リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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24 ティアナ・ランスターの弾丸は外れない。

 

スバルの機動六課復帰とほぼ同時。次元世界を駆け抜けた一つのビデオメッセージ。

 

それは稀代の天才広域犯罪者、ジェイル・スカリエッティーが世界に対して放った宣戦布告。

 

ヴィヴィオの苦痛の声を贄に地上に姿を現したのは、悠古代の文明が生み出したとされる悠久の兵器。

 

「理由は如何あれ、レジアス中将や最高評議会は、異形の天才犯罪者、ジェイルスカリエッティーを利用しようとした。そやけど逆に利用されて、裏切られた」

 

そうして復活した機動六課。より所である六課隊舎を失った機動六課は、その新しいより所として、既に退役間近の次元航行艦、アースラを母艦とすることとなった。

 

「何処から何処までが誰の計画で、何が誰の思惑なんか、それはわからへん。そやけど今、巨大船が空を飛んで、町中にガジェットと戦闘機人が現れて、市民の生活と安全を脅かしてる。それは事実や」

 

そうして、そのブリーフィングルーム。集合した機動六課のすべての前線メンバーによる会議。

 

「――私らは、とめなアカン」

 

八神部隊長の力強い言葉が、静かに部屋の中に響いた。

 

 

 

作戦内容は実に簡単。機動六課の部隊を三つに割って、其々各戦線の支援に当る、というもの。

 

聞いて、思わず額に手を当ててしまった私は悪くない。

 

機動六課って確か、特殊部隊のチームじゃなかったっけ? 六課で一つのユニットで有ると思うのだけれども、それを三分割する? そういうのは人員に余裕の有る所轄の手法だろう。

 

よりにも寄って特殊部隊のユニットを分割行動させるなんて。しかも、陸戦部隊と空戦部隊を分けて。もう本当、何をしたいのか。

 

――なんて、内心の愚痴を一切表に出すことなく。

 

「ひっく……ひっく……」

 

隣に座る馬鹿スバルに軽く声を掛けて。どうも高町一等空尉に声を掛けて、ヴィヴィオの事で元気付けようとしたら、逆に元気付けられて帰ってきてしまったらしい。

 

この子も悪い子じゃないんだけど、やっぱり螺子が緩いというかなんというか。まぁ、そんな子だからこそ私が相方に選んだのだけれど。

 

そんな様子のスバルも元気を取り戻し、すぐにアルトの操縦するヘリは目標地点へ向かって移動を開始した。途中は以後からガジェット二型の追撃を受けたりしたが、アルトは見事その迎撃を振り切って見せて。

 

……うーん、ヘリを迎撃できないガジェットに呆れるべきか、ガジェットから逃げ切ったアルトの腕前を賞賛するべきか。

 

「それじゃ、作戦を確認するわよ。作戦指揮はいつもの通り。目標は、地上本局を襲撃する戦闘機人とガジェットの足止め。地上部隊はAMF状況下での戦闘経験が不足してる。私達の役目は、彼らのフォローよ」

 

言いつつ眼前に大きく展開する画面には、地上の様子を遠隔で撮影しているライブデータを投影して。

 

「私達はミッド中央、市街地方面。敵勢力の迎撃ラインに参加する。地上部隊と協力して、向こうの面倒なの……戦闘機人や召喚士を止めるのがあたし達の仕事よ」

「AMF状況下での戦闘経験が豊富なのなんてあたし達くらいだしね。先ずあたし達がトップでぶつかって、とにかく向こうの戦力を削る!」

「後は迎撃ラインが停めてくれる、というわけだ」

「でもなんだか、ちょっとだけエースな気分ですね」

 

ニヤリと笑う御剣二等陸士と、中々可愛らしい事を言うエリオ。そんな二人ににやりと笑い、小さく頷きを返しておく。

 

「よし、状況は切迫してる。戦闘機人どころかガジェットも、防衛ラインを抜けられれば地上本部――ひいては、其処までの直線上にある市街地はひとたまりも無いだろう」

「市民の安全と財産をまもる管理局としては、絶対に行かせるわけには行かないよね!」

「よし、行くわよ!」

「「「おうッ!!!」」」

 

