リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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06 ここは海鳴、あなたは?

俺は森の中で気絶したと思ったらいつの間にかベッドの上で寝ていた。な、何を言ってるのかわからねーと思うが……いや、テンプレは程ほどにしておこう。

 

まぁ実際のところ、今の現状は前述の通り森の中で意識を失っていたはずだ。目覚めたら、生前ですらお目にかかったことの無い、超の付くほどの高級感漂わせる一室に横たえられていた。なんだこの急展開。

 

「目が覚めましたか」

 

不意に響く声に、視線を声の元へと向ける。其処に立っていたのは、この高級感溢れる空間に見事に調和した、見事なメイドさんが一人。

 

「……ここ、は」

「私は詳細を語る資格を持たされておりません。少々お待ちください」

 

言いつつその場から離れていくメイドさん。うん、物凄い美人さん何だけど、何でだろう、生命力と言うか、生き物の気配と言うか、そういうのが薄い?

ギィ、と小さく音を立てて開かれた扉と、その向こうへと立ち去っていくメイドさんを見送りつつ、とりあえず自らの状態をチェックして、思わず頭を抱える。

心臓、及びそれを中心とした周辺の生体組織に甚大なダメージ。組織や骨が、貫だか徹だかの所為でかなり甚大な被害を受けているのが見て取れた。

幾ら本体はオカルトな存在であり、肉体に関しては如何とでも成るとはいえ、さすがに此処まで甚大な被害を受けて放置するというのはいただけない。

即座に肉体を構成するマナを活性化させることで、損傷した内臓器官を急速に自己修復させていく。

 

――コンコンコン

 

「入るわよ」

 

ノックの音に続いてそんな声が聞こえてきた。治癒を始めたばかりで、未だ完全とは言い難い体調だが、それでも首を回すくらいの事は既に出来る。

そうして振り向いた視線の先、其処には紫髪の美女と、その背後一歩後ろに控える騎士の如く佇む青年と先ほどのメイドさん。

……あれ? なんだろうかこの組み合わせ。何か何処かで見たことが在るのだけれども。

 

「あら、本当にもう目が覚めてるのね。医者の話だと、内臓がボロボロで暫く目は覚まさないって言ってたんだけど」

「……此処は? 貴女は?」

「私は月村忍。此処は私の家、月村の屋敷よ。あなたはね、ウチの敷地近くの森で倒れてたのよ。

 

月村、月村、月村。あぁ、とらハ3のメインではない公式ヒロインの、夜の一族の。成程。

 

……つまり、背後のはエーディリヒ後期型と、御神の剣士、と。

 

 

 

やばい、詰んだかも。

 

 

 

 

 

Side Shinobu

 

 

 

私は全身に力を籠めて、何時でもどのような事態にでも対処できるようにして、目の前のベッドに臥せる少年の目の前に立つ。

 

この少年は、昨日、私の妹であるすずかが敷地に隣接した森の中で、ボロボロに成っている状態で発見した子供だ。医者曰くそのダメージは日常的な生活で受けうる物ではなく、何等かの武術の達人による『技』を受けた痕だという。

 

後に恭也にその傷を見せたところ、恭也の納める武術、永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術にある『徹し』という技で受けた物に似ている、と言うことで、体を内側から破壊されているそうだ。

けれども問題はそんな事ではない。それだけであれば、彼は即座に市営の病院へと搬送されていただろう。

 

問題は、倒れていた彼がその手に握り締めていた数枚の紙束。ホチキスで乱雑に纏められたその紙束に記されていた情報こそが、私たちが彼を簡単に解放できないその理由なのだ。

 

「さて、私は名乗ったわよ。もし貴方に礼儀があるのなら、貴方も名乗り返してくれないかしら?」

「……メラ」

 

小さく、ぽそりと呟く少年。名前はメラと言うらしい。とはいえ、ソレが本名とは限らないのだが。

その年頃はは妹であるすずかとそう変わらない様に見えるというのに、その無言の様から放たれる圧倒的な空気。一種のカリスマとでも言うのであろうか、それによってとてもではないがすずかと同年代の子供とは思えない。寧ろ外見的な年齢が近く見える分、余計に違和感が際立つ。

