モモンガ様ひとり旅《完結》   作:日々あとむ
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トブの大森林に棲む生物は出荷よ~。
 


こないで、どうぶつの森

 

 

「それで、ハムスケ。西の蛇とやらはどこにいるんだ?」

 

「こっちでござるよ、殿」

 

 アインズの言葉に、ハムスケ――森の賢王は答えて、先頭に進み案内する。アインズはハムスケのもふもふした尻を見ながら森の中を進み続けた。

 

(うーん。名前を欲しがられたから、ついぱっと浮かんだのをつけちゃったけど、『ハムスケ』は早まったかなぁ……。喜んでくれてたけど、ギルメンの皆は俺にはネーミングセンスが無いって言ってたし……『大福』の方がよかったかな?)

 

 ハムスケの尻を見ながら考え込む。

 

 そうやってうんうん唸っていると、ハムスケがちらりと背後のアインズを振り返り、言いずらそうに口を開いた。

 

「ところで殿、それがしの上に乗ってくれないのでござるか? 正直、乗ってくれた方が早く着くと思うのでござるが」

 

「ふむ――」

 

 確かに、ハムスケの足に合わせようと思うと森の中を〈飛行(フライ)〉で移動するに等しくなる。当然、森の中でそんな事は出来ないのだから、ハムスケの言うように騎乗した方がいいだろう。

 だが――――

 

「…………」

 

 アインズはハムスケをじっと見つめる。遠近感の狂った、巨大な愛玩動物(ハムスター)。黒々とした円らな瞳。ファンシーでメルヘンな生き物。

 

(これに、乗る? 魔法使い間近(DT)の俺が?)

 

 何の罰ゲームだ。

 それはさながら、彼女も家族も連れずいい年のおっさんがメリーゴーランドに乗る光景に近い。そんなもの、誰にも見せられる筈が無い。

 断言しよう。モモンガはそんな光景を見たらたまらず噴き出し、腹を抱えて呼吸困難になるまで笑うだろう。

 

「…………」

 

 ハムスケは、きらきらとした瞳でアインズを見つめていた。

 

「…………」

 

 そして――――

 

「よぉーし! 飛ばすでござるよ、殿!」

 

「あぁ…………」

 

 誰も見ていない、という言い訳を胸に、アインズは苦渋の思いでハムスケに騎乗した。馬とは体形が違うため、尻を後ろに突き出した、跳び箱を跳ぶような姿勢。

 

(羞恥プレイだ……)

 

 努めて周囲からはどんな風に見えるのか思考から排除しながら、アインズはハムスケに身を任せて気配を探った。

 段々と日が暮れ、森の中のため星明りさえ届かなくなるだろうが……しかしアインズには無意味だ。アインズの持つ、常時発動型特殊技術(パッシブスキル)の一つである闇視(ダークヴィジョン)は暗闇の中でも太陽の下にいるように周囲を見通す。そのため、アインズのようなアンデッド系の種族は暗闇が不利にならない。

 ハムスケがアインズを上に乗せて走り続けている。しかし、森に棲息しているモンスターに遭遇する事はない。ハムスケが森の南部分を制圧している、というのは本当のようだ。

 

「――そろそろ、西の蛇の縄張りでござるよ」

 

 しばらく進むと、ハムスケがぽつりと呟いた。アインズはハムスケの言葉に頷き、注意深く気配を探る。そして――――

 

「止まれ、ハムスケ」

 

「は、はいでござる!」

 

 アインズはハムスケを止めた。ハムスケはアインズの命令通り、その場でブレーキをかけ、身を止める。アインズはピタリとある一点を見据えて口を開いた。

 

「不可視化で消えているつもりか? 俺の前では無意味だぞ。無駄なことは止めるんだな」

 

 真っ直ぐ、そこにいるモンスターの目を見つめてそう言うと、そのモンスターは不可視化を解除し、何もいない筈の場所からモンスターが姿を現した。

 

 それは蛇の胴体を持っていた。上半身には人間の老人のような枯れ細った体が生えており、頭から生えている髪がぞわりと蠢く。

 

「なるほど、ナーガか。――ということは、お前が西の蛇だな」

 

「わしの透明化を見破るとは……魔獣、わしの縄張りに何を連れてきた?」

 

 ナーガはじろりとハムスケを見つめるが、ハムスケは素知らぬ顔だ。

 

「それがしの主君でござる。それがしは、これより殿と共に生き、殿と共に道を歩み、殿へ忠誠を捧げるのでござる」

 

 そこまで言って、ハムスケは不思議そうな顔でナーガを見た。

 

「それより、そなたどうしてここにいるのでござるか?」

 

 そう、ここはまだナーガの縄張りに入ったばかり。縄張りのボスというものは、普段は一番安全な場所にいるものだろう。見回りに来ていた、とも考えづらい。見回りにくる場合、それは自らの威容を見せつける意味合いを持たなければいけないのだ。不可視化で姿を隠していたら、意味が無いだろう。

 

 ナーガはハムスケの言葉に苦々しい表情を浮かべたようだった。続いて、低く唸るように言葉を放つ。

 