声を出し合って、降下ポイントに着地。そのまま防衛ラインの部隊に合流すべく、地上を集団で駆け抜けて。

 

「む、あれは――!!」

 

高架道路を駆け抜ける最中、不意に御剣二等陸士が声を上げた。視線を辿った先、其処に居るのは件の召喚術師。メラさんのリークから曰く、ルーテシア・アルピーノ。行方不明と成った陸士首都防衛隊のエース、メガーヌ・アルピーノの娘ではないか、という少女だ。

 

視線の先、少女の指が空を舞うアルトのヘリを指差して……。

 

「拙い!」

 

ダンダンダン!!! 轟音を立てて御剣陸士が宙を舞う。彼の疑似空戦スキル、スカイウォーク。スバルのウイングロードと違い足場を作るのではなく、瞬間的に推力を発生させる事で滑空する、ソニックムーブに近い移動魔法。但し彼の場合、それにバリアタイプの魔法を足場にするという高等技術で、より複雑な機動を可能としている。

 

欠点としては足場にするバリアを展開する都合上、探知能力が高い敵には移動先が予想されてしまう危険性がある、と言うことか。

 

宙を駆ける御剣二等陸士はそのままルーテシアの方向へと加速して――ちいっ!!

 

「の、バカッ!! エリオ、アンタは御剣陸士を追いなさい! 単独行動させるな!!」

「了解! ストラーダ!!」『Exprosion!!』

ゴウッ、と魔力の炎を巻き上げて、轟音と共に御剣陸士を追って飛び立つエリオ。

「スバル、作戦変更。先にあの子捕まえるわよ!」

「了解、ウィング・ロー……っ!?」

 

 

――IS・レイストーム。

 

 

何処からとも無く響く声。咄嗟にその場から飛び退くと、寸前まで立っていた足場を光の雨が襲い掛かった。

 

ビルの屋上に飛び上がり、振り返った視線の先で燃え上がる道路。と、その瞬間に背後から近付く気配を感じ、咄嗟に体を仰け反らせて。

 

現れたのは、長髪に戦闘機人おそろいのエロいスーツに身を包んだ女性。首元のナンバリングは12番。

 

一撃目は何とかナイフで受け流したのだが、二発目をモロにナイフに喰らってしまう。どうやら剣自体に衝撃を増幅する機能でもあるのか、戦闘機人の膂力と相まって凄まじい重圧で吹き飛ばされてしまう。

 

咄嗟にバリアフィールドを展開。背中に感じる凄まじい衝撃から、何処かのビルにでも突っ込んだのだろうと予想。後受身を取る形でそのまま立ち上がり、即座に周辺警戒。

 

『マスター、……ティアナ無事ですか?』

「ええ、ファントム、アンタの方は?」

『ナイフに少し亀裂が入りましたが、リカバリーで十分カバーできます』

「そっか、悪いわね、あたしの未熟で」

『全くです。マイスターか恭也に知れれば、鈍ってるとか言われて訓練漬けでしょう』

「う゛っ……」

 

言われて、思わずその様子を想像してしまう。高町家の地獄のサバイバル訓練に香港に連れて行かれ、美由希さんのお母さんの地獄の特訓――そこにメラさんが巻き込まれて、八つ当たり気味に延々魔術の特訓を受けさせられて……ガクガクブルブル。

 

《ティア、ティア!!》

「っと――《この状況で個人戦は拙いわね。各員、合流するわよ!》――って、ええっ!?」

「残念でした、合流はサセネーっす」

「隔離結界!」

 

不意に聞こえてきたスバルの声に我に返り、慌てて出した指示。ところがその瞬間、私が叩き落されたビルの穴。其処を覆うようにして青いバリアが展開された。どうも私を此処に閉じ込めて、確固撃破する心算のようだ。

 

もしかして私、警戒されてる? ……なんだろう、危機的状況なのに、敵方に高評価を受けてるみたいで若干嬉しく感じてしまう。

 

「ふふふー、ハチマキとコンビでどうにか半人前、四人でやっと一人前のへっぽこガンナーが、仲間と引き離された気持ちは如何すかー?」

 

――ブチッ。

 

『ま、マスター?』

 

