Side Mera
曖昧な記憶に従うまま、地上本部の地下通路をうろうろと放浪する。
《なぁ、マスター》
「なんだ」
《道、迷ったのか?》
「……」
いや、迷った、と言うわけではない。何せそもそも目的地が存在していないのだ。
目的地へ行く際に経路を見失う事を道に迷うと称するのだから、今の俺は未知に迷っているわけで当て無き道を右往左往しているだけ、だ。うん。(混乱中)
「いいから。そういうのも道に迷ったって言うんだよ」
「……おぉぅ」
うぅ、アギト、拾った当時は後ろを付いてくる雛の如く可愛らしかったんだけど。娘の成長を見守る父親の気分ってこんな感じなんだろうか。女の子の成長は早い。
そんな事を考えながらふよふよと通路を飛んでいると、不意に真正面、通路の向こう側から何かが近付いてくる気配。
剣を片手で下手に構え、相対する何かに向けて視線を跳ばす。
《イキモノの気配に、何か混ざってる感じ。でも、混ざってるのは生命的なのじゃなくて……》
「戦闘機人」
言っている間に視界が捉えた光景。其処には、空中に浮かぶサーフボードに乗ったのと、ローラーブレードで通路を爆走する全身タイツみたいな格好をした少女達。
うわぁ、なんだろう。こう、言い様も無いエロスを感じさせる格好。あれ、顔芸の趣味なんだろうか。
《マスター、後ですずかに言いつけるぞ》
「ソレはなしで」
首を振り、改めて右手に持つデュランダルを構える。
向こう側から此方に急速接近する二人分の機影。けれども連中は此方に気づいていない。何せかなり確りとしたステルス迷彩に加え、しっかりとマナを隠蔽しているのだ。この状態では御神の剣士だって位置を把握するのに数秒はかかるという代物だ。
――御神の剣士相手に完全阻害? 無理無理、あの連中はこの世界の公式チート。しかも数が減っている所為で補正が強化されたのか、死亡フラグを平然と圧し折る怪物なのだ。 其処に更に月村の血が混ざり生まれた二人のお子様、現在ドイツにいる雫ちゃんとか、もう現状で既に天賦の才を感じさせる。下手をすれば俺を殺せるレベルだろう。
改めて意識を集中、デュランダルを構え、目の前から迫る戦闘機人たちに向けて剣を一閃させる。
音も無く切断されるソレ。空いている左手で受け止めると、そのままソレを光学迷彩に含め、音も無くふよふよとその場を離脱。交差点で適当な岐路に入り、人気の無い方向へと舵を取る。
《マスター、ソレ何?》
「知らん。が、多分連中の重要な物だと思う」
《いいのか? 取っちゃったりして》
「襲撃犯なんぞに気を使う必要はないだろう」
《ま、そりゃそーか》
言いつつ、周囲にひと気が無い事を確認して、適当な場所に脚と奪い取ったソレ……スーツケースのような、けれどもかなりでかく頑丈な匣を開けてみる。
何かロックのような物もあったが、それはアレだ。マナによる疑似単分子でスパッと。
「さて、何が入っているのやら」
《お宝お宝!》
ギィ、と音を立てて開いたその鞄。中に入っているものを見て、――静かに匣を閉じた。
《……いや、いやいや! 待てよマスター、なんだこれ?!》
「そうだな、眼を逸らしてもしかたないよな」
言いつつ、再び開いた匣の中。其処には、全身を血塗れにし、膝を折りたたむようにして匣の中に「仕舞われ」ている女性が一人。多分俺の外見よりも二~三歳ほど年下だろうか。千切れかけたその左腕からは、何等かの金属パーツが露出している。
《これ、戦闘機人? 大破した連中の戦力か?》
「いや、制服が管理局だ」
《スパイって可能性も在るだろ?》
「顔に見覚えが在る。確か、ティアナの相棒の姉、ギンガ・ナカジマだろう。確かあの姉妹は管理局が接収した戦闘機人だった筈」