「森を出ていくおぬしには関係あるまいよ、魔獣」

 

「…………ふむ」

 

 アインズは考える。このナーガは、何故不可視化をしたまま移動していたのか。

 先程も考えた通り、縄張りの見回りはありえない。姿を隠したままでは、頭の悪いモンスターが「臆病者」と調子に乗って縄張りで暴れ回る危険性があるからだ。

 ――となれば。

 

「もしやハムスケ――森の賢王に用があったということか」

 

 そう告げれば、ナーガがアインズに目を向け、複雑そうな表情を作る。

 

「その通りじゃよ、見知らぬ魔法詠唱者(マジック・キャスター)。わしの透明化を見破る辺り、おぬしもただの魔法詠唱者(マジック・キャスター)ではあるまい」

 

 ナーガの探るような視線。アインズはハムスケの上で腕を組み、口を開いた。

 

「俺の名はアインズ・ウール・ゴウンという。それで……ナーガよ、お前は何故ハムスケ……魔獣に会いにきたんだ?」

 

「…………くく、用があったのは確かじゃが――必要無かろうよ。人間如きに組み敷かれるようではなぁ!」

 

 ナーガはその顔を醜悪に歪める。アインズはそれに顔を顰めた。

 

「おいおい。一応、二対一だろう? 数の差くらい考えたらどうだ?」

 

「い、いかんでござる!」

 

 そして瞬間、ナーガの胴体が伸縮し、老人の体の上半身がこちらへ飛びかかってきた。ハムスケが即座に回避行動を取る。しかし――

 

「馬鹿かよ、魔獣! 上に大きな荷物を乗っけたままで、おぬしの機動力が活かせるかァッ!!」

 

 上半身を見事に避け、着地した瞬間に蛇の下半身が器用に動き、ハムスケの足を捉えた。そのままとぐろを巻くように、一瞬でアインズごとハムスケの身体を包み込むように締め上げる。

 

「このまま締め上げてくれる!!」

 

 ミシリ、ミシリ……と不吉な音がし始める。ハムスケは振り払おうともがこうとするが、しかしアインズが上に騎乗しているためだろう。ナーガの締め上げを外せない。

 

「ぐぐ……」

 

「無駄よ、魔獣。もはや外せん。――さて、わしに協力してもらうぞ」

 

「協力?」

 

 いやに静かな声がナーガの下半身に覆われている場所から響いた事に、ナーガは不思議そうな気配を発したが気にせずにアインズの質問に答える。

 

「そうよ。北に現れた亡霊を仕留めるのを手伝ってもらおうと思ってな」

 

「グの奴は――東にいるトロールのことじゃが――わしの忠告を聞かずに、仲間と共に北の亡霊に挑みにいきおった。しかし、一向に帰ってこん。これはもう、死んだとみていいじゃろ」

 

 ミシリ……ミシリ……不吉な音がずっと聞こえる。

 

「グを殺すような奴じゃ。わしや部下だけでは負けるかもしれん。しかし魔獣、おぬしも協力してくれれば、十分勝機はあるはずだろうて」

 

 ミシリ……ミシリ……。

 

「さて、魔獣よ。おぬしはともかく、この魔法詠唱者(マジック・キャスター)はそろそろ限界のはず……森を無事に抜けたくばわしの傘下に――――?」

 

 ミシリ……ミシリ……不吉な音がずっと聞こえる。

 

 何故だ?

 

「と、殿……もしや魔法を使ったのでござるか? 先程から全く痛くないのでござるが……」

 

 ハムスケが不思議そうな声色で訊ねた。それに、アインズは普段と変わらぬ声で答える。

 

「いや? 単純に、この鬱陶しい蛇の胴体を掴んでやっているだけだ」

 

 ミチ。

 

「――――ギ」

 

 アインズは、掴んでいたモノを離さず、両手に力を籠め始めた。

 

「ギャアアアアアアアア――!!」

 

 骨と皮をミチミチと言わされたナーガが、絶叫を上げる。皮膚と肉が裂け初め、筋肉がブチブチとアインズの握力で切断されて血が噴き出し始めた。

 

「ギ――ギィッ!!」

 

 ナーガはたまらず締め上げを解く。グルグルとそこから現れるアインズは全くの無傷であり、ハムスケの体毛が多少乱れた程度の変化しかない。

 

「は、離せぃッ!」

 

 喉が裂けるほどの叫び声を上げるが、アインズはナーガの蛇の下半身を離さなかった。仮面越しにナーガを見下ろす。ナーガは必死に距離を取ろうとしているが、アインズが蛇の胴体を離す気がないと分かったのか、魔法で反撃を開始した。

 

「〈魔法の矢(マジック・アロー)〉!」

 

「お?」

 

 三つの光球が現れ、アインズを撃ち抜こうと矢のように鋭く形を変えて光球が迫る。が――

 

「は?」

 

 それはアインズに届く前に、まるで元々この世に存在していなかったかのように消失した。

 そんな理不尽をなしたアインズは、しかしどうでもいいのか気にも留めない。

 

