リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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機械的な白亜のお城、とでも言うのだろうか。他に表現の仕様の無い、その白い通路。

 

多分転送ポートの一種だと思うのだけれども、どれも見たことの無い型式のものばかり。しかも其処に刻まれている文字は、ミッド語に似た……正真正銘の英語。

つまり此処は、地球の施設だという事になるの、かな? ……地球ってそんなに技術進んでたっけ? 技術レベルBとかじゃなかったっけ???

 

「説明は後でするから、とりあえず皆私に付いてきてくれる?」

 

そういうすずかちゃんに促され、彼女の後ろを追って歩き出す。

 

「あの、なのはさん?」

「大丈夫。すずかちゃんは私の友達だから」

 

少し不安そうなスバルに、そう声を掛ける。不安そうなスバルとは逆に、こんな状況でも毅然としたままのティアナは流石だ。

 

……でも、何か、妙にリラックスしてない?

 

転送ポートを経由して、少し歩いてたどり着いた場所。全面をモニターで覆われた、とても広いお部屋。管理局のシステムにはこういう型式の物は無駆った筈。

 

――やっぱり、少なくとも管理局の技術ではない。

 

そんな事を考えていると、不意に部屋の中に椅子と机が現れる。立体映像かとも思ったのだが、先を行く黒い人とすずかちゃんたちが平然とそれに腰掛けたのを見て、もう何だか色々考えるのが面倒になった。

 

「……さて、先ず自己紹介からいくか」

 

私達が全員席に着いたのを見て、そんな事を言い出した黒い人。

 

「俺はメラ。地球連邦軍統帥本部直属機動特務部隊Hollow所属の大佐だ」

「同じく、地球連邦軍統帥本部所属の月村すずかです。階級は中将だよ」

「アタシはアギト。マスターのユニゾンデバイスだ」

 

……何処から突っ込めばいいのだろうか。

 

「地球連邦軍? そんな組織うち等は知らんで」

「はやてちゃん」

「わかっとるがな。……えー、時空管理局本局古代遺物管理部機動六課部隊長八神はやてや」

「同じく機動六課ロングアーチ所属のリインフォース軍曹です!」

「同じく、機動六課スターズ部隊長の高町なのはです」

「す、スターズ1、スバル・ナカジマです!」

「……スターズ2、ティアナ・ランスター」

 

全員が名乗を終えたところで、改めて視線が部屋の中央に座る黒い彼に向けられた。

 

「さて、それじゃ話を進めるが……先に行っておくと、我々から君らに渡せる情報は少ない。その事は留意してくれ」

「なんでや」

「国家機密、のようなものだ」

「国家機密て……そもそも、あんた等の所属いうた、地球連邦軍? 地球っていう事は97番の事なんやろうけど、あの世界出身のうち等はそんな組織聞いたこともあらへん!!」

「君等が管理局に亡命した後に成立した組織だ。知らないのは当然だろう」

「ウチが亡命!? いつうち等がそんな事した!!」

「……許可なく外国に移住するのは亡命と言うんだが」

 

確かに、ミッドチルダは外国だよね。というか、異世界なんだけど。あんまり法律とか詳しくないけど、確かに日本とミッドチルダに国交なんてあるはずも無いし、第一私達税金納めてないし。

 

「君等が地球を出て行った後、地球はギーオスにより壊滅。その後復興の為、生き残った人類は一つに統一。そうして結成されたのが地球連邦であり、地球連邦軍だ」

「うち等が地球を離れて10年やで!? その間に地球が壊滅!?」

「正確にはこの5年以内の話だ。君等も見ただろう、ギーオスを。殊更冬眠していたアレの数が多かった地球は、ソレに加え様々な状況から人類滅亡の危機に陥った。幸い、こうして復興して見せはしたのだが」

 

とはいえ、未だ未だ人口は少ないんだが、という黒い人……メラさん。

 

「地球が壊滅って……アリサちゃんは!? お父さん達は?!」

「ちょ、なのはちゃん落ちつきぃ!」

「大丈夫。日本はかなり被害が少なかったから」

 

私達頑張ったんだよ、というすずかちゃん。なんでも、月村財閥とバニングスグループが共同出資で起業した会社でロボットを作って、それでギーオスと戦ったのだとか。

 

……昔からそういうの好きだったけど、まさか本当にそんなもの作っちゃうとは。

 

