リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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30 別れ

「……え?」

 

向かい合う少女、ティアナ・ランスターの言葉に、言われたスバル・ナカジマが漏らしたのはそんな声だった。

 

「……えっと、如何いうこと?」

「如何いうことも何もそのままで、私はその内管理局から離れるわ」

 

はっきりと。キッパリとそう言い切ったティアナ・ランスター。その少女の言葉には一片の迷いすらなくて。

 

「そ、そんな!? なんで!?」

 

故に、管理局の中から誰かの為を願う少女には、仲の良い友人がそばを離れていくという言葉に思わず戸惑いを抱いてしまって。

 

「理由は――簡単に言うと、管理局に居づらくなってきたから、かしら」

「い、居辛く!? なんでよ、ティアの腕なら管理局の何処にいったって重用されるでしょ!?」

「ソレも原因の遠縁なんだけどね。アンタに言って理解できるかどうか……」

 

そういって肩をすくめるティアナ。スバル・ナカジマは、その脳筋っぽい言動に比較し、実は頭の出来はそれほど悪くは無い。

実際ティアナはスバルと陸士訓練学校での同期であったのだが、そのときの筆記試験では、スバルは常に上位を記録していた。問題は、応用力に欠ける、というところだろうか。

 

「そ、それでも……」

「そうね。相棒のアンタには、ちゃんと話しておこうと思ったから、今こうして話しているのよ」

「……」

 

目を瞑って、何かを考えながら語るティアナのそんな様子に、何かを察したのか黙り込むスバル。

 

「簡単に言うと、私のお師匠様。その人にちょっと問題があってね。その人の関係者って事が明らかになってる私は、今管理局中から注目されてるのよ」

「注目?」

「そう。……例えば、訓練に行って帰ってきたら、毎日部屋があらされてる程度の注目ね」

 

下手に独りきりになれば、何時何処で誘拐されるかも分らないわ、なんて笑って言うティアナに、スバルは思わず顔色を青褪めさせる。

 

「そ、そんな……そうだ! なのはさんに相談すれば!!」

「馬鹿言うんじゃないわよ。相手は管理局よ? 幾らエースなんて呼ばれてたって、所詮その雇われ尖兵でしかない高町空尉に何が出来るのよ。寧ろあの人に相談なんかしたら、下手に出張って無駄に巻き込まれるわよ?」

「な、なのはさんは」

「ええ、知ってるわよ。正義感が強くて、困ってる人に手を差し伸べる。例え自分の許容量を超えていようと、ね?」

「…………」

 

黙り込むスバルに、思わず苦笑するティアナ。思えばスバルも物分りがよくなったものだ、なんて考えて。

嘗てティアナと出会ったばかりの頃のスバルと言えば、熱意と理想に向かって邁進する猪娘であった。だがティアナと出会い、その皮肉屋で面倒見のいい彼女と付き合う内に、少しだけ冷静な、広い視点というモノを身につけることに成功していた。

 

そんなスバルだからこそ分る事がある。それは、ティアナの予想が決して的外れな物ではないであろう、という事。

 

「スバル、アンタも知ってるでしょ? 確かにこの世界、必死になっていい世界にしようとしてる人達は居る。けれども、世界っていうのは善だけで回ってるわけじゃないの」

 

それはスバルの存在を鑑みれば事実以外の何者でもない。

戦闘機人。人と戦う為に、生命を解析して生み出された兵器。今でこそ人のためにというスバルの願いから動いているが、本来は人を倒し制圧し最悪殺す為の技術であった筈のそれ。

 

そんなものが存在している時点で、世界はただただ綺麗である、なんて事はとてもではないがいえない。

 

「……なら、フェイト隊長は? 八神部隊長もダメなの?」

「両方ともそれほどかわんないわよ。執務官といえ根っこの情報は管理局中枢が抑えてるし、たかが一部隊長に何が出来るってわけでも無いでしょ」

 

事実、フェイト・テスタロッサがジェイル・スカリエッティの逮捕に相当な時間を要した事を鑑みれば、執務官単体の捜査能力というのもたかが知れている。

 

本来管理局と言う中枢が、執務官と言う捜査員に対して適宜必要な情報を供給する事で、迅速且つ的確な捜査活動が可能となるのが執務官。執務官を中心としたクラスタ活動こそが最大の強みなのだ。

 

ところがJS事件に関しては、その肝心の管理局中枢が情報隠匿の側に回った。途端重要な情報の往来は停滞し、情報の往来は縦ではなく横のつながりからの物が中心となった。

 

確かに横のつながりも重要ではあるが、組織と言うものの基本は縦のつながりなのだ。

 

「まぁ、そんな事情で今の管理局は私にとってちょっと拙い状況にあるのよ」

 