接収、という言い方は余り良くないのだろうが、実際やっていることはそれに等しい。
管理局が襲撃した戦闘機人プラント。けれどもその実体は管理局最高評議会直轄の研究施設だ。
最高評議会は次元世界安定の為、管理局に新たな戦力を得ることが目的。けれども戦闘機人などは非合法な技術とされている。けれども必要性は在る。ならば如何やってその必要性を認めさせるのか……答えは『実績を見せる』、である。
そうして開発された戦闘機人を管理局が接収し、社会貢献の場を与えるという名目上合法的に戦闘機人を徴用する。これで管理局は合法的に戦闘機人と言う新たな戦力を手に入れられたわけだ。
なんともお笑い種な話では在るのだが、現場の職員達からしてみれば皮肉な話だろう。
特に、現在ミッドの地上の平和を願い戦っている彼女達にしてみれば……。
《でも、管理局の人間なら余計に拙いんじゃないのか?》
「ああ。でも、かといって放置することは出来ないだろう」
現状のギンガ・ナカジマの状態は、良く言っても瀕死。悪く言えばスクラップと言ったところだ。少なくとも管理局の表の技術で彼女を蘇生させる事は先ず不可能。
それこそ違法技術者であるジェイル・スカリエッティーのように生命科学に優れた人間か、我々のようにぶっ飛んだ古代文明の技術を解析した突飛な技術力を持った人間にしか治療は難しいだろう。
「……いい、俺が連れて帰る」
《いいのかマスター? あたし達の存在が局に知れるぞ?》
「そのときは、その時だ。別段この世界に絶対留まる必要が在るわけでも無い」
《ティアはどーすんだよ?》
「月のポーターは教えたろ? ……それより、アギト、口調。すずかに怒られるぞ」
《げ、……気をつける》
女の子は女の子らしい口調でおしとやかに、と言うのがすずかの教育方針。アギトのネイティブな喋り方はワイルドな物なのだが、その喋り方をするとニコニコしたすずかが延々喋り方を矯正してくるのだ。
別に怒っているわけではない、と言うのが本人談なのだが、正直普通に怒られるよりもあれは恐い。
「とりあえず、この子は急いだほうが良さそうだ」
《ティアの援護は――》
「元々万が一、だ。過保護すぎても良く在るまい」
《そんなもの……ですか?》
若干音程が変な敬語を使うアギトに苦笑しつつ、匣からそっと引っ張り出したギンガ・ナカジマの姿勢を仰向けにのばす。流石にこの重症で匣の中に屈伸っていうのは辛そうだし。
で、その状態で通路床の建材と彼女を治めていた匣を少し弄り、簡単な担架を作り出す。分子間結合の分解・再構成による簡単な錬金術だ。一応魔法でも出来る区分なのだが、少なくともミッド式では処理速度的に少し辛い分類に入る魔法だろうか。
そうして担架にギンガ・ナカジマを固定し、そのままガイア式魔法陣を展開し、跳躍。管理世界、それも管理局直下のこのミッドチルダで勝手に長距離転移を行なう事は違法に成るのだが、我々の使っているのはミッドの言う魔法とは違う技術だし……。
と言うわけでスパッと転移。
――しようとしたのだが。
「――っっっ!!??!!??」
背筋を襲うゾッとする悪寒。思わず術式が乱れるのを感じながら、視線を気配の方向に向けて集中させる。
「マスター?」
「……やばい、来た」
口に出してから、その言葉を理解した途端に再び背筋に冷たいものが奔る。
何が来たのか。意識して理解したわけではなく、感覚として理解した。
途端響く爆音。けれどもそれは今までの爆発とは規模が違う。
「マスター?」
「アギト、彼女と一緒に送る。すずかに頼んで医療用ポッドに入れるように指示しておいてくれ」
「ちょ、マスター!? 何が来たって――」
――ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!