「まぁ、分った。とりあえずあんた等が地球連邦とか言うところから来たっていうのは納得しといたる」

「……随分上から目線だな」

「ふん! でや、あんた等は何であの現場におった。今私らが居る此処はどこや!!」

「はやてちゃん、仮にも命の恩人何だから」

「……せやな。ちょっと感情が高ぶってしもた。申し訳ない」

 

苦々しげに頭を下げるはやてちゃん。でも、気持ちは分る。私だって、腕の中のヴィヴィオの体温がなければ、もっとパニックに陥っていたかもしれない。

 

「先ず、我々があの場に居た理由だが……簡単に言えば、過去地球に裏から出入りし、不正に資金や物資を動かしていた異世界の存在、と言うものを調べにきていたと言うのが一つ」

 

「……なんやて?」

 

「他にも色々あるが、今重要なこととしては、アレだろう」

 

そういってメラさんが指差す先。光の灯るパネルに映し出されているのは、ミッドチルダの悠か上空を飛行する巨大な戦艦。聖王のゆりかご。

けれどもその様子は、少し前にその傍で空戦をしていたときとは少し違っていて。

 

「……なんやアレ」

 

聖王のゆりかご、その丁度中央の辺りからこぼれ出たそれ。おぞましく蠢く数多の触手と、その中央に陣取るようにして佇む巨大な怪物。

 

「メラ君、あれが?」

「ああ。地球に封じられ、そしていつの間にか管理局の人間によって盗み出され、そしてああして今現代に蘇った怪物。――邪神、イリス」

 

重々しく彼が呟いた言葉。その言葉はこの場に居る全員の耳に響いて。

 

「管理局が盗み出した?」

「ああ。正確には管理局の手駒であるジェイル・スカリエッティが、彼らの命令で動く最中に、地球の姫神島で発見、そのまま盗んでいった代物だ」

「……それから、怪物が?」

「ああ。細かいことは知らんが、アレはゆりかごの中で飼育されていたらしいな。一部パーツはその子の中に埋め込まれていたらしいが……」

 

そういって私の腕の中を見るメラさん。ヴィヴィオの中に、あの怪獣のパーツが?

 

「目的は知らん。が、高町なのは、アンタの魔法がその子に直撃した瞬間、レリックと一緒にその子から逃げ出す陰のようなものを確認している」

 

そういうメラさん。その指が動く途端、空中に投影される映像。ソレは確かに、私がヴィヴィオに向けてスターライトブレイカーを放つ瞬間の映像だ。

 

「こんな映像、どうやって……」

「元が同じ土地の技術で製造された艦だ。ハッキングは容易い」

「同じ技術? 古ベルカのってことか?」

「いや、アルハザードだ」

 

サラッと告げられたその言葉。一瞬流し変えたはやてちゃんが、一呼吸置いて改めて絶句した。

 

「あ、アルハザードぉ!!??」

「えっとね、はやてちゃん。ミッドチルダで伝説扱いされているアルハザードって、実は大昔の地球のことらしいんだ」

「はぁっ!?」

 

すずかちゃんの補足に、尚更驚愕の声を上げるはやてちゃん。私はといえば、もう驚きつかれて慣れてきた。

 

「それよりも、だ」

 

と、席から立ち上がったメラさんが此方へ歩み寄ってきた。何をするのかと少し緊張に身を固めたが、メラさんは此方に見向きもせず、その腕の中にあるヴィヴィオに顔を寄せて。

 

「やぁ」

「……おじさん、誰?」

「おじ……おじさんは、メラっていう。大昔のアルハザードの末期に開発された、マナっていうエネルギーを運用する生体兵器だ」

「「「「……っ!?」」」」

「うん?」

「まぁ、要するにヴィヴィオ、君の同類だと思っておいてくれればいい」

 

若干おじさんの部分に詰まったものの、にこやかにそうヴィヴィオに告げるメラさん。けれども私達は、彼がヴィヴィオに言い放ったその言葉の内容にこそ驚いていて。

 

「で、だ。ヴィヴィオ。君の中にいたアイツのことで、少し君の事を見せてほしいんだけど。いいかな?」

「……うん、いいよ」

「ヴィヴィオ!?」

 

