リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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23 カスタムⅣ

どうやら機動六課はその本拠地をアースラに移すらしい。

 

アースラ……機動六課の隊長陣にとっては思い出の艦らしいが、地球人にとって見ればあれは、地球の災厄を目覚めさせる切欠となった禍の艦だろう。

 

地球で行なわれた二度の魔法大戦。一度はジュエルシードと呼ばれる願望機を巡る争い。次元干渉型エネルギー結晶体とよばれるそれは、直接世界を捻じ曲げて担い手の願望をかなえると言うとんでもない装置だ。

 

一応データは確認したが、あれは願望機として運用するよりも、次元の歪曲点としてエネルギーを引き出してやったほうが余程有効活用になるのではないだろうか。少なくとも専用の機材もなく願望機として使うべきものではない。

 

で、そのジュエルシード、次元干渉エネルギー同士の接触により発生した幾度かの次元震。コレを担当したのが旧アースラスタッフと呼ばれる、次元航行艦アースラ率いるチームだ。

 

その後地球に対して縁が在るという事で、続く闇の書事件もこのアースラスタッフが担当。その顛末として派手に魔法で暴れた挙句、地球衛星軌道上でアルカンシェルをぶっ放すなんていう暴挙をやらかしてくれたのだ。

 

態々アルカンシェルで駆逐せずとも、取り込むもののない宇宙で枯死させるなり、太陽に向けて放逐するだけで十分だと思うのは俺だけだろうか。

 

話は戻るが、機動六課はそのアースラを空母として今回のジェイル・スカリエッティーの事件を追うことになるらしい。

 

地上部隊の癖に、バカみたいに資金のかかる行動をする。もしこれで資金繰りが地上出資だったりしたら、地上本部上層部は発狂するんじゃないだろうか。俺も機動六課より小規模な――俺個人で艦を運営してはいるが、これは全てこの艦がオールメンテナンスフリーなナノマシン制御の艦であるからだ。

 

積み込んだ物資やら大気中の構成物を勝手に取り込み、ソレを素材として完全自動で艦の補修・整備・メンテナンスをこなす、驚異の艦。生物の新陳代謝を戦艦でやっているようなものなのだが、古代の技術恐るべし、というやつである。正直俺本人よりも便利で多機能なのだ。

 

――アルハザードの遺産って、実は俺じゃなくてウルのほうだったりして。

……あまり深く考えると思考の迷宮に閉じ込められてしまいそうだ。ネガティブ止め!

 

「で、ティアナは如何するんだ?」

『私は……せめて機動六課の解散までは付き合いたい、です』

「……そうか」

 

通信を繋げたティアナはそう言う。ティアナには既に、この次元世界の危機的状況については一通り教えて在る。

 

先ず最初にギーオスの驚異。次元世界を渡り繁殖する驚異の肉食怪獣。一匹見つけたら30匹はいると思え、と言う言葉が通じるほどにその増殖速度は驚異的で、成長してしまえば現在の次元世界を統べる魔法文明では対抗はまず不可能。

 

次にレギオン。流石にあれは次元世界を超える術を持たないと思うのだが、ああいった怪物が自然に存在していると言う可能性はその存在によって肯定される。

 

そして何よりも恐ろしいのが、イリス。本来柳星張の名前で明日香村に封印されていた筈のその個体は、此方が対処に動いた段階で既にその存在を封印から消していた。

周辺及びギーオス駆除における地上掃討作戦においてもその存在を探索していたのだが、結局地球上にその痕跡を発見する事は出来なかった。ギーオスに航宇宙能力は……少なくとも通常種にはなかったはず。であれば、逃げたか、持ち出されたかして次元世界へと移動した可能性が高い。

 

――つまりは、管理局系の世界へ。

 

もしそうで在るとすれば最悪だ。あれが、イリスがもし原作基準の存在であるならば、まず間違いなく勝てない。それはブースト状態に成ったとしても多分変わらないだろう。

 

サイズ、成長速度、その他諸々。最低完全武装のうちの部隊、安全策をとるなら一個大隊は連れてきたい。少なくとも俺一人がガチで殴り合って勝てる相手とは思っていない。

 

