一つつける事が出来なかったし」

 

「お主で手も足も出んとなると、わしら以上の強さ……というわけか。リーダーのような……いや、せめて静かに暮らしてくれるような者だといいんじゃが」

 

「本人の言うことを信じれば、彼は八欲王のようなぷれいやーじゃないと思う。確か、『アインズ・ウール・ゴウン』のモモンガって名乗っていたよ」

 

「……リーダーから、もう少し詳しい話を聞いておくんじゃったな。おそらくギルド名だと思うんじゃが……」

 

 リグリットの言葉にツアーも頷く。

 

「そうだね。……たぶん、ギルド長だと思うよ。私が守っているギルド武器に匹敵する武器を持っていたから」

 

「……ますます放っておけんじゃないか」

 

 ツアーの言葉に、リグリットは溜息をつきたくなった。八欲王の残したギルド武器と呼ばれる、現代の魔法技術では決して作り出せない領域にあるマジックアイテムを持っていたとなると、間違いなく自分達英雄級を超える強さだろうと確信出来るからだ。

 

「それで、そのモモンガとやらは今はどこにおるんじゃ?」

 

「うーん。私の知覚にも引っかからないんだ。たぶん、探知阻害のマジックアイテムか何か持っているか、あるいは第七位階以上の魔法を使用しているんじゃないかな?」

 

 ツアーの言葉に「うげ」という顔をリグリットは作る。

 

「第七位階以上じゃと? そりゃ、何と言うか……本当に、あまり刺激したくない相手じゃな」

 

 しかし、ツアーほどの強者の知覚を騙すとなるとそれも納得出来る話だ。リグリットは少し考え――ふと名案が浮かんだ。

 

「なら、『蒼の薔薇』にちょっと聞いてみんか? ある程度噂になっておるかもしれんぞ?」

 

 『蒼の薔薇』はかつてリグリットが所属していた冒険者チームだ。今は後釜に任せてリグリット自身は引退しているが、メンバー全員と知り合いである。彼女達は今はアダマンタイト級の冒険者チームなので、普通なら知り得ない情報も知り得ている可能性があった。

 リグリットの言葉にツアーは瞳をぱちくりとさせる。

 

「それは……確かに、彼ほどの強さならもう話題になっている場合があるだろうけど……」

 

 しかしツアーは何を渋っているのか、言葉を言い淀んでいる。だがリグリットは持ち前の強引さでそんなツアーの態度を却下した。

 

「決まりじゃな。どれ、久しぶりに『蒼の薔薇』に会いに行こうかの」

 

「うーん……まあ、彼女に久々に会うのもいいだろうけど……しょうがないなぁ……」

 

 ツアーは鎧を動かす。白金の鎧がツアーの魔力によってひとりでに動き出し、カチャカチャと金属が擦り合う音が響く。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「そうじゃの。わしも久々に友と歩けて嬉しいよ。そこの、空っぽの鎧との」

 

「……それはもう、許してくれてもいいんじゃないかなぁ」

 

 二〇〇年前に旅をしていた頃の話題を再び出され、ツアーは頭を抱える。そんなツアーの言葉にリグリットは笑った。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 目の前の市場に突如現れた白金の騎士――ツアーにアインズは驚愕する。ツアーの方もこんなところでアインズに遭遇するとは思っていなかったのか、こちらを見て固まっていた。

 そこでアインズは、ふと気づいた。自分の今の格好を。今の自分はあの時とは違って漆黒の全身鎧(フルプレート)を身に着けている。――だというのに、何故ツアーは自分に気づいているのか。

 

「……ッ!」

 

(最初に遭遇した時からとんでもない野伏(レンジャー)性能だと思ったけど……まさか、探知阻害と見た目まで変えているのに気づくなんて……!)

 

 アインズは内心真っ青になり、相手の出方を窺う。さすがにこのような街中で仕掛けてくる事は無いと思うが、万が一という事もあり得た。

 

「…………」

 

 アインズがそうやってじっと相手の出方を窺っていると、ツアーの横にいた老婆がツアーへと話しかける。

 

「のう、ツアー。知り合いか?」

 

「……ああ、うん。君に話していた“彼”だよ、リグリット」

 

「なに……」

 

 リグリットと呼ばれた老婆がアインズを見る。アインズは少し警戒した。ツアーの知り合いだとすると、この老婆もアインズの常時展開型特殊技術(パッシブスキル)を貫通してくる可能性が高い。

 老婆はアインズを少し警戒したように見つめたが、何を思ったかそういった気配を霧散させてアインズに話しかける。

 

「わしはリグリット・ベルスー・カウラウと言うんじゃが。はじめましてじゃな、モモンガ殿」

 

 そう名乗った老婆に、アインズは悩むと――少し声を小さくして老婆に答えた。

 

「アインズ・ウール・ゴウン」

 

「うん?」

 

「今は、アインズ・ウール・ゴウンと名乗っている。――モモンガとは名乗っていない。呼ぶなら、そちらで呼んで欲しい。あまりそちらの名は表沙汰にしたくない」

 

「ふむ?」

 

 アインズの言葉に老婆は少し考えると――頷いた。

 

「なるほど。ならば、ゴウン殿と呼ばせてもらおうかの」

 

「助かる」

 

 『アインズ・ウール・ゴウン』はDQNギルドとして有名であり、モモンガの名も有名だ。つまりギルド名だけではなくモモンガの名も知っていればその時点でユグドラシルプレイヤーである事が確定するので、その指標にしたいためあまりモモンガの名は表沙汰にしたくなかった。ツアーに名乗ったのは彼がユグドラシルプレイヤーの可能性を考慮して、である。そうでなかった以上、あまりモモンガの名を広めて欲しくなかった。

 

「それで……何か用がお有りかな? ツアー。用が無く偶然だと言うならば放っておいて欲しいところなんだが」

 

「……あ、うん。特に用は無い、かな?」

 

