「ほら、急ぎなさい!」
「ちょっと、待ってッ!」
マネージャーさんの言葉に、息も絶え絶え私―――瑠奈は答える。
日本に帰ってきてからも、相変わらず忙しい日々。
学校にも行けないことが多く、京介や楓に教えてもらっている。ホーリーロードも、全国大会に入ってから、ほとんどいけていない。
サッカー部の事情と、大人たちの事情は違うから。
今日の仕事は、GOSICKの雑誌の表紙撮影。
GOSICKは、メイプルハニーがキュートな感じの雑誌なのだが、こっちはクールといった感じだ。
黒のクロップドパンツに、肩だしの白と黒のドットのカットソー、黒のタンクトップのインナー、ヒールがちょっと高めのサンダル。
ほとんどが黒や白、紫などで統一された服を着て、モデルは撮影に臨む。
「はーい、ちょっと右向いてー」
「もうちょっとクールな感じで!」
次々に飛んでくる指示に、1つ1つ対応するのは、結構大変なことだ。
ときには、高いところに行かなければいけない時もある。―――昔、京介が木の上から落ちてしまったから、私はその時から高所恐怖症。
でも、撮影は遅れさせない。
迷惑は、かけたくない。
「いいよー、ルナちゃん!」
「そのままキープッ!」
一斉に、まぶしいほどもフラッシュが、私にだけ飛んでくる。周りでは、シャッターを切る音も響く。
色々な角度から撮るため、と言っていたが、これじゃあまるで週刊誌だ。
撮影が終わり、着ていた服を脱ぎ捨てる。
代わりに、現場まで着てきていた学校の制服を着る。ケータイを見れば、もう学校に行っても間に合わない時間だとわかる。5時間目から行っても、意味はないだろう。
「はぁ・・・帰ってきたと思ったら、これよね」
「人気者はつらいわね」
「厭味はいいわよ」
またため息をついて、車に乗り込む。
マネージャーさんが運転しながら、耳を疑うようなことを言い出した。しかも、かなり唐突に。
「あ、ルナ」
「何?」
「貴方、歌手デビューが決まったわ。あと、女優もね」
「そう・・・―――って、はぁ!?なんでそうなってるのよ!?
車が揺れた。私の悲鳴で、マネージャーさんは、思わず震えていた。
「煩いわよ、しょうがないわ。決定事項だもの」
私の世界が、一気に真っ白になった。―――歌手デビュー?カラオケに行ったことさえない私が?女優?大根役者な私が?
「どうしよう・・・」
家に帰って、ベットに突っ伏していたら、部屋のドアが開いた。
「瑠奈・・・?」
「きょーすけぇ・・・」
ベットから顔をあげて、京介の目を見る。京介は私の頭をなでた。
「何があったか知らないけど、頑張れよ」
いつもならうれしいけど、今日はどうしようもない。
「歌手デビューよ?女優よ?できるはずがないわよ!」
「瑠奈・・・なら、楓に相談すればいいんじゃないか?」
「楓ね・・・そうね、ありがとう」
私はケータイ片手に、楓の家まで走った。
楓の家に入るのは、何度行ってもためらわれる。
目の前にあり、今自分が入ろうとしているのは、おそらく世界で一番の豪邸だ。
キラキラ光るインターフォンを押すと、使用人さんらしき人の声。楓を呼ぶように頼むと、2,3分後に楓がやってきた。
そのまま部屋に入ると、私は楓に抱きついた。
「瑠奈!?どうしたの!?」
「私、歌えないわ・・・演技なんてできないわ・・・!」
「・・・歌手デビューと女優デビューだって?京介から聞いた」
「私、自信がないのよ・・・自分が、そんなすごいことできると思ってないの・・・!」
すると楓は、私の手を引いて、とある部屋に入った。
そこは、とても落ち着いた感じで、でもどこか賑やかそうな、そんな部屋だった。
「ここは・・・?」
「カラオケルームよ。練習しよう」
楓は即座に歌を入れて、歌い始める。楓は特別歌がうまいわけではないけれど、下手なわけではない。音痴ではない。
「ほら、瑠奈も。歌いやすい奴で言ったら、アヤノの幸福理論とか?バラードぽくって、歌いやすいよ?」
楓に言われるままに、一応知っていたその曲を歌う。―――意外と、楽しかった。
「瑠奈」
歌い終わって、楓に呼ばれた。
「何?」
「楽しそうだったわよ、瑠奈。すっごく」
満面の笑みで言う楓に、私は思わず言葉を失った。―――完敗だと思った。
「ありがとう、確かにそうかもしれないわ。私、頑張ってみるわ」
「それでこそ瑠奈!瑠奈、一足早く社会に出て働いてるから、きっと私たちに理解できないこともたくさんあると思う。頼ってほしい、なんて調子のいいことは言わないけど、辛かったら何でも言って。小さなことでも、力になりたいの」
私はそんな楓の言葉に、勇気づけられた。気がつけばケータイを持って、部屋を出た。
楓は追ってこなかった。―――私が、マネージャーさんに“やる!”と電話すると、わかっていたのだろう。
―――そして、デビューの日がやってきた。
この歌番組は、全国視聴率も高い人気番組だ。緊張するが、そう・・・―――なんとかなるさ、よね。
「続いては初登場、ルナさんです!ティーンに絶大な人気を誇る、ルナさん。歌手デビューという、あたらなジャンルに登場です!デビュー曲、“MY BEST”、お聞きください」
司会の紹介の後、ステージに立つ。花畑をイメージしたらしいワンピースに身を包み、震える手を落ち着かせて、息を吸う。
そして、笑みを浮かべる。
「大切な人が壊れた
大切な人が泣いてた
私には、できることはない
支えてあげることも、意味がない
それでも、ただそばにいる
それだけで、強くなれる
そう大切な人が言った
MY BEST ずっと
どんなに無力でも、ただ探す
MY BEST いつも
唯一つ、私にもできることを
大切な人が言った
大切なものは守れと
私は気付けなかった、その時は
強くなろうと、偽った
それでも、ただそばにいる
それだけで、素直になれる
そう大切な人が笑った
MY BEST ずっと
素直になれなくても、時に
MY BEST きっと
いつか必ず、本音いえるから
悲しみを乗り越え
偽りを解いて
きっと一縷の光が見えるから
MY BEST ほらね
悲しみが消え去って、ほら
MY BEST 好きな
私の大切な人 MY BEST」
歌いきった時、達成感があった。
―――この歌の作詞は、私が担当した。お兄ちゃん、京介、楓、そして狩屋君のことをうたった。
最近、狩屋君のことばかり考えているような・・・。
まぁ、いい。次は、ドラマを頑張ろう。