リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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22 X ~ イクス ~

 

Side Mera

 

助かった。いや、成体ギーオスとの戦いは何度も経験しているのだが、バックアップ無しに生身で成体と戦ったのは、流石にこれがはじめてだ。

 

それだけならまだしも、今回のギーオスはその養分たる廃魔力が大量に在る世界での戦いだ。つまり無尽蔵にエネルギーの供給され、疲れの知らない状態のギーオスと戦う羽目に成ったのだ。

 

しかもあの状況、ギーオスを逃がしてしまうと増援を呼ばれる可能性が跳ね上がる上に、空戦でギーオスを相手取るのは流石に辛い。

 

幸運だったのは、管理局の連中が此方に対して手を出してこなかった事。もし管理局の局員が魔法で此方を援護してきていたりすれば、その魔力を喰ったギーオスが更に息切れ無く此方にせめて来ていたかもしれないのだ。

 

ある程度余裕を持ってギーオスを倒すことには成功したが、全力状態の持続時間はやはり一時間に満たない。

 

今まではまだ良かったが、これ以降、ミッドチルダへの航路をギーオスに知られてしまった以上、ミッドチルダは先ず間違いなくギーオスの激戦地区になるだろう。何せ此処は奴等にとって凄まじく住みやすい環境であるはずだ。

 

「――そろそろ、ティアナにも撤収準備をさせておくべきだろうか」

 

嫌がるだろうが、それでも今のティアナは(俺の調きょ、もとい人格矯正の結果)兄の汚名を晴らすのは最終的な目標で、執務官はその手段。命を賭けることは否定しないが、その賭けどころは冷静に判断できる程度には育てて在る。

 

少なくとも、管理局に付き合ってギーオスに生身で挑むのがどれ程の自殺行為かというのは理解しているだろう彼女が、愚かな選択をするとは思わない。

 

――まぁ、あの子も何だかんだで面倒見がいいから、友達を見捨てられない、なんて言い出すかもだけど。

 

少なくとも今の管理局の法体制では、ギーオスへの抵抗は厳しいと思う。確か六年後くらいには、今回の事件の反省から対対魔法兵器の開発が進んでいる筈なのだが。

 

「うん? メラ君、地球へ戻るの?」

「此処も、ギーオスに目を付けられた。魔法至上主義では対抗措置が無い」

「あー……。なのはちゃんたち、大丈夫かな?」

「少なくとも、他の誰よりも危機意識は持っている筈だ」

 

その昔、俺がまだ目覚めたばかりの頃、次元世界を超えたギーオスを追う最中、高町なのはらしき少女を助けた事が在る、と言うのは、既にすずかも知っている。

 

なのは達5人と映った写真を見せられたとき、ポロッと零して説明する羽目になったのだ。まぁそうした理由もあって、俺達はこの世界で活動する際姿を変えているのだが。

 

「そう、だね……」

「――いざとなれば、助けに行けばいいさ」

「!? いいの?」

「ああ。無論、俺も手伝うよ」

 

言いつつすずかの頭を撫でる。現在のすずか、俺の血を吸う影響で先祖がえりを起している。その結果純粋な人類とは大分遠い、寧ろ俺に近い存在に昇格してしまっているのだ。

 

わかりやすい影響としては瞳の色が金色になって、種族特有の魔眼に加え、筋力や反射神経なんかがぐぐぐっっと向上している。寿命も言わずもがな。

 

おかげですずかはEFF内で『偏食吸血姫』なんて綽名が付けられている。勿論すずかの血筋に関して知識を持つ人間のみの綽名だが。因みに吸血鬼じゃなくて吸血姫で真祖相当だ。

 

まぁ、すずかが機動六課の救援に出撃するときは、すずかの友人達の前に自らが姿を現すという事だから、すずか本人にもある程度の覚悟が必要なのだが。今のすずかはEFFの妖怪部隊やら人外部隊に沢山友人がいて、EFF自体人外が多いからその辺り大分平気になってきているのだが。

 