突然の彼の申し出にも驚いたが、それ以上にその言葉を一瞬で承諾したヴィヴィオにも驚いた。

慌ててヴィヴィオを諭そうとしたのだが、その前に目の前に現れる立体型の魔法陣。咄嗟に身を硬くしたのだが、小さな光を上げたそれは一瞬で消え去って。

 

「やっぱり、ちょっと奪われてたか」

「何とか成るの?」

「管理局では無理だろうが、此処には俺が居るからな。俺のマナをちょっと注ぎ込めば……」

 

すずかちゃんと二人で何かを話しながら、その手の先から放たれた白い光。それはヴィヴィオの身体を優しく包むと、静かにその体に溶け込むようにして消えていった。

 

「……あれ?」

「どうかしたのヴィヴィオ!?」

「うん。なんか、すっごく元気になったよ、なのはママ」

 

そういってニッコリ微笑むヴィヴィオに、思わず毒気を抜かれて。

 

「アレに寄生されていたからな。何か悪影響は無いかと少し心配だっただけだ」

「えっと、ありがとうございます!」

「どういたしまして」

 

和やかに話すヴィヴィオとメラさん。えっと、なんだろう。無表情で恐い人かと思ったら、結構子供に優しい良い人?

 

「……ええと、ヴィヴィオのことは置いておいて、アレの話はしなくていいんですか?」

 

と、そんな事を考えていると、不意にティアナの声が響いた。咄嗟に振り向けば、其処にはゆりかごから顔を突き出した怪獣の姿が映るパネルがあって。

 

「せ、せや! 結局アレはなんなんやねん!! それに、アルハザードって!!」

「端的に言えば、ギーオスはアルハザードを滅ぼした怪獣で、俺は次にギーオスが蘇ったときにその対抗策として残された、アルハザードの生体兵器、君等の言う一種のロストロギア。地球の復興は俺の齎したデータによるもので、アレは俺とは逆、世界を滅ぼそうとしたアルハザードの人間が生み出したギーオスの王だ」

「……え、えっと?」

「要するに、アレを放置すればミッドどころか世界がヤバイ」

 

その言葉に、再び私達管理局の人間は身を硬くし、如何いうことか詳しい説明を求めて再びメラさんに口を開こうとしたところで、不意に通信モニターらしき物が音を立てて開く。

 

「広域通信、だね」

「これは……フェイト・T・ハラオウン執務官からの物だな」

「フェイトちゃんの!!」

 

その言葉に私達管理局組みの視線がモニターへ集まる。映し出されるフェイトちゃんの顔。その何処か焦燥した顔色に、まだ厄介事が残っているのかと何かが折れそうになって。

 

『此方、時空管理局本局古代遺物管理部機動六課所属のフェイト・T・ハラオウンです。現在広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティを逮捕、「ゆりかご」に現れた怪物の情報を入手しました。データと共にその詳細を伝えますので、急ぎ対処してください!!』

 

言葉の終わりはまるで悲鳴のようで。

泣きそうな表情のフェイトちゃんが続けた言葉を聞いて、私達の表情から血の気が引く音を聞いたのだった。

 

 

 

Side end

 

 

 

 

 

 

 

Side Fate

 

 

「簡単に言ってしまえば、アレは古代アルハザードにおいて生み出された生物兵器だ」

「アルハザードの、生物兵器……!?」

 

スカリエッティの言葉に、知らず知らず息を呑む。

事の起こりは少し前。崩落の止まったスカリエッティの秘密基地。エリオの救援でなんとか危機を脱した物の、生き残っていた計器が知らせたゆりかごの現状。それは、得体の知れぬ触手を漂わせた奇妙な怪物がゆりかごからあふれ出す姿だった。

 

「は、ははは、ははははは!!! ついに目覚めたか。いや、目覚めてしまったのか。然しあのような姿になるとは。元の形状とは大きく異なるが……いやぁ、興味深い。実に興味深い!!」

 

バインドにより拘束されたスカリエッティ。その怪物の姿を見た途端、突如としてそんな事を言い出した。

 

「あれが何なのか知っているのか!?」

「知っている。あぁ、勿論知っているとも。あれはね、97管理外世界にて封印されていた、古の邪神さ」

「いにしえの……邪神?」

 

笑いながら告げたスカリエッティの言葉に首を傾げ、そうして再び話は冒頭に戻る。

 