「これが実力差だ。魔法と言うのは実力差が開けば開くほど、無効化されやすい。お前程度では何をしようと俺に攻撃は届かん」

 

「ばッ――!」

 

 化け物――と叫ぼうとした口が開いたまま閉じなくなる。漏れる筈の罵倒は空気に溶けて消えていった。

 アインズが、ナーガの下半身を離して指先を向けている。まるで、死を告げにきた死神のように。

 

「〈魔法の矢(マジック・アロー)〉」

 

「ぁ……」

 

 アインズの背後に、一〇もの光球が現れる。ナーガは唖然と――そして絶望した表情でそれを見た。

 

 第一位階魔法の一つ、〈魔法の矢(マジック・アロー)〉は使い手の技量によって光球の数が変わる。

 一つならば一般的な魔法詠唱者(マジック・キャスター)だろう。二つならば優れた魔法詠唱者(マジック・キャスター)に違いない。三つ出せば、その魔法詠唱者(マジック・キャスター)は間違いなく一流だ。

 

 つまり魔法詠唱者(マジック・キャスター)としての力を簡単に調べるには、この〈魔法の矢(マジック・アロー)〉の光球の数を見ればいい。

 

 そしてアインズの出した数は――――間違いなく、前代未聞だった。

 

「――――」

 

 光がナーガに向かって殺到する。ナーガは自らの体に吸い込まれるように向かってくる光球を絶望の表情で眺めて――

 

「――――、?」

 

 その全てが、ナーガの体を真横を通り過ぎて背後にあった木に着弾した。途端、木が文字通り木端微塵と化していく。

 そして視界からアインズを外した一瞬の隙に、アインズはハムスケの背中から飛び降り、ナーガの目の前に降り立った。

 

「はっ!?」

 

 出来た影に急いでナーガが振り返るが、その前にアインズはガントレット越しにナーガの喉を掴む。ギチギチと喉を押さえながら、ナーガの巨体を持ち上げた。

 

「ぐ、げぇ――」

 

 ひしゃげた蛙のような呻き声を上げるが、アインズは気にせず口を開いた。

 

「おい」

 

「ぐ、がが」

 

 喉を絞められ、呼吸困難に陥りながらもナーガは蛇の下半身をアインズに巻きつけ、抵抗する。その無駄な抵抗に溜息をつきたい気分になり、更に強く喉を絞めた。

 皮膚が裂け、肉に指が食い込んでいく。ナーガの瞳を恐怖の感情が染め上げた。

 

「いい加減に無駄な抵抗はやめろ。こっちも、お前に用があって来たんだ。あまり時間をかけたくない」

 

 ハムスケと同じように、低レベルの絶望のオーラを向けて告げる。ナーガは恐怖に染まった涙目の瞳をアインズに向けながら、必死になって肯定の意を示していた。

 アインズはそれを確認し、ナーガの喉から手を離す。

 

「ぐ、げぇぇぇえ! ごぼ!」

 

 必死になって足元に蹲り酸素を取り込むナーガを見下ろしながら、アインズは乱れて皺がついたローブを引っ張って整える。

 

「まったく、皺を作るのは止めて欲しいものだ。さて……では交渉に入ろうか」

 

「は、はひ……」

 

 震えた声で返事をしたナーガに満足し、口を開く。

 

「では改めて――まずは自己紹介をしよう。俺の名前はアインズ・ウール・ゴウンという。これは俺が支配下に加えたペットのハムスケだ」

 

「わ、わしの名はリュラリュース・スぺニア・アイ・インダルンと申します……。こ、この森には何の御用件で来られたのでしょうか……貴方様の御要望に、わしは全力で応えることを御約束致します」

 

「よしよし。物分かりがいい奴は嫌いじゃないぞ、リュラリュース」

 

 そしてアインズはナーガ……リュラリュースにこの森を訪れた目的を語った。ハムスケが支配していた縄張りの森の外に村がある事。ハムスケはアインズが連れていくため、そこが手薄になってしまい、今までモンスターの脅威とは無縁でいられた村が危ない事。そのため、唯一生き残っているリュラリュースに森を完全に支配してもらい、カルネ村に被害を出さないようにしてもらいたい事など。

 

 全てを聞き終えたリュラリュースは、恐る恐るといった様子でアインズに訊ねた。

 

「お、恐れながらアインズ様……そのためには、北の亡霊を倒さねば難しいかと……」

 

「勿論だとも。そちらも俺が対処しよう。そして当然、俺の頼みを聞いてもらった報酬はあるぞ。――――お前がこれからも息をし、生を謳歌する事を俺は許そう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 ガクガクと体を恐怖で竦ませながら頷き、頭を地面に擦りつけているリュラリュースにアインズは満足そうに頷いた。

 

「お、恐ろしい。貴方様は本当はわしのことをどうとも考えておられない。道端に転がる石が何かの形に似ている、その程度の感情しか貴方様はわしに抱いておられぬ」

 

「そんなことはないとも。もう少し興味を抱いているぞ――例えば、道の隅を歩いている蟻程度にはな」

 

