その頃のナザリック。
――モモンガ様は、来られない。
「…………」
しん――と静寂ばかりが広がる玉座の間で、アルベドはいつも通り玉座の横で佇んでいた。
……昨日の事だっただろうか、モモンガは珍しい事に玉座の間へと訪れた。それもいつも動かさないセバスや
そして玉座に座り、何か考え事をしているようだった。アルベドには何を考えていたか分からないが、きっとモモンガは自分達程度では想像する事さえ不可能な何かを考えていたのだろう。
至高の御方。アルベド達、NPCを創造した神の如きいと高き御方。
アルベドにはよく分からないが、モモンガを初めとした四十一人の至高の御方はアルベド達のような一から創造したモノ達を『NPC』と呼んでいた。
だから、自分はNPCだ。そのように創造されたから、そのように行動する。それに誇りを持っている。
――ただ、悲しいのはモモンガ以外はもうこのナザリック地下大墳墓を訪れてくれない事。
至高の御方々は遠い地へと旅立ち、きっと二度とその御姿を瞳に映す事が叶わない事だ。
アルベドは思う。それでもいい。自分はモモンガを愛している。モモンガだけは、『アインズ・ウール・ゴウン』を纏めていたあの主人だけは、自分達を見捨てないでくれているのだから。
悲しくない。辛くないと言えば嘘になる。しかしアルベドはそれでも、まだ耐えられると信じていた。
「…………」
しん――と静寂が玉座の間に広がる。既にこの玉座の間にセバス達はいない。昨日、モモンガが玉座の間を去った後、セバス達は通常の業務へとアルベドの責任で戻したのだから。
時折、至高の御方々は何処かへ旅立つ事がある。それは地上へ
『りある』。アルベドは、言ってはならない事だがこの『りある』という都市……と言っていいのだろうか、その都市が嫌いだった。
いや、きっと自分だけではない。きっと自分達NPCの誰もが、一度はこの単語を聞き、その都市が嫌いだと内心思っている。
至高の御方々は『りある』に色々なモノを持っているらしい。このナザリックを守る守護者の一人……アウラやマーレの創造主、ぶくぶく茶釜は『りある』では『せいゆう』と呼ばれる職業なのだと言っていたし、メイド服を設計したホワイトブリムは『まんがか』なのだと言っていた。
……アルベドはよく分からない。ただ、以前創造主のタブラ・スマラグディナが『りある』の愚痴を呟いていたのを聞いた事がある。
……だったら、そんな場所捨ててしまえばいいのに。
アルベドと同じような気持ちでいるNPCは、たくさんいるだろう。言葉にしないだけで。
「…………」
アルベドは玉座の間でじっと佇む。どうやら、今日はモモンガはナザリックに来ないようだ。
――そういう日もある。至高の御方々が次第にナザリックに来なくなってからは、誰もがつられるように忙しなく、ナザリックに来ない日も増えた。
モモンガもそういう日があった。なんでも、このナザリック地下大墳墓を維持するためには、莫大な金貨が必要らしい。至高の御方々がいなくなってから、モモンガは一人でそれを稼いでいるらしく、ナザリックに顔を出さない日もあったのだ。
今日は、きっとそんな日だろう。
アルベドは思う。自分達に命じて下されば、そのような些事、すぐさま解決してみせますのに、と。
愛するモモンガは、やはりナザリックに来なかった。
◆
「…………」
玉座の間。アルベドは一人佇んでいる。いつも通り、静かな微笑みを浮かべて。
昨日はモモンガはナザリックに来なかったようだが、今日は来るかもしれない。そして、もしかしたら先日のように気まぐれでこの玉座の間に来られるかもしれない。
その時に気の抜けた表情をしているなど恥ずかし過ぎる。愛する殿方には、常に最高の自分を見て欲しい。
だからアルベドは、柔らかく微笑みを浮かべ続けた。
「…………」
昼を過ぎる。来ない。
夕方になった。来ない。
夜になった。来てくれない。
「…………」
どうやら、今日も留守らしい。モモンガを始めとした至高の御方々の気配は、このナザリックにおいてとても目立つ。
そう、シモベ達は決して支配者の気配を間違えない。近くにいれば、分かるのだ。感じるのだ。
至高の御方々はナザリックに来られる時、必ずと言っていいほど、第九階層の円卓と呼ばれる部屋に現れていた。
そこからナザリックを散策するか、そのまま部屋で会議をしているか、あるいは地上へとアイテムを探しに行くか……そのように行動している。
