リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

34 / 42
33 初めての異世界間外交

Side Nanoha

 

 

気付いたとき、私は何処までも続く深い闇の中を漂っていた。

其処が何処なのか、何時此処に来たのか。そんな事を考える余裕は、その場において一切ありえなかった。

 

“寒い”“恐い”“悲しい”“辛い”“苦しい”

 

何時だったか感じて、いつの間にか忘れていたそんな感情。それが、まるで肌を裂くようにして私に襲い掛かってきていた。

 

「――っ、っ!!」

 

嫌だ、嫌だ此処に居たくない。

 

レイジングハート、レイジングハート!!

 

愛機に助けの声を求めても、けれども何処からも返事は無くて。だから私は、誰かが私を助けてくれる事を願ってただただ我武者羅に腕を、脚を、身体を使ってもがき続ける。

 

そうしてどれ程もがいただろうか。視線の先に見えた何か。それに向かって必死に身体をもがかせて。

 

――っ、フェイトちゃん!! ヴィヴィオ!! はやてちゃん!!

 

目の前に現れた親しい友人と、最愛の我が子。漸く見えた光に、必死に手を伸ばしてもがき続ける。

けれども光は、少しずつ私から離れていってしまう。足掻けど足掻けど距離は縮まず、寧ろ尚一層離れていくようにも感じて。

 

――待って!! みんな待って!! ここだよ!! なのははここだよっ!!

そう叫んで手を伸ばしても、誰も振り向く事は無くて、だから私は一層光に向かって手を――

 

 

 

 

 

「なのはさん!!」

「――はっ!?」

 

揺れを感じて目を見開く。勢いをつけて身体を起こすと、身体からずれ落ちた白いシーツが手元に撓んでいて。

 

「……夢?」

 

腕で額の汗を拭おうとして、その腕もまるで服の上からシャワーでも浴びたかのように汗でべっとりしてしまっている事に気づいて。よくよく見れば、腕どころか全身汗まみれで酷い有様になってしまっていた。

 

「大丈夫ですか? うなされてたみたいですけど」

「うん、大丈夫、だよ。有難うティアナ   ――ティアナ?」

「はい?」

 

差し出された湯飲みを手に取り、お茶を飲んで、ふと疑問に思う。あれ? 何でティアナが此処に? そういえば此処は何処で、私はなんでこんな所でベッドに横になっているんだろう?

確か、私たちは、地球への接触を試みるべく月の裏側に次元転移して――。

 

「そう、月の裏側に転移して、その直後におっきな揺れが来て……」

「戦場のど真ん中に出たんですよ。敵の大砲の射線上に顕現しちゃって、ドカン、ってわけです」

「戦場――月の裏側が!? ……って、ティアナ!? なんで此処に居るの!?」

 

其処まで話して漸く思考が戻ってきて、思わず大声を出して驚きの声を上げてしまう。

 

ななな、なんでティアナがいるの!? 姿を晦ましたんじゃなかったの!?

 

「なんでって……此処がEFFの月面基地で、私はお見舞いに来てたんですけれど」

 

キョトンとした顔で此方を見てくるティアナ。え? なに? 私がおかしいの!?

 

「――じゃなくて、戦場のど真ん中!? 皆は無事なの!?」

「えらく話が前後しましたけど、全員無事ですよ。多少宇宙線に当ってましたけど、現在浄化を終えて幾つかの部屋に入ってます」

 

宇宙線? とティアナに聞くと、宇宙の放射線の事です、って言われた。

なんだか良く分らないけれども、ティアナが大丈夫って言うなら多分大丈夫なんだと思う。ティアナはぶっきらぼうであんまり本心を喋らないけど、少なくとも口に出した事に関しては嘘は無かった。

それよりも、考えろ、高町なのは。私は二等空尉。ただただ立ち止まっていられるほど低い身分ではないのだ。

 

「えっと……此処は、管理局じゃないんだよね?」

「ええ。地球連邦軍月面基地の医療用ブロックです。

「それで、ティアナが此処に居るっていう事は、ティアナはその……地球連邦軍のひとなの?」

「ええと、一応そう為りますね」

 

言いつつティアナは、地球連邦軍――EFFにおける自分の階級を教えてくれた。少尉って、えーっと……三尉ってことになるのかな? わ、私の一つ下だ……。

それから何処かバツの悪そうなティアナは、人差し指で頬をかきながら話を続けてくれた。

 