 必死になって頭に地面を擦りつけるリュラリュースに、今度はアインズが訊ねた。

 

「さて、今度はこちらが訊こう。お前はハムスケに交渉する予定だったと言っていたが、部下はいないのか? ハムスケと同じように単独で支配していたと?」

 

「いえ、部下がおります。ですが今回は交渉のため、連れてきておりませんでした。部下達は不可視化などの逃げる手段を持っておりませんので」

 

「なるほど」

 

 そしてアインズは、北の亡霊の事を訊ねる。リュラリュースは丁寧に、東を統べていたグなるトロールなどの事や(既にアインズの手で死んでいるが)、北の亡霊と思わしき被害について話をする。

 

(まあ、北の亡霊の正体は俺なんだけどさ)

 

 道の途中で適当に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)でも作ってそれを北の亡霊役にでもすればいいだろう。アインズはそう思っていたのだが――

 

「――ちょっと待て。まだ被害が出ているだと?」

 

「は?」

 

「――い、いや何でもない。続けろ」

 

「は、はい」

 

 リュラリュースは語る。それを聞きながら、アインズは思考した。

 

(どういうことだ? 北の亡霊――間違いなく俺のことだと思ったんだが。実際、そのグとやらを殺したのは俺だ。だが……俺はしばらく、森に入っていない。今日を除いて、最後に森に入ったのはニグン達の始末の時だ。当然、その際にモンスターを殺した覚えもない。今も被害が出ている、というのは明らかにおかしい)

 

 結論。北にはアインズ以外の何かがいる。それも、アインズと同じ時期に発生したと思われる。

 

「――というわけでして」

 

「ふむ」

 

 ちょうど、リュラリュースの説明も終わったところだ。アインズは〈千里眼(クレアボヤンス)〉を発動し、続いて〈転移門(ゲート)〉を使う。移動地点は自分が最初にこの世界に現れた場所にして、ニグン達を隠していた開けた場所だ。マーカーを置いているので、この手順でいつでも転移出来る。

 

「殿? それはなんでござるか?」

 

 目の前に突如現れた黒い空間に、ハムスケが疑問を持つ。それに振り返らずに答える。

 

「空間転移用の魔法の門だ。移動するぞ、お前達も来い」

 

「はいでござる!」

 

「わ、分かりました!」

 

 アインズは門の中に入り、移動した。続いてハムスケとリュラリュースがやって来る。

 

「お、おぉ~……」

 

 二匹がやって来たのを確認してから〈転移門(ゲート)〉を消す。ハムスケは穴を通った後に現れた、先程までいたのと違う光景に間抜けな声を上げていた。

 対して、リュラリュースは恐怖に凍り付いている。ナーガは魔法を使う。ニグンから聞くにこの世界での一般的な魔法のレベルは精々第三位階までだという事なので、リュラリュースは魔法を扱うものとしてアインズの使っている魔法が自分達とは次元が違う、という事を肌で感じているのだろう。

 ハムスケも魔法を使うらしいが、魔法を使うためには体に紋様がありそれが光る、という工程を考えると頭で理解して魔法を使っているわけではないのだろう。両者の反応の違いはその頭の使い道の差だ。

 

「さて、ではここから変わったモンスターがいないか探してみるか」

 

 アンデッドならばアインズの常時発動型特殊技術(パッシブスキル)ですぐに分かるのだが、今のところアンデッドの反応はない。という事は、アンデッド系ではないモンスターがいる筈だ。あるいは――

 

(もしかしたら、俺と同じプレイヤーかもな)

 

 ありえない話ではない。アインズと同じ時間にこの世界に来たが、偶然遭遇しなかったという事態は十分考えられる。

 その場合は――交渉でどうにかなる事を祈るしかない。自分より弱いプレイヤーならばいいが、アインズ――モモンガのユグドラシルでの強さは上位陣に劣る。ガチビルドの連中には勝てないだろう。

 

 アインズは細心の注意を払いながら、何者かの気配がないか探る。少しして――

 

「――?」

 

「どうした、ハムスケ」

 

 鼻と耳をひくひくとハムスケが動かした。その様子を見たアインズが訊ねる。

 

「物音が聞こえたでござるよ、殿。こっちでござる」

 

 ハムスケが顔を向けた方へアインズも顔を向ける。リュラリュースもまた、警戒したようにそちらへ顔を向け、すぐに動けるように態勢を整えたようだった。

 

「…………やっぱり」

 

 少しして、女の声が聞こえた。その声で、ふと気づく。声の発信源は木からだ。森の木の一本が喋り、こちらに近づいてきていた事に気づいた。

 

「君、先日のアンデッドだろう!」

 

 その木――ドライアードはアインズに向けて、責め立てるように叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「と、殿! アンデッドだったのでござるか!?」

 

 ドライアードの言葉に驚愕してハムスケがアインズを振り返って訊ねる。隠しても意味は無い、と思いアインズは仮面を外した。――そこから、赤い燈火を二つ光らせた髑髏が現れる。

 

「に、人間ではなかったのですか……どうりで」

 