夜、それも地下にある通路にまで突如として響き渡る甲高い音。その声が意味する物は一つだけ。
「――何かはわかった。でも、なら尚更マスター一人には出来ないだろう!?」
「問題ない。俺は元々そのために生み出された」
「そういう言い方はすずかに怒られるぞ」
「言い方が悪かったな。生まれながらにその為の専門家だ。――ギンガには即座にある程度適切な処置が必要だ。すずかへの伝言と処置の補助を頼む」
「……仕方ねーな。でもなマスター、無茶はすんなよ?」
「ああ。頼んだ」
言って、展開していた転移術式の対象から自分を外し、アギトとギンガ・ナカジマを転送。正しく転送がなされたのを確認し、次いで自分を地上へと転移させる。
そうして転移した地上本部の上空。雲を被る摩天楼のその中腹辺り。ビルの外殻に足を置きながら、眼下に広がる光景を眺める。
その場にあるのは、全長100メートルをゆうに超える赤黒い巨体。
「……ギーオス。来た、か」
特徴的な若葉マークのようなその頭と、翼竜よりもどこか恐竜のような筋肉質な体。
それは間違いなく、EFFにおける怨敵であり、同時に世界を滅ぼす敵。
嘗てのアルハザードの戦乱の時代、滅び行く世界を修正する為に生み出され、魔力を喰らい、そしてその果てに暴走し、魔力を喰らう世界の敵たる怪物へと成長した恐ろしい存在。
元々は世界のためにと生み出されたのに、結局あれはその悪食故に世界を滅ぼす。それ故に俺と言う対抗手段が生み出され、他にも様々な対抗手段が生み出されたが、結局先史文明は滅亡。それに引き摺られるようにギーオスも眠りについていた。
けれども、ギーオスはその永い眠りから眼を覚まし、そうしてついにこのミッドチルダの大地へとたどり着いた。そう、たどり着いてしまったのだ。
――奴らにとって、最高の餌場となりうるこの世界に。
「――ふぅ」
小さく息を吐く。正直なところ、逃げてしまいたい。というかぶっちゃけた話、俺が連中に向かう義務など欠片ほどしかないのだ。
俺は確かに対ギーオス用の兵器として生み出された。けれども、だからと言ってソレに従う義務は何処にも存在しない。それに全てを捧げる必要も全く無い。
俺に課せられた物といえば、唯一古代文明の、俺の創造主たちの願いくらいな物だろう。――それこそが重苦しいのだが。
けれども、俺はそんなものに縛られる心算は一切無い。
俺の矜持は唯一つ。全て自分のために行なう。誰かの為、なんて言い訳をする心算は無い。全て、自分の望むとおりにやる。
故に、此処では逃げられない。逃げればあれは間違いなくこの世界を蹂躙する。そうして食うだろう、魔導師を。
ティアナは確かに俺の元で育て、地球圏最強の一角を名乗れる程の腕前には成長した。けれども所詮あの子は人間だ。幼生や中期ならまだしも、完全な成体のギーオスに対抗する術は現在持つまい。
ならばその末路は容易に想像できる。ギーオスに特攻し足止め、然る後アルカンシェルにより周辺足止め部隊ごとの浄化。管理局の行動パターンは大体それだ。
管理局の手段としてはソレしかないのだろうが、けれどもソレをやらせる心算もおれには無い。
「輝け、我が剣!!」
噴出すマナの輝きが手に持つデュランダルを覆う。白い輝きとしてあったソレは、今や肉体と魂が完全に同期し、キラキラと輝く白銀色へと染まっている。その白銀はギラギラとしたそれではなく、降り注ぐ太陽のお日様のように暖かい。自分の色ながらお気に入りだったりする。
ブースト、トランザム、覚醒、ゲージアタック。何でも良いが、要するに一定時間の爆発的能力増加。銀の如く輝きを纏った白は、全てを断つ力を与えてくれる。因みに現在の持続時間は1時程度。
その白銀色のマナを帯びた剣は、声に呼応するかのごとくその勢いを爆発的に増加させた。頭上に掲げる白銀の剣。その先から伸びた光の柱は、天を覆う灰色の雲を裂き、空に銀色の月の光を見せた。
「光と闇の狭間に還れ!!」