『りある』にいる時は、円卓の間を訪れない。
アルベドはそれを知っていた。
「…………」
不安は無い。モモンガは必ずナザリックに一度は来てくれていた。だから、少し来ない程度なんでもない。
アルベドは微笑む。玉座の間に一人で。
――モモンガは、今日も来なかった。
◆
「…………」
朝になった。来ない。
太陽が真上に昇る時間だ。来ない。
黄昏の時間。来ない。
夜になった。来てくれない。
「…………」
大丈夫。なんでもない。少し『りある』で何かあったのだろう。そういう日もあったのを、アルベドはよく知っている。
だから、なんでもないのだ。
――モモンガは、今日も来なかった。
「…………」
次の日。
朝になった。来ない。
昼になった。来ない。
夕方になった。来ない。
夜になった。来てくれない。
「…………」
大丈夫。なんでもない。アルベドは玉座の間で微笑み続ける。
――モモンガは、今日も来なかった。
「…………」
次の日。
朝になった。来ない。
昼になった。来ない。
夕方になった。来ない。
夜になった。来てくれない。
「…………」
アルベドは微笑む。
――モモンガは、今日も来てくれない。
「…………」
次の日。
次の次の日。
次の次の次の日。
次の次の次の次の日。
「…………」
アルベドは微笑む。
――モモンガは、今日も来てくれない。
「…………」
次の日。次の日。次の日。次の日。次――
なぜですか。
次の日。
どうしてですか。
次の日。
申し訳ございません。
次の日。
私が何かしたなら謝罪します。
次の日。
モモンガ様。
次の日。
「…………」
朝になった。来てくれない。
昼になった。来てくれない。
夕方になった。来てくれない。
夜になった。来てくれない。
――モモンガは、今日も来てくれない。
「…………」
玉座の間の扉を開く。大広間が視界に入った。天上には四色のクリスタルが白色光を放っていて、その光は悪魔達の彫像を照らしている。
その悪魔達が並ぶ中を、歩いた。
「…………」
心臓が壊れそうなほど、強く脈打っている。恐ろしさに身が竦む。今にもあの悪魔の彫像達が動き出してしまうような錯覚を覚えた。
「…………」
大丈夫だ。悪魔の彫像は動かないし、天井のクリスタルは召喚を開始しない。
これは敵を迎撃するためのもの。決して、味方には発動しない。
だから、大丈夫の筈だ。
「…………」
大広間を無事に通り過ぎた。足が震える。今ならまだ言い訳が出来る。
自らの役目は玉座の間で待機し、守護者達を統括する事。玉座の間から出る許可は、決して戴いていない。
だから、玉座の間に帰った方がいいと――そう告げる理性を、それ以上に強い感情が抑え込んだ。
「…………」
歩く。震えながら、必死になって足を動かした。病人の方がまだきびきび歩くような速度で。
それでも懸命に。
「…………」
歩く。歩く。歩いた。そして――ついに第九階層へと至る階段のある、広間へと到達した。
第九階層。それは至高の御方々のプライベートルームであるロイヤルスイート。決して、自分達シモベ如きに存在を許される場所ではない。
現に、第九階層に招かれたNPCは一人としていない。ただ、至高の御方々の世話係のメイドが同じ数だけ存在しており、御方々の娯楽のための店主などが存在しているだけだ。
「…………」
その階段を見て、息が荒れる。心臓が忙しなく動き、手足が震えてくる。
第九階層ロイヤルスイートへ行くため、アルベドはその前に広がる広間へ足を一歩踏み出した。
「アルベド」
「――――」
一言。名前を呼ばれて動きが止まる。足は一歩たりともそれだけで進まない。
しかし、視線は階段から逸らさなかった。
「職務をお忘れですか?」
渋い男の声。執事のセバスの声だ。他にも六人分の視線がアルベドに突き刺さっている。しかし――
「…………」
アルベドは再び、覚悟を決めて足を踏み出した。それに殺意さえ滲ませた、驚愕と困惑の感情がアルベドに絡む。
それは信じられない、という心。アルベドが創造主達から与えられた職務を放棄した証拠を目の当たりにした、純然たる驚愕に他ならない。
「…………」
アルベドは歩く。広間を。セバス達は動かない。いや、動けないのだ。至高の御方々から、そのような指令は受けていない。
だから彼らは動かない。動けない。
しかしアルベドは足を進め続けた。
「…………」
階段の目の前に辿り着いた。あと一歩で階段に足をかける事が出来る。