そんな様々な驚異が潜み、尚且つ対抗手段を持たないこの世界。とてもではないが滞在していて安全な世界とは言い難い。

 

『……メラさんが、技術提供をするっていうのは不可能なんですか? 地球みたいに……」

「無理だ。俺の技術は現行の管理局支配体制を崩壊させてしまう」

 

俺の扱うマナという技術。これはかなり魔法に類似する能力だが、魔法と違い才能に寄らず、一定の努力を行なえば最低限は誰でも扱えるようになる。

 

現在管理局世界で運用される魔法と言う技術は、生来持ち得るリンカーコアと呼ばれる器官を用い、大気中に在る魔素を収集、生成することで魔力を生み出し、プログラムによってソレを制御する事で現象を発生させるというモノだ。

 

これに対してマナは、万物の生命が持つ生命力、と言うと胡散臭いが、分りやすく言えば生物が生きる過程で発生させる電磁波みたいなものをエネルギーとした技術なのだ。……余計胡散臭い説明になってしまったかな?

 

現行の管理局の支配体制は、魔法を使える、より強い魔法を使えるという人間を上部に置いた、魔法至上主義・魔法選民、および質量兵器を禁じる事による管理局中央集権での世界の支配を行なっているわけだ。

 

ここで重要なのは、魔法と言う奇跡を扱えるのは『選ばれた小数』であるという事。レアスキル持ちなどになれば更に価値は上がる。逆に魔法の使えない人間は十把一絡げ。『その他一般市民』という区分に分けられるのだ。

 

そんな魔法によるヒエラルキーが確定し、それにより運営される管理局という世界に、突如として『才能に左右されず万人が運用可能な、魔法技術に代替可能な技術』が持ち込まれたとする。

 

突如として『その他一般市民』とされていた人間が強大な力を持ち、一部エース級にも匹敵する人材が現れ、更に技術は拡散し、世界中でその技術が普及したとする。そうなればもう魔法による選民方式は崩壊する。選民も何も全員が力を持っているのだから。

 

ヒエラルキー故にかなりの暴虐を行うことが出来る管理局も、そこら中に同等の戦力を持つ組織が乱立してはその規模を縮小せざるを得まい。いや、他組織の成立前に内部紛争で管理局世界というグループが崩壊しかねない。

 

管理局と言うのはそれほど強引な世界運営をやっているのだ。火種など次元世界中に溢れている。

 

「俺に世界は救えない。世界を救うのは皆で、俺が救うのは、俺の救える俺の身の回りの俺の大切な人たちだけ。『世界を救う』こと自体には興味も無いよ」

『……そうですね。まぁ、大丈夫よ。私だって伊達にガイア式の使い手じゃないのよ? 生き延びるくらいは出来るわよ』

「ああ。いざとなれば地球に逃げ帰ればいい。生き延びる事は恥じゃない。例え恥でも、それは生命としての義務だ」

『ええ……はい。そのときはよろしくお願いします。それじゃ』

「ああ。ではな」

 

そんな言葉で通信が途切れる。まぁ、ティアナはティアナで頑張って欲しい。何だかんだでティアナはかなり鍛えたし、何処のオリ主だって程度には魔改造を施した。

 

問題は、ティアナの周辺。機動六課における他転生者達の動きだ。

ティアナから得た情報では、鳳凰院朱雀と御剣護の二人、鳳凰院朱雀が機動六課隊舎襲撃時にその消息を絶ち、御剣護は本局を襲撃した巨大怪獣のことを調べまわっているとかどうとか。

 

御剣のほうは問題ない。正体不明の怪物に対して対策を練ろうというのは、極普通の対応だ。まぁ、俺の知る限り彼にギーオスへの対抗手段は存在しないように思えるのだが。

 

対して鳳凰院朱雀。こちらが問題だ。何せ彼は機動六課隊舎への襲撃を予め承知していた筈なのだ。

 

彼のスペックは、此方で把握しているだけでも相当なもの。ミッド式の砲撃魔導師で、結界も補助も格闘さえも何でもござれの超汎用型魔導師だ。

 

大規模砲撃すら可能な彼が、たかがAMF程度でその力を落とすはずもなければ、戦闘機人相手に勝利する事も容易いだろう。その程度の力は在るはずなのだ。

 