 化け物のように強いはずだ、とリュラリュースが呻いた。化け物のような強さの人間は、化け物だったという単純な話である。

 

 仮面を外したアインズは、怯えた様子のあるドライアードに質問した。

 

「確かに俺はアンデッドだが――そう怯えられても困るんだがな。ドライアード、別にお前に害を為す気はないぞ?」

 

 そう言うと、ドライアードはそれでもびくびくと怯えた様子で、アインズを見ながら口を開く。

 

「で、でも君。人間拷問してたじゃないか……しかも、なんかいつも唐突に現れるし……」

 

「当たり前だ。人間の前で人間を拷問して実験なんぞ出来るか。――それに、いつも唐突に現れるのは魔法の一つだ」

 

 アインズは言い返し、続いて不思議に思ってドライアードを見た。

 

「それで――何か用があったのか? まあ、お前がここに棲息しているドライアードなら、俺も少しばかり用があるんだが」

 

「うえ? え、えっと……その、実は君を待ってたんだ」

 

「はあ?」

 

 思わず素っ頓狂な声が漏れた。ドライアードはバツが悪そうな声色で呟く。

 

「だ、だって最近ここに来るのは君だけだったし……人間と話してたから、言葉は通じるだろうから、もしかしたら頼みを聞いてもらえないかなって……」

 

「ふむ……いいぞ、聞くだけなら聞いてやろう。その後、俺の質問にも答えてもらう」

 

「あ、うん」

 

 そのドライアード――ピニスンの頼み事とは人探しだった。曰く、昔ここに来た七人組をもう一度ここに呼んでほしいらしい。

 

「何故、そいつらが必要なんだ?」

 

「えぇっと、実はこの森は今、とんでもない事になっているんだ」

 

 このピニスンが生まれる前の、もっとずっと大昔。空を突然に切り裂いて、幾人もの化け物が現れたのだとか。

 その化け物の一人一人がとても強力で、この世界に棲む竜の王達とも互角に渡り合ったという。

 しかし彼らは傷つき、ある者は深い眠りに、ある者は封印されてしまった。

 だがその内の一体がこのトブの大森林に眠っており、いずれ世界を滅ぼす、と言われている。

 その化け物は時折分裂体とも言える枝分かれしたものを出し、暴れているのだとか。

 

 封印の魔樹、ザイトルクワエ。世界を滅ぼす魔樹、と言われる歪んだトレント。

 

「――で、その七人組は分裂体と戦って、いずれ本体が目覚めた時は自分達が退治するから、呼んで欲しいと言っていたんだな」

 

「うん、そうだよ」

 

 ピニスンの話を要約し、頭の中で結論を下す。

 

「つまり俺に七人組を探して連れてきて欲しい――ということは、目覚めそうなのか」

 

「――――うん」

 

 暗い声で頷くピニスンに、アインズは溜息をついた。

 

「どうもここに来てから厄介事ばかりに巻き込まれるな……。ハムスケ、リュラリュース。お前達はこの話を知らないのか?」

 

「申し訳ないでござる、殿。それがしはちょっと知らぬでござるなぁ」

 

「わしは少しだけ……確か、その魔樹のせいで昔、この森を支配していたダークエルフ達が森から逃げ出す羽目になったとか」

 

「ほう……なあ、ハムスケ。森の賢王ってリュラリュースのことじゃないのか?」

 

「と、殿……そんな冷たい目でそれがしを見ないでほしいでござる。ちゃんと、ちゃんと役に立ってみせるでござるよ!!」

 

 なんだか掲げる看板に偽りがあった気がして、じっとハムスケとリュラリュースを見比べる。その冷たい眼差しに、ハムスケが涙目で必死になって言い訳をした。

 

「――まあ、いい。それで、ピニスン――っといったか。その魔樹とやらはどこにいるんだ。一応、見るだけ見ておいてやる」

 

「え?」

 

 アインズの言葉に、ピニスンは不思議そうな声でアインズを見つめた。

 

「どうも話を聞くに、俺の用件とお前の頼みは合致しそうだ。その最後の確認だよ。場合によってはその魔樹、俺が片付けてやらんでもない」

 

「はあ?」

 

 完全に頭の可哀想なものを見る目で見つめるピニスンを、しかしアインズは気にせず歩き出した。

 

「行くぞ。面倒なことはさっさと済ませるにかぎるからな」

 

「ま、待ってほしいでござるよ、殿!」

 

「待って下さい、アインズ様!」

 

「ち、ちょっと待って! 置いてかないで!」

 

 ハムスケ、リュラリュース、そして遅れてピニスンがアインズに続く。アインズはピニスンに前を歩かせ、おそらくアインズが思っているだろう場所へと辿り着く道案内を、ピニスンに任せた。

 

 

 

 

 

 

 そして日が暮れて夜になり星が輝く頃に、ピニスンの案内でアインズはそこに到着した。

 

「これは……」

 

「木が枯れている、でござるな」

 

「魔樹が目覚める前兆、というのは間違いなさそうですな」

 