 ツアーは歯切れの悪い解答だ。まあ、ツアーは仮面を割っているのでアインズがアンデッドだという事を知っている。そんなアインズが王国の首都である王都を歩いていれば気になるだろう。……もっとも、そう言うならばツアーの方こそ中身ががらんどうの鎧のくせに人間の街中を歩くなとアインズは言いたいが。

 

「そうか。なら俺は行くぞ」

 

 踵を返し、その場を去ろうとする。市場を冷やかしていたが、ツアーが見ているところでそんな事をする気にはなれない。

 アインズは背中越しに、じっと突き刺さる視線を感じながら彼らを放って足早に去っていった。

 

 

 

「――まさかこの王都におったとはのう」

 

「うん。私も少し予想外だったよ……」

 

 去って行った漆黒の全身鎧(フルプレート)を見ながら、リグリットとツアーは呟く。

 

「しかしなんじゃ……魔法詠唱者(マジック・キャスター)じゃなかったのかツアー?」

 

「私と戦った際の戦い方は間違いなく魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)だったよ。あの姿は魔法で作ったものだと思う」

 

「なるほど。……やっぱりとんでもない相手ではないか」

 

 ツアーの知覚ならば目の前にいれば読み取れる。ツアーは、あれは魔法で作ったものであると確信していた。本物の物質的な意味で存在する装備だったならば、ツアーも相手に気づけなかっただろう。

 

「しかし理性的じゃな。街の様子を見るに何か騒ぎを起こしておる様子もないし、“口だけの賢者”のようにあまり気にしなくともいいのではないか?」

 

「そうだといいんだけど……いや、そうだね。私が気にし過ぎなだけなのかもしれない」

 

 リグリットの言葉に、ツアーは少し躊躇ったが頷く。

 そう、自分が気にし過ぎなだけなのだろう――と、ツアーは自分を納得させた。どの道、最初の遭遇は自分が悪いという自覚もあるのだ。アインズの刺々しい反応はむしろ優しい方だろう。今度会った時にはちゃんと謝っておくべきだ。

 ツアーはそう考え、これ以上アインズについてとやかく思うのはやめる事にした。

 

「それじゃあ、せっかくここまで来たんだから『蒼の薔薇』に会って帰るかい?」

 

「そうじゃな。あと、わしが指輪を渡した人物にも会ってくるかの」

 

「……君が渡したっていう相手なんだから、とやかく言うつもりはないけれど……それでも一言くらい言って欲しかったよ」

 

 ツアーがリグリットに渡した指輪も“始原の魔法(ワイルドマジック)”で作ったものなのだ。当然、こちらも今となっては同じ物を制作するのは難しい。リグリットの事は信頼しているので、彼女が渡した人物ならば安心はしているがそれでも漆黒聖典などに渡って欲しくはないマジックアイテムだ。一言くらい言って欲しかった思いは当然ある。

 

 ツアーの言葉にリグリットは朗らかに笑う。

 

「なぁに、ツアー。お主もあやつに会えば安心するよ。あやつは素晴らしい心の持ち主じゃからな」

 

「そうかい? まあ、君がそう言うならそうなんだろうね」

 

 リグリットと語らいながら、ツアーは再びもう一人の古き友――イビルアイの気配を探りながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「あー……びっくりした」

 

 アインズはツアー達とある程度離れた後、内心で溜息をつきながら少し後ろを気にしながら大通りを歩いた。

 

(まさかこんなところでツアーと再び遭遇することになるとは思わなかったなぁ……明日の朝には本当に王都を出た方がいいな)

 

 いや、それとも今夜の内に王都を出るか……アインズはそう思考しながら歩を進める。目的地は自分の宿泊している宿屋だ。宿に辿り着き入口のドアを開けると、もう既にアインズの格好に慣れた受付にいる宿屋の主人が、アインズの姿を見ると席を立ってアインズへと近寄ってきた。アインズは普段と違う宿屋の主人の様子に驚く。

 

「アインズ・ウール・ゴウン様……その、ご伝言があります」

 

「伝言?」

 

 アインズが首を傾げると、主人も困惑しているのか困った様子で語った。

 

「はい。クレマンティーヌと名乗る女性からなのですが……」

 

「なんだと?」

 

 聞き捨てならない女の名前に、アインズの声が意図せず低くなる。主人はそんなアインズの様子に驚き、びっくりした様子で言葉を止めてアインズを見つめた。

 主人の様子にアインズは一つ咳をして精神を落ち着かせる。

 

「すまない。……それで、その女性は何と言っていたのですか?」

 

「あ、はい。……日が暮れた後――」

 

 この王都でもそれなりの――しかし、貴族や大商人などが宿泊するほどでは無い宿泊施設の名前を出され、そこで待っている事を知らされる。アインズは主人に礼を言うと、自分の宿泊している部屋へと帰った。

 

「…………」

 

 そして〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉で姿を覆っていた鎧を解いて普段の格好に戻り、部屋の中に何の魔法の痕跡も、誰もいない事も確認すると椅子に座った。――そして思い切り拳を目の前のテーブルに叩きつける。

 

「糞!」

 

 一瞬で精神が怒りで沸騰するが、即座に鎮静化されて鎮まった。自分自身への怒りで激昂したアインズだが、その精神作用で強制的に落ち着かされたためにすぐに冷静に分析する。

 

「……失態だった。そうだ、ラキュースが第五位階を行使出来る信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)であると知った時に気づくべきだった」

 

 もっと言えば、ニグン達から話を聞いていたのだから殺した相手が復活する可能性を考慮して、クレマンティーヌなどは『八本指』と同じように〈真なる死(トゥルー・デス)〉を使って殺しておくべきだったと言えるだろう。これは間違いなくアインズの失態である。

 だが同時に……アインズは奇妙な疑問も湧き出ていた。

 

「……何故、クレマンティーヌなんだ?」

 

 クレマンティーヌの名前を使って接触してくる以上、確実にクレマンティーヌを蘇生させてアインズの話を聞いているはずだろう。

 だが、そうだとすればおかしい。クレマンティーヌはアインズの実力も多少把握しているし、そしてアインズがアンデッドだという事も知っているはずだ。だというのに、何故わざわざ接触してきたのだろうか。