 

「メラ、と言うのね。あなたに聞きたいことが在るのだけれども?」

 

コクリ、と小さく頷く少年――メラ。

 

「貴方、何故あの森で倒れていたの?」

「……戦闘」

「戦闘? 貴方みたいな子供が? 確かにその傷は日常生活で出来る物じゃないみたいだけれど、何故?」

「…………」

 

ムッツリと黙ってしまうメラ。これは応えられない事。

 

「じゃぁ、質問を変えるわ。コレ、見覚えは在る?」

 

言いつつ差し出した数枚のファイル。これはメラが倒れていたとき、その手に握り締めていた数枚の資料をコーティング強化したものだ。

差し出したソレ。彼が持っていたものだ、何か知っているのは間違いない。だというのに、メラはその首を横に振って。

 

「これは貴方が倒れていたとき、その手に持っていたものよ」

「……逃走時、無意識に掴んだか」

 

ポツリ、と呟くメラ。基本的に無表情な少年だ。その表情から真実を読み取るのは中々に難しそうだ。

 

「――この紙にはね、私の妹を襲撃するっていう計画が書かれてたのよ」

「……!」

 

反応を見ようと放った言葉。相手が此方に対して罠を仕掛けて来ているだとか、そういう裏のプロであれば、特に反応も返さないだろうと。そう思っていたというのに。少年は見事にピクリと反応して。

 

「事情があり、暴力団系事務所に潜入。結果目的は果たしたものの、事務所に居た裏の人間に看破され、この傷を負わされた」

 

途端、ソレまでとは打って変わって饒舌に語り始めたメラ。余りにもソレまでと反応が違いすぎ、これは引っかけなのか如何なのかと内心で思わず首を捻る。

 

「暗殺者、黒いナイフの男。曰く御神流との戦闘経験があり、その模倣と自称していた」

「御神流の模倣者だとっ!?」「ちょっ、恭也っ!」

 

慌てて恭也を押さえつける。恭也にとって御神流とは守りの剣。その御神流を模倣した暗殺者など、彼の剣に真正面から喧嘩を売っているようなものだ。

 

「徹と貫、と言う技を使っていた」

 

言いつつ右手を持ち上げたメラは、その指先で胸の真ん中を指差してみせる。

事前にその傷は恭也も見ていた。ほかならぬ恭也であるからこそ、先に自ら指摘したとおり、その傷が自らも使う流派のソレに似た物によって付けられたのだというのは理解しているのだろう。

 

「あと、鋼糸だ。多分、ゲインベルグの3番」

 

ゲインベルグの名前は知っている。ドイツの繊維メーカーで、恭也の使う鋼糸やノエルのロケットパンチ用のリールにも其処の製品を使っている。他にも海外の軍の特殊装備などにも採用されているらしく、業界ではなかなかなの知れた企業だ。

 

「……それが事実だとすれば、相手は相当に舐めた真似をしてくれている様だな」

 

苛立った雰囲気の恭也がそう呟く。そんな恭也を尻目に、忍び込んだという事務所の名前を告げるメラ。

 

「あそこか……でも、なら貴方は何をしにそんな所へ……」

 

言った途端、メラがその手を宙に翳す。途端、その手の先に白く発光する球体――良く見れば何等かの文字が浮き出ている――が、浮かび上がった。

 

「な、ナニソレ!?」

「ちょ、落ち着け忍!」

 

思わず身を乗り出すが、後ろから恭也に押し留められてしまう。けれども目の前で行なわれているソレ。未知の現象。あぁ、ダメだわ、私の知的好奇心がっ!!

そうして私と恭也がくんずほぐれつ暴れている最中、メラの手の先の白い球体から、ボトッと音を立てて何かが零れ落ちた。なんだと視線を移せば、其処には白い帯で括られた紙の束。所謂札束と言う奴が落ちていた。

 

「目的は、これ」

 

そういって札束を指差すメラ。心なしかその頬は薄らと赤味を帯びているような気がする。……つまり、何? この子が怪我をしたのは、暴力団の事務所に盗みに入って、返り討ちにあったって事?