 辿り着いた場所は、ほとんど木々が枯れ果てていた。そしてアインズはこの光景を見た事がある。

 この世界にやって来た最初、適当に歩いた時に辿り着いた場所だ。こんな風に枯れているから、これ以上先に進む意味は無いと思い、さっきの広場へ戻って今度は別方向に進んだのだ。

 

「この枯れた場所の中央に魔樹はいるんだ。最近、魔樹が食べる森の木々達の量が加速していて、こっちにいったモンスターもいたけど、誰も帰ってきてないよ。帰ってきたのは君くらいだね」

 

 ピニスンはアインズを見ながら暗い顔で語った。「なるほど」と軽い調子でアインズは頷くが、確信する。

 

(は、ははは……やっぱり犯人俺だな。ここに来た時はまだ、絶望のオーラを垂れ流してた時だったんだよなぁ……。その刺激のせいでヘイト稼いじゃったかぁ)

 

 そして刺激された魔樹はおそらく、本来より早い段階で覚醒したのだろう。

 

「何もいないようにしか見えないでござるが……」

 

「わしにも見えぬよ、魔獣。アインズ様はどうなのですか?」

 

「俺は――――」

 

 瞬間、爆音のような衝撃音が鳴り響く。土を引っくり返し、そこから巨大なものが生え出てくる。

 

「おいおい」

 

「な、な、な」

 

「は、はあ?」

 

「ひぇっ……」

 

 その衝撃音に全員が視線を集中させ、音源を見た。目を見開く。

 

 ――オオォォォオオオオオ……

 

「はは! ガルガンチュアよりデカいじゃないか!」

 

 アインズはあまりの大きさに笑いがこぼれる。ガルガンチュアはナザリック地下大墳墓の第四階層に、守護者の役割を与えて置いてあるゴーレムのことだ。その大きさは三〇メートル以上の戦略級攻城ゴーレムなのだが――明らかに、魔樹はガルガンチュアの大きさを超えていた。

 

 見るかぎり、その大きさは約一〇〇メートル。触手のようにうねり生えた六つもの枝は、三〇〇メートルを超えている。

 話を聞いたかぎりでは『ユグドラシル』におけるイビルツリーを想像していたのだが、アインズの知識では知らない外見を持ったモンスターであった。

 

「あわわわ……よ、甦っちゃったよ……世界を滅ぼす魔樹が…………」

 

「で、でかいでござるな……」

 

「これは……ダークエルフ達が逃げ出すのも納得出来るというもの……」

 

 アインズ以外はあまりの威容に呆然とし、体を震わせている。

 

「ど、どうしよう……」

 

 その絶望的な嘆きの声を聞きながら、アインズは落ち着いた声で魔樹を見据える。

 

「ザイトルクワエ、か……。油断は出来ないな。〈生命の精髄(ライフ・エッセンス)〉」

 

 とりあえず、相手のHPを調べることから初めてみた。そして驚く。

 

「測定不能? あの巨体といい、まるでレイドボスだな」

 

 レイドボスとは多人数で挑むタイプのボスの事だ。一人や数人組で挑む、というのではなく、複数パーティーで挑むタイプという意味である。こういうのは規模の大きい多人数で挑む事もあって、HPが異様に多く設定されている事がある。

 

 アインズはハムスケ達より一歩前に出ると、振り返って自分を対象に含んだ魔法を幾つか唱えた。〈集団標的(マス・ターゲティング)〉で複数を対象にし、続いて幾つもの障壁や物理抵抗・魔法抵抗・幸運値などを上げていく。

 

「さて、ではやるか――〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

「え? ち、ちょっと……!」

 

 ピニスンの言葉を無視し、魔樹の近くに転移する。急に姿が消えたアインズに驚いたのか、最後に聞いた言葉は途切れていた。

 魔樹の近くに移動したあと、空中で〈飛行(フライ)〉を唱え、浮かぶ。

 

「まずはその邪魔な触手から斬り飛ばすか。〈時間停止(タイム・ストップ)〉」

 

 瞬間、時間が停止する。停止した時間の中で、アインズは鼻白む。

 

「時間停止対策は無し、と――これなら早く済みそうだな」

 

 〈魔法三重化(トリプレットマジック)上位魔法蓄積(グレーター・マジックアキュリレイション)

 

 三つの魔法陣がアインズの前に浮かび上がり、続いてアインズはその魔法陣の一つに魔法を込める。

 

 〈魔法最強化(マキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)

 

 続いて更に、別の魔法陣に魔法を込める。

 

 〈魔法最強化(マキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)

 

 最後の魔法陣に、最後の魔法を込める。

 

 〈魔法最強化(マキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)

 

 計三つ。全てに魔法を込めて――タイミングを計る。

 

「そろそろか。――〈解――〉、なに?」

 

 うぞり、と魔樹が蠢いた。時間が止まっている筈の世界を。

 

「ちっ――! 〈解放(リリース)〉!」

 

 アインズが魔法陣に込められた魔法を解放する。が、それより早く、時間停止の縛鎖を引き千切った魔樹が動き、触手が跳ね回る。

 魔法陣から解放された空間ごと切断する魔法の刃が触手へと迫り、二本(・・)の枝の触手が吹き飛んだ。

 

