やっべー、なのはさんだよなのはさん。大魔王NANOHAさん。
管理局の白い悪魔だとか固定砲台だとか大魔王とか呼ばれているお方じゃ在りませんかっ!!
しかも何故かギャ○ス、もといギーオスと交戦してたし! あの人って航空部隊の教導官なんじゃなかったか? ああいうのって自然保護監察官か何かの仕事じゃなかったか?
いやそんな雑事は如何でもいいか。問題は、此処が「リリなの」だという点。改めて思うが、ガ○ラ×リリなのって誰得だっ!! 魔法少女と怪獣の戦いに誰が萌えると言うのだっ!!
……って、まさか俺の生産地のアルハザードって、まさかあの忘れられた都のアルハザードかっ!? ギーオスに滅ぼされたのかよっ!! プレシアさん涙目じゃねーかっ!!
いいやもちつけ、もとい、落ち着け俺。
今さっきのなのはさんの外観年齢を鑑みるに、どうやら現在はStS前、所謂『空白期』と呼ばれる期間だと推測される。
つまり、まだあの顔芸マッドは野放し。下手に行動すると、あの顔芸に目を付けられてしまう可能性が在る。いや、寧ろ俺よりもあのギーオスに目を付けるんじゃないか? アイツ、ある意味最強の対魔導師戦闘用生物兵器だし。
此処は下手に動かず、何処かの世界に潜伏でもしておくべきか?
「然し、ギーオスの駆逐は最優先事項でもある……」
そう、今の俺にギーオスを駆逐しないという選択肢は存在しない。
別に放置しても問題ない、と言うのであれば、誰も好き好んであんな危険な怪獣を放置する心算はない。が、アレは危険と言う文字が形を取ったような存在。
アレは俺にしか倒せない。魔力を用いた戦いでは倒せないのだから。
更にデータを漁る事で得た事情なのだが、元々ギーオスは環境改善型の生体システムだったのだとか。
魔力系文明の発展により、高度に成長した魔法社会。けれども魔法社会の発展は同時に、世界に対する廃魔力汚染という重大な環境問題を齎した。
この廃魔力というのは、所謂使用済み魔力のこと。当時はそれほど問題視されていなかったのだが、文明が発達し、瞬間廃魔力生成量が一定値を超えたとき、廃魔力は廃魔力同士で結合。魔導師に対して脅威と成ったのだとか。
そこで開発されたのが、廃魔力を餌とする生体ユニット・ギーオス。廃魔力を餌に、自動的に世界を浄化する、という目的の元、彼の怪物は世界に放たれてしまった。
廃魔力はギーオスにより浄化。旧文明の人類は喜び勇むも、続くギーオスの暴走・反乱により一気に危機的状況に陥る。
廃魔力だけではなく魔力をも餌食として活動し始めたギーオス。対する旧文明は魔法に支えられた文明である。魔法が無効化される以上、彼らに抗うすべは無く。辛うじて少数の変換資質持ちにより戦況は支えられていた。
それでも徐々に追いやられる人類文明。結果、最後に俺(Mera)を製造するが戦線投入には間に合わず、旧文明は崩壊。
此処からは推論になるが、その後魔力資質を持つ生物を食い尽くしたギーオスは、次に共食いを始め、最後に卵に戻って自分達に適合する環境が訪れるのを待っていたのではないだろうか。
元ネタの考察も組み合わせてみれば、この考えは割と外れていないような気がする。
もしかすると何処かの機械文明によりギーオスの侵攻が食い止められ……なんて可能性も在るが、まぁ、実際問題となるのは、今ギーオスが次元世界のどこかに潜んでいる、と言う可能性だろう。
少なくとも、俺(メラ)が存在しているという事は、敵が居る、という事に成るのだから。
まぁ、とりあえずというか、少なくとも俺が目覚めた切欠となったであろうギーオスは駆逐した。次もその内目覚めるのは間違いないだろうが、少なくとも長期間に渡って、という可能性は否定できない。
つまり、俺も生物兵器とはいえ生き物。どこかに拠点・住処を用意しなければ。さすがに長期間お日様の光も当らない次元航行艦の中に引篭もっているのはいやだ。
「地球、か」
そうだ、地球へ行こう。ではなくて。地球を拠点にしよう。そうしよう。
何かアルハザードで封印されていた筈の俺とこの艦『ウル』、目覚めたのは地球だったような気がするが、まぁ細かい所は考えない。帰省本能とかではなく、俺の意思で地球に帰りたいだけだ。うん。