……だというのに、彼はその消息を断った。

 

考えられるのは、一つに彼が誘拐された、と言うもの。人造魔導師やらの素体として目を付けられたか、洗脳して顔芸(スカリエッティー)の手駒にされたか。

 

もしくは元々顔芸の仲間だったと言う可能性。無いとは思うが、ありえないという事もない。昔読んだ二次創作に、スカルートなんて割と良くあった。彼のヒット商品の背後には顔芸の技術が……なんて事があっても否定は……まぁ、違うだろうが。

 

少なくとも、彼という実力者が失踪したのは事実だ。俺としては途轍もなく怪しく感じる。……彼の身を案じているティアナたちには悪いが、な。

 

「それで、結局この件には不干渉なのですか?」

「ああ。下手に過去の兵器がでしゃばる必要は無いさ」

 

過去の遺産に対して俺が出張ることはやぶさかではないが、これはあくまでも管理局という組織が抱える内患でしかない。そんなものに態々介入してやるほど俺はヒーローやってない。

 

「そうでしょうか?」

「そうさ」

「そうかなぁ?」

 

イクスに続いてすずかまでそんな風に首を傾げる。俺は別に正義の味方と言うわけではない。自分に関係の無いところであれば容赦なく斬って捨てる。

 

「そういう割には、ギンガちゃん助けたわよね?」

「……目の前で死掛けてたり、誘拐されそうになってるのを放置するのはまた違うだろう」

「それに、私も助けてくださいました」

「……同類に対する同情みたいなものもある」

「それだけではないのでしょう? それに、それでも私は希望を得ました。その事は事実で、私はそれを嬉しく思っています」

 

そういってにっこり微笑むすずかとイクス。如何した物かと視線を泳がせると、部屋の一角でニヤニヤと此方を観測しているフルサイズモードのアギトが。

視線でヘルプを送ってみた物の、“諦めろ”と言うような事をサインで伝えられた。ウラギリモノメ。

 

「――ギンガ嬢が回復するまでは、戦況を観測する」

「つまりマスター、今回の件は戦場へ出向いて見に行くんだな?」

 

……アギトェ!!

 

結局アギトの裏切りにより、すずかとイクスに「わかってますよ」みたいな生ぬるい視線で延々見詰められる羽目に成ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

『それで、私を第二婦人にする腹積もりは出来たのかしら?』

「ネーヨ。……いいからキャロを出せ」

 

本当、こんな美人が声を掛けてるのにつれないわね、なんてクスクス笑うアリサ。画面の向うに向けて手をひらひら振って追い払い、さっさとキャロを出すように要求する。

 

首をすくめたアリサは、「それじゃ」と手を振って。……本人も言う通り、相当な美人なんだから、俺なんかよりもいい人なんて幾らでも引っ掛けられるだろうに。

――因みに、地球連邦内では、急激な地球人口低減の対策として一夫多妻制が推奨されている。食糧生産事態は農業プラントで大量生産されているので間に合っているのだが、肝心の子供を増やす必要があるのだとか。

 

実はその法案の成立の背後にアリサの影がちらついていただとか、何故か乗り気なすずかの姿がちらついて居たりしたらしいが、俺には一切関係ない。

で、そんな事を考えていると、モニターの向こう側に見慣れた少女の姿が現れて。

 

「……それで、やはり増援は無理か」

『はい、どうも火星から月に向けたレギオンの増援が凄い数で向かってきているらしくて』

 

その言葉と共に表示される画像データ。ぼやけた光学画像で、火星を背景にして撮影されたらしいソレ。はっきりとは見て取れないが、しかしそれでも分る写真を覆う斑点模様。

 

……これ、拙くないか?