「でも、なんで少尉のティアナがミッドチルダにいたの?」

「ご存知かと思いますが、兄の無念を晴らしたくて。まぁ、別に管理局で、って拘りは殆ど無かったんですけど、なんだかいつの間にかそれもEFFの任務に組み込まれてたみたいで。あ、コレオフレコで」

 

未確認文明に対する情報収集みたいな役目をやってたんです、とティアナ。

未確認文明って、凄い言い様なの。でも、確かに昔の、魔法と出会う前の私からしてみれば、管理局世界ってあるいみ宇宙人みたいなものか、なんて何処か内心で納得して。

 

「確認するね。私たちは地球に接触しようと月の裏側に転移したんだけど、そこで何等かの戦闘が行なわれており、其処に遭遇、アースラが被弾した。それを地球連邦軍の、ティアナたちが助けてくれた。あってる?」

「大体あってます。付け加えて置くなら、月の裏側での交戦相手は地球外生命体の巨大生物、我々がレギオンと読んでる、宇宙怪獣です」

 

そんな言葉と共に、ティアナの手元に浮かび上がる投影型ディスプレイ。ついで私の正面に映し出された立体スクリーンに映し出される、大きな角を携えた、昆虫のような怪物の姿があった。

 

「うちゅう……かいじゅう……?」

 

確かにギーオスとかイリスみたいな怪獣が居るんだから、宇宙怪獣が居てもおかしくはない、のかな?

 

……ううん、違う、絶対おかしいよね!? こんなの絶対おかしいよね!?

 

でもそれは言わない。言っても仕方ないし、第一ティアナの前であんまり取り乱したら、またメメタァッ、って凄い音のツッコミ入れられるかもなの。それは嫌なの。

 

「えっと、それじゃ、私は何かしたほうがいいの?」

「いえ。後ほど責任者が交渉を行なうとは思いますが、ソレは部隊責任者である八神はやて二等陸佐と行なわれると思います。まぁ、後ほど機動六課はグループで近い病室に移動になると思いますので、そのときにでも詳しい話は纏めて」

「そっか、うん。有難うティアナ」

「いえ」

 

何となく、説明が面倒になって投げたな、何て感じつつ。態々様子を見に来てくれたティアナに礼を述べて、病室から退室するティアナを見送って。

 

「そういえばこれ、如何しよう」

 

目の前に表示される、グロテスクな宇宙怪獣(?)の映像データ。正直、余り長時間直視していたいようあ映像ではない。

とりあえずやるべきことは、この投影ディスプレイの消し方を調べる事になるのだろう。

 

 

Side Nanoha End

 

 

 

 

 

 

 

side Mera

 

「さて、それではパパッと説明してしまおうか」

 

目の前のベッドに横たわる八神はやてを目の前に、投影スクリーンに映し出された映像を見せながら簡単なプレゼンの心算で話し出す。

 

「先ず最初に、本日未明、我々地球連邦軍は月の裏側にて、火星から来るレギオン侵攻部隊の迎撃任務に当っていた」

「質問!」

「は、後で纏めて聞こう。防衛に当たり、地球連邦軍はエリュシオン級、XL級、L級の戦艦を多数戦線に配備してコレに応戦。我々起動特務部隊ホロウは遊撃対として様々な戦線を支援していた」

「……っ、全長七十二キロの宇宙戦艦……」

 

スクリーンに映し出さしているのは、エリュシオン級、XL級、L級の各概略図。

中でも八神はやての興味を引いたのは、地球圏防衛のために建設された絶対防衛網の要、平均全長72キロメートルを誇る怪物だ。

因みに地球圏絶対防衛網はその他に、人型の次元/虚数/恒星間航行決戦兵器ら属する無人スーパーロボ軍団などの特秘部隊とかにより密かに守られていたりするのだが、それは完全な余談だ。

 

「アホな、んなモン地球に作れる技術が……」

「ある。で、その戦闘中、XL級スクルドが敵マザーレギオンのマイクロ波シェルの直撃を受け、中破コレにより滞空攻撃力が低下した為、我々ホロウはこの直援に回った」

 

XL級スクルド。サイズとしては現在のホロウの……というか、俺の艦であるウルC4のC4ユニットの部分と同型のそれ。

 