心の中で頷いて、即座にウルのメインコンピュータに命令を下す。航路反転、一路元来た地球へと世界の狭間を進むのだった。
Side Nanoha
「これが、今回私が出向した先で経験した出来事です」
少女――高町なのははそう言葉を締めて、一歩後ろへと歩を引く。
現在彼女が立つこの場所は、時空管理局の中でも、『海』と呼ばれる部類、その上層部が集う会議室の部類。その中でも、上級将校の集う高町なのはには縁遠そうな場所だ。
では何故彼女が此処に立っているのかと言うと、ソレは彼女が提出した今回の報告書・『トリ』に関する報告からだ。
第58無人世界での戦闘の後、管理局の回収班により回収された高町なのはは、当然とでも言うべきか、今回の行動における報告書の提出を求められた。
ソレも当然。今回は先遣隊の全滅に加え、人を食う巨大なトリにより生み出された、血みどろの森などというとんでもない光景が生み出されていたのだから。
彼女を回収するために地上へ降りた武装局員。戦う事を本分とする彼らだが、その戦いは非殺傷設定という殺しから縁遠い場所に在る。
そんな彼らが突然見せられた、バラバラに成った人の肉片。中には嘔吐し、意識を途絶させる者も出た。
そんな悲惨な状況が何故生み出されたのか。高町なのはのレポートは、その状況が生み出された原因を知る為にも、重要な情報源と目されていた。
そうして、提出されたレポートは、更に管理局に混乱を齎す事になる。
人を喰い、魔力を喰う怪鳥『ギーオス』と、ソレを駆逐する未知の術式を扱う黒い魔導師。レイジングハートにより記録されていた壮絶な光景と戦いは、現在の管理局の知るソレを悠に上回る凶悪な物だった。
ベルカ式の騎士にも見えるその姿は、然し扱う魔法陣が余りにもかけ離れすぎている。
ミッド式の魔法陣は円、ベルカ式の魔法陣は三角。例えばコレが四角である、とかならば、何処かのマイナーなプログラムであるといわれても理解できる。
然し黒い魔導師の扱っていた魔導プログラムは、立体球形。そんなプログラムを扱う魔導師は、少なくとも現在の時空管理局勢力圏内には存在し無い。
詳しい情報を得るという名目の物、会議に急遽召集された高町なのはは、レイジングハートの映像記録と共に、その詳細を解説するという仕事が与えられ、その結果として現在こうしてこの会議室の一角に立ち言葉を紡いでいたのだった。
「高町二等空尉、このトリ――黒い魔導師曰くのギーオスだが、まだ存在する、というのは事実かね?」
声を挙げた一人の将校。その男性は青白い顔で、映像が映し出されていたスクリーンからは目を逸らさずに、そんな言葉を高町なのはに問い掛けた。
「……はい。戦後、あの生物、ギーオスの死体を回収し、分析班が調査したところ、あの黒い魔導師の証言通りあの生物は単為生殖が可能であるという事がわかりました」
ざわめく議会。再びスクリーンに映し出されるのは、一対の奇妙な影。
「これは、あのトリ、ギーオスの死体から採取された染色体です。ご存知の通り染色体は遺伝子情報を担う生体物質。生物の進化の系譜です。ギーオスからは、一対の染色体が発見されました」
「……? ソレはつまり、如何いうことかね?」
首を傾げる将校。魔法偏重の文明の弊害とでも言うのだろうか。こうした科学・化学技術等の知識は、次元世界ではマイノリティーな部類に分類されてしまう。
「はい。染色体とはつまり、進化の系譜。人間で23対、鶏で39対、雨蛙で12対、どれ程進化を繰り返したか、と言う生物的な進化の過程が記されているモノです。コレが多いという事は、それだけ進化を経た生物である、と言うことです」
「成程。然しこのギーオスは染色体が一本。つまりこれは、原始的な生物であると?」
「いえ、逆に、この生物は完璧だそうです」
言いつつ一歩後へ下がる高町なのは。その背後から前へと踏み出してきたのは、白衣に身を包んだ眼鏡の女性。
「本件における技術解析を行ないました、本局第四技術部所属のマリエル・アテンザであります。以降は極めて専門的分野である為、高町二等空尉に変わって私から説明をさせていただきたいと思います」
