高町なのはは心底恐怖していた。
戦闘機人の四番目、クアットロを倒し、自らの娘であるヴィヴィオを胸に抱き、漸くすべてを取り戻したと、ヴィヴィオを抱きしめて小さく安堵して。そうして、気付いたのだ。この空間に居る、彼女の認識していない何かが居る事を。
――――――――――――――――――ッッッ!!!???
得体の知れぬ、心臓を鷲掴みにするかのような咆哮。甲高い機械のようでいて、それで何処か生物の色を持った叫び。
「な、何!?」
「ママ……」
「だ、大丈夫だよヴィヴィオ。私が守るから」
ヴィヴィオにそう囁きながら、けれども高町なのははその身を一層緊張させる。聖王オリヴィエのクローンたるヴィヴィオは、その実力的にSランク魔導師を上回る。そんな彼女を正面から下した高町なのはは、既に体力的にも魔力的にも限界に近かった。
――いざとなれば、ヴィヴィオだけでも。
「……なんやコイツ……」
そんな高町なのはの横。シュヴェルトクロイツと夜天の書を構え、ユニゾンしたまま最大限の警戒を行なっていた増援、八神はやて。彼女は、正面に現れたソレを見て、思わずそんな声を上げてしまう。
彼女達の目の前に現れたソレ。それは、ヴィヴィオの奉じられていた王の間、その一角を覆いつくさんばかりに巨大に広がる怪獣だ。その全長は20メートル以上。しかも、目の前で徐々にそのサイズを大きくしていくのが目に見えて分った。
「はやてちゃん、逃げるよ!」
「そうしたいのは山々なんやけど、高濃度AMFが……って、アレ?」
思わず悲観的になるはやて。けれどもその言葉の途中、何故か不意にゆりかごを満たすAMFがスッと引いていくのを感じて。咄嗟に身体中の魔力の通りが良くなるような錯覚を覚える。
「――なんや、急にAMFが消えおった……」
「でも、これなら逃げるくらいは出来るよ!」
「せや……そしたら、とっとと尻尾巻いて逃げよか!!」
浮き上がる二人と、その背後から迫り来る触手。なのはは咄嗟にそれをシューターで叩き落すが、その途端にシューターは拡散するようにしてその姿を崩れさせる。
「なんや今の!?」
「魔力が拡散……ううん、喰われたんだ!?」
「なんやと!?」
なのはは直感的にそれがかつて相対したあの巨大生物、ギーオスと同じ魔力を食う力だと見抜いていた。一度相対し、生死をかけて戦った相手だからこそ分る直感。そして彼女の理性と直感は、揃ってこの怪物をギーオス以上の驚異だと叫んでいた。
「アクセルフィン!!」
「ええい、リイン、加速するで!!」『了解なのです!!』
なのははその脚に展開する桜色の羽を羽ばたかせ、はやてはその背の四枚羽を羽ばたかせる。途端に魔力を噴出して加速する二人。けれどもその背後を追う様にして、鏃のような切っ先を持つ触手が二人の背中を追いかけだした。
「触手ぅ!? アレはトリと……ギーオスとは違うイキモンなんか!?」
「わかんないよ!! でも、アレも魔力を餌にするんだと思う。だから私達の飛行魔法に反応して……」
「ええい、なら魔法やのーてカチで……アカン! どっちにしろ私らはでっかい魔力の塊や!!」
はやての言う通り、例え彼女達が魔法行使による魔力噴出を抑えたとして、どちらにしろ現在この聖王の揺り篭の中に存在する魔力源で、最も大きいのは聖王、夜天の王、そして高町なのはの三人だ。
ゆりかごの動力炉が止まった現在、触手にとってのご馳走は、例え魔力を放っておらずとも、その場に居る三人である事は間違いなかった。
「……っ!? はやてちゃん前!!」
「なん……やとぉ!? 隔壁が!!」
そうして逃げ惑うはやてたちの視線の先。其処には先ほどのアナウンスの後に閉じられた、隔壁シャッターが行く手を塞いでいて。このまま進めばフクロのネズミ。されとて引けば其処は怪物の餌食へ一直線。