積載能力でこそ長期間航行を想定して改良してあるC4ユニットに劣るが、その火力はSR機の操縦に必要とされる一種の独特なセンスを必要とせず、多人数のIFSにより操縦が可能という究極の『量産型汎用艦』だ。

 

此処にガイア式を扱える魔術師が居れば、単独での操艦も可能というのだから、この艦がどれだけぶっ飛んだ艦であるかと言うのは理解できるだろう。

 

「で、この戦闘の最中、我々ホロウ率いるSR戦隊の防衛網を抜けたマザーレギオンが一匹。背後から撃破するも、マイクロ波シェルは発射されてしまう」

 

その当時の写真。一応記録映像には残っていたらしい。

 

「で、この次の瞬間だ」

 

スクルドの手前。マイクロ波シェルの進行方向の真上。そこに突如として現れた何かの影。

有無を言わさず直進したマイクロ波シェルは、その何等かの影に見事直撃。スクルドは盾に庇われるような形となった。

 

「で、これが手前の乗艦、アースラR2……だったか? であったらしく、我々はコレを即座に救援。気密フィールドで保護し、そのまま月のEFF基地へと運び込んだ、と。こんなところか。運が良かったな。ディストーションフィールドとエンジン保護装置がマイクロ波シェルを減衰させていなければ、余波でエンジンごと消し飛んでいたろうに」

 

あれだけの被害状況で死者がでなかった原因はコレが主だろう。まぁ、流石に重軽傷者は多かったが。此方が得ている本来の巡航L級に比較し、重要システムは各部に分散し、例えばジェネレーターが停止した場合のサブ、そのサブが停止した場合のサブなど、過剰なほどの安全対策が講じられていたのだ。

 

実際今回のレギオンの一撃。ジェネレーターと言うか、ジェネレーターとそのサブ、更にサブのサブまで過負荷で吹っ飛んでいたのだが、サブのサブのサブが稼動したことでディストーションシールドを維持。このおかげで艦体に大穴が開いたにもかかわらず、正常に緊急気密隔壁が作動した為、窒息死や減圧死などによる死傷者が発生しなかった。

 

まだ更にこの安全措置による功績は続く。エンジンに施されていたシールド処置だ。本来の巡航L級に施されている処置は、魔力バリアによる保護のみ。だがこのR2に施されていたのは、魔力シールド・物理保護・電磁障壁などによる多層シーリングであった。もしこれが本来の魔力シールドのみによる保護であったら。ジェネレーターがとんだ時点でこの魔力シールドは霧散。吹っ飛んだ艦の破片がエンジンに直撃、エンジンどころか艦まるごと爆散していた可能性は寧ろ原型を残していた可能性よりも十分以上に高い。

 

極論、此処に来たのが原型を無くすほど魔改造されたアースラR2でなく、管理局の運用する正規の巡航L型であったのならばどうなっていたか。――今頃、地上・L点の居住ブロックでは『爆発!戦場に現れた謎の船籍不明艦』なんてタイトルのニュースが飛び交っていたことだろう。

 

……だから、さ。別室で真っ白に燃え尽きている鳳凰院。君の投資は、少なくとも機動六課の百数十人の局員の命を救ったのだから、無駄ではなかったんだ。就航して初の航海で撃沈したとしても、きっと無駄ではなかったのだと思う。うん。

 

あのアースラR2の残骸、もしくはジャンクと呼ばれるアレ。彼を案内したら、泣いちゃうかな? 泣いちゃうよね? ……サービスで次元航行可能な状態くらいまでは再生させてやるべきだろうか。割と真面目に物語に介入しようとしていた先輩に対する敬意として。

 

まぁ、そんな内心は別として。スライドで数枚の画像データを表示する。其処に映し出されていたのは、大破したアースラと、ソレを徐々に包み行く白い光。そしてそれが月へと曳航され、そのドッグへと運び込まれる様子だ。

 

因みにこの時点でのアースラR2の状態は、辛うじて最低限のエネルギーを出力できている、と言う状態だ。メインジェネレーターはディストーションシールドの過剰負荷で弾け飛び、魔力炉はすぐ傍を貫通したマイクロ波シェルの影響で7割方死んでいる。爆発しなかったのは正に奇跡、もしくは鳳凰院の努力の成果だろう。もしかしてこれも原作主人公補正なのだろうか?

