リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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00 海の底で目覚めた少年。

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◇新暦71年 第97管理外世界

 

――海上保安庁巡視船「のだめ」。

地球と呼ばれる惑星、その日本と呼ばれる国家。その海を守るフネが、海洋上で激しく警報音を鳴らしていた。

 

「かいりゅうまる、座礁!!」

 

巡視船「のだめ」は、今回普段とは違い護衛任務についていた。しかも只の護衛ではない。日本の原子力発電所へと届けられる、一種の放射性物質の輸送船の護衛という、重要な代物であり、「かいりゅうまる」は、その放射性物質を運ぶ輸送艦だった。

 

「なっ、馬鹿な!? この辺りに環礁は……」

「事実ぶつかったのだ! エンジン停止させ、直ちに目視確認せよ!!」

 

艦橋にて威風堂々と構えた男性――艦長は、慌てる青年を気迫だけで押しとどめ、次いで各員へとむけて声を上げた。

 

「――なんだありゃ」

 

だれかが、ポツリと呟いた言葉は、それを目撃した全員の感想だった。

乗員達が見たのは、海底を漂う巨大な何かだった。

 

 

 

 

 

――同年、約一ヵ月後

件の環礁――漂流環礁と呼ばれるそれを追った調査隊は、そこで件の漂流環礁との再会を果たしていた。

 

全長60メートルはあろうかと言う馬鹿でかい岩の塊。

何故そんなものが太平洋を漂流しているのか。一層理由が不可解となり、調査隊隊員たちは首を傾げていた。

 

そんな中、彼等は漂流環礁に上陸。その地質を調査しようとする最中で、不意にその環礁に埋まった何かを発見する。

不思議な金属で出来たそれを掘り出すべく、即座に発掘を開始。その二日後、漸く現れたそれは、金と銀を混ぜ合わせたかのような不思議な色をした、一枚の金属の板と、複数の勾玉常の金属片だった。

プレートに描かれていたのは、象形文字に似た文字で描かれた、まるで絵のような文字。

 

「これは?」

「わからん。ピレネーの古代文字ってのに似てるらしいが……っ、なんだ!?」

 

突如として調査隊隊員達を襲った地震。いやそれは正確には地震ではない。環礁が、激しく揺れ動いていたのだ。

揺れに呼応するように崩壊する金属板。慌てて船へと退避し、船へと書け戻る調査隊隊員の背後、揺れる環礁が激しく輝いていた。

 

「な、なん――うわあああっ!?」

「や、矢島ああああ!!!」

 

悲鳴と共に、船から身を乗り出していた隊員の一人が海へと転がり落ちた。

矢島と呼ばれた青年は必死に水面を目指して泳ぎ――その最中、海中で陽光を反射する巨大な金属の塊を見た。

 

「――っぷはぁっ!!」

「や、矢島!! 無事だったか!!」

「っ、大迫! あれは作られたものだ! 人工物だ!!」

「何!? ――うおっ!!」

 

途端、光がはじけた。

 

「……っ、皆、無事か!!」

「――お、大迫さん……」

 

眩い光が収まったその後。何とか立ち直った大迫が周囲に声を掛ける。そうした最中、不意に一人の男性が会場を指差す。

 

「どうし――なっ……」

 

そこには、何も無かった。

それまで其処に確かに存在していた筈の、巨大な漂流環礁。それは、最早影も形もなくなっていたのだった。

 

 

 

Side Mera

 

はい、というわけでトリッパー(?)の俺です。

愉快型転生神・ゴッドアンバーの犯行に巻き込まれ、魂に魔改造を施されてしまいました。

良識派の運営者さん? に救助されたものの、既に魔改造後だったので、適度に世界に影響を与えすぎないチートを貰って転生することに。

なんでも施工されたのはチートを施されたわけではなく、チートを得る為の下地が如何とか。まぁ、なんにも無しにトリップするよりはマシだよね。

で、目が覚めたらガラス製のカプセルの中。転生先がリリカルまじかるな世界と聞いていたので、先ず思い浮かんだのがスカ博士の戦闘機人ルート。次がアリシア憑依。

先ず自分の身体を見直す。――おk。元のに比べると些か造型が良くなってるけど、まぁ普通の男性の姿だ。

次、カプセルから出られないかと周囲を見回すと、カプセル内側の一角に、パネルらしき物を見つけた。

 