「まぁ、それでも一応撤退準備は進めておこう」

「うん。といっても、ウルは常にアイドリング状態で、何時でも出発できる状態だよ?」

「お土産なんかはいいのか?」

「食べ物は日本が一番だよ……」

 

何か俺の居ない間に食事で失敗したのだろうか。少し憂鬱気にそんな事を言うすずかに苦笑しつつ、話を変えるべくコンソールに手を伸ばす。

引っ張り出す情報は、今回の地上本部・公開意見陳述会に関する襲撃事件と、その背後に在る存在について。

 

「これ、今回の?」

「そう。本件の黒幕ジェイル・スカリエッティーと、根本的原因である最高評議会。あとゲイズ中将の暗部」

 

本件に関する根本的な問題は、やはりこの三者が絡み合ったところに問題があったのだと思う。

最高評議会としては、スカリエッティーもゲイズ中将も駒の一つに過ぎず、ゲイズ中将からしても地上の平和を守るための駒、顔芸から見ればうっとおしい首輪たち、といった感じだろうか。

 

「聖王のゆりかご、ね。でもこれ、次元空間での戦闘が可能なんだよね?」

「ああ」

「でも、完全稼動するには、二つの月の魔力? が必要なんだよね?」

「ああ」

「次元空間にまで二つの月の魔力って届くの?」

「さぁ」

「…………」

「…………」

 

きっと古代ベルカの時代には、ゆりかごにも月の魔力に依存しない何等かの補助ジェネレーターが存在していたんだろう。ただ経年劣化かゆりかごが埋まった時期かにソレが消失して、現状ではそこまで再現できなかったのではないだろうか。辛うじて現行の魔力炉で最低限の出力を確保している、とか。

 

……そうとでも考えなければ、いくらなんでも間が抜けすぎているだろう、古ベルカの聖王家。元はウチと同じくアルハザードからの流出品という噂もある程だし、さすがにそんな間抜けな設計は無いと思うのだけれども。

 

「そ、そういえば聖王っていうのは、昔のベルカの王様のこと何だよね?」

「ああ。古ベルカにおける一種の称号だな。主にベルカの戦乱末期において活躍した人物に与えられる」

「へぇ、それじゃ他にもあるの?」

 

言われて、頭の中から情報を引き出す。確か、聖王のほかに覇王とか冥王とか魔王――いや、魔王は現代の人物の称号か。

 

「覇王インクヴァルト、冥王イクスヴェリア、魔王高町なのは、他にも色々居るらしい」

「へぇ…………」

 

因みにすずかは突っ込まない。その昔、高町なのは式教導演習を撮影したムービーデータを見せたら、それ以降彼女を魔王と呼称する事に関しては一切何も言わなくなってしまった。

 

まぁ、それも仕方ないだろう。ショートバスター連射で機動力を封じ、動きが取れない状況でバインド。相手の目の前でジワジワと集まる星の光。絶望に泣き叫ぶ相手の目の前で、ゆっくりと必殺技の名前を宣言するその姿。

 

 

 

 

 

「なっ、何ナンだこの『弾幕』は――ッ!!」「ひぃっ、こんな砲撃の雨霰を如何やって抜けろって言うんだ!」「抜けろってのか、この弾幕をよぉぉぉぉぉ!!!!!」

「大丈夫、しっかり相手を見れば避けられるよ」←一本一本が直径数メートルもある砲撃を雨霰の如く撃ちながら。

「ばっ、バインド!? 動けない!!」「硬っ!? ブレイクできない!!?? バインドにどんな錬度だよっ!!」

「足を止めるからそうなるんだよっ! つかまったら即座にバインドブレイク!!」←既にSLB準備中

「ひいいいいっ!! あ、あれはまさか、たかまちきょうどうかんのきょうふのだいめいし?」「ギブアップ! ギブアップです教官殿ぉ!!」

「ふふふ、折角だからこれも経験だよ?」←満面の笑み。

「「ひっ、ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」

――そして白く染まる観測モニター。

 

 

 

 

 