「ぐっ、こうなりゃ私のデアボリックエミッションでぇ――!!」
「ちょ、こんな所でそんな魔法使ったら……って、アレ!!」
「なんや……ってまたか!!」
驚いたなのはの声。釣られて前を見れば、其処には静かに開きだした隔壁シャッターの姿が。
「……どうもおかしいでなのはちゃん。まるで誰かが私らの行く先を態々開いてくれとるみたいや」
「でも、此処はスカリエッティの陣地だよ? 一体誰がそんな事を……」
「分らん。少なくともこの阿呆や無いのは分るんやけど……」
そういって背中を指すはやて。彼女の背中には、現在なのはの全力砲撃でノックダウンしたクアットロの姿があった。
このゆりかごの最高指令であるクアットロ。彼女がこうしてダウンしている以上、現在の揺り篭は自動操縦以上の行動は出来ない筈だ。だと言うのに現在彼女達は如何考えても誰かの思惑で逃がされている。
「考えても分らん! なんか用が有るんやったら向こうから接触してくるやろ! 私らは素直に逃げさしてもらうで」
「うん!」
加速。彼女達が通り過ぎた途端、再び下ろされてゆく隔壁。隔壁は一瞬触手の追撃を阻害するが、途端に黄色い光が隔壁を粉々に切裂いていく。
「……あの光は、トリのやつと同じやな」
「魔力共振メス、だっけ」
丁度一週間前の管理局地上本部襲撃事件。その折、地上本部を襲った最後の出来事。それが、100メートル級の超巨大ギーオスの襲撃だ。結局ギーオスは正体不明の魔導師により滅ぼされたが、その存在が驚異である事には変わり無い。
魔法が吸収されるという点からも、対AMF戦闘に優れた機動六課が戦場に駆り出され、相対する可能性は低くない。故に、彼女達はギーオスについての解析情報を既に頭の中に叩き込んでいた。
その中にある、ギーオスの攻撃手段。魔力素粒子を共振させる事で、一種の超音波メスのようなものを魔力素粒子を用いて放つ技。純粋な魔力素粒子を用いるが故に魔法的防御手段では防ぐ事は難しく、次元航行艦のディストーションシールドで辛うじて防ぐ事が可能と試算されたソレ。
「やっぱり、あれはギーオスと同じイキモンなんか?」
「ソレにしては形が違いすぎる。……もしかしたら、亜種とか、同じものを起源に持つ別種とかじゃないかな」
「成程な。……って、ゆうてる場合やあらへん!! なのはちゃん、右!」
はやての言葉に反応し、咄嗟にシューターを飛ばすなのは。その先でなのはと併走していた触手の鏃をシューターが叩き落した。シュピィン、という音と共に切れ落ちる通路脇の壁。分厚い装甲で覆われた頑丈そうな壁が真っ二つにされたその光景は、なのは達の肝を心底冷す。
「話には聞いてたけど、なんやこの滅茶苦茶な威力は……」
「回避型じゃなくて迎撃型の私達とは相性最悪だよ……はやてちゃん下!」
「ぬっ、『フリジットダガー!!』」
氷の刃が触手の鏃を弾き飛ばす。途端に明後日の方向へ照射される魔力メス。
「こら、拙いで……ちょっとずつ触手の本数が増えてきとる。何時までも逃げ切れん」
「諦めちゃダメだよ、何か方法が……うん?」
なのはがはやてを勇気付ける最中、不意に何かの音を聞いたような気が下なのはは、その言葉を途中で止め、触手を回避しながらも何とか耳を凝らす。
ボボボボ、という洞窟効果で反響する機械音。この音は最近聞いた事の有る、バイクのソレだと、なのはは即座にその正体に気付いて。
「これは、バイクのエンジン音やな」
「うん……まさか」
これが少し前、AMFに汚染され、ただ撤退が出来ない状態であれば、救援を喜んでいたかもしれない。けれども今現在、この状況では……。
「なのはさーん!たすけn「スバルつかまりなさい!」いぎゃっ!?」
