リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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09 月村すずか

先ず月村家はバニングスグループと結託、共同出資で、B&T・新技術開発プラントを設立。大量の資金と物資を投入し、即座に一つの形を作り上げて見せた。

此処で開発されているのは、ロボット開発・システム制御技術・新素材開発と、悪意在る見方をすれば軍需系と思われても仕方のないような、それでも必要な技術ばかり。

 

最初に作り上げたのが、フライングパワードスーツ。略してしまうとFPSに成るので、通称はウイングスーツと呼ばれている。これは実に簡単で、電気により伸縮するマッスルスーツと、プロペラントを詰んだウィングユニットをくっつけただけ。

 

だがコレがヒット。災害現場への急行や、特殊部隊の急行なんかにも使えそうだ、という事で様々な国で需要が発生。そしてその後、マッスルスーツ部分だけでも、工事用重機レベルの出力が在ると分り、更に需要は拡大。

 

そうした成果を足場に、更に発表したのが、TSFシリーズ。戦術機をモデル、というか構想をモロパチして作り上げた機動兵器だ。因みに某『社名が3年の単位になっている会社』にはいろいろと許可を頂いた。宣伝にもなるし、OKとの事。

最初は技術系譜に従ってF-4から開発しようかと考えたのだが、さすが海鳴の技術者バケモノ揃いだというか、現行の技術レベルで不知火くらいは普通に作れてしまう加工技術を持っていた現地の技術者達。

 

これはいいと、早速不知火を生産したはいいのだが、いきなりこんなモノ作っても操縦できる人間が居ない事に気づき、仕方無しにシミュレーターを製造。次は吹雪を製造しなきゃなぁ、なんて考えつつ、出力をダウンさせた訓練機の製造を提案。

バニングスグループと、月村の分家筋から回された人員により訓練が開始。コレにより、何とか雪吹の運用が行なわれ、漸くの発表となったのだ。

 

最初このTSFシリーズは、人型ロボットという事で世界各国のOTAKU達から大いに注目を浴びた。何しろデザインもモロにヒーロー機。こいつに乗るために日本、もしくは月村・バニングス系に就職する、と言う人間も増えたくらいだ。

だがしかし、同時にこのロボは既存の現行兵力に比べ、何処か中途半端なのだ。

拠点防衛及び占領なら戦車、対戦車には航空戦力があればいい。態々割高なコストを掛けて、戦争用にロボットを用いるなんていうのは途轍もなくナンセンスだ、と言うのが一般的な解釈であった。実際のところ、ギーオス戦を考えなければTSFの配備は俺でもしないと思う。

 

で、暫くこのTSFシリーズは表舞台ではなく、B&Tの技術開発及び拠点設営のために用いられる事と成る。何気に人型ロボというのは、戦闘よりも重機としての役割のほうが向いていた。

 

さて、そんな最中でも俺は通常営業。ウルのシステムを解析し、次元探査端末――要するにギーオスセンサーを近隣の次元世界及び地球にばら撒き、コレに反応したギーオスを即座に殲滅する、という日々を送っていた。

 

とはいえさすがのギーオスも、日々チェックしていれば早々連日出現するわけでも無し。さすがに暇な日々と言うものが出来てしまう。

そうして暇な時間というモノが出来ると、自ずと月村の屋敷に滞在することになる。

 

というのも技術開発の件で、一々ウルから此処にくるより、此処に滞在しておいたほうが便利だ、という月村忍の言葉に押され、いつの間にか月村の屋敷の一室に住む事になってしまっていたのだ。

いや、それはいい。月村邸に住む事自体は別に問題ない。

ただ問題が在るとすれば、此処には俺(の外見年齢)と同年代の少女が一人住んでいる、と言う点。

 

最初は、此方も艦から持ち込んだ端末で、自分専用のサポート機の設計なんかを考えていたので態々接触するという事も無かったのだが、さすがに同じ家に滞在している以上顔を合わせることは頻発する。

 