具体的なことは何一つ言わず、ただ今の管理局に居るのは拙いというティアナ。だが然し、これもティアナから見れば随分と妥協した結果であり、しなくてもいい危険を冒しているのだ。

 

何せティアナの部屋にはいつの間にか大量の監視装置が仕掛けられていた。それがこの機動六課内部に設置されていないなど、如何すればそんな危機感の無い事が言えようか。

事情を説明する事も、まして管理局から逃げるようにして離れるという事も、下手に知られるよりは、誰にも知られないうちに静かに消え去っていると言うのが最良なのだ。

 

――けれども。ティアナには。少なくとも今の彼女には、“相棒”である彼女を捨て置いて、ただ一人何も言わずに逃げ帰るという選択肢はありえないものであった。

 

せめて別れを。メラに言わせれば妙なところで頑固なティアナは、不自然の無い程度に機動六課隊舎の一部、人の来ない場所に、各種監視装置を無効化した上でスバルを誘い込み、こうして事を告げるにまでこぎつけたのだ。

 

「そんな、でもっ!!」

「ごねるな、馬鹿。――大丈夫よ。私はいわば地元に帰るだけなんだし」

「お兄さんの名誉挽回を目指すっていうのは、もういいの?」

「スバルの癖に痛い所突くわね。いいのよ。別に管理局の腐敗政治家共に認められなくても、ランスターの弾丸を認めてくれる人たちはちゃんと居るんだから」

 

――少なくとも、アンタは私の魔法、認めてくれるでしょ?

 

そう微笑むティアナに、泣きそうな表情のままのスバルは、けれども確りと頷いて。

 

「ならいいのよ。それよりも、私は管理局を抜けるからいいとして、問題はアンタよ」

「わたし?」

 

キョトンと首を傾げるスバル。そんなスバルに、ティアナは懐から小さな記憶媒体を取り出し、スバルへ向けて手渡した。

 

「なにこれ?」

「あんまり表に出せないデータ。管理局とは関係ないオフラインの端末でチェックしなさい。最悪、アテンザ技官を頼るのもいいわ」

「え、うん、わかったけど……」

「管理局は現在戦力不足。更にギーオスの出現によって魔導師が戦力として見込めなくなってるのよ。そんな状況でも、戦力として運用できて、更に実戦証明が出来ている。何か分る?」

 

そのティアナの言葉にスバルの顔からさっと血の気が引いていく。

思い浮かぶのは先日のJS事件。スカリエッティにより運用された、少数にして管理局地上本部を陥落寸前まで追い詰めたあの戦力。そしてスバル本人にも共通する、ある技術。

 

「戦闘機人――っ!?」

「そう。まぁ、それだけとは限らないんだけど……少なくとも、管理局内部に所属してるあんたとギンガさんは危ないわ。身の回りに確り気をつけときなさい」

 

そう言ったティアナは、ふと視線を腕元の簡易端末に向ける。

 

「さて、話はこんな所ね。そろそろ安全な時間も超えるし――スバル。アンタはアンタでガンバんなさい」

そういって踵を返すティアナの背中に、思わず、といった様子で手を伸ばすスバル。けれどもスバルはその腕を自らの意志で引き戻した。

「……う、ん。ティアナも、頑張ってね!」

 

少しだけかすれた声で、けれども何時も通りの笑顔を浮かべて、ティアナに向けて声を放つ。

そんなスバルにティアナは少しだけ驚いたように振り返り、けれども小さく苦笑を浮かべて、手を振ってその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

そうしてその日の午後。辞表と書置きを残し、ティアナが管理局から姿を消した事で一つ騒動が起こるのだが、その中で最も騒ぎそうなスバルは、何故か一人一番落ち着いた姿を見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Mera

 

 

そんなわけでティアナを回収しつつ、大急ぎで地球へと戻ってきた俺達。

月衛星軌道上のドッグにウルC4を格納しつつ、地上から運び上げられてきているであろうソレを受け取る為、月面へ向けてランチで移動する。

 

因みに転移系術式はマナ粒子による相互干渉だとか座標のズレだとか色々な問題から、出来る限り乱用は控えることになっている。

 

極論で簡単に言えば、誰だって『かべのなかにいる』状態にはなりたくないのだ。

閑話休題。

 

「メラ、すずかっ!!」

 

ランチで月の港へと降り立った途端、不意に港の向こうから声が掛けられた。

視線を向ければ其処には、輝く笑顔の金髪美女が一人、此方に向けて駆け寄ってきていて。

 

「アリサちゃん!!」

 

と、途端駆け寄る女性――アリサに向けてすずかも駆け出す。

互いに、地味に超人的な身体能力を持っている二人は、一瞬で距離をつめるとガシィッ!! と格ゲーの効果音のような音を立てながら互いに抱擁し合った。

 

「このーっ!! 久しぶりじゃないのっ!! 元気してたの!!」

「うんっ! アリサちゃんも元気そうでよかったよ~!」

 