「アルハザードの生物兵器とは一体如何いうことだっ!!」

「あぁ、そう怒鳴らないでくれたまえ。何、アレに関しては確りと説明しよう。……が、一つ忠告するなら説明は何処でもできる。例えば、私達を本部へ連行しながらでもね」

 

そのスカリエッティの言葉にいらだたしい物を感じつつ、アースラのルキノに移送部隊の手配を頼むと、アルトを此方に廻してくれるらしい。

 

――そっか。ヴァイス陸曹復帰したんだ。

 

「ふふ、では話そう。とはいえ、先ず最初に語るべきは、ギーオスという存在についてだ」

「ギーオス……先日のお前達のテロにも現れた、あの怪物か」

 

思い出されるのは、地上本部を襲撃した巨大な怪物の姿。私は機動六課の救援に出向いていた為その姿を直接見ては居ないのだが、後から確認した記録映像では、まるで出来の悪いSFXの如く現実味の無い光景だった。

 

「そう。あれは元々、古代アルハザードで生み出された、環境改善生物型システムでね」

「環境改善…?」

「端的に行ってしまうと、魔法と言うのは使用された後に使用済み魔力素というモノを残す。これは一般的な知識だ」

 

小さく頷きを返す。思い出すのは、嘗て私がなのはと決着をつけるために戦ったあの時。

バインドで拘束され、目の前で集まっていく星の光。あぁ、星が! 星がっ!!

 

――はっ、違う。そうではない。

 

要するにあのスターライトブレイカーは、その使用済み魔力に少し細工をして、再び再利用できる形にしてある、と言うもの。事実として使用済み魔力というモノが存在する、と言う点だ。

「実はその使用済み魔力というのは、一定レベルでは無害なんだが、一定値以上が滞留すると、途端に人体に有害な状態へと変異するんだ」

「なっ!? そんな事ありえない!!」

「それがありえるのだよ。データは研究室にも有るんで、後で確認するといい。……まぁ、そういう理由で産み出されたのが、あのギーオスという生物だ。元々は使用済み魔力を吸収することで無害化するという生体システムだったんだが……これが暴走したらしい」

 

ククク、と笑うスカリエッティ。その顔は相変らず人を馬鹿にしたような表情で。拘束済みでなければライオットザンバーを叩き込んでいる。

 

「未知の生命を作る、という事の難しさだな。0から生み出されたあの生物は、野に放たれたと単に野生化し、初め順調に使用済み魔力を浄化していったんだが……あるタイミングで暴走、彼らの制御の手を離れ、独自の進化を始めた。要するに、魔力を持った生物を食うようになったんだよ」

「…………」

「そう、使用済み魔力を餌としていたギーオスは、暴走の果てに魔力を持つ生物を尽く食い荒らす、最狂の生物兵器へと変貌したんだ!!」

「……それと、あの怪物と、如何関係する」

「あの怪物はね、その進化したギーオスの遺伝子を元に、再調整して『生物兵器』として改めて生み出された、いわばギーオスの王! 滅びを齎す邪神なんだよ!!」

 

高らかに歌い上げるように告げるスカリエッティ。けれども、だとして。

 

「そんな、そんなものを現代に蘇らせたのか、あなたは!! 一体何故、何のために!!」

「興味本位、という点が大きいが……最高評議会の命令でもあってね。彼らも廃魔力の悪性化を危惧していた。その対応策として、ギーオスを調べ……その一環として、あの怪物……柳星張を調べていたんだよ」

 

その為の調査を私に命じたのだ、と。「全く、私は体の良い便利屋ではないというのに」なんてニヤニヤしながら語るスカリエッティ。

最高評議会。事の元凶にして、管理局を裏から操る黒幕。けれども同時に、旧暦の時代から世界の趨勢を見守っていた存在。

 

「……なぜ、最高評議会は、魔力汚染の事を公表しなかった。公表すれば……」

「して如何なる? 現在の管理局は魔法至上主義だ。より強い魔法を持つ者が上位へ、魔法の使えぬ者は辺境へ。それがまかり通るのが管理局世界だ。その根底は『魔法安全神話』のようなもので成り立っていると言うのに、今さら『やはり魔法も危険です』なんて言えると思うのかね?」

「……っ」

「魔法がクリーン? は、私に言わせれば真にクリーンなエネルギーなど存在しない。要は正しく自浄機能が働くか如何か、と言うだけの話だ。その点魔法というシステムは問題になるまで時間が掛かる上、自浄機能が作用しにくい。ある意味質量兵器による瞬間的なそれよりも酷いのさ」