「ふむ。で、ギーオスにおける遺伝子情報が完璧と言うのは?」
「はい。本来生物の遺伝子情報には、ジャンク情報――進化の過程で淘汰され、採用されなかった情報、と言うものが存在します。例えば人間で言う、三つ・四つ目の乳房の跡や、尾てい骨、尻尾の名残などがソレですね。ですがこのギーオスにはそれらが在りません。進化の帰結としてではなく、最初からあの形で完成形なんです」
アテンザ技官の言葉にざわめく議会。
「……最初から完成していた?」
「と言うより、最初から完成形を計画し『製造された』、と言うのが正しいのだと思います」
――つまりこれは、人為的かつ現行技術を悠に上回る技術によって生み出された、人工的な生物である、という事。
その事に気付いた途端、議会はパニックに陥った。
「つまりこれは……生物兵器なのか!?」
「初めから兵器として開発されたかは別ですが、脅威のレベルとしては限りなくそれに近いかと。――そして、問題はそれだけではありません」
ざわめく議会に、更に響くアテンザ技官の声。これ以上まだ在るのかと言う周囲の何処か引きつった目線に、何処か血の気の失せた表情で彼女は言葉を続ける。
「死体を解剖した結果、このギーオスには雌しか存在しないという事がわかりました」
「メスしか存在しない? それは、現状以上に個体数が増える事はないという事かっ!!」
何処かの巨漢が少しだけ明るく声を上げて。
「いいえ」
ソレをアテンザ技官が素気無く否定する。
「ギーオスは生態的にはメスですが、遺伝子情報にはXX染色体と同時にXY染色体を持つモノも存在しました。これは単為生殖により、番を必要とせずに繁殖できるという事です」
「なっ!?」
「人を餌とする全長15メートルの怪物……いえ、細胞分裂数を鑑みるに、これが最大だとも限りません。それが、更に人を餌として爆発的に増え続ける事になれば……」
ぞっとした表情のアテンザ技官の顔色に、途端に議会が静まり返る。この場の誰もが、途轍もない脅威が目の前に現れたのだという事を、遅まきながら理解し始めていた。
「お疲れ様やったなぁ、なのはちゃん」
本来ならなのはでは参加するはずも無い上級幹部同士の会議。そんな中に突如呼び出され、事件の事情説明を求められたなのはは疲れ果てていた。
第一彼女は致命傷を負い、本来ならばまだ病院のベッドの上に拘束されていてもおかしくないのだ。
まぁ、「はやく仕事に戻るの!」と言って強引に病院を退院した、この年齢で既にワーカーホリックの気のある彼女の自業自得、と言う面が無きにしも非ずなのだが。
「あ、はやてちゃん」
「お疲れ様なのは。大丈夫?」
「フェイトちゃんも。お仕事はもう終わったの?」
そんな疲れたなのはの目の前に現れたのは、彼女の幼馴染であり、最も親しい友人であるフェイト・T・ハラオウンと八神はやての二人であった。
「でも災難やったなぁ。そのトリ、相当ヤバイ代物やったんやろ?」
言いつつなのはの座るソファーに、冷蔵庫から取り出した冷えたレモネードを持っていくはやて。
「そうなの? でも、幾ら大きいっていっても、野生動物でしょ?」
いいつつ草臥れたという風にソファーに座るなのはの肩を軽くもんでやるフェイト。
「いや、それがただの野生動物やのうて、魔法を喰うみたいなんよ」
「魔法を、たべる?」
はやてから渡されたレモネードを口に含み、極楽といった表情でフェイトに肩を揉まれるなのは。
そんななのはの背後できょとんとした表情を見せるフェイト。
「魔法って、あの、私たちの使ってる魔法だよね?」
「そうや。勿論、魔法だけやのおて、魔力かて喰うてまう。その上で人間すら餌にする怪物や。ほんま、なのはちゃんよぉ帰って来れたわ」
言いつつなのはの頭をなでるはやて。
「……うん、助けてもらったから」
「あぁ、例の黒い騎士な」
「黒い騎士?」
「フェイトちゃん知らんのん、って、フェイトちゃんは違法研究所の摘発から帰って来たばっかやったもんな」
言いつつはやては夜天の書を展開し、そのデーターストレージから一つの映像を投影する。