互いに頻繁、とはいえないが、それでも間々連絡を取り合っていただろう、なんて突っ込みが無粋なのは俺でも分っているので言わない。

 

「メラ! アンタも久しぶりッ!!」

「――うん、久しぶり、アリサ」

 

そういって抱きついてくるアリサに抱擁を返しつつ、苦笑する。

 

「まぁ、何でアリサが(開戦間際の)此処に居るんだ、とか、もうそういう突っ込みはしないけど」

「そういいつつ確りと声にだして言う辺り、アンタらしいわよね」

 

ニコニコと微笑むアリサに苦笑しつつ、とりあえず話をするならもう少し落ち着ける場所に移動しようと提案する。

 

「それなら近場でいい場所を知ってるわよ。案内するわ」

「ちょ、アリサ」

 

そういって俺の腕に組み付いてくるアリサ。如何した物かとうろたえていると、不意に反対側の腕に掛かる重みを感じて。

 

「……すずか?」

「アリサちゃんは久々だし、私は認めてるんだよ? 認めてるんだけど……」

 

そういいながら俺の腕に抱きついてくるすずか。恥ずかしそうに腕に抱きつくすずかと、ニコニコと笑顔で抱きついてくるアリサ。

 

――甲斐性云々を脇において置くならば、正直、天国です。

 

「あー、あの、アリサさん?」

「あら、ティアナじゃない。久しぶりね」

「ええ、お久しぶりです」

 

と、不意に背後から声が掛かる。ぐるっと背後に振り返れば、其処には若干呆れたような視線のティアナとアギト、その背後に隠れるように立つイクスの姿があった。

 

「アギトも久しぶり。そっちの子は……あぁ、例の子ね」

「ええ。イクスです。イクス、この人は……メラさんの第二婦人よ」

「ちょ、おま」

 

文句があるなら鏡を見ろ、とでも言いたげな、ジトーッとした表情のティアナに、思わず口ごもる。

 

「あら!」

 

そして嬉しそうにするアリサ。若干反応に困る。

 

「はじめましてイクス。私はアリサ。アリサ・バニングスよ。EFFの名誉中将で、B&Tの偉い人をやってるわ」

「えと……はじめまして、イクスヴェリア……イクスです。よろしくお願いします」

 

もじもじとティアナの背後から挨拶するイクス。地球に戻るまでの間に、ティアナとイクス、アギトの三人は大分仲良くなったらしい。

俺にしてみればティアナも、弟子と言うよりは娘とか妹といった感覚に近かったので、身内同士仲良くなってくれたのはとても嬉しかったり。

で、そんないじらしい姿のイクスに、何気に可愛い物好きのアリサはその感覚をしっかり刺激されたらしく、俺の腕から離れ、バッとイクスを抱き上げていた。

 

「きゃー! 何この可愛らしい生物ッ!!」

「え、あ、ええっ!?」

 

キャーキャー言いながらイクスを抱きしめるアリサと、そんなアリサのテンションに困惑しつつも何処か嬉しそうに照れているイクス。あの積極性はすずかには無いアリサ独自の持ち味だろうなぁ、なんて考えつつ。

 

じゃれあう二人を眺めながら、ふと視界に入った苦笑気味のティアナ。

 

「そういえばティアナは、アリサに何か用があったのか?」

 

ふと、先程アリサに声を掛けていたティアナの姿を思い出す。アリサがイクスに反応した為、其方に話題がずれたのだが。

 

「あー、いえ、ただ、話をするなら先に移動したらどうですかって言おうと思っただけで……」

「……余計話が逸れちゃった、と」

「……です」

 

まぁ、普段のアリサなら寧ろ彼女がリーダーシップをとってまとめ役になるのだが、どうも今日の彼女はテンションが高いらしく、若干落ち着きが無い様に感じる。

自意識過剰かも知れないが、久々に俺達と顔を会わせてテンションが上がってる、といったところだろうか。

 

「アリサさんですから、すぐに落ち着くと思うんですけど」

「確かに、一頻りはしゃいだらいつものツンデレ一号に戻るんだろうけど」

「……ツッコミませんよ?」

「何がだいツンデレ二号」

「ツンデレじゃないっ!!」

 

などなど。端で腹を抱えて悶絶するアギトと、俺の腕を抱えてニコニコしているすずかに、イクスとじゃれるアリサ。

相変らずなティアナとじゃれながら、漸く移動を開始したのは実に半時程の時間が過ぎた後の事だった。

 

 

 

 

 




■相棒のアンタには、ちゃんと話しておこうと思ったから
要するにデレである。

■超人的な身体能力を持っている二人
方や吸血姫、方や勇者王。型月脳で考えれば、ガイアとアラヤ。

■ツンデレ一号 ツンデレ二号
最早語るに及ばず。

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