リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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17 クラナガンの家/異界仮設拠点/ウルC3

Side Mera

 

「――という感じでした」

「そうか。ご苦労様」

「いえ。これだけの期間があれば、態々探らなくても」

「謙遜すんなって。ティアはちゃんと仕事やったんだから、その分は胸張ってりゃいいんだって。折角ソコソコの胸はあるんだしさ」

「ちょ、アギト!」

 

目の前でかしましく騒ぐ少女達。でも出来れば、そういうガールズトークよりの会話は俺の居ないところでやって欲しいなー、なんて思わないでもなかったり。

久しぶりに我が家、EFF仮設ミッド拠点兼ウルC3に訪れたティアナ。頼んでいた件の二人に関する報告を済ませた彼女は、そんな感じでアギトと並びリラックスしているようだった。

 

「でも、よく出てこれたな?」

「そうね。機動六課って確か、緊急時に飛び出す特殊部隊、なんだよね?」

 

奥の部屋からトレイの上に紅茶を載せたすずかが、そんな事をティアナに聞いた。

 

「ええ。なんといいますか、機動六課のフルメンテナンスのために、隊長陣営は半間休息、私達前衛もお休みがもらえたんです」

「……ほぅ?」

 

その言葉に、チョットだけ前世の記憶――というか、原作知識を掘り起こす。確か、そう、最初の休日って言うのは、何かイベントがあったような……?

 

「お休みって、前線メンバー全員で?」

「はい。私とスバルとエリオと御剣陸士の四人が休暇をもらいまして、現在全員がクラナガンに出てきてるんです」

「ティアちゃんは皆と一緒じゃなくていいの?」

「ええ、私は報告もありましたし、スバルは食べ歩きに、御剣陸士とエリオは、御剣陸士がエリオにクラナガンを案内するって」

「クラナガンを? でもそのエリオくんはミッドの子なんでしょ?」

「色々事情のある子みたいで……」

 

ミッドって何気にそういう事情のある子って多いよなぁ。いや、機動六課に事情持ちが集中しているんだろうか?

 

――じゃなくて。

 

そうだ、思い出した。今日、というか、機動六課のフォワードの初めての休日。その日こそが、彼女、ベルカの聖王の遺伝子を用い、プロジェクトFによって生み出された存在、ヴィヴィオ、と呼ばれる聖王クローンが姿を現すその日だったのではなかったか。

 

……でも、あれ? ヴィヴィオの発見って、確かエリオとキャロのデートの最中に発見されるんだった、ような?

 

「なぁ、アギト、今キャロって何処に居たっけ?」

「キャロ? キャロなら月でガイア式の教導か、SR機の教導だと思うぞ」

 

だよ、なぁ。 今の彼女、キャロは、四年前ルシエの里から追放される前、里の竜を襲っていたギーオスを倒した際、偶々里に招かれていた俺によって地球連邦へと招かれ、そのままEF国籍を得ている。

一応ルシエとしての(次元世界所属の)戸籍も持っているが、現在のキャロは既にEFFのガイア式魔術教導官という立場が定着している。

 

「だよな、キャロは月でガイア式の教導官のはずだし。……そういや、最近昇進して大尉になったんだっけ?」

「え゛っ!?」

「あはははは、ティアナ、キャロに階級抜かされてやんの!!」

「う、うっさい! 私は今あそこを離れて管理局で頑張ってんの!!」

 

因みにティアナの階級は、EFF(アースフェデレーションフォース:地球連邦軍)で中尉だったりする。これはTSFやSR、ガイア式を用いた実戦による昇格で、実はティアナ、地球に戻れば確りとした保障を受けられる結構な立場を持っていたりする。

 

――因みに、すずかはEFFの最大出資者であるB&Tグループの片割、月村の家長の妹にしてSR機の設計において重要なポジションを担っている為、名誉中将の階級を持っていたりする。付け加えておくと、俺のEFF内での階級は大佐だったりする。

 

年金が保証されてるのが嬉しいが、大佐の階級を得る為にやったのが、俺の体質――ありとあらゆるエネルギーを無尽蔵に吸収/変換できるというものを利用し、核により派手に汚染された中国大陸を浄化していく、というもの。TSFを使ったとはいえ、中国大陸を走破するのは洒落にならないほど草臥れた。時間的にもすずかに拗ねられたし。

 

俺と言う存在に関しては、地球連邦政府、及び地球連邦軍の一番頭の部分には知らせてある。が、連中、俺に戦闘ではなく環境改善活動の仕事ばかり回してくる。なんでも「兵器として生まれたからと言って、兵器として生きるなんてナンセンスだ」だそうだ。――いや、格好いいと思うんだけどね、でも普通、政府側って悪役じゃないの? なんでそんな良い人側なの? こういう所って普通悪人側じゃないの?