 

「はぁ……い、いえっ、そんな事は如何でも言いわっ! メラ、今貴方何をしたの!?」

「如何でもって……忍……」「お嬢様……」

 

呆れたように呟く恭也とノエル。なんだか中がいい二人に少しむっとするが、まぁ私の旦那様と信頼するメイドなのだしと気を取り直して。

 

「魔法だ」

「魔法!? いきなりオカルト、いえ、ファンタジックな言葉が出たわね」

「それは、貴女に言われる筋合いは無い」

 

ジト目でそんな事を言うメラに、思わず固まる。まさかこの子、私の事を……。

 

「説明はしよう。突拍子も無いが、最後まで聞け」

 

 

 

Side Mera to Shinobu

 

古代の超兵器だけど、資金難で空腹に耐えかね、ヤの字の事務所に襲撃掛けた結果返り討ちにされたとです。

……恥ずかしすぎて説明なんてできねーよ。思わず言い淀んで片言で喋ったけど、変なキャラ付けされてるんじゃないだろうか。

 

と、言うわけで忍さん、恭也さん、ノエルさんの三人に俺の事情というモノを話してみた。

古代のアルハザード文明、その繁栄と末路。時のゆりかごに託された己の存在などなど。

 

ちゅ、厨二病が過ぎる――っ!!

 

「……えらく荒唐無稽な話だ。それを信じろというのは、幾分無理が在る」

「いえ、私は信じるわ」

「しのぶ?」

 

何故か此方のいう事を信じる、などと言い出したしのぶさん。何故にホワイ? 自分で説明しておいてなんだが、とてもではないが俺の言った話なぞ信じられるはずも無い。

 

「確かに胡散臭いわ。何処の宗教だってくらいにわね。でもこの子、実際に魔法らしき物を使っていたでしょう? 私たちが知ってるのとはちょっと違ったけど」

「新手のHGSという可能性も在るだろう」

「そうね、でもソレは跡で検査すればいいわ。私が彼を信じるのは、別ルートからの情報と、彼の言葉が符合するからよ。ノエル」

 

しのぶさんの言葉に、「はいお嬢様」と何処の執事だといわんばかりに即座に資料を差し出すノエルさん。畜生、バーホーデンのココアを良く練ってPLZ、ミルクと砂糖アリアリで!!

 

「……別ルート?」

「これよ」

 

そういって差し出されたまた新しい紙。書かれている内容は、海上保安庁巡視船「のだめ」と、のだめの警護対象である「かいりゅうまる」を襲った事故の記録。

「ウチ、月村の家って結構大きくてね、色々な業界に手を出しているのよ。その中で、この不可思議な事件に関する調査依頼も来ててね」

 

渡された資料にざっと目を通す。接触した巨大な回遊環礁から得られた謎の金属や、環礁そのものの土を放射性炭素年代測定で図ったところ、少なくとも一万年以上の時間が経過しているという事。

 

また同時に、発掘された金属パーツ(勾玉らしきもの)は、現代科学では再現不能な、人工的な合成物質だという事。オリハルコンの勾玉かよ。

 

「そして、今度はこっち」

 

渡された次の資料に目を通して、思わずぎょっとする。九州の五島列島、姫神島。頻発する行方不明事件と、奇妙な鳴き声のようなもの、更に大きな鳥の姿が見られたという噂。

 

「ちょ、まだ動いちゃダメよ!!」

「拙い! これ、ギーオスだ!!」

 

俺の躯が如何とか、そういう事は最早どうでもいい。体ならばその内時間が過ぎれば勝手に治る。問題なのは、ギーオスが活動を開始しているという事だ。

ええい、忌々しい! 肉体と魂が未だ完全に合っていないのか、未だに言葉が不自然に途切れる!

