リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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14 ティアナ・ランスターの弾丸は砕けない

Side Teana

 

私の名前はティアナ・ランスター。次元管理局、陸上警備隊第386部隊……いや、今度から本局古代遺物管理部機動六課に所属する事になった。

同時に地球連邦軍統帥本部所属、機動特務部隊『ホロウ』に所属する中尉なんて階級も持っていたりするのだが、この管理局の支配する世界では余り関係ない話しだ。

 

現在の私は機動六課、正式名称は本局古代遺物管理部・機動六課というのだが、此処に所属し、上司であり教導資格を持つ高町一等空尉の元で訓練を行なっている。

というのも、機動六課はその由来から部隊に保有する人間は、大半が部隊長・八神はやての私兵に近い存在で構成されており、前衛の中で言えば、部外者なんてそれこそ私だけ。

 

私の属するスターズ分隊の同僚であるスバルは陸の家系、ライトニングのエリオはハラオウン執務官が保護者をやっている。御剣二等陸士も高町一等空尉の幼馴染だという。

更に民間企業のデバイス企業から出向してきたという鳳凰院朱雀。彼もまた高町一等空尉の幼馴染であり、同時に管理局で採用された量産砲撃型デバイス「ジークフリート」の開発設計者であり、同時にその試験モデル『ヨルムンガンド』の試験運用者でも在ると言う。

 

正直、裏技のやり方は聞いたが、こんな部隊を作ることを認めた管理局と言う組織が理解できない。

 

上層部は理想に燃える青二才、前衛は素人の寄せ集め、末端は隊長陣のシンパ。

確かに経歴で言えば、時空管理局本局のエリートによって新設された特務部隊の現場、なんて後のキャリアにはとても使えそうな経歴では在る。

 

だが然し、現場指揮の経験だけで碌な戦略的部隊運用も知らない20前の小娘が頭を張り、現場を知らないガキばかりの現場スタッフ。これでどう事態に対処しろと言うのか。

 

幸いにして、八神部隊長の私兵である騎士達は現場を知る人間みたいだが、シグナム副隊長は指揮なんて執らないし、唯一指揮を執るのはヴィータ副隊長のみという有様。

 

本気で、この部隊は何を思って創設されたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ほら、そうやって回避しちゃうと後が続かないよ」

「いえ、続けます」

 

今回の高町一等空尉との演習は、インターセプトトレーニング。弾道回避訓練だ。本来陸戦での弾道回避と言えば、障害物を盾にして隠れ、正面から囮で気を引きつつ分隊を迂回させ背後から強襲というのがセオリーだ。

 

が、高町教導官の場合のインターセプトトレーニングというのは、彼女が作り出す凄まじい数のシューターを迎撃する事を指すらしい。

 

正直な話、この迎撃回避訓練はいったい如何いう状況を想定して行なわれているのかが今一つわからない。私の登録されている魔力量を考えれば、無駄に迎撃に魔力を使うよりも、見敵必殺を優先させたほうが効率がいいのは明白な話しだろうに。

第一、射撃方の真髄云々と言っているが、私と高町一等空尉とではタイプが違う。

私はガン・スイーパー(強襲掃討)型、高町二等空尉はインパクトガード(砲撃支援)型。役割も違えば立ち回りも違うと思うのは私だけだろうか?

 

……まぁ、だからといって一々上司に突っかかるほど私も若くはない。いや、年齢的には若いわよ? でもメラさんの下で本物の軍隊の動きを経験していると、どうにもこの意味不明の回避訓練と言うのは首を傾げざるを得ない。

 

「へぇ、其処から立て直すの! じゃぁ、こっちも弾幕を濃くするよ」

「なら、手札を一つ」

 

言いつつ、意識を集中させる。マルチタスクの数を肉体制御と魔法制御、戦術思考の三つに限定し、私の手札の一つを切る。

 

――脳裏で鳴る、カチリという歯車のかみ合う音。

 

途端、世界から色が薄れる。色彩が霞み、自分が何処か世界から切り離されたかのような違和感に陥る。

同時に私の目に映るのは、ソレまで風を切裂いて進んでいたはずの、高町一等空尉のシューターの雨霰。然し今やソレは、まるで空中に静止したかのごとくゆっくりと、確りと見つめなければ分らないほどの低速で空中を進んでいる。

 

これが私の手札の一つ、『神速』、その亜種の、思考加速だ。

 