 

「とりあえず説明はした。で、古代遺物管理部 機動六課指揮官の八神はやて二等陸佐、何かご質問は?」

「先ず最初にコレだけはきいとかなあかん。うちらの扱いや」

「知らん」

「そうか、しら……っておい」

 

そうは言われても、本当に知らないのだ。何せ彼女、というか機動六課は、我々地球人がこちら側の公式資料で始めて正式に接触した異世界人なのだ。

コレに対する対応と言うのは、当然ながらEFF――軍部の仕事ではなく、EF――地球連邦政府の仕事なのだ。

 

「現在連邦政府で緊急幕僚会議が開催されている。その如何によっては、客人として扱われるかもしれないし、あるいは未知の侵略者として軟禁、最悪処刑なんてこともありえる」

「……それは、マジで?」

「割とな。とはいえ、幕僚会議の連中はちゃんと裏側も把握しているから、いきなり処刑ってのは先ず無い」

 

第一、連邦政府の上の連中は、B&Tからかなりの資金援助を受けている。地球再生プロジェクトなんかにも莫大な投資を行なっている月村とバニングスは、EFFだけではなく地球連邦政府に対しても強い権限を持つのだ。

サラッとドSなすずかはどうかは知らないが、義理堅いツンデレアリサなんかが居る限り、いきなり処刑って言うのは先ず無い。というか、アイツは自分の権限を駆使し、渾身の限り友達を庇うだろう。アイツはそういう良い女なのだから。

 

「あと忠告だが、間違っても地球人だとは名乗るなよ?」

「なんでや!!」

 

声を上げる八神はやて。彼女にしてみれば自分は地球人であるという自負があるのかもしれないが、残念ながら地球側が彼女を地球人として認めることは無いだろう。

 

確かにギーオスやレギオンの襲来により、世界中の戸籍情報なんかは一度完全に消し飛んだ。然しその後急速に発展したSOPやIFSなどのナノマシン技術により、人類の情報ネットワークは一気に数段跳ね上がり、同時に戸籍情報網も地球連邦政府の名の下に統一して再現された。

 

故に、現在地球に戸籍が残っていない人間と言うのは、ギーオス・レギオン襲来の後、戸籍再編の場において既に死亡していた人間となるのだ。

 

「仮に八神はやてが地球人であったとして、それが地球を離れて異次元の組織に所属していた? 公になれば、公式の記録に管理局の不正入国なんかが記されることになるし、お前も地球を裏切って管理局に逃げた無断出国者、犯罪者になるが?」

「で、でもソレはソッチかて……」

「俺は『公式の記録として』、とつけたぞ」

 

そう、公式の記録として。ぶっちゃけた話、管理局の不正入国なんていうのは以前の管理システムが倒壊した現在では既に確認のしようも無い。状況証拠なんかは幾らでも残っているのだが、それを証明する細かい数字が全部大災害により吹っ飛んでいるのだ。

 

つまり、現状での地球側の公の認識としては、『以前から地球にちょっかいをかけていた“可能性の有る”異世界の組織』、限りなく黒に近いグレーだ。コレが黒なら政府間交渉における此方の手札に出来るのだが、グレーは所詮グレー。チラつかせて牽制に使う程度だろう。

 

ところが、八神はやて=地球人ということを公式の場での記録に残してしまうと、此処からもしかすると以前から地球に接触していたのでは無いか? という疑念が公文書から読み取れるような形に持っていけてしまうのだ。

 

まぁ管理局側にしてみれば“次元漂流者”なんて言い訳も出来るのだろうが、それでも記録に残った時点で疑念の芽は芽吹いてしまうのだ。

 

「因みに俺は八神はやて、君とは初対面であり、俺が君に説明を行なっているのはあくまで俺が君の船を救助し、ファーストコンタクトを取った部隊の人間であり、尚且つ万が一の場合に単独でも何とかできる戦力を保有しているから、だ」

「初対面!? アホな!? アンタはこの前ミッドで……!!」

「何処にそんな証拠が有る? 因みに俺が地球に居たという証拠は、EFFの活動記録に残されていて、これは“此方の裁判における証拠”としては十分な能力を有している」

 

これがミッドチルダの裁判であれば、当然俺の戯言は歯にも掛からないのだろうが、こと地球の裁判となれば話は別だ。まして、船舶の外観はまだしも、俺やすずかの外観記録なんていうのは、デバイスのデータ含め全部クラックしたし。