視線の先、笑顔で此方に手を振るスバル。その彼女が掴まるティアナは、一瞬此方を見て顔を青ざめさせた後、即座にバイクを反転。その凄まじい衝撃にスバルが吹き飛びそうになるのを、片手で襟をつかんで引き寄せて。
(……スバルって、実は機械パーツを組み込んでる所為でかなり重い筈なんだけど……)
女の子に対する感想としては若干失礼な事を考えるなのは。けれどもそんな事を考えている余裕も無く、背後から迫る触手をシューターで叩き落す。
「高町隊長、なんですかコレ!!」
「多分、ギーオスの亜種だと思うんだけど……」
「ギーオスの亜種――ってまさか!?」
「ティアナ、何か知ってるの?」
思わず、といった様子で声を漏らしたティアナ。なのはが問うと、ティアナはしまった、と言う風に若干表情を歪めて。
「……えぇ、少しだけ。でも、今はそれより……」
言いつつチラリと背後を見るティアナ。その視線の先には、先程よりもその本数を増やし、凄まじい数でなのはたちを追いかけるおぞましい触手の群が見えていた。
「く、高町隊長、八神部隊長、まだ少し飛んでられますか!?」
「ウチは大丈夫や。けど、なのはちゃんは……」
「私もあと少しなら大丈夫。だけど、それが……」
「少しだけ待ってください。 スバル、ちょっと運転代わりなさい」
「え、ええっ!?」
「無茶な動きしろなんて言わないわ。ただハンドル握ってりゃいいわよ! ファントム、サポートしなさい!」
『I Mam!!』
ティアナの言葉に、彼女のデバイスであるファントムクロスが答える。
ティアナがバイクのハンドルから手を離し、そのまま軽く跳躍。その隙に運転座席へと滑り込んだスバルが、ガッチリとハンドルを握りこんで。
「てぃてぃてぃティア~!!」
「上手いわよ。なに、ちょっと早いだけの自転車と変わんないわ。速度だってキャリバーのと同じくらいでしょ」
「まるで曲芸やな。で、この後ティアナは如何する心算なんや?」
「こうします。……ファントムクロス、イクリプスモード!!」
『stand by ready!!!』
ティアナの声が通路に響く。途端、バイクの後に立ち上がったティアナの姿が光に包まれる。ソレまでの常のバリアジャケットが姿を変え、全体的にメタリックな、機械的な姿へと変身した。
「そ、そのバリアジャケットは……」
「私の奥の手です。あんまり管理局では使いたくなかったんですが、そうも言ってられませんし」
言いながら、ティアナはその手にファントムクロスを展開させる。けれどもその姿は、普段から愛用しているハンドガンの姿ではなく、なのはもはやても見たことも無い型のライフルだった。
――イクリプスモード。それは、マナを使うことの無い管理局での活動に際して封印された、ティアナの全力を扱う高燃費モード。
ただマナを使うだけではなく、更にとんでもなく燃費の悪いイクリプスモードを扱う為だけのスタイル。ただしその高燃費分のコストをかけるだけはあり、マナスラスターにより擬似的な空戦を行なうのも、このスタイルであればかなり精細なコントロールが可能となる。
全身を覆う金属鎧、腰と肩の跳躍ユニット、体の各部に取り付けられたウィングマストと、額に装備される精密狙撃用センサー。
下手すると管理局では質量兵器扱いされかねないコレ。マナ云々もそうだが、そういう点でも露出すれば封印されかねない。そういった意味でティアナは、この橙色の鎧を封印していたのだ。
(とはいえ、こんな場所で死ぬよりはマシよね)
「高町隊長、八神部隊長、耳塞いで!!」
「え、ちょ――」
「ファントムクロス、レールガン、フルロード!!」
「まっ――」
キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!