本来『神速』は御神の奥義に数えられるモノだが、同時に人間には本質的に備わっている機能。死が間近に迫ったときに見ると言うスローモーションの世界。それを技に昇華させたのが、御神の神速と言う物だ。

 

私の場合は、恭也さんに護身術の訓練をつけてもらっていた最中、事故で死掛け、その最中で神速に目覚めてしまったと言う、少し情け無い経緯でこの技を使うことが出来る。

 

御神の技こそ美由希さんにこっそり教わった徹と貫くらいしか使えないが、それでもこれらの御神の技は魔法戦闘でも十分以上に役立つ。

両手で持っていたハンドガンモードのファントムクロス。ソレを右手に持ち替え、左手にコンバットナイフを呼び出す。このナイフはファントムクロスの一部で、アサルト(突撃銃)モードなどではバヨネットになる。

 

静止した世界。ゆっくりと進むその世界。そんなコンバットナイフを構え、少しだけ神速を緩める。あまり神速の効果が高い常態で体を動かすと、体にかかる負担が洒落にならないことになる。少なくとも私は神速の重ね掛けなんてしたら体がバラバラになってしまう程度の肉体強度しか持たない。術で強化しても、だ。

そうして少しずつ動き出した高町一等空尉のシューター。ソレを左手のナイフで薙ぎ払い、近いものを全て破壊。次いで今にも発射されそうなシューターに向けてハンドガンを向け引金を引く。弾種はこれでもかと弾速と硬さを優先したフラッシュバレット。

 

この加速し停滞した世界の中でもかなりの速度を誇るこの術。それは少し離れたシューターを全て打ち抜き、次いで高町一等空尉の周辺のシューターを全て打ち抜いた。

さて、それで、こういう時にはこの台詞を言うのだそうだ。

 

――そして時は動き出す。

 

「それじゃ、シュート!!    ――あれ?」

 

正しい時計の針が動き出す。途端そんな事を叫んだ高町一等空尉。だが彼女の周囲には既にシューターなど一つも無く。

慌てて周囲をキョロキョロと見回し、ソレまであったはずのシューターが全て消えている事に気づいて、目を丸くしている。

――なんだろうか。その挙動がちょっと美由希さんを思い出して面白い。

 

「え、え、ええぇ!? あれぇ!? なんで!?」

「どうかしましたか?」

「え、いや、今私、いっぱいシューターを浮かべてたよね!?」

「今撃ち抜きましたよ?」

「へ、ええええええええええええ!!!???」

 

やっぱり普段の美由希さんを思い出すなぁ。

現在地球は次元遮断フィールドにより、次元空間からの往来を完全に封じている。この前貰った月からのルートを使えば久々に地球に帰る事も出来る。

たまには懐かしい顔を見るのもいいかな、と思ったり。

 

 

 

 

 

 

「い、インターセプトは問題ないみたいだね。それじゃちょっと時間があまっちゃうな……ティアナ、少しターゲットトレーニングをやって置いてくれる?」

「は、了解しました」

「か、硬いなぁ。にゃはは……」

 

なにやら困ったような顔で立ち去っていく高町一等空尉。とりあえず私は、彼女に言われたとおりターゲットトレーニング……要するに的撃ち訓練を開始することにした。

 

とはいえ、私が普段やっている的撃ちといえば、メラさんの下でやっていた、低酸素環境を始めとした異常環境条件下でいかに集中力を保持し続ける事ができるか、という訓練だ。

 

例えば低酸素。例えば高温の火災現場。例えば低温の極寒条件。例えば砂嵐で視界の悪い場所。例えば食料を得られずギリギリまで追い詰められた状況などなど。

人間、連続して集中できるのは5分も無い。故に、本当に必要な一瞬毎に集中すればいい、と言うのがメラさんの教え。

何処の漫画だと言うような過酷な修行は、でも間違いなく私の身になっている。

 

「……ファントム、アレだして頂戴」

『了解、マイマスター』

 

言いつつファントムが顕現させるのは、金属製の奇妙な拘束具。それを口元にはめ、頭の後ろで金具を停める。これはメラさんが用意してくれた訓練用の呼吸強制具。コレを装着する事で、一時的に低酸素環境を再現することができる。普通のマスクでも出来なくは無いのだが、今の私だとマスクくらいでは呼吸を阻害できないらしい。

メラさんは波紋の修行が如何たら言っていたけれども、私には何の事か……。

 

「……」

 