相手は美少女。此方としては是非とも仲良くしておきたいのだが、如何せん今の俺は言語障害(笑)で上手く喋る事のできないコミュ障持ちだ。しかも表情筋の硬直した無愛想顔。

 

俺ならあえて近寄ろうとは思わないね。

 

「…………」

「…………(ビクビク」

 

だというのに。何故この少女は俺の前に座っているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

Side Suzuka

 

目の前に座る男の子。彼は少し前、ウチの敷地近くの森の中で倒れているところを私と子ネコのルフナが見つけて拾ってきた子だ。

 

最初は怪我でもしたのかと思っていたのだけれども、彼のことを調べたというお姉ちゃんたちが急に怖い顔で何か慌てだしたのを覚えている。

 

その後、お姉ちゃんは男の子と恭也さん、ノエルを引き連れて何処かへといって、帰ってきたかと思えばいつの間にか彼はこの家に住み着いてしまっていた。

ううん、それは別に悪くない。どうせこの屋敷に住んでいるのなんて、最初からたったの四人。使われない建物は傷むのが早いって言うし、人が増えるのは否定しない。

 

でも、その男の子はいつも恐い顔をしていた。何か怒っているのか、悩んでいるのか。いつもムッツリと唇を結んで。

 

――本当のところを言うと、チョット恐い。

 

でも、多分本当は優しい子なんじゃないかなと思う。この前に見たのだ。彼にウチの猫達が懐いているのを。

ウチの猫は気配に敏感だ。敵意を持っている人間には絶対に近寄らない。ちょっと抜けている子も居るけど、そういう子は先輩猫が絶対に守る。

そんな猫達が、あの子相手には普通に近付いて、そのまま撫でられながら寝ているのだ。

 

多分、きっと、彼は悪い子じゃない。良い子なんだと思う。

だから、同じ家に住んでいるんだから、チョットでも仲良くなろうと、お庭でのお茶に誘ってみたのだけれど。

 

「…………」

「…………」

 

空気が重いよぅ。

 

やっぱり私じゃダメなのかなぁ? いつもならアリサちゃんが一杯騒いで、なのはちゃんがニャハハってわらって、フェイトちゃんが慌てて、はやてちゃんがボケて。

 

皆がいればあんなに簡単なのに、私一人だとこうも声が出ない。というか、この場に声が出ない。猫たちも何故かピクリと身動ぎもせず、何処となく緊張した面持ちで此方を観察しているような気がする。

 

ど、どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

 

えっと、こういう時はどうするんだっけ? お天気の話!? 確かはやてちゃんがそんな事を言ってたような!!

 

「え、えっと! 良いお天気ですね!!」

 

……外した!

 

違う、ウケ狙いでやってるんじゃないの!! はやてちゃんは今度のお茶会の時に紅茶を紅生姜の漬け汁に摩り替えてやる!!

ああっ、でもそんな事を考えている場合でもなくて!!

 

「そうだな」

 

不意にそんな言葉が聞こえた。意識を声の方向に向ければ、此方に視線を向けている彼と視線が合う。

――そうだ、彼は私のお誘いを受けてくれたじゃないか。なら、きっと仲良くなりたいって気持ちは持ってるはず。多分、きっと、めいびー。

なのはちゃんも言ってた! OHANASHIすればお友達になれるって!!

 

……あれ?

 

「えっと、改めて自己紹介します! 私、月村すずか。この家の次女で、私立聖祥大付属中学校3年6組です!」

「メラだ。生物兵器をやっている」

 

やった! やったよぉ! なのはちゃん有難う、コミュニケーションの第一段階成功だよ! 次は此処から話題を深めていけばいいんだよね?

で、えっと。せいぶつへいき?

 

「せいぶつへいき?」

「……先史文明の末期に作られた、対怪物用の生物兵器だ」

「せんしぶんめい? たいかいぶつよう?」

 

えっと、何?