――まさしく魔王の所業、とすずか本人が呟いていた言葉。あれはもしかすると無意識だったのかもしれないが。

 

「……うん?」

 

ふと何かが引っかかる。何が引っかかったのかわからず、改めて過ぎ去った思考を巻き戻し、一つ一つにチェックを入れていく。

 

一つ、聖王のゆりかご。あれはゴミだ。次元空間での戦闘なんてウルでも出来るし、そもそもウルは次元空間よりも虚数空間を移動するほうが多い。ウルは魔力式ではないし航行にも特に問題は無く、其方のほうが短時間で移動できるのだ。火力はまぁ、ご存知の通り。最近相転移砲を搭載する計画もある。

 

二つ、聖王。現ヴィヴィオ、元がオリヴィエ。美人の女王様かつ無敵の人だったらしいが、幼少期には隣国に人質にされたりと波乱万丈な人生を送っていたらしい。現状ではたいした問題にはならないだろう。

 

三つ、覇王。確か4年後くらいにインクヴァルトの記憶を継承したアインハルト嬢が登場するんだったか。序盤をちょっと読んだだけだが、あれも現在は全く問題外。初登場シーンが聖王、冥王を知らないかって――あ゛っ

 

「そうか、冥王か」

「どうしたの?」

「すずか、少し調べ物をする。手伝ってくれ」

「? うん、いいよ。何を調べるの?」

「――ミッドチルダに程近く、建造中の海底トンネル、もしくは海底遺跡。あと、オルセアの活動家、だったか」

「うん、ちょっと待ってね」

 

言って、端末に素早く指を走らせ始めるすずか。この次元世界におけるネットワーク網は、我々地球人の持つソレに比べるとかなり使い辛くなっている。というのも元々広い次元世界で活用されるネットワークだ。維持にはかなりの技術が必要と成る。

 

更に科学技術をオンラインでやり取りしようとすれば、次元世界を超える過程で外部に漏洩しないとも限らない。そんな状況でネットワークに力を咲くはずも無く、であれば当然ネットワークの発達も遅れる。ただでさえ世界の壁があるのに、ニーズまで落ちては技術発達が進まないのも必然。

 

結果、この世界のネットワーク、特にオンラインを扱うには、我々の世界のソレほど気軽には扱える物ではなくなっていた。

 

艦の管理AIに任せてもいいのだが、此処は折角システム系に在る程度強いすずかがいるのだ。パパッとやってもらおうと思う。

 

「えっと、海底トンネルは建造中のが一つ。遺跡は無いね。で、オルセアっていうのは地名だよね? そこの活動家っていう情報は無いな、ネットに上がらないマイナー情報なんじゃないかな? あっ、海底トンネルの地図は送るね」

「そうか。いや、十分だ。有難うすずか」

「あ、えへへ」

 

そういって微笑むすずかをぎゅっと抱きしめてやる。途端に優しく抱きしめ返してくるすずか。昔はこれで真っ赤になって可愛かったのだが、こうして抱きしめ返してくるすずかも可愛い。

すずかの感覚をしっかりと堪能した後、少し後ろ髪を引かれながらすずかと体を離す。

 

「でも、なんでそんな事を調べたの?」

「うん、冥王を探さねば成らない」

「えっ?! でも、冥王って千年以上昔の人だよ?」

「不確定情報だが、冥王は俺の同類らしい。目的は違うが、な」

「それって……」

 

つまりは、人造兵器であるという事。

冥王イクスヴェリア。その正体は、人の死体を触媒に死体の尖兵を量産する生体兵器。しかもどこぞの夜天の魔導書と同じく、過去の改変により自らの兵隊の指揮能力を喪失していると言う。

 

アルハザードにより世界を守護する目的で生み出された俺と違い、純粋に戦う事を目的に生み出された、けれども戦いを好まぬ少女。

 

ミッドチルダに残しても、先ず間違いなくいい事にはならないだろう。それにもし俺の知る僅かな知識どおり彼女に異常があるのであれば、俺なら、いや俺の持つ技術ならば治療も可能かもしれない。

 