 

『いえ、レギオンはマザー含めて、完全な無重力状態での戦闘は不可能らしくて、月か地球に降りられる前に全て叩ければなんとかなる、って』

成程。ソレならば確かに、この数のマザーレギオンを相手取るわけではなく、地球に向かう隕石を叩き潰す、という感覚でいけるのか。

『はい。今アリサさんがフル武装で準備してます』

「アリサが……」

 

あいつはまだ戦っているのか。

アリサは本来、戦場に出る人間ではない。というか、その必要性が全く皆無な人間だ。

 

実家は現在のEFFに最もつながりの深いB&Tのバニングスグループであり、一度世界が滅びかけた際、世界の再建に尽力した事で、世界各国において堅牢な基盤を持つことに成功している。

そんなバニングスグループの社長家、その愛娘。それがアリサ・バニングスなのだ。

 

本来アリサはSRに乗って戦場に出る必要など全く無い。のだが、嘗てのギーオス大量発生事件の際、地球を救った彼女の勇姿。それはすずかや恭也と並び、地球上のヒーロー、もしくはヒロインとして、全世界でかなりの人気を博しているのだ。

 

そんな彼女。そもそも人の後ろで引っ込んでいるような人格ではない。『前線の慰安、もしくは視察』と言う名目で前に出向いては、そのまま勢いで戦場に出撃すると言う、まるで突撃系アイドル。目覚しく活躍しているらしい。

 

本人曰く「戦う力が在る上に、私が出ることで少しでも勇気付けられる人が居るなら、それはきっと価値のあることなのだ」と。

彼女のような人間こそが、英雄としての資質を持った存在と言うのだろう。

 

『アリサさん、会いたがってましたよ?』

「む……」

 

思わず通信モニターから視線を逸らす。俺としては、そんな不義理な扱いを彼女にしたくないのだが。そんな俺を見てか、モニターの向こう側から苦笑するような気配が響いて。

 

『私は大丈夫だと思うんですが……あぁ、それよりも増援の事なんですが』

「? 不可能、という事だったのではないのか?」

『はい。人的支援は先ず無理だそうです。レギオンとの開戦予想時刻は二週間後のヒトフタマルマルを予定しています』

「二週間後か」

『はい。その為人的支援は不可能なのですが、戦力を送る事は出来る、との事です』

「戦力?」

『新型のウルの追加パーツと、SR機だそうです』

 

その言葉に思わず首を傾げる。

 

「……今、この時期に、新型?」

 

現在地球圏で主流となっているSR機は二種類。すずかの趣味で建造された代物の量産型である、量産型ゼオライマー、そしてその友人アリサのために建造された機体の量産型であるガオファイガーの二種類だ。

 

遠距離から大規模砲撃を打ち込める量産型ゼオライマーと、近距離からガンガン攻め込み吹き飛ばすガオファイガー。両機とも量産型の癖にパイロットを選ぶ難しい機体ではあるが、現在地球圏をギーオスとレギオンの驚異から守る重要な機体だ。

現在その二機のSR機で安定している地球圏。そんなところに新たなSR機を開発したところで、生産ラインや機体特性の面から余計な圧迫を生むだけだと思うのだが。

 

『その機体に関しては、かなり昔から開発が進められていたらしいです。L級のSRで、現在最終調整と艤装の最中で、明日には其方に向けて出発させるそうです』

「それは……ありがたい。然し大丈夫なのか?」

『元々ウルの新型ユニット……C4ユニットはウル用ですし、新型SRも高性能ですが、その分パイロット負担が激しい物だ、とかなんとか。多分、使って運用データを送れって事なんじゃないでしょうか?』

「……まぁ、EFFの変態技術者連中なら、そういう事もありえるの、か」

 

パイロットを選ぶ兵器なんていうのはまさしく欠陥兵器。軍事において最も優秀な兵器と言うのは、汎用性が合ってどんな状況でも使うことが出来、使用者を選ばず、尚且つ敵に運用される事の無いという夢のような兵器。

 

要するに汎用性があってそれでいて誰でも簡単に使えて、さらにセキュリティーも確りしている、と言うものだ。

 

……いやまぁ、習得の難しい魔術行使を前提とした特機を広めた俺が言えた事ではないのだろうが。一応AI補助というフォローは入れて在る。

 

確かに高性能試作機なんてロマンに溢れる代物では在るのだろうが、まさかそれを実際にやるとは。さすが変態技術者ども。

 