 

そう言って笑うスカリエッティ。……いや、落ち着け私。魔力汚染の話はまた後で考えればいい。

 

「それで、あの怪物について話してもらう」

「そうか、話が逸れたな。……あの怪物、柳星張なんて呼ばれもするんだが、あれは要するに生物兵器として再調整されたギーオスだ。その能力はギーオスを起源としながらも、戦闘用として調整されたことでその能力を悠に上回る。例えば、遺伝子情報の吸収能力などがそれに当る」

「遺伝子情報の吸収?」

「実はね、私はアレの一部をとあるクローンに仕込んでいたのだよ。すると如何だ。今のアレはソレから得た力を持って、魔法に対する高度な防御能力を得ているではないか!」

「……まさか!?」

 

視線の先に映る触手の怪物。その怪物が纏う虹色の輝き。それは前もってユーノから得ていた情報、その中の一つに類似するものが思い浮かんでいた。

 

「そう、あの怪物は聖王の遺伝子情報を取り込んだ!! そもそもが魔法を喰らう怪物が、更に魔法に対して優位な力を得たのだ。もう手のつけようが思い浮かばんな!!」

「対処法は!?」

「それこそアルカンシェルで吹き飛ばすくらいしかないだろうな。やるのであれば急ぎたまえ。あれが成体になれば、自在に空を舞うようになる。そうなれば最早手の付けようはあるまい」

「あれでまだ成体じゃないの!?」

「言っただろう、ギーオスの王だと。少なくとも成体のギーオスが百二十メートルに届くのだから、それ以上に成長すると考えるのはおかしな事ではあるまい?」

 

その言葉に今度こそ肝が冷える。私も予めギーオスに関するスペックデータは得ているのだが、そのどれもが信じがたいものばかり。

体長100メートル級で音速に程近い速度で空を飛びまわり、魔力を共振させて放つ超振動メスは魔法で防ぐ事のできない貫通系の一撃。少なくとも、ミッドにはそんな速度で飛び回り、尚且つあの巨体を落とせるほどの威力を持つモノは存在しない。

 

スカリエッティの話が本当であるのだとすれば、少なくともあの怪物はそのギーオスを悠に上回るスペックを持つ、という事に成るのだ。

 

「……っ、六課、ロングアーチ!!」

 

その事に気付いて、血の気が引いていく自分を自覚しつつ、慌ててロングアーチへと通信を繋ぐ。

やるべきことは一つ。今知りえたこの情報を、あの戦場に立つ仲間達へと伝える事。

 

「エリオ、急いでアースラに戻るよ!」

「はい、フェイトさん!!」

 

――なのは、はやて、如何か無事でいて。

 

その場に居るであろう二人の親友。彼女達の顔を思い浮かべて、胸の中で小さく祈るのだった。

 

 

 

 

Side Mera

 

 

「――と、大体のところはスカリエッティが語ってくれたのだが」

 

改めて目の前に座る三人。高町なのは、八神はやて、スバル・ナカジマの三人に視線を向ける。

ヴィヴィオは高町なのはの腕の中に居るし、数の子の四番なんて興味の対象外で用も無い。ティアナに関しては今さら言うまでも無いだろう。一応彼女の希望が向こうで働く事なので、我々との関連は俺からは喋っていないが。……本人がボロを出す分には知ったことではない。

 

「いまのんは……ほんまなんか?」

「すべて事実だ。柳星張……イリスと呼んでいるが、アレは戦闘用に調整されたギーオスの王。まさか聖王の遺伝子を取り込ませるとは思っていなかったが……少なくとも現状、魔導師がアレを倒すことは絶対にありえない」

 

うん、それは間違いない。何しろ元々魔導師に対して圧倒的とさえ言っていい存在であるギーオス、その戦闘用調整体がイリスだとして、そこに更に聖王の遺伝子が取り込まれたのだ。あの様子から見るに、聖王の鎧は常駐している筈。となれば、変換資質系の攻撃を当てたところで無意味なのは間違いない。

 

「例え質量操作魔法で物質を叩きつけたところで、そのサイズは知れたもの。100メートルを超える大怪獣に効果的な一撃を与えるほどの質量攻撃……それはもう魔法の範疇を越える」