 

「大丈夫よ、貴方の話ならそのギーオスってのは魔力を持つ存在しか襲わないんでしょ?」

「違うんだ! アレは環境で進化する! この世界、魔力を持つモノは少ない!」

 

ギーオスのその最大の脅威は、環境に合わせて進化していくという点、そして単為生殖による驚異的な繁殖能力だ。

例えば此処が魔力を持った人間が適度に居る世界であれば、成程ギーオスも魔力を持った存在を餌として付け狙ったかもしれない。

然しこの世界は、魔力を持って生まれる存在が極端に少ないといわれる97管理外世界。ならギーオスが魔力を餌にするというのは考え辛い。

――であれば、当然魔力の無い物をも餌にし始める。

その事を理解したのか、顔色を青く染める月村忍。

 

「で、でもっ、この世界には魔法技術なんて無いのよ!? そんな世界のバランスを崩すほどの出来事なんて……」

「……まさか、アレか?」

 

恭也の呟きに、しのぶの言葉が詰る。何か心当たりが在るのだろう。具体的には、五月にあったという魔法少女同士の戦いとか、12月にあったという古の魔導書の呪との戦いとか。

 

「で、でもそんな、あの一件だけで!?」

「正確には二件、両方とも次元震という大規模災害になりかけたらしいが……」

 

言われて、チラリと此方に視線を投げてくる高町恭也氏。その視線はこちらに向かって「どうなんだ」と問い掛けてきているのだが、生憎俺はギーオスに対する抗体。現れたギーオスを叩き潰すのが使命。

 

「この世界、妙にマナが濃い。汚染に過敏に反応したのかも……?」

 

詳細は分らないと首を振っておく。旗艦、ウルに戻れば何か分るかもしれない、と付け加えて。

 

「ウル?」

「旗艦。この身を運用する為のシステム」

 

其処に行けば、体も素早く修復する事ができる、と付け加える。

 

「ギーオスは孵化から短時間で成長する。幼生で数メートル、最大で80メートル強まで成長する。そこまで育てば、手が付けられない!」

 

息を呑む二人。だから、急いでウルに戻り、姫神島へ向かわなければ成らない。

 

「……いえ、わかった。なら、私を連れて行きなさい」

「おい、しのぶっ!?」

 

突然そんな事を言い出した月村忍に、高町恭也が声を上げた。何言い出すんだこのお嬢さん。

 

「あなた、いきなり姫神島に行っても不審者よ。最低私が居ればその辺りはクリアできるでしょ?」

「おい、しのぶ」

「大丈夫よ。それに、ノエルも、恭也だって守ってくれるでしょ?」

 

言いつつ此方に向き直る。……まぁ、確かに住所不定身元不明の、手荷物すらない俺が、行方不明者の頻発している姫神島にいきなり訪れれば……不審者として捕まる様しか目に浮かばない。

 

「……わかった。でも、戦うのは俺だ」

 

言いつつ、ベッドからゆっくりと体を起こす。既に自己治癒能力に加え、動的回復魔法の併用により、最低限動くだけの身体機能は回復した。

 

「もう動けるなんて……」

 

何かメイドさんが驚いているが、それに一々反応していられるわけでもなく。

 

「持っていくものはあるか?」

「……少し待て。最低限の装備を取ってくる」

「では私も、火砲支援装備を」

 

そう言って何処かへと足早に移動を開始するメイドと剣士。なんだか二人ともヤる気満々?

 

「大丈夫よ。私たちはあくまで自衛の為に動くから。それよりも、ギーオスに関する情報、もう少し詳しい物をくれないかしら。各国に流すにしても、もう少しあったほうがいいでしょう?」

 

そう言う忍。俺が持っている情報は少ないが、ウルのメインシステムの中には未だ情報が在るはずだ。どうせウルにくるのだから、彼女にはそのときに存分にウルのメインシステムに触れてもらおう。

 

「どうせなら、先に行って少し触れないかしら?」

 

そう言う月村忍の瞳は、好奇心でキラキラと輝いていた。はぁ。




※マナ
本作ではマナのことを万物の持つ生命力のような物と解釈。但しSFファンタジーな魔力よりもオカルト寄りな解釈。
マナが濃いと言うのは、生命力に満ち溢れているという事。
逆にマナが薄いと言うのは、不健康な状態、と言うこと。
マナが薄い=病気に対する抵抗力が落ちる→病気になる=ギーオス発生
という解釈。
因みにマナは環境汚染により薄くなり、大規模魔力行使により汚染されるという設定。

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