まぁこの擬装記録の有効性は、もう一段上の、この“擬装証拠”を覆すような明確な証拠が出てこない限り、なのだが。

……無論、下手な証拠など残しては居ない。

 

「んなもんでっち上げやろうがっ!!」

「ならソレを如何やって証明するんだ?」

「あのロボと船があるやろうがっ!!」

 

そういや、ウチのウルC4の船腹にでっかく『E.F.F』ってペイントしてたっけ。まぁ、その辺りも当然言い訳は用意してあるのだが。

 

「あぁ、それは多分無人の対ギーオス殲滅システムの事だろう」

「はぁ?」

「対ギーオス用に用意されている、無人ロボットと、そのキャリアである無人母艦を地球の周辺次元に巡回させていたんだが、多分それが何かの間違いで其方の文明に接触したのではないか?」

 

――と、いう事にしておこう。

 

実際現在の地球の人口は、最盛期の60億人からガッツリ削られ、その半数の三十億人程度しかいない(この世界では70億人に届かなかった)。

60億人でも地球上の完全制圧でさえ不完全だったと言うのに、それが半数になり、更にギーオスとレギオンの脅威から要制圧地が更に増え、結果太陽系全域をカバーしなければいけなくなってしまったのだ。

 

そこで一気に台頭したのが、ナノマシンによる人体―組織間統制システム、戦略統制ナノマシンSOPシステムと、個人による戦艦運用、ワンマンオペレーションシステムをい可能とするイメージフィードバックシステム(IFS)、そしてそれでも足りない数を補うAI搭載型無人兵器だ。

 

なんとかかんとか水増しを繰り返し、漸く地球圏の防衛を可能としている現在の地球。実はその防衛網の面積辺りに配置されてる人間の数は凄まじく少ないのだ。

ウチのホロウなんかは人口も多いほうで、下手をするとカップルが旗艦に乗り込んで無人機を指揮する艦隊とか、大量の量産無人機を隠れ蓑に特攻するSR部隊とか、そんなのばっかりなのだ、現状。

 

更にドロイドを含む無人機なんかは、何時攻めてくるかも分らないレギオンの襲来から、宇宙空間における前線基地の構築なんかを急ピッチで行なう際に多用する為、それこそ天文学的な数が生産されていたりする。

まぁ、そんなわけで無人ロボが量産されていて、対ギーオス用や対レギオン用に無人機防衛網を構築していると言うのは事実だ。

 

「ぐっ――ああいえばこういう!!」

「忠告してるんだよ。これから行く先で手前勝手な正義を振りかざさず、先にちゃんと政府なり管理局上層部なりを通して、正式な外交手段から接触出来るよう要求するとかな」

 

と、其処まで言うとハッとしたような表情になる八神はやて。

まぁ、彼女がどの程度此方の忠告を理解してくれたかは知らないが、とりあえず俺からの忠告はこんなところか。

 

「さて、それじゃ今説明したのと大体同じような事を、多分あとから担当者が説明に――部隊の揃ってるところに説明に来ると思う」

「へ?」

「トップが理解できてないのは拙いだろう……」

 

そこらへんの配慮、先に話を通しておいた此方の気遣い。理解……してくれるかなぁ?

リーダーが下っ端と一緒になって戸惑ってたら、さすがに士気や信用に響くだろう、という考えだったのだけれども。

 

「後から君等は一つの病棟に纏められるはず。そのときに説明が来ると思うから、後は頑張って」

「ちょ、アンタは何処いくねん!!」

「俺は軍属。君等の対応は政府の役人の仕事。以上。さらば」

 

いい加減相手をするのも面倒くさくなってきていたという事もあり、そのまま病室の扉を抜けて廊下へと飛び出す。

 

「あ、ちょっ!!」

 

そんな声が背後から聞こえてきたが、それをキッパリ無視して、現在ウルの停泊しているドッグへ向けて通路を歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「と、そんな感じに説明してきた」

「オーケーオーケー、はやてに現状を認識させたのならそれで十分よ」

 

全員で揃って月の食堂で食べる夕飯の最中、ついでにアリサに報告を済ませてしまう。

B&Tの中で最重要ポジションを占めるすずかとアリサ。すずかが技術職よりであるならば、アリサは運営としての側によっている。故にアリサは経営戦略なんかにも当然口を出しているのだ。