 

「アンデッドである以上、接触しようとは思えないはずだろ?」

 

 アインズの持つ魔法の知識でも知りたいのか、あるいは金で雇ってアインズを働かせたいのか。いや、そうだとしてもやはりアンデッドと接触するのは勘弁願いたいはずだ。『六腕』のデイバーノックのような単なる死者の大魔法使い(エルダーリッチ)だというならば、その可能性も充分あるだろうが。アインズのような第七位階以上の魔法を使用する化け物とは接触を避けるはずである。

 ――金貨程度、アインズならば力尽くで奪えるのだから交渉材料になりはしないのだ。

 

「何故、わざわざ秘密裏に接触しようとする?」

 

 秘密裏に接触しようとする以上、王国ではない。この王国の事情も暮らしていく中である程度アインズは把握したので、仮に誰か接触してくるならばラナーと繋がっており幾らか世話をかけたレエブン侯だと思われる。その場合はクレマンティーヌの名前を出してアインズを警戒させるはずが無い。確実に何らかの表沙汰に出来ない犯罪組織だ。

 しかしクレマンティーヌ本人だとは絶対に思わない。彼女はむしろ、アインズと接触すると言えば仲間など見捨てて逃げ出すだろう。クレマンティーヌは王国最強であり周辺国家最強の戦士であるガゼフと同格の戦士なのだから、当然アインズの危険度は理解している。もう一度顔を合わせたいなど金を貰っても御免だろう。

 

「……分からないな。仕方ない……ちょっと反則だが魔法で覗いてみるか」

 

 アインズはまずはテーブルの上に地図を広げて、件の宿泊施設を探す。

 

「……ここだったな」

 

 自分のいる場所との距離を測り、そして魔法を幾つも唱えていく。当然、今回はかつて『漆黒の剣』の前でやった時のような、生温い対応ではない。本気で、アインズ達がPKをするために情報収集する時の対応だ。十を超える数の魔法の発動は勿論、特殊技術(スキル)による強化や対策まで施したガチ(・・)の情報収集法である。この世界のレベルの魔法詠唱者(マジック・キャスター)では絶対に見破れまい。

 

「…………」

 

 アインズの脳裏にその宿泊施設の姿が映し出され――そして更に指定されていた室内の様子を探る。そこで、アインズは絶対にあり得ないと思っていた女の姿を目撃する。

 

「……クレマンティーヌ?」

 

 もう数ヶ月も前の事で相手の顔の記憶も曖昧だが、間違いない。クレマンティーヌである。彼女は椅子に座らされ、彼女と似通った――まるで兄弟のように顔の似た男に話しかけられていた。

 

「…………」

 

 会話の内容は分からないが、部屋には他にもまだ何人かいる。様々な服装の者達で、統一性は全く無い。だが、その統一性の無さはアインズの中である種の記憶を呼び起こすものだった。

 

「……馬鹿な!」

 

 思わず、その姿を見て一人で叫ぶ。それほどまでに彼らの格好はアインズに衝撃を与えるものだったのだ。

 

 ――そう、彼らの格好はアインズにも覚えがある。それは見た事がある、という意味ではない。その統一性の無いチームに、ある種かつての『アインズ・ウール・ゴウン』のような物を感じ取ったからだ。

 いや、それも正確ではないだろう。アインズ達だけではない。ああいった格好は、あの世界では普通だった。

 

 そう――――『ユグドラシル』では。

 

「…………ッ!」

 

 ゾッとしたものを感じ取って、すぐさまアインズは魔法を解除する。そして周囲を警戒し、本当に――本当に今もこの場所に監視が無いか立ち上がって魔法で調べていく。課金アイテムも巻物(スクロール)も用いてだ。

 そうして自分が納得出来るまで周囲を調べたアインズはようやく安堵して脱力し、その場に座り込んだ。

 

「……プレイヤーだと?」

 

 いや、早計だろう。まだあのクレマンティーヌを囲んでいた集団がユグドラシルプレイヤーだと決まったわけではない。

 

「……スレイン法国か?」

 

 その可能性の方が高い、とアインズは思う。ニグン達からの情報や、六大神などの伝説からスレイン法国はユグドラシルプレイヤーが作った国である可能性が高いからだ。人間種や亜人種ならば寿命で既に死んでいるだろうし、そんな六大神の遺したマジックアイテムを彼らが身に着けている可能性の方が高いだろう。

 

「……それにしても、何故法国なんだ?」

 

 確かに、アインズは一度法国に喧嘩を売っている。陽光聖典の作戦を邪魔したのは間違いなくアインズであり、法国にとってはあまり仲良くしたくない相手であるように思える。

 だが、陽光聖典が非合法工作員であり、王国戦士長のガゼフを暗殺しようとしていた事を考えると、向こうもそういった事は表沙汰にしたくないはずだ。

 ――もしやあのエ・ランテルの事件も法国が何か企んでいた事件だったのだろうか。それならばクレマンティーヌの死体を彼らが回収する事も可能だろう。

 

「……いや、でもエ・ランテルの件は変だろ」

 

 法国は王国に対してガゼフの暗殺を企んでいたが、あくまで法国は人類の守護者というスタンスだ。最初は分からなかったが、この王国の現状や他の国の情勢を知るにつれて法国が何故ガゼフを暗殺しようとしたのかは、ある程度納得出来た。

 亜人種と異形種、そして戦争。人間という身体能力で劣る劣等種族というどうしようもなさ。

 

 ――要するに、人類は滅亡の危機に立たされているのだ。そんな現状だというのに自分達の背後で仲良く殺し合いをしていれば、それは無理矢理にでも調停させてやろうという気にもなるだろう。

 

 実際、法国は亜人種達は勿論、人間種でも人類のみを重きにおいて他は差別しているが人間の国に戦争を仕掛けた事だけは無いのだとか。――つまり、人類の現状を唯一理解している国だと言える。