マスクを口にはめ、無言で次々と的を撃ち抜いていく。基本的に私はサーチャーに頼る事をしない。というのは、マナを扱う人間にとっては当然の事なのだが、マナ使いは自らの周辺環境に対してとても敏感なのだ。つまりは、世界のマナに。

 

例えば空中に突如ターゲットが投影されるとして、その投影される前後では微妙に感覚が異なる。その異なる違和感を辿れば、一々サーチャーでチェックをするまでも無く、更に慣れれば個人のマナの差異だって把握できるようになる。

 

メラさん曰く「見るんじゃない、感じるんだ……!」だそうだ。思うのだが、あの人って無表情の割りにけっこうお茶目な性格をしていると思う。

 

感覚に対する反射。但しその動きは体にしみこませた技術で。咄嗟の動きにこそ、修めた動きをしてこそ意味が在る。そんな思想の元、長く体を動かし続けている私。今やっている的撃ちにしても、最早思考容量を使うまでも無く反射として行動していたり。

 

そんな状態。余った思考で考えるのは、この機動六課が集める目標としているレリックと呼ばれるロストロギアの話。

いや、正確にはレリックではなく、それを求めて行動している自立機動兵器・ガジェットドローンの事だ。

 

正直な話し、AMFは問題にはならない。態々多重弾殻射撃を行なうまでも無く、ガイア式であればAMFに干渉されることは無い。ただその場合問題となるのは、私が使うガイア式の存在が管理局にばれてしまうと言う点だろう。ミッド式に擬装しているとはいえ、流石にAMF下で魔力が阻害されないとなれば……。

 

AMFの対処法は、他に性質変換、実在する物質を魔法で叩きつけるなど、幾つかの手段が在る。でも実は、此処にもう一つ裏技というか、奥の手というモノが存在する。

 

AMFの魔法阻害のプロセスは、その魔力結合を阻害するというモノ。それ故に、多重弾殻射撃は効果が在るのだ。

では、それ以外の魔法はAMFの前には不可能なのかと言うと、実は一つ抜け道が在る。それは、魔力を高密度で圧縮し、更に細かいプログラムを省くというモノ。

例えば誘導弾であれば、魔力を弾体整形・誘導効果・着弾時の魔力ダメージなど、大雑把にいえば三つのプログラムが付加されている。

 

これを弾体形成のみに絞りプログラム自体の強度を上げ、更に魔力の圧縮率をある程度上げてしまえば、長距離は不可能でも中距離での射撃は十分効果をなす。

しかしこれを使うとなると、今度は命中精度が問題になってくる。何せ誘導プログラムをオミットしているのだ。弾体の誘導は全て初期モーション、普通の銃を撃つのと変わらなくなってしまうのだ。

 

私としては別にソレでもいいのだが、そのためには普段から在る程度この条件――誘導をオミットした状態――での射撃訓練を行なう必要が在る。

まぁ、いざとなればファントムのバヨネットで格闘戦を挑めばいいのだし。

 

『マスター、平均着弾タイムは0.46秒。ちょっと落ちてますね』

「鈍ったかしら。今度メラさんにウルの訓練設備借りて鍛えなおさなきゃ……」

『問題ないとは思いますが……まぁ、私もソレをオススメしておきます』

 

相手がガジェットドローンであれば問題ない。アレの攻撃は触手かビーム。ビームには半秒ほど間があるし、速度だってメラさんの最速のプラズマ火球に比べればかなり襲い。今の私でも十分に対処できると思う。

ただ問題は、任務の過程でメラさんと相対、もしくは敵対してしまった場合の事だ。

 

「……ころされる」

『いや、殺しはしないでしょう。……ただ、延々なぶられるとは思いますが』

 

体がガクガクと震えだす。忘れもしない、あの過酷な訓練の日々。猛吹雪のアルプスの山頂で、デバイスなしの状態で延々メラさんの襲撃から逃れ続けた山岳逃走訓練。何がデバイスなしの対等だ。あの人デバイス無しのが強いじゃないのっ!!