 

例えばアルカンシェル。あれは確かに発動プロセスは魔法だが、その実、発生させた熱量で全てを焼き払うと言う、あまり魔法の関係ない戦術兵器だ。あれならばもしかするとギーオスを倒すことは出来るかもしれない。

が、そもそもイリスはマッハ10で飛び回るとんでもない大怪獣だ。アルカンシェルを用意している間に魔力共振メスで粉々にされるのが目に見えている。

 

「そ、そんな……」

「……例えそれが事実やったとして、それでも私らはアレをとめなあかん」

 

絶望、という文字をそのまま形にしたかのような表情を浮かべる高町なのは。けれどもその隣、ソレとは真逆で、それでも尚輝きを失わない強い瞳を浮かべる八神はやて。

 

「あんた、アルハザードの遺物ゆうたな。なんか対抗策はないんか?」

「ある」

「そか、そりゃないわ…………って有るんかい!?」

 

何てテンプレなノリツッコミだ、なんて戦きつつ、詰め寄る八神はやての眼前に手を出して圧しとどめる。

 

「あるには有る。が、正直言ってあまり使いたい手段ではないし、管理局の法には間違いなく反する」

「……なんや、質量兵器でも持ち込んだか」

「ソレに近い。そしてソレと同時に、その手段に関する情報は一切キミ達に提供する事は出来ない」

 

何せ地球連邦の最重要機密にも等しいのだ。例え管理局の……いや、寧ろ管理局だからこそそう容易く情報を流す事は出来ない。何せ昔から地球で好き勝手やってくれてた腐敗汚職の溢れる組織だ。とてもお近づきになりたいとは思わん。

 

「なんやそれ。コッチを馬鹿にしとるんか?」

「そういうわけではない。が、情報提供は一切出来ない。これは俺だけの判断ではなく、地球連邦、一つの世界としての判断だ」

「なら直接そこと対談すれば……」

「その間にミッドチルダは滅びる」

「く……」

「君らに頼みたいのは、向こう側、管理局に対する連絡だ」

「どういうこっちゃ」

「俺達はイリス殲滅のために行動する。その場合、下手に近付かれると先ず間違いなく闘いに巻き込まれる。ソレを避けるため、魔導師を戦場から引き離して欲しい」

「……その要求が、ホンマに呑まれると思っとんのか?」

「重要なのは確約ではなく、此方が注意を行ったという事実だ」

 

言うと、はやては苦々しげにうめいて見せて。事実、我々EF、もしくはEFFは管理局に対して一切の国交を開いていない。寧ろEFから見てみれば、管理局と言うのは異次元から秘密裏に人材を拉致したり、魔法による犯罪を犯したりする潜在的敵対国家でしかない。

 

「……あの、質問いいですか?」

 

と、そんな八神はやての口惜しそうな雰囲気の漂う中、不意に手を上げてそんな事を言い出したのは、なのはの横で借りてきた猫の如く大人しくしていたスバル・ナカジマ。

 

「なんだい?」

「あの、さっきティアナが貴方の名前を呼んでたみたいなんですけど、お知り合いですか?」

「…………(ジーッ」

「…………(フイッ」

 

視線をティアナに向けると、スッと視線を逸らされた。

 

「せや、確かにさっきティアナがアンタの事を名前で呼んどったな! それもアンタが自己紹介するよりも悠に前や!!」

「……それは、俺ではなく、俺の名前を呼んだという子に聞くべきでは?」

「それもそやな。んで、ティアナ。如何いうことか説明してもらおうか?」

「え、いや、その……」

 

何か恨めしそうな視線を此方に向けてくるティアナ。とはいえ、俺からはティアナとの関連性を連想させるようなヒントは何一つとして漏らしていない。

ティアナのことに関するものは、俺の失態に関する事以外ではあくまでティアナの自己責任。ゆりかごに強襲をかけたのが原因と言えなくも無いが、そもそもあそこに我々が突入しなければ、今頃ティアナたちは触手にとっ捕まってマニアックなプレイの真っ最中だったかもしれないし。

 