 

 

 

 

 

Side Mera

 

自分で説明してて、頭を抱えたくなった。

 

だって、「嘗て現人類を上回る技術力を持った旧人類によって生み出され、新しい時代へと揺り篭の中で眠りについていた生物兵器」だ。何処の厨二病だ。物凄く痛い。俺なら黄色い救急車を手配する。

 

何か凄く胡乱気な表情で見られているような気がして、溜まらず話を変えることに。

 

「月村すずかは私立の三年生と言ったが、エリートか?」

「え、エリートって程じゃないよ、普通だよっ――あと、私はすずか、で」

「ふむ。――メラでいい」

 

まぁ、今の俺に苗字なんて無いのだけれども。

 

「そ、そうだ、メラくんは何処の学校に行ってるの?」

「……」

 

ソレを聞かれたか。いや、確かに外見年齢はすずかと同年代に見える俺だ。学校へ行っているのか、と問われる可能性は確かにあった。

 

「行っていない」

「え、ええっ!? メラくんってもしかして年上?!」

 

いきなり話がずれた。何でそんな結論に至ったのかと考えて、修学していない同年代→中学までは義務教育→修学していないという事は、義務教育は卒業済み→つまり年上、という連想が成り立った。

 

まぁ、誤解されても悪い話ではないので適当に話を濁しておく。うーん、折角すずかが話しかけてきてくれているというのに、なんと話し概の無い男なんだろうか、俺。

 

「ねぇ、メラくんは普段は何をしてるの?」

「――色々、だな」

 

実際、本気で色々と仕事をこなしている。ギーオスの駆除は絶対だし、月村家と技術・ギーオスの情報を共有するための回線形成、譲渡技術の選定、他にもウルの増設パーツ設計だとか、最近はロボットの設計もしたりしている。

 

「……これだ」

 

言いつつ取り出したのは、未来でまず間違いなくヒットするであろうタッチパネル式のタブレットコンピュータだ。何かをしている証拠として、そのロックを外してすずかに見せる。決してニートと思われるのが嫌だからと言う理由だけではない。

 

「わぁ、これ、もしかしておねえちゃんたちがやってるTSF!?」

「いや、あれはリアル系。これはスーパー系」

 

ギーオスは、その成長過程で20メートル程度のサイズの時期が在る。この時期が最も食料を必要とし、尚且つ人類にも少ない被害で駆逐で来うるチャンスなのだ。だが、全てを必ずこの時期に駆逐できるとは限らない。

 

其処で必要と成るのが、80メートル台のギーオスに対抗できる、同等のサイズを持った存在。もしくは、成体ギーオスの戦闘能力に比類する能力を持つ特機。さすがに此方を現行技術、TSFの延長上で実装するのはまず不可能だ。であれば、ソレとは違う技術系等のロボットを自分で作ればいいのだ、と。

まぁ自分で作るとは言っても、あくまで設計をやるだけで、組み立てや製造は他所に回す心算なのだが。

 

――で、気付いたら隣に瞳をギラギラ光らせて佇むすずか嬢の姿が。

 

「ねぇ、ねぇメラくん。これ、ちょっと私に説明してくれない?」

 

首を縦にガクガクと振る。これはヤバイ。どうヤバイかとは説明できないが、ヤバさだけは伝わる。雪の日の峠をバイクで攻めるよりもヤバイ。偶々入った店がボッタクリバーで、肩をでっかい兄ちゃんにつかまれてるって状況ぐらいやばい。あ、これ案外的確かも。

 

 

 

俺が設計しているスーパーロボット計画。如何いうものかと言うと、上述の条件を満たす為、現行技術とはかけ離れたオーバーテクノロジーを多数実装する、いわばエクストラなオーバーテクノロジー搭載型の開発だ。

 

ただ、此処で単純に純科学技術製の機体を作るかと言えばそれは否。純科学製でも悪いとは言わないが、ギーオス相手に純科学製品ではタフネスが足りない。システムトラブルでピンチ! とかは勘弁被る。

 

