リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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34 戦場の人達

side other

 

 

管理局次元方面――“海”と呼ばれる部隊に所属する彼、大佐は一人焦っていた。

彼は自らをエリートであると称し、また実際AAランクの魔力を持つ、管理局内でもエリートとして扱われる存在であった。

 

そんな彼だが、事此処に至って、自分の周辺に査察の手が伸びてきていることに勘付いていた。

 

彼はエリートで有能だった。故に、彼はとある存在と接触を持っていた。

その存在は、管理局では“最高評議会”と称される、管理局創設時代から存在していると実しやかに囁かれる御伽噺のような組織。

 

実際に存在するその“管理局の守護神”に接触されたとき、彼は喜んだ。自らこそ真に選ばれたエリートなのだと、それは正に彼の思いを正当化しうる出来事だったのだ。

 

そうして彼は最高評議会の手先として活動し、様々な“正義”を行なってきたのだ。

 

……ところが。

 

「……っ、あの馬鹿共め……!!」

 

一人小さく毒づく。その憎悪は、彼の上司であった最高評議会に対して向けられた物だ。

 

彼の上である最高評議会は、つい先日、ジェイル・スカリエッティによって引き起こされたテロにより、彼の尖兵たる戦闘機人により暗殺されてしまったのだ。

更にコレによって流出した様々なデータ。この中には、最高評議会の行なっていた後ろ暗い実験や違法な活動などのデータが存在していた。

 

――そう、彼の行なっていた“正義”の活動に関しても。

 

彼は慌ててそのデータに干渉しようとしたが、既に時遅く、ミッドチルダ中に拡散した情報は、彼程度の権限ではどうしようもないほどに世界に行き渡ってしまっていた。

 

幸い広がったデータ量は膨大で、解析には未だ暫く時間が掛かる。その間に彼は後ろ暗い情報を一切斬り捨てようとしたのだが、そんな最中に彼に命じられたのが、この97管理外世界の調査任務であった。

 

しかも調査するのは彼らではなく機動六課と呼ばれる地上の特殊部隊であり、彼らの任務はそのバックアップであった。

 

外だけ見れば、ある意味重要任務を任されたのだとも考えられるが、これは如何考えても証拠隠滅の時間を潰されただけだった。

 

「くそっ、拙い、拙いぞ………」

 

時間は刻一刻と過ぎていく。それはつまり、あのデータ群が解析されつつあるという事で、そうなれば彼の首は間違いなく飛んでいく。

かといって彼にそのデータ解析を妨害する手段は無く。

 

「あのデータはバレる。となれば、何か、別の……そう、功績が……」

 

そんな事を考えていた最中だ。不意に彼の指揮する艦のオペレーターが声を上げた。

 

「如何した」

「きゅ、97管理外世界、確認!!」

「なにっ!?」

 

それは同時刻、別次元から地球への侵入を試みたイリスにより、次元断層フィールド発生装置が一部破壊され、その結果彼の率いる艦の観測範囲に露出した姿を晒してしまったと言う、正に奇跡的なタイミングであった。

 

「――っ、直ちに97番へ転移!」

「なっ?! 然し、97番の調査は機動六課に一任されて――」

「その機動六課が連絡を絶ったのだろうがっ!! 故に、彼女等には何等かのトラブルが発生した物と考え、我々は管理外97番の制圧を開始する」

「――せ、制圧……」

 

その時彼の頭の中にあったのは、97番管理外世界を制圧し、その功績を持って管理局に再び返り咲く、と言うものだった。

 

『管理世界に劣る次元の彼方のど田舎の世界。偉そうにミッドチルダへと入り込んできたかと思えば、あの機械の人形で大暴れし姿を消したその存在。あれを下し、次元犯罪者の巣食う97番を制圧したとなれば、その功績は大きな物になるはずだ』――そう、真面目に考えたのだ。

 

そして、そんな彼の馬鹿馬鹿しい考えを理解しつつも、ソレに従うしかないのが彼の艦の乗員――彼の部下として、最高評議会の任務に従事していた人間達だった。

 

「よし、本局の最高評議会派に連絡を入れろ!! コレより我々は先鋒として、反管理局勢力に対する武力介入を行なうと!! そしてこの成果を持って、我々はミッドチルダに、本局に凱旋するのだ!!!」

 