ふ、ふふふ、フフフ。そう、そうか。そうなの。一瞬敵に高評価を受けたみたい、なんて喜んだ自分が馬鹿らしくなった。単純に、連中にとって私は最初のターゲットである、と言うだけなのだろう。イートナンバーズ~ティアナ・ランスターの逆襲~である。

 

「《ライトニングチーム、スバル、作戦、ちょっと変更。目の前の相手、無理に倒す必要は無いわ。足止めして削りつつ其々対処。それでも十分市街地と中央本部は守れる》」

「ヴァッッッッカじゃねーの? そんなに時間かかんねーよ!!」

「アンタは捕獲対象じゃねーっすから。殺しても怒られねーっすからねー」

「《念話が聞かれてるみたいね。 通信は以上。 全員、自分の戦いに集中!!》」

 

まぁ、念話が聞かれていようが相手が此方を舐めていようが、正直な所は如何でもいい話なのだ。今回の作戦目標は、端的に言えば戦闘機人の足止め。此処で幻影を使って延々時間稼ぎをしても、ソレはそれで目標を達成できるのだからありがたい。

 

とりあえずフェイクシルエットと設置型シューターの複合技、シューティングシルエットで戦闘機人二機を撹乱すべく撃ちまくる。走って隠れて撃ちまくって。……本当、こういう時ほどメラさんや恭也さんの元で体を鍛えておいてよかったと思うことは無い。

 

マナを用いたガイア式の使用が制限されている現状、Bランク程度しかない私の魔力ではかなり行動が制限される。これで肉体的に未熟だったりすれば、走り回るだけで術の構成にブレが出たりしかねない。その点私は肉体も確り鍛えてるし、肉体疲労で術が甘くなるなんてヘマはありえない。

 

……というか、そんなしょうもないヘマをしようものなら、地獄の訓練コースが待ち受けているのだ。

 

「幻術馬鹿の一つ覚えが……見えてんだよ!!」

 

どーん!! 赤髪の戦闘機人の一撃がシューティングシルエットに直撃した途端、私の姿をした幻影が派手に爆発した。

 

「ノーヴェ!?」

 

プークスクス。シューティングシルエット+爆雷魔術/フローティング・マインを併用した、マイン・シルエット。要するに、私の姿をした幻術を被せた爆雷だ。そんなものをモロに蹴り飛ばした赤髪の戦闘機人。行動不能とはいわないでも、機動力を多少は削れたのではないだろうか。

 

「ねぇ、散々馬鹿にしてたへっぽこガンナーに、散々梃子摺って、幻影を見抜いてるとか叫びながら見事にトラップに引っかかって、ねぇねぇ、今どんな気持ち、今どんな気持ち?」

 

「て、めえええええええええええええ!!!!!!!」

「ノーヴェ落ち着くっすよ!! ……ってぁあもう!!」

 

所謂NDK(ねぇどんな気持ち)である。よくメラさんにやられて何度憤死するかと思ったこのNDKではあるが、極まれば挑発技としては最高位に属するのではないだろうかと言うほどに効果的だ。今現在、我を忘れ、ダメージを受けた状態で尚“幻影に”突っ込んでいく赤髪を見ればそれは一目瞭然だろう。

 

―――ドォォォォオオオオン!!!

 

「うん? ……あら、敵の増援?」

 

不意に響く爆音に、何事かと意識を其方に向ける。と、ビルの中空に配置しておいたシルエット・マインの一つが攻撃を受け、盛大に爆発したその音だったらしい。忍ばせたサーチャーから得られたのは、シルエット・マインに双剣を突き込んで、見事その爆発に巻き込まれた、先ほどの双剣使いの様子だ。

 

……クスクスクス。よりにもよって、この狭いビルの中に空戦個体が追撃を仕掛けてくる? 確かに空戦戦力は陸戦を上回る扱いを受けるが、こういう狭いビルの中では、下手な空戦よりも陸戦のほうが有利なのだ。確かに戦闘機人三人は驚異的な戦力ではあるが――先ず私を最初に狙ったその判断、それが間違いだという事を教えてあげよう。

 