 

 そんな法国が起こした事件にしては――エ・ランテルの事件はおかしい。ガゼフ一人を殺して国の派閥バランスを崩す方法をとった法国が、エ・ランテルを死都に変えるような大事を起こすだろうか。下手をすればモンスター達の領土が増えるだけだろうに。

 

 ……それを考えれば、あのエ・ランテルの事件は法国とは何の関係も無い犯罪組織の起こした事件と見た方がいい。

 

「……となると、やっぱりあのクレマンティーヌにそっくりな男が鍵かな」

 

 単純に考えれば兄妹、だろう。違っても親戚か。少なくとも血縁関係があるのは間違いない。魔法で顔を変えているのでもなければ。

 

「クレマンティーヌは法国の出身だったのかな?」

 

 そう考えれば辻褄があうような気がした。クレマンティーヌは法国の出身であり、あの性格を考えるに犯罪者として追われる身だったのではないだろうか。そうなると彼女を追跡していた法国の部隊か何かが、死んだクレマンティーヌを回収し、アインズの事を知ったというのも納得がいく。

 

「……しかしなんで接触してくるんだ、こいつら」

 

 それがアインズには分からなかった。いや、人類の守護国家なのだからアンデッドであるアインズを放っておけなかったと考えると納得出来るか。……それでも、何の対応策も無しに接触するのはあり得ないが。

 

「……あまり接触したくないなぁ……逃げようかなぁ……」

 

 このまま〈転移門(ゲート)〉で王都から逃げ出す算段を企てる。ツアーと遭遇したのも、この考えに拍車をかけた。

 

「いや、虎穴に入らずんば虎児を得ず――と言うし、接触してみるのも手か」

 

 何より、これで法国の出方が窺えるのが嬉しい。あそこはユグドラシルプレイヤーの気配がする国なので、あまり敵対したいとは思えなかった。その後を思えばここで無視すると後の関係が悪化するだろう。

 

「よし! 決めた! 接触してみるか!」

 

 アインズはそう決め、ハムスケに〈伝言(メッセージ)〉を使う。ぶつりと繋がった感覚のあと、ハムスケの声が頭に響いた。

 

『殿? どうしたでござるか?』

 

「ハムスケ、悪いが急用が出来た。夜にガゼフに会いに行くと言ったが無理そうなので、ガゼフに……帰ってこなかった場合はブレインに謝っておいて欲しい」

 

『そ、そうでござるか。分かったでござる。ちゃんと伝えておくでござるよ、殿』

 

「頼んだぞ」

 

 そうしてハムスケとの〈伝言(メッセージ)〉を切ると、アインズは万が一の事を考えて荷物を整えていく。もう、二度とこの宿には帰ってこない可能性を考えて。

 

 荷物を纏めてアイテムボックスに詰め込んだアインズは、日が暮れるのをその宿の窓から待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 もはや日も暮れて太陽が姿を隠し、月が出始めた。そのため訓練を止めたブレインは、ハムスケが何か言いたそうにしているのを見て首を傾げた。

 

「どうした? ハムスケ」

 

 ブレインの言葉にハムスケは少し考えて……やがて意を決したように告げた。

 

「ブレイン殿……この家に鎧を着た誰かが近づいて来ているでござるよ。殿やクライム殿、ガゼフ殿じゃないと思うでござる」

 

「なに?」

 

 数日間この館で暮らしていて、ガゼフの館を訪れるような者をブレインはほとんど見た事がない。何故ならガゼフは基本王城にいるのだし、この館に帰ってくる方が稀だからだ。ガゼフの知り合いならそんな事は知っているはずである。

 そうなると、訪れる相手は決まってアインズになるのだが何度もアインズの足音を聞いた事のあるハムスケは違うと言う。だとすれば全く別の人間となるが、鎧の金属音が響くとなると途端に怪しい相手だと思って警戒したくなる。

 

「あの『蒼の薔薇』のお嬢さんじゃないのか?」

 

「一度ここにクライム殿と来たご令嬢でござるか? ……違うと思うでござる」

 

 しかしどこかで聞いたような――そうハムスケが呟く声はブレインには届かず、悩むハムスケを放ってブレインは裏庭を出て表を覗く。ブレインの視界に入る者はいない。ブレインにはハムスケのような野伏(レンジャー)染みた技術は無いので、ハムスケが誰を指しているのかさっぱりだ。

 

「おい、誰もいな――」

 

「あーッ!!」

 

 ハムスケは急に叫び声を上げると、大急ぎでブレインの服を咥えて引っ張って裏庭へと引き摺りこんだ。

 

「お、おい!? 何をするんだハムスケ!?」

 

「思い出したでござる! 思い出したでござるよ!!」

 

 表から見えないように身を隠したハムスケは、少し尻尾を丸めてブレインに小声で語った。

 

「それがしがブレイン殿と戦っていた頃、殿も接触した敵と戦っていたのでござる! その金属鎧の足音でござるよ!!」

 

「なに……?」

 

 ハムスケは怯えたように尻尾を丸めて、怖々としている。

 

「殿でも苦戦した相手だと言っていたでござる……どうしてこのような場所にいるのでござろうか……?」

 

「それは……俺らじゃ相手にならん可能性が高いな」

 

 アインズは魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)でありながら、接近戦で戦士のブレインとハムスケを魔法で圧倒出来るほどの強さだ。そんなアインズが苦戦したという強さとなると、間違いなく難度九〇前後のブレインやハムスケでは勝てないだろう。

 

「それにしてもそんな奴がこんな所に何の用だ?」

 

「それは……分からぬでござるなぁ」

 

 ブレインとハムスケはお互いに首を傾げる。そして裏庭で待って少しすると……ブレインの耳にも鎧特有の金属音が届くようになった。

 

「ここかい? リグリット」

 

「そうじゃよ、ツアー。ここが指輪の今の持ち主の家じゃ……王宮勤めじゃと言っておったから、留守みたいじゃがのう」

 

