Side Teana
ある日のこと、私達はホテルアグスタの警護任務を請け負う事となった。
相変らず、最大火力である隊長陣をドレスアップさせて内部警護に回すという意味不明な戦力配置に頭を悩めつつ、とりあえず自分達で出来る事をと、広域探査魔法で戦場になるだろう地域の地形情報を把握して。
案の定襲撃してきたガジェットドローンの群を、ロングアーチから貰ったデータと組み合わせ、作成したマップデータ上に投影。かなりリアルな戦況情報を得ると共に、副隊長陣営のフォワードをサポートする形で守備陣形を整える。
そうして全てのガジェットをなんとか殲滅し、何事も無く機動六課隊舎へ戻った後のことだ。
「……地球への出張任務は? いや、それ以前になんでミスショットが……」
小声で何かをボソボソと呟きながら、此方を奇妙な目線で見てくる御剣二等陸士。ジロジロと此方を不審な目で見てくるその様は、正直見られていて気持ちのいいものではない。
「おやティアナ。今日も相変らず美しい。が、折角のその美しさを憂鬱な顔が妨げているよ。いや、その少し憂いた顔すら可愛らしいのだけれども」
「……はぁ。そうだ、いま少しお時間もらえますか?」
「おや、ティアナからデートのお誘いとは。少しとは言わず明日のモーニングを共にするまで……」
「はいはい。とりあえずロビーに行きましょうか。この時間ならもう人も居ないでしょうし」
言いつつ鳳凰院さんをひっぱり、六課隊舎のロビーへと連れて行く。
六課のロビーは既にひと気が無く、明りも既に消灯していた。
「で、相談とは?」
と、最初にその話を切り出したのは鳳凰院さんから。なんだかんだでこの人、面倒見のいいところも在るのだ。
「はい、今日のことなんですけど」
「……あぁ、ホテル アグスタの警備の仕事、だよな? 特に問題は無かったと思うんだが?」
「ええ、そうなんですが……」
言いつつ、今日の出来事のあらすじと、その後の御剣二等陸士の不審な視線についてを相談してみた。
「……御剣が?」
「はい。なんだか変なものでも見るような眼で見られて……」
「――――――」
「あの、鳳凰院さん?」
「……朱雀でいいって言ってるのに、ティアナは硬いなぁ」
と、何か少し目元を指でつまんで揉み解す鳳凰院さん。如何したのかと声を掛けると、いつもの気楽そうな声でそんな事を言って。
「これが私ですから」
「……ま、わかった。それは俺がアイツに話を聞いてみよう。ただ……」
「ただ?」
「一つ聞かせて欲しい。ティアナの、そのデバイスをくれたっていう師匠の事を」
「マスターの事を?」
なんでメラさんのことをと、思わず内心で首をかしげながらも、その言葉に首を縦に振る。
「聞きたいのは一つ。ティアナの師匠って、どんな人だ?」
「変な人です」
思わずその問いに即答していた。目の前にはポカンとした鳳凰院さんの顔。この人がわざとではなく、自然な顔でこんな間抜けな顔をするのは珍しい。
「変な人?」
「はい。鳳凰院さんみたいに、変な行動を取る人、ではなくて、……そうですね、奇天烈な行動の果てに明後日の方向から成果を引っ張ってくる人、って感じでしょうか」
私が彼を評するのであれば、当にこの言葉に尽きるのではないかと思う。
何せギーオス戦略にゲームのロボットを実現化させて対処させたかと思えば、今度は実現するのも馬鹿らしい、次元管理局の次元航行艦の出力をも上回るスーパーロボットを建造してみたり。
はてまた宇宙から飛来した謎の生命体との戦いの最中、ふらりと地球を飛び出し、次元世界を放浪して、私やキャロ、アギトなんかを救ってくれた。
でも本人曰く、救った心算などなく、ただ落ちてたから拾い上げ、その結果勝手に助かっただけ、なのだそうだ。何処の怪異の専門家だ。
「なるほど。変な人、か」
「変な人、です」
鳳凰院さんの言葉に即座に頷く。まさしく、あの人を示すのに、これ以上に合う言葉は無いだろう。
「……そうか。うん、じゃぁ俺の聞きたいことはない。アレの対処は俺に任せてもらうよ」
「はい、お手数おかけします」