「ちょ、ディード、アンタも来たっすか、っていうか、大丈夫っすか?」

「平気」

「あんな豆鉄砲の一発や二発、如何って事ねーよ!!」

「まぁ、一発や二発だったなら大丈夫だったかもしれねーっすけど……」

「あ゛あ゛っ!?」

「……けほ。オットーの指示。あの幻術使い、確実に仕留めておかないと面倒、って」

 

何かギャグってる三人。その周囲を覆うように展開したシューティングシルエット。実際、戦力で言えば上回っているのはあちらなのだ。油断する心算は一切無い。

 

油断する心算は一切無いが……はてさて、確実に仕留められるのは、果たして一体どちらなのか。

 

「……クスクスクス」

『マスター、恐いですよ?』

 

失敬な。

 

 

 

 

 

三人の戦闘機人を仕留めるのは、実に簡単な手順だ。

連中は情報共有により、常に互いが互いをカヴァーしあう。地球の技術で言えばSOPシステムのそれに似た動きが出来るのだ。

 

そんな連中を仕留める方法――それは、連中が戦闘機“人”である点を徹底的に突くというモノだ。

 

幻影で散々引っ張りまわし引っ掻き回し、幾ら戦闘機人といえど人である以上体力に限界はある。それに加え、あちらは時間との勝負でも有る。私を仕留められない現状に徐々にストレスも溜まっていく。

 

「はずれ」「また外れね」「さっき幻影はバレバレとか言ってたわよね」「その割りに外してるわよ?」「あら、もしかしてワザとやってる?」「そうよね、そうでもなきゃ此処まではずれ続きってありえないし」「――プ」

 

「てめえええええええええええ!!!!!!!!!」

 

「だから落ちつくっすよノーヴェ!! ってぎゃあああああ!!!!」

「………………」

 

一番最初に撃墜したのは、最も戦闘能力の高いであろう長髪の戦闘機人。確かにデータ蓄積による無駄の無い動きは驚異的なのだが、逆に最適化されすぎていて、彼女の戦闘モーションはかなり数が限られている。見慣れてしまえば対応は簡単だった。顎下からと後頭部への魔力ダメージ。脳震盪で動く事もできまい。

更にバインド(に見せかけたガイア式拘束術)で縛っているので、間違っても起き上がることは無いだろう。

 

続いて仕留める心算なのは、散々挑発している赤髪の子……ではなく、そのフォローを必死になってやっている変な口調の戦闘機人。

機動力のある砲撃型みたいだが、あの手のタイプは露払いが上手く機能していなければ案外脆いものだ。

 

――確かに大砲は驚異的だ。が、同時に大砲は弱点でもある。大きな力を使うには、同等に精密な計算が必要と成る。強大な大砲も、上手くすれば小石一つで破壊出来得る。

 

そんな事を言いながら、ギーオスの口の中に石ころを突っ込んで、ギーオスの頭を超音波の共振暴走で爆発させたメラさんの姿を思い出す。

 

……まぁ、流石にあんなグロい技はやる心算も無いが。

 

「糞ッ、其処っす!!」

 

赤髪と引き離した状態で、此方の展開する幻影に砲身を向ける「っす」口調の戦闘機人。その周囲に浮かび上がる膨大なエネルギーによって形成された弾体。……其処に向けて、一発の弾丸を撃ちはなった。

 

「んなっ!?」

 

その一撃は、彼女の周囲に浮かんでいた光球の一つに着弾すると、そのまま誘爆。周囲に浮かんでいた同じエネルギー光球を巻き込んで、盛大に爆発を起した。

 

「ウェンディ!!」

「だいじょう――ブッ!!」

 

即座に接近し、顎の下から拳をカチ上げる。綺麗に決まったアッパー。そんな奇妙な断末魔を上げて、変な口調の子は見事にダウン。我ながら惚れ惚れするようなアッパーカットだった。

 

「て、テメェよくもウェンディをおおおおおお!!!!」

「戦場で仲間の名前を叫んで咆える。……それ、死亡フラグよ?」

 

言いながら思考加速。引き伸ばされた世界の中、ゆっくりと迫ってくる赤髪の戦闘機人の一撃。それを余裕を持って回避する。怒りに我を忘れ、態々近接戦を挑んでくるのだ。寧ろ遠距離からチマチマ削られるよりは分りやすくていい。