 二種類の声が聞こえる。老婆のような声と……もう一人。そちらの声がおそらく鎧を着ている方だろう。ブレインとハムスケはじっと息を潜めて彼らの出方を窺う。というより、この老婆の声には覚えがあったような――

 

「周辺国家最強の戦士ガゼフ・ストロノーフか……確かに、彼なら指輪の持ち主としてピッタリかもね。まだ見たことはないけど」

 

「性格もちゃんとお主が気に入る清い心の持ち主じゃよ。安心せい」

 

「勿論、君が指輪を渡してもいいと言える相手なのだから、そこは安心しているさ。それよりも――」

 

 鎧の方が言葉を切る。それに嫌な予感をブレインは覚えて――――

 

「裏庭にいるのは、“彼”が連れていた魔獣だね。もう一人いるだろう? そこで何をしているんだい?」

 

「――――」

 

 その声にびくんっ、とブレインとハムスケは身を強張らせ……無言になった相手にこちらの反応を待っていると察して、顔を見合わせると裏庭から表へ出る。

 そこには、剣を下げた老婆と白金の全身鎧(フルプレート)の騎士が立っていた。

 

「アインズ・ウール・ゴウンの魔獣だね。ここで何をしているんだい?」

 

 白金の騎士がハムスケに訊ねる。それにブレインが口を開いた。

 

「俺はブレイン・アングラウスという者だが――ガゼフの知り合いか?」

 

 ブレインがそう訊ねると、白金の騎士は特に気を悪くした様子もなく答えてくれた。

 

「私はツアー。彼女はリグリットだよ。彼女がガゼフ・ストロノーフと知り合いで、彼を訪ねに来たんだ。君達はどうしてここにいるんだい?」

 

「俺はガゼフの友人で、今はここに居候させてもらっている。こちらの魔獣はハムスケだ。アインズの事も知っているようだが……アインズもガゼフの知り合いだぞ。旅人だから普通の宿には置けない、と言うんでガゼフが預かっているんだ」

 

「なるほど」

 

 ブレインの言葉に白金の騎士――ツアーは納得したようだった。そこで老婆――リグリットが口を開く。

 

「久しぶりじゃな若造。元気にしとったか?」

 

 リグリットの言葉に、ブレインは苦笑が漏れた。

 

「ああ――相変わらずだな、婆さん。相変わらず隙が無いことで」

 

 身のこなし、気配から――ブレインはそう断言する。しかしそれは同時にある種の確信も与えていた。

 

 この老婆はやはり、アインズほど強くない。

 

 むしろブレインでも強さが分からない――このツアーという騎士の方が、アインズという前例を考えれば恐ろしい相手と言えるだろう。

 相手の強さは相手との力量差が離れ過ぎているほど、分からなくなる。それがブレインがアインズやハムスケ、リグリットと対峙した時に学んだ事だ。あの時と同じようにまだリグリットの強さが感じ取れるという事は、ブレインと同格か、あるいは少し格上だろう。強さを感じ取れる程度にはブレインとの実力差はそう離れていないはずだ。つまりリグリットにはアインズほどの化け物染みた強さはない、という事である。

 ……勿論、ツアーが探知阻害系の魔法やマジックアイテムを使っていなければ、という前提ではあるが。

 そして幾度となくモンスターや人間と戦った経験と、アインズの魔法からブレインは鎧を着ているツアーが戦士系だと予測するのは危険だと判断する。アインズが魔法で鎧を着こみ戦士にしか見えない姿をとって見せたのは記憶に新しい。ツアーもその類の可能性がある。

 

(井の中の蛙大海を知らず、か。こんなのと遭遇するとか、俺の人生どうなっちまうんだか)

 

 ブレインは内心で溜息をついた。

 

「……ところで、ガゼフは帰ってくるかどうか分からんぞ。王宮勤めなんでな、むしろ自宅に帰る方が珍しいらしい」

 

 最近はどういうわけかよく自宅まで帰ってきているが。しかし今は忙しいだろう。アインズが『八本指』の犯罪の証拠や貴族達の名前の連なる顧客リストを入手してラナーに渡したので、ゆっくり膿を排出している最中だからだ。老夫婦も日中にこの館に来て、掃除をするように頼むだけに留めている。そのためブレインとハムスケしかこの館にはいない。

 ブレインの言葉を聞いたリグリットは少し残念そうに表情を歪めた。

 

「なんじゃ。それならどうするかのう……ツアー、観光でもして帰るか?」

 

「うーん。さすがに観光するほどの暇は私には無いのだけれど……それより、アインズ・ウール・ゴウンはここに来るかい? 前の件は私が悪かったからね。謝っておきたいと思ったのだけれど……」

 

 ツアーの言葉にブレインが返そうとすると、ハムスケが口を開いた。

 

「殿は今日はここには来ないでござるよ」

 

「はあ? 確か明日王都を出るから今夜ガゼフが帰ってきたら、別れの挨拶をするって言ってなかったか?」

 

 そういう予定だと言っていたはずだ。ブレインが首を傾げながら問うと、ハムスケも困惑しながら答えた。

 

「少し前に〈伝言(メッセージ)〉がきたのでござる。殿は急用が出来たから、今夜は来られないそうでござるよ。ガゼフ殿が帰宅したら、顔を見せずに街を去ることになるのを謝っておいて欲しいと言っていたでござる」

 

「急用? どうしたんだアインズのやつ」

 

 ハムスケの言葉にブレインは首を傾げる。急な用事とは何なのであろうか。

 

「やれやれ、わしもゆっくり話してみたかったんじゃが……目的の人物は誰も彼も忙しいのう。ツアー、あの泣き虫にでもまた会いに行くか?」

 

「彼女だって冒険者稼業が忙しいんじゃないかなリグリット。あまりからかってはいけないよ……――?」

 

「どうした?」

 

 ふいに、ツアーが言葉を切って空を見上げた。それにブレイン達は首を傾げる。

 

「どうかしたのかの、ツアー」

 