「時間停止に耐性でもあったのか? やれやれ……一発外したか」

 

 〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉は第十位階魔法で最も強力な破壊力を持つ魔法だが、魔力の消費値も当然高い。外したくない魔法ではあったが、相手に時間停止に多少耐性がついていた事を知る事が出来たので、よしとしよう。

 

 ――オォオオオォォオオオ……

 

「おっと。〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

 襲いかかる触手に気づき、空間転移で避ける。先程までアインズがいた場所を触手が二本通り過ぎた。

 

「さて、残っている触手は四本。仕方ない、もう一度〈時間停止(タイム・ストップ)〉をかけて、残りを斬り飛ばすか」

 

 アインズは再び〈時間停止(タイム・ストップ)〉を唱え、止まった時の中で再び三つの魔法陣を浮かび上がらせる。そしてその中の一つ一つに、〈魔法最強化(マキシマイズマジック)〉で強化した〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉を込めていった。

 

「最後に――〈魔法最強化(マキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)〉。――――〈解放(リリース)〉」

 

 時間の停止が解ける寸前に自分でも詠唱し、四つの空間断絶攻撃が放たれた。そして今度こそ、魔樹の触手を全て斬り飛ばす。

 

「これですっきりしたことだし、体力を削っていくかな」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ……夢でも見てるのかなぁ?」

 

「…………」

 

 ピニスンの言葉に、しかしハムスケもリュラリュースも言葉を返さなかった。いや、返せなかったと言っていい。

 

「き、気がついたら殿の姿が消えて、いつの間にか魔樹の方に行っているでござる。それに飛んでるでござるよ!」

 

「っていうか! おかしいでしょ!! なんで気がついたら次の瞬間触手が二本ぶった切れて! んで次は同時に四本ぶった切れてんの!?」

 

 ピニスンはハムスケのヒゲをガシッっと鷲掴みにし、引っ張って叫ぶ。キンキンと響く叫び声にハムスケは、何の反応も返せない。ハムスケ自身、わけが分からないからだ。

 

「お、おそらく魔法を使っているのだとは思うが――じ、常識外れにも程がある……。明らかに、第三位階だとか第四位階だとか超越しておるぞ…………」

 

 呻くように呟いたリュラリュースの言葉に、ピニスンもハムスケも乾いた笑いしか出なかった。

 

「あ、殿が何か使ったでござるよ。あの大爆発はなんでござろうか……」

 

「おぉ! 魔樹が口に木をたくさん銜えはじめたでござる! 何をする気なのでござろうなぁ……」

 

「木を口から撃ち出したでござるよ! 殿の前に障壁が出て全て弾いてしまったでござるな……」

 

「あ、ありえない……ありえないぃぃぃ…………」

 

 ハムスケの驚愕の声と、そしてピニスンの悶える声が聞こえる。リュラリュースは不思議に思い、ピニスンを見た。

 

「昔ここに来た七人組とやらは、どうなんじゃ? アインズ様のようなことは出来なかったのか?」

 

 リュラリュースの言葉に、ギッと奇怪な動きでピニスンはそちらに目を向ける。

 

「出来るわけないだろ!! 常識でモノを考えてよ!」

 

「じゃろうなぁ……わしも出来るわけがない、と思うよ。しかし分裂体を片付けたのじゃろう?」

 

「分裂体はあそこまで強くなかったよ!! それに、彼らだってあそこまで強くなかったし……もっと常識的な戦い方だったね! 断じて! 断じて! あんな! 後衛のはずの魔法詠唱者(マジック・キャスター)が! 一人で! ボコボコにするとか! そんな戦い方でも強さでもなぁいッ!!」

 

 絶叫するピニスン。気持ちはよく分かった。ハムスケもリュラリュースも、自分の中の常識というものがアインズの戦いを見物する毎秒毎に崩壊していくのがよく分かる。

 ただ、これだけは三体全員の共通の思いだろう。

 

 ――下手な口答えしなくてよかった……。

 

 なんだか抵抗したり、大人しく従わなかったりしたらどんな事になったのか想像したくもない。

 

「お? 殿が何やらやっているでござる。何をしているのでござろうか?」

 

「あれは……何の魔法じゃろうな? 魔樹の周囲が爆発で光り輝いておる……」

 

「あはは、あははは……きれーだねー……」

 

 何の魔法を使ったのか、魔樹の周りが突如として輝き出し、夜の闇を照らした。輝く爆発がまるで星の輝きのようであり、夜という事もあってそこにはどこか神聖な輝きさえ見出せる。

 何だか既に麻痺し始めてきていた三体は、その神聖な、けれど何故か――どこか物悲しさを感じる、輝きに彩られた魔樹を呆然と見つめ続けた。

 

 遠く離れてはいたが、アインズもまたその魔樹を見つめている。

 

 その背中を視界に捉えながら、三体は魔樹の周囲の輝きが消え去るまで、じっと見つめ続けた。

 