振りかぶられたテレフォンパンチ。それを少しからだの位置をずらして回避。そのまま彼女の背後を取る。

 

「なっ!?」

「データだけで強くなったような気分になってるガキが、いっぺん地獄みて出なおせ!!」

「ちょ――オブゥッ!!」

 

背後に組み付いてのバックドロップ。頭部を強打した赤髪は、けれどもまだ動いている。

 

「ならもう一発っ!!」

「ちょ、ま、ギ、ギブふぅぅっ!!!」

 

起き上がりのセカンドドロップ。再び頭部から地面に叩きつけられた赤毛の戦闘機人は、今度こそ全身をピクピク痙攣させ、完全にその動きを止めていた。

 

「――ふ、勝利はいつも空しいものだわ」

『その割に、自己陶酔してるみたいだけど。態々プロレス技なんか使っちゃって』

「あら、世の中には中華拳法と渡り合うプロレス技使いの魔導師だって居るらしいのよ? たまにはいいじゃない」

『まぁ……でも、プロレス技は……』

「いいじゃない花拳繍腿。私派手なのも好きよ?」

 

むしろ打撃技の華を知れ。

あの地味にジワジワ痛めつけるのとか。中々いいと思うんだけど。

 

『そういえばあの戦闘機人、途中で降伏宣言してたような』

「気のせいよ。ファントム、この数分の記録は事故で消去されたわ。いいわね」

『……えと、マスター? 管理局の意義とか……』

「いいわね?」

『イェスマム!』

なんてことを話していると、急に周囲を覆う魔力――結界の気配が掻き消えた。どうやら外の誰かが結界の維持を担当していた存在を潰したのだろう。

 

「それじゃ、私達も行きますか。と、その前に、この子達ね」

『軽く浮かせます』

「頼むわね、ファントムクロス」

 

ファントムクロスの支援により、拘束した三人の身体が軽く持ち上がる。その状態でアンカーで連結して……と。

 

「《――ありゃ、俺の出番なかったかな?》」

「? あら、ヴァイス陸曹」

 

身をのりだしたビルの外。其処には見知らぬ狙撃銃型デバイスを構え、苦笑しながらヘリから身を乗り出すヴァイス陸曹の姿が見えていた。

 

 

 

 

 

Side Mera

 

「大凡、予測どおりの展開なんだが……」

 

俺が介入した事で、原作から乖離した点は三つ。

 

一つはアギト。彼女が俺の元についたことで、ルーテシア陣営は大きく戦力ダウンしている。とはいえそれでもゼストとルーテシアの戦力には侮れないものがある。

正しい運用をすれば、逆に前線に出すよりも効果的に運用できるかもしれない。

 

次に、キャロの存在。竜召喚士である彼女を俺が引き取った結果、現在の機動六課フォワード部隊は、原作に比べ大きく機動力を削られている。とはいえ元々機動力に定評の有るメンバーが多い陸戦型だ。ヘリとあわせればそれほどのデメリットも無い。

 

三つ目、ギンガ・ナカジマを保護した点。地上本部襲撃時に回収した鞄の中に納められていた彼女。蘇生ついでに、アルハザードの技術でちょっとした魔改造を施して、ほぼメンテナンスフリーな戦闘機人にした以外は健全なままだ。この事件が終わり次第地上に返す予定だ。

 

機動六課に加え、スカリエッティ陣営からまで戦力を奪っているような気がしないでもないが、その点は大丈夫らしい。

何の目的があってか、転生者の一人、鳳凰院朱雀がスカリエッティ陣営で活動しているらしく、ヘッドギアをつけて洗脳されている風の彼が、地上でもう一人の転生者である御剣護を相手取っているし。多分目的は最高評議会を自分の手で殺す事、その代価にスカリエッティに協力している、という所だろうか。

調べた所、彼、鳳凰院朱雀は、御剣護に比べかなり積極的に原作介入を行なっていたらしい。

 

彼の原作介入の成果として、

 

・なのは撃墜の怪我度合いの低減

・エリオ・モンディアルの保護早期化

・クイント・ナカジマの生還(但し戦線復帰は不可能)

 