「なに、可愛い子の為ならこの程度。その代わり今度俺とデートしない?」
「揃って休日が取れれば、クラナガンくらいご一緒しますよ?」
「ホント? やった、言って見るもんだね!」
そういってわざとらしく喜んでみせる鳳凰院さん。その姿を見れば、デートの約束を取り付けて若干困っているのが何となく見て取れる。コレを見てどうして彼が本気で軟派な人物だ何て思えるのだろうか。隊長陣営も若干人を見る目が足りないと思う。副隊長陣営は気付いてるみたいだけど。
――因みに、デートの約束を取り下げる心算は未だ無い。もう少しこの人の困っている顔を眺めているのも面白そうだ。
Side other
「お前か?」
「何のことだ」
管理局地上本部所属・機動六課隊舎。その中庭の一角で、二人の男が一目を離れて話し合っていた。
「惚けるな! 地球域の任務が無かったのも、ティアナがミスを起さなかったのもお前の所為かって聞いてる!!」
「余り大声を出すな」
並ぶのは、片や黒目黒髪の典型的な日本人、という容姿に、管理局の陸士服に身を包んだ青年。片や赤み掛かった髪を後ろで雑に束ねたスーツの青年だ。
熱くなっているのか大声を出す陸士服の青年――御剣護に、相対する赤毛の青年――鳳凰院朱雀が冷静に返すのだが、どうやらその冷静さが逆に彼の激情に火をつける結果に成ったらしい。
「お前、何て事をするんだ! 地球訪問は六課と地球側の連中との顔合わせだし、アグスタの件はソレを切欠になのはとティアナの絆を深める重要なイベントなんだぞ!?」
「騒ぐな、と言っている。それに、俺は何も干渉していない」
「嘘を言うな! じゃぁお前以外に誰が手を出すって言うんだ」
「それこそ知らん。――いや、大体心当たりは在るんだが」
「は、ワザとらしい。あのティアナのデバイスといい、アレだってどうせお前が家の力で作って渡したんだろう!?」
「だから違う。第一、俺が個人に特注のデバイスを渡すって、そんな事したら週刊誌のいいネタになるだろうが、馬鹿」
もう少し考えろ、と見下され、思わず苦虫を噛み潰したような表情になる御剣。
「じゃ、じゃぁ」
「多分、第三者がいるんだろうな」
「だいさ……三人目!?」
そういって驚いた御剣は、けれども突如踵を返し、何処かへと歩き去ろうとする。
「如何する心算だ?」
「ティアナに直接聞く! この時間ならまだ内線で――」
「……馬鹿が。今この時期に六課の部隊員の過去をほじくる? 下手すりゃお前、スパイ容疑でつかまるぞ?」
「ば、俺がスパイなわけ……!!」
「別に人間誰もがお前の味方ってわけでも無い。疑われるような行動は控えろと言っている」
「……くっ」
また苦々しげに口元を噛み締める御剣。そんな御剣を呆れた様子で見つめる鳳凰院は、壁に預けていた背を放し、六課隊舎の玄関口へと向かって歩き出した。
「あ、おい!?」
「俺はお前と違って、いい方向に変わるなら原作を順守する心算も無いよ」
「馬鹿な!? あれこそ奇跡のような結果って奴だろう!?」
「ふん。 ――そうそう、ティアナがお前の目線が気味悪いってぼやいてたぜ? あんまり変な目で見てやるな」
「なっ!?」
目を見開く御剣。本人は内心に押しとどめていたつもりでいたのが、周囲に知れていたという事に驚いているのだろう。
そんな驚きを見せる御剣に、心底呆れたような表情をする鳳凰院。不幸か幸いか、既に日の沈んだ薄暗い通路で、その呆れた表情を御剣が見ることは無かったが。
「じゃな。また明日」
「……ふん!」
不機嫌そうに鼻を鳴らす御剣を無視して、そのまま隊舎の外へと脚を進める鳳凰院。
その口元は、何処か不敵に歪められていたのだった。
今回少し短め。
■怪異の専門家
地球の娯楽小説の登場人物。ティアナは実在しない、と思っている。
「元気が良いなぁ、何かいいことでもあったのかい?」
■次元航行艦の出力をも上回るスーパーロボット
実際のところ光子反応炉は魔導炉に比較し出力自体に大差は無い。
ただ対ギーオス兵器であるSR機は出力の割り振りを適宜調整出来る戦闘用であり、次元航行艦とSR機が相対すれば先ず間違いなくSR機が勝つ。