響く哄笑に、追い詰められていた周囲の目に、暗い光が灯り始める。そして彼らは悪い意味で優秀だった。何せ彼らは、最高評議会と言う裏側の組織により集められた、一種のエリート集団だったのだから。

そうした結果、レギオン、イリス、EFFなどの思惑とは別に、此処に新たな勢力が地球へと介入行動を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Mera

 

 

『我々は時空管理局所属、次元航行艦『リーデーレ』。97番管理外世界を支配するテロ組織に継げる。直ちに武装を解除し、我々に投降せよ。我々は半径数十キロを反応消滅させる兵器を発射する用意がある。投降が確認されない場合はこれを地表に向けて――』

 

何か馬鹿なメガネがそんな妄言を無差別に電波に垂れ流しにしていた。

 

「……何コイツ。状況分ってんの?」

 

思わず、といった様子で呆然と呟くアリサ。けれども彼女の気持ちも十分、いや十二分に理解できる。

どうやらイリスの暴れた結果、発生した次元断層フィールドの穴。そこを通って地球に転移してきたらしいXV級次元航行艦。

 

あわや異世界人との公式コンタクト、その二度目かと思いきや、いきなり前述の妄言を公共電波で垂れ流した自称“管理局所属次元航行艦『リーデーレ』艦長大佐”殿。

地球の事を管理局の割り振り番号で呼んだり、支配するのがテロ組織だとか言ったり。これはもうあからさまに喧嘩を売られていると解釈しても間違いないのだろうか。

 

しかもこの馬鹿、転移してきて一番最初にそんな電波をゆんゆん垂れ流したのだが、垂れ流した場所がよりにもよってイリスとさほど距離の開いていない場所。

イリスが何で地球に来たのかは今一つ分らない。やっぱり封じられていた地である地球に何か縁があるのかもしれないが、それは現在不明。

 

とりあえず分っている事は、イリスが次元断層フィールドを力技で破ったという事と、その破った穴を管理局の次元航行艦通ってきた以上、当然通った先にはイリスが居るのが必然という事。

 

「……で、こうなってるわけか」

 

録画音声をカットして、再び視線を現在のライブ映像に向ける。

其処には、幾千幾多の触手を振り回すイリスと、そのイリスの触手をなんとか払いのけようと必死に対空迎撃やら空戦魔導師やらを飛ばす『リーデーレ』隊の姿だった。

 

「そりゃ、魔力を餌にするイリスの至近距離であんな電波を無差別に垂れ流せば、反応するだろうな」

「管理局の艦は基本的に魔力炉で動いてますから……」

 

当然、人間、というか生物の保有する魔力量を圧倒的に上回る魔力炉。イリスにしてみればそれは、散らばる柿ピーを一粒一粒漁っている最中、不意に目の前に柿ピーの小袋を発見したような物だろう。

 

……例え分り辛っ。

 

「で、如何するのよコレ」

「あはは、どうしよっか」

 

問うアリサに、すずかは困ったように苦笑する。

何せ相手はいきなり宣戦布告をかまし、地球に対して戦術兵器の使用をほのめかした存在だ。何が悲しくてそんな敵性勢力を、SR機数機もの戦力をぶつけて勝てるかどうか、なんて相手から助けねば為らないのか。

 

「これ、助けたら政治的なカードになるのかな?」

「為るだろうけど、あのアルカンシェルとかいう魔導兵器の照準を地球に向けた時点で十分な手札には為ってると思うわ」

「因みにアルカンシェルって言うのは……途中で制御に失敗したストレイドのレムリア・インパクトとかが一番近いかな?」

「えっと、熱量を与えた空間を結界で覆って縮退現象を――恐っ、アルカンシェル恐っ!! っていうかそんな危ない兵器で地球を脅したわけ!! んなもん何が悲しくて助けなきゃなんないのよっ!!」

 

相互にかけた知識を情報交換で補うアリサとすずかの掛け合いを和やかに眺めつつ、膝の上のイクスの髪を手櫛で梳きながら如何した物か考える。

 

「とりあえず……あのリーデーレというXV級次元航行艦自体の救出は不可能そうです」

 

不意に響いたキャロの声。視線を再びライブ映像へと向けると、其処には数多の触手に絡みつかれた巨大な次元航行艦の姿が映し出されていた。

 

「あーあ、取り付かれちまってやんの。早速魔力炉のエネルギーも食われちまってるし」

「あれじゃ次元転移も出来ません!!」

 