「えっと、メラさんは私の魔法の師匠でして……」

「なんやと? なんで地球の人間が、ミッドのティアナの師匠に……」

「昔、現代のギーオスの状況を確認する為なんかで世界を回っていた」

「管理局に許可なく次元渡航しとったんか!? そら犯罪や!!」

「そもそも管理局と地球には正式な国交が無い。連邦政府に所属している俺を管理局の法で裁く権利は無い」

「それは――ってそらあんた等も管理局の統治領域に不法侵入しとるやないかっ!!」

「つまり、お互い様、と」

 

まぁ、逆に密入国という事で殺されても、誰も文句をいう事は出来ないのだが。

 

「ゴチャゴチャ屁理屈言いおって……!!」

「屁理屈結構。結局国交の無い国同士で、更に此方は管理局を自称する組織から不利益を多々被っている。であれば必然的にそれは仮想敵になるし、であればそういった行動に躊躇がなくなるのも必然」

「せやからって、法を破っていいってわけやないやろうがっ!!」

「……キミ達の正義はあくまで君達の正義で、我々には我々の目指すところがある。人が集えば様々な意見が存在するなんてのは、人間社会では当然の話だろう? ――まぁ、其処を弁えないから管理局は腐ってるんだろうが」

「管理局が腐っとるやて!?」

「……はやてちゃん、それには反論できないよ……」

 

と、それまで黙っていた高町なのはが口を挟ん出来た。思い出されるのは、少し舞えにスカリエッティにより明らかにされた管理局の抱えた闇の存在。まさかの味方からの追い討ちに思わず口ごもる八神はやては、けれどもその程度で黙るほど可愛らしい性格でもなかったらしい。

 

「あんなんは一部の暴走や! うち等までおんなじ様に見られんのは……」

「管理局の制服を着た人間がやった事である以上、同じ制服を着た私達の罪でもあるんだよ、はやてちゃん」

 

諭すように言う高町なのはの言葉に、今度こそ口ごもる八神はやて。……うーん、その辺りのことを高町なのはが理解できているとは。俺はてっきり高町なのはもその辺りのことが理解できていない人間かと思っていたんだが。

 

「話を戻すが、その縁で俺がティアナに魔法を教えた」

「……って事は、あの触手に使てた魔法、あれも地球の技術なんか!?」

「ガイア式のことか。そうだ。あれはミッド式やベルカ式とも違う、アルハザード式を元に開発された地球独自の“魔術”。魔力とは違う力を使い、リンカーコアの有無関係なく使える技術だ」

「なんやて!?」

 

実際、俺にリンカーコアという器官は存在しない。俺と言う存在は、例えるならば受肉した精霊。型月でいう真祖……いや、アリストテレスのそれに近い。まぁ、ガイアや阿頼耶の所属ではなく、あくまで無所属かつ個で完結した、なのだが。いわば俺そのものが、マナの湧き出す泉なのだ。

 

「その技術は……」

「当然教えられない。というか、教えれば管理局は崩壊するぞ?」

「なんでや!!」

「先程の再生映像でスカリエッティが言っていただろう。管理局世界は魔法至上主義だ。魔法による能力統制。優れた魔導師が上に立ち、魔法を使えないものは辺境に追いやられる……だったか。実際管理局はすべての魔導師を中央に集め、外周世界からは魔導師が殆ど引き抜かれている。そんな中に、ガイア式の技術を投げ込めば、どうなると思う?」

「そりゃ、当然皆が魔法……いや、あんた等の言う魔術か? それを使えるようになるんやから、より治安がよーなるんちゃうんか?」

「……これだからとりあえず“吹き飛ばしてからOHANASHI”の魔砲少女は」

「あん……やとぉ!?」

 

余りにも能天気な考え方に、思わず頭痛がする。八神はやてが言っているのは、お金が無い、ならとりあえず札束を貧民にばら撒け、といっているようなものだ。

そんな事をしてしまえば、貨幣価格の暴落が起こる。この場合だと、魔法使い一人当たりの価値が暴落して、社会的に大混乱が起こるのは目に見えている。

……まぁ、一瞬高町なのはに視線をやって言葉に詰まったのは見なかった事にしてやろう。

 

「更にだ。これまで管理局に武力で抑圧されていた周辺管理世界が、リンカーコアに左右されない武力を得るわけだ。魔導師人口こそ多いが、総人口は少ないミッドチルダでは、もし周辺世界の全てがガイア式の技術を手に入れれば、間違いなく世界がひっくり返る」

