そしてその翌日。世界、というかその一部、上層部は派手に荒れたらしい。
体長60メートルを超え、平然と人を喰う超巨大生物の存在と共に、ソレを撃破した人型機動兵器の存在。そして中国で回収された、撃破された巨大生物の存在について。
先ずTSFに関しては、即座にB&Tに連絡が入った。何故無許可で戦闘をしたのかと、中国政府からの盛大な苦情と、潰されたくなければあれを寄越せ、という圧力と共に。
それを月村とバニングスは盛大に拒否。アレはギーオスの被害で実験場を引き払う際、何者かに強奪され、勝手に使用されたのだと。
これに中国政府は怒りを顕わにしたのだが、逆に「ならば貴方達の誤爆で起きた我々の被害を賠償しろ」と言われ、あえなく撃沈。事実中国製のミサイルは明後日の方向に飛び、幾つかはB&Tの試験演習場まで飛んで来ていたのだとか。どれ程明後日の方向に飛んでいるんだ。
そうして中国政府の苦情は黙らせたのだが、今度は世界中から「あの機体を売ってくれ」という要求が届けられた。特に某『自称・世界の警察』からの要求は凄まじく、仕方無しにTSFを生産。世界各国にイーグルやバラライカ、ジャンジなどをばら撒く事に。
大体の技術は国際特許を得ているので問題ないし、技術も解析すれば理解できるレベルの物が多い。どうせコピーされるなら、此方から恩を売る形でばら撒いたほうがいい、という打算だそうだ。
で、TSFを得るという動きと同時に、ギーオスの驚異が世界各国で話し合われだした。
というのも最初にギーオスの驚異を説いていたのが月村子飼の学者(長峰博士)であり、その関係企業がそれに対抗する手段を独自に模索していた。肝心の国家は何も対抗手段を考えていないどころか、そもそもその驚異を一笑に付せていたのだ。
これに某内閣だとか、某自称世界の警察の国だとかで盛大に政変が起こったりしていたのだがそれは余談。
早急にギーオスの驚異についての情報提供を国連議会で求められたB&Tは、即座にコレまで得られたギーオスの情報、更にソレを作ったと思われる古代文明からのメッセージを提出した。
「馬鹿な、古代文明の遺物だと!?」
「そんなオカルトを、この国連議会の場で論じろと言うのか」
「君は正気かね!?」
当然飛び出す暴言。頭にくるものは在るが、その場に参加した月村・バニングスの両グループとも、確かにオカルトだよなぁ、と頷いてしまい、逆に周囲が戸惑いを見せる。
「我々も、コレが我々の狂気で有ればいいと思うのですが」
そう言って提示されたのは、先ずギーオスの遺伝子データ。その存在がいかにおかしなものか、人造でもなければありえない存在であるかを説明した。
そうして次に提示されたのが、少し前に月村に持ち込まれた、突如消失した回遊環礁から見つかった碑文のデータであった。
其処に刻まれた文字、ルーン文字の亜種とされるそれを解析した結果、あの鳥のような怪獣がギーオスと呼称される存在であり、人の文明を滅ぼしかねない危険物である事。同時に、何等かの対抗手段が後世に残された事が記されていた、と。
「対抗手段とは何かね」
「それは分りません。然し得られたデータの中に、ギーオスに対する実験のレポートのような物がありました」
「それは?」
「はい、要約すると、ギーオスにどのような攻撃が通用し、どのような攻撃が通用しないか、と言うものです。ただ、この中に少し……」
「何かね? はっきり言いたまえ」
「はぁ、この文の中に、ギーオスは魔法を喰らうという文字がありまして」
その言葉にまた頭を抱える議会。ただでさえ超古代文明だ何て胡散臭いオカルト話なのに、この上魔法と。もう既にコレがドッキリなのではないかと周囲を見回す某ブラックジョークの国代表。
「それは、何かね。魔法と言うものが存在した、と?」
「はい。ただ皆様がお考えになっているような、動物と言葉を話すとか、悪魔と契約するとかそういったものではなく、魔力、と仮称しますが、何等かの未知のエネルギーを使う技術であったのではないか、と推測されます。また旧文明は主にこの魔法を使う文明であったが為、ギーオスに滅ぼされたと記述があり……」
残念ながら、魔法と呼ばれる技術は再現できないが、と話を続ける月村の人間。ただ既に、周囲はオカルト話にゲンナリとした様子で、殆ど聞いていない。
「まぁ、なんでしょうか。B&Tから提出された資料は後ほど各国に回しますので」
「よろしくお願いします、議長」
疲れた様子でそう締めくくられた議会。結果として、TSFは急遽増産・世界各国への販売が決まり、ギーオスの驚異が世界で認知されることに成功した、と言うもの。
で、月村邸へ帰った俺は俺で、すずかに物凄くおこられることになった。
「何で一人でむちゃするの!!」
「…………」
私怒ってます、という顔で、しかも目の端に涙まで浮かべてプンスカ怒っているすずか。どうも俺が勝手に中国で暴れてきたと言うのをしのぶに聞いたらしい。