質量兵器を厭う管理局の次元航行艦は、その大半のシステムを魔力に依存した物を使用している。

質量兵器は誰にでも利用でき、誰でも世界を滅ぼせる。故に魔力という使用者が限定され、尚且つ比較的クリーンなエネルギーである魔法は素晴らしい! なんていう思想の魔法なのだが、既に戦艦の主機として炉が存在する時点でそんな思想は特に意味を持っていない気もする。

 

まぁ、そんな思想から魔力エネルギーを偏愛する管理局のシステム。イリスによって魔力を強制徴収されてしまえば、当然艦はまともに動く筈も無く。

途端ゆっくりと地上へ向けて降下――いや、墜落していくリーデーレ。その先には、触手を絡ませたイリスが存在していて。

 

「あ、落ちた」

「というかぶつかったぞあれ。まさかの特攻……なわけないわよね」

「単純に、飛行出力を維持する魔力すらなくなって、慣性でイリスにぶつかっただけだろう」

 

画面の中では、大質量の次元航行艦に直撃を喰らい、甲高い悲鳴を上げるイリスの姿が映し出されていた。

 

「うわぉ、今の衝撃、乗員は生き残れたのかしら?」

「生き残っていればもう脱出しているだろう。問題は、墜落の時艦の外に出ていた空戦魔導師だ」

「彼らが如何かしたんですか?」

 

ティアナの問い。まぁ、ミッドの地上防衛を担当していた元陸士のティアナには少し理解し辛いのだろう。問題は此処がミッドチルダではなく、地球である、と言う点。

 

既に此処は次元世界からは隔離された世界であり、彼らは次元航行艦を用いてやっとこの世界に侵入できたのだ、と言う点。

簡単に言うと、生身の空戦魔導師では、次元転移魔法を用いたところで、地球からの脱出は不可能なのだ。

 

「あれを保護できず、下手に逃しでもしてみろ。逃げ帰ることも出来ず、喧嘩を売った手前保護も求められず。賊にでもなられてしまえば、ナノマシンやらケミカルバイオで緑地化の加速している地上で潜まれれば、探し出すのは凄まじく面倒だ」

 

故に、彼らが確認できる現状で、一気に保護してしまうのがいいんじゃないだろうか、なんていう意見をその場で上げてみたのだ。

 

「そうね、地上部隊に管理局局員の保護を頼んでおきましょうか。あくまで、イリスを刺激しない距離から」

「うん、ソレでいいと思う」

 

地上部隊の装備は、現状基本的にTSFだ。イリスの中期体までならまだしも、生体イリスにTSFで挑む事など如何考えても自殺行為以外のなんでもない。

連邦国民の為ならまだしも、地球連邦に喧嘩を売ってきた異世界人のために、国有財産である兵士の命をむざむざと散らせる必要は一切感じられない。

 

と言うわけで、次元航行艦リーデーレの墜落地点を囲うようにTSFを配置。一定の距離を保ちつつ、逃げてきた魔導師なり局員なりを保護、と言う形を取らせることとなって。

 

「で、私たちは何時出撃するの?」

「ある程度局員を保護したら、かな」

 

別に今からイリスに攻撃を仕掛けてもいいのだが、その場合先ず間違いなく墜落したリーデーレが巻き込まれる。XV級は確かに大型で強力な艦ではあるが、動力の通っていない次元航行艦なぞただの鉄の塊以上の価値は無い。

 

SR機の攻撃――メイ・オーでも光になれでも、ましてやレムリア・インパクトでも一瞬で中の乗員毎消し飛ばしてしまいかねない。

別に気にする必要も感じないが、そういう非紳士的行いは後々此方の首を絞めかねない。

 

敵対的ではあるが、ある程度紳士的に行動しておくのも、一定以上の階級を持つ軍人としての勤め、らしい。

 

『空戦魔導師、収容完了まであと3分』

「よし、そろそろ各自自らの機体に搭乗し、発進待機に入る。――みんな、今回の敵はかなり強い。けど、立った一匹の敵だ。囲って殴れば十分勝てる!」

 

多少卑怯かな、なんて思いつつも、口の中で新撰組新撰組と呟きながら、改めて全員に視線を送る。

 

「イリスは知性も高い存在だ。各自、努々油断せず、全力であれを排除するぞ!!」

「「「「「了解!!」」」」」

 