文言を唱え、言葉と共に剣を振り下ろす。
白銀の光は空を裂き、夜の暗闇すら引き裂いて、巨大なギーオスに最初の一撃を叩き込んだのだった。
Side Other
「なんだ、ありゃ」
その言葉を口にしたのは、地上の異変を聞きつけ、ズタボロに中破したスバルを抱え、大急ぎで地上へと上がって来た機動六課フォワード陣の中、スバルをその背に担いで居た御剣護のものだった。
地下、および地上本部に取り付いたガジェット、その大半こそ始末した物の、既に現有戦力はボロボロ。
機動六課隊長陣は六課隊舎へ向かった為、此処に残されているのは既にフォワード陣のみなのだが、その内スバルが中破、ティアナとエリオが対ガジェットで消耗し、唯一余裕を残すのは、回復力に特化したレアスキルを持つ御剣一人であった。
故に、まだ体力に余裕の在る御剣がスバルをその背に背負って地上へと登ってきたのだが。
そんな彼の視線の先、地上本部面する海岸線に立つ巨大な影。それは鳥のような姿をして、けれどもくちばしは無く、羽毛も無く、体毛すらない。
何処かの恐竜か翼竜、もしくは何処かの次元世界の竜だと言われればまだ理解の及ぶ、そんな巨大な生き物。
ただ、理解は及べど、それを受け入れる事は絶対に出来ない。何せ、現状あれが敵対するのだとすれば、ソレは間違いなく管理局の敗北を意味するのだから。
「――あれも、スカリエッティーの仕業、か?」
「違う事を祈りたいが、だからと言って敵対的な存在であるのは事実みたいだ、な」
エリオの言葉にそう返す御剣だが、内心では現状の意味が分らずに完全にパニックに陥っていた。
――御剣護は転生者だ。原作順守派と呼ばれる、原作のイベントを神聖視あるいは特別視し、自ら及び他者による改変を好まないタイプの。
そんな彼にとって、この場、この会場で起こりうる事件は、戦闘機人による地上本部襲撃と、同時に機動六課隊舎に対する奇襲攻撃。その二つだけのはずだった。
ところが蓋を開けてみればどうだ。実際に起こったのはその二つに加え、現状わけのわからない巨大生物が地上本部前――自分達の真正面に陣取っているではないか。
そんな恐怖に凍りつく群集の視線の中、不意に海岸線、立ち並ぶティアナたちから見て三角形を結ぶ場所。そこから橙色の光の柱が立ち、ギーオスへ向けて直撃した。
「ほ、砲撃魔法?」
誰かの呟きは、然し恐怖の息を呑む音に掻き消された。なぜならばその場には、その砲撃魔法を喰らっても傷一つ無い巨大な怪獣の姿が、依然変わることなく顕在であったからだ。
そしてある程度の感知スキルを持っている人間ならば尚理解できた。その砲撃が、オーバーSランクによる超高威力砲撃であり、少なくとも一般的な航空部隊所属の魔導師でさえ、あの一撃を受けては間違いなく再起不能になるほどの一撃だ。だと言うのに、怪物はそれを受けて尚平然としている。
ソレを理解していた感知系魔導師の前。不意に響く甲高い音に、思わず耳に手を当てる管理局員達。そんな彼らの目の前で、怪物の口から放たれる光の柱。ソレは砲撃魔法の立ち上った辺りを直撃。大地を走り、その場に深い亀裂を刻んだ。
「なんで、あれが……」
「ティアナ、知ってるのか?」
そんな中、不意に声を上げた物が一人。御剣の視線には、かの巨大生物に視線を向けて青ざめる少女が一人。
「知ってる、というか、局員の伝手で出回ってた裏情報って奴ですよ」
勿論彼女はそれ以上にその生物に対する知識を備えている。それ故に、現有戦力で怪物を打破できない事も、誰よりも良く知っていた。故に、管理局にその事実を知っている人間がどの程度存在するのか、過去に調べようとした事があったのだ。
が、その現状は少女が予想していたよりも酷かった。あのトリ、ギーオスが魔力を糧とし、最大で百メートルを超える怪物になる、と言う事実は既に管理局も把握していた。が、その事実は一般に知れることなく、上層部がその事実を隠蔽していたのだ。