その事に息が乱れた。心臓の鼓動が加速する。手足が震えて立ってられない。もうこれ以上は無理だと思うのに、更に苦しくなる。
ここが最後だ。これ以上は、完全に言い訳のしようが無い。
そしてアルベドは――階段に、足をかけた。
「…………」
一歩。また一歩と歩を進める。セバス達の驚愕の視線が背中に刺さる中、アルベドは無様に、けれど必死になって足を動かして階段を上り続けた。
――はぁ、はぁ。
乱れる呼吸。流れる冷や汗。鳴り続ける心臓。震える手足。滲む視界。
アルベドは底なし沼を歩くように、必死になって歩き続けた。
――――そうして、アルベドはセバス達を置き去りにして、ナザリックの上を目指して歩き始めた。
「…………」
第九階層に辿り着く。ふらふらと幽鬼のような足取りで歩いて進む。出会うメイド達が驚愕の視線でアルベドを見て、後退る。
それを無視してアルベドは歩いた。
部屋のドアは手当たり次第開けた。中を確認する。誰もいない。それを何度も、何度も繰り返す。四十一回と繰り返す。
誰もいない。
「…………」
分かっていた。気づいていた。だって、この階層に創造主達の気配は無い。あの支配者達の、圧倒的なオーラを感じない。
だからここには、誰もいないのだと気づいていたのだ。
「…………」
再び、アルベドは上を目指す。第八階層へと上がっていく。
第八階層、荒野。決められたNPC以外、存在する事を禁じられた場所。
歩く。ひたすらに。荒野を歩いた。
……小さな、ピンクの天使が飛んでいる。アルベドの姿を見て驚愕し、アルベドを止めるようにアルベドの周りを飛び回る。
第八階層守護者、ヴィクティム。小さな天使は言葉で、行動で必死にアルベドを止めようとするが、アルベドは決して歩みを止めない。
ヴィクティムはアルベドが第七階層の階段を上るまで、ずっとアルベドについてきた。
「…………」
第七階層、溶岩。アルベドは歩く。
歩く。歩く。歩いた。
「アルベド」
いつの間にか、誰か立っていた。スーツ姿に眼鏡をかけた、尻尾の生えた悪魔。第七階層守護者、デミウルゴス。アルベドと同程度の頭脳を持つ、同胞。
彼は、アルベドに優しく話しかけてくる。
「玉座の間が貴方の待機場所でしょう。どこに行こうとしているのです?」
「…………」
口調は慈愛に溢れていた。しかし紡がれた言葉ははっきりとアルベドの罪を告げていた。
その事に背筋が震える。視界が滲む。立っていられない。
けれど――アルベドは再び足を動かした。
「アルベド」
歩く。
「やめなさい」
歩く。
「至高の御方々から与えられた役目を忘れたのですか?」
歩く。
「アルベド」
歩く。
「やめなさい」
気づいた。
「やめなさい」
デミウルゴスに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「やめてくれ」
心の中で、必死になって頭を下げた。
「頼む」
デミウルゴスの声には恐怖と懇願が混じっていた。
「やめてくれ、アルベド」
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
必死に謝りながら、懇願を振り払って足を進めた。第六階層の手前、階段まで辿り着く。
背後から、デミウルゴスの涙交じりの忠告が聞こえた。
「――――きっと、いいことなんて何も無い」
「――――ぁ」
心が折れそうになった。その一言が、何よりもアルベドの心を砕く鉄槌だった。
殺していた筈の理性が鎌首をもたげる。玉座の間に帰ろう、と優しく告げてくる。
アルベドは、それを奇跡を信じる不条理な感情で抑え込んだ。
「…………」
デミウルゴスの声は、もう聞こえなかった。
◆
「…………」
第一階層、墳墓。外へ繋がる出口が見えてきた。
――はぁ、はぁ。
アルベドは歩く。外を目指して。
第六階層に上がってから、アルベドを邪魔する者はいなかった。おそらく、デミウルゴスが手を回したのだろう。アウラ、マーレ、コキュートス、シャルティア。誰一人、アルベドは出会わなかった。
――はぁ、はぁ。
視界が滲んで出口がよく見えない。足が震えて、中々前に進めない。
苦しい。苦しい。苦し過ぎる。もう無理だ。理性が頼むから帰ろうと必死になって叫び声を上げている。
それを無視して――アルベドは出口に手をかけた。
外へ出る。
――――視界に、美しい星空に照らされた、蒼暗い草原が広がった。
「――――あ」
ピシリ、とどこかに罅が入った。