「まぁ、分った。それじゃその機体とやら、使わせてもらおう」

『はい。……あの、あまり無理をしないでくださいね?』

「ああ。俺も此方での用事が終われば其方に戻るから、それまでキャロ、お前も元気で」

『はい!』

 

そういって笑顔で切れる通信。相変らずキャロは元気一杯だ。

 

因みにウチのキャロは、「ルシエの里追放されちゃった……」なネガティブっ子ではなく、「あんな陰気臭い里よりも娑婆なここはハッピー!」なお日様っ子の気風だ。……これも原作崩壊になるんだろうか? 少なくとも酷いキャラ崩壊ではあるが。

 

「……とりあえず、モノが届くまでは休暇かな」

 

通信端末をカットし、リビングへ向けて踵を返す。とりあえず、増援が不可能と分っただけで一つの成果だろう。

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。ミッドチルダ第二・月衛星軌道上。ミッドチルダ地上にすえた仮説拠点。その地下に敷設していたウルを、現在俺達はこの月軌道上へと持ち上がってきていた。

 

「でも、盲点だよな。ミッドチルダの衛星軌道上が抜け穴だなんて」

「ミッドチルダは、あれだ。実は帝国主義と言うか、裏では最高評議会の言いなりだから」

 

その頂点に最高評議会をすえる管理局は、実のところ相当頭が固いとされている。現状、我々がミッドの月に拠点を設置してもばれていないのがその良い証拠と言えよう。

 

ミッドチルダはその嘗ての由来から、次元世界の平和を守ることを最重要課題とした、というお題目の元、周辺次元世界を着々と侵略していく議会制の皮を被った侵略国家である。しかもトップは既にかれた脳味噌が三つ。

 

連中は次元世界の領土を広げる事しか頭にあらず、その結果次元世界よりも身近な、自らの世界を開拓しきるという選択肢を放棄してしまっているのだ。

 

アルハザードのデータが詰まれた、ウルに搭載されていた情報端末『アーク』。この中にあった時限航行艦には、当然のように宇宙での活動を想定した様々な情報が記述されていたと言うのに、現在のミッドチルダの技術体系にはその名残らしきものがごっそりと削られていた。

 

調べた所、何時の時代かにこの宇宙活動に関するシステムは、地上や空中、次元世界を主な活動場所とする次元管理局には不要な技術として斬り捨てられ、そのまま衰退・消滅してしまったらしい。なんとも馬鹿らしい話では在るが、我々にはありがたい話なので特に如何こうする積もりも無い。

 

「……然し、これは……」

「すごく、おおきいです。……これ程の物は、アルハザードの時代にもそうは見ませんでした……」

「C4ユニット、って聞いてたけど、実のところは未完成だったXL級を一隻寄越したみたいだぜ……です」

「XL級を……」

 

ウルから切り離されたC3ユニット、今まで暮らしていた生活スペースの中から、現在接続作業の行なわれているウルとC4ユニットの様子を眺めて、思わずそんな事場が口からこぼれ出た。

 

XL級。全長700メートルを超える超巨大大型母艦として設計され、現在地球で生産が開始されている型の艦だ。この艦は多分だが、その初期ロットの未完成分を改造したものではないだろうか。

 

「マスターの新型と、すずかのゼオラはでっかいから。それにHollowのメンバーの機体全部を運ぶなら、どっちにしろこのぐらいのサイズの艦は居る事になってたと思うしな」

「まぁ、ホロウはもう集まらないと思うが……」

「ホロウとはなんでしょうか?」

「ん? ……イクスにはまだ教えてなかったな」

 

機動特務部隊ホロウ。EFFにおける俺の扱いに困った上がでっち上げた部隊であり、すずかの私兵であったりするその部隊。主な内訳は俺の身内ばかりだったりする。

 

その全員が在る程度のガイア式を扱う事ができ、TSFからSR機を初めとした様々な陸戦兵器を扱う事のできるスペシャルエージェントによって構成されたとんでも部隊だ。

 

ただ実際は、EFF内以外での活動目標を持った連中が、外に出る際に正規部隊に戸籍を残せず、一時的に戸籍を預かる部隊、というような利用もされている。そのため、知る人には「外部諜報部隊」みたいな眼で見られることも。

 

つまり

1.ティアナはEFFに所属しているけど、管理局で頑張ってみたい

2.EFF離脱は不可。なら任務ってことにしてしまえ!