「いや……ちょっと待って欲しい」

 

 ツアーはそう言うと押し黙り、不動になる。そんなツアーをブレインとハムスケは不思議そうに見やり、リグリットが目を細めた。

 

「……アインズ・ウール・ゴウンは急用だと言ったんだね」

 

 少しの沈黙の後、ツアーが口を開く。ハムスケはそれに頷いた。

 

「そうでござる」

 

「どうしたんじゃ、ツアー?」

 

 リグリットの言葉にツアーが呻くように呟いた。

 

「この鎧を制作するのに忙しかったから油断した……。彼の急用が分かったよ、リグリット。……この街に、漆黒聖典が来ている(・・・・・・・・・)

 

「――なんじゃと?」

 

 剣呑な空気を醸し出した二人に、ブレインは慌てた。

 

「おいおい……さっぱり意味が分からんのだが。その漆黒聖典、だったか? そいつらがどうしたって?」

 

 ブレインにとっては聞き覚えの無い言葉だ。――そう、ブレインは知らないのだ。ガゼフのような王宮勤めで地位の高い者ならば知っていただろうが、ブレインのような元傭兵や魔獣のハムスケには知り様もない存在である。法国の非合法工作員、六色聖典最強である漆黒聖典など。

 

「すまない、用事が出来た。私は漆黒聖典を監視する。リグリット、ここでお別れだ」

 

「――分かった。気をつけるんじゃぞ、ツアー」

 

 ツアーとリグリットの会話に、ブレインは少し不快になって聞き返す。

 

「だから! アインズに何かあ――――は?」

 

「え――?」

 

 見えた光景に、ブレインは思わず間抜けな顔で大口を開ける。そんなブレインを見てツアーとリグリットも困惑しブレインと同じ方向を見て、ブレインと同じような状態になった。ハムスケはその光景に毛を逆立てて怯えている。

 

 王都の一角を囲むように、揺らめくベールのような真紅の炎が天を焦がすように地上から噴き上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 ――アインズは夕日の街並みを歩く。最近の漆黒の鎧姿ではなく、いつもの漆黒のローブを装着した魔法詠唱者(マジック・キャスター)然とした姿だ。

 

「…………」

 

 勿論、相手を警戒して完全装備である。アイテムで調べたかぎり、相手のレベルはおそらく二〇から四〇の間。一人だけレベルが異常に高い人間がいたが、クレマンティーヌ以外はどの道要警戒。装備品のクラスによっては、アインズの特殊技術(スキル)を無効化してダメージを与える可能性、もしくは叡者の額冠のような、この異世界特有のマジックアイテムなら突破出来る可能性あり。

 

 目的地の途中で何度か店により、マーキングをする。これで転移魔法によっていつでも逃げられるが、向こうが〈次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)〉などの転移魔法阻害を使ってくる可能性もあるので、更に幾つか逃げ道を確保しておく必要がある。

 

「……あー……頭と胃が痛い」

 

 無いはずの胃と、頭が痛む気がする。当然、そういったバッドステータスをアインズはアンデッドの特性で無効化するため、人間の頃の癖のようなものだろう。

 

(今度から、もうちょっとよく考えて行動しよう……)

 

 今までノリで生活しすぎた。しみじみとそう思いながら、アインズは目的地へと辿り着いた。

 

「…………」

 

 扉をくぐる。このレベルの宿泊施設ならばまだ警備兵は立っていない。いや、警備兵がギリギリ立たないランクの宿泊施設、といった方がいいだろう。しかし受付に主人がそのまま立っている事はなく、受付嬢がいる。

 受付嬢はアインズの見た目に瞳をぱちくりとさせていた。

 

「…………」

 

 何食わぬ顔で無視する。受付嬢は驚いてこちらを見ているが、特に気にしない。何らかの言い訳はあちらが考えてくれているだろう。そのまま階段を上り、目的の部屋へ辿り着いた。

 

「…………」

 

 ドアをノックする。そして、その部屋のドアから警戒して離れる。ドア越しに切られてはたまらない。数瞬の沈黙の後――声が上がる。女の声だ。聞いた覚えがある気がする――いや、どうだったか。あまり覚えていない。

 

「はい――どちらさまでしょう?」

 

 まあ、クレマンティーヌの声でもあの性格で丁寧な言葉で返されると、同じ声だと判断がつきそうにないが。

 

「……アインズ・ウール・ゴウンですが」

 

「――ああ、申し訳ございません。今、開けます」

 

「…………」

 

 気色が悪いほどに丁寧な言葉だ。それがあまりに奇妙で、アインズは少しだけ不思議に思いながらドアが開くのを待つ。

 

「――お待たせしました」

 

 顔を見せたのはクレマンティーヌだ。声の主はやはり、クレマンティーヌだったらしい。エ・ランテルの時とは違い、装備は何もつけていない。ただの普通の服に見える。

 

「……随分と態度が変わったじゃないか。後ろの連中のせいか?」

 

 アインズが少し声を潜めて呟くと、クレマンティーヌがさっと背後に視線を動かした。顔色は悪い。

 

「……いいから、さっさと入ってくんない? こっちもヤバい状況なんだから……」

 

「あまり入りたくないんだが……」

 

「いいから。他の連中はともかく、幾らアンタでもさすがに隊長の相手は厳しいと思うけど」

 

「ああ……あの、一人だけレベルの違う奴か。仕方ない」

 

 互いに小声で話し、アインズはクレマンティーヌの案内で室内に入る。

 室内に入ると、その場にいた者達がすぐさま深く頭を下げる。そんな姿にアインズは困惑した。

 

「お待ちしておりました。アインズ・ウール・ゴウン様」

 

「…………」

 

 アインズがアイテムで調べた、レベルが一番高くクレマンティーヌが隊長だと言っていたであろう、幼さの残る顔をした男が頭を下げたまま口を開く。アインズは仮面の頬を掻き、背後のクレマンティーヌを振り返った。

 

「どういう状況だ、これは?」

 