「娘が増える、かも」

「娘……」

 

何を想像したのか顔をポッと赤らめるすずか。そんなすずかの髪を指で梳きながら、頭の中に入っている情報を少し整理してみる。

 

確か、イクスヴェリアの登場は、サウンドステージか何かでの登場だったはず。漫画版の第四期だか五期だかのVIVIDでその存在が示唆されて、後から少し調べたような気がする。

 

そのVIVIDの本編が確か、機動六課解散後から二年。つまり今から二年半後の出来事、だったような。イクスヴェリアの事件がその半年前とされていたし、多分今から二年後に事件が起こるの、かな?

とはいえ今から俺が彼女を回収に動くのだ。そんな事件など起させる心算もない。

 

「とりあえず、少し行って来る」

「うん、行ってらっしゃい!」

 

ニコニコ微笑むすずかに背を向け、上部ハッチから擬装邸宅を経由して地上へと足を踏み出す。

 

――ふむ。今日もいい天気だ。

 

 

そうして探し始めた海底遺跡。けれどもその走査は中々に難航する事となった。

というのは海底を調査する――という点ではなく、その海底遺跡のヒントとなる海底トンネルの複雑さにあった。

 

はじめ、海底トンネルというくらいなのだから、海底を貫通する一本道のトンネルなのだろうかと俺は考えていたのだが、実際にその場のデータを見てみるとどうも少し様子が違う。

 

海底トンネル、と一言に纏めてはいるが、その施設はパイプとハブを複数組み合わせて構成される、海底をシナプスのようにつなぎ合わせた、一種の海底施設だったのだ。

 

その為一口に工事中とはいえ、常に複数個所での整備メンテナンス、新規通路の開発、その他エトセトラが大量にあり、現状の少ないヒントでは中々目標地点を絞りきれずに居た。

 

とはいえミッドチルダ近郊という条件が在る異常、探し回って探せないこともない。俺の元ネタ的にも水中は苦手ではなく、むしろ空中を飛び回るよりも気軽に海底を探索する事ができた。

 

そうして探し回り、ほぼ半日。漸く遺跡を発見する事ができた。そこで早速遺跡の位置を端末のマップ上に記憶しつつ、遺跡への侵入を試みる事に。

 

因みに、一言に遺跡と言ってはいるが、その遺跡が建造されたのは俺を生み出したアルハザードがリアルに存在していた時期にあったベルカ文明だ。遺跡と言えど現行のミッドのそれに引けを取るようなものではない。

 

先ず遺跡への侵入方法だが、これには遺跡が生きている場合と死んでいる場合で其々違った方法を取る必要が在る。

 

先ず遺跡が生きていた場合。この場合、つまりシステム面が稼動しているという事だ。古アルハザード時代と同時期の遺跡だ、下手をすると1000年放置されても稼動していることが稀に在る。

 

万が一を考えてためしに端末を遺跡につなげてみる。一応図面データのような物を引き出す事には成功したが、この遺跡の動力が既に死んでいるらしく、施設を稼動させることは不可能だった。

 

ならば次にとるべき進入の手段は、物理侵入。要するに壁に穴あけて入り込むと言うだけの話。

但しこれも適当にやってしまうと、中に納められたロストロギアに引火→次元震なんて恐怖のコンボが起こりうる可能性もありえる。本来管理局が盗掘を禁じたのは、こういった遺跡侵入時のロストロギア暴走の危険性を訴えたからだ、と言う話も見たことが在る。

 

今回の場合は事前に遺跡の地図を入手している為、そういったミスを犯すことはない。

 

先ず海底底辺へともぐり、遺跡の真下から遺跡に向かってプラズマ火球を打ち込む。流石に海中な為威力は減衰するのだが、それでも十分な威力を持って、遺跡の床壁に人一人もぐりこめそうな程度の穴を開けることに成功した。其処からするっと遺跡の中へと侵入。

 

空気が生きていればよかったのだが、残念ながら俺の侵入した箇所は既に水没した区画らしい。真っ暗な中、周囲に照明となるシューターを無数に設置しつつ、先ず少し広い場所目指して移動を開始した。