などなど。他にも量産型デバイス「ジークフリート」の採用により、管理局全体の生還率が跳ね上がったりしているのだ。因みにどうやったのかまでは知らないが、先ほどゲイズ中将が暗殺者から逃げ延びた、という情報も入ってきている。此方も俺は手出しをしていないので、多分彼の仕業だろう。

 

ただどうも、プレシアの救済や初代リインフォースの救済にも動いていた形跡があり、数多くの事件に関わった後が見える。

 

彼の目的は多分、そうした数多の悲劇を生み出したその背後の存在、最高評議会に対する復讐、なのではないだろうか。

 

とはいえ彼個人の力では――例え企業の力を使ったとしても、旧暦の時代から存続する最高評議会を捕らえることは実質不可能。それ故に、原作知識をして最高評議会を見事捕らえ、抹殺して見せたスカリエッティ勢力に同調する事で、自ら仇を討った、と。

 

もしこの予想が事実であるのだとすれば、かなり非生産的ではある。が、理解できない事は無いというのもあるのだ。どちらにしろ死ぬのであれば、自分の手で……なんて思いは否定しない。

 

その結果がコレ。スカリエッティーにより御剣を抑える駒として扱われてしまっているのだ。まぁ、二人の転生者同士が丁度いい具合に抑えあい、丁度原作と同程度の戦力比になっている。この状況であれば、流れが大きく狂う、といった事態は回避できそうだ。

 

「……杞憂だったか?」

 

視線の先、モニターに映るのは、母親である高町なのはに泣きながら挑む聖王オリヴィエのクローン……いや、ヴィヴィオという少女の姿。

 

実のところを言うと、あの聖王のゆりかごは大したロストロギアではない。確かに先史ベルカの時代では既にロストロギアの扱いを受けていたのであろうが、あの程度の代物では、少なくとも現時点のEFFと相手取ったところで一瞬で沈められるのは目に見えている。

 

同じアルハザードを祖に持つ艦でこそあるが、あちらは廃棄された艦をベルカの技術で何とか稼動状態に持っていったもの。対する此方は、完全なデータを継承し、それを十全な状態で再現し、更に発展させている代物なのだ。

 

無理矢理OSをアルハザードからベルカに書き換えている所為で、基幹システムも所々穴が見え隠れしている。そのおかげでこうして、聖王のゆりかごの監視モニターにハッキング出来ているのだが。まぁ穴がなくとも、アルハザードのマスターコードを持つ俺が居れば多分アクセスできたとは思うが。

 

『ブラスタースリー!! ディバィイイイイイインン!!!』

 

――ガシャコガシャコガシャコガシャコガシャコ!

――ンガッチャン!!

 

『バスタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』

 

『いや………いゃああああああああああああああ!!!!!!』

 

と、画面の中。非殺傷設定なにそれ美味しいの? とでも言わんばかりに、AMFは何処行ったという凄まじい威力の砲撃がゆりかごの中を突き抜け、その先で気取っていた数の子四番を打ち抜いた。うーん、成程これはトラウマになる。

 

「……これ、なのはちゃん、逮捕がもくてきなんだよね?」

「……逮捕? モロに殺る気にしか見えませんが」

 

脇から画面をのぞいていたすずかとイクスが好き勝手言う。まぁ、確かにあんなの喰らえば普通は死んだと思う。というか、幾ら非殺傷設定でも普通は死ぬ。思えばアレに耐えられる兵隊を量産できるというのだから、戦闘機人って凄いなぁ。

 

「うーん、でも戦闘機人って結構欠陥もあるんだよ?」

「……なんですずかが知ってる?」

「イクスちゃんに教えてもらったし、ギンガちゃんを治したのは私だよ?」

 

そういえばそうだった。今現在ミッドにいるウチの面々の中で、最も技術力の高いのはすずかなのだ。俺も頭脳チートを名乗れる程度には超“脳”力を持っているとは思う。が、如何足掻いてもすずかには敵うとは思えない。アッチは公式マッドだし。……流石顔芸の原案と言われる一族だけはある。

 

……いや、そういえばこの世界では吸血鬼はアルハザード由来の血筋というこじ付け設定みたいなのがあったか。もしあれが事実だとすれば、同じアルハザード由来の顔芸は……親戚?