全員の声が揃うと同時に、ブリーフィングルームから一気に全員が駆け出し、各自の機体登場タラップへと向けて走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side other

 

 

 

「くっ、怪物め……!」

 

何処からとも無く地上へと降り立ったその怪物。データベースリンクにはイリスと名付けられたその怪物。

ソレが出現した直後、地上は静かにパニックに陥った。何しろ地球上は既に連邦軍により浄化作戦が推し進められ、次元断層フィールドによって隔離された地上には、宇宙以外からの攻撃――奇襲はありえないとされていたのだ。

だと言うのに、突如として地上に現れたその怪物。幸いであったのは、その怪物の出現地点が、既に人類が居住区としての役割を捨てた地域であった、と言う点だろうか。

 

現れた怪物イリスは、そのまま大地に降り立ち、まるで力を蓄えるかのように静かにその場に立ち竦む。

EFFはそれを、特殊部隊の攻撃による傷を癒しきれていないのだと判断。強敵には違いないが、回復される前に打撃を与え続ければ、本陣から戦力が引き返してくる時間を稼ぐ事は可能と判断。

 

即座にEFF地上残留部隊により、世界中からTSFがかき集められた。その数3000にも届こうかと言う大部隊だ。

 

当初「行き過ぎではないか?」「過剰戦力ではないか?」という声が、前線部隊、統帥指令本部両側から上ったのだが、いざ戦端が開いた途端、そんな事を言っている暇は一欠けらも無くなった。

 

唸る数十本の触手から放たれる黄色い閃光が大地を薙ぎ払い、その一撃で数十機のTSFが一気に撃破されていく。

 

対ギーオス用に開発された、超振動拡散シールドを持ち出してそれを防ごうとした機体もあったのだが、魔素濃度がギーオスと比べ桁違いであったイリスの魔力共振メスを受け止めきれず、ソレもまた次々爆炎に飲まれて消滅していった。

 

そんな最中、何処かから現れた次元航行艦。それが話を更にややこしくした。

ただでさえ強大なイリスだと言うのに、突如現れたその次元航行艦は、何を思ったのか地球連邦軍の戦力に対して地球を盾に取った脅迫行為を開始。

 

呆れて唖然とするEFFを他所に、そんな馬鹿の妄言、垂れ流しに成った電波に反応したらしいイリスは、そのまま周囲のTSFを無視し、次元航行艦を強襲。

折角エネルギー不足で機動力の落ちていたイリスは、次元航行艦の主機からエネルギーを強奪。傷を癒すどころか、そのままその肉体を更に巨大化させていった。

 

そうして地上に現れた、全長200メートルを超える巨大なバケモノ。しかもその肉体の一部が、次元航行艦を内側から乗っ取り、全身に鎧を纏った巨大な怪物へと変貌していた。

 

「アームド・イリスって所か……日本人のイモムシ怪獣でもあるまいに、鎧なんぞ着やがって」

『なんだ、何なんだよありゃ……』

「びびってんじゃねーよ。あと10分もすりゃお空の上から味方の増援が駆けつける。ソレまで精々ネバりゃいいんだよ!!」

『畜生!! 俺は帰る!! こんな所で死にたくないっ!!』

「何処に帰るってんだ!! 此処で奴の注意を母艦に引いてみろ。その途端帰る場所なんぞなくなっちまう!! 泣き言ほざく暇がありゃ一発でも多く弾丸をぶち込め!!」

 

オートマトンによる自動操縦機も含み、3000もあった戦力はあっという間に1000を割った。無人操縦機の損耗率は特に酷く、有人機の盾となってその大半は既に原型を留めず消滅している。更に有人機の損耗も少なくは無く、大地はオイルの血と鋼の骸で溢れかえっていた。

 

『畜生! 死にたくねぇ!! 援軍はまだかよっ!!』

「うるせぇよ。俺だって本当はまだ死にたかねーよ……っくそ、飛べ!!」

 

彼の言葉と共に、数機のTSFタイフーンが直上へと飛び上がる。途端地面を薙ぎ払う黄色い光に、逃げ送れた数十機のTSFが消滅、引火した燃料が爆発し、大気を振るわせた。

 