「……私に言われても困るわ。とりあえず、隊長の話を聞いてあげて……ください」

 

 先程とは違い、口調を丁寧なものに改めるクレマンティーヌ。その姿にアインズはやはり困惑しながら、窓際近くに置いてある椅子にドカリと座った。

 しかし彼らは、そんなアインズの姿を気にも留めていない。いや……正確に言うならば、その態度こそが当然と思っているような節さえあった。

 アインズはそんな彼らの姿に、更に内心困惑する。

 

「それで……えぇっと――」

 

「まずは名乗らせていただきます。我等はスレイン法国より使者として参りました、漆黒聖典と申す者です」

 

「――漆黒聖典? ああ、六色聖典の」

 

「はい」

 

 確か六色聖典の内でも最強の部隊だったはずだ。法国の秘密兵器とも言える。そんな彼らがアインズを訪ねに来たとなると――

 

「陽光聖典について、と見ていいのですか?」

 

 アインズがそう訊ねると、隊長だという男は首を横に振った。

 

「いいえ。そちらについては、私どもに非がありますので、気にしておりません」

 

「……? では、クレマンティーヌについてですか?」

 

「いいえ。彼女は我々の裏切り者……勿論、エ・ランテルについては我等は無関係です」

 

「ふむ……では、何故?」

 

 もはや答えは出たも当然だが、それでもアインズは分かりきった答えを訊ねる。隊長らしき男は、静かに口を開いた。

 

「――率直にお尋ねします。……貴方は、ぷれいやーでしょうか?」

 

「……なるほど。やはり法国はユグドラシルプレイヤーの作った国だったわけですか」

 

 ――つまり、法国はユグドラシルプレイヤーと接触を図りに来た、という事だろう。

 

「やはり、貴方は六大神様方や八欲王達と同じ世界からいらした方なのですね」

 

「そういう意味では、そうでしょうね。それで――何の用事か訊いても?」

 

「――大変不躾ではありますが、本国を是非訪ねていただきたく思っています。貴方の疑問にも、ある程度はお答え出来るかと」

 

「なるほど」

 

 アインズは少し考え込む。とりあえず、今訊いても大丈夫そうな気になる事を訊ねてみた。

 

「法国には、今もプレイヤーがいるのですか?」

 

 隊長らしき男は、アインズの言葉に首を横に振った。

 

「いいえ。今の我が国にはぷれいやーはいません。確認しているぷれいやーは伝説も含めて六大神様方、八欲王、十三英雄の幾人か……それと、海上都市ですね。今も生きているぷれいやーは海上都市にいる者と……貴方だけです」

 

「そうですか……」

 

 まあ、法国にはいないだろうとは思っていた。もしいるのだとすれば、アインズに対する対応がお粗末だからだ。……敵対行為を避ける意味合いでアインズに対して何もしないのかもしれないが、それでも自分から来るくらいはするだろう。

 

「こちらの通行書をお持ちください。これがあれば法国にいつでも入国出来ます」

 

「……それはどうも」

 

 男が懐から出した羊皮紙を受け取る。『漆黒の剣』がレエブン侯に発行してもらった通行書より細かく、そして魔法の力が込められている気がする。

 

「今は王都にいますが、また後日寄らせていただきます」

 

「はい。我等はいつでも貴方の御来訪をお待ちしています」

 

「――――」

 

 随分と、静かな接触になった。まあ、お互い信用出来ない相手と対峙していると思えばこんなものだろう。……それにしては、随分と他の者達が静かだとアインズは思っているが。

 口も挟まない。アインズに対して、ひたすら深く頭を下げて過剰なほどの礼儀を尽くしている。クレマンティーヌは居心地が悪そうだ。そんなクレマンティーヌの反応こそがアインズをほっとさせた。

 

「では、私もこの後用事があるのでこの辺りで――」

 

「隊長!!」

 

 しかし、そこで絶叫するように隊員の一人が叫んだ。その隊員に室内の全員の視線が集中する。

 

「どうした、“占星千里”?」

 

「た、隊長……あ、悪魔達が来る…………」

 

 “占星千里”と呼ばれた隊員は、恐怖で顔色を真っ青にして歯をガチガチと鳴らしながら男を見ている。

 

「あ、あ、あ、悪魔が……悪魔が来るんだよぉ!! この王都に!!」

 

「なんだと?」

 

 困惑するアインズを放って、漆黒聖典の者達はそんな隊員の言葉に気を引き締めて警戒した。クレマンティーヌでさえ、その隊員の言葉に困惑ではなく驚愕を示していた。

 

「……えぇっと、何事です?」

 

 アインズが訊ねると、隊長の男がアインズの質問に答える。

 

「あの者は“占星千里”という二つ名の者です。能力は――――未来予知」

 

「――――なるほど」

 

 おそらく生まれながらの異能(タレント)か。そして今まさに予知してしまったわけだ。アインズはそんなほとんど恐慌状態の隊員を見て肩を竦める。彼らを横目にチラリと窓の外を見て――――驚愕した。

 

「――――」

 

「? どうしましたか?」

 

 そんなアインズに最初に気づいたのは勿論、男だ。アインズが窓を開けて外を見たのに合わせて、男も外を見る。そしてアインズと同じように驚愕した。

 

「……なんだ? あの炎の壁は?」

 

 王都の一角を、炎の壁が覆っている。炎の高さは三十メートルを超え、横の長さに至っては数百メートルを超えているだろう。

 アインズは、そんな炎の壁に覚えがあった。

 

「まさかあれは――――ゲヘナの炎か?」

 

「知っているのですか!?」

 

「ええ、たぶん……」

 

 『ユグドラシル』でも何度か見た事のある光景だ。とは言っても、そう頻度は多くない。アインズ達は基本的にナザリック地下大墳墓での防衛戦だったので、ギルドvsギルドといったものはほとんど無かったと言っていい。しかし、都市をギルドとしてのギルド戦を横目で見る事はあった。その時に、とても役に立つのだ〈ゲヘナの炎〉は。