「もうちょっと待てば、B&Tが中国政府と相談して、一個中隊規模を中国に送り込んだのに!! メラ君が無茶する必要なんて無いでしょ!」
反論しようとしたら物凄い涙目で睨まれた。
まぁ、ソレは確かにそうなのだが。俺は対ギーオスの生体兵器としてこの場に生まれ落ちたのだが、おれ自身をそう縛り付ける法則は何処にも存在しない。正直なところ、ギーオス対策は他所に押し付けて、俺は隠居を決め込んでも何の問題も無い。
……でも。
「それは、できない」
「なんで!?」
「――後味がわるい」
知っていては、放置は出来ない。例え何も出来なかったとしても、まして何とかする力がこの手の中に在るのに、何もしないなんて出来ない。
「う~……」
「……心配掛けた」
言いつつ、すずかの頭を撫でておく。何だかんだで心配してくれていたのだという事は分る。
確かに俺が急行せずとも、暫くすればB&Tから一個中隊が派遣されたのであれば、俺の出番なく事態は収束したかもしれない。
その点は、俺が先走りすぎたと言うのもあるだろう。いや、恭也=しのぶにあの選択肢を用意されていたことを考えると、俺の行動も織り込み済みでのことかもしれないのだが。それをすずかに知らせる必要はないか。
「あ、あぅ……」
と、いつの間にか目の前に、顔を真っ赤にしてうつむかせたすずかがいた。因みに頭は撫でっぱなしである。
「あらあら」
と、何故かそれを廊下の角からニヤニヤと覗き込んでいるしのぶが居たりしたのだが、あえて無視することで精神の安定を図ってみたり。
と、いうわけで何故かすずかとデートをする事に成った。しのぶ曰く、「たっぶり搾り取られてきなさい。それが男の甲斐性ってものよ」とか。
因みに俺の現在持っている資産は、某事務所から徴収してきたものと、月村に対して供与した技術、およびその運用から入手される財産の一部を与えられている。とはいえ、此方は戸籍も持たない異邦人。お小遣い、という形で云千万も渡すのは如何かと思うが。
「……」
緊張に身を固めてか、さっきから一言も喋らないすずか。正直俺もそれほど女の子との付き合いが在るわけではない。女の子と出歩く経験なんぞ多々在るわけでもない。
如何した物かな、なんて考えつつ、すずかと並んで歩いているのだが。
とりあえずすずかをつれてたどり着いたのは、出だしが昼頃と言うことも在り、軽く食事をという事で、すずかオススメの店として翠屋を紹介された。
「ここはね、私の友達のなのはちゃんのお家でやってるの」
「ほぅ。……宣伝活動含む、か?」
ニヤリ、と笑ってすずかを見ると、照れたようにあははと笑って見せて。
「あ、恭也さんのお家でもあるんだよ?」
「恭也の」
そういえば、アイツって高町恭也だったか。月村邸でしか会わないから、あそこが恭也の自宅だと錯覚していたみたいだ。
「まぁ、もうすぐ私のお義兄さんになるらしいし」
「ほぅ」
それはまた。人をからかっておいて、其処まで美味しいネタを隠していたとは。
その内このネタでからかゲフン、祝福してやろうと企みつつ、すずかと一緒にみどりやに足を踏み入れる。
「いらっしゃ……あれ、すずかちゃん?」
「こんにちは美由希さん」
と、目の前に現れたのは、眼鏡をかけた美少女。歩き方からして、先ず間違いなく恭也と同門だろう。そうそう、確か、メインヒロインで公式ヒロインじゃない哀れな人。
「……なんだろう。凄く失礼な事を言われたような?」
「あはは、気のせいじゃないですか?」
首を傾げる高町美由希の影、俺の脚をさり気無く踏みつけるすずか。うーん、淑女だ。
「ま、いいや。そちらさんは彼氏?」
「え、あ、いえ! メラ君とはまだそんなじゃ……」
と、高町美由希の言葉に顔を赤くするすずか。嗚呼、可愛らしいなぁ。この子と会ってから何か凄く毎日萌えている気がする。
「まだ、ねぇ? 私だってそのうち……でも恭ちゃんを超える逸材は…………って、メラくん? どっかで聞いたような?」
「あ、メラ君は恭也さんに少し訓練をつけてもらってるから」
「あ、あー! 君が恭ちゃんの言ってた子!?」
俺が目覚めて、既に半年近い日数が経過している。その最中、俺は自らの身体能力を生かすための技術を求めた。その結果、最も身近に居たのが、高町恭也。つまり御神の技の継承者だった。
流石に御神の技を学ぶ事はできなかったが、基本的な体裁き、戦術的思考などは恭也から教わる事ができた。因みに、徹や貫は出来ないが、肉体スペックで無理矢理神速に対応する事はできるし、鋼糸の技は趣味で盗み取らせてもらった。
「メラだ。よろしく」
そういって目礼する。これでも最近は大分口数が増えたとすずかにも評判なのだが、それでも矢張り知らない人に対しては失礼になりそうな口数の少なさ。本当これどうにかならないだろうか。
「あはは、恭ちゃんの言ったとおりの子なんだね。うんうん、私は高町美由希。よろしくね!」