 

おかげで俺がギーオスと戦うのは、SR機でも苦戦する超級の個体が出現したときのみ。それこそ本当の意味で最終兵器扱いされているような気もしないではないが、普段の俺の仕事は本当に「草花を愛でる」事なのだ。

もう、本当になんだかなぁ、である。

 

話が逸れた。

 

「言っておくが、ティアナ、お前一応任務中扱いだからな?」

「ええっ!? 任務って、なんで!?」

「一応地球連邦軍で階級を取ったからな。任務中にしておけば給料も保証も付くし」

「いや、でもそれは流石に権力の乱用じゃ……」

「大丈夫よ、管理局世界に潜入して、現地の文化や政治体系を学び、更に懸念される問題に対する草となるっていう、何もしなくても特に問題ないお仕事だから」

「現地の文化や政治体系?」

「ティアナが電話越しで話してくれた管理局の話、マスターがレポートにして提出してたんだよなぁ」

「………」

 

引きつった表情のティアナ。だがティアナの話って結構纏まってて聞き取りやすいし、例えばレジアス中将の話なんかだと、ミッドの社会的に見れば質量兵器は否定的だけど、現状はそれ以外にどんな方法が考えられるか、とか具体的だし。

 

なんとなくレポートにして提出してみたのだが、これが他次元世界対策チームに受けたのだ。ならばと折角なのでティアナのことを任務扱いにしてもらっておいたのだ。

 

「因みに、コレが預かってたティアナの地球連邦銀行の通帳」

「げっ!? 数字が七桁!?」

「八桁目前で、しかもドルだ」

 

口をパクパクさせるティアナ。いやだってほら、ただの中尉ならまだしも、ティアナの所属はEFF統帥本部直属の特殊部隊所属だから。

 

「……ミッドの物価と地球の物価で大体……ドルなら同じくらいで……って事は…………なんだろう、ミッドで真面目に働くのが馬鹿らしくなってきた」

「でもそれ、ギーオス討伐の時の危険手当が殆どなんだよ? 幾らガイア式の使い手で相手が幼生だからって、ギーオスの群に四人で突っ込んだんでしょ?」

「……あぁ、あのときの」

 

懐かしい話が出てきた。アレは確か、ティアナがまだ11~12歳くらいの少女だった頃の話だ。

 

その当時矢鱈と力を渇望し、それ以外を全て棄てる、というヤケクソなティアナ。ならば力とは、戦場とは何かを知らしめる為、同時期に拾って自暴自棄になっていたキャロ、ガイア式をインストールしたが、まだ人見知りのするアギトの三人を連れ、発見されたばかりのギーオスの巣に特攻を仕掛けたのだ。

 

結果ティアとキャロ、アギトは何かを悟ったかのように、ソレまでの陰鬱とした空気を棄て明るい笑顔をするようになったのだ。

 

「生きてるって素晴らしい!」とか、「朝日ってこんなに綺麗だったんですね」とか、「…………」無言で何かを噛み締めて居たりとかしていたが。

 

――大分話が逸れた。

 

結局、現在キャロはEFF所属で、管理局の勢力には所属していない。となれば当然エリオとキャロがデートするというイベントも存在しなくなるわけで、となれば果たしてヴィヴィオは無事正史通り保護されるのだろうか、という疑問が浮上するわけで……。

 

「……よし、ちょっと四人で散歩にでも行くか」

「ええっ!? またいきなり!?」

 

何かティアナが言っているが、基本的にティアナの意見は無視の方針でいく。まぁティアナも変な方向にワーカーホリックになっているし、このまま此処に滞在させると、下手すると訓練用シミュで訓練するとか言い出しかねない。

生へ執着するのはいいのだが、ティアナは現状でギーオスだろうが次元犯罪者だろうが十分に相手できる。油断大敵と教えたのは俺だが、余裕が無いのもダメだろう。

 

もし修正力なり六課の転生者くんらの活動で正史通りヴィヴィオが見つかるならよし、見つからなければ少しでも可能性を上げる為、俺達もクラナガンを歩いておく程度しても問題はないだろう。

 

第一、散歩ならティアナの気晴らしにも成るだろうし。

 

「まぁ、メラ君が突然なのはいつものことだし」

「そそ。マスターの行動に一々突っ込み入れてたってしゃーないのはティアもしってるだろ?」

「……そうね、そうだったわね。メラさんって、こんな感じだったわよね」

「懐かしいだろう?」

「自分で言うなっ!!」

 

ティアナのナイスな突っ込みに思わず笑顔を浮かべつつ、とりあえずクラナガンの美味しいスイーツか軽食屋が無かったかと記憶を探り、ついでに地球のアリサとキャロにオススメのお土産は無い物か、なんて頭を悩ませつつ、三人を連れてクラナガンの街へと足を踏み出すのだった。

 

 

 

そうして、軽く昼食を取って四人で喋りながら街中を歩いているそんな最中。不意にティアナのファントムクロスから通信音声が響いた。

 

「エリオからの全体通信?」

 

ついに来たか、と少し目を細めながら、ファントムクロスの待機状態であるカードタブレットに向けて通信を送るティアナに視線を向ける。

 

「――――――はい、スターズ2、直ちに現場へ急行します」

「仕事か?」

「うん。御剣陸士とエリオが下水道から出てきた、レリックを引きずった少女を保護したって……」

 

なるほど。転生者の片方が行動を起していたわけか。情報通り分りやすい。

まぁ話を聞く限り、御剣とかいう転生者の方は、原作の情報をかなり重要視しているみたいだし。逆に原作の情報に対して無頓着である鳳凰院というのは、ティアナからの印象も含めかなり警戒心を掻き立てられる。

 

「場所は?」

「サードアベニューの、F23」

「此処から近いな」

「私はここから現場に向います。メラさん達は急いで仮設拠点、ウルに戻ってください。お願いしますから」

 

何故か帰宅する事を懇願される。何で?