 

とはいえ経営戦略にはすずかも口を出すのだが、月村の血か、有能でこそあれ政治には関与せず、すずかは基本的に新規開発にばかり力を注ぎ込んでいた。

 

「でも、なんでまた部隊ちょ……八神二等陸佐にそんな警告を?」

 

ケラケラと笑うアリサに、少し訝しげな表情で問い掛けるティアナ。

 

「まぁ、アレでも昔馴染みの友達なのよ。あの子の対応次第では、下手すると地球と管理局が表立って全面戦争にだってなりかねないのよ」

 

さすがに幼馴染の名前を戦犯として教科書に刻みたいとは思わない、と苦笑しながら言うアリサ。

そう、表向きのファーストコンタクトとされるこの出会い。管理局お得意の高圧的な発言をいつもの調子でやらかした場合、確実に地球と管理局は戦争になる。

しかも此方はギーオス対策やらレギオン対策の派生で、抗魔素、抗魔力技術がミッドチルダの技術水準から比べて悠に向上している。

 

部分的にアルハザードの遺産を未解析のまま運用しているという部分もあるが、それでも地球の技術力は一部で圧倒的にミッドチルダのソレを上回っているのだ。

 

「そ、それは……」

 

そして事の重要性に気付いたらしいティアナ。顔を真っ青にして口ごもってしまう。

ティアナも理解しているのだ、地球の戦力を。確かに地球の人口は怪獣達の襲撃により大幅に減少している。が、現在の地球は既に人類の制圧下にある。

 

俺が放射能を除去したり、土壌回復用テラフォーミングナノマシンをばら撒いたりして、既に地球は大災害前よりも緑豊かな惑星へと返り咲いた。

 

同時に人類はその半数が宇宙へと飛び出し、無人兵器による大群を保有。それこそ天文学的数字の宇宙怪獣でも襲ってこない限りは、なんとか大丈夫な防衛網を構築しているのだ。

 

もしミッドチルダ――管理局と戦争になるとして、その場合の管理局側の主戦力は間違いなく魔導師だ。まぁ、イレギュラーとして戦闘機人やエクリプスウィルス感染者なんかが参戦する可能性が無きにしも有らずだが、それはあくまでイレギュラーとして考える。

 

で、その魔導師だが、ミッドチルダにおける一般的な魔導師ランクはC。Bランクもあればそこそこ偉くなれ、Aもあれば陸ではエースを名乗れるだろう。

だが魔導師の問題点として、その素質が先天性であるため、常に一定の戦力を維持するという事が凄まじく難しいのだ。

 

何せ戦力は全て人間。代替機を用意したり出来る『兵器』と違い、人間は休息を必要とするし、また怪我をしたり再起不能になる可能性とて存在している。

ソレに対し、現在も月や各地のL点に設置された宇宙工業プラントなんかでガンガン生産されている無人機。

 

規模としては、多次元を抱え圧倒的である管理局。だがそれを支える戦力の数は、割合で考えれば地球が圧倒的だったりするのだ。

 

魔法の殆ど通用しない、凄まじい数の無人艦隊。しかも次元航行も可能で、場合によっては本局にまで攻め込むことも十分可能。

 

地球側の戦力について、すずかやアリサからの縁で最低限以上の知識を有しているティアナ。そんな彼女だからこそ、その現実について硬直してしまったのだろう。

 

「ま、はやてもお馬鹿だけど、其処まで考えなしじゃないでしょ」

 

大丈夫よ、なんて笑うアリサに、少しだけ落ち着いて、それでも尚顔色の悪いティアナ。ティアナにしてみれば、旅立ったとはいえミッドチルダは出身地なのだ。地球の戦力を知るが故、故郷が戦火に覆われる可能性に戦々恐々としているのだろう。

 

――そんな、何時も通りの下らない会話をしている、そんな最中。

 

「!?」「えっ!?」「――っ、何!?」

 

不意に耳に聞こえてきたサイレン。遠くに聞こえたその音は徐々に基地中で鳴り出し、ついには基地中にサイレンの警報音が響き渡っていた。

何事かと即座に端末から基地のメインサーバーにアクセス。即座に緊急情報を参照し、ディスプレイに表示。

 