3.特務部隊ホロウの任務で管理局に潜入、という事にしつつ執務官目指して頑張る!

4.あ、じゃぁ俺も、俺も俺も、どうぞどうぞ。

というノリだ。うん、理解できない。

 

「それは……私にも出来るでしょうか?」

「イクスがホロウに? ……そうだな。ガイア式を扱えるようになったら考えよう」

「はい!」

 

ニッコニコのイクスの頭を撫でつつ、改めて視線をモニターに向ける。視線の先に映るのは、ガイドビーコンにそってドッキングを行なうC4ユニットとウルの姿。

 

本来C系ユニットと言うのは、文字通りウルの拡張パーツでしかなかった。現在まで利用していたC3ユニットには、一応独自に航行できるだけの能力は持たされていたが、それはあくまでウルの主機を利用した一時的なものでしかなかった。

 

ところが今回のC4ユニットは、元から完結した戦艦、空母としての運用を考えて開発された超巨大航行艦だ。

多分だが、元々このC4ユニットは普通のXL級として就航する予定だったのだろう。それが何等かの要因で、というか月―火星会戦に間に合わないと判断され、急遽ウルのためのC4ユニットへと改造されたのだろう。

 

「それじゃ、次はマスターの新型なんだけど……」

「確か、C4ユニットに格納して運ばれてきているんだよな?」

「うん。C4のメイン格納庫に」

アギトから渡された指定座標データを元に転移する。何せXL級航行艦は馬鹿でかい。艦内に車道があったり、転移を多用することも前提としているほどの広さなのだ。

C3からC4のセントラルポートに移動し、更に其処から格納庫のターミナルポートへと移動し、漸く到着した格納庫。

格納庫、と一口に言ってもその規模は従来の物をはるかに上回る。何せ全高60メートルを超えるSR機を多数格納する事を前提として設計されているのだ。

単純に部屋の広さだけで何処かの野球場くらいはあるその中に、更に大小様々な作業用オートマトンが所狭しと動き回り、更に巨大なクレーンやなにやらがグリグリと動き回っているのだ。工場オタに見せれば鼻血を出して失神しそうなほどマニアックな光景だ。

 

「む。すずかのGZが……」

「あぁ、ここの設備はEFF本部とかB&Tの整備工場並みに充実してるから、久々にGZをメンテしてあげるんだ、って。ユニット接続前から乗り込んで、早々に整備してたぞ」

「すずか……」

 

思わず額に手を当てる。いや、別に何か文句がアルと言うわけではないのだが。相変らずメカオタ、いや、最早フェティシズムの領域に入りかけているのではないだろうか。

 

と、そんな事を考えていると、何処からとも無く近寄ってくる気配。振り返れば、GZの足元からセ○ウェイにのって此方に近寄ってくるすずかの姿が見えた。

 

「メラく~ん!」

「すずか、ゼオラの整備はいいのか?」

「うん、主だった調整は済ませたし、後はオートマトンでの整備で十分だから……それよりも、メラ君の新型を見るんでしょ?」

「ああ。使うかは分らんが、一応訓練はしておかないとな」

「うんうん、道具は正しく使ってこそ、だもんね。それじゃ、案内するよ。イクスちゃん、アギトちゃん、行こっ」

 

そう言ってすずかは、イクスとアギトの手を取ってトテトテと格納庫の奥へと走っていく。いや、セ○ウェイ如何するんだよ、何て考えていると、何処からとも無く現れたオートマトンの一機が、セグウェイを受け取って何処へとも無く引っ込んでいった。……凄いな、この艦。

 

なんて事を考えつつ、すずかの後を追う。すずかは何処から用意したのか、艦内移動用のエレカ(エレキ・カー:電動モーター自動車)に乗って、此方をせかすように手を振って。

 

慌ててエレカに乗り込み、あっという間に変わっていく風景。GZを通り越し、その向こう側に見えてきた巨体。暫く走り進み、その巨体の足元でエレカから身を下ろした。

 

「……これが」

「アルハザードの技術の集大成。未解析技術も全部突っ込んで作った、最終決戦人型機動兵器」

 