 

先に入手した地図によると、多分この施設中層中央部に存在する空間。コレが冥王イクスヴェリアを封じている空間だろう。

面倒くさい事が好きではない俺だ。プラズマ火球で目標地点までの真直ぐな穴を掘りたいところだが、此処は我慢して道なりに進む事にした。

 

幸い、と言うべきか、此処は過去の軍事施設云々ではなく、なんらかの生活施設のようで、通路にいきなり地雷が設置されていた、とかいきなりガジェットが、とかいったとんでもトラップが仕掛けられている事はなかった。

 

一応警備システムなんかも存在は確認できたのだが、エネルギー供給の停止に加え、一部は海水の塩で完全にだめになっていた。

 

しかしソレも途中まで。ある程度進んでいくと、急に海水の浸食が止まり、比較的正常な形でその姿をとどめた空間に足を踏み入れた。この辺りにまで来ると、幾分綺麗な形で古代文明の残滓っぽい物が転がっていた。スカヴェンジャーなんかは喜びそうな場所である。

 

道中に拾った電子端末のデータをまるっとコピーしたり、掘り出し物っぽい貴重品を格納領域に納めたりしつつ道を進み、本来電子ロックされていたのであろう扉を力技でこじ開け、ズンズン進み到着したその一室。

 

厳重な謎物質合金で構成された分厚い扉。多分何か扉を開ける正当な手段は別に在るのだろう。が、正直そんな面倒くさい物を探す心算はない。

 

「――ふっ!」

 

手の平に表すプラズマ火球。一瞬息を吐いたタイミングで、そのプラズマ火球が白銀に輝く。

 

瞬時にとろけおちる謎合金の壁。熱しとろけたそれを避けつつ、扉の奥の空間へと足を運ぶ。

 

「――見つけた」

 

そうして見つけた、一つのカプセルポッド。俺の納められていたそれに何処となく雰囲気の似たカプセル。その中には、朱色に近い明るい髪色をした少女が一人。多分これが冥王=イクスヴェリアだろう。

 

即座にポッドに近付き、コンソールからその状態を調べる。

 

ポッドの状態は保全モード。最低限の電力で、内部に格納した対象を冬眠させると言うシステムだ。本来は十分な電力供給の元で行なう事が好ましいのだが、電力供給が途絶えた場合もセーフモードとして機能させることが出来る。

 

ただその場合電力供給源はポッド自体のバッテリーからの物であり、当然何時かは電力が切れてしまう。その場合、そのまま永遠の眠りについてしまう可能性だってありえるのだ。

 

俺の場合は搭載されていたウルが半永久機関を搭載した独立稼動型のシステムであったために万全の状態で稼動することができたが、目の前で眠る彼女は既に低電力モードで長い時間を経ている様子。多分このまま再起動させても、身体のどこかに影響を残してしまう可能性は大きいだろう。

 

本来ならば、彼女を目覚めさせ、その後に彼女の同意を持って俺達の元に迎え入れたかったのだが――。流石にこのまま起動させれば死にかねないような状況の少女に、態々意思確認のためだけに無理矢理起すなんていう『不条理な人道的行為』をする程俺はいい人間ではない。

 

――此処は一つ、俺の勝手にさせてもらおう。

 

外部からの電源供給が既に止まっているポッドは、既にそのポッド単体で移動させることが可能。室内にてポッドを固定していたアームをパージさせ、少女の眠るポッドを術で空中に浮上させる。

 

ポッドの機能としてキャスター代わりの浮遊機能は存在するのだが、ただでさえ電力がない現状でその機能を行使してしまえば、下手をすれば中に眠る彼女がポックリ逝ってしまいかねない。流石にたかが移動のために貴重な電力を消費する愚は犯さない。

 

本来なら彼女の状態を万全に維持するためにも、もう少し電力が欲しいところなのだが――流石に俺も、規格も分らないバッテリーに電撃を行なって充電させる、なんて無茶な真似はできない。