其処で思いついたのが、俺が作るスーパー系には魔術的要素を突っ込んでみよう、と。

 

そもそも俺が超常的科学、オカルトの領域に踏み込んだ科学により生み出された産物だ。インストールされている知識と、更にウルの技術を使用すれば、不可能ではない。……筈。

 

「魔術って何?」

「オカルト、だが、この機体の建造には、オカルトの根本を科学で構成している」

「エミュレートしてるの?」

「否。機械駆動自体を儀式の代用とし、機体を一種の魔術的偶像と見立てる」

 

要するに、巨大ロボットを神像と仮定することで、機体そのものに神性を宿すという手法である。これで一番簡単に製造できるのは、先ず間違いなく鬼械神だろう。

ただ、アレはやばすぎるので今回は見送る。こっそり自分用に作るかもしれないが、とりあえず公式には作らない。

今回作るのは、いわばエース専用のコスト度外視の超高性能機なのだ。

 

「でも、何でその魔術を使うの?」

「魔術を使った場合、異界法則が使用できる」

「異界法則?」

 

簡単に言うと、何の魔術的要素も無い現行技術だけで仕上たシステムは、当然の話しだが物理法則の中で動く。化学反応式のジェット推進は、ジェット推進で前へ進むという物理法則の元で成り立っているのだ。

 

大して魔術的な要素を含むと、此処に異界法則が介入してくる。例えば物理法則では突破不可能な『光速の壁』を平然と突破したり、空間に穴をあけてワープしたり。

 

さすがに其処まで行かずとも、例えば化学燃焼式ではなく、霊的な出力機関を作れれば、環境に優しい推進システム、なんてものも出来るかもしれない。

で、ソレを説明して横を向いたら、物凄いキラキラした目で此方を見つめてくる少女が一人。

 

コイツ、リアル路線の姉とは逆にスパロボ路線かっ!!

 

「スパロボ……乗りたい、いや、造りたい?」

「(ガクガクガクガクガクガク!!!!!!)」

 

最早そんな音に聞こえてしまうほどに激しく首を上下に振ってみせる少女。

 

――うーん如何しよう。

 

本来、スーパー系の技術はあまり表に出す物ではない。何せスーパー。下手に強力な機体が、下手に能力を持った人間に渡ってしまうと、それだけで世界が崩壊しかねない。

いやさすがにそのレベルの機体を作れるとは思わないが、何せ此処は海鳴。何時何処で何が化けるかわからない。

 

「(キラキラキラキラキラキラキラキラ)」

「……内緒だぞ?」

「やったぁ!!」

 

くっ、良い笑顔しやがって。美少女ってそれで全て許されるんだから、本当羨ましい。

 

 




と言うわけで、ヒロインのすずか。
此処から先、ガメラ要素は急速に薄くなるかも。ただ、基本骨子はあくまでもガメラ、と言うのは変えません。他に色々クロスするかもだけど。

■B&T
バニングス&月村社。バニングスグループと月村家の出資によって創設された新技術開発プラント。に見せかけて、メラ持込の技術を分析し、世に出すという役割の研究機関。
結託の要因は色々あるが、最大の要因はすずかとアリサの縁。

■TSF タクティカルサーフィカルファイター
要するに戦術機。対ギーオス戦に備え開発が行なわれた。
史実と違い、一応F-4を最初に試験機として製造後、簡単に陽炎を経由、一気に不知火へと進歩。更にXMOS搭載。
・人類の牙。でも現在は高級な穴掘り機。

■SR計画 スーパーロボット計画。
成体ギーオスに対抗すると言う前提で、メラにより個人的に計画された。
その内質に魔術的要素を組み込むことで異界法則を発現させ、その隙間から奇跡を呼び込むことをもう一つの目的、手段としている。
因みにSR機とリアルロボット(RR)機の区分は、性能比ではなく、使用されている技術で区分している。
・プロジェクト開発推進主任は月村すずか。別名『すずかのおもちゃ箱』。

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