瞬間、ティアナの手元で光がはじけた。連続して放たれる閃光。間隔がゼロに等しければそれは光になる。そしてティアナの放つその閃光は、当にその光と呼ぶしかないものであった。
凄まじい勢いで連射されるレールガン。正確には、電磁投射砲をモデルとしたマナ速射砲なのだが、そんな事は些細な事と、ティアナは触手を次から次へと迎撃していく。
然しそれは最早ピンポイントな迎撃ではなく、ただ襲い来る方向に銃口を合わせているだけ。それだけで触手は弾けとび、粉々に砕け散るのだから。
「しょ、触手が、砕けた? なんで、私の魔法は効かなかったのに!!」
「ってか、耳痛いわっ!!」
叫ぶはやてを無視して、ティアナはスバルの肩をポンポンと叩く、途端に再び曲芸のように位置を入れ替えるスバルとティアナ。
「……慣れてる?」
「まさか。今日初めてやりましたよ」
そんな事をいいながら、バイクと二人の魔導師はゆりかごの通路を加速するのだった。
Side Nanoha
「見えた、出口だ!!」
轟音を立てるバイクの視線の先、不意に見えた光の差し込む場所。それは多分、ティアナとスバルが突入に際して揺り篭に空けた大穴。
腕の中で震えて、けれども気丈に振舞うヴィヴィオの体温に勇気付けられて、出口まであと少しだと萎びれそうになる駄目な自分を鼓舞して。
けれども、本当の絶望と言うのは後からやってくるのだ。
「……っ、出口がっ!!??」
悲鳴のようなスバルの声。釣られて前を見れば、正面の床。其処から天に向けて勢いよく突き出した鏃の触手。それはそのまま天井に向けて、件の金色の光を撒き散らした。
途端に、相当な強度のあるはずの、聖王の揺り篭、その内部構造が砕けおち、見えていた出入り口の穴、其処へ続く通路を瓦礫で埋めてしまった。
「そ、そんな……」
「ちょ、これ本気で拙いんちゃうか!?」
悲鳴を上げるはやてちゃん。その声に、思わずヴィヴィオを抱く腕に力が篭ってしまう。
「ママ……」
「大丈夫。ママがちゃんと守るから、大丈夫だよ、ヴィヴィオ」
……そう、少なくともヴィヴィオだけは、何があっても、命に変えても守ってみせる。
「ティアナ、さっきの魔法で何とかならんのか!?」
「さっきのアレは貫通させる魔法であって、吹き飛ばす魔法じゃないんですよ!」
「そやかて他に方法もあらへんや無いか!!」
「やっても良いですけど、高確率で逆に通路が埋まりますよ!?」
「なら、なのはさんのディバインバスターで……」
「ごめんスバル、私、もうショートバスターを撃つ余裕も無い……」
というか、既にバリアジャケットの維持も辛くなってきている。さすがに高濃度AMF空間で、更に推定Sランク魔導師と長時間戦い続け、更に全力の飛行魔法で逃げ回った後に、更にディバインバスターを撃てるほどの余裕は無い。カートリッジも既に使い切った。私に手は残されていない。
せめてブラスターモードの負荷がなければ……いや、あの時ブラスターシステムを使う必要があったのは確かだ。その事を今さら後悔しても仕方が無い。
「なら、私の振動拳で……!」
「やめなさいスバル!! アンタのそれもこの状況じゃ崩落を誘発させかねないわよ!」
「でも、じゃぁ!!」
「……ええい、私が何とかするわよ!! スバル、自走しなさい! 八神部隊長、運転出来ますか!?」
「バイクをか? 自転車みたいなもんやろ、任せとき」
「お願いします。なのはさん、八神部隊長の後ろに。速度大分落ちてます」
トンッ、とバイクから飛び降りたティアナ。ティアナの今の姿……イクリプスだっけ? ティアナの切り札であるその姿。腰に付けられた機械パーツから噴出す魔力で推力を得ているらしいソレ。下手をすると質量兵器扱いされるかもしれないのだ、とティアナが零していた。
