「任務、ですか? 師匠」
「そうじゃ。そろそろ、お前にも働いてもらおうと思ってな。いやだったか?」
少年『夜月 翔』は、自分の工房に入ってきた1人の老人、彼の師匠である『キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ』の一言に首をかしげた。
「いえ、いいんですけど。どんな任務なんですか?」
そもそも師匠の言う事に刃向かうなんて、弟子に許されているはずがない。
「簡単なものじゃ。お前にはこれから平行世界を旅してもらい、とあるものを始末してもらう。そしてこれを、お前の卒業試験とする。生きて帰ってこれれば、晴れて一人前じゃ」
「凄まじくめんどくさそうですね。標的はどんな奴なんですか?」
「詳しいことは分かっとらん」
「は?」
翔はゼルレッチの言葉に耳を疑う。どうやってよくわかっていないものを倒して来いというのか。
「数日前に覗いた時におかしなものを見つけたんじゃ。おそらくはワシの弟子が作った寄生生命体なんじゃがの、明らかにその世界にはいないであろう存在が多々確認されたんじゃよ」
『覗いた』というのは平行世界を覗いたという意味である。
「確かに平行世界に干渉できるのは、十中八九、師匠の関係者でしょうけど。師匠の弟子にはろくな人がいませんね」
「それを言うとお前もろくでもないという事になるぞ?」
「弟子は師匠に似るものですからしょうがないですね。それに、僕は十分に自覚してます」
「捻くれてるのぉ」
ゼルレッチは自身の髭をなでながら低く笑う。
「ではすぐに出発しましょう。何か支給品はありますか?」
「これは卒業試験だと言ったはずだ。すべて自力で何とかせよ。それに、支給品など必要あるまい。お前にはそいつ居るじゃろうて」
そう言いつつ、ゼルレッチは翔の横の椅子を見る。そこには腰まで届く銀の髪を持つ小柄な少女が座っていた。
ゼルレッチの位置からでは髪に隠れて表情は分からないが、ゼルレッチにはその顔が手に取るようにわかった。
少女は頬を膨らませて上目づかいに翔を見つめていた。
「マスター。私がいるのにほかの物を使おうとするなんてひどいです」
「何言ってるんだダイヤ。貰えるものは貰っておいた方がいいんだぞ?」
「そういう意味じゃないですよ……」
ゼルレッチは心中で、あの空っぽだった少年が、ここまでの女たらしに成長するとは何があるかわからんものじゃな、と、噴き出さないようにするので精いっぱいだった。
「じゃあ、行こうか、ダイヤ」
「はい、マスター」
翔が立ち上がり、少女―――ダイヤは、光に包まれる。次の瞬間には赤と金を基調とした装甲を身にまとった翔が立っていた。
「あいさつ回りはせんでもいいのか?」
「んー、そこまで親しい友達いませんからね。売店のおばちゃんくらいですか?」
近いうちに翔のファンクラブの暴動が起こるな。そのことに内心苦笑いしつつもゼルレッチは師匠としての威厳を保つ。
そして今度は魔法使いとして翔の姿を見る。
そして一言。
「見事な礼装だ」
「ありがとうございます」
翔は笑みをもってその賛辞に応える。
「今分かっているデータはすでに礼装に送ってある」
「はい。ダイヤ」
「確認しました。これをもとに世界間移動を開始します」
「じゃあ、師匠、行ってきます」
「行って来い」
こうして翔とダイヤは平行世界に旅立った。
次回、クウガの世界