「ガボゴボゴボ(何語だこれ)?」

 

アルファベットに似た、けれども何か違う文字。むむ、我が厨二心が刺激される。そう、これは多分ルーン文字だ! 昔ウィキったのを覚えてる。

読めるわけではないのだが、何となく内容は理解できる。理解できるという事自体に戦々恐々としつつ、パネルを操ってカプセルから出ることに。

カプセル内の保護液を抜いてから、カプセルがプシュッと空気圧で開く。で、気付いた。俺マッパだ。

 

――ひゃー、マッパは拙い

 

なんて考えつつ、とりあえず自己確認。記憶は――ある。身体は――病院の退院直後みたいに微妙に動かないが、暫くすれば治る。何故かそれがわかる。

 

――この肉体の機能不全は、長期の休眠から目覚めた直後である為のものだ。軽いマッサージ、もしくは軽い運動で肉体をほぐす必要がある。

 

そう、何故かそんな情報が脳裏に浮かんだ。

突如として激しく廻りだす思考。それは本来の俺の物を悠に超越していて、というか人類の思考速度ではない。その上ナンダコレは、並列思考?

高速思考に並列思考でガンガンと廻る思考。但しその全てがパニックを起こしている辺りが俺らしいのだけれど。

 

とりあえず、服だ服。どこかに服はないか……。

 

考えているうちに、ふとバリアジャケットという文字が脳裏を過ぎった。

そうか、確かにアレが出せれば服にはなるわな。

 

――なんて、考えた途端だ。

身体の周囲を覆うようにあふれ出すエネルギー。それが魔力というモノなのだろうと予想したときには、魔力は具質化し、身を覆う黒い衣装へと姿を変えていた。

黒くて派手な、なんというか、F○teのセイ○ーオルタの衣装を男性用衣装に仕立て直したような。

 

装甲も胸部だけだし。あ、スカートじゃなくてズボンだけど。

 

正直、派手だ。

とりあえず鏡でも無いかと周囲を見回すが、何やらこの部屋矢鱈とメカメカしたSFな部屋だ。

やっぱり何処かの研究所なのかな? とか思いながら、とりあえずそれまで自分の入っていたポッドのガラス部分で自分をチェック。

 

――何このイケメン。死ねばいいのに。

 

――はっ、もしかしてこのイケメン、いやイケメソが俺なのか!?

 

成程成程、確かにコレは引きニートが憧れる。運動不足の弛んだ肉体が、あっという間に人造イケメンに変身とか。世の中舐めてる。

まぁ、ラッキーではあるが。

然し、顔がなぁ。何かもとの顔の面影を残している辺り、少しだけ安心した。

服も着て顔も見て、一息ついたところで早速情報収集のために再び周囲を見回す。

そうして見つけたのが、部屋の一角に設置されたパネルっぽい物。どうやらコレが此処の情報端末らしい。

知識としてそれが情報端末だというのは理解できるのだが、如何見ても水の出ない流し台にしか見えないそれ。知識と感覚の乖離が酷くて、なんとも違和感が凄い。

 

――っておぉ、なんか視界にデータが出た。

 

網膜投影? いや、もしかしてコレは『念話』かな? 音じゃなくてデータが入ってきているけれども。

とりあえず何とか情報を拾い出すべく、端末からのデータを次々と開いては閉じていく。

艦はTC社製小型隠密航行艦『ウル』級、ペットネーム無し。

行動履歴は――あった。製造の翌日に、俺と思しき積荷を搭載、その後からデータが無い?

つまり、如何いうことだ? 漂流していた? しかし何故? 俺を運び込んだ奴はこの艦で逃げなかったのか??

思わず首を傾げる中、目に付いたのはまた別のデータファイル。

 

――G計画・プロジェクト『M.e.r.a』?