それはきっと、魂と呼ばれるモノだろう。アルベドは心のどこかで、そう現実逃避するように考える。
「あ……あぁ……ッ」
耐えられた。耐えられた。耐えられた筈だった。
外に出て視界に広がる光景が沼地だったなら、暗い霧が立ち込め空など見えなかったなら、まだ耐えられた。
だって、その時は今度は地上のあらゆる場所を探せばいい。『りある』という場所を探して旅立てばいい。
……けれど。
視界に広がったのは美しい星空だった。綺麗な草原だった。
どこにも。そう、どこにも沼地も霧もありはしなかった。
「あ、あぁ、あ……あは……あ」
ぺたり、と膝が頽れ、地面に座り込む。視界が滲んだ。前が何も見えなくなる。
知っていた。心のどこかで気づいていた。
何故なら、至高の御方々は皆ナザリックを去ってしまったから。だからいつかきっと、モモンガもいなくなるのだと心の奥底で気づいていた。
でも、同じくらい信じていたのだ。
慈悲深きギルドマスターだけは、きっと自分達を見捨てないでくれるって。
だが、そんなのは自惚れだった。この光景を目に灼きつけるがいい。ここは誰も知らぬ場所。今までナザリックのあった地形とは、全く重ならぬ未知の地形である。
つまり、答えは一つだけ。
――――ナザリック地下大墳墓は、『アインズ・ウール・ゴウン』に捨てられたのだ。
「――――アルベド」
背後から、優しく肩を掴まれた。呆然と振り返る。
そこには、ナザリックの者達にだけは慈愛溢れる、優男の悪魔がいた。
「帰りましょう」
何処にだ。
デミウルゴスの言葉は的外れだ。還る場所なんてどこにある。至高の御方々がいないナザリックのどこに、価値がある。意味がある。意義がある。
至高の御方々がいないナザリックに価値は無く。
至高の御方々がいないナザリックに意味は無く。
そしてNPCは、意義が無い。
そんな事は分かっている筈だ。現に、デミウルゴスの手は震えていた。声だって、か細くはっきりと聞こえない。
彼もまた、アルベドと同じく絶望しきっている。
いや、そもそも――どうして、デミウルゴスはここにいるのか。
知っていた筈だ。分かっていた筈だ。アルベドの向かう先に、希望は無いと。だからこそ、彼はアルベドを止めたのではなかったのか。
それとも、デミウルゴスも信じたかったのだろうか。
モモンガは、ナザリックを捨てたりなどしない――と。
「帰りましょう、アルベド」
どの道、自分達の還る場所なんて、この見捨てられたナザリックにしか無いのだから。
デミウルゴスは、言外にそう告げているような気がした…………。
◆
「――諸君、まずは集まってくれた事、感謝する」
第六階層、ジャングル。その闘技場に、デミウルゴスは各階層守護者達を集めた。
第一から第三階層の守護者、シャルティア。
第五階層の守護者、コキュートス。
第六階層の守護者、アウラとマーレ。
「なんなんでありんす、デミウルゴス。先程も急に自室待機など命じて」
シャルティアは酷く不機嫌そうだった。いや、コキュートスやアウラ、マーレも不機嫌な空気を漂わせている。
当然だろう。本来デミウルゴスに彼らに命令する権利は無い。それは至高の四十一人にだけ許される行為であり、守護者統括のアルベドだけが、形だけで命令権を持っているくらいなのだ。
それをデミウルゴスは、責任は自分が持つ、と言ってごり押しした。当然、他の守護者達は面白くない。しかし一番頭が良いのはデミウルゴスなのだから、逆らうのも気が引けたのだ。
「それで、なんなのデミウルゴス」
アウラの言葉に、デミウルゴスは数瞬口を震わせ――しかし、覚悟を決めて口にした。
「現在、このナザリック地下大墳墓は未曽有の事態に巻き込まれている」
「――――」
全員が、デミウルゴスをじっと見る。デミウルゴスはその中に含まれるありとあらゆる感情を、涼し気に――しかし内心では必死になって無視した。
「――モモンガ様が、このナザリック地下大墳墓へ御帰りになられなくなった」
「――ひっ」
悲鳴のような呻き声を上げたのは、果たして一体誰だったのか。あるいはそれは守護者全員の悲鳴だったのかも知れない。
「落ち着いて欲しい。そもそも、ナザリックの場所自体が移動しているみたいなんだ。私とアルベドが先程地表に出て、周囲を見回したから間違いない」
本来、ナザリックがある場所は沼地であり、周囲に霧が立ち込めている筈だ。しかし、それらは一切なく、美しい星空と草原が広がるばかりだった。