そういって手を握り、ぶんぶんと握手をする美由希。そして何故か背後で拡大する冷たい気配と、俺の背後を見てニヤニヤする美由希。
「美由希さん?」
「――っとと、そうそう。二名様ご案内しまーす!!」
慌て逃げるようにして店内に駆け込む美由希。その背後をクスクス笑いながら、ちょっと近寄り難い雰囲気のすずかが後を追う。ていうか、なんでただの中学生がこんな威圧感を出せるんだ。あれか、王者の才か。
「メラくん?」
「応」
答え、すぐさますずかの隣に立ってあるく。別にびびったとか、声を掛けられて思わずビクッとなったとか、その恐い雰囲気の中のすずかの下から仰ぎ見る目が可愛かったからとか、そういった理由は一切無い。
美由希に導かれるまま翠屋の中へ。そうして案内された、店内の洒落たテーブル席へ案内された。何か若干カウンター側から好奇心旺盛な視線が飛んで来ているような気がするが、まぁ気にしなければ問題はないだろう。
「えっと、それじゃ私はトーストセットで」
「オムライスセット。コーヒーをアフターにもう一つ」
「はいはーい、少々お待ちくださーい」
そういって立ち去る美由希を見送りつつ、食事が来るまで何を話したものかと首を傾げる。
「すずか」
「ひゃ、ひゃひっ!!」
……可愛いなぁ。
「な、何、メラ君?」
「話をしよう」
何か何処かのルシフェルさんみたくなってるが、気にせずに話題を求めてみる。とりあえず話しの切り口として、すずがの通う学校の事を聞いてみたりして。
私立聖祥大付属中学校。それがすずかの通う中学の名前であり、小学校から大学まで続く一貫した私立聖祥学園の系譜でも在る。
この私立聖祥学園というのがかなり大手の学園らしく、小学校から大学、果ては中高と分けて女子校だけが存在したりと、もう色々と凄い。
しかもこの私立聖祥学園は、その三割が「車でお出迎え」なお嬢様であるらしく、当然警備体制だとか施設設備だとかが、風芽丘学園と比べても……いや、訂正。あそこはあそこで怪物学園だから。
昔は仲のいい五人組でよく活動をしていたのだが、最近そのうちの三人はよくお仕事で学校に来れないだとか、アリサちゃんが寂しがっててその様子が可愛いのだとか、最近付き合いが悪いって拗ねられてるとか。
「そういえばアリサちゃんが、今度メラ君を紹介してって」
「俺を?」
「うん。同居人が気になるんだって」
そんな話をしつつ、到着したトーストセットとオムライスセット。楽しそうに話すすずかの話を聞きながら、おいしそうなオムライスにスプーンを入れるのだった。
「うんうん、二人とも仲いいねぇ」
「アレなら二人になっても、いえ、ファリンちゃんがいるけれども……大丈夫よね?」
「いざとなれば僕たちがサポートすればいいんだよ。そうだろう、桃子さん」
「そうね、士郎さん」
「うぅ、恭ちゃ~ん(;;)」
このとき俺は知らなかった。喫茶翠屋の調理カウンターの向こう側で、こんな会話がなされていたとは。カウンターの向うで、老けない夫婦のイチャイチャと、公式脱落メインヒロイン(旧)の間で、絶対に聞き逃すべきではない重要な会話が成されていたのだという事を。
高町家
奥さんの桃子がパティシエで、旦那さんの士郎が風来坊の剣士。夫婦の実子はなのはのみ。
奥さんが高町桃子。政界のパーティーなんかで腕を振るうレベルのパティシエ。
旦那さんが不破士郎。圓明流じゃないけど、古流の剣術を継承しており、名称は御神流、正式名称は永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術の使い手。もしくはその裏である不破流かもしれないけど、御神の本家は全滅したらしい。身を隠すついでに婿入りした。
長男は士郎と元内縁の妻の『夏織』の子。因みに夏織さんは蒸発済み。基本的に見せ場を奪われる性質の人物で、一般人をはるかに上回る戦闘能力を持つのだが、周囲にそれを更に上回る人物しか居ない為に出番をいつも奪われる。
長女が美由希。実は恭也の従姉妹で正当な御神の剣士の後継者の血筋。原作の原作、とらいあんぐるハート3のメインヒロインだったけど、公式ヒロインの座を月村しのぶに持っていかれた哀れな元『ヒロイン(笑)』。才能だけなら恭也以上。
次女で末娘のなのは。今や管理世界の誰もが知る白い魔お……エースオブエース。家族内で唯一名前がひらがな。漢字で書くなら『菜乃葉』になるらしい。字が厳ついからとひらがなにされた。実はメカオタのカメ子。代名詞は『OHANASHI』。幼少期は運動音痴とされていたが、やっぱり高町の子。
親戚に唯一美由希の実母である御神美沙斗がおり、実質最強の『御神の剣士』。“非合法ギリギリの法の番人”香港国際警防隊に所属するツン^10デレ母さん。二本の刀の嵐で表現されるツンを生き残れれば一流。
※近々親戚が増えるらしい。