と、言うわけで管理局表記・第97管理外世界地球は海鳴市にやってまいりました。とりあえず、真っ黒なバリアジャケットから装甲はパージしておく。怪しいけど、鎧を纏っているよりはましだろう。
彼の超人一族高町家や夜の一族の頭月村家、世界的企業バニングス財団社長一家、退魔の神咲一灯流、世界的歌手に妖怪、忍者、九十九神とまさになんでも在りな混沌の街。
果てには魔法少女による世界を掛けた戦いなんてものまで発生したのだから、もうなんというか、ねぇ?
「……とりあえず、戸籍、いや資金かな?」
多分この時代、というかこの世界、現代ほど戸籍管理が徹底されているわけではないと思う。何せ元が20世紀の作品だ。その辺りの縛りは緩い――筈。
一番手っ取り早いのは、ウルのメインコンピュータを使って、官公庁なり都道府県なりの戸籍を管理しているところにハッキングなり何なりで、架空の戸籍を一つでっち上げる事。
が、残念ながらこの世界、時代的にまだ20世紀終わったばかり。まだ携帯電話が漸く普及したという辺りだ。この時代では戸籍管理は電子情報ではなく紙で管理されている時期だろう。
こういう場合、この時代なら何処にでもいそうな自由業の方々の事務所を襲撃して、適当な物資を蒐集して行くのが吉か。いや襲撃などせずとも、ある程度の資金を用意してソレを対価に戸籍を用意させるか。いやそもそも資金を如何やって用意するか。
うん、資金を調達する為、先ずは自由業の方々の事務所を襲撃するのはアリかもしれない。まぁ襲撃ではなく潜入でいいのだが。どうせ真っ当な方法で集めた金でも在るまいし、此方で有効に利用させてもらいたい。
~~~メラ潜入~~~
事務所を発見し、光学迷彩系のプログラムで事務所に潜入するところまでは成功。その後人が少なくなった頃合を見計らい、金庫の内側と外側にゲート……ベルカ式で言う『旅の鏡』に近い術式を用いて、中身を外に引っ張り出す。
本当は事務所の外からコレで金庫の中身だけ強奪したかったのだが、残念ながら今の俺に其処までの習熟度は無い。何せ俺はまだ起動したばかり。空腹さえ誤魔化せれば、すぐにでも自らの性能をチェックしておきたかった。
そんな状況で、金庫の中から多数の札束と、何故か有った黒光りする携行火薬式金属投射機、チャカとかハジキとか呼ばれるそれにちょっとした悪戯(粘土を詰めたり)をしつつ、そのままそっとその場から立ち去ろうとしたときの事だ。
「其処、何者だ」
いきなり響いた声に思わず身が強張る。声に振り向けば其処に居たのは、黒いナイフを手にニヤリと佇む異様な風体の男。
即座に理解したのは、「コイツはヤバイ」という事。
直感に従い即座にその場を飛び退く。途端ソレまでいた空間を薙ぎ払う何か。振り返って直視すれば、壁に掛けられた日本刀が真っ二つに分かれていた。
「チョッ、先生!?」
「かわしたか。――姿を見せない敵とは、御神と当る前に奇怪な輩と相間見えるものだ」
横薙ぎに払われる腕。即座にしゃがみ込み、襲い来る何かを回避。が、追撃とばかりにその手に持つナイフで切りつけられる。
「――っ!」
「……うん? 奇妙な手応えだ」
フェイスガードの展開を確認して、光学迷彩を解除。というか、迷彩術式の維持が出来ない。
「なっ?!」
「ふん、漸く姿を現しましたか」
驚くヤの字の家業の人と、それをさも当然とばかりに眺める黒いナイフの男。多分だがこの男、裏の暗殺者という奴だろう。そうだ、リリなのなんだからとらハ系のヤバイ連中だって居てもおかしくは無いか!