 

『マスター? マスター!!』

「はっ!? あ、ゴメンファントム」

『いや。それに、マイスターだけじゃなくて、連中の襲撃だってありえるんだしな』

「そう、よね」

 

連中。つまり、EFF、地球連邦軍の最大の敵対勢力、ギーオス。嘗てアルハザードで生産されたという環境修復の為の生物装置にして、現在人類を脅かす最大の脅威。

時空管理局の勢力圏内は、主に魔法文明が主流となっている。と言うのも、嘗て起きたと言う次元大災害。その原因が科学文明により齎されたというモノだからだそうだ。

 

私にしてみれば、アルカンシェルなんて超兵器を持っている時点で、管理局にそんな事を言う資格は一切無いと思うのだが、とりあえず管理局の上層部の人間に言わせれば、質量兵器は世界に災厄を齎す存在なのだそうだ。臍で茶が沸く。

 

そんな魔法偏重の世界に現れる、魔法を喰らう超生物・ギーオス。正直、災厄以外の何物でもない。

 

現在、管理局の守備範囲内に現れたギーオスは少数。まぁ魔法を酷使する文明とはいえ、それ故に次元震まで行った事は数少ない。

 

現れたギーオスには、変換資質持ちが対処する事で、何とかその被害を最小限に食い止めている、と言うのが局の上層部の言い分。

 

その割には何故かギーオスの情報を下層部に対して緘口令を敷いているが。十分な対処とは自分達でも思っていないのだろう。体面を保たねばならない立場と言うのは本当に大変だ。

 

それに、私の聞いた話では、一部ギーオスによって制圧された次元世界なんかを、アルカンシェルによって惑星ごと砕いた、なんて話も聞く。管理局の支配地域は着実にその数を減らしているのかもしれない。

 

更にこの件で問題となっているのが、次元渡航に関する問題だ。管理局の勢力圏であればあまり問題は無いのだが、下手に勢力圏外に移動することは現在完全に禁じられている。下手をすればギーオスを呼び込みかねない、と言う判断だそうだ。その為、現在管理局の表のルートからでは地球に帰る事が出来なくなってしまっている。迷惑な。

 

因みに私のこの情報源、局の同僚や前の部隊の友人なんかから情報を貰っている。探せば在るのだ、そういう情報交換のネットワークと言うのは。

……話が逸れた。

 

結局の所、私が訓練をするのは、対メラさん、もしくは対ギーオス戦を見据えた物、という事だ。いざとなればファントムクロスのイクリプスモードを解禁するが、アレは負担が大きすぎる。出来れば通常戦力での対処が望ましい。

 

「……ファントム?」

『ええ、ガンモード、アサルトモード、ショットカノン、イクリプスモード、何時でもいけますよ。まぁ、イクリプスは止めておいたほうが無難ですが』

「うっさい、分ってるわよ。言われなくてもね」

 

何せ身体強化をかけても神速をフルに使うと後が辛いのだ。まだ、今の状態ではイクリプスモードは使えない。

 

『それじゃ、隊の訓練の後はマイスターのところですね』

「……ちょっと気が重いわ」

 

なんて会話をファントムクロスと話しながら、頭の中に響く高町一等空尉の訓練終了の声を聞いて、隊舎へと踵を返すのだった。

 




■機動特務部隊『ホロウ』
EFF内に存在する特務部隊。EFFにおけるアグレッサーや教導、SR機による最前線任務など、様々な任務を請け負う。
実を言うとEFF所属扱いのB&Tの私兵。故に命令を下せるのはすずかかアリサの二人だけ。
ホロウはHollow、つまり虚ろ。名前はあるけど実際には名前だけ、という暗喩。
厨二病ではない。

■思考加速
御神の技の一つ、神速を思考にのみ適応した物。ティアナは亜種とか言っているが、正直正道の物と変わらない。単純に「その速度で肉体を動かしていない」だけ。正規の訓練を受けていないティアナが神速として発動させてしまうと、全力で肉体強化をしても数日筋肉痛で動けなくなる。
実は生物的にも(本人も知らないうちに)魔改造を受けてるティアナは、間違っても神速で完全に自滅する事はない。

■――そして時は動き出す。
誰もが一度は言ってみたい台詞。第一部の彼に比べ、第三部のあの人って如何見ても老けてるよな? 若者がナイスミドルくらいにはなってるよな? 老けないって設定じゃなかったっけ? アニメは第三部やらないかな? やらないんだろうなぁ……。

■金属製の奇妙な拘束具。
つけていると強制的に波紋の呼吸を覚えさせられてしまいそうなマスク。ティアナ魔改造装置の一つ。おかげでティアナは過酷な肉体修行にも関わらず、怪我の治りが早かったり、お肌が若々しいままだったりしているが、ティアナ本人は単純に低酸素運動用マスクだと認識している。

■あの人デバイス無しのが強い
元が一種の究極兵器である為、本来は単独で完結している。その為デバイスを使用するのは手加減などの為。

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