「……っ!!」

 

ギリッ、と口の中で、歯がぶつかる音がした。

其処に映し出されていたのは、虹色の光を身にまとい、数多の触手をたなびかせ、緑の回復した地上で、残る地上居住区で縦横無尽に暴れまわるイリスの姿だった。

 

「い、イリス!?」

「これが!? でも、地上は次元断層フィールド発生装置で守られてたはず……」

「えっと、えっと……これです! イリス出現ポイントが、フィールド発生装置同士の干渉空域で、他に比べてフィールド出力が低かったみたいです」

 

戸惑うすずかたちに、冷静に調べた情報を読み上げていくキャロ。

 

「っていっても、多少フィールドが弱ってたからって、突破できるほど軟な術じゃないでしょ?」

「それはあれだ。次元断層フィールドって、基本的に想定している敵が生体ギーオス数匹分だったんだけど、このデータ見るに、フィールド許容量の数倍異常の魔力で無理矢理侵入してきたみたいだな」

 

ティアナの疑問に答えたのはアギト。……確かに、次元断層フィールドは、その術式は別として、ソレを支える物は現代の地球で建造された機械装置によるものだ。

仮にギーオスの数倍を限界値に想定していたその装置に、その許容量異常の負荷が掛かり、結果術式に比べ加工技術ではアルハザード程安定していない地球製品であるフィールド発生装置が吹っ飛んだのだとすれば……。

 

「因みに、場所は?」

「中国――旧天津地区!」

「またあそこかっ!!」

 

思わず、と言った様子で声を上げたアリサと、額に手を当てて視線を落とすすずか。

いや、まぁ、確かにあの辺りは環境汚染が――環境改善用ナノマシンでもまだ直しきれてない地域だからなぁ。

 

「で、この警報は?」

「えーっと、地上側からの救難信号みたいです。今地上には宇宙適性を持たなかったTSFパイロットくらいしかいませんから……」

 

あぁ、と思わずその言葉に納得する。

現在EFFは対レギオン火星攻略作戦に向けてその総戦力を衛星軌道上に打ち上げている。

 

総戦力とはつまり、宇宙戦対応TSF派生機であるMSと、そもそも全領域での活動を想定して建造されていたすべてのSR機を指す。

 

地上は既に制圧され、次元断層フィールドによりギーオスの次元航行による侵入は想定されていない。故にこそすべてのSRを宇宙に打ち上げたのだが。

 

「……これは、完全に裏を突かれた形か?」

 

月面の光学レンズからは、既に火星からのレギオン連続射出は終了したとの報告が入ってきており、次の一波を凌げば、今度はこちら側が火星へと侵攻を開始する、そんなタイミングで。

 

まさかレギオンにあわせるようにしてイリスが地球に襲撃をかけてくるとは、さすがに俺も予想をしていなかった。

 

「まぁ、この場合派遣される戦力って言うのは……」

 

ビーッ! ビーッ!

 

「はい此方起動特務部隊ホロウ隊長メラ」

『メラ君! 事情は把握しているかね!?』

「ええ、勿論。申し訳ありませんが、我々は即座に発進、地球の援護へ回ります」

『……帰ってきて早々、使いまわしてしまって申し訳ない』

「それが仕事ですから」

 

月方面艦隊指令からのそんな通信を受けて、一つ小さく息を吐いた。

 

「と、言うわけだ皆。俺達は次に地球へ降りるアリサは――勿論付いてくるんだろう?」

「アタシだけ除者に――って分ってるんじゃない」

 

先回りして言葉を掛けたら、ニッコリ笑うアリサの笑顔。その笑顔に少し苦笑を返して。

 

「それじゃ――急ぎウルへ。行くぞ!」

 

行って、月のドッグへと走り出す。因みにさり気無く、食事中に寝てしまっていたイクスを抱き上げて、の話であった。




■全長七十二キロの宇宙戦艦
エリュシオン級
■無人スーパーロボット軍団
とりあえず恒星間航行決戦兵器は所属しているらしい。
■アースラR2
もともとのアースラに比較して、原型がなくなるほど魔改造が施されていた。
ジェネレーターやバリア、人命救助装置など、予備の予備
■SOPシステム
大体アレと同じ。但し感情抑制機能なんかは最低限しか働かない。反面IFSがデフォルト装備。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。