……それは、そうであろう。何せ自分達の現在の基幹技術が、世界を滅ぼす怪物を生み出しかねない、などと。
そんな事が事実だったとして、だからどうする? 魔法を棄てるか? そんな選択肢はありえない。何せ管理局は、質量兵器を悪とし、比較的クリーンな魔法を絶対としていた組織だ。高々一つの脅威にその根本を曲げるなどありえない。そういった考えの下、ギーオスと言う驚異は一般に隠匿されてしまったのだ。
「第一種駆逐指定危険生物!? な、なんでそんなものがこの世界に!?」
「なんで、よりも、あれを如何するべきか、です。――言っておきますけど、アレ、人を喰いますよ?」
その言葉を周囲の人間も聞いていたのだろう。一斉に周囲の人間の顔色が青ざめた。
「く、食うって人をか!?」
「人を、というより、特に魔力を持った生物を好むそうです。最初の発見記録は高町隊長の物で、通信の途絶した現地調査部隊の確認に行ったところアレと遭遇、魔力どころか魔法すら喰うアレの所為で、二度目の撃墜を経験したとか」
「ま、魔法を喰う?」
「ええ。さっきの見たでしょう? あれ、魔法を喰ったんですよ。……交戦経験のある辺境自然保護隊なんかによると、唯一変換資質による攻撃は通用するらしいんですが、あのサイズでは……象に豆鉄砲って所でしょうね」
「変換資質――なら、ボクが!!」
「やめときなさい。あのサイズにアンタの電撃じゃ、先ず間違いなく通用しないわよ。それともアンタ、瞬間的にとはいえ、落雷を超える電圧なんで出せる?」
そのティアナの言葉に沈黙するエリオ。あの巨体の飛行生物だ。先ず間違いなく、雷雲の近くに居れば落雷に遭遇する。少なくとも、ソレに耐えうる存在であると見るのは間違いではないだろう。
「何か有効な手段は!?」
「魔法は殆ど無効化されるって聞いてるわ。――やるなら、私達が足止めしてる間に、次元航行艦のアルカンシェルで私達ごと浄化、って所かしら?」
「なっ!?」
「あの規模のサイズの怪物を倒す手段なんて、他にあります?」
在るなら是非その手段を教えて欲しい、なんて嘯くティアナに、御剣を初めとした周囲の局員達の顔色がどんどんと青ざめていく。
「――おい、何だアレ!!」
そんな中、不意に誰かがそんな声を上げた。その誰かの指差す先、管理局地上本部。その中層辺りから、白銀色の柱が天へと伸びていた。
その白銀の柱は次第にその輝きを増し、ある瞬間、天を、空を、宙を裂いて、今にも襲い掛からんとしていたギーオスに向けて凄まじい勢いで叩きつけられた。
――ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!
そんな甲高い悲鳴と共に吹き飛ばされるギーオス。その瞬間ティアナが少しだけ身を硬くしたのだが、ギーオスを吹き飛ばしたその一撃に唖然としていた周囲は、誰もその事に気付かなかった。
「あれは……何かの魔法か?」
「――ロングアーチ、ロングアーチ? ……ダメみたいですね。せめてロングアーチが生き残っていれば、まだ何か分ったかもしれないんですが」
ティアナのそんな事場に、少しだけ冷静に現状を思い返した周囲の局員達。確かにあのギーオスは驚異だが、今は他にも何か出来る事が在るかもしれない。
そうして立ち止まっていた局員達は、再び動き出す。未だ燃え盛る本局の中に取り残されている同胞達を救うために。
「とりあえず、ティアナ? 俺達は如何するべきだと思う?」
「残存ガジェットの討伐がほぼ完了した現在、最大の脅威はあのトリです。なら――っ、陸のアインヘリヤル!!」
「っ、確かにアレなら――でも、あれも魔力砲撃だった筈だが……」
「それでも衝撃くらいは通るでしょう。人を餌にされるよりはましでしょ」
「確かに。でもどうやって……」
「それは大丈夫だと思いますよ。ゲイズ中将が現状を把握すれば、先ず間違いなく使うでしょうから」