 

「だってマスター、巻き込まれれば何のためらいも無く暴れるだろう?」

 

――まぁ、暴れるだろう。最近環境保護活動しかしてなかったから、ストレスも溜まっている。確かガジェットが暴れるのって、此処の廃棄区画だった筈だし、被害も出ないだろうし。

 

とはいえ確かに現状で俺が暴れるのは危険極まりないか。元々の独立戦闘ユニットとして活動しているならばまだしも、現状の俺はEFFに所属している。下手に姿を現し、リスクを背負う必要は無い。

 

……が、然し、折角クラナガンの市街地にいて、身近な場所で戦闘が在るというのだ。しかもその部隊は、物語の中核をなす機動六課。

 

別に『原作』という区切り自体に対する興味は殆ど無く、他の転生者がどんな風に原作を曲げようとも俺は気にしない。如何でもいいのだ、実際。

ただ問題は、ソレが此方に及ぼす影響。地球などは既に原作がどうのこうのというレベルから悠に乖離してしまっている。

 

俺がキャロやティアナに与えた影響を考えると、他にも何か影響が出ていないとも限らない。此方の影響が向こうに影響を与えているのだ。逆が無いとは言い切れない。まぁ杞憂だとも思うのだが。

 

「ちょっと思うところがある。裏でこっそり見てるよ」

「え、ちょ」

「すずか、ウチに転送するから、サポート頼む。アギトは俺と」

「もう、仕方ないなぁ」

「合点承知! ……じゃない、了解だマスター!」

 

言いつつすずかを自宅――ウルC3へと転送し、次いでアギトと共にバリアジャケットを展開。迷彩系の術を展開し、即座にその場を離れた。

 

「ちょ、私に如何しろっていうんですかー!」

 

何かティアナが叫んでいたが、普通にお仕事すればいいと思うよ?

 

「……ティア、ガンバ」

 

何かとなりでアギトが手を合わせて拝んでいたが、むぅ、何か失礼な事を言われた気分になる。

はて?

 

 

 

 

 

結局の所、詳細こそ異なるが、ルーテシアによる強襲、ルーテシア捕縛からクアットロ、ディエチの強襲、ヘリへの砲撃から撤退までの一連の流れはあらすじ原作と変化は無かった。

 

予定調和の如く機動六課により保護される聖王のマテリアル・ヴィヴィオ。キャロの存在を欠き、然し火力的には原作のソレを上回っている機動六課。

何も問題は無い。その、筈なのだ。

 

「――――――」

「マスター?」

 

だけれども、何なのだろうか、この感覚は。

背筋がざわめく。血が凍える。肉体、魂、その両方が危機を訴えている。

たかだか戦闘機人の戦闘如きで、俺の六感が何かを感じた、と言うわけではないと思う。

けれどもこの戦慄。それこそマザーレギオンと初めて相対した時の感覚にこそ似ている。

 

「――一体、何が……」

「マスターってば!」

「……アギト、撤退する」

「聞こえてるなら返事しろよ! ったく」

 

言いつつ浮き上がる球体方魔法陣。光に飲み込まれるようにして、俺達はその場から家へと向けて撤退したのだった。

 




■すずかが名誉中将、メラが大佐
=ヒモ。
ヒモって言うなっ!!
機動特務部隊ホロウ=実質すずかの私兵=そこの部隊長であるメラはすずかのヒモ
ヒモじゃないっ!!

■ガイア式教導官キャロ軍曹
本来は大尉だが、訓練部隊出向の折に軍曹という事に成っている。
ガイア式における理論、技術指導、実戦演習などを請け負っており、ガイア式に関わる人間は少なからず彼女の教導を受ける事になる。
そもそもが特務部隊ホロウの任務の一つとしての教導だった。メラが異世界によく出回るため、代わりにキャロが教導を行なったところ、「男よりも可愛い女の子がイイ!」という老若男女の声なき声(全体的に成績向上)により、以後キャロが引き継いだ。
名物として『フリードの火刑スカイラン(飛行訓練。背後からフリードが火を噴いて追ってくる。集中力が途切れれば墜落かアフロ。』『ヴォルテールのスタンピング生存術(これでもかとヴォルテールがアイザックさん張りに踏みつけてくるので、とにかく逃げ回る生存訓練。』『SR復興作業(SR機を用いた復興作業。SR機の訓練にもなり、同時に復興作業にもなるので民間から人気』『キャロせんせーの理論講座(眼鏡型HMDを装備したスーツ姿のょぅι゛ょの姿に萌えつつ受ける講座。大人気だが受講できるのは良く訓練されたエリートだけ。』などがある。

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