ソードアートオンライン―アリシゼーション・フェイクソウル― 作:榛野 春音
1、
数匹のゴブリンを斬り伏せたフィルフィアは、ゆっくりと振り返った。
見れば、先輩騎士達も各々に敵を処理し終えたところだった。
「なかなか無いものねぇ」
そう呟くハーヴェニオに、フィルフィアは問う。
「あの、今回探してる母材って、どんなものなんですか?」
実際のところフィルフィアは、ユリエノスから「剣の母材となるものを探せ」とは言われたが詳しくは聞いていない。
すると、その問いにハーヴェニオは答える。
「それは、私達には分からないわ。でもね。それはアナタの剣となるものよ?剣とは、この世界では自分の命と同等のものなの。だから、アナタがコレだ!って思ったものが[答え]なの」
「そう……ですか」
「まっ、ゆっくり探しなさい。幸い時間はあるわ」
そう言って、ハーヴェニオはいつの間にかフィルフィアに迫っていたスライムを突き刺し、凍りつかせた。
それから、フィルフィア達はさまざまな所を歩いた。
峡谷、砂漠、洞窟、森、と沢山歩く。
しかし、どの場所でどんなものを見てもフィルフィアは、コレというものを見つけられなかった。
フィルフィアは、ふと先輩騎士達を見た。
流石にこれほどの時間、付き合わせられて嫌気がさしていないかが心配だった。
しかし、先輩達は別に嫌な素振りを見せず、むしろ楽しげに雑談をしていた。
少し不安になったフィルフィアは、リンに聞いた。
「あの……なんかすみません。なかなか見つけられなくて」
「…………何故あやまるの?」
「え?」
リンから返ってきた返答に若干驚くフィルフィア。
「え?……だって、わざわざ私の為に付き合わせてしまっているので……」
すると、リンはフードの下で首を振った。
「……私達、みんなこうして探して自分の剣を見つけたのよ?ドラグレンもハーヴェニオも私も……みんなこうして探した。別に迷惑じゃないわ」
そう言ったリンはそれ以上何も言わず、さっさと先の行く。
それを見たドラグレンがフィルフィアに声をかけてくる。
「まっ、そういうこった。気負いすんなよフィルフィア。中には1ヶ月も探した奴だっていた。1日くらいで気にするとか、まだまだ青いぜ?」
「いっ?1ヶ月!?」
「おうよ。だからなっ、気にすんなって!フィルフィアは、母材探しに集中してればいいんだよっ!」
言うなりドラグレンは、フィルフィアの可愛らしい額にデコピンしてみせた。
「きゅぅっ!」
フィルフィアは、額を抑えて涙目でドラグレンを睨む。
ドラグレンは、はははっ!と笑いながら前に行きハーヴェニオにど突かれた。
「女の子にデコピンとか、何してんのよ」
「あれくらい良くないか!?――痛いっ!」
考え過ぎなのかも……
そう思うとスッと胸の中が晴れた。
フィルフィアは気持ちを切り替え、前を歩く先輩達を追いかけた。
×××
そして、フィルフィア達はとんでもないものに出会った。
「おいマジかよ…………マジかあああ!」
ドラグレンが叫ぶと同時に、吹き飛ばされ岩の壁に激突した。
轟音が響き、地鳴りがする。
「先輩っ!?」
「フィルフィア集中しなさい!ドラグレンは、あれくらいじゃ死なないわ!」
そう言ったハーヴェニオがフィルフィアの腕を掴み、その場から飛び退いた。
直後、その場に巨大な尾が叩きつけられる。
もの凄い衝撃が伝わって来る。
フィルフィア達は、目の前にいる巨大な魔物を見た。
ドラゴンだ。
とてつもなく巨大で強力なドラゴンだ。
ドラゴンは、この開けた洞窟内をゆっくりと動き、こちらの様子を窺っている。
「これは……この地の守護龍ということかしらね……」
ハーヴェニオが苦笑いする。
その時、
「リリース・リコレクション!!!!」
ドラグレンの声が響き、土煙の中から銀色の龍の顎が飛び出した。
蠢く龍の顎は、ドラゴンに噛みつきその巨体を引きずり壁に投げ飛ばした。
地面が揺れ、ドラゴンが壁に叩きつけられた。
土煙から、飛び出したドラグレンの持つ剣は、刀身が龍に変化していてまるで生き物のように蠢いている。
おそらくあれはドラグレンの剣《剛龍剣》の記憶解放術だ。
「うぅおおっ!!!」
ドラグレンが叫ぶと、それに呼応するかのように龍がその口から火炎のブレスを吐き出す。
ドラゴンは、その火炎に焼かれ砲口を上げた。
しかし、ドラゴンは鉤爪で無理やり炎をかき消すと、ドラグレンに向かって突進する。
だがその時、
「リリース・リコレクション」
リンの声が響くと同時にドラゴンに向かって無数の光の矢が放たれた。
連続砲撃の如く次々うち込まれる矢にドラゴンが唸り、突進を中心する。
リンの《帯絃弓―村雨―》は、弓の鳥打のところに刃がついた形に変化を遂げていた。
これも、記憶解放術だ。
リンが矢を放つと、光の矢が無数に分裂し一斉にドラゴンを襲う。
しかし、ドラゴンは怯みこそしても弱る様子は、微塵も見せない。
ハーヴェニオが言った。
「みんなっ!!三秒後にジャンプよ!わかった?」
?