「どうやらナザリックは何らかの理由で地点移動してしまったみたいだ。おそらく、そのせいでモモンガ様と我々が離れ離れになったのだと思う」
「ど、どうすればいいんですか……」
マーレの怯えた声に、デミウルゴスは優しく答えた。
「簡単だよ。こちらから見つけに行けばいい」
「――――」
そのデミウルゴスの言葉に、空気が凍った。
当たり前だろう。デミウルゴスの提案はつまり、外に出ようという意味であり――創造主達から受けていた存在理由を、ある意味で放棄しろと言っているようなものなのだ。
「正気カ、デミウルゴス」
コキュートスの言葉に、デミウルゴスは頷いた。
「勿論だとも。確かに、私の提案はある意味で叛逆かもしれない。しかし、このままでいいのかい?」
このまま、主がいつ帰って来るかも分からぬまま、じっと無様に待つつもりか。
言外にそう訊ねると、全員が息を呑み――そして、首を横に振った。
それは拒絶。このまま、至高の四十一人誰とも逢えず朽ち果てるのは嫌だ、という総意。
「結構。では、これからの私達の方針を言おう。まず、何よりも先に確かめるべきは現在の状況だ。ここはどこなのか知るのが、まず最初だと思う」
それからデミウルゴスは次々にすべき事を各守護者達に伝える。守護者達は聞き漏らすまいと必死に耳を傾けた。
そして説明が終わり――最後に、デミウルゴスは締め括った。
「それでは各員、気を引き締めるように。いついかなる時も、至高の御方々が御帰還なされた時に無様を晒さないよう」
「――――」
デミウルゴスの言葉に、彼らは頷く。そして彼らは各階層へ帰っていった。隠密行動に適したシモベの選抜や、ナザリックを守るための警備の見直しなどをしなくてはならないからだ。
デミウルゴスは彼らが去ったのを確認し、続いて第九階層へと下りていく。
「――セバス」
第九階層で待機していたセバスに、デミウルゴスは話しかける。正直、理由は無いがデミウルゴスはセバスが苦手だ。嫌いだと言ってもいい。しかし、今はそのような事を言っていられる事態ではない。
「アルベドはどうしました?」
「――駄目です。玉座の間に籠って、返事がありません」
デミウルゴスがアルベドを元の玉座の間に帰した際、アルベドはモモンガの旗を手に取ると、それを掲げられていた場所から外し、布団のように自らが中にくるまり、玉座の近くに座り込んで動かなくなった。
そのため、本来はアルベドがすべき事をデミウルゴスがする状態になっている。
「そうですか。仕方ありません」
デミウルゴスはアルベドを放っておく事にした。そしてセバスがじっとこちらを見ている事に気がつく。
「なんですか?」
「……本当に、御方々が見つかると思っておいでですか?」
「――――」
その質問は禁句だった。しかし、セバスは誤魔化せない。
何故なら、彼はモモンガがナザリックに帰らなくなる前に、普段のモモンガならば絶対にしないような事をしているのを目撃してしまったのだ。
だから、彼は――セバスだけはどうしても疑う。他のユリ達はデミウルゴスの言葉に納得してみせたが……セバスだけは、疑い続けた。
「……セバス、ならば君が代案を出すといい。我々は、他に何か出来るのかい?」
「……失礼いたしました」
セバスは一歩引き、デミウルゴスに謝罪する。デミウルゴスはセバスの言いたい事がよく分かっていた。
だが、他にする事なぞ何も無いのだ。モモンガがナザリックを捨てた、という現実を受け入れる事が、デミウルゴス達には絶対に出来ない。
受け入れてしまえばアルベドのようになる。何もする気がなくなって、ただ、ひたすらにそこに
それだけは――デミウルゴスはごめんだった。
「…………そうとも。受け入れるものか」
モモンガがナザリックを捨てたなど間違いだ。
誰か、何らかの攻撃を受けて、このナザリックの座標がずれた。それだけの話だ。
デミウルゴスは考えない。
リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがあればすぐにナザリックに転移出来るのだという事実を。
かつて一五〇〇人ものプレイヤーに襲撃されても撃退出来ていた事実を。
デミウルゴスは、必死に考えないようにしていた。
ナザリックの状況
・精神的主柱が不在
・ワールドアイテムを初めとした自分の所持品以外のアイテム使用不可
・一部NPCの使用不可
・一部システムの使用不可
モモンガがいないだけでここまで酷くなる(白目)!