と、そんな会話がなされている最中。宙では赤黒い怪物に向かって飛翔する火の玉が、その勢いのままに怪獣に対して体当たりを叩きつけていた。
響く轟音と怪獣の悲鳴。けれども火の玉は一切手を緩めることなく、絶え間なくギーオスに対する攻撃を続ける。光の玉――メラも理解しているのだ。現状、被害を最低限で食い止めるには、ギーオスが飛び立つ前に勝負を決めなければ成らないと。
故にメラが狙うのはギーオスの翼。ギーオスの推進能力は、喰らった魔力を胴体や翼骨から噴出しその反動で加速を得る推進方式と空力制御によるもの。かなり単純なシステム故に堅牢性は中々の物だ。
然しその航空能力の重要な部分を羽による空力で制御しているのも事実。故に、羽に大穴の一つでも空ける事ができれば、翼骨を叩き折れれば、ギーオスが空を飛ぶことは不可能となる。とはいえ、ギーオスには驚異的な再生能力もあるのだが。
と、そんな最中、防戦一方と成っていたギーオスが事態を打開すべく、その身に打撃を受けながらも怯むことなく、その口元の空気が薄らと歪みだす。
先ほどの光線が放たれる、とその光景を見る誰もが予感していた。が、然しメラはそれに臆することなく、逆に前へ飛び出し、そのままスッとギーオスの背後へと回り込んだ。
ギーオスはそれが自らの死角に入ったと認識した途端、体ごと位置を変えて照準を合わせようとして。そうして、意識的制御の薄くなった腕部翼骨を叩き折った。
――ピギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!
響き渡る怪鳥の悲鳴。けれどもそんな事は無視とばかりに、ギーオスに向けてプラズマ火球を連射しながら少し距離をとるメラ。
そんなメラに向けて、再びギーオスの口元のけしきがゆらゆらと揺らめく。
今度こそ当るかと思われたギーオスの超音波メス。そしてソレは見事メラへと直撃した。
「――ぐぅっ!!」
バチバチと音を立てながらメラの身体を削る輝き。然し、常人なら一瞬で粉微塵に分解されてしまうであろうギーオスの超音波メスを、メラはその身で受けて尚耐えてみせる。
「――っ、つああああああああああ!!!!!」
そうして、敵の攻撃に身を晒し、攻撃を受けて尚得た数瞬の時間。その時間を得て構成されるのは、通常のソレを悠に上回る威力を持つ、白銀に輝くプラズマ火球。
超音波メスを放ち、一切動きの取れないギーオス。そんなギーオスへ向けて放たれた、白銀色の巨大なプラズマ火球。
凄まじい速度で打ち出された白銀の輝きは、ギーオスに直撃。直後ギーオスは、内側から弾け飛ぶ様に爆発。その巨体を粉みじんに打ち砕かれたのだった。
「……終わった、の?」
そんな光景を見ていた、管理局地上本部の局員達。
目の前で行なわれた、常軌を逸した御伽噺のような戦い。ミッドチルダの娯楽でももう少しリアリティーが在る、と言うほどに現実味の無い戦い。
100メートルにも達しようかと言う超巨大怪獣と、猫とノミの戦いにもならない、と言うような小さな銀色の炎の玉の戦い。
「……なんだったんだ、いまのは」
何処かで誰かが呟いたそんな言葉。それこそが、その場に居る、ソレを目撃した全員の、偽らざる心の声だったのは、間違いないだろう。
チェック中、ティアがディアになってた。
ディアボロなティア――『アリ』だッ!!
(´・ω・`)ないわー
他にも粉微塵が粉ミンチとか。何時の間にオラオラされたんだろうか。無駄無駄かな?
■マナの色
魔力と同じく個人によって色が異なる。色彩は魔力に同じ。
メラの場合魔力色は白。やたらとA’s関連に被るとは思うが気のせいである。
■ゲージアタック
正式名称未定。半疑似生命体であるメラが、その体に過剰なエネルギーを流し込む事で一時的に全能力にブーストを掛ける技。自動車のメーター外速度みたなもの。
体に悪いので連続使用は無し。
■その頃のなのはさん一行
なのは……炎上する機動六課隊舎を前に自失呆然。まさになの破産ッッ!! 貯蓄とか通帳的な意味でッ!