一瞬意味が分からなかったが、言われるままにフィルフィアはカウントする。
三……二……一っ
フィルフィア、ドラグレン、リンが飛び上がった瞬間
「――リリース・リコレクション!」
物凄い冷気が体を掠めた。
次の瞬間、フィルフィアは息を呑んだ。
洞窟全体が凍りつき、一面銀世界となっているのだ。
ドラゴンは、足をその場に凍り付けにされて動けなくなっている。
「暴れなさい!氷達よ!!」
ハーヴェニオが宣言すると同時に四方の壁から、氷の槍のようなものが壁から突き出し、ドラゴンを襲う。
ドラゴンの鱗が欠ける。
これは、ハーヴェニオの剣《紫冷剣》の記憶解放術だろうか?それにしても規格外の力だ。これだけ広大なフロア一面を白銀の世界に変え、その氷を操るなど――。
「っ!」
気がつくと、フィルフィアも飛び出していた。
これ以上、先輩達にすがれない。だって、これは私の冒険なのだからっ!!
飛び出したフィルフィアを見た先輩騎士達は、目配せしフィルフィアの支援に回った。
フィルフィアは、素早くドラゴンの前足を駆け上ると、頭に向かって飛び上がりソードスキルを放つ。
《刀》単発技[絶空]。
ドラゴンにスキルが直撃する。
が、
「硬いっ!」
余りの鱗の硬度に刀が弾かれる。
スキル補正が無ければ、刀身が折れていたかもしれない。
その時、フィルフィアの視界にキラリと光るものが――
落下するフィルフィアが目を凝らすと、それはドラゴンの眉間にあった。
宝玉だ。
黒い。宝玉。
おそらくあれは、このドラゴンの力の源、あるいはその象徴なのだろう。
そう感じた時、フィルフィアは自らの内にときめく何かを感じた。
着地後、素早く飛び退いたフィルフィアは満面の笑みを浮かべた。
そして、
「見つけたっ!!私の力っ!!!」
2、
ドラグレンは、フィルフィアの言葉聞き笑みを零した。
そして、
「なら、コイツ。さっさと倒さねーとなっ!!」
そう言って、龍の顎をドラゴンにかじり付かせる。
フィルフィアは、駆け出した。
目指すは、ドラゴンの眉間にある宝玉。
ドラゴンは、遂に氷の束縛を破壊し自由になる。
振り下ろされるドラゴンの爪を避けながら、フィルフィアは走った。
単純に斬ることは、今の自分では叶わない。
狙うのは、宝玉。あの周辺には鱗がなかった。狙うならあそこしか無い。
そして、なんとしてもあの宝玉を手に入れてみせる。
四方から氷の槍が飛び出し、ドラゴンの爪をブロックする。
ドラゴンがブレスを吐こうとすれば、光の矢がドラゴンを襲い阻止する。
ドラゴンが尾を降れば、龍の顎が噛みつき動かさせ無い。
先輩騎士達がしっかりとサポートしてくれているのだ。絶対に成功させたい。
ドラゴンの体を跳ねるようにして、登りその眉間に迫る。
が、その瞬間にフィルフィアは浮遊間に襲われた。
鱗で足を滑らせたのだ。
「しまっ!」
ドラゴンから転がり落ちたフィルフィアは、なんとか受け身を取って着地に成功する。
しかし、次の瞬間目の前にドラゴンの爪が――――
「トゥルース・リベレーション」
光
眩い光が洞窟を包み込んだ。
ドラゴンの動きが一瞬止まったのが分かる。
すると、フィルフィアとドラゴンの間に何かが割り込んだ。
そして、光が止んだ瞬間。
ドラゴンが吹き飛び、壁に激突した。
あの巨体を吹き飛ばすとは、一体!?
顔を上げたフィルフィアは、目を見開いた。
そこには、龍の手甲とそれに派生するかのように全身に広がる装甲を纏った戦士がいた。
その全身からは、流れ出る気迫とエネルギーにフィルフィアは息がつまる。
戦士が言った。
「解零無境術、解放。竜源万華-剛龍拳-!」
良く見ると、その戦士はドラグレンであった。
「せん……ぱい?」
驚きのあまり、つい間抜けな声が漏れる。
すると、ドラグレンはニカッと笑う。
「すげぇだろ?これが、俺とコイツの解零無境術だ。……ちなみに剣じゃねぇ、拳だ!」
解零無境術。ユリエノスの開発したアンダーワールド最高位の超高等神聖術。その力は、武装完全支配術や記憶解放術をはるかに凌駕すると言われ、術の真意は武装と己の融合とされている。
使えるのは、十四鍵の使い手である《鍵憶十四騎士》のみだ。
強いとは知っていた。
しかし、いざ目の当たりにすると身震いしてしまう。
フィルフィアは、ドラグレンの一歩前に出ると言った。
「サポート、お願いします!!」
「おうよっ!!」
ドラグレンの言葉を聞くと同時にフィルフィアは再び飛び出した。
先輩が全力で守ってくれたのだ。今飛び出すしか無い。
ドラゴンは、少しフラフラとしているがまだ暴れそうである。
ここからは、速さこそ全て!
フィルフィアは、加速する。
ユウキにより、手解きを受けたのは剣技のみにあらず。この速さこそしかり。
意識のハッキリしていないドラゴンの体を一気に駆け上ったフィルフィアは、その眉間に向かって飛び上がり刀を振りかぶった。
「はぁああああっ!!!」
そして、宝玉の埋まる皮膚の根元目掛けて全力で刀を振り下ろした。
次回辺りから、学園編に向かっていく予定です。
すぐに入りはしませんが、楽しみにしておいてください!
今回、新たにお気に入りしてくださった五人の方々ありがとうございます!
次回もよろしくおねがいします!