「今回なのはちゃんが行ったんは、第58無人世界。で、件のトリと戦闘になったらしいんやけど、そんときにトドメを指される寸前のなのはちゃんの前に突然現れたんがその黒い騎士なんやって」
言いつつはやてはチョット芝居がかった口調で言葉を続ける。
「あわや命の危機に陥るなのはちゃん、そんな彼女の前に突如現れた黒い騎士、彼は炎の一撃でトリを葬り去ると、何も言わずになのはちゃんに手当てをし、颯爽とその場を去っていったのであった!!」
そんなはやての言葉にほーっと驚くフェイトと、無言で苦笑するなのは。
「……あれ? でも、そのトリって魔法が効かないんだよね?」
「そうらしいな」
「じゃぁ、一体どうやってトリを倒したの?」
「それがな、レイジングハートの記録には、ミッド式でもベルカ式でもない、しかも魔力の反応からして妙なんを使って倒すところが映ってたんよ」
「それは、レアスキルとかじゃなくて?」
「なのはちゃんの怪我を治すときに魔法プログラムっぽいのを使ってるところが映ってたんやけど、ほら」
言いつつ次の情報を展示するはやて。その投影されたグラフィックには、球形のテンプレートを手の前に翳す黒い姿。
「これ、円じゃなくて、球?! そんな、こんな魔法式見たこと無い!!」
「ん、やから未知の魔法を使ったんやろうか、って話しも在る。まぁ、他にも可能性はあるんやけどな」
彼女が言うのは、例えば戦闘機人。魔法ではなく、ソレと似て非なる力を扱う存在である戦闘機人であれば、もしかすれば火球を跳ばすのに似たような事は可能かもしれない。ただそうであれば、あの治療魔法が分らないのだが。
「で、や。コレで、この黒いあんちゃん、かなり危険視されとるみたいやねん」
「え、ええっ!?」
「え? でも、なのはを助けてくれたんでしょ?」
「せや。でもなフェイトちゃん、このあんちゃんは魔法の使えへん状況で魔法を使いおった。幾ら最近はAMF対策が組まれてるとはいえ、十分驚異になりえる」
「で、でもっ!! それならあのトリのほうがよっぽど危険なの!!」
その言葉に声を上げたのは、他の誰でもなく、彼に助けられた高町なのは本人。
「せやな。でも上はトリより、魔法使用不可能って状況で魔法をつこた、この黒いあんちゃんを捕縛したいみたいや」
「そんな……」
言って顔を青ざめさせるなのは。何せ彼女にしてみれば、命の恩人を指名手配する切欠になってしまった、いわば恩に仇なすようなものだ。
「まぁ、せやったら他の連中に捕まる前に、うち等が見つけて説得すりゃええんや」
「そ、そっか! その手が在るんだよね! フェイトちゃん、お願い!!」
「え、あ、うん。任せてなのは!!」
トン、と胸を叩くフェイト。何しろ本局所属のはやてや戦技教導官のなのはに比べ、執務官であるフェイトはそれこそ次元世界を良く飛び回っている。なのはやはやてに比べ、彼に出会う確率は間違いなく高い。
なのはの勢いに圧されるまま、彼女の願いを引き受けてしまったフェイト。でも内心ではなのはが喜んでくれて嬉しい、なんて考えしかなかったり。
「でも、あのトリには気をつけてね?」
「え、あのトリってまだおるん?」
不思議そうに首を傾げるはやて。何せそもそもの情報として、あのトリは希少生物であり、それ故になのはが派遣された、というのが彼女の聞いていたものなのだ。
そんな彼女の疑問に首を横に振るなのは。
「ううん、あのトリは単為生殖で増えるって、物凄い勢いで増殖する、しかもアレはまだ幼生で、もっと大きくなって、百メートルを超えるって」
「ひゃく……何処の大怪獣やねん!」
「それだけじゃなくて、其処まで大きくなると今度は次元世界を渡るようになるって……」
「しかも次元転移まで!? そんな野生動物がおってたまるか!!」
溜まらず、といったように叫ぶはやて。実はその叫びはいいところを突いているのだが、その事を知る人間はその場にはいなかった。
「でも、嘘とは限らない。少なくとも、もっと大きな固体が存在する可能性はあるの。二人とも、気をつけてほしいの」
そう言うなのは。少々呆気に取られたと言うか、否定的なはやてではあったが、それでも自分達を心配している事は理解できるのか、フェイトと揃って首を縦に振ったのだった。