 

そこで、彼女の状態を改善させるという目的を別方向からアプローチ。俺のマナとはつまり、根源的生命力の塊。ソレを彼女に向けて、少しずつ供給してみるのだ。

休眠状態であったとはいえ、大源の供給は見事に正常。大分弱っていた様子の彼女のマナは健康な一般人のソレの状態に近付きつつある。

 

「……さて」

 

では早速彼女を運び出してしまおう。来る時は海底からチマチマ来たのだが、既にこの遺跡には用はない。

右手を握り締め、マナを集中。白銀に輝く力の塊を、壁に向けて一息に解き放つ。プラズマ火球の変形技、プラズマビーム、なんて呼んでる技だ。

 

一気に海底への道……というか大穴が開いた事を確認し、その穴に向かってポッドを運びながら一気に突入。一気に遺跡施設範囲から離脱。

 

海中へ出たことを確認し、即座にその場でウルへ向けて転移したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、私を完全な状態で蘇生させた、と」

「そうなる」

 

目の前に立つ朱色の髪の少女。名前をイクスヴェリア。古代ベルカ時代に生産された兵器であり、今に蘇るただの少女だ。

 

「――成程。確かにこの施設はアルハザードのソレに連なる物のようです」

 

言ってウルの艦内設備を眺めるイクスヴェリア。

イクスヴェリアのカプセルを回収後、母艦ウルC3へと戻った俺は、即座にイクスヴェリアのカプセルをウルの医療設備へと接続した。

 

イクスヴェリアのカプセルは予想では古代ベルカ製。アルハザード製のウルのシステムで対応できるか若干の不安はあったが、驚く事にまるで誂えたかのようにイクスヴェリアのカプセルはウルのシステムを受け入れた。

 

どうもイクスヴェリアのカプセル、表面的には古ベルカ式プログラムで構成されているのだが、ブラックボックスやシステム機関部の要所要所にアルハザード製と思しきシステムが組み込まれているのだ。

 

――うーん、アルハザード『死の商人の国』説が頭を過ぎる。

 

「然し……何故私に指令権を? 私を蘇生させたのであればその目的は必然的に戦争。であれば、指揮権は奪っておいたほうが其方にとって好都合では?」

「……話、聞いていたか?」

 

確かにイクスヴェリアは兵器だ。だが、俺達にはそれ以外の選択肢というものがあってもいいのではないか。俺はそう思う。

 

「それは、自己否定になりませんか?」

「誰しも生まれは選べない。が、道を選ぶのは其々だ。事実俺は、兵器としてではなく、今此処に俺として立っている。――それとも君は、生まれこそを至上と思うか?」

「……いいえ。ええ、いいえ。私も、違う道を見てみたい。私も、私として立ってみたい、です」

どうやら、興味を引けたらしい。

「うん、よかった」

「――というか、私が非協力的であった場合、如何するおつもりでしたか?」

「特に何も。――いや、マリアージュは封じたかもしれないが、その後は地球で一般人として、かな」

「……兵器としての私は、端から求められていないのですね」

「まぁ、役に立たないし」

 

言うと、何かガビンッ! という少し古めの効果音が似合いそうな表情で固まるイクスヴェリア。

 

だって実際、マリアージュは対軍兵器。それも古代の戦場の、だ。現代戦においてマリアージュなど、テロくらいにしか使い道が思い浮かばない。まぁ、魔法文明相手ならばソコソコ戦えるかもしれないが、組織化された軍隊相手には厳しいのではないだろうか。

 

「まぁ、そういうわけでイクスヴェリア」

「イクス、で結構です」

 

ツンと横を向いてそんな風に言うイクスヴェリア。少なくとも、自分から寄り添おうという意志は在るのだろう。その点はとても嬉しく思う。

 

「ではイクス。我が家へようこそ。歓迎する」

「はい。よろしくお願いします」

 

無表情に、けれども少しだけ微笑んでそういうイクス。まだ少し硬いが、はじめはまぁこんなものか、なんて思いつつ、ぐしゃぐしゃとイクスの頭を撫でて。

 