 

「どういったものなのですか……?」

 

「……第七位階魔法の〈死者の軍勢(アンデス・アーミー)〉を知ってますか?」

 

「……はい」

 

「簡単に言えば、それの悪魔版(・・・)です」

 

「…………!!」

 

 アインズの言葉に驚愕し、男が炎の上空を見る。黒い夜空を炎が照らし赤く染め、そしてそこにぽつぽつと黒い飛影が見え始めている。

 

「……総員! 戦闘準備!! 対悪魔戦を想定しろ!」

 

「は、はい!!」

 

 男の言葉に隊員達の動きに規律が戻る。アインズはそんな彼らに口を開いた。

 

「申し訳ありませんが、私は別行動をとらせてもらいます。少し行くところがあるので」

 

「……ご武運を!」

 

 男の言葉を聞きながら、ガゼフの館を魔法で視界に捉え転移魔法を発動させる。次の瞬間、アインズはガゼフの館の真上に出た。

 

「〈飛行(フライ)〉」

 

 そして飛行魔法を唱え、宙に浮いて降下を止める。アインズは地面に降りた。

 

「――それで、なんでツアーとリグリット……だったか? 二人がいるんだ?」

 

「殿!」

 

「アインズ!」

 

 ブレインとハムスケが振り返り、ほっとした表情を見せる。

 

「と、殿! 街が大変な事になっているでござる!!」

 

「ああ。だから急いで戻ってきたんだ……」

 

「……君は知ってるのかい? この炎の壁の正体を」

 

 ツアーの言葉に、アインズは少し口篭もったが頷いた。

 

「知っている。――ハムスケ、ブレイン。戦闘準備をしろ。市街戦だ。悪魔どもとな」

 

「あ、悪魔だとぉ!?」

 

 ブレインが驚愕の声を上げた。それはそうだろう。いきなりこんな王都のど真ん中で悪魔と市街戦、などと言うのだから。

 

「あれは〈ゲヘナの炎〉と言ってな。簡単に言えば第七位階魔法の〈死者の軍勢(アンデス・アーミー)〉の悪魔版だ。下位悪魔どもがあの炎の壁からわんさか(・・・・)出てくるぞ」

 

「な、なんじゃとッ!?」

 

 リグリットもその言葉で驚愕の声を上げた。第七位階魔法を例に出されたのだから、その反応も当然かもしれない。

 

「〈死者の軍勢(アンデス・アーミー)〉の悪魔版……ということは、それだけじゃ終わらないんだろう?」

 

「そうだ、ツアー。早急に術者を倒さんと、召喚される悪魔どもが強くなっていく。……当然、術者もかなりの強敵だろうがな」

 

 もしかすると、ユグドラシルプレイヤーかも知れない。こんなところで、こんな大事を引き起こすとは思えないが――――八欲王の伝説を思えば、異世界の人間やモンスターの弱さに、そうしてやろうと思う者がいるかもしれなかった。アインズとて、単独でこうして異世界に来なければどういう心境の変化があるか分かったものではない。ウルベルトやるし★ふぁーなどは「世界征服してみようぜ」とでも言ったかもしれなかった。

 

「……私とリグリットは冒険者組合に行ってくるよ。『蒼の薔薇』とはそれなりの仲だからね。君は王城に行ってくれないかい? ガゼフ・ストロノーフと知り合いならそこから人間達に情報を伝達出来るだろう?」

 

「……やってみよう。その後は術者探しだな。ツアー、お前の知覚能力なら探せないか?」

 

「……正直、今は自信がないね。君のように隠している可能性もあるし、この街には他にも強い者が紛れているから」

 

 その言葉に、アインズは悟る。ツアーは漆黒聖典を知っているようだ、と。

 

「それでも、やれるだけやってみるよ。アインズ・ウール・ゴウン……彼らとはもう接触したのかい?」

 

「ああ。向こうも内密にだが悪魔退治に協力してくれるだろう。さすがに、この状況では本国に帰還するのは無理だろうからな」

 

 というより、ここで王都を放り出して本国に帰還した場合アインズの不興を買うのは火を見るより明らかである。それを思えば、彼らは帰還する事は出来ないだろう。

 

「そうか。なら、今だけは心強い味方だと思った方がいいかな――それと」

 

「うん?」

 

「あの時のことはごめんよ。私が悪かった――イビルアイから話は聞いたよ。君は、いい人だ」

 

「――――」

 

 ツアーの言葉に、少しアインズは照れ臭くなって視線を逸らす。仮面をしていてよかったと思った瞬間だ。……まあ、アンデッドなので恥ずかしがっても顔には出ないが。

 

「気にするな。お前も慌てていたんだろう。今は協力してくれるだけで充分だ」

 

「――ありがとう」

 

 それで、あの森の話は終わりだ。少なくとも今はそうでいい。

 

「ブレイン! ハムスケ! お前達はツアー達と冒険者組合に行け! 俺は王城に向かう」

 

「ああ」

 

「了解したでござるよ殿! 殿も終わったら組合に来るのでござるか?」

 

「いや……どうなるかは分からん。後で〈伝言(メッセージ)〉を送る」

 

「了解したでござる!」

 

 ハムスケとブレイン、ツアーとリグリットが街中へと消えていく。その姿を見ながら、アインズは再び炎の壁に視線を戻した。

 

「――地獄(ゲヘナ)の炎、か……」

 

 その燃えさかる炎獄の姿が、ふとナザリック地下大墳墓の第七階層を思い出させた。その今となっては遠い想い出を頭を振って掻き消して、アインズは転移魔法を使う。

 

 ――遠くで、悪魔達の哄笑が王都を覆うように響き始めていた。

 

 

 

 

 




 
ツアー「アーグランド評議国からきますた」
リグリット「ツアーにくっついてきますた」
漆黒聖典「スレイン法国からきますた」

新生・モモンガと愉快な仲間達☆

これでもナザリック陣営に勝てる気がしない! 不思議!
 





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