それは全長60メートル近い巨大な鋼の塊。その鋼の巨人は、静かにその場に佇んでいた。

 

まるで城砦の如く佇むその姿は、SR機当初の思想――機械の人型を魔術により偶像化するという、最も最初の設計思想に限りなく忠実な、機械でありながら同時に魔術の結晶である、そんな気配を漂わせていた。

 

――そう、この機体、まだ稼動すらしていないと言うのに、既に膨大なマナをその身に纏わせているのだ。

 

「……これは、俺に使えるのか?」

「マスターの能力は未知数だしな。私にはワカンネー」

……ネタか? ネタなのか? 俺は仮面なんぞつけてないし、赤い機体でも無いぞ?

「すずか、この機体の名前は?」

問い掛けながら、機体を真正面から見据える。閉じられた双眸、眠る鋼の巨人。まるでこれは、鋼で作られた神の如く。

「この機体の名前は――」

 

――デモンベイン・ストレイド

 

その言葉が放たれた途端、格納庫の中を、いや、艦全体を、空気ではない何かを伝わって、静かに、けれども確かに体を震わす何かが放たれたのだった。

 

 

 

 

 




※ついにやっちまった回。

■アースラ
嘗て地球・日本への不法入国やら色々な事に関わった艦。
老朽艦なので解体処分される筈が、再び前線へ出る羽目に。

■アルカンシェル
簡単に言うと次元航行艦の必殺技。キーを差し込んでゴルディ…アルカンシェル発射を承認する。

■地上部隊の癖に、バカみたいに資金のかかる行動をする。
考えても見て欲しい。火災出動の度、スーパーX3で消火活動にこられたら。
対G兵器を消火活動に使うのがどれ程無駄か。

■アルハザードの遺産
生物兵器一つか、ソレを生産するための技術諸々のデータ。果たしてどちらに価値があるのか。明白では有るが、ソレを考えると色々と残念なことが判明してしまいそうで、その内メラは、考えるのを止めた。

■B&T製量産型SR
主にガオファイガーと量産型ゼオライマーで有名。両機とも重役(アリサ・すずか)の機体の量産コピー。設計はすずかとアリサ。
重要部分を簡易化し、整備性や操縦性を上げている。
両機種とも長時間の単独活動は出来ないようになっており、定期的にメンテナンスを行なう必要がある。
因みにこの他にも、メラ設計のシズラー型や汎用フレームがある。シズラー型は何故か不人気で知名度は(他二機に比べ)低い。汎用フレームは諸事情から様々な外装のSR機を建造する必要に迫られ、その苦肉の策として開発された。実働機としてよりも象徴機として使われる。

■ガンバスター
メラの設計したSR機。但しコンセプトはガイア式能力の低い存在にも扱えるSR機という、すずかのコンセプトを受けたもの。
搭乗者はノエルとファリンのエーアリヒカイト姉妹。

■XL級/超巨大大型母艦
全長700メートルの馬鹿でかい艦。建造は地球ではなく、月やL点の建造・造船基地。
本来はウルの追加ユニットとしてではなく、ソレ単体で完結する後方支援艦として建造されていた。
C4ユニットは、未完成且つ前線配備が間に合わないと予想される余剰分を、ウルに接続可能な状態に簡易改造を行った物。
所有権はEFF→メラ個人へと渡されている。
C3ユニットが移動する家なら、C4ユニットは移動する都市。
居住性そのものはC3ユニットのが高い。

■デモンベイン・ストレイド
またやっちゃった。
B&T研究開発班により、某社に許可をもらいつつ建造された機体。
SR機の理想(魔術的偶像)を忠実に実現した、魔装機神の系譜から開発された機体。
オリジナルとデザインが若干違い、対ギーオスに機動力・反応速度特化。コンセプト的には寧ろトゥーソードに近い。

■今週のなの破産
なんとファンクラブ(なのはの教導で新しい何かに目覚めた人達主催)からの愛の募金が入ることに。対価は握手会だが、なのはさん喜びで涙目。
そして物陰で歯噛みする八神はやて(ファンクラブ無し。グレアム家に借金)。

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