「それじゃ、家族を紹介しよう。なに、全員多少クセを持つが、いい奴だぞ?」

「それは、楽しみです」

言ってイクスと手を繋ぐ。これからイクスをすずかとアギト、通信でキャロに紹介するべく、医療ルームを後にし、リビングへ向けて歩き出したのだった。

 

 

 




※イクス回収回。
こまかい矛盾は知りません。もうこの時点で海底遺跡に存在していたという事で。


■アリサ・バニングス
B&Tグループ会長兼地球連邦軍名誉中将。愛機は『ジェネシック・ガオガイガー』。
名誉中将の階級を得てはいるが、ブッチャケ軍に縛られない民間人。なのにガオガイガーで出撃する。戦場の女神。
嘗てのギーオス迎撃会戦の際にその存在を世界に知らしめ、以後『士気向上の為』と称して頻繁に出撃する。
地球に名だたる富豪にして、ギーオス・レギオンの戦場に現れる女神。
現在の夢はメラの第二婦人(EFはギーオスに減らされた人口を回復させる為と言う名目で重婚OKに法改正を行なわさせられました)。
新型出力・制御システム『G・ギア』の視察の際、ギーオスに襲われ負傷。その際ちょっと人を外れる。


■G(ガイア)・ギア
B&Tで研究されていた新型出力・制御システム。
オカルトを用い、マナを触媒にマナを呼び込むという半永久機関と、イメージフィードバックシステムなんかを組み合わせ、直感的に莫大なエネルギーを生み出し、TSFやSRを操作する、という為のシステム。
端的に言ってしまえば、メラの能力の廉価量産型を目指した物。
某令嬢がこれを視察中、ギーオスに襲われ瀕死の重傷を負う。メラの尽力により一命は取り留めたものの、何が如何なってか、感情が高ぶると緑色に輝きだすようになり、更に超人的パワーを得たりした。


■キャロ
地球連邦軍統帥本部直属特殊機動部隊ホロウ所属大尉。ポジションは全対応のスーパーオールラウンダー。
TSF、SR、マナを操り、更に召喚術まで使いこなす万能系チート。だけど本人は「私って周囲に比べたら地味かな?」なんて思ってる。比較対象がおかしい。
EFF内におけるロリっ娘アイドル先生。彼女の講義を受けるためだけにEFFに入隊する紳士が居るほど。但し彼女の講義を受講できるのは訓練された紳士だけであり、また彼女の講義を受けた後は超紳士へと進化してしまう。
外伝があれば間違いなく主人公ポジに収まる筈の子。


■イクス/冥王イクスヴェリア
1000年の眠りから目覚めたらしい子。かなり遠縁ではあるが、メラと同じくアルハザードに由来を持つ。その為、メラの施設によって完全な状態で覚醒した。
古ベルカにおいて運用されていた生体兵器。正確には生体兵器の中枢・生産ユニットであり、操主と呼ばれる主の指示の元、マリアージュと呼ばれる生体兵器を運用する。マリアージュは人の死体を元に生産される生物兵器であり(但し美少女になる紳士仕様)、イクスヴェリアの兵隊であるマリアージュは鼠算式に増えていく。更にマリアージュには鹵獲防止機能として、自らを石油のような可燃性の液体へ変質させる能力を持つ。
かなり恐ろしい能力ではあるのだが、マリアージュ自体の能力が昆虫並みの知能しか持ち合わせておらず、イクスヴェリアを解さなければ命令に向かって驀進する残念兵器。
対魔導師戦においては有利らしい。


■高町なのは
通帳は焼けたものの、カードが財布に入っていた事を思い出して小躍り。
然しテロの影響で銀行がストップしており、どちらにしろ現在手元に何も無いという状況は変わらず愕然。未だになの破産。こんな目に合わせてくれた連中は、ディバインバスターで法に変わってオシオキなの、砲なだけに、と闘志(怨嗟)を燃やしている。お金を借りるべきか、プライドを取るべきか葛藤中。

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