 

「うん? メラ君?」

「!」

 

何か凄い笑顔で首を傾げられたので、これ以上考えるのは止めておこう。うーん、すずかの瞳が金色に染まって以降、下手な事を考える事も出来なくなってきた。まぁ、緑色に輝くアリサも同じぐらい鋭いんだけど。

 

「おっ、マスター、トドメさすみたいだぜ?」

 

アギトの言葉に視線をモニターへ戻す。と、その画面の中では、凄まじい光の塊を、バインドで固定したヴィヴィオに向ける高町なのはの姿が。

 

『全力、全壊! スターラートォ、ブレイカアアアアアアアアア!!!!』

『う、あ、うわあああああああああああああ!!!』

『ブレイクゥ、シュウウウウウウウト!!!!』

『うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』

 

轟音、爆発、そして画面はブラックアウト。

 

「……絶対、助ける? 如何見ても必殺を狙ってるよなこれ?」

「きっとその呪われた宿命から開放する(殺る)という意味での言葉なのではないですか?」

「いやいやいや、さすがになのはちゃんも其処までじゃ……うーん………」

 

そういって言葉を濁すすずか。いや、友人を庇うなら確り庇ってあげようよ。

 

「――ん?」

 

なんと事を考えつつ、ふとモニターに向けた視線の先。ヴィヴィオの胸から飛び出して砕けたレリック。けれども一瞬、何かそれとは違う物がヴィヴィオから飛び出していったように見えたのは、俺の気のせいだろうか。

 

「如何かしたのか、マスター?」

「……アギト、今のシーン、再生してくれ」

「うん? 了解」

 

そうして再生される画面。飛び出したレリックを拡大して。

 

「……これだ」

「何か、飛び出してる?」

 

レリックの影から、その破片に紛れるようにして飛び出す何か。システムを使い、ぼやけた画像をフィルタリングで解析して。

 

「……っ!?」

 

そうして、背筋に冷たいものが走る。

 

「何だこれ? 生き物か?」

「見たことの無い種ですね。蝸牛のようにも見えますが、人に寄生し、飛行も可能な種など……」

「メラくん?」

 

握り締めたこぶしが震えているのが分る。心配そうに此方に寄り添ってくれるすずか。その暖かさが何よりも心強い。……そうだ。いずれ来ると言うのは分っていたことだ。ただ、ソレが今であった、と言うだけの話。

 

「どうやら、俺の勘も、そう棄てた物ではないらしい」

 

モニターに映し出される、虹色の輝きを纏ったソレ。何時か出会う最大の脅威。地球で姿を見ないと思えば、まさか異世界の最終局面で相対することになろうとは。

 

「……柳星張。いや、イリス……」

 

世界を滅ぼしかねない、最大の脅威。それが、目と鼻の先に現れた。その事に今、漸く気付く事が出来たのだ。

 

 

 

 

 

Side end

 

 

 

 




■イートナンバーズ~ティアナ・ランスターの逆襲~
「ハザード・タイム」
すべてはこの言葉に要約される。傑作級にぶっ飛んだゲーム。何か最近の映画に似たようなコンセプトのがあったような?

■NDK
ねぇ今どんな気持ち?
見下していた相手に見下されて、ねぇ今どんな気持ち? 馬鹿にしていた相手に馬鹿にされて、ねぇどんな気持ち? ねぇねぇ、今どんな気持ち?
――などと言う、相手の神経を逆撫でするときの定型句。

■綺麗に決まったアッパー。
因みにジョフレアッパーである。

■戦場で仲間の名前を叫んで咆える。
「戦場でなぁ 恋人や女房の名前を呼ぶ時というのはなぁ 瀕死の兵隊が甘ったれて言う台詞なんだよ」by御大将

■むしろ打撃技の華を知れ。
幕ノ内一歩とか、明日のジョーを参照。
北斗の拳とかジョジョの奇妙な冒険でも良し。

■柳星張
ボスモンスター。なんと聖王の肉体に潜んで、聖王と共に戦闘技術や聖王の鎧、その他様々な技術や、顔芸により他生物のDNA情報などを吸収してしまいました。
原作のソレよりも中々凶悪なことに。

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