 

そのデータフォルダを開いて、思わず顔が引きつった。

其処に書かれていたのは、俺という存在についてと、その存在理由に関すること。

先ず、俺と言う存在について。俺は、アルハザードという世界で開発された、決戦兵器に相当する存在らしい。

 

世界のマナ……原始的霊力を凝固して生み出された半人半魔の人工生命体。ありとあらゆるエネルギーを糧とし、単身で難解とされるアルハザード式魔術を操る存在。

 

俺風に言わせるならば、何処かの小学生が考えた『ぼくの考えたサイキョー』だ。

 

で、なぜそんな存在を作ったのかと言うと、その必要があったからだという。

アルハザードと呼ばれる世界は、その当時次元世界の中で最も文明の進んだ世界だったのだという。

 

科学と魔術が完全に交わり、無限世界を統べる事すら可能とされるほどに莫大なエネルギーを操る技術を持った人々。

そんな人々が慢心した結果として、彼等はとんでもない化物を生み出したらしい。

それが、ギーオス。人を喰い、魔力を喰い、リンカーコアを喰う事で無限に成長する生物兵器――怪物だ。

 

元々彼等の兵器として生み出されたギーオスだが、命を弄んだ罰が故かギーオスは暴走。あっという間にアルハザードを滅ぼす一因にまで成長したらしい。

 

そう、アルハザードは既に滅んでいる。滅んだ原因はギーオスだけでは無い様だが。

俺と言う存在は、ギーオスに対抗するために生み出されたらしい。俺――メラは、その由来から魔力でありながら似て非なる力――アエテル、霊力、第五真説などなど、そんな風に呼ばれる少し違う力を扱う事で、ギーオスに対抗する最強の手札として用意されたのだ。

 

……のだが、完成した俺(メラ)は肝心の時に間に合わず、何時か来る後世のためにと、アルハザードからこの艦と共に放流されたらしい。

最初はまるで説明書のように書かれていたその文章は、けれどもその実俺に対する懇願、願いが書かれた手紙だ。

 

とりあえず名前はメラと名乗っておくとして。

 

で、俺の感想。

――何この平成ガ×ラ三部作っぽい設定。

引き出したデータも、俺のスペックなんか如何見ても○メラですし、ギーオス? ギ○オスじゃねーか!!

 

思わず叫――べない!?

今気付いた。俺今まで全く声を出してない!!

喉に異常があるわけじゃない。それは自己診断で理解る。じゃあ何故? 肉体と精神のズレ? そもそも声帯を使ってないから?

 

馬鹿だろう俺の製造者! 円滑な任務遂行には現地住民との円滑なコミュニケーションは必須だろうが!!

ポッドのガラスを見ると、叫んだ心算で一切声が出ないどころか、表情が一切動いていない俺の顔が写っていた。

 

あれか! 内面に外面がついてこないテンプレ!勘違いモノの王道!!

 

くそう、何てこった! 勘違いモノは読者としては好きだが、自分がそれやるのは何か厨二病で厭だぞ!! 何か改善策を考えねば!!

 

「――とりあえず、能力の把握か」

 

不意に出た声に、中々のいい声。というか何か何処かの声優っぽくないか? 俺の声。

内面フツオタ、外見クールイケメン、声イケメンヴォイス。

 

――内面がっ、残念すぎるっ!! せめて俺じゃなくてもうちょっとこう正義の為に自己犠牲出来るようなイケメン、いや、イケてる魂イケ魂を使うべきだろう。

 

――いやまて。というか、俺が目覚めたという事はつまり、ギーオスは既に目覚めてるって事? え、此処リリカルだよね?

 

そんな事を考えている最中、不意に艦船が警告警報で満たされる。

何事かと慌てて端末を操作すると、其処に見えたのは――何かトリっぽい全長15メートルくらいの怪物。

 

――俺に、アレを退治しろと?




にじファン閉鎖直前、駆け込みで投稿した作品。
原稿のメモ帳を発掘して、気が付いたら続編を書いていたので、折角なので投稿。

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