『隊長! もうだめだ!! ベルナドット隊長!!』

「言ってられる間は大丈夫なんだよ!! 各自弾薬、噴射剤の残量チェックを怠るな、副長!!」

『現在独立機動特務部隊ホロウが大気圏上へ転移。次の転移で此処に来ます!!』

「聞いたか馬鹿共! あと数分耐え凌げ!! そうすりゃお空から救いの天使が舞い降りるぞぉ~」

『隊長が天使って、似合いませんよ』

「うっせえよ! ほれ撃て撃て!! あのデカブツは鎧をまとって鈍足なんだ、しっかり見て回避すりゃ逃げ延びられる!!」

 

言いつつバリバリと撃ち放たれる突撃砲の36mm砲弾。然し次元航行艦の堅牢な装甲を身に纏ったイリスに対して効果的な一撃を入れることは出来ず。

稀にイリスの触手に弾丸が当たり、その魔力共振メスの方向を逸らせればいいほう。まさに暖簾に腕押し糠に釘といった有様だった。

 

『う、うわあああああああああああ!!!!!』

「っ!? 馬鹿、不用意に飛び上がるなっ!!」

 

その砲撃戦の最中。不意に飛び上がった有人機。戦場のTSFが既に壊滅判定に当るほどの損耗状況。そんな最中で単騎目立ってしまえば、イリスは間違いなくそこに攻撃を打ち込んでくるだろう。

事実イリスの触手に集う不気味な光。隊長と呼ばれた彼は、咄嗟に機体の跳躍機を吹かし、飛び上がったTSFの脚を掴んで地面へと投げ付けた。

 

「っ、マズ……!!」

『隊長ぉぉぉぉ!!!!』

 

そうして、入れ替わりに宙に浮いた隊長の機体。それを狙い打つかのように放たれたイリスの魔力共振メス。回避のために続けて跳躍機を吹かすが、魔力共振メスの速度は明らかにタイフーンの回避速度よりも速い。

コレまでか。隊長と呼ばれた彼が苦々しげにタバコの吸い口を噛み締めたとき、不意に視界が黒い影に覆われた。

 

『地球連邦軍統帥本部直属、機動特務部隊ホロウ部隊長メラだ。其処のタイフーンのパイロット、無事か?』

「……此方地球連邦軍ヨーロッパオチコボレ残留部隊ワイルドギース隊隊長のピップ・ベルナドット。支援に感謝する」

 

その瞬間、思わず彼は、タイフーンのコックピットの中で、操縦桿から手を放して脱力してしまった。

目の前に移る白い機体。まるで白亜の騎士のような、TSFとは違ったつくりのロボット。明らかに自分達のTSFよりも尚新しい、最新鋭の機体。ああコイツらが居れば、何とか為るだろう。そう感じたのだ。

 

『あー、ベルナドット隊長、我々はこれからイリスに対して攻撃を仕掛ける。其方は……』

「おけーおけー、生存者を救助して、そのままさっさと逃げさせてもらいますよ」

『その間の囮は確り勤める』

「ありがたい! そういうわけだ、全員、生存者を探しつつさっさと母艦までトンズラするぞ!!」

『『『『『Yes Sir!!』』』』』』

 

そんなベルナドット隊長の掛け声に、生き残っていたワイルドギースの部隊員は即座に生存者を回収。そのまま一気に母艦へ向けて長距離跳躍を開始。

 

「……へ、本当になんとかなりそうじゃねーの」

 

そうして母艦へ向かって跳躍する最中。ベルナドットの視界には、はるか背後、仁王立つ小さな白い機体と、更に天から舞い降りる、三機の巨大なSR機の姿が映し出されていた。

 

 

 




■次元航行艦『リーデーレ』
オリジナル。XV級だから結構デカイ。
登場してからあっという間にイリスに丸呑みにされた。

■民明書房『管理局、海の漢達』
97番から編集者だか作者だかが次元漂流した末、持ち前の好奇心から管理世界に定着。後に民明書房ミッドチルダ支部を立ち上げたとか。

■日本人のイモムシ怪獣
私は好きよ?

■ピップ・ベルナドット
ワイルドギース隊隊長。カウボウイハットの似合う人。
元々はヨーロッパ地方で傭兵として活動する『ワイルドギース隊』、ハグレ者のリーダーであったが、『世界がこんなに成っちまったんだ。仕方ねーよ』とEFFに参加。実力的には中の上といったところだが、その高い戦術的直感は地上部隊でも多くの人間から頼りにされるほど。搭乗機はTSF『タイフーン』

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