「そ、んな、アホな……」

「ありえないと否定しきれるか? 管理局が正義の名の下、かなり強引な政策をしているのは事実だ。恨みを買っていない筈が無いだろう」

 

ただでさえロストロギアの回収なんかを名目に、各世界に政府との交渉もなく入り込み、いつの間にか武力で支配下におさめる管理局。元々独立した政府を持っていた世界などには蛇蝎の如く嫌われているのだ。

簡単に言えば、ミッドチルダVSその他管理世界、という有様になってしまえば、勝利するのは当然その他管理外世界。そしてそうなってしまえば、後は次元世界同士の戦乱の時代の再来である。

 

「でも、既にミッドにはギーオスの被害が出とるんやで!?」

「それこそ我々の知ったことではない。質量兵器を禁じた管理局の自業自得だろう」

 

そもそもの話、魔法という技術は質量兵器に比べ『比較的』クリーンな技術でしかない。結局の所汚染や被害はあるというのに、まるで魔法こそが至上とばかりに魔法安全論を絶対とした管理局。ソレそのものに問題があるのだ。

確かに魔法が通用しない相手という事で困るかもしれないが、その事自体は我々には全く関係ないのだ。

 

「ぐっ……」

「魔法に拘らなければ、案外何とか成る話でしかないんだけど……。話はこれまで、かな。では機動六課部隊長八神はやて。伝言をよろしく頼む」

 

言いつつ転送術式を起動させる。目標地点は機動六課本部・次元航行艦アースラの転移ポート。

 

「ちょ、ちょいまちぃ!!」

「あの、メラさん、何時かは助けてくれて、有難うございました!!」

「おじさん、ありがとー!」

「……ってなのはちゃん、何暢気に挨拶しとんねん!!」

 

あふれ出す白い光。慌てた八神はやてが何かを叫ぼうとしたが、此方に向けて礼をする高町なのはとヴィヴィオの二人に突っ込みを入れて。関西人なんだなぁ。

その三人の後ろでアワアワと慌てるスバル・ナカジマ。その隣のティアナと一瞬視線があって。……ふむ。

 

「ああ。ではな」

 

高町なのはとヴィヴィオに手を振って、術式実行。“四人”の姿はマナの輝きに飲まれ、その場から姿を消して。

 

「……さて、如何したんだ、ティアナ」

 

そうして、最後に一人。この場に残った我が愛弟子ティアナに、そう声を掛けたのだった。





説明回。更にこの辺りから管理局アンチが濃厚に。……え、前から?

ウチのなのはさんはクール。ただ、『言葉だけじゃ伝わらない』からって『全部行動だけで』示すちょっと抜けた人。
はやてさんにヒートメモリが刺さった所為でちょっと荒れた。


■おじさん
まっ、まだ若いっ!! でも相手は子供だからびーくーる。

■星がっ! 星がっ!!
トラウ魔砲。

■亡命云々
実際にはギーオス・レギオンの大襲撃の際、地球上の人口は一気にごっそり削られた。その際大量の行方不明者・死亡者が出て、其処になのは達の名前も入れられかけたのだが、幸いと言うべきかEFFにより調査対象として観測されていた為、死亡ではなく亡命扱い。EFFに戸籍は無い。


■廃魔力汚染
トロイの木馬みたいな汚染。通常は得に人体に危険は無いが、一定条件を満たす事で急激に悪性化する。
実は管理局世界、特にミッドチルダは惑星の許容廃魔力容量の臨界が見え始めてきている。
原因は何処かの20代手前魔法少女が星の光を乱射したり、北欧神話っぽい魔法をぶっ放したりした為。

■法云々
その国の法で進入禁止と定められている場所に無断侵入した場合、知らなかった場合でも拘束されることはある。つまり、メラの場合はモロにアウト。
見つからなければ良いという事にしておく。

■ギーオス
実は管理局の魔法技術のレベルが科学技術のレベルであれば、ギーオスくらいは拮抗するくらいは出来る技術力がある。魔法だから無理なんですけどねー。

■地球連邦軍と薄い本 部【誤字ネタ】正しくは《地球連邦軍統帥本部》
何かがっ! 這い酔(?)ってくるっ!!ウ=ス異本を読んだ影響かっ!! ああっ、窓に! 窓に!!
……同人誌生産拠点・地球連邦ジャブロー印刷工場、とか? 工場ラインで生産されるロボじゃなくて同人誌。うわぁ。

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