ナイフの斬撃自体はバリア・ジャケットによる防御で軽減できたが、それでも腕に伝わるダメージ。ジャケットを抜けて伝わるダメージは、斬撃のそれではない。この、腕そのものを破壊するような衝撃は……。
「……御神……いや、不破流?」
「おや、彼の流派をご存知で?」
リリカルなのは原作・とらいあんぐるハート3主人公、高町恭也の使う流派。正式名称は『永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀流』と馬鹿みたいに長いその名前。
その流派は名前の通り小太刀二刀流に加え、鋼糸などの暗器も使う。大昔から政治家などの重要人物を影から護衛し、不穏組織の殲滅などを担っていたという、一種のシークレットサービス、いわゆる現代の忍びのような存在だろうか。
確か正等な御神一門は、竜だか龍とかいう組織に壊滅させられ、現在残るのは高町家と御神美沙斗の少人数のみ、の筈。
そしてこの男が使った斬撃によるガードを無視したかのような攻撃。武器を使った浸透勁、御神流の貫を受けたようなその感覚。
「私は御神でも不破でもありません。私はしがない暗殺者です。過去に少し御神とやりあった事がありましてね」
言いつつ両手で二本のナイフを構える男。
「まぁ、その時に幾つか技を見て、命辛々逃げ出しまして。何時か再戦を、とおもいこの町での仕事を引き受けたわけですが……」
成程、理解した。つまり、俺では絶対にコイツには敵わない。
確かに俺は負けはしない。何せ俺は、そう簡単には死ねない存在としてこの世界に生まれている。然し、だからといってコイツに勝てるかといえば、先ず無理だろう。
生まれたての、それこそ半ば野生の獣であるギーオス程度であればまだ何とか成ったかもしれない。然し相対するこの男は、間違いなく戦場を渡り歩く殺し屋。俺が魂から強化されていなければ、既に失禁していたかもしれないほどの殺意。
逃げる、と決めた瞬間、脳裏に浮かぶ幾通りもの逃走パターン。けれどもその大半は相手の力量から不可能と判断。脱出するには、少なくともこの相手と数合手を合わせねば成らない。
「…………」
全身のマナを賦活させ、バリアジャケットの強度を高め、更に肉体的な治癒能力も向上させる。
貫に防御の意味は低いが、刃物に対する防御は必須。ダメージを防げないのであれば、喰らった端から回復させればいい。なんとも贅沢な対処法だが、今の俺の技能ではこれ以上はない。
どちらからとも言わずに踏み出される一歩。最初の一撃は拳で真横に逸らす。リーチの短い、然しそれゆえに取り回しのいいナイフ。弾いた傍から次の斬撃が襲い掛かってくる。
最初の一発で右拳は損壊。即座に修復を掛けるも間に合わないと判断。左拳で迎撃するも、ついで左拳も損壊。一歩踏み込み、懐から顎めがけて肘を振り上げる――顎を逸らして回避された。
そうして此方の姿勢が上に伸びている状態で、仰け反る黒ナイフは前蹴りを此方の腹にぶち込んできた。
回避も防御も出来ない、無防備な状況での一撃。しかも当ててきたのは腹ではなく心臓の位置。
時が止まったかのような、一瞬の激痛。けれども無常にも時間は経過し、俺の躯は事務所内の机を巻き込んで壁際へと吹き飛ばされた。
「な、何事だっ!?」「何処かの鉄砲玉かっ!!」
そうしてその騒音で、漸く侵入者との戦闘に気付いた構成員が、どたどたと室内に飛び込んでくる。
――っ、チャンス!!
激痛をカットし、表向きの生物としての機能を無視し、人の姿を無理矢理動かし体を立ち上げる。背にした机のうえを飛び越え、窓をバニシングフィストで叩き壊し、背後に向けて火炎球を叩き込む。
爆発する背後を尻目に、一気にその場から逃げ出す。さすがに転移魔法を使うにはテンプレート(魔法陣)の展開が必要になる。が、この魔法文明が存在しない世界でのテンプレート展開はさすがに目立ちすぎる。
火炎球などはテンプレートの展開無く放つことが出来る為、何等かの超能力の類か、そういった武器かと誤認させる事も出来るだろう。が、さすがにいかにもな魔法では誤魔化しきれないかもしれない。
考えつつ、再び光学迷彩展開。姿を完全に晦ました状態で距離を稼ぎ、工業港地区を抜けて山の方向、森の中へと脚を踏み入れる。
周囲に人間の気配が無い事を確認し、漸く一息つく心算で地面に腰を下ろして。
「……っ!?」
息をついた途端、人間としての、いや生物としての機能が再開。全身を襲う激痛に身もだえ、そのまま強制的に意識が途絶した。
Side Out
「まってー、まちなさいルフナー!!」
不意に森の中に響いたそんな声。紫がかった髪の少女が、何処からともなく声を上げながら森の中を走っていた。
少女の行く手を先導するのは、一匹の子ネコ。森の中をぐにゃぐにゃと走り回る猫は、そのまま森を縦横無尽に駆け抜けて。
「もーっ、ルフナー!!」
ソレを追いかける少女。年の頃にして中学生くらいだろうか。その大人しそうな外見に比べ、高校生もかくやと言うほどの速度で子ネコを追撃している。
「って、あれ? ルフナー!」
「にゃー!」
そうして一瞬、少女が子ネコの姿を見失う。慌てて声を上げる少女に応えるようにして、大きな鳴き声を上げる子ネコ。
その子ネコの声を頼りに森の中を進む少女。そうして不意に、妙なニオイに気付く。鉄のような――いや、少女はそのニオイを知っている。それは間違いなく、血のニオイだ。
何事かと警戒しつつ、少女は子ネコを回収して家へと引き返す事を心に決めて。
「……っ!?」
そうしてたどり着いた子ネコの元。其処に居たのは、少女の追いかけていた子ネコと、見たことの無い黒い少年の姿だった。
オリ主、チートに胡坐をかいてボコられる、の図
く、クラ○スー。 作者はご都合主義論者です。
因みにルフナはスリランカの紅茶。