 もしここに客観的視線を持つ第三者がいたのならば、その三体――いや、アインズを含めた彼らの視線に、同じものを感じてこう称しただろう。

 

 …………目が死んでいる、と。

 

 何故アインズの目まで死んでいるのか、それはきっと、アインズと同じくプレイヤーにしか分からないだろう。そしてそのプレイヤー達はアインズと同じように死んだ目をしながら、ぽつりと呟くのだ。

 

「メリー、苦しみます(クリスマス)ツリー」

 

 

 

 

 

 

「――さて、これで全ての問題が解決したわけだな」

 

「あ、はい。そうなりますね」

 

 世界を滅ぼせる魔樹を滅ぼして戻ってきたアインズに、ピニスンが丁寧な言葉で返す。それに首を傾げながら、アインズはリュラリュースに告げた。

 

「――と、いうわけでだ、リュラリュース。この森は今日これよりお前のものだ。が――――」

 

「はい。分かっております、アインズ様。決して、決して! 南の方の外にあるカルネ村を、配下が襲わないよう徹底的に教育しておきます」

 

「よろしい。期待しているぞ」

 

 襲った時にどうなるか――リュラリュースは想像したのかガクガク震えながら答えた。そのハキハキとした言葉に満足して頷き、アインズはもう森に用は無いとばかりに〈転移門(ゲート)〉を使う。

 

「と、殿! このハムスケ、殿に更なる忠義を尽くすでござるよ!!」

 

「わかったわかった」

 

 そうハムスケをあしらいながら、ハムスケと共に森を去ろうとする。そんなアインズの背中に、ピニスンが声をかけた。

 

「えっと、あの……! 正直、すっごく怖かったけど……でも、森を助けてくれてありがとう!!」

 

「…………ああ」

 

 ピニスンの精一杯の感謝の言葉を聞きながら、アインズとハムスケと共に空間転移で森の南方に移動する。移動した一人と一匹は、来た時と同じように、歩いて森を抜ける。カルネ村に着く頃には、おそらく夜が明けているだろう。

 

 アインズは歩きながら再び仮面を被り直し、それを見たハムスケが口を開いた。

 

「殿、アンデッドだったのでござるな」

 

「ああ。分かっていると思うが――」

 

「勿論分かっているでござる。決して、誰にも言わないでござるよ!」

 

「よし」

 

 そしてしばらくハムスケの質問に答えを返しながら、ハムスケと森の景色を見ながら歩いて森を出て行く。段々と太陽が昇り始め、暗い森に日が差し込みはじめ、緑が視界を染め始めた。

 

 森を出ると、『漆黒の剣』とゴブリン達がアインズ達を待っていた。

 

「アインズさん! 無事だったんですね!」

 

 ニニャが顔を輝かせ、アインズを見つめた。それにペテル、ルクルット、ダインが続く。

 

「どうでした? 西の蛇には会えたんですか?」

 

「北の正体不明の奴も知りたいね」

 

「アインズ氏の話を詳しくききたいのである」

 

 ゴブリン達も、心配そうな顔でアインズを見ていた。アインズの結果如何によっては、この村を捨てなければならないかもしれないのだから、当然だろう。

 それにアインズは安心させるように告げる。

 

「大丈夫です。北の魔物は退治しましたし、東の巨人はやはり、もう死んでいたみたいですね。西の蛇はかなり賢く、話の通じるモンスターだったので交渉出来ました。彼らは、森が全て自分の支配下に入るなら、わざわざ人間の村で狩りを行う理由がない、との事なので、この村に手出しするつもりは元から無かったようですね」

 

「よ、よかったぁ……。じゃあ、私はさっそくンフィーレアさんにこの事を伝えに行きますね!」

 

 ニニャはアインズの言葉に喜び、ンフィーレアや村長にこの事を伝えるために走り去る。ペテル達やゴブリン達もアインズの話に安心して、各自それぞれ元の警備位置に戻っていった。

 

「しっかし早かったなアンタ」

 

「ハムスケに騎乗して行きましたから」

 

「ああ、確かにハムスケさん足が速そうですもんね」

 

「あの森を一日で駆けるとは凄まじいのである」

 

 魔法を使った事は噯にも出さず、ハムスケの手柄にする。いくらハムスケでもそこまで速度は出ないが、それでも本当に足が速い事は確かなのだ。ハムスケは最初は複雑そうだったが、足に自信があるのは事実であるし、それに一日で往復するのは無理でも、二日あれば往復する事は可能である。次第に得意そうな顔でドヤ顔を見せつけるようになった。

 

 そんなハムスケに呆れながら、ニニャから説明を受けたのであろうンフィーレアが走ってこちらに寄って来ているのを見つける。後ろにエンリやネム、ゴブリン達も続いていた。

 ニニャがいないのは、村長に話をしに向かっているからだろう。

 

 嬉しそうに手を振るンフィーレア達に、アインズは少し複雑ながらも、彼らに向かって手を振り返した。

 

 

 

 

 




 
森はモモンガ様のせいで大変な事になり、モモンガ様のおかげで大事にならない。
 







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