その橙色のバリアジャケット、というか半機械鎧で滑空するティアナ。その手には先ほどのレールガン? の状態に変形したファントムクロスがある。
「おっと、ちょっとムズいなこれ」
「八神部隊長、あたしが抑えときますから……」
「ありがとな、スバル。なのはちゃん、後ろに乗ってまい!」
「あ、うん!」
速度をあわせ、バイクの後部座席に腰を下ろす。飛行魔法の維持を解除して、その途端体を襲う疲労感。結構ギリギリだったみたいだ。
「よし、ファントムクロス、レールガン、しゅ……スバル! 速度が落ちてる!!」
「ええっ?! 拙い、八神部隊長、アクセルまわして!!」
「え、ええ? アクセル!?」
不意に叫ぶティアナ。その表情には焦りの色が見て取れた。確かに、逃げ出した当初に比べ、何となくだが景色の流れる速度が緩やかに成っているような気がする。
……多分、さっきはやてちゃんが運転を代わった辺りから。
「いけない、加速して!! スバル!!」
「うん!! ……な、なのはさん後っ!!??」
目を見開いて此方に叫ぶスバル。何事かと後を振り返って、すぐ目の前にある鏃のようなものに気付いた。
中央に赤い玉のような収まった、鏃のようなソレ。何処か遠くから聞こえる、ティアナとスバルの私を呼ぶ声。その先端に集まる黄色い光を見て、ただ冷静に「あ、コレで終わりか」なんて思って。
――不意に、腕の中に暖かいものを感じた。
「――!!」
今、今何を考えた高町なのは!! 此処で終わりと、終わってしまうのかと、終わることを認めたか! 終わってもいいと諦めたのか!!
それでいいのか、いいはずが無いだろう!! 私には、まだやるべきことが有る。まだ守らなければいけない子がいる!!
渾身の気合を込めて、左手に持つレイジングハートを振りかぶって、背後の触手をねらって――。眩い光が視界を白く染めて。
――途端、パリィン、と澄んだ音が、薄暗い揺り篭の中で響いた。
「……え?」
「これは……まさか、メラさん!?」
ティアナが声を上げる。振り返ればティアナの視線は私の方向……ただし、その少し上を向いていた。
改めてその方向に視線を向けて、思わず唖然とする。
「なのはちゃん、大丈夫?」
「……す、すずかちゃん……?」
其処に居たのは私の幼馴染。地球に住んでいるはずの、月村すずかちゃんが、その瞳を金色に染めて、宙に優雅に佇んでいた。
「え、すずかちゃん!? 本物の!? 何でこんなところに!? っていうか如何やって!? いやむしろなんで空に?!」
「落ち着きぃなのはちゃん! ホンモノのすずかちゃんがこないな所に居る筈あらへんやろ!!」
「酷いなはやてちゃん。私ホンモノだよ?」
「んなアホなことあってたまるかい!! そもそもすずかちゃんにはリンカーコアかてあらへんのに、何で空とんどんねん!!」
「月村の技術はすごいんだよ。管理局の技術が世界のすべてじゃないんだよはやてちゃん」
……まぁ、それは理解できる。昔おにいちゃんと一緒にすずかちゃんの家に行ったとき、忍さんに見せられたあの巨大ロボット。少なくともミッドでは、あんなロボットを製造する技術は無いらしいし。
「ほなら何か! 魔法によらん次元転移技術でも開発したゆうんか!!」
「はやてちゃんすごーい! 大当たりだよ!」
「んなアホな事あって……」
「如何でも良いが、さっさと脱出しろ」
不意に聞こえてきた第三者の声に視線を動かす。そして見つけたその姿に、思わず喉が凍りつく。
その姿は、何時かの古い過去。二度目の撃墜の折、私を死地から救い出してくれた黒い姿。
「あ、あなたは……」
「すずか、其方の要を。アギト、お前もだ」
「うん」「合点承知!」
と、此方が何かを言う前に、すずかちゃんと、もう一人何処からとも無く現れた赤い小さな少女に命じた黒い彼。私達を囲うように立った三人は、次の瞬間膨大な魔力を噴出させた。
『……違うのです! これ、魔力じゃないのですよ!!』
「は、はぁ!?」「ええっ!?」
『寧ろコレ、ティアナがたまに使ってる魔力っぽい何かです! 個人差かと思ってたのですけど、もしかして何か別の技術だったのですか!?』
「い゛っ、ばれて……」
「ほぉ、ちょっと話聞かせてもらおか?」
「……はやてちゃん、相変らずだね。なのはちゃんも大変でしょ?」
「うぅ、普段はもっとしゃきっとしてるんだよ? 本当なんだよ?」
クスクスと笑うすずかちゃん。その姿は昔から見慣れた、優しい月のように何処か気品のある姿で。間違っても偽者なんかに出せる雰囲気じゃない。確証があるわけではないけれど、確信を持って彼女が本物のすずかちゃんだと思っていた。
「跳ぶぞ」
「とぶって……ぬわっ!?」
黒い人の言葉にはやてちゃんが咄嗟に突っ込みを入れようとして、けれどもその言葉は途中でバッサリと切られてしまった。
瞬間あふれ出した白い輝き。何時か見たあの時の白よりも尚一層光り輝く白。浮かび上がった魔法陣は、ミッドの物でもベルカの物でもない、立体的な球体魔法陣。
爆発するように溢れた光。思わず目元を手で覆って、光が収まったのを感じて少しずつ瞼を開いて。そうして見えた景色に、再び目を丸くする。
「ここは……」
「ようこそ、ここは私達の母艦、ウルC4だよ」
笑顔で振り返ったすずかちゃんは、そうにこやかに告げたのだった。
■ファントムクロス・イクリプスモード
ファントムクロスの高燃費ハイエンドモード。
マナを使わない管理局世界では封印されていた、ファントムクロスのフルスペックを発揮する為のモード。
装甲、各種センサー、跳躍ユニットなどの機械的なパーツを多く装備し、システム的負担を増やしつつも同時にマナ負担も跳ね上げる事で、使用者の資質に関わらず個人戦力としては圧倒的な物を運用者に与えるというモノ。
実はファントムクロス自体EFFではなくメラの個人的資産から開発されており、日本円で11桁ほどの開発費用がかけられている。
因みにイクリプスモード時のバリアジャケット(バリアアーマー)の姿は、MS少女な橙色の武御雷。
■レールガン
超電磁砲ではなく、マナによるバレット系術式を超加速・超連射で撃ち出す術式。
バレット系術式は速度以外の誘導性などを完全に無視しているため低コストではあるが、連射する分により凄まじくコストのかかるスキルとなっている。
■月村邸地下の巨大ロボット
月村邸地下の秘密工場にて開発されていた巨大ロボット。
全長10メートル程と、TSFに比較すると若干小さめではあるが、それでも十分当時の現行技術を圧倒的に上回る技術により開発されていた。
動作方式はモーションとレース、セミ・マスタースレイヴ。
機体名称は『ジャイアントファリン』。しのぶ本人の姿にしなかったのは、「自分の姿の巨大ロボットなんて恥ずかしい」かららしい。
後に恭也に挑み、彼により真っ二つにされた。更にその後、TSF開発の際、パーツ取りに分解された。
■今週のなの破産
時期はゆりかご突入から暫く前。
愛の募金の感謝として握手会に来るも、何故か会場はクラナガン郊外に存在する広大な面積を誇る市民運動場。
お日様の照る中、その広大な土地を埋め尽くす人、人、人。なのは一人相手に何故か満員の運動場には、何故か屋台やグッズ店舗がずらずらと立ち並び。
何処の夏フェスだといわんばかりの有様に、然し握手側のなのはは時間で区切る事も休憩を入れることも出来ず、快晴の人混み(若干香る汗の香り)を前に、長時間延々と笑顔で握手を、例えばファンの女の子だろうが、追っかけの男の子だろうが、巨体の男性だとか、バンダナリュック相